立命館法学 2000年2号(270号)  209頁


◇資  料◇

D・ビルク
ドイツの企業税制改革について



奥谷 健(訳)


 

は じ め に

  本資料は、去る二〇〇〇年四月七日(東京税理士会)および一〇日(近畿税理士会)に行われた講演会原稿の翻訳である。講演者のビルク(Dieter Birk)氏は、ドイツのミュンスター大学法学部教授(税法)であると同時に、ベルリンにおいて税理士 Steuerberater として国際課税を専門に活躍されている。
  本講演は、このようにドイツ国内外の税制に造詣の深いビルク氏による、企業税制の紹介である。国内課税問題については、わが国で近時注目を集めている外形標準課税を採用している営業税 Gewerbesteuer の紹介も含まれていた。さらにEU統合を迎え劇的な変化を遂げた、あるいは遂げようとしているドイツ企業税制、およびそれに影響を与えるEU全体の企業税制に関する指令についても紹介された。この講演は、企業課税に関するドイツの最新の議論をまとめたものであるといえる。それゆえこの内容を紹介することにより、今後のわが国における外形標準課税の問題、および国際的な企業課税の問題に関する比較法的検討の資料を提供できれば、幸いに思う。なお、当日は三木義一氏(本学法学部教授)をコーディネーターとし、野田輝久氏(青山学院大学経営学部専任講師)に通訳として参加いただいたが、講演の際の資料として、会場では奥谷による試訳を配布させていただいた。本資料は、その試訳に加筆・修正したものであることを予めお断りしておきたい。

<資料>

A  ドイツ国内における現行企業税法の概観


  ドイツ国内には、閉鎖的、および企業に対してのみ適用される法体系という意味での独自の「企業税法」はない。むしろ企業所得も事業所得も、原則としてすべての所得に対して適用される規定によって課税されているのである。
  今日のドイツ国内における企業課税にとって特徴的なことは、法形態における税制の中立性が欠けているということである。企業の法形態は、どのような税法規定が適用されるかという問題についてのみならず、企業活動において最終的に生じる税額についても決定的な意義があるのである。
  したがって以下においては、ドイツの現行企業税法について個人事業主、人的会社および物的会社の課税を、それぞれ分けて論じることにする。

T  個人事業主への課税

  1  個人事業主および事業上の所得類型という概念
  企業税法に関する法規制の典型は、いわゆる「個人事業主」である。この概念のもとに、自己の事業を、他者の企業活動ではなく、専ら自己の名において、かつ自己の計算において行う者が把握される。
  個人事業主への課税は、ドイツ所得税法において規定されている。所得税法は、個別に定義された七つの所得類型によって、所得を区分している。ドイツ所得税法の伝統的な理解によれば、すべての所得類型による所得は、平等に取り扱われ、統一的課税標準にまとめられる。それゆえ、いわゆる「総合所得税」と言われるのである。
  この七つの所得類型のうち三つは、事業所得、すなわち広義の企業所得である。これは農林業による所得、独立の−とりわけ自由職の−労働による所得、および一般営業所得を指す。このような事業上の所得類型にとって特徴的なことは、一般的経済取引への参加のもとで、独立的、かつ継続的に、営利目的をもって活動を行うということである(参照・ドイツ所得税法一五条二項)。
  この三つの事業性をもつ所得類型のうち、一般営業による所得は、実務および国内議論、ならびに国際的議論において最も重要である。一般営業による所得は、特に営業税が付加的に課されるという点で、他の二つの所得類型と異なっている。なお、この営業税については後に詳しく説明する。

  2  事業性をもつ所得類型、特に一般営業による所得の課税上の取扱
    (a)  利益算定
  所得税法は、四条から七k条において、事業性をもつ所得類型による利益の算定方法について規定している。しかしこの算定方法に関して、一般営業所得に対しては、所得税法五条一項は原則として、商法の利益算定に関する規定を参照するよう定めている。ドイツ商法は、伝統的に債権者保護という観点から特徴づけられている。このことは保守主義の強調をもたらし、それにより個々人の財産を過小評価する傾向、および本来の会計上の利益算定より低い利益を計上するという傾向につながる。

  (例)リスクおよび損失は、商法上それらが未実現である場合、または決算期日後にはじめて認識された場合でも、常に適切な減価償却または引当金によって考慮されることになる(ドイツ商法典二五二条一項四号)。これに対し利益は実現されてはじめて計上される。
  しかし近時、税法上の利益算定規定は、商法上の過小評価を税法領域において制限する特別規定によっていっそう補完されてきている。このような特別規定の目的は、譲渡益または事業活動終了時における清算利益をも含む総合考慮において、はじめて応能負担原則に適合するようなものではなく、個々の課税期間(暦年)においても応能負担原則に適合するような、課税利益の計上である。このような課税上の利益算定の独自性は、企業会計と税務会計の異なる目的からは望ましいものであるが、企業により大きな管理費用をもたらすものである。

    (b)  所得税の総合的課税標準
  上述のように、原則としてすべての所得類型は平等に取り扱われる。それゆえ、一般営業による所得も他の所得とともに「総所得金額」(ドイツ所得税法二条三項)にまとめられている。所得獲得との関連において生じない広範な控除金額(特別支出、異常負担、子供を条件とする軽減)の控除の後に、「課税所得」(所得税法二条五項)が生じる。課税所得は累進所得税の課税標準を形成する。

    (c)  所得税の税率
  所得税の税率(三二a条)は累進的に構成されている。課税は、個人の場合、課税対象年間所得一三、五〇〇ドイツマルク(夫婦の場合は二七、〇〇〇ドイツマルク)超の所得への二二・九%という税率から始まる。この税率は、所得の増加とともに上昇し、個人の場合、約一一五、〇〇〇ドイツマルク(夫婦の場合二三〇、〇〇〇ドイツマルク)超の課税所得が服する、五一%という最高税率に達する。しかしながら、この最高税率に達する者は、ごく少数の納税義務者のみである。はるかに多くの納税義務者は−ほとんどの一般営業者も−、その所得によって累進段階のなかを移動し、より低い税率に服している。
  しかしながら、一般営業は極めて高額の所得を生じ、その累進税率は、一九九四年以来、一般の最高税率より低く設定された最高税率(三二c条)に制限されている。これは現在四三%であり、五一%という一般の最高税率を八%下回っている。それゆえ、一般営業による所得への優遇的な特別取扱に対して、総合所得税の原則は貫徹されていない。
  一九九五年以来、所得税に加え、目下所得税の五・五%というドイツ統一割増税 Solidarita¨tszuschlag が徴収されている。これは東西ドイツ再統一のための高い費用を共同で工面するためのものである。実際、ドイツ統一割増税は税率の一般的引上と同様に作用している。ドイツ統一割増税を考慮すると、実質的最高税率は五三・八%に、営業所得に対する最高税率は四五・四%に、さらに最低税率は二四・二%に達する。

U  人的会社およびその社員に対する課税

  1  人的会社の概念
  人的会社という法形態の企業は、さまざまな類型のうちでも、ドイツ経済において非常に多い。民事法上人的会社は、権利能力がないか、または完全には権利能力を認められないものである。法人と対照的に、人的会社は、原則として権利および義務の担い手ではなく、その社員の結合体として活動する。会社が負担する債務に対する責任という問題に関して、この権利能力が不十分であるということが、特に重要な意味を持つ。会社財産とならんですべての社員も、人的会社の債務に対して、原則として無制限に自己のその他の財産によって義務を負う。
  しかしながら、まさに責任という問題について、人的会社のさまざまな類型は、著しい差異を示す。先に示した社員の無限責任の原則は、特に「民法上の組合」(民法典七〇四条以下)および「合名会社」(商法典一〇五条以下)という基本類型に妥当する。これに対し「合資会社」(商法典一六一条以下)については、無限責任を引き受ける者は一人で足りる。その他すべての会社に関しては、責任は出資金に制限されることになる。合資会社と有限会社が有限合資会社として結合するならば、結果的に会社財産に責任を制限される人的会社が成立することになる。

  2  人的会社への課税
  人的会社自体は所得税、または法人税の納税主体ではない。むしろ人的会社によって獲得された利益は、直接その社員に帰属する。社員は、その利益について、その他の所得とともにその個人的事情に応じて課税される。それゆえ人的会社は、課税上「透明な存在 Transparenz」といわれている。したがって、所得税法は、人的会社の課税を対象とした規定を持っているのではなく、その社員の課税に関する若干の特別規定を持つのみである。
  しかしながら人的会社は、利益査定の際に一つの単位 Einheit として考慮されるという限りにおいて、課税上意味がある。利益査定は、すべての社員個人個人に行われるのではなく、特別な手続によって統一的に会社の段階で行われる。総利益は、個々の社員に、その持分割合に応じて配分される(租税基本法一七九条、一八〇条)。
  原則として、人的会社もその社員にさまざまな所得類型からの所得を獲得させる。しかしながら、少なくともその活動の一部でも事業的なものであるならば、人的会社からの所得はすべて、当該一般営業による所得に分類される(所得税法一五条三項)。

  (例)(1)  AおよびBは、民法上の組合として家屋を賃貸し、さらに有価証券を保持し、そこから利子および配当を得ている。この民法上の組合の組合員は、一方で、賃貸所得を獲得し、他方で、資本財産から所得を獲得している。
  (2)  AおよびBは、民法上の組合として、コンタクトレンズおよびそのケア用品を売る眼科を共同で営んでいる。この医者としての活動による所得は、自由職業上のものであり、独立の労働による所得に属する。コンタクトレンズおよびそのケア用品の販売は営業上のものである。しかし、両活動とも民法上の組合によって統一的に行われているため、民法上の組合による所得全体は一般営業による所得である。これらの所得は相当高い営業税負担を強いられる。

  3  人的会社の社員への課税
  人的会社の社員への課税に関する基本的な考えかたは、可能な限り広い範囲で個人事業主と平等に取り扱うということである。その結果、先に述べたように、会社から生じた利益は、その持分に応じて社員に直接帰属するのである。それゆえ、会社の社員がそのつどの会計年度において受け取る金額、または自己に「配当」される金額のみに課税されることはない。このことは特に赤字年度に有利である。なぜなら、人的会社の赤字は、社員の税額を直接に減少させるのに対し、物的会社に生じた損失は、社員の税額軽減をもたらさないからである。
  さらに、個人事業主と平等に取り扱うという基本的な考えかたは、実務上きわめて重要な所得税法一五条一項二号という特別規定にもつながる。この規定によれば、会社が、自己の活動、貸付への寄与、または経済財の譲渡に対して、その社員に支払う報酬も、一般営業による所得に含まれる。このような報酬は、商法上は会社の事業支出であり、第一に会社の利益を減少させる。税法上このような報酬は、他の所得類型に属する(例えば、賃貸による所得、または資本財産による所得)が、先に挙げた規定(一五条一項二号)によって、いわゆる「特別事業収入 Sonderbetriebseinnahmen」に包括される。この特別事業収入は、会社の段階で統一的に算定される利益に含まれるが、会社から支払を受けた社員にのみ帰属する。当該規定は、活動、貸付または経済財への報酬が「自己に」課税上の効果をもって支払われないという限りで、人的会社の社員を個人事業主と平等な立場においている。結局、他の所得類型に配分することによって、営業税に服する人的会社の利益を減少させようとする努力は、この規定によって妨げられている。
  このようにして人的会社によって算出される利益部分は、社員については、その社員の他の所得と合算される。社員の所得に適用される税率は、最終的に当該社員の個人的事情を基礎とする。ここでも五一%という一般的な最高税率が妥当し、−営業上の人的会社による所得に関しては−四三%の限界税率 Tarifbegrenzung が妥当する。

   (例)A&B合名会社は、AおよびBがそれぞれ五〇%ずつ持分を持っている。合名会社は、二〇〇〇年において四〇、〇〇〇ドイツマルクの利益を得た。Aは結婚しており、その他の所得はない。これに対し、Bは、その他多くの所得源泉を持ち、五〇〇、〇〇〇ドイツマルクの課税所得を得ている。AおよびBには、合名会社から、そのつど二〇、〇〇〇ドイツマルクの利益配分がなされる。Aに関しては、税額決定処分は問題とならない。なぜなら、課税所得が基礎控除額を下回っているからである。しかしながらBは、その多くの他の所得にかんがみ、合名会社からの利益配分について、営業所得に対して適用される四三%の最高税率に服することになる。

V  物的会社およびその社員への課税

  これに対し、物的会社およびその社員への課税の場合にはまったく異なる規定が妥当する。

  1  物的会社の概念
  人的会社と対照的に物的会社は、それ自体が権利主体であり、法律上独立した法人として現われている。債務については、その会社の財産のみが責任を負う。社員は、原則としてすべての責任を免除されている。
  ドイツ民事法において最も重要と思われる物的会社の形態は、株式会社および有限会社である。後者は、特に中小企業の法形態であるのに対し、株式会社は大企業の法形態である。株式会社の持分は、極めて容易に譲渡できるため、大きな資本需要も証券市場における株式の広範な発行によって保証されうる。これに対し有限会社の持分は、根本的に譲渡が困難である。このことは持分権者(しばしば一家族がその過半数を占めることがある)の企業支配を容易にする。

  2  物的会社に対する課税
  税法も物的会社の法的独立性と結びつき、持分権所有者の課税とは無関係に、物的会社を独立した納税主体として取り扱う。しかしながら、物的会社という法形態の企業に適用される独自の税法は存在しない。その課税は、他の法人(例えば、社団、財団)とともに、法人税法に規定されている。しかし、このような他の法人税主体と対照的に、物的会社については、すべての所得が、一般営業による所得として取り扱われている(法人税法八条二項)。この物的会社の所得算定には、基本的に、上記の所得税の諸原則が同様に適合する(法人税法八条一項)。
  法人所得に対する税率は目下のところ四〇%である(法人税法二三条一項)。しかしながら利益が配当される限りで、税率は三〇%に軽減される(法人税法二三条一項)。法人税の五・五%に相当するドイツ統一割増税がそのつど加わる。
  物的会社のすべての所得が四〇%という通常税率に服するわけではないということには、さまざまな理由が考えられる。すなわち、多くの非課税所得が存在すること、課税所得または、過年度において高すぎる税率に服した所得の一部が軽減されていることが挙げられる。しかしながら、配当は常に三〇%の課税に服する−若干の例外として、例えば国外所得−ため、さまざまな租税負担を調整するメカニズムが必要である。これにはいわゆる「利用可能な自己資本の分類 Gliederung des verwendbaren Eigenkapitals」が有益である。そこでは、毎年どの程度の金額が、配当のために利用された自己資本に対して法人税として事前に課されているか、ということが示される。配当の場合には、前段階課税と三〇%の配当税額との差額が還付されるか、または事後的に徴収される。

   (例)(1)  四〇%の法定税率に服する一〇〇、〇〇〇ドイツマルクの利益は、全て配当されなければならない。税率上の税負担は四〇、〇〇〇ドイツマルクに達する。しかしながら配当の場合、税率は一〇%軽減され、税額は三〇、〇〇〇ドイツマルクになる。
  (2)  配当が一〇〇、〇〇〇ドイツマルクの増資によって融通されるとする。この場合の増資は、法人に関しては非課税である。配当に際して、会社は三〇%=三〇、〇〇〇ドイツマルクの法人税を事後的に納めなければならない。

  実際にしばしば起きる特別問題は、いわゆる「隠れた利益配当 verdeckte Gewinnausschu¨ttungen」といわれるものである。このような利益配当は、会社が、社員ではない者に対しては利益配当としてしか与えないであろう利益を、社員に与える場合にのみ認められる。この隠れた利益配当を通例、会社は事業支出として取り扱うが、会社の利益を減じることはできず(法人税法八条三項)、税務調査の際に再び加算される。
(例)Aは、八〇%の持分を有する有限会社に、事業用建物を賃貸している。この場合、月額一〇、〇〇〇ドイツマルクの賃料を取り決めている。しかし一般的な賃貸市場では、当該建物に対しては、四、〇〇〇ドイツマルクの賃料しか認められない。この六、〇〇〇ドイツマルクの差額が、有限会社の事業支出と認められない、隠れた利益配当である。

  3  物的会社の社員への課税
  個人事業主または人的会社の社員とは対照的に、物的会社の社員の場合は、会社によって獲得された利益は、直接的に帰属しない。むしろ会社が実際に利益配当を行う場合にはじめて、社員に所得が帰属するのである。事業用資産の中に持分が保存されていない場合には、資本財産による所得(所得税法二〇条一項一号)が問題となる。
  ところで、持分権者における通常の所得課税は、配当に対して三〇%の法人税が事前に課税されているため、同一利益への二重課税という問題が生じる。それゆえ、一九七七年以来いわゆる全額インピテーション方式 Vollanrechnungsverfahren が施行されている。利益配当は、持分権者において、その持分権者に適用される累進段階での通常の所得税率に服する。しかし、会社から支払われた法人税は、持分権者の所得税において、全額調整される。同様のことが、会社が配当の二五%の限度で税務職員に支払わなければならない資本収益税に対しても、妥当する。
  この方式によって、配当利益の総負担額は、物的会社に対して適用される税率とは完全に無関係になる。それにより、配当に対して用いられる所得部分への負担がどれほどかということに関わりなく、なぜ法人において配当は常に三〇%課税されなければならないかが理解できる。
  この計算方式には、近時批判がますます増大してきている。なぜなら一方で、確かにその基本的な考えかたはまさしく簡素であるが、技術的実行はきわめて複雑であり、そのため脱税を誘発しやすいからである。他方、会社も、その社員も内国の納税主体となる場合にのみ、この計算方式は二重課税を完全に回避しうる。外国法人またはその社員が出資するとすぐに、計算方式は放棄される。他のEU国家にも、若干ではあるが比較に値する制度がある。
  近時は、利益を配当するのではなく、長期的に利益を留保(集積)する法人が多い。このような場合、確かに社員は継続的に収入を得ていない。しかし通例、社員は数年後に、明らかな価格増加を伴い、その持分を譲渡する。このような私的財産に組み込まれる価格増加は、ドイツ所得税法のいわゆる「所得二元論 Einku¨nftedualismus」によって原則非課税である。しかしながら、納税義務を負う利益配当が、広い範囲において、非課税の価格増加に取って代わられることを阻止するために、立法者は所得税法一七条において、一〇%以上会社に出資している社員に関しては、物的会社の持分の譲渡益が所得税に服するということを規定した。

W  営業税

  本日の講演の重点は、−希望されたように−営業税にある。この税は、ほとんど誰もがドイツ独特のものと表現するであろう。営業税は、EU域内では他に、ルクセンブルクという小国およびフランスにおいて存在するのみである。ドイツにおいて、営業税は確かに約二〇〇年の歴史を持っている。営業税は、そのため、所得税、法人税よりも根本的に古いのである。

  1  意義
  あらゆる批判、およびこの古い税はもはや時流に適っていないという多くの意見にもかかわらず、営業税はドイツ国内において将来においても維持されるであろう。それは、地方自治体に流入する唯一の大きな税にかかわる問題だからである。ドイツの国家および行政の構成は三段階になっている。連邦および州とならんで、地方団体の最も下位のレベルとして地方自治体がある。憲法上、地方自治体には、自治および財政上の自己責任が、自主税源を含めて保障されている(基本法二八条二項)。地方自治体は−他の多くの国家におけるように−単なる中央集権国家の行政単位ではない。しかしその他すべての重要な租税は、連邦または州に流入するため、地方自治体の財政的自己責任は、基本的に営業税に基づいている。営業税は地方自治体の最も重要な財源である。その税収は明らかに法人税の税収より多い。
  連邦は、営業税法に関する立法権限を持っており、その営業税法は、ドイツ国内に統一的に適用される。地方自治体は、賦課率 Hebesatz の決定によって、自己の営業税からの収入を決定する。
  しかし営業税の地方自治体に対する意義は、企業に対する利益ももたらす。事業の移動または拡大に対する許可に関する決定は、通例どんな場合でも地方自治体が行うからである。予測される営業税収入にかんがみ、地方自治体は、住民の一部によって以前から問題視されている産業が移動してくる場合でも好意的に対応しようとする。営業税のこのような効果を認識しているため、多くのドイツの大企業は、財政負担にもかかわらず、営業税の廃止をもはや支持せず、その改正のみを支持している。
  営業税はいわゆる応益原則 A¨quivalenzprinzip によって正当化されている。それによれば、営業税は、その存在によって地方自治体に生じる負担(例えば、道路、病院、学校)に貢献する。この点で、営業税は、応能負担原則に対応する他の企業税とは異なる。

  2  課税標準
  営業税は、所得税または法人税とは対照的に、人税ではなくいわゆる物税である。課税対象 Anknu¨pfungspunkt は、事業所有者または事業主ではなく、一般営業自体である。営業税の租税債務者には、個人事業主および物的会社、さらに権利能力がなく、それ自体は所得税には服さないが、人的会社も含まれる。
  物税としての営業税は特に、その統一的に決められている課税標準、いわゆる営業収益 Gewerbeertrag に特徴がある。この税の基本的な考えかたによれば、事業の実際の収益ではなく、その収益能力に課税されることになる。
  しかしながら、営業収益算定のための基礎となる価額 Au
sgangsgro¨βe は、所得税法または法人税法の規定によって算定される、一般営業による利益である(営業税法七条)。所得税法および法人税法の多くの特別規定の根拠は、この営業税の課税標準を確立するためにのみある。

   (例)(1)  先に述べたように、人的会社の社員による経済財の譲渡に関する特別規定による加算は、所得税法上は課税対象所得の変更を生じない。その加算が一般営業による所得か、あるいは賃貸による所得が問題となるかは、重要ではないからである。しかしながら、所得税法一五条一項二号によって、この特別報酬は営業税にも服するということになるのである。
  (2)  物的会社の税務調査の際に争われる隠れた利益配当は、営業税についてのみ重要である。会社に追加的に生じる法人税が、社員については、全額再度計算されるからである。社員は社員で、隠れた利益配当として自己に与えられた利益を、すでに他の所得として(例えば賃貸収入として)課税されている。このような、その資本財産からの所得の再調整 Umdeklaration には、課税所得の変更は生じない。しかし隠れた利益配当は、会社について、営業税の課税標準を引上げる。
  (3)  所得税法においては、一定の活動が一般営業による所得(所得税法一五条)につながるのか、または独立労働による所得(所得税法一八条)につながるのかということが、非常に激しく争われている。判例は、これに関して最も優れた区別を展開していた。しかし、その区別も部分的にほとんど運用できるものではなく(ソフトウェア開発に関する分類は、そのソフトウェアがシステムまたは適用プログラムを記すかにかかっている・弔辞を読む者の場合、雛型を用いるか、または自分で用意するかにかかる)、もっぱら営業税に対して意味があるにすぎないのである。

  しかしながら、この基礎となる価額は、実際の事業収益から収益能力 Ertragskraft を推定するために、加算および減算(営業税法八条、九条)によって修正される。例えば、営業税法八条一号から三号(長期債務への利子、事業基盤からの年金支払など)による資金調達費用への加算はきわめて重要である。この加算は、営業税の負担が、事業が自己資本によって出資されているか、他人資本によって出資されているかとは無関係であること、すなわち、その事業の収益能力にとっては重要でない、ということを裏付けているのである。
  典型的な減算は、営業税法九条一号に規定されている。この場合、(類型化された、実際のものではない)不動産の収益が営業税の課税標準から排除される。不動産には、すでに他の物税である不動産税が課されているからである。二つの物税による二重課税は避けられるべきである。
  今日、加算および減算実行後の利益から算出される営業収益は、営業税の統一的課税標準である。しかし一九九七年までは、営業資本もその算定に組み込まれていた。基礎となる価額は、加算および減算によって修正された営業資本 Gewerbekapital であった。しかしながら、営業資本という課税標準は、営業収益に比べてほとんど意味のないものであった。きわめて保守的な資本の価格算定および高い基礎控除のために、実際、営業資本税は大企業にしか課税されていなかったからである。その廃止にとって決定的であったのは、利益にかかわらない企業の税負担(物税)をできるだけ少なくしようとする努力であった。
  一九七九年まで、事業において生じた給与 Lo¨hne und Geha¨lter の総額も営業税の算定に組入れられていた(給与総額税 Lohnsummensteuer)。それゆえ被用者の雇用には、事業税が課せられていた。このような、雇用に対して敵対的な税目 Steuerkomponente は、多量の失業時代においては、もはや税体系にとって好ましいものではない。

  3  税率
  課税標準から最終的な税額決定までには二段階の手続がある。第一段階では、事業収益に租税算定額 Steuermeβbetrag を導く算定率 Steuermeβzahl が適用される(営業税法一一条)。算定率は五%である。個人事業者および人的会社に対しては、非課税額および−中小企業に関しては−低い算定率がある。
  第二段階として地方自治体は、そこに存在するすべての企業に対して、自己の責任において統一的に決めた、独自の賦課率をこの算定率に適用する(営業税法一六条)。州の立法者は、地方自治体に対して最高賦課率を規定する。しかしながら、この最高賦課率は、これまで実際上の意義のないままである。一般に、賦課率は地方自治体の規模とともに増大する。地方の地方自治体においては賦課率が最も低く、大都市における賦課率は最も高い。一九九七年における平均の賦課率は四二四%であった。フランクフルト/マインが五一五%という最も高い賦課率であった。
  租税算定率と賦課率の共同効果によって、平均の営業税負担は利益の約二〇%になる。しかしながら中小企業の場合、この割合は、非課税額および低い算定率によって明らかに低くなっている。また営業税は、その課税標準からも、所得税および法人税の課税標準からも、事業支出として控除できる。実質的な営業税の負担は、それゆえ、大企業に関しては、利益の約一二%である。中小企業に関してはさらに少なくなる。
  大企業に関しては、しばしば複数の自治体に事業所が存在する。一つの地方自治体は、自己の賦課率のみを租税算定額に適用することができない。それゆえ営業税法二八条は、租税算定額は関係する自治体に配分されると規定している。配分の基準は、個々の事業地において支払われる給与の割合である。その配分部分に、それぞれの自治体が、自己の賦課率を適用する。企業は、複数の自治体に、営業税を、それぞれ異なる賦課率によって支払わなければならない。

X  法形態の変更の可能性

  我々は、ドイツ企業税法が広範で、法形態的に中立ではなく、同一の企業活動に関しても個人事業主、人的会社および物的会社の間の税負担に相当な相違があることを見てきた。しかしながら、ドイツ企業にとって、その法形態を変更することは、民事法上は比較的容易である。税法もこのような変更を妨げるものではない。組織変更税法によって、通常の場合、組織変更が遂行可能になり、かつそれによる税負担をもたらされない、複合的な規範メカニズムが作られている。このような組織変更は、ドイツにおいてしばしば行われている。
  課税が法形態に依存していること、および組織変更において課税上の障害が少ないことの裏側で、当然のことながら、ドイツ会社法が広範囲に税法によって変形されており、会社法上の決定が本質的に税法上の観点から行われている。

B  企業税の改正


  この二〇年ほどの間に、資本投下および生産場所の国際的移動の可能性が急激に増加し、すべての産業国はその企業税法の改正を強いられているようである。ドイツにおいても、昨年、重要な税法上の適合 Anpassung が行われた。近い将来、さらに大きな変更が行われるであろう。

T  すでに施行されている改正

  すでに施行された企業課税内の改正は、大規模な法改正が一度だけなされたのではなく、内的な関連なくして、多くの個別税法において改正が行われたのである。とりわけ一九九三年、一九九七年および一九九九年の改正は注目に値する。これまで述べてきた現行企業税法の概観において、これらの改正はすでに検討した。

  1  所得税および法人税の税率引下
  税率に関する改正は、国民の意識の片隅ではあったが、最も広く浸透した。留保利益に対する法人税の税率も、所得税の最高税率も、一九八九年に五六%であったのに対し、法人税率はその間に三段階で四〇%に、一般営業による所得に対する所得税の最高税率は四三%にそれぞれ引下げられた。これに対し、非営業所得に関する税率の引下はわずかであった。そのため、その最高税率はいまだ五一%である。二〇〇二年から、四八・五%にさらに引下げられることが決められている。しかしながら、この一九九四年以来施行されている所得税については、所得類型によって異なる取扱に対して憲法上著しい疑問が提起されている。

  2  課税標準の拡大
  このように国際的に比較して高いドイツの税率を引下げるということは、課税標準の拡大と平行して現れる。ドイツには、伝統的に、課税所得を明らかに事業上実際に生じた利益以下に引下げる可能性が多く存在した。この可能性は特に、税務会計が、その過少評価の可能性を持つ企業会計と密接に結合することにあるが、助成金を租税優遇措置という形で保障する多くの規定においても見られる。企業会計から課税利益の算定を徐々に分離していくということについて、ドイツは、最終的にアメリカ合衆国を手本にしたが、それはまだ完全には達成されていない。
  しかしながら、大多数の措置は、最終的な税負担の増加をもたらすのではなく、租税の支払を将来に繰り延べる可能性のみを制限するものである。それゆえ、それらの措置は特に、事業の資金(流動資産)に関する計画 Liquidita¨tsplannung および利子損失 Zinsverlust に関して効果を示す。そして特別減価償却の実行可能性、ならびに引当金の形成および評価に関して重要な制限があった(所得税法五条三項から四b項、六条一項三号)。人的会社とその社員との間での経済財の移動は、これまで秘密積立金 stiller Reserven の譲渡のもとで広い範囲で可能であったが、今日ではしばしば利益の実現をもたらし(その結果、課税され)ている(所得税法六条三項から七項)。過去において行われた、部分価値の減価償却に対する根拠がなくなったため、一九九九年以降、価格再評価 Wertzuschreibung が行われている(所得税法六条一項一号、二号)。
  しかし、若干のその他の措置によって、純粋な税負担の増加も生じる。これまで判例によって展開されてきたように、私的な債務利子が控除可能な事業支出に変わる可能性はありえなくなった(所得税法四条四a項)。私的財産に含まれている物的会社の持分の譲渡が課税対象所得となる出資限度は、二五%から一〇%に制限された(所得税法一七条)。累進税率を軽減するため、個人事業主の譲渡所得、または人的会社の持分の譲渡所得が半分の税率に服する(所得税法三四条)可能性は、これまでは認められた。しかしこの可能性は、当該譲渡益を五年にわたって分配することに置きかえられ、その結果、多くの場合に税負担増を生じることになる。
  しかし法人税法においては、まさしく課税標準の枠内で税負担軽減も存在した。内国の物的会社が外国の物的会社の持分の譲渡によって得る利益には、一九九四年以来、法人税が課されていない(法人税法八b条二項)。これによりドイツに居所をもつ持株会社の創設は明らかに容易になった。

  3  営業税に関する変更
  営業税に関しては、特に、一九九八年に行われた営業資本税の完全な廃止を挙げなければならない。営業収益の負担は、長期債務利子加算の半減、中小企業に対する算定率の引下、ならびに基礎控除の引上によって緩和された。

U  現在議会において審議されている大規模な改正計画

  立法府は、現在さらに大規模な改正法を審議している。その改正法は、二〇〇一年のはじめまでに施行されるものである。この改正法は、従来の方法の継続を継承する改正(すなわち、税率の大幅引下、課税標準の大幅な拡大)および、ドイツ税法にとって新たな方法である要素の両方を含んでいる。ドイツは国内政策上企業税制改正の失敗は許されないため、以下に示される改正計画が実際の法律になる可能性は相当高い、と観測されている。

  1  従来の方法を継承する変更
    (a)  税率の大幅引下
  近年の傾向の継続および国際的展開との関連において、特に企業利益に対する税率は大幅に引下げられる。目下四〇%の法人税率は、二〇〇一年から二五%に下げられる。この税率の決定については、物的会社の収益税などすべての税負担が三七%以上に達するべきではない、という考慮が決定な役割を果たした。しかし営業税は、すでに一二%で施行されているため、法人税には二五%が残されているのみである。所得税の最高税率は、三段階を経て、現時点での五一%から、二〇〇五年以降四五%に最終的に引下げられる。しかし、最高税率に達していない所得税納税者も、明らかに負担を軽減される。
  このような計画において、法人税の引下が根本的に所得税より広く行われるということは興味深い。ドイツでは、他の多くの国家における状況と対照的に、ドイツ経済が重点的に物的会社ではなく、人的会社によって組織されていることに注目して、このことが批判される。実際公式な統計は、全企業の八六%が人的企業という法形態をとっているということを指摘している。しかしながら、この数字は、無差別かつ無秩序に、企業税改正の対象ではない活動も把握している。そのような活動は、形式的考慮の際にのみ企業に属すのであって、社会学的考慮の際には企業に属さないため、企業税対象から外されているのである。
(例)付随的に保険を仲介する行政事務職員・付随的に弁護士資格を有しているが、ほとんど働かない退職した税務官吏・「形式的独立事業主 Scheinselbsta¨ndige」として、トラックを所有し、依頼者のためにのみ活動する運転手・法律上は独立事業主であるが、企業上の自由裁量のない、厳格な階級的販売組織に組入れられている、投資および保険の仲介者として活動する個人ー全人的会社の六八%は、利益は五〇、〇〇〇ドイツマルク以下である。
  このような活動を除外するならば、純粋な数値において、人的会社が本質的に多くなるということは、もはや生じない。さらに、個人事業の大部分を考慮するならば、ドイツにおいても物的会社の経済力が強い(約五七%)ということが示される。

    (b)  課税標準の大幅な拡大
  このような税率の引下に伴う部分的な資金調達に関して、特に、建物に対する一律の減価償却率、および動産の累減的減価償却率は引下げられ(所得税法改正案七条二項、四項)、さらに、税務官吏が利用する一定の減価償却期間が延長される。

  2  将来の企業税法における新たな要素
    (a)  物的会社およびその社員への課税

  改正法案の主要な改正点は、法人税に関する全額インピテーション方式の廃止である。物的会社のレベルで、将来は−すでに述べたように−二五%の低税率による最終課税が行われる。
  利益配当に関する法人税の事前負担は、−オーストリアを手本に−概算的な、いわゆる半額所得方式 Halbeinku¨nfteverfahren の導入によって考慮されている。物的会社の配当は、持分権者個人の所得税に関する課税標準に半分だけ算入される(所得税法改正案三条四〇号)。残りの半分は、非課税のままであるが、税率算定の際には考慮されなければならない(所得税法改正案三二b条による累進の留保 Progressionsvorbehalt)。配当された利益の総負担は、これにより、他の所得類型の負担と同様になる。これは、個人で四〇%以上という限界税率を負担する持分権者に妥当する。これに対し、低い税率を適用される持分権者(特に小口株主)については、現行法に反する負担増を生じる。

  (訳者例)株主Aが、配当所得四〇、〇〇〇ドイツマルク、その他の課税所得五〇、〇〇〇ドイツマルクを得たとする。今回の改正案により、配当については半額の二〇、〇〇〇ドイツマルクが課税対象となる。その結果、Aの課税総所得は七〇、〇〇〇ドイツマルクとなる。通例では、この課税所得への平均税率を一五%とすると、一五%が適用され、税額は一〇、五〇〇ドイツマルクになる。しかし今回の改正案では、配当所得がある場合の適用税率は異なる。すなわち、課税所得五〇、〇〇〇ドイツマルクに、配当全額四〇、〇〇〇ドイツマルクを加えた九〇、〇〇〇ドイツマルクの場合の税率を適用することになる。したがって、Aの課税所得は七〇、〇〇〇ドイツマルクになるが、九〇、〇〇〇ドイツマルクに対する平均税率二〇%が適用されることになる。その結果、Aの税額は一四、〇〇〇ドイツマルクとなる。これが累進の留保である。

  このような方式は、国内の配当金に対しても、外国の配当金に対しても妥当する。しかし、外国の物的会社の利益が、外国の法人税によって、著しく低い事前負担のみに服する場合、租税回避の防止に対して、対外取引税法 Auβensteuergesetz は加算課税を予定している。
  半額所得方式は、国内外の持分権者の平等な取扱によって、国内事情に関してのみ重要な、これまでの全額インピテーション方式に合致するよりも、国際経済の結合により合致する。さらにこの方式は、より簡素で、濫用されにくい。しかしながら、低い課税を維持される配当利益と高く課税される配当利益との間には、明らかに不平等な取扱が生じる。
  インピテーション方式の廃止と関連して、配当収益、および物的会社が他の物的会社に対して有する持分から得る譲渡益の完全な非課税も、導入される(法人税法改正案八b条)。持分に関する一定の最低額は非課税の要請にとって重要でない。譲渡益の非課税に関して、このような持分の一部の最終的な実現が確実といえるかということを、新しい税体系内すべてにおいて一貫している規定は国内政策上非常に議論されている。
  配当利益よりも留保された利益を優遇することは、留保利益を集積した物的会社の持分の譲渡によって、非課税利益の獲得に向けられた行為態様に著しい刺激を与える。それゆえ、このような譲渡益には将来、一%の持分割合から納税義務を課されるようになる(所得税法改正案一七条)。しかし、私見では、非課税利益獲得に対応した行為態様を効果的に防止するためには、この割合でもまだ高すぎる。しかしながら、このような譲渡益も、将来、所得税の課税標準に半分だけ取り入れられる。

    (b)  個人事業主および人的会社への課税
      (aa)  法人税法の適用に対する人的会社の選択権

  個人事業主および人的会社は、物的会社のように課税される可能性を与えられなければならない(法人税法改正案四a条)。このことは、一般営業からの所得を獲得する人的会社に対してのみ妥当するのではなく、農林業または独立の労働による所得を持つ事業についても妥当する。逆に、このような企業は、選択権の行使によって−それまでとは異なり−営業税の納税義務を負うことになる。
  企業がこのような選択権を行使するならば、留保された利益は法人税の低い税率に服する。所得税は、−半額所得方式適用のもと−実際の利益配当(または払出)に対して生じる。事業主と企業との契約も将来は課税上の効力をもつであろう。個人事業主自身、事業上の利益課税ではなく、独立労働による所得として所得税に服する「給与」を支払われうる。
  このような改正の構成部分は、その重要な効果問題 Folgeprobleme のために、現在の議論において最も強く批判されている。このような規定によって、個人事業主でも人的会社でもなく、物的会社のみと自然人とを法律上区別している民事法と、税法との間には著しい矛盾を生じる。多くの事業主は、事業領域と私的領域の区別を実務上貫徹する場合に、大きな問題をかかえている。今日では、その具体的区別は、小規模有限会社の多くの社員に非常な困難をもたらしている。それゆえ、隠れた利益配当がかなり増加している。しかしこのような利益配当は、−個人事業主または人的会社からの理由のない払出とは異なり−課税上の効果を生じるような否認をされるべきではない。
  他の批判者は、多くの事業主が一般に、選択権を行使するのかということを疑っている。相続税および贈与税について、個人事業主および人的会社の社員は、物的会社の持分権者よりも相当優遇された取扱を受けているからである。高齢の事業主は、相続税負担をより減少させるために、場合によっては高い収益税を負担するかもしれない。
  さらにこれまであったように組織変更税法によって、法形態の課税上中立的に変更する可能性は、維持されたままである。

      (bb)  所得税に対する営業税の算入
  法人税法の適用を選択しない個人事業主および人的会社については、将来、所得税に営業税が算入される(所得税法改正案三五条)。しかしながら、実際に支払われた営業税は算入されない。というのは、所得税収の犠牲のもとで営業税を引上げようとする動機を地方自治体に与えてはならないからである。営業税算定額の二倍の金額が所得税から控除される。
  四〇〇%という賦課率の場合、さらに可能な営業税の事業支出控除とともに、結果として営業税の完全な軽減が生じる。賦課率の低い自治体においては、さらに、このような方式による所得税軽減は、実際に支払われた営業税より多くなる。しかしながら、すでに事業支出として考慮された税額の算入は、まず租税体系上成立する余地がない。
  この改正を通じて、一九九四年以来、一般営業による所得に適用されてきた特別な最高税率は不要なものとなる。

  3  営業税に関する変更
  営業税法自体について、変更はほんのわずかしか計画されていない。それにもかかわらず、「自主的な負担額としての営業税を事実上廃止せよ」という一部の主張は、あまり過激なものではない。なぜなら、新たに二五%という法人税率を決定する際、一二%の営業税負担は、企業税率を適切と判断される三七%にするために、明らかに低く考慮されたからである。他方、法人税の納税義務を負わない人的会社および個人事業主については、営業税は、将来、所得税に算入される。それにより、営業税は、企業に対して負担効果をもはや生じなくなる。むしろ営業税は、いまや国家レベルの税収配分に対する憲法の財政に関する規定の上でしか意味を持たない。

C  ヨーロッパにおける企業課税


  ドイツは、現在一五ヶ国からなる共同体であり、経済分野でますます密接に一体となってきているEUに加盟している。EUは、ヨーロッパ条約によって、特に、先日新たに締結されたEC条約によって、立法領域について多くの権限を認められた。多くの場合、ECの機関は、個々の加盟国に直接効力をもつ法規定を認め得る。しかしながら、通例、権限規定は、いわゆる「指令 Richtlinie」の発出に関してECに権限を与えるのみである。その指令は、加盟国で適用され、その国内規定の適合 Anpassung および同化 Angleichung を義務づけるものである。そのため、個別国家の法秩序の「調和 Harmonisierung」と言われる。

T  調和の状況

  関税法とは対照的に、税法については、各国に直接適用される税法を発出する権限はECにない。しかしながら、調和のための指令の発出については多くの権限がある。間接税(特に売上税および最も重要な消費税)は、EU条約九〇条から九三条の権限に基づいて、加盟国において、すでに十分調和している。
  直接税、特に収益税の場合、このような調和に関する直接の権限はない。しかしながらEC条約九四条は、EC全閣僚に、共通市場の設立または機能に直接作用する、加盟国の法規定および行政規定を同化させるための指令を発出する権限を与えている。これらの規定は、直接税の調和に対する法的根拠として、域内市場に関係する限りで、援用される。しかしながら、これらの規定は、通例達成が困難な、一五加盟国すべての一致を前提としている。

  1  一九九〇年の措置案
  一九九〇年に、企業課税領域に関する三つの個別措置案が可決された。親子会社に関する指令 Mutter−Tochter−Richtlinie、合併に関する指令 Fusionsrichtlinie および結合企業間の利益調整における二重課税排除に関する協定である。共通の課税状況の統一に対する大きな障害は、これらの指令または協定に関するEC委員会の改正案が、一九六九年または一九七六年以来のものであるという事実からもうかがえる。

    (a)  親子会社に関する指令
  加盟国の法人税制の相違に基づき、物的会社が他の加盟国に本拠地を有するその親会社に利益配当する場合に、実質的税負担増が生じる。親子会社に関する指令によって、このような利益配当の二重課税は、二五%の最低出資および二年以上という最低出資期間を超える場合には排除されねばならない。子会社が存在する加盟国はその利益配当にもはや源泉税を課すことはできない。親会社が存在する加盟国はその課税に際して、配当を完全に非課税にするか、または子会社から支払われた外国税を完全に親会社の国内税において控除しなければならない。
  その後、特に−たとえ部分的に遅れているとはいえ−この指令を、加盟国はその国内法に置き換えた。その際、若干の国は、企業に有利になるように、指令の最低要求を超えた。ドイツにおいて、子会社に関する源泉課税の放棄および親会社に関する外国税は、指令において予定されている二五%の代わりに一〇%の最低持分割合が適用される(所得税法四四d条三項、法人税法二六条二a項)。

    (b)  合併に関する指令
  企業または企業グループが組織変更する必要性は、しばしば現れる。このような組織変更の方法は、物的会社の合併または分割、および物的会社の営業または持分の譲渡 Einbringung による。国内レベルではすでに、このような場合、経済的に重要な組織変更を妨げないために、秘密積立金の暴露 Aufdeckung を見合わせることが可能とされている。合併に関する指令は、国際的事例においても、税制に対して中立的な関係企業の組織変更を可能にする。
  しかしながら、会社法が国際的な合併および分割に関してなお対応していないため、指令の国内法への置き換えは困難である。それゆえ、ドイツにおいては、ヨーロッパ全体の税制に中立な、譲渡および持分交換の可能性に関する規定のみを一九九二年一月一日に創設した(組織変更税法二三条)。

    (c)  結合企業間の利益調整の場合における二重課税排除に関する協定
  税務調査の際にしばしば問題となる争点は、複数の国家に存在する個別コンツェルン会社間での内部差引勘定価格 Ver
rechnungspreise である。この場合、それぞれの国家が税務署と他の関係国家と協調しないで利益修正 Gewinnkorrekture に取り組むならば、二重課税の危険が生じる。この協定は、国内税務署が協調する際に、通知手続および分離手続 Versa¨ndigungs−und Schiedsverfahren を義務づけることにより、このような二重課税の回避に役立つ。分離協定は、一九九五年一月一日に施行された。しかしながら、前記二つの調和行為とは対照的に、問題なのは、EC指令ではなく、実行可能性および承認可能性の低い、国際法上の条約である。

  2  ルーディング報告および指令案
  上述の三つの指令または協定は、ヨーロッパにおける企業課税という極めて特殊な観点に関係しているのみである。企業課税の調和は、個々の国家の主権において租税高権が重要であるため、視野に入っていない。
  一九九〇年に前オランダ大蔵大臣ルーディング(Ruding)を議長とし、専門家委員会が創設された。委員会は、異なる税制が競争の歪み Wettbewerbsverzerrungen をもたらすか、もしくは、場合によっては税制の競争のみによって、またはECレベルでの措置によって排除されるか、ということについて審理した。一九九二年に提出されたその報告のなかで、ルーディング委員会は、相当な競争の歪みがある現状も、EC自身による調和の必要性も肯定した。委員会は、特に国際的活動における差別待遇を広範に削減すること、利益算定規定を統一すること、および法人税の最低税率および最高税率を統一することを提案した。最後の提案は、純粋な国内事情のみを規定する法規定についても、適合が著しく必要であることを示した。それゆえ、相当な批判を受け、これまで取り上げられなかった。
  特に、利子課税の調和という切迫した課題は、多様な努力にもかかわらず、いまだ解決されていない。多くの加盟国が多額の税収減を被っている。なぜなら、それらの国の納税義務者は、厳格な支配体制を持たず、そのため−継続する−居住地国における資本所得の納税義務を回避するような加盟国に、資本財産を置くからである。このような国家は、(例えば、統一的な源泉課税または補償金課税 Abgeltungssteuer による、または管理通知制度による)利子課税の調和にとても関心を持っている。他の国家(特に、ルクセンブルクおよびイギリス)は、これに対し、外国資本の流入によって利益を得ており、これまで成功を収めたすべての調和の試みに抵抗してきた。
  指令のさらなる改正案は、外国での企業損失の考慮という問題、ならびに利子および特許権使用料への源泉課税の創設に関するものである。これについても、義務を負わせる立法行為に対して、必要なEC国家の協調がいまだみられない。
  直接税領域における外形的な調和の試みに十分な成果がないにもかかわらず−あるいはそのために−、すべての加盟国において「潜在的」調和が生じている。国際的な企業移動の競争により、競合する産業国家間に相当な課税の相違が生じることは避けられないためである。このような潜在的調和に関して突出した例は、特に近年では、全加盟国による、実際の企業利益に対する税率の明らかな引下である。

U  有害な税の競争の撲滅

  このような税の競争は、−計画された、加盟国に共通する統一的措置とは対照的に−国家財政、税負担、および国内社会における所得再分配に有害な影響を及ぼす。この税の競争は、特に−不動的な−労働者階級に、より重い税負担をもたらし、それにより雇用に著しく敵対的なものとして示される。
  EC委員会は、一九九七年に有害な税の競争の撲滅に対する措置案を提出した。そこには特に、企業課税に対する行為規範 Verhaltenskodex、ならびに資本金課税に関する歪みの排除に対する最低限の解決策に向けた提案が含まれている。
  資本金課税が−既に述べたように−いまだ視野に入れられていないのに対し、EC閣僚会議は、企業課税に対する行為規範を、可決してしまった。しかしながら、その規範は、政策的な目的を説明しているのみであり、法律上の実行可能性を考慮していない。それゆえ、このような措置案はこれまで具体的な効果を示していない。しかし、少なくとも年二回、具体的な個別問題を審議するために、加盟国代表者による高官レベルでの会議を行うということが、成果といえるにすぎないのである。
(EUにおける税の競争の例)アイルランドは、ダブリン港内に本拠地を有する国際的な金融サービス業に、一九八七年以来競争のない一〇%という低い税率および付随的な減価償却優遇(例えば、事業用建物の即時償却)を、そこで事業所を創設させるために、与えている。他のEU加盟国からは、多くの企業が、その金融部門を中心部から「ダブリン船渠」に移し、既存の二重課税協定に基づき、そこで企業本来の居住国における課税から守られた高い利益を生じさせている。

V  EC裁判所の判例

  課税実務に関して、立法領域における調和が不十分であることにかんがみ、EC裁判所の判例は重要な意義を獲得した。
  EC裁判所は、ヨーロッパの第一次法 Prima¨rrecht、特に基本的な条約の解釈を任されている。EC条約は、特に、国籍に基づく不平等な取扱の禁止(EC条約一二条、差別行為禁止)ならびに四つの基本的自由、すなわち被用者の移住の自由(三九条)、居住の自由(四三条)、営業の自由(四九条)および資本取引 Kapitalverkehr の自由(五六条)を規定している。加盟国の専門裁判所は、EC条約に矛盾するおそれのある国内法の規定の審査を、EC裁判所に請求する権利を有するか、あるいは義務づけられている(二三四条)。
  それゆえ、過去に個別国家の規定の多くが、EC裁判所によって審査され、その一部は異議を唱えられた。関係加盟国は、その場合、異議を唱えられた規定を、EC条約と一致する規定に置き換えることを義務づけられる。

【追記】
  なお、本講演終了後、ドイツの税務雑誌 Steuer und Wirtschaft (Nr. 2 Mai 2000) は、企業税制改革に関する特集(Scwerpunkt:Unternehmenssteuerreform)を掲載している(S. 109ff.)。そちらも併せて参照されたい。