京都府民のみなさんヘアピール

歴史をねじ曲げ、侵略戦争を美化する教科書を
             子どもたちに渡してはならない

 来年4月から使用される中学校教科書の検定で、文部科学省は「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)編集・発行の歴史・公民分野の教科書を合格としました。そして、現在行われている教科書展示会をへて、7月中旬にも各教育委員会ごとに教科書採択が行われる予定です.

 「つくる会」教科書は、@アジアで2000万人ないし3000万人に達する諸国民・諸民族を殺害し、約310万人の日本国民が犠牲となったアジア太平洋戦争を「大東亜戦争」とよび、アジア解放のために役立った戦争として美化し、韓国併合や植民地支配を正当化している。A神話をあたかも史実であるかのように記述している。B日本の歴史を天皇の権成が一貫して存在したかのように描き出し、一方でアジア諸国の歴史を侮蔑的に描き、国際的に通用しない偏狭な日本国家への誇りを植え付けようとしている。C第二次世界大戦後に廃止・失効した大日本帝国憲法や教育勅語を礼賛している。D日本国憲法第9条「改正」論を基調に、国防の義務、国家への奉仕を強調しているなど、きわめて重大な問題をもっています。これは検定によって一部修正されたとはいえ、基調は本質的に変わっていません。
 この教科書に対して、4月末に歴史学者7氏が近現代史部分で51項目の「事実の誤り」を指摘して修正を求め、さらに韓国政府から25項目、中国政府から8項目もの「誤りと歪曲」に対する再修正要求が出されています。
 しかも発行者の扶桑社は6月上旬から、中学校歴史・公民教科書を一般書として販売しています。採択前に教科書を市販することは今までになかったことで、教科書採択制度の矛盾が−層あらわになっています。

 戦争への痛切な反省から生まれた日本国憲法は国民主権・平和主義・基本的人権の尊重を基本原則とし、教育基本法第1条は教育の目標として「平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛する」国民の育成を掲げています。こうした憲法・教育基本法の理念と原則を敵視する教科書が公教育の場に登場するのは戦後初めてのことであり、公教育として許されないことです。
 日本を戦争参加にみちぴく新ガイドライン関連法が成立し、憲法・教育基本法の改悪をめざす動きが本格化するなかで、このような教科書が登場したことは、子ども・国民をこれからの戦争に動員することをねらうものであり、現在と未来をになう子どもたちのための教科書に値しないことは明らかです。

 日本国憲法は、日本国がふたたび侵略戦争をしないという国際的宣言であり、国際公約でもあります。また、1982年に教科書検定基準に近隣諸国条項が付け加えられ、1995年の村山首相談話、1998年の日韓共同宣言でも、重ねてアジア諸国に与えた披害に対するお詫びと反省が表明されました.これらの言明は日本政府の明碓な国際公約であり、政府には国際公約を守る当然の義務があります。
 さらに京都市は国際的な歴史観光都市として、韓国・中国のほかアジア各国、世界各国から多くの覿光客を受け入れています。そして、府内には多くの在日外国人が生活し、各自治体も外国の各都市と姉妹都市提携を結んでいます。
 国際化社会といわれる現在、国際的な相互理解と健全な歴史認識・国際認識の育成が今まで以上に重要になっているにもかかわらず、「つくる会」教科書は、子どもたちに誤った事実とゆがんだ歴史認識を植えつけようとしています。このような教科書の登場を放置すれば、日本の国際的孤立を招きかねません。

 以上から、私たちは憲法・教育基本法を否定し、国際孤立の道へ踏み込む危険な教科書が採択されることに強く反対するとともに、各教育委員会においてはこうした意見を真摯にうけとめ、父母や府民、教職員の意見を聞きながら慎重に教科書採択を行うよう要請するものです。

2001年6月21日

   呼びかけ人

    岩井忠熊  (子どもと教科書京都ネット21代表委員、立命館大学名誉教授)
    牛田年彦  (出版労連京都地域協議会議長)
    大島亮準  (近畿宗教連盟理事長、天台宗大原念佛寺住職)
    大橋 満  (日朝協会京都府連合会代表理事)
    大平 勲  (京都教職員組合執行委員長)
    岡田英樹  (京都平和委員会会長)
    岡部伊都子 (エッセイスト)
    筧 文生  (日中友好協会京都府連合会会長)
    金子欽哉  (元京都府教育長)
    河内一郎  (京都地方労働組合総評議会議長)
    姜 在彦  (花園大学客員教授)
    小林幸男  (京都教育センター代表、立命館大学名誉教授)
    小山靖憲  (日本史研究会代表委員、帝塚山大学教授)
    佐伯幸雄  (日本キリスト教団同志社教会牧師)
    鈴木栄樹  (京都民科歴史部会代表委員、京都薬科大学助教授)
    徐 勝   (立命館大学教授)
    土本芳子  (新日本婦人の会京都府本部会長)
    中須賀ツギ子(京都母親連絡会会長)
    橋本嘉雄  (日中友好経済懇話会代表理事)
    森川 明  (自由法曹団京都支部幹事長、弁護士)
 

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