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今月のことば

2016年7月 リトアニアの杉原記念館

 今年の7月は、3つの国際学会をはしごする多忙な月になりました。まず、7月はじめには、イギリス、スコットランドのダンディー大学で開催された7th International Comics & Medicine Conference というユニークな学会で研究発表しました。この学会は、医療とアートがコラボした学会で、患者さんの絵本や体験談、医師と患者の関係や医学教育など、さまざまな興味深いトピックスが扱われていました。
 私も「糖尿病患者さんのビジュアル・ナラティヴ」の口頭発表をしましたが、とても好評でした。多くの人がわざわざあとで「自分もやってみたい」「とてもすばらしかった!」と言いにきてくれたり、あとのWSでも私の研究に言及してくれたり、マイナーな畑ちがいの学会で知っている人はひとりもいないし、大丈夫かしらと心配でしたが、あたたかいユーモアと笑いにみちた楽しい学会でした。確かに「病の語り」には、深刻で重い表現よりも、アートやコミックの力を借りた豊かなイメージを使った共感的な表現のほうが似つかわしいでしょう。
 イギリスがEUを離脱するニュースがどんなふうに扱われているのか気になっていたのですが、地方のふつうの人々には、昨日に変わらない平穏な明日の生活があると信じた暮らしがつづいているだけ。世界情勢がどうなるのかなどという大きな話題は、日本よりも報道されていないかもしれない。あいかわらず大衆紙は、女王がどこへ行ったかというような話題がトップだし、歴史の節目のようなものは、時間的にも空間的にも当事者よりも遠いほうがよく見えるのかもしれません。
 その後は、エディンバラからコペンハーゲン経由で、リトアニアのヴィルニュスに行き、心理学の国際学会ISSBDで、ビジュアル・ナラティヴの研究「かわいいとは何か」を発表しました。バルト三国ははじめてなので、黒パンときのこのスープで東欧の雰囲気を味わいました。
 帰国前にカウナスにある杉原千畝記念館に行ってきました。住宅街のめだたないところにある、思ったよりも本当に小さな家でした。そこで自分の生命をかけて「いのちのビザ」を発効され、6000人のいのちを救ったという場所とVTRを見て、胸がふるえました。オランダから逃げてきたユダヤ人たちがシベリア鉄道を越えて、アメリカのオランダ領まで行くには、日本の通過ビザがどうしても必要で、一刻も猶予がならない事態でした。
 戦争中、国の方針に逆らってユダヤ人を助けたわけですから、杉原さんは戦後も長く不遇でした。いのちを救われた人々が外務省に問い合わせても、在籍名簿からも抹消され、「該当者なし」という返事しか返ってこなかったそうです。生き延びた人びとが何十年もかけていのちの恩人の居所をつきとめて、ようやくその人道的な行為が表に出るようになりました。戦争という大きな出来事には誰もがいやおうなく巻き込まれますが、たったひとりでも正義を貫く行為をすれば、大きな力をもつのだと感慨新たでした。
 国際学会つづきでタイトなスケジュールですが、月末には、ICP(国際心理学会)が始まり、2つのシンポジウムの発表が待っています。

写真 リトアニア、カウナスの杉原千畝記念館、いのちのビザが署名された書斎



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