有事関連三法案に反対する学者・研究者共同アピールの公表にあたり、市民の皆さんに訴えます

 私たちは、今国会に提出されている有事関連三法案が日本とアジアの平和と安全に大きな悪影響を与えることを憂慮し、このたび学者・研究者として共同アピールを作成し、広く市民の皆さんに私たちの意見を訴えることといたしました。この共同アピールには、すでに1600名近くの賛同署名が寄せられています。
 共同アピールでくわしく検討しましたように、今回の有事関連三法案は、政府が繰り返し強調するような「万一日本が武力攻撃を受けた際の対処法制」というよりは、日本が米軍のグローバルな軍事行動の後方支援に地方自治体や民間を動員することをめざした法制であり、「日本有事」法制というより「グローバル有事」法制あるいは「周辺有事」法制とでもいうべきものです。この法制は、日本の平和と安全を促進するどころか、米軍の軍事行動に加担することにより、かえってアジアと日本の平和と安全を危機に陥れるものにほかなりません。
 小泉内閣は、有事関連三法案を四大法案のひとつに数えて大幅会期延長により国会での成立を強行しようとしましたが、ご承知のように、防衝庁のリスト問題を初めとした不祥事が相次ぎ、今国会では縦続審議になるという報道がなされています。しかし、この法案の重要性から見て、政府がこのまま法案を断念することは考えられず、秋の臨時国会には、成立をめざして再登場することは必定です。しかも、今国会においても、法案が衆議院を通過して継続審議となるか、衆議院も通過できないままに継続審議になるか、あるいは廃案に追い込むことができるかは、法案の今後の行方や中味に大きく影響します。
 すでに、政府部内では、法案の修正の動きなども出ていますが、伝えられる修正では、とうてい法案の危険な性格はなくなりません。事態は全く予断を許しません。
 この法案を今国会で継続審議にすることなく廃案に追い込むには、市民の多数が目に見える形で「NO!」という意思を示すことが不可欠です。すでに、東京での集会を始め、全国各地で大きな集会が持たれていますが、こうした動きを今後も一層強めていくことが大切です。
 市民の皆さんが有事関連三法案に反対し、皆さんの持ち場で、周りの市民に呼びかけ、あるいは地方自治体に、この法案について直ちに反対の意思を表明するよう呼びかけるなど、ありとあらゆる方法で行動に立ち上がることを強く訴えるものです。

2002.06.21
 共同アピール呼びかけ人一同
 共同アピール運動全国事務局
 

有事関連三法案に反対する学者・研究者共同アピール

 第154国会に、有事関連三法案が上程され、現在衆議院において審議中である。いわゆる武力攻撃事態法案、自衝隊法改正案、安全保障会議設置法改正案の三法案である。私たちは、この法案の内容に重大な危惧を覚える。もし、この法案が国会を通るようなことがあれば、日本の安全を守るために役立つどころか、逆に、世界とくにアジア・太平洋地域と日本の平和に大きな脅威をもたらすことは間違いない。そこで、私たち学問研究に携わるものが、自然科学、社会、人文科学の枠を超えてつどい、三法案に反対の意思を表明し、かつ、この法案を阻止するためにはどんな行動が必要かを広く、市民の皆さんにアピールすることにした。

1 私たちは、有事関連三法案に、以下の諸点から反対する。

(1)これら三法案を提出する理由として、小泉首相は、日本が万一、武力攻撃を受けた事態に備えて対処する法制を整備しておくためと述べている。しかし、私たちがまず指摘をしなければならないことは、この法案は決して政府のいうような「攻められたときに」いかに対処するかを定めたものではなく、かえって、日本がアメリカに追随し、アメリカの行うグローバル秩序維持のための軍事行動を後方支援するために国民を動員することをめざした法律であるという点である。
 なぜなら、武力攻撃事態法案は、「武力攻撃事態」の定義(武力攻撃事態法案2条、以下注記しないときは同)にあるように、日本に対する武力攻撃が発生したり、その「おそれ」のある事態のみでなく、武力攻撃が「予測されるに至った」事態をも「武力攻撃事態」に含め、法を発動するとしている。そのうえで、政府は、周辺事態法により、アジア・太平洋地域で展開される米軍の軍事行動に日本が後方支援に加わった場合、すなわち「周辺事態」は、「武力攻撃事態」に含まれると答弁している。この二つが組み合わされる結果、周辺事態法等によって米軍の戦闘作戦行動に対して日本が後方支援を開始すると、時を移さず「武力攻撃が予測されるに至った事態」が生じたと判断されてこの法が発動され、地方自治体や民間の動員がなされることになる。日本がどこかの国から大規模な武力攻撃を受けるおそれは、政府も再三認めるように、ほとんどないが、米軍がイラクや朝鮮、台湾海峡での紛争に軍事行動を起こし、それを日本が後方支援する事態は、近い将来極めてありうると考えねばならない。こうした事態に地方自治体や民間を動員することこそ、この法案の最大のねらいであるということができる。
 このように法案は、日本に対する万一の「武力攻撃」に備えるどころか、逆に世界の戦争を拡大し、ひいては日本への「武力攻撃」を招く危険性をもつくりだすものである。

(2)第二に指摘しなければならない点は、法案が「武力攻撃事態」の認定、さらには武力攻撃事態に際しての「対処基本方針」の策定を、国会の審議を経ずに、事実上、内閣総理大臣と安全保障会議に参加する少数の閣僚にゆだねている点である。対処基本方針は、閣議決定後「直ちに」国会の承認を受けなければならないとしている(法案9条第6項)が、対処措置は国会の承認なしに開始できる仕組みとなっている。
 日本の戦争状態への突入の可否や国民の動員態勢を決める重大な決定を主権者の代表たる国会の審議抜きに、ごく少数の閣僚で実質的に決定するような手続きが、民主主義の根本的な蹂躙であることはいうまでもない。

(3)第三に指摘しなければならないのは、法案が、こうした「武力攻撃事態」に国のすべての行政機関や地方自治体や民間を強制的に動員する仕組みを作っている点である。
 法案は、武力攻撃事態に際して、地方自治体や「指定公共機関」が国と協力して、事態への対処に関し、「必要な措置を実施する責務」を規定している(法案5条、6条)。ここで、法案が言う「指定公共機関」とは、日本赤十字社や日本放送協会のように法案が名指ししているもののみでなく、マスコミや電気、ガス、輸送にかかわる民間の機関を戦争協力に動員するために広く「公共機関」として指定するものである。そのうえで、内閣総理大臣は、対処基本方針に沿って地方自治体や民間に対処措置の実施を求めるため「総合調整」を行い、それに従わない場合には対処措置を実施するよう地方自治体等に「指示」を行い、それでも従わない場合には、担当大臣が代わって対処措置を実施し、実施させる権限をもつ。こうして、戦争への後方支援に、地方自治体や民間が強制的に動員させられる仕組みができているのである。
 しかも重大なのは、地方自治体の命運にかかわる事柄が、まともに自治体の意思を問うことなく決定され、自治体はそれに強制的に従うことが命ぜられる仕組みである。これは、国の戦争行為に直接影響を受ける地域住民の意思を問うことなく、当該地域を戦争協力に動員するものであり、憲法が想定する地方自治の理念にも反するもので、とうてい許されるものではない。

(4)自衛隊法改正案は、「武力攻撃事態」に際しての徴用義務や物資保管義務など私権の制限を盛り込み、また武力攻撃事態法案は、法案8条において、国民に対し戦争動員態勢に「必要な協力をするよう努める」ことを求め、それを前提にして、今後二年以内に「国民の協力が得られるよう必要な措置を講ずる」法制を整備する(21、22条)と謳っている。その中で、有事に際して「社会秩序の維持に関する措置」を定めるとしている。
 このような市民的自由や権利の制限は、明らかに、戦争への動員に際し、市民の人権を広範に制限し、また反対運動やマスコミの規制を図ろうとするものであるが、先に述べたように、法案が、日本が武力攻撃を受けた事態ばかりでなく米軍の軍事行動への後方支援の際にも「武力攻撃事態」と認定し、法を発動することをねらっていることを合わせ考えれば、憲法の人権体系に大きなくさびを打ち込み、市民的自由に対する大きな脅威となることは明らかである。

2 私たちは、有事法制を何としても止めるために、政党や労働組合、市民が、それぞれの持ち場で直ちに、法案阻止のために可能なあらゆる行動をとることを訴える。とくに私たちは、以下の行動が必要と考える。

(1)有事三法案を廃案とするためには国会での十分な議論が決定的といえるほど重要である。国会内では法案に反対する政党や無所属議員は、ぜひ、その垣根を超えて、法案反対の国会議員チームを結成し、法案の問題点、追及の焦点などを共同で検討し、有効な国会活動を行って欲しい。私たちも法案の問題点の検討にはできる限りの支援を行いたいと思う。
 また、有事三法案を廃案に追い込むには、国民の多くが反対の声を上げることが重要である。そのために、政党は一層のイニシアテイブを発揮して欲しい。具体的には、政党や議員がイニシアテイブをとって、労働組合や市民団体を包含しつつ、有事法案に反対する持続的共闘組織を立ち上げることを検討して欲しい。そうした持続的な組織なくしては、政府が次々繰り出す法案に効果的に対処できず、後手後手に回らざるをえなくなるからである。
                            
(2)政党の中には、有事法制それ自体は必要だと主張する政党もある。しかし、今回の法案は、上記のように、日本が外国から武力攻撃を受けた場合に備えることを目的としたものというよりはむしろ、米軍の軍事行動の後方支援に自治体、民間を動員する文字通り「戦争態勢」づくりのものである。もし法案が、ほんとうに武力攻撃を受けた場合に備えるためなら、「武力攻撃事態」の定義は、「武力攻撃が発生した事態」に限ればよいし、また実際に武力攻撃が発生するのは地震や災害と違ってそれ以前から長い紛争期間があるため、武力攻撃事態の認定については国会で十分審議可能である。また地方自治体についても、当然当事者として決定に何らかのかたちで参画する手続きがなければならない。ところが法案の構造はそうなっていない。そうした点から、今回の法案には、はっきりと反対を表明し、国会で、有事法制に反対する政党と連繋して、有事三法案の問題点の追及に全力をあげてもらいたい。

(3)地方自治体の首長や議会は、本法案が、地方自治体の意思を問うことなく、一方的に武力攻撃事態を認定し、地方自治体に対処措置を強制することに対して、反対の意思を表明すべきである。その上で、自治体首長は、法案審議中の国会に対して共同で自治体の立揚からの意見を述べるべきである。

2002年5月

呼びかけ人
 尾関 周二(唯物論研究協会委員長 東京農工大学)
 小田中聰樹(民主主義科学者協会法律部会理事長 専修大学)
 糟谷 憲一(全国大学高専教職員組合中央執行委員長 一橋大学)
 木村 茂光(歴史科学協議会代表委員 東京学芸大学)
 小谷 江之(歴史学研究会委員長 東京都立大学)
 高橋 哲也(日本私立大学教職員組合委員長 東邦大学)
 野口 邦和(日本科学者会議事務局長 日本大学)

共同アピール運動全国事務局
 石埼  学(亜細亜大学)
 胡澤 能生(早稲田大学)
 清水 雅彦(和光大学)
 山本 公徳(一橋大学)
 小澤 隆一(静岡大学・連絡先054−238−4541)
 三輪  隆(埼玉大学・連結先048−858−3200)
 渡辺  治(一橋大学・連絡先042−580−8904)

賛同者

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