大学界有志と市民有志の声明
大学界有志から東京都議会と横浜市議会への要請書

東京都立4大学および横浜市立大学の法人化準備が、各地方政府首長の強い関与の下で進められている。わたしたち大学教員有志は、両地域の公立大学における力強い動きを大学の自律の発現として全面的に支持し、東京都議会および横浜市議会に対し、設置者権限を濫用する行政行為を看過しないよう要請する。

東京都大学管理本部が8月以降進めている新都立大学の開設準備は、大学の関与を排除して進められていることを東京都立大学総長は10月7日の声明で強く批判した。一方、横浜市立大学が10月17日に明かにした「横浜市立大学の新な大学像について(案)」は横浜市の主導の下で作成されたもので、全員任期制の導入や基礎研究費の全廃等、学術研究の自律性を損う内容に対し、商学部教授会、国際文化学部教授会、総合理学研究科教員有志、理学部教員有志が強く批判し、10月22日の評議会では多数の反対意見が出されているが、横浜市側には、こういった学内の批判を真剣に検討する姿勢は今までのところ見られない。

こういった大学の自主性を認めない行政行為は、地方独立行政法人法が7月に成立した際に、大学の自主性・自律性を最大限発揮しうるために必要な措置を講じなければならないとした付帯決議に反し国会を軽視するものであるだけでなく、地方行政の首長が個人的信念に基き、教育・研究の当事者を排して大学を根本から改造することは、教育基本法第10条にある「不当な支配」そのものであり、当該地方議会がこの行政行為を了承するならば、明白な教育基本法違反行為が公然と行なわれることとなる。

ところで、国立大学法人法および地方独立行政法人法は7月に与党のみの賛成で可決されたが、その審議の中で、独立行政法人制度の構造が、行政による大学支配を可能とすることが問題となった。その弊害の一つである学問の多様性の破壊の様相は、東京都・横浜市双方の「改革案」に顕著に現れている。

わたしたち大学教員一人一人は、短い一生にあって特定の分野において真理と真実を探究し伝えることしかできず、無際限の真理と真実は大学界全体として探究し伝えることしかできない。その意味で、どの専門分野も、わたしたち大学教員一人一人にとって、そして大学界全体にとって、かけがえのないものである。それだけでなく、行政の判断で特定の分野を弱体化させることは、大学界の主要機能を深く傷つけ、真理と真実に対する社会の目を閉ざすものでもある。

大学界を弱体化させる動きが強まる中で、東京都立4大学と横浜市立大学における力強い動きに力付けられている大学教員は少なくない。わたしたちは、東京都立4大学と横浜市立大学における教員と学生の方々の真摯な取りくみを大学界全体の独立性を守る闘いとして強く支持する。

東京都と横浜市において、教育基本法の禁じる大学支配が実現するか否かは、日本の大学界全体の行く末を大きく左右することに鑑み、私たち国公私立大学教員は、東京都議会および横浜市議会に対して、東京都立4大学および横浜市立大学の法人化が、各大学の自主性を明確に排除して進められていることを看過せず、教育関連諸法および国会審議に反する行政行為の逸脱をチェックする使命を遂行されることを、要請する。

なお、国立大学の場合とは異なり、公立大学を独立行政法人化するか否かは各地方政府の判断に委ねられている。この利点を活かし、公立大学の独立行政法人化を既定方針とせず、独立行政法人化が国立大学に与える影響を見定めてから、各地方政府ごとに検討してほしい。大学の本性とは調和し得ないことがわかっている設置形態に、多くの大学が画一化的に移行することが、日本の未来にとって良いはずはないからである。
 

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