立命館法学 2000年3・4号上巻(271・272号) 423頁




福利厚生の受給権保護に向けて


佐藤 敬二


 

は  じ  め  に

  経済の低成長のもとで企業は組織再編を進め、その中で労働コストの削減も進めようとしている。そのために一方で、一九九五年に発表された日経連報告書『新時代の「日本的経営」』に示されたように、非正規労働者の比率を増加させることで対応しようとしている。他方で賃金自体の抑制については、年俸制の導入による賃金総額の抑制や裁量労働制の導入による同一賃金での長時間の労働を求めるなどの対処はされているものの、直接的な引き下げには大きな困難もともなう(1)。そこで労働コスト削減の一環として、総額人件費の約二割を占めているとされる(2)福利厚生費用の削減も課題となっている。具体的な例としては、企業年金制度の廃止があげられる。制度の発足以来増加の一途をたどっていた厚生年金基金は、一九九四年の日本紡績業厚生年金基金の解散以来、解散が一九九九年度までで六〇件にのぼり、年々件数が増加している。税制適格退職年金も一九九九年度には前年度に比べて三五八一件減少している。
  しかし福利厚生費を削減する課題について、企業は福祉から撤退せよとの主張もあるが(3)、福利厚生は企業運営上も労働者生活の上でも重要なものであると反論もされ(4)、実際には削減は困難であるとも分析されている(5)。そこで、福利厚生施策の廃止ではなく、福利厚生費総額を一定にコントロールするための制度改革が検討されている。厚生年金基金についていえば確定拠出型を承認し、これまでの確定給付型から確定拠出型へとシフトさせていこうとする動きであり、カフェテリア・プラン導入の動きである(6)。これらの施策はいずれも、使用者が企業経営上の必要性から判断して自由に福利厚生施策の変更や廃止が行えると考えることが前提となっている。しかし、福利厚生施策の変更や廃止は、労働者ないし福利厚生の受給者・受給予定者(以下、受給権者)の期待と衝突する。そこで、福利厚生施策を受給することが受給権者にとっていかなる権利として捉えられるのか検討することが求められている。本稿では、従業員給付の使用者による一方的廃止が従来から多く見られ、社会問題化するとともに数多くの訴訟が起こり、具体的立法に至っている合州国の法理論を参考に考えてみることを目的としている(7)

一、合州国における受給権保護


1  ERISA法
  合州国では、従業員給付(employee benefits)の受給権を保護するため一九七四年に従業員退職所得保障法(Employee Retirement Income Security Act、以下ERISA法(8))が立法されている。

  (1)  内    容
  ERISA法の規制対象は、年金(Pension)と福利給付(Welfare Benefits)に分けられている。年金には主として確定給付型、確定拠出型年金がある。福利給付は、次のように定義されている。(A)医療・手術・入院給付、あるいは病気・事故・障害・死亡もしくは失業・休暇給付、徒弟その他の教育訓練、デイケア・スカラシップ・リーガルサービス、(B)一九四七年労使関係法三〇二条(c)に規程された全ての給付(9)。(B)に該当するものは立法当初は、退職給付と休暇手当であったが、一九九〇年のタフト・ハートレー法改正によって住宅手当も含むようになった。これらはいずれも「制度(Plan)」でなければならない。つまり、アドホックな施策ではなく、また特定の個人に対する施策でもなく、一定の集団に対して制度化されていなければならない(10)
  ERISA法はこれらの制度を使用者が創設すること自体は求めていないが、いったん制度を創設すると法の規制を受けることになる。主要な規制には六種類ある。第一は、制度概要説明書や財政報告書による制度加入者および受給者への報告、受給者による文書閲覧権、政府機関への年次報告などの規定である(11)。第二は、加入資格発生の最低基準を設定し、受給権を付与された場合には取り消せない等の規定である(12)。第三は、年金基金充実の最低基準設定である(13)。第四は、信託受託者の忠実義務の規定であり、受託者が受給者の利益のためにのみ行動する義務、リスクを最小にするよう資産管理する義務、運営方針に従って資産管理することが定められている(14)。第五は、制度の公的監督(15)。第六は、終了保護の規定であり、制度が消滅した場合に年金給付保証公庫(PBGC)が受給者に給付を保障するものである(16)
  年金についてはこれらの規制が全て適用されるのに対して、福利給付にはそのうち第一の報告と情報開示、第四の忠実義務、第五の公的監督の三種類の規定が適用されるのみである。したがって、とりわけ受給権付与と終了保護にかかわっての問題が発生することになる。

  (2)  立法経過と立法理由
  このような法律が制定されたのは、たとえば一九六三年に発生したステュドベーカー自動車製作所の倒産による一万一千人の労働者を対象とした年金制度の破綻、を始めとした大規模な年金破綻の状況に直面したことによる。それに対して受給権者の期待権を保護することが立法目的である(17)。ただし、その具体的あり方を議論する際には、受給権者の利益保護という側面と、連邦課税権限の保護という側面の両面が考慮された。
  法案を審議した委員会の議論を検討したある研究は、以下のような立法目的があったと分析している(18)。第一の目的は受給権者の期待保護であり、背景には従業員給付を後払賃金であると考えたことがあった。ただし同時に、制度の設立は任意に任されるべきであるとされた。結果として、契約上の合意が存在することを要求した。法は単に契約に含まれるべき事項を明確にしたのみであると考えたが、しかし使用者にのみ厳格な要件を課しており、片務契約理論を認識していた。第二の目的は従業員給付制度の形成を促進することにあった。これは連邦の財政上の要請からであった。制度形成を促進するたには、むしろ設立を使用者の任意に任せた方がよいと考えた。
  第二の課税的側面の方が強く影響しており、受給権者を保護するが使用者に負担を掛けないというものになってしまった、とする評価もある(19)。立法過程では全国民を対象とした年金や健康保険制度の創設も議論にのぼったが、任意性が強調されることから、成立には至らなかった。この矛盾はとりわけ福利給付について拡大することになる。使用者に対するコストが大きくなることを理由として、受給権付与や終了保護の規定は適用されないこととなったのである。この点については、ERISA法成立後も何度か法改正が議論された。たとえば、一九八九年には連邦コモン・ローによる救済を認める法案、一九九一年には州法下の救済を認める法案、一九九三年には福利給付に対して限定的な救済手段を作る法案、一九九三年には健康保険について別の法律で整備する(マネジド・ケア)法案がそれぞれ審議されたが、いずれも成立には至らなかった。

  (3)  従業員給付をめぐる動向
  従業員給付の本格化は、第二次世界大戦中に戦争遂行のため賃金が凍結されたが、その際に賃上げに代わって企業年金の創設が行われたことに始まる。戦後も従業員給付は拡大し、全米商工会議所によれば、一九二九年には従業員の全報酬の三%をしめていたにすぎなかった従業員給付が、一九九六年には四一・九%をしめるまでになっている(20)
  しかし、とりわけ近年になりリストラの中で労働コストの削減が進んでいる(21)。その一環として従業員給付の削減も進められ、労働協約によって作られた従業員給付制度について、八〇年代にはその削減が主たる議題となった「譲歩交渉(Concession Bargaining)」が通例となった。最近でもたとえば、フォーチュン誌による全米の主要五百社のうち約二割の企業において退職給付の削減が行われているとされ(22)、そのうちIBMにおける約五万人の従業員に対する三割から五割削減となる年金制度改革提案については、全米の各種メディアで取りあげられた。また、非正規雇用を増やすことによって、非正規従業員には従業員給付を与えないとして、コストの削減を図ろうとしている(23)
  このような削減は労働者の生活を脅かし、労働者の権利との衝突が問題となる。その場合でも、労働協約に基づいて作られたものであれば、協約の有効期間中であれば団体交渉義務の問題となるし、有効期間経過後に交渉行き詰まりの中で廃止されても、交渉義務ならびに真の行き詰まりになるまでは旧協約下の義務は残る(24)。しかし労働協約に基づかない場合には、使用者の作成した「人事マニュアル」や「従業員ハンドブック」の中で制度を設定していることが多い。このような制度は労働契約の内容となると解釈されている(25)ので、契約変更の問題と扱われることになる。年金についてはERISA法上の規制があるが、福利給付については終了保護がないためにとりわけ問題となる(26)
  福利給付の終了について、福利給付の種類によっては、主に差別禁止を目的とした規制が適用される。たとえば、健康保険給付であれば、年齢差別禁止法、妊産婦差別禁止法、包括財政調整法による退職後の受給権保障、などが適用される(27)。また、税法上の控除をうけるために設けられた要件を通じた規制もある。たとえば、差別禁止について、当該福利給付に直接適用される立法がないとしても、内国歳入法典(Internal Revenue Code)の規定により税の控除がされない、ということを通じて差別禁止の効果がもたらされる(28)。問題となるのは、それ以外の場合である。

2  ERISA法成立前の法理論
  ERISA法の成立前には、福利給付が廃止された場合、受給権者は州法上の契約法理と信託法理の適用によって救済を求めていた(29)
  ある研究によれば(30)、受給権者の救済に向けて契約法上は次の四種の理論が展開されたとしている。まず第一が贈与理論。但しこの理論によれば、贈与が実際に行われない限り、受給権者が廃止された給付に対する救済を求めることはできないことになる。第二は双務契約理論。受給権者の継続的雇用が使用者の給付約束に対する約因となると解するものである。第三は片務契約理論。受給権者に対する福利給付を後払報酬と構成し、給付を廃止することは受給権者に支払うべき後払賃金を使用者が不当に保持することになると解する。第四は禁反言理論。使用者による約束に基づいて受給権者の受給権が発生すると解する。これらに加えて、信託が形成されたとして信託法上の理論を適用する場合もあったが、信託の形態をとらない従業員給付もあった。別の研究では、右の四種類に加えて第五に、従業員の期待は「社会的公正(fairness and public policy)」によって保護されると解する立場も挙げられている(31)
  第一から第五へと受給権者の権利擁護を図るために法理が展開してきたとも分析されている(32)。これらの判決は、受給権者の権利擁護に有益ではあったが、不十分性も有していた。第一の立場は、従業員給付が従業員に期待を与え、その結果として労働意欲を高めるという側面を有していることを捉えていないし、第二・第三の立場は、従業員給付は現実には使用者が創設するという実体とそぐわない。更に、契約の中で使用者は受給権者の権利を制限するための条件を設けており、この場合にその条件も含めて合意内容と解されることになってしまう。また、第五の立場は「有効だが広く用いられたものではなかった」とされている。ここから、受給権者の期待権を立法的に保護することが求められた。

3  ERISA法成立後の福利給付に関する法理論
  福利給付が廃止された場合に、ERISA法成立後も終了保護が適用されないため、受給権者は判例法理による救済を求めることになる。この場合にも、主として契約法理と信託法理の適用が争いとなっている。

  (1)  契約法理による救済(33)
    (a)  専占(preemption)
  ERISA法では、同法が関連する全ての州法に優先するとの専占規定が設けられている(34)。ERISA法では終了保護規定が福利給付に適用されないにもかかわらず、ERISA法が全ての州法に優先するため、終了保護のための前述のような州法下の契約法理が適用できず、結果として被用者の受給権保護の障害となっている。この問題はERISA法改正の一つの中心的論点となっているのだが、ここではこれ以上触れない。
  なお、書面によって提示されたものでない制度は、ERISA法の適用を受けないために契約上の合意として上述のような救済を受けることがありえる。しかし、詐欺防止法(Statute of Froud)の適用により、権利主張するためには一年以内に契約を書面にすることが求められるため、実際には救済されることが困難である(35)
    (b)  連邦コモン・ロー
  州法が適用できないため、連邦コモン・ローを展開することが必要となる。しかしそもそも連邦コモン・ローが適用できるかどうか自体が争いとなっている。明文規定はないが、多くの判決ならびに立法史からの研究では適用可能であると判断されている(36)
  ERISA法上の制度の廃止について、判決は以下のような契約解釈方法を採用していると分析されている(37)。第一に古典的契約理論。これは、書面による契約があるので、その文言を「合理的で理性的な人間」の基準で判断し、判断できない場合には立法意図による。第二に主観的基準による解釈。これは、契約時の両当事者の意図に基づいて判断し、両当事者間に共通の理解がないときには、内容をよく知っている当事者よりも無知な当事者の意図を優先させる。ただし、従業員給付の場合には、実際に給付されるまで被用者は制度の詳細を知らないので意図はないと判断され、結局、古典的契約理論によって判断される。第三は、合理的期待論による判断。これは、契約の一方当事者が他方当事者よりも優越的立場にあれば、契約条件についての実質的な交渉は行われないので、当事者間の意図というよりも当事者の合理的期待に従って判断するものである。控訴裁判所においては第二と第三の立場が相半ばしている。
  その上で、福利給付の終了に対する保護に関しては、双務契約理論、片務契約理論、禁反言の法理によって救済を進める下級審判決が出されていた(38)。ここでは、制度を変更できる使用者の裁量権の範囲が問題となり、裁量権が留保されているのは一般的でないとの判断も出されるに至っていたし(39)、内容が曖昧であれば受給権者に有利に解する判断もされた(40)。しかしその後、制度説明の文書の中に明文として、使用者が制度を修正・変更・廃止する権限を有している旨の留保条項が規定されるのが通例となった。
    (c)  変更権限の留保
  そこで、この権限留保条項の効力が現在の主要な論点となっている。最高裁判所は、このような権限留保条項自体は有効であると判断している(41)。その上で当初は、説明文書の中で福利給付を変更し修正し廃止する使用者の権利が留保されていれば、使用者ならびに制度管理者は、裁量権濫用が無い限り、留保された権限を自由に行使できるとしていた(42)。この判断のもとで下級審では、受給中の健康保険を後から予告無く減額修正すること(43)、退職金の修正(44)などを承認してきた。但し一方で、禁反言の法理に基づいて受給権者を救済した判決も出されている(45)が、それを否定した判決もあり(46)判断が分かれていた。その中で最高裁判所は、福利給付のような付随的な従業員給付にまで受給権を付与すると使用者に過大なコストがかかることになるので、ERISA法は柔軟な対処を認めているが、そのかわりに約束した給付は与える必要があり、使用者に修正権限があるとしても権利主張した受給権者の利益を侵害はできない、と判断して、使用者は自由に修正できるとした控訴裁判所の判断を退けた(47)
  この状況についてある研究は、最高裁判所は、権限留保条項があるとしても受給権者が契約内容を証明し使用者によって給付が約束されていたと判断されることも認めているにもかかわらず、下級審では機械的に受給権者からの契約違反の主張を否定し続けていると分析している(48)。この研究によれば下級審は次のような判断をしている。第一に、ERISA法が受給権を付与していないので、継続的に給付されていたという事実だけでは受給権は発生せず、使用者が継続的に給付する旨の言明をしていたとしてもそれは一定期間内だけである。第二に、使用者が修正権限を放棄した場合にだけ受給権が付与され、その立証責任は受給権者にある。第三に、書面上に権限留保条項があれば、非公式的な証拠によってその条項を変更することはできない。第四に、制度概要説明書の内容も契約内容となり、その中で権限が留保されていれば、それ以外の場で使用者が継続的給付の言明をしていてもそれは認められない。第五に、書面の中に権限留保と受給権保障が同時に含まれていた場合にも、権限留保が優先する。
  このとりわけ下級審のような判断には強い批判が出されている。ERISA法が福利給付に対して受給権を付与しなかったことは、使用者が絶対的な変更権を有することにはつながらない(49)。立法では情報開示義務を規定しているが、これは受給権者が自らの権利を確認できるためのものであるところ、開示される書面の中に権限留保条項があれば自由に修正できると解するなら、開示義務による権利保障の意味がない(50)。制度創設は使用者の自由であると言えても、いったん制度が創設されると受給権者に期待が発生するので、代替措置のないままの制度廃止はこの期待を破壊することになる(51)。レッセフェールの契約解釈を復活させており、受給権者の合理的期待とのディレンマを発生させる(52)

  (2)  信託法理
  信託は一方的な金銭の拠出により作られるものであって、交渉の結果ではないので契約法理とは異なり、受託者の裁量権限の行使の正当性によって判断される。本稿ではこの問題には立ち入らない。ERISA法上、福利給付についても受託者の忠実義務は認められている。以前の判決では、受託者の忠実義務違反の是正手段は、基金に対して損金を返却するという形でのみ認められるのであり、違反によって被害を受けた個人に対する損害賠償は認められない、と判断されていた(53)。この判断には、個人への救済も認めるべきであるとの少数意見が付されており、それ以降の下級審判決において個別救済を認めた事例もあった。その中で、最高裁判所も個人が損害賠償を受ける権利を認めるにいたった(54)

  (3)  改革提案
  このような法状況に対して受給権者の合理的期待を保護することに向けて、様々な改革提案がされている。第一に、立法趣旨を根拠として、裁判所は非公式に受給権を認めるべきであり、権限留保条項を無効と解するべきだとするものがある(55)。第二に、受給権者に対する代替措置を認めることも含んだ明確な内容の権限留保条項でない限り効力はもたないとするものもある(56)。第三に、受給権を付与すると使用者のコストが増大し、逆に使用者が自由に変更ができると受給権者の生活に重大な影響を与えるので、使用者が経済的必要性を立証する、削減する場合には段階的縮減をする、使用者の自己保険を減少させる、全国的健康保険制度を作ることが必要だとするものもある(57)。更に、変更する場合の予告期間を設定するとか、限定的な受給権を認めるとか、代替措置をとることを求める等の法改正の主張もされている。

二、日本における福利厚生の受給権保護に向けて


1  福利厚生の法的性格
  この問題については別稿で検討したが(58)、その内容を簡単に記すと次のようになる。福利厚生の法的性質についてこれまで議論されたのは、主に賃金との区別についてであった。そこでは福利厚生は、賃金とは異なっているとされ、任意的・恩恵的な給付と同視されている(59)。この議論は、福利厚生が労基法第二四条のような保護を受けられないという限りでは正当であるが、任意的・恩恵的な給付と位置づけることは正当ではない。それは第一に、とりわけ高度成長期以降、団体交渉の主要なテーマとなる中で現在の制度が形作られており、使用者の恩恵的給付ではない。そして第二に、各種の統計や調査が示しているように企業内において制度として存在しており、使用者が自由に変更できるものではなくなっているからである。それでは、いかなる形で受給権者の権利は保障されるのだろうか。
2  受給権保護(60)
  受給権者の受給権保護に関わって、その実効性について議論はあるものの差別を禁止する法規定はいくつか存在している(61)。しかしこれらはそもそも福利厚生の受給権がいかなる内容であるのか等を規定しているものではない。福利厚生施策が労働協約や就業規則に根拠を有する場合には、それぞれの法理に従って受給権が保護されることになるため、問題となるのは労働契約を根拠とする場合の受給権の構造である。この問題にかかわって二つの具体的問題を素材として検討したい。

  (1)  団体定期保険について
  団体定期保険とは、会社が従業員を被保険者、会社を保険金受取人として一括加入し、主として会社が保険料を支払っている(従業員が一部を負担する場合もある)ものであり、従業員に事故が生じた場合、従業員(ないしその遺族)が会社に対して保険金(ないし保険金相当額)の請求ができるのかが問題となった。会社は退職金支払いの原資に当てることを目的としており、かつての判決は保険形式に即して判断して、従業員からの請求を認めないと判断していた。ところが保険金額が退職金として支払われる額よりも大きいため、従業員の死亡により会社が利得を得る結果となり、社会的に強い批判を浴びた。その中で、近年の判決では、保険金を従業員本人に支払う旨の合意が労使間にあったとして、請求を認める判断が続いている(62)。その際の根拠は、他人の生命の保険契約の際に必要とされる被保険者の同意である。しかし、これ自体は使用者と保険会社との間での契約締結の有効性にかかるものであって、形式的に考えると、使用者から従業員に対する支払内容まで拘束するものとはいえない。それにもかかわらず、この同意をもって保険金支払いの労使間同意があったと解するために、判決は保険契約が従業員に対する福利厚生であることを根拠としている。これは、福利厚生であることが労働者の受給権を発生させるということを前提とした判断であると理解できる。ただし、これらの点について判決はこれ以上の検討を加えてはいない。

  (2)  企業年金(自社年金)の廃止について
  自社年金の支給停止に関して、名古屋学院事件判決(名古屋地判平三・五・三一  労判五九二号四六頁、名古屋高判平七・七・一九  労判七〇〇号九五頁)、幸福銀行事件判決(大阪地判平一〇・四・一三  労判七四四号五四頁)、朝日新聞社事件判決(大阪地判平一二・一・二八  労判七八六号四一頁)がある。
  このうち朝日新聞社事件は、受給権者の非行行為による支給停止の事件である。判決は、労働者の無拠出によるものなので恩恵的な制度ではあるが、年功報償的性格も有しており、就業規則に明文化され労働契約の内容となっていることから受給権が発生しており、受給資格の剥奪は支給停止条項が労働契約の内容となっている場合に限られるとした。その上で、年金受給者にその雇用期間中の功績を無にするほどの不祥事があった場合には、年金の支給を停止できるとして、支給停止を認めた。
  後の二事件は、経営環境の悪化を理由とした支給停止の事件である。名古屋学院事件は、基金の赤字増大と学院の財政逼迫を理由に、就業規則の改定により自社年金の廃止・年金額の凍結と退職時における一時払いへと変更したことに対して、労働者が旧規定に基づいて年金の受給ができる地位の確認を求めたものである。判決はまず、職員の拠出分が含まれており、支給条件が明確化されていて功労報償的性格が希薄であることから、年金受給権の権利性が強いとし、過去の労働との関連において支払われる点で退職一時金と同様の性格を有するとした。その上で就業規則の不利益変更には高度の必要性に基づいた内容であることが必要であるとして、本件では経営上の必要性があり、代償措置も講じられていることから変更に合理性があると判断した。
  幸福銀行事件は、退職一時金に加えて設けられていた終身の退職年金について、経営悪化を理由として、規定中に含まれていた訂正変更条項に基づき、規定額の三倍程度支払われていたものを規定額通りに減額したことに対して、退職者などが従前の支給基準に基づいて退職年金の支払いなどを求めたものである。判決は次のように判断した。退職年金は就業規則に規定されているので、恩恵的な福祉年金として任意に支払われるものではなく支払義務のある退職金の一部である。ただしそれは規定額にとどまる。この退職年金は、賃金の後払的性格は希薄であって、功労報償的性格が強い。規定額を越える部分は、退職時に年金通知書を交付することで終身の支給を約束したものというべきであるが、通知書には訂正変更条項が明記されており、受給権者もそれを認識しており、退職年金は功労報償的性格が強く、規定額を越える部分は恩恵給付的性格が強いので、訂正変更条項は有効である。ただし受給権者には期待も発生しているので、自由に改定はできず、一定の合理性と必要性が要求される。本件については経営悪化していたので合理性と必要性が認められる。
  これらの判決に対しては、経営上の必要性や、訂正変更条項に労働者が合意していたと考えること等から、判旨に賛成する見解もあるが(63)、受給権者の被る不利益についての考慮がないとして判旨に反対する見解もある(64)

3  検    討
  自社年金の支給停止について、右各判決が受給権者の受給権を承認していること、そして不利益変更には高度の必要性を要求していることにおいて、受給権保護に向けた判断も見られる。しかし、それ以外の点では不十分な面が多い。そこで右の問題を合州国法理を参照して考えてみたい。合州国法理は日本とは異なった背景から生み出されてきたものではあるが、問題状況は類似しているとも言えるからである。

  (1)  制度化が権利保障の前提
  ERISA法が作り出した成果の一つとして、使用者によるプログラムであったものを法的実体としたことがあげられている(65)。ここに示されているように、制度化することが権利保障の前提である。右の各判決においても、就業規則(ないしそれと同視できる規定)によって支給条件が明確になっている場合には受給権が承認されている。問題は、明文化されていない労働契約上の合意の場合である。合州国においてもERISA法制定以前は書面を要求する規定はなかった。しかしその上で、労働契約上の合意を保護するために、前述のような州法が展開していたのである。もちろん、合意が証明できるか否か、証明責任が誰にあるのかの問題は残るとしても。この点で、幸福銀行事件判決が、就業規則に規定されている以上の給付を、恩恵給付的性格が強いとして保護の対象から除外している点は疑問である。それが労働契約上の合意の内容となっているのであるならば、合州国法のようにそこから受給権の保護の課題がでてくるのである。

  (2)  年金制度の独自性
  右の各判決はいずれも、退職年金が後払賃金の性格をもっているか否かを検討しており、名古屋学院事件判決では、過去の労働との関連において支払われるので後払賃金と、幸福銀行事件判決では、退職一時金も別にありその額も低額ではないことから功労報償的性格が強いとしている。しかし、後払賃金論は退職一時金を念頭においた議論である(66)。退職年金は退職一時金とは切り離して独自の制度としてその法的性格を検討していくべきであり、幸福銀行事件判決のように退職一時金があるので功労報償的性格が強く、退職年金は削減されてもよいという論理は成り立たない。また、合州国のように、更に名古屋学院事件において原告が主張したように、信託法理の適用も検討されるべきである。

  (3)  廃止の合理性
  右の各判決は、退職年金制度を退職金と同視するところから、使用者の経済的理由からの制度廃止には高度の必要性が必要であるとし、受給権者の非行を理由とした廃止にも支給停止条項がある場合であり、かつ雇用期間中の功績を無にするほどの不祥事があった場合にのみ認めている。しかし既に指摘があるように、高度の必要性として検討されるのは経営上の必要性についてのみであり、受給権者の被る不利益は検討されていない。合州国の場合には、制度内容をあまりよく知らない者(したがって受給権者)の意図に従って契約内容を解釈するか、あるいは受給権者の合理的期待論から解釈しており、禁反言による救済も行われている。また、それぞれの判断基準について精緻化も進んでいる。合理性判断は決して経営上の必要性からのみ検討されるべきではない。

  (4)  訂正変更条項の効力
  幸福銀行事件判決は、訂正変更条項を根拠として使用者が自由に改定することはできず合理性と必要性が要求されると述べつつも、実際には経営上の必要性から判断し、他方で規定額以上を支給する旨の労使間合意の存在を認定しながらも減額措置を認容した。これは、労使間の合意よりも訂正変更条項を優先させた判断であると言わざるをえない。合州国でもかつては同様の立場であったが、現在では、労使間で終身給付の合意があれば、訂正変更条項があったとしても継続給付が認められることもありえるのである。また議論としては、このような条項を無効と解するべきであるとの見解や、受給権者に対する代替措置を認めることも含んだ明確な内容であることが必要であるとの見解、使用者に経済的必要性について立証責任をおわせ、削減する場合には段階的縮減をするべきであるとする見解が出されているが、これらは日本においても同様に主張できるであろう。

  (5)  社会保障制度との関係
  最後に、公的な社会保障制度との関係も視野にいれて検討する必要がある。合州国においても、企業年金制度における権利保障は、国民からの社会保障制度拡大の要求を緩和するための側面も有していると指摘されている(67)。これは日本についても当てはまり、公的年金制度との関係で当該退職年金がいかなる位置を占めるのかの検討が必要である。

(1)  現在の判決においては、賃金の一方的引き下げは経営危機を理由としても許されないし、就業規則の不利益変更についても高度の必要性が必要である。
(2)  労働省「平成一〇年賃金労働時間制度等総合調査」。この分析への批判は、佐口卓「序章  企業福祉をめぐる問題」佐口卓編『企業福祉』(一九七三年、至誠堂)七頁を参照。
(3)  橘木俊昭「企業福祉から撤退し福利厚生費を賃金で支払うべき」企業福祉四六三号(一九九八年)二六頁。
(4)  桐木逸朗「福利厚生費の賃金化・福利厚生からの撤退は労使双方と社会に大きな禍根を残す」企業福祉四六八号(一九九八年)三九頁。
(5)  桐木逸朗・統計研究会編『変化する企業福祉システム』(一九九八年、第一書林)。
(6)  この動きは社会保障制度改革とも連動している。つまり、社会保障の削減を前提として、削減された社会保障を企業の福利厚生によって補うことをねらい、企業が肩代わりしても福利厚生の費用総額が際限なく増大することのない仕組みを整えることも目的としている。
(7)  近年、企業年金に関して各国の法制度についての研究が発表されている。國武輝久「アメリカにおける企業年金制度の概要」季労一六六号(一九九三年)一二四頁以下、行澤一人「英国における企業年金法の現代的展開」神戸法学雑誌第四四巻三号(一九九四年)五五五頁以下、村中孝史「ドイツ企業年金法の史的研究ー贈与概念、終身定期金概念との関連を中心にー」法学論叢一三六巻四・五・六号(一九九五年)二三一頁以下、同「ドイツにおける企業年金の現代的諸相」民商法雑誌第一一二巻一号(一九九五年)一頁以下。
(8)  Pub. L. No. 93-406, 88 Stat. 832 (1974), 29 U.S.C. § 1001 (1994).
(9)  ERISA § 3 (1) 29 U.S.C. § 1002 (1) (1994).
(10)  「制度」、「被用者」等の要件上の問題点については、Peter J. Wiedenbeck, ERISA's Curious Coverage, 76 Wash. U.L.Q. 311 (1998) 参照。
(11)  §§ 101 et seq, 29 U.S.C. §§ 1021 et seq. なお、小櫻純「米国従業員退職所得保障法の開示制度」信託一八七号(一九九六年)一五頁以下、参照。
(12)  §§ 201 et seq, 29 U.S.C. §§ 1051 (1994) et seq.
(13)  §§ 301 et seq, 29 U.S.C. §§ 1081 (1994) et seq.
(14)  §§ 401 et sea, 29 U.S.C. §§ 1101 (1994) et seq.
(15)  §§ 501 et seq, 29 U.S.C. §§ 1131 (1994) et seq.
(16)  §§ 4001 et seq, 29 U.S.C. §§ 1301 (1994) et seq. なお、小櫻純「企業年金保証制度の研究」信託一八八号(一九九六年)四頁以下、久保知行『退職給付制度の構造改革ー受給権保護を中核として』(一九九九年、東洋経済新報社)参照。
(17)  法目的は、ERISA § 2, 29 U.S.C. § 1001 (1994) に記述されている
(18)  George Lee Flint, Jr, ERISA:Reformulating the Federal Common Law for Plan Interpretation, 32 San Diego L. Rev. 955, 978 (1995).
(19)  JAY CONISON, EMPLOYEE BENEFITS PLANS (1998) at 72.
(20)  UNITED STATES CHAMBER OF COMMERCE, 1997 Employee Benefits Report, reprinted in MARK AROTHSTEIN & LANCE LIEBMAN, EMPLOYMENT LAW 456 (4th ed. 1998). 日経連の統計とも同じだが、この費用の中には公的な社会保障や失業保険などに関する負担も含まれている。本稿では従業員給付の実態についての検討は省略するが、國武輝久「従業員給付をめぐるアメリカの問題状況」季労一五九号(一九九一年)一一七頁以下、岡崎淳一『アメリカの労働』(一九九六年、日本労働協会)など参照。
(21)  仲野組子『アメリカの非正規雇用』(二〇〇〇年、青木書店)参照。
(22)  The Nation, January 24, 2000 at 6.
(23)  非正規従業員に対する福利給付の問題については、Mark Berger, The Contingent Employee Benefits Problem, 32 Ind. L. Rev. 301 (1999). KATHLEEN BARKER & KATHLEEN CHRISTENSEN eds., CONTINGENT WORK (1998) 参照。なお非正規従業員の数について、労働統計局の一九九五年調査は、全労働力の二・四%−四・九%を占めると推定しているが、他の調査では約三割を占めるまでになっていると推定しているようである。
(24)  Earle K. Shawe and Mark J. Swerdlin, You Promised! − May an Employer Cancel or Modify Employee Severance Pay Agreement, 44 Md. L. Rev. 903 (1958), また、包括的には Shyam Das, Fringe Benefits, THE COMMON LAW OF THE WORKPLACE−THE VIEWS OF ARBITRATORS (ed. by THEODORE J. St. ANTOINE, 1998).
(25)  DARIEN A. McWHIRTER, YOUR RIGHTS AT WORK (2nd ed., 1993) at18-24.
(26)  この問題に係わって企業年金について研究したものとして、井村真己「アメリカにおける企業年金の受給権保護をめぐる諸問題ーERISA五一〇条の制定意義とその限界ー」六甲台論集(法学政治学篇)四三巻三号(一九九七年)二一頁以下、福利給付のうち退職者医療給付について研究したものとして、大原利夫「米国における退職者医療給付改廃権をめぐる判例法理の動向(上)・(下)」労旬一四五一号(一九九九年)二〇頁以下・労旬一四五二号(一九九九年)二四頁以下がある。
(27)  LEWIN G. JOEL III, EVERY EMPLOYEE'S GUIDE TO THE LAW (1993) at 102-103.
(28)  詳しくは、ABA SECTION OF LABOR AND EMPLOYMENT LAW, EMPLOYEE BENEFITS LAW (1991) at 944-989 参照。
(29)  Note, Pension Plans and the Rights of the Retired Worker, 70 Colum. L. Rev. 909, 916-274 (1970).
(30)  Flint, supra n. 18.
(31)  CONISON, supra n. 19 at 56.
(32)  Flint, supra n. 18.
(33)  合州国においてリストラは、現実にはリストラ計画(Downsizing Program)に基づいて行われている。ETHAN LIPSIG, DOWNSIZING LAW AND PRACTICE (1996) 参照。リストラ計画とは、会社内部の方針書ではなく、リストラの必要性を述べ、具体的なリストラ対象部門を確定し、リストラ対象者選定基準を設定し、不服申立制度を作り、全ての法的権利を放棄することを条件にした退職手当の支給を約束する内容の文書であり、従業員に交付されるものである。このような書面の交付は、退職金制度創設についてはERISA法上の情報開示要件を充たすことになり、権利放棄については年齢差別禁止法上の「周知」の要件を充たすことになる。問題となるのは、退職手当を受給する前提として、法律上の全ての権利を放棄することを従業員に求めている点である。これに対して裁判所は、一九六四年公民権法第七編 42 U.S.C. § 2000e (1994)、年齢差別禁止法 29 U.S.C. §§ 621-634 (1994)、そして契約法上の審査を行い、違法であるとの判断を示している。Alfred W. Blumrosen, Ruth G. Blumrosen, Marco Carmignani and Thomas Daly, Downsizing and Employee Rights, 50 Rutgers L. Rev. 943 (1998) 参照。
(34)  29 U.S.C. § 1144 (a).
(35)  HENRY H. PERRITT, Jr, YOUR RIGHTS IN THE WORKPLACE (1993) at 53.
(36)  判決ではたとえば、Anderson v. Great W. Life Assurance Co., 942 F. 2d 392, 394 (6th Cir, 1991)、学説ではたとえば、Michael I. Richardson, Employee Benefits Law:Securing Employee Welfare Benefits Through ERISA 61 Notre Dame L. Rev. 551, 556 (1986), Flint, supra n. 18 at 967.
(37)  Flint, supra n. 18 at 989.
(38)  Richardson et al, supra n. 36.
(39)  Anderson v. Great W. Live Assuarance Co., 942 F. 2d 392, 394 (6th Cir, 1991).
(40)  Hansen v. Continental Ins. Co., 940 F. 2d 971, 982 (5th Cir. 1991).
(41)  Curtiss−Wright Corp. v. Schoonejongen, 514 U.S. 73 (1995).
(42)  Firestone Tire & Rubber Co. v. Brush, 489 U.S. 101 (1989).
(43)  McGann v. H & H Music Company, 946 F 2d 401 (5th Cir. 1991).
(44)  Hamilton v. Air Jamaica, Ltd., 945 F. 2d 74 (3rd Cir. 1991).
(45)  Bixler v. Central Pa. Teamsters Health & Welfare Fund, 12 F. 3d 1292 (3rd Cir, 1993).
(46)  Alday v. Container Corp. of America, 906 F. 2d 660 (11th Cir. 1990).
(47)  Inter−Modal Rail Employees Association v. Atchison, Topeka & Santa Fe Railway Co., 117 S. Ct. 1513, 1516 (1997).
(48)  Henry H. Rossbacher, James S. Cahill and Linda L. Griffis, ERISA's Dark Side:Retiree Health Benefits, False Employer Promises and The Protective Judiciary, 9 Depaul Bus. L. Rev. 305, 310 (1997).
(49)  Carl A. Greci, Use It and Lose It:The Employer's Absolute Right Under ERISA Section 510 To Engage in Post−Claim Modification of Employee Welfare Benefit Plan, 68 Ind. L.J. 177, 191 (1992).
(50)  Degra Y. Carlascio, Reading the Fine Print:The Effect of Disclaimers on Employee Welfare Plans, 1991 Colum. Bus. L. Rev. 387, 402 (1991).
(51)  Blumrosen et al, supra n. 33 at 1031.
(52)  Catherine L. Fisk, Lochner Redux:The Renaissance of Laissez−Faire Contract in the Federal Common Law of Employee Benefits, 56 Ohio St. L. Rev. 153, 155 (1995).
(53)  Massachusetts Mutual Life Ins. Co. v. Russell, 473 U.S. 134 (1985).
(54)  Varity v. Howe Corp., 116 S. Ct. 1065 (1996). この判決に対して、「故意の欺罔(deliberate deceit)」でないと認めないかもしれない、として判決の射程範囲に疑問を呈する見解もある。Henry H. Rossbacher, James S. Cahill and Linda L. Griffis, ERISA's Dark Side:Retiree Health Benefits , False Employer Promises and The Protective Judiciary, 9 Depaul Bus. L. Rev. 305, 337 (1997).
(55)  Carlascio, supra n. 50 at 410.
(56)  Blumrosen et al, supra n. 33 at 1032.
(57)  Greci, supra n. 49 at 197.
(58)  拙稿「福利厚生施策と受給権保護の課題」『講座二一世紀の労働法  第七巻  健康・安全と家庭生活』二六三頁以下。
(59)  昭二二・九・一三発基一七号。
(60)  有田謙司「退職金・企業年金と受給権の保護」河野正輝・菊地高志編『高齢者の法』(一九九七年、有斐閣)九七頁以下も受給権の保護に向けた検討を行っており参考となる。
(61)  女性について男女雇用機会均等法第十条、パートタイマーや介護労働者について短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第三条、介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律第三条、中小企業労働者について中小企業における労働力の確保のための雇用管理の改善の促進に関する法律第三条、第四条、地域について地域雇用開発等促進法第六条
(62)  布目組事件・名古屋地判平七・一・二四判時一五三四号一三一頁、東京大林計器事件・東京地判平七・一一・二七判タ九一一号一二一頁、田中技建事件・東京高判平七・一二・二五・労旬一三八一号四七頁、東映視覚事件・青森地裁弘前支判平八・四・二六判時一五七一号一三二頁、パリス観光事件・山口地裁宇部支判平九・二・二五労判七一三号五二頁、日本エルシーコンサルタント事件・名古屋地判平九・五・一二労判七一七号一九頁、秋田運輸事件・名古屋地判平一〇・九・一六判時一六五六号一四七頁、パリス観光事件・広島高判平一〇・一二・一四労判七五八号五〇頁、東海ベントナイト化工事件・名古屋地判平一〇・一二・一六労判七五八号三六頁、世良工業事件・大阪地判平一一・三・一八労判七六二号二八頁、秋田運輸事件・名古屋高判平一一・五・三一労判七六四号二〇頁、赤武石油ガス事件・盛岡地遠野支判平一二・三・二二労判七八三号五五頁。
(63)  中原正人「経営環境の悪化を理由とする退職年金の減額措置の合理性」労働判例七五五号(一九九九年)七頁以下、大内伸哉「退職者に対する退職年金上積支給の撤回措置が有効とされた例」ジュリスト一一五四号(一九九九年)一三七頁以下。
(64)  名古屋学院事件につき、片桐由喜「企業年金規定(就業規則)の不利益変更における合理性の判断基準」賃金と社会保障一〇八八号(一九九二年)四六頁以下、幸福銀行事件につき、有田謙司「経営悪化を理由とする変更条項に基づく企業年金(自社年金)の減額措置の有効性」ジュリスト一一五七号(一九九九年)二一五頁以下、藤原稔弘「退職年金の上積支給部分の訂正変更条項に基づく一方的減額措置の効力」法律時報七一巻一二号(一九九九年)一一八頁以下。
(65)  CONISON, supra n. 19 at 2.
(66)  山下昇「経営悪化にともなう企業年金の減額措置の適法性」法政研究六六巻一号(一九九九年)三六一頁以下。
(67)  Lorraine A. Schmall, Keeping Employer Promises When Relational Incentives No Longer Pertain:Right Sizing and Employee Benefits, 68 Geo. Wash. L. Rev. 276, 298 (2000).