はじめに
1)前回のまとめ
質問への回答:なぜ企業別か、協約合意の適用対象
2)本日の予定:?総論 →以降 団結権・団体交渉権・団体行動権
*本日の講義テーマ:公務員へのストライキ禁止は合憲か?
1.事例から(資料参照)
2.憲法上の労働基本権保障
(1)憲法第二五条
(2)憲法第二七条
(3)憲法第二八条
(4)その他の条文
3.労働基本権の制限
(1) 公務員法
国家公務員法(国公法)/地方公務員法(地公法)/国営企業労働関係法(国労法・
旧公共企業体等労働関係法)/地方公営企業労働関係法(地公労法)
┌───┬──┬─────────────┬─────────────────┐
│ │民間│公的現業
│一般公務
│
├───┼──┼─────────────┼─────────────────┤
│団結権│ ○│○
│○
│
│ │ │但し、オ?プン・ショップ │但し、消防・監獄・警察・海上保安庁│
│ │ │
│ オープン・ショップ、登録制 │
├───┼──┼─────────────┼─────────────────┤
│団交権│ ○│○
│△
│
│ │ │但し、対象事項の制限
│団交は可能だが協約締結権はない │
│ │ │ 協約実施に議会承認 │対象事項・手続きに制約
│
├───┼──┼─────────────┼─────────────────┤
│争議権│ ○│X
│X
│
│ │ │但し、制裁は解雇のみで │不利益処分、刑事罰あり
│
│ │ │ 刑事罰はない │
│
├───┼──┼─────────────┼─────────────────┤
│賃金決│協約│協約 │勧告
│
│定方法│ │成立しないと仲裁(中労委)│(人事院・人事委員会・公平委員会)│
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(2) 公務員の争議権関係最高裁判所判決
(a)当然禁止の立場・ただし公務員も「労働者」であることは承認
国鉄弘前機関区事件 最大判 昭28.4.8
(b)「国民生活への影響」と「労働基本権の尊重」とを比較衡量する立場
全逓東京中郵事件 最大判 昭41.10.26
*合憲的限定解釈
1.必要最小限、2.公共性のやむを得ない、3.刑事制裁、4.代償措置
都教組事件 最大判 昭44. 4. 2
*二重のしぼり論
違法性が強く、反社会性が強い
↓
↓←70年安保/政府による最高裁裁判官の入れ替え
↓
(c)財政民主主義論による全面一律禁止合憲論
*全公務員について(全面)、一切の活動を(一律)
全農林警職法事件 最大判 昭48. 4.25 (国公法関係)
*裁判官は、8対5対2の1票差で逆転判決
岩手県教組事件 最大判 昭51. 5.21 (地公法関係)
全逓名古屋中郵事件 最大判 昭52. 5. 4 (旧公労法関係)
北九州市交通局事件 最一小判 昭63.12. 8 (地公労法関係)
*財政民主主義論
1.勤務条件法定主義、
2.市場の抑止力欠如、
3.国民全体の共同利益、
4.代償措置
(d)それ以降の判決(資料参照)
[参考文献:公務員の労働基本権]
青木・竹下・中山・室井『公務員の労働基本権』(総合労働研究所、1979年)
竹下英男『官公労働法』(一粒社、1984年)
日本労働法学会編『現代労働法講座15官公労働法』(総合労働研究所、1985年)
『労働基本権』法律時報・臨時増刊(1989年、9月)
なお、最近の動向については、拙稿「地方公務員労働組合による三六協定締結拒否と争議行為」労働法律旬報1216号(1989年)、同「アメリカにおける公務員の争議権保障」季刊労働法153号(1989年)も参考になるでしょう。
[自己点検]
1)自己点検
a)講義を受講して、理解が進んだ点
b)講義でわかりにくかった点
2)自由記述
a)講義に関する質問
b)その他
[受講者数]
4/17 4/24 5/08 5/15 5/22 5/29 6/05 6/12 6/19
6/26 7/03 7/10 7/17
法 48
経・営 7
産社 6
合計 61
1)90年代に入ってからの最高裁判決
最高裁判事が判例に異議 埼玉県教組スト事件判決で反対意見 スト禁止論に一石
90.04.18
東京読売朝刊31頁 社会面(全1346字)
公務員法の争議行為禁止・あおり行為の処罰規定を「合憲」とする判例は確立され“労働冬の時代”が叫ばれて久しい。ところが十七日、最高裁第三小法廷(安岡満彦裁判長)の埼玉県教組「4・11スト事件」判決の中で、最高裁入りして間もない園部逸夫裁判官が、判例の流れに真っ向から疑問を呈する「反対意見」を表明、被告を「無罪」とすべきだと断言して注目を集めた。多数意見は一、二審の有罪(罰金十万円)支持で、結果的には上告棄却となったが、当時の埼教組委員長、井上信甫(のぶほ)被告(74)は「十六年間はムダではなかった」という弁護団の言葉に涙をぬぐった。
公務員の労働基本権についての最高裁判断は過去に大きな揺れがあり、その分岐点となったのが四十八年四月の最高裁「全農林警職法事件」判決。それ以前は、処罰対象に“二重の絞り”をかけた四十四年四月の「都教組事件」判決を頂点に、公務員の争議行為を認める判決の流れがあった。しかし、全農林判決が「公務員ストの一律全面禁止は国民全体の共同利益からみて合憲」との判断を示してから流れは一変、労働側に厳しい判決が最高裁でも積み重ねられてきた。
この日の判決には四裁判官が関与。安岡裁判長と貞家克己裁判官の二人は全農林判決以降の判例を踏襲して被告の無罪主張を退けたが、学者から最高裁入りして七か月の園部裁判官は「私は都教組判決の基調に従う」と一人反対意見を表明した。園部裁判官は「争議禁止と処罰規定は制限解釈を施して適用することが望ましい」と“二重の絞り論”を支持。さらに、問題のストや被告の行為は強度の違法性を帯びたものではなく「無罪を言い渡すべきだ」と述べている。また、結果的に「罰金刑の限度では刑事罰も正当」と多数意見の立場をとった坂上寿夫裁判官も、「制裁が必要限度を超えることは許されず、立法論としては公務員の争議行為を刑事制裁から解放することも一つの望ましい方向だ(が、直ちに地公法が違憲とはいえない)」、「刑事制裁を科すに当たっては違法性の程度について特に慎重な検討が必要」と言及するなど“限定的制裁論”ともいえる補足意見を述べた。
2)80年代の最高裁判決(出典:拙稿・前掲論文、労働法旬報1216号29頁?31頁)