第二七期中労委労働者委員の公正任命を求めるアピール

 第二七期中央労働委員会労働者委員の選任が今年一〇月に迫っている。
今回の選任は、政府がこの間五期一〇年間にわたって取りつづけてきた不公正な任命を、正常に戻すかどうかが国内の労働者団体からも、国際労働機関からもきびしく問われている。特に今日の大企業の横暴なリストラの実態や労働者の闘いに照らして、労働者の団結権救済のための労働委員会の民主化は焦眉の課題である。
 政府は一九八九年の労働戦線再編成にともなう連合と全労連の誕生以来、中央労働委員会は連合が推薦する候補のみを任命してきた。現在、中労委労働者委員一五名(民間担当九名、国営・独立行政法人担当六名)の全員が連合推薦というのは、連合七三一万人、全労連一〇四万人という組織構成人員に照らしても、余りにも異常な実態であるといわなければならない。政府のこうした偏向行政は他方における地労委労働者委員の選任にも深く影響し、地労委労働者委員も四七都道府県二六三名中、連合以外の任命はわずか六都府県八名にすぎない。
 労働者・労働組合に対する不当労働行為の救済機関として設立された労働委員会制度は、公労使の三者構成であるが、特に労働者委員の任命に際しては、労働組合の諸潮流(系統)に配慮すべきことが設立当時から議論され、その選任基準として示されたのが昭和ニ四年の五四号通牒である。このような勢力比による選任などの公正なルールはせ界の常識であり、一九八九年以前は、産別・総同盟時代、総評・同盟時代など、それぞれの時代のの系統別ナショナルセンターを中心に、労働者委員が振り分けられている。
 政府がこうした経緯を無視して、一〇年間も連合だけに労働者委員を任命してきたことは、国内外から厳しく批判されている。労働者委員の選任をめぐる行政訴訟の判決では、「裁量権」の問題で原告敗訴とはいえ、内容的には愛知地労委事件の名古屋地裁判決が「現に差別を受けている現場の労働組合や労働者が、対立している系統の労働組合が推薦した労働者委員を全面的に信頼することができないのは無理からぬもの、といえる。」「独立の行政機関である地方労働各員会の委員の任命は政治的であってはならないが、政治的であるとの疑問が生じるだけでも問題であり、これを防止するためにも任命基準の作成、公表が有益である」と判示し、千葉地労委事件の東京高裁判決が「永年にわたって、特定の系統に属する組合の推薦に係る候補者以外の者を労働者委員から排除することを意図してされたものであるとの推認が強く働くこともあり得るというべきである」と判示していることなどが示すように、政府の行政姿勢は厳しく指弾されているのである。
 また、本年六月ニ○日、ILO結社の由由委員会は、日本政府に対し、全労連が日本政府による中労委労働者委員の任命などの差別的取り扱いの是正を申立ていた件に関して、「労働委員会およぴその他の審議会の公正な構成に対して、すべての代表的な労働組合組織にたいして公正かつ平等な取り扱いを与える結社の由由原則に基づき適切な措置を取るよう求める」との勧告を行った。同勧告は日本政府が全労連排除を「労働者委員は所属の違いもかかわらず労働者全体の利益を代表する」という理由で正当化していることに対し、「そこに問題の核心がある」と指摘し、「結社の由由委員会の決定と原則の判例集」を引用し、「結社の由由委員会は絶対的な比例代表があるべきことを求めてはいないが、最低限、労働組合の複数性を認め、労働者の利害にかかわる問題を扱う共同の委員会を構成するにあたっては、実質的な利害関係をもつ労働組合のさまざまな潮流の代表権のための適当な規定をも設けるべきであ」り、「特定の一組織に特別待遇を与えることを、意識的に行う政府は、八七号条約に定められた原則の違反」であるとしているところである。
 このように、様々な観点からみても、政府の姿勢は早急に改めるべき時期にきている。一○月に行われる第二七期中労委ろ労働者委員の任命に際しては、従前の不公正任命を変更し、公正な任命を実現し、労働委員会民主化の第一歩とすることが求められている。

二00二年七月

早稲田大学名誉教授 中山和久
龍谷大学教授     萬井隆令
弁護士         竹澤哲夫
弁護士       上條貞夫
弁護士       河村武信
弁護士       岡村親宜
 

Go to the
TOP PAGE