「有事法制」に反対し、日本国憲法にもとづく平和外交の推進を求める声明

 日本国政府は、有事法制関連3法案を4月16日に閣議決定し、今国会中の成立を強行しようとしています。この有事法制関連3法案は、武力攻撃事態法案、自衛隊法改正案、安全保障会議設置法改正案からなりますが、日本が武力で攻撃された場合や、実際に武力攻撃を受けなくても攻撃されるおそれがある場合、予測される場合に、武力行使を含む国民総動員体制を作るためのものです。
 特に、武力攻撃事態法案は、有事法制の基本方針や個別法制の整備項目を定めた「包括法」として性格づけられるもので、今後引き続き提案される関連法案の骨格をかたちづくる第一弾となるものです。有事法制は、小泉首相が昨年9月の所信表明演説で「有事法制の検討を進める」ことを明言した際、「いったん国家、国民に危機が迫った場合に、適切な対応をとり得る体制を平時から備えておくのが政治の責任です」と述べたことからわかるように、平時ではない戦時を想定するもので、戦時法制と言い換えることのできるものです。
 法案の審議にあたり、小泉首相は「備えあれば憂いなし」と有事立法の必要性を説明していますが、中谷防衛庁長官が、日本を攻めてくる能力のある国があるのかという国会での質問に対し、3年から6年の期間では想像できないと答弁しているとおり、現在の国際情勢の下で、ある国が日本のみに武力攻撃を加えることは実際には政府も想定していないといえます。むしろ、政府がこの時期に有事法制の成立を急ぐ理由は、1999年には周辺事態法を制定し、日本周辺でのアメリカが行う軍事行動に対する「後方支援」を可能としたこと、2000年にはアーミテージ現国務副長官などがまとめた報告書の中で有事法制の制定を要求されたこと、昨年にはテロ対策特措法を制定して、「日本を守る」ためではなく、他国の軍隊とともに海外での自衛隊の軍事活動を可能とし、実際に自衝隊がインド洋やアラビア海に派遣され「後方支援」に従事していること、さらにプッシュ大統領が「悪の枢軸国」という仮想敵国をつくり、軍事攻撃をちらつかせ、2002年は戦争の年になるとまで言っていることなどに照らせば、アメリカが行う戦争に日本が参加するための国内支援体制を早急につくりあげたいからであると考えられます。
 今回の三法案には、そのための手始めに、(1)武力攻撃時だけではなく、武力攻撃のおそれのある場合、さらに武力攻撃が予測される事態までも武力攻撃事態とし、(2)自衛隊の「武力の行使」などを可能とすること、(3)自衛隊の行動に対する法的制約を取り除くこと、(4)首相が地方自治体へ直接指揮することを可能とすること、(6)憲法の保障する基本的人権を大きく制約すること、(6)地方公共団体と指定公共機関の責務を定めると同時に包括的な「国民の協力」を定め、自衛隊への一定の協力を拒めば刑罰を科すこと、(7)閣議決定による「対処基本方針」は国会の事後承認で足るとすることなどが規定されています。
 日本国憲法は、陸海空軍その他の戦力の不保持と交戦権の否認を明確に規定し、国民主権・基本的人権・地方自治などの基本理念を掲げています。政府の認定によって、戦争状態に国民を動員し、基本的人権と地方自治に制限を加えようとする有事法制3法案は、この日本国憲法とは全く相容れないものです.
 世界各地において武力紛争が発生しつつある今、日本国憲法の理念を世界に広げていくことこそが求められています。しかし、日本国政府は、国際社会における平和的共存のビジョンを指し示す日本国憲法を蹂躙し、有事法制3法案の今国会での成立を目指しています.こうした行為は、世界やアジアの期待を裏切るものにほかなりません。
 とりわけ私たち立命館大学は、第2次世界大戦当時、多数の学生を戦地に送り出したことの反省から、憲法と教育基本法の精神に立って、「平和と民主主義」を教学の理念として掲げてきました。「二度とペンを銃にかえない」という戦争への反省と未来への誓いが込められた「わだつみの魚」を擁する学園に属するものとして、戦争への道を開く有事法制導入の動きを座視するわけにはいきません.
 わたしたちは、このような有事法制関連法案の制定に反対します。真に「我が国の平和と独立ならびに国及び国民の安全の確保」を考えるのであれば、戦争を遂行するための有事法制の制定ではなく日本国憲法にもとづく自主的な平和外交によって、国際社会の平和の確立のために努力すべきであると考えます.

                                                                               以 上

                                                                                                                2002年6月20日

 「有事法制」に反対し、日本国憲法にもとづいた
平和を求める立命館大学教員の会

[呼びかけ人]
浪江巌(呼びかけ人代表・経営学部)、伊藤武夫(同代表・産業社会学部)、中島茂樹(法学部)、大久保史郎(法学部)、市川正人(法学部)、葛野尋之(法学部)、倉田原志(法学部)、草探直臣(産業社会学部)、中川勝雄(産業社会学部)、長沢克重(産業社会学部)、向井俊彦(文学部)、安齋育郎(国際関係学部)、加藤恒彦(国際関係学部)、永田秀樹(国際関係学部)、南野泰義(国際関係学部)、西口清勝(経済学部)、雀部晶(経営学部)、近藤宏一(経営学部)、吉田真(理工学部)

[アピールに賛同します](第2次集約分151名)
赤澤史朗、荒川重勝、生田勝義、石原浩澄、指宿 信、上田寛、大河純夫、大平祐一、岡野八代、鹿野菜穂子、工藤祐巌、小堀眞裕、小山泰史、佐藤敬二、徐 勝、竹治 進、竹濱 修、徳川信治、中島茂樹、中谷義和、中村義孝、二宮周平、樋爪 誠、平野仁彦、堀田秀吾、堀 雅晴、松宮孝明、松本克美、宇野木 洋、三木義一、村上 弘、安本典夫、山口幸二、山本 忠、吉田美喜夫、吉村良一、米丸恒治、和田真一(以上、法学部)、池田 伸、斎藤雅通、雀部 晶、田中 カ、田中照純、谷口知弘、土居靖範、仲田正機、橋本輝彦、服部泰彦、兵藤友博、平井孝治、三浦正行、柳ヶ瀬孝三、波辺 峻(以上、経営学部)、田中祐二、松原豊彦、岡尾惠一、四方利明、佐藤善治、田中宏道、濱田盛一、Gudrun GRAEWE、佐藤卓利、松井暁、稲葉和夫、藤岡惇(以上、経済学部)、赤井正二、荒木穂積、有賀郁敏、文 楚雄、遠藤保子、大山博史、小川栄二、景井充、加藤直樹、金井淳二、川口晋一、佐藤春吉、津田正夫、出口剛司、中川順子、前田信彦、松田 博、峰島厚、門田幸太郎、柳澤伸司、山口歩、山下高行、リムボン、和田武(以上、産業社会学部)、岡田英樹、加国尚志、伊勢俊彦、鳶野克己、河原典史、和田晴吾、吉越昭久、松田 憲、矢野桂司、石井芙桑雄、富田美香、山崎有恒、桂島宣弘、島 一、木立雅朗、春日井敏之、服部健二、中川吉晴、日下部吉信、小田内 隆、榊原哲也(以上、文学部)、朝日稔、安藤次男、佐藤誠、大島堅一、中川涼司、若菜マヤ、中本真生子、小林誠、三宅正隆、夏 剛、高橋正義、文 京洗、松下列、中辻啓示、山形英郎、大空博、姫岡とし子、原 毅彦、高橋伸彰、河村律子、森岡真史、龍澤邦彦、板木雅彦、本名 純(以上、国際関係学部)、他17名。

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