立命館法学 2000年3・4号下巻(271・272号) 1037頁




障害者の参政権保障と関連諸サービスの提供

− 障害者の参政権保障のための投票所調査の結果から −


山本 忠


 

は  じ  め  に

  京都府下の障害者団体の関係者や研究者などで構成する「障害者の参政権保障を考える研究会」は、一九九四年の全国障害者問題研究会京都大会のシンポジウム企画をきっかけに結成され、知的障害者の発達保障の新たな展開と可能性に注目する中で、さらにすべての障害者に国民の基本的な権利である参政権が保障されるためにはどのような社会的対応が求められているのかを学習してきた。一九九五年七月二三日の参議員選挙という国政選挙を前にして、この機会になんらかの社会的行動を展開することが必要であるという認識から、同研究会では投票所の調査活動をおこなうことにした。投票所の整備は、参政権のうちでも中心的な権利である投票権の保障にとって重要なものであり、その全体状況については選挙管理委員会などでも必ずしも統一的に把握されていないことがわかったからである。
  実施に当たっては、京都新聞で広報していただいたり、全国障害者問題研究会京都支部の会員や京都府共同作業所連絡会の関係者など多くの方々の協力と賛同を得て、この調査を実施することができた。
  本稿では、この調査の結果をまとめるとともに、障害者の参政権保障を進めるうえで、どのような社会的サービスが整備されるべきなのかについて若干の考察をおこないたい。

一、調  査  方  法


  この調査の方法は二種類に分かれる。一つは、調査協力者が実際に投票所におもむき、調査票の点検項目について、自分で確認して記入するという方式で行われたものである。この場合、自分で見て確認したとおりを記入してもらうということを想定していたが、調査協力者のなかには、係員に直接質問し、確認した上で記入した方もいた。この点について、調査を企画する時点で考えたのは、係員に直接聞くことまでを調査協力者に期待するのは困難であり、むしろより多くの投票所の実態を知るためには、調査協力者が気楽にできる方法を取ったほうがよいのではないかと考えたことと、一般市民が普通の市民の感覚で見て感じたままを調査に反映させるには、それでもよいのではないかと考えたということがある。しかし、投票所の運営がどのように行われているのかをより正確に知るためには、後者のように係員に直接聞く方が望ましいことはいうまでもない。ここでは、どちらの方法で行われたのかを区別せずに、両者を含めて集計している。
  もう一つの調査方法は、視力に障害をもつ方々に電話で聞き取りするという方法で行われた。これは、自分の目で投票所の状況を把握することはできないが、普段選挙の投票の際に感じていることやどのようなニーズを持っているのかをつかむということが重要だと考えたからである。

二、回収標本数


  この調査で回収された標本数は、全部で三〇三件であった。ただし、これは調査票自体の数字であって、投票所の数ではない。複数の人が、同一の投票所について記入している場合もあるからである。ここでは、障害者問題に関心のある市民の目から見て、現在の投票所の状況がどのように映っているのかを知りたいということから、調査票の数で集計してある。同じ投票所でも見る人によって、あるいは上記のように調査方法によって捉え方が異なっていると考えられるからである。したがって、この調査では、厳密な投票所の実態調査というよりも、そこを利用する市民の意識調査としての側面も含まれていることになる。
  調査した投票所の所在地は、京都府内のほぼすべての市町村に及んでいる。簡潔にその内訳を整理するために、市と郡ごとに分類した数字を表1に掲げる。なお、表中の「京都府以外」の欄には、滋賀県、大阪府、兵庫県のいくつかの地方自治体も含まれている。

表1・投票所データ

市及び郡調査件数
綾部市4
宇治市51
亀岡市6
宮津市22
京都市122
城陽市4
長岡京市5
福知山市10
舞鶴市11
向日市1
八幡市8
天田郡1
乙訓郡3
北桑田郡2
相楽郡12
竹野郡9
綴喜郡2
中郡4
船井郡4
熊野郡1
与謝郡3
京都府以外8
不明10
303

 

三、障害者専用駐車場

  まず、障害者専用の駐車場の設置がおこなわれているかどうかを点検した。表2に示されているように、投票所として使われている施設のほとんどに、障害者専用の駐車場は存在しない。設置されているのは、三〇三件中二八件(約九・二%)のみである。ここで障害者専用駐車場があるのはどのような建物かを見ると、多くの場合、市役所や役場、公民館などである。これらの施設・建物は、通常、障害者を含む多数の市民が出入りするところであり、障害者専用駐車場が設置されているのが当然といえる施設・建物ばかりである。
  この調査票には、調査協力者の方々のコメントが多数記入されているので、それを読むとさらにわかってくることがある。それは、設置されているという回答にチェックした場合でも、調査協力者の独自の判断でそうしている場合があるということである。すなわち、「駐車しようと思えばできるという意味」にすぎない場合や「専用ではないが広い駐車場がある」場合でも、専用駐車場があると回答しているものもあるのである。また、専用駐車場がある場合でも、「少し遠い」場所にある場合もある。
  では、逆に障害者専用駐車場が無く、投票所として使われている施設は、どのようなところであろうか。そのほとんどが地域の小学校である。これは、通常の小学校では、児童・教職員に限らず、来客者にも、障害者専用駐車場を必要とする者がいるという可能性がほとんど想定されていないか、あるいは専用の駐車場がなくても十分間に合うと考えられていることを意味するであろう。
  ここで、考えておきたいことがある。それは、なぜ障害者のために「専用」の駐車場が必要かということである。障害者問題に多少関心があると思われるこの調査の協力者のなかにも、調査票の欄外へのコメントで、「専用ではないが、車を止めるところはいくらでもある」とか「駐車場はあり広い」、「通常の駐車場でよい」等々の意見を記された方がいた。しかし、本当にそうなのだろうか。
  例えば、車いすの使用者が、一人で雨の中を障害者用に改造された自動車で、投票所に来た場合を考えてみよう。駐車スペースは確かにある。しかし、出入り口の近くには既に他の車が停められている。仕方がないので、入口から離れた空きスペースに車を停めた彼(彼女)は、車を降りて、雨の中を濡れながら投票所の入口に向うことになるのである。車いすの利用者にとっては傘をさして移動するということはとても困難なことであり、まして雨でぬかるんだ道を車いすで進むのは大変な労力が必要なことなのである。したがって、障害者専用の駐車場は、その施設のアクセスに最も便利な出入り口に最も近い場所に確保される必要がある。また、普段、そうした障害をもつ人々がアクセスしないと想定されていると思われている小学校のような施設でも、公共的な用途に用いられる施設である限り、あらゆる人々のアクセスを可能にするために、障害者専用駐車場は必要である。そこが投票所として使われる場合にのみ必要だというのではなく、障害者が何らかの理由で公共的な施設に出入りしなければならない状況は常に発生する可能性はあるのであり、そのアクセスは日常的に保障されるべきだからである。ノーマライゼーションの理念を実現するためには、そうした配慮が不可欠なのである。
  また、有権者の規模が小さい投票区では、公民館など小規模の公共施設が投票所として用いられることが多いが、こうしたところではそもそも駐車場が無いところもあり、一般有権者も路上駐車して投票に来るということであるが、このような施設を会場に設定すること自体、現実にはやむを得ないことなのかもしれないが、問題があるといえるだろう。

表2・障害者専用駐車場の有無

市・郡あるない無回答
綾部市031
宇治市3425
亀岡市150
宮津市4171
京都市139811
城陽市022
長岡京市041
福知山市0100
舞鶴市0110
向日市010
八幡市080
天田郡010
乙訓郡120
北桑田郡110
相楽郡1111
竹野郡081
綴喜郡110
中郡040
船井郡040
熊野郡001
与謝郡030
京都府以外080
不明361
2825025


四、建物のスロープ


  投票所の出入り口への車いす用のスロープの設置が行われているかどうかについては、表3にまとめたように、全体で一〇四件(約三四%)で設置が確認されている。京都市で見ると一二二件中五九件(約四八%)で設置が確認されている。また、一九九五年八月二二日付けの京都新聞は、京都市内の二七七投票所のうち全体の三分の一以上で、段差のために自力で車いすで入れないという京都市選挙管理委員会のまとめを報道している。逆に言えば、約六割の投票所では車いすでの自力の入場が可能であるということであるが、京都市選管のまとめた数字には、仮設スロープで対応されている場合も含まれているために、我々の調査よりも高い割合になっているものと思われる。我々の調査では、さらに次のような状況が確認されている。
  ●  投票所にスロープが設置されている場合でも、入口一か所のみにしかない。この場合、投票をすませた車いす利用者は、また入口に戻ることになる。逆に出口のみにしかない場合もある。
  ●  スロープのある箇所が、入口とは別のところになっている。この場合、投票所の入口から入ることができないので、一般者とは別に裏に回って入る必要がある。
  ●  スロープがあることはあるが、急勾配のために自力では登ることができない。特に雨が降ったら無理である。
  ●  仮設スロープが用意されているが、壁に立てかけてあった。(係員の話しでは、この地域には車いすの人がいないからということであった)
  ●  投票所になっている建物(体育館や講堂など)にはスロープがあるが、校門から投票所まで車いすで行くことが難しい。
  ●  逆に校門にはスロープがあるが、投票所になっている施設にはないため、係りの人が二人で持ち上げるように している。

  このように車いす用のスロープが恒久設置されていない場合が多いが、こうした状況に対して、行政側(京都市選挙管理委員会)は、段差の前に物理的に設置スペースがないこと、代替施設がない地域もあることから自力で入れる投票所を一〇〇%にすることは無理であるという認識を示している(前記京都新聞)。現状でも係りの応待によって人力で対応できるということであろう。しかし、実際には、調査協力者のコメントにもあったのだが、投票所とされている施設にスロープがなく、車いすで入ることが困難なために、理由を偽って、不在者投票で選挙をすませている人もいるということである。車いす利用者が他人に気がねすることなく自由にアクセスできる施設環境の整備が早急に望まれる。

表3・車いす用スロープの設置

市・郡あるない無回答
綾部市130
宇治市15333
亀岡市240
宮津市5170
京都市59567
城陽市220
長岡京市212
福知山市091
舞鶴市1100
向日市010
八幡市071
天田郡100
乙訓郡111
北桑田郡020
相楽郡381
竹野郡180
綴喜郡110
中郡130
船井郡130
熊野郡001
与謝郡030
京都府以外170
不明721
10418118



五、手話通訳者の配置


  手話通訳者が投票会場に配置されているかどうかについては、表4にまとめたように「ある」という回答は五件(約一・七%)のみであった。「ある」という場合も有資格の手話通訳者が配置されているわけではなく、たまたま、投票所に配属された自治体の職員に手話ができる人がいたということである。調査協力者のコメントにもあったが、多くの場合、筆談などで対応できるため、あまり聴覚障害者にとってハンディになるとは考えられていないようである。しかし受け付けで有権者であることを証明するハガキを提示した後、本人確認のために生年月日を尋ねられることが多いはずであるが、この場合も筆談で対応しているということであろうか。このときにトラブルが起きたことはないのであろうか。調査協力者である聴力障害者本人のコメントには、口頭で尋ねるだけでなく、メモを示して欲しいという要望も見られた。
  手話通訳者の人数にも限りがあると思われるので、すべての投票所に一人の手話通訳者を配置するようにという要求は実現困難かもしれないが、聴覚障害者の自尊心を損なわないような応待が望まれるところである。

表4・手話通訳者の配置の有無

市・郡あるない無回答
綾部市022
宇治市13812
亀岡市051
宮津市0193
京都市28436
城陽市031
長岡京市032
福知山市163
舞鶴市065
向日市010
八幡市143
天田郡010
乙訓郡021
北桑田郡020
相楽郡0102
竹野郡063
綴喜郡011
中郡031
船井郡040
熊野郡001
与謝郡030
京都府以外071
不明082
521880




六、候補者名の点字表示


  候補者名の点字表示については、おこなわれているところが、五六件(一八・五%)確認されている。これには表示されているわけではないが、点字の名簿が用意されている場合も含んでいる。また「ない」という場合でも視覚障害者が来た場合にその都度示すという場合もあるようである。京都市の場合は視覚障害者から請求があれば点字の候補者名の用紙を手渡すという形式をとっている。また京都市以外の場合は、府の選挙管理委員会から点字の候補者名簿がくるので、それを利用しているということである。このように一般有権者にはわからないが、候補者名の点字表示については、各選挙管理委員会によってそれなりに対応がされているようである。

表5・候補者名の点字表示

市・郡あるない無回答
綾部市031
宇治市19248
亀岡市150
宮津市1183
京都市218120
城陽市220
長岡京市221
福知山市172
舞鶴市092
向日市010
八幡市341
天田郡010
乙訓郡021
北桑田郡020
相楽郡282
竹野郡270
綴喜郡110
中郡040
船井郡040
熊野郡001
与謝郡030
京都府以外071
不明172
5620245


七、弱視者用の特別照明の設置


  弱視者が文字を読んだり書いたりする場合には、通常の照明よりも明るい特別の照明が必要となることがある。そうした器具が投票所に準備されているかどうかを尋ねた設問であったが、表6にまとめたように「ある」という回答は七件(二・三%)にすぎなかった。そうした障害を持つ人はたしかに少数なのかもしれないが、こうした設備がないために実際に困ったという経験を持つ方々のコメントが調査協力者の中にはあった。そうした人々は、自分でなんとか対応できる場合には、自分で灯りが当たるようにして記入しているということであった。また自分で対応できない場合には代理投票制度を用いているということであった。弱視障害をもたなくても、人口の高齢化が進むと視力が

表6・弱視者用特別照明

市・郡あるない無回答
綾部市031
宇治市04011
亀岡市060
宮津市3163
京都市310415
城陽市031
長岡京市032
福知山市091
舞鶴市0110
向日市010
八幡市071
天田郡010
乙訓郡120
北桑田郡011
相楽郡0102
竹野郡081
綴喜郡020
中郡040
船井郡040
熊野郡001
与謝郡030
京都府以外071
不明0100
725541




衰えてくる人が多い。現在一般にみられる投票用紙の記載台には照明設備がないため、手もとが暗くなり不便を感じている人も実際には多いのではないかと考えられる。今後そうした照明設備への配慮がますます求められてくるだろう。

八、車いす用の低い投票用紙記載台の設置


  通常投票所でみられる投票用紙記入台は、成人が立った状態で記入することを想定しているため、記載台がかなり高いものである。このため、車いす利用者や背の低い人(高齢者や障害者)、あるいは身体障害などのために立ちながらでは安定して文字を書くことができない人には使用しにくいものである。低投票用紙記載台が設置されているかどうかという状況をまとめたのが表7である。「ある」が一一三件で、三七・三%の割合いで設置されている。これ
は投票所の係員に尋ねなくても、会場をぱっと見渡しただけでも確認できるため、実情に近い数字を示しているものと思われる。
  調査協力者のコメントを見ると、「ある」と回答してある場合でも、隅の方に一応用意されてはいるがそのままでは利用できない状態にある場合や、係りに請求して車いすで文字を書くことのできる机を出してもらった場合が含まれている。またせっかく低い台があっても一方通行になるように通路を狭くしているために、車いすで通れないような状況になっている投票所もあるということである。「ない」という場合でも、一応準備だけはされていて、請求があればその都度出すようにしているところもあるということであった。
  実際の会場運営では、ケースに応じて臨機応変に対応がなされているものと思われるが、各投票所に最低一台はそうした低い投票用紙記載台が設置されていることが望ましいであろう。

表7・低投票用紙記入台の設置

市・郡あるない無回答
綾部市031
宇治市29184
亀岡市240
宮津市6142
京都市644513
城陽市310
長岡京市140
福知山市091
舞鶴市1100
向日市100
八幡市053
天田郡100
乙訓郡120
北桑田郡020
相楽郡282
竹野郡081
綴喜郡011
中郡040
船井郡031
熊野郡001
与謝郡030
京都府以外080
不明271
11315931




九、代理投票制度の運用


  公職選挙法は「身体の故障又は文盲により、自ら当該選挙の公職の候補者の氏名を記載することができない選挙人は、……投票管理者に申請し、代理投票をさせることができる」(第四八条一項)と規定している。この制度は、文盲率が低くなった現代においても、投票の意思をもちながら障害によって自ら記載することができない人にとっては、参政権を保障する重要なものである。この制度自体は法に基づくものであるから全国どこの投票所でもできて当然のものであるはずである。しかし投票所でその対応がきちんとされているかどうかについては、投票所をぱっと見渡しただけでは確認できるものではないにしても、調査協力者の目にはとりあえずどのように映ったのかを、今回の調査結果から推測できるのではないかと考えられる。
  最も多いのが「わからない」の一七八件(五八・七%)であるが、これは先に述べたように見ただけではわからないことであるからいたしかたない数字であるといえるだろう。一方で、対応がきちんとされて「いる」という回答は九一件で三〇・〇%であった。この場合は、調査協力者が積極的に係員に質問してもらえたものだと思われる。制度を知っている職員であれば「対応ができている」と答えて当然だからである。この数字をどのように評価するかであるが、予想した以上に多いと言えるだろう。それは、調査協力者への依頼には、できる範囲でわかったことを記入してもらえるように頼んだにすぎず、係員に積極的に質問してほしいとまでは頼んでいなかったからである。このような調査協力者のていねいな対応は、本調査の信頼性をそれだけ増すものとして、受けとることができるであろう。


表8・代理投票制度への対応

市町村名あるないわからない無回答
綾部市0040
宇治市141351
亀岡市1131
宮津市42160
京都市457673
城陽市3010
長岡京市3011
福知山市6040
舞鶴市2261
向日市0010
八幡市2060
天田郡1000
乙訓郡2010
北桑田郡1010
相楽郡2442
竹野郡0162
綴喜郡0020
中郡0040
船井郡2020
熊野郡0001
与謝郡0030
京都府以外1061
不明2350
912117813



一〇、係 り 員 の 応 待


  障害をもつ人に対する係員の応待が適切にされていると感じられたか、という設問である。これは、これまで尋ねてきた施設的条件や制度的知識について係員が理解して、運用しているかどうかが、障害者の投票権保障にとっては最終的に重要だと考えたことから設けた設問である。ただ、この設問も先の設問と同様に、実際に係員が障害をもった人に対応しているところに遭遇するか、あるいは自分自身の障害に対して配慮してもらうといった機会がないと正確なところはわからないであろうから、ここでの集計も調査協力者がどのように感じたかということを知る参考として扱うこととしたい。
  表9に示されているように、係員の対応が適切にされて「いる」という回答は、全体で九四件(三一・〇%)である。「わからない」という回答が最も多く、一七四件(五七・四%)である。「わからない」と答えている人のコメントには、「対象者がいない」とか「今回は障害をもった方は来られていない」というものがあった。やはり実際に対応している様子を見ないと答えにくい設問であったために、この回答が最も多くなったものと考えられる。
  なお、調査協力者のコメントによれば、今回のこの調査のために投票所の係員に尋ねたところ、非常に非協力的であったり、威圧的な態度をとったり、官僚的な対応をして答えない場合があったということであるが、そういう人は

表9・係員の対応が適切にされているか

市町村名あるないわからない無回答
綾部市1030
宇治市71403
亀岡市1041
宮津市11290
京都市4510625
城陽市1030
長岡京市4001
福知山市6130
舞鶴市2261
向日市0010
八幡市1070
天田郡1000
乙訓郡2010
北桑田郡1010
相楽郡2271
竹野郡2151
綴喜郡1010
中郡0040
船井郡2020
熊野郡0001
与謝郡0030
京都府以外1061
不明3160
942017415



むしろ例外的であると信じたい。

一一、自 由 記 述 か ら


  調査票の最後に、調査協力者に自由に意見を書いてもらう欄を設けた。ここまでの調査事項になかった点で、障害をもつ人々自身が、実際にどのようなことに不便を感じているのかを理解することができたので、代表的なものを要約的に示したいと思う。
  点字を利用する人に多かった意見に、会場で貸し出してくれる点字定規が利用しにくいというものがあった。貸し出してくれる点字定規が携帯用のものであったりするからだということである。また、点字を打つには、通常の投票用紙記載台は、ぐらぐらして不安定であり、大きな音がするために不適切であるという声がいくつも寄せられていた。さらに、点字利用者が少ない投票区では、誰が点字で投票したかが簡単に判明してしまうのでプライバシーが守られないのではないかという声もあった。点字が利用できるにもかかわらず、代理投票を利用している人もいるということであったが、秘密投票が厳守できて容易に投票できるシステムを新たに考える必要があるのではないかと考えさせられる問題である。
  弱視者を含む視覚障害者にとっては、会場全体の明るさや投票用紙記載台の明るさが気になるところであり、古い施設を利用しているところほど会場が暗いという傾向があるので、補助照明を用いるなどして、なんらかの改善が行われることが望まれる。また、候補者名や政党名が書かれた用紙が小さく、しかも高い場所に掲示してあるのみなので、非常に読み取りにくいということであった。会場が暗い場合にはよけい見にくいということである。大きな文字で投票用紙記載台ごとに掲示が行われ、スポット照明などによって明るさを確保することができれば望ましいであろう。
  視覚障害者に投票用紙を渡すとき、紙の上下や表裏を指示しないで渡されることがあるということである。用紙に工夫をするか、係員に対する指示の徹底が望まれる。また、投票箱に投票用紙を入れるときにも、現在の投票箱の投入口は狭くて小さいのでわかりにくいという声があった。投票箱の改良が必要であるが、係員が特別のハンディをもつ人に対しては、入場から退場まで付き添って、必要な範囲で補助するということが行われれば、障害をもつ人が戸惑うことも減るのではないかと考えられる。
  松葉杖を利用している人や身体障害・視力障害などがある人からの意見で多かったのは、投票所に入るのにスリッパに履きかえなければならない会場は不便であるということであった。体育館などに直接入るような会場では、土足のまま入れるところが多いようであるが、小学校の玄関から普通教室へと入るような会場では、履きかえを求められることが多いようである。スリッパに履きかえること自体にかなりの労力が必要な人たちにとっては、このような会場の設置・運営方式は、それだけ移動の障害を増やすことになるということが理解される必要があるだろう。
  移動の障害ということに関連して多かったのが、自宅から投票所までの送迎システムが欲しいという声だった。投票する意思はあったが、一諸に行ってくれるはずの家族が急用で留守となり、結局選挙に行けなかったという人もいた。在宅で移動が困難な障害者にとっては、投票所まで出かける手段を確保すること自体がそもそも大変である。たしかに在宅の障害者には郵便投票という手段もあるが、手続きが煩雑で利用しにくいという声も多いので、利用手続きについては改善すべきであろう。生活施設や病院にいる場合であれば、そこで不在者投票をおこなうことも可能である。在宅で自力で移動することが困難な障害者の場合には、どのように考えればよいのであろうか。重度であれば郵便投票が利用でき、中軽度であれば送迎サービスを利用できるといった選択が可能になることが望ましいように思われる。
  以上のように自由記述の欄には、非常に具体的な改善すべき問題点が多数寄せられていた。

一二、お  わ  り  に


  今回のこの調査は、最初に述べたように、投票所が障害をもつ人々にとってどのような状況にあるのかを明らかにすることにしぼって実施されたものであった。その結果、京都府下では、障害者の投票権を普通の市民と同等な程度にまで保障するためにはかなり多くの改善すべき点があることがわかった。
  投票所をどのように設置・運営し、障害者に対してどのような便宜供与をおこなうかは、基本的に選挙管理委員会の管轄事項である。投票所の設置・運営の基本的な事項は、自治省からの通達などで大きな枠組があるものの、さらに具体的なことになると都道府県や自治体の裁量でできることが多い。この調査結果から指摘されたいくつかの投票所内における便宜供与も、自治体の選挙管理委員会の側で対応できるものが多い。しかし、選挙は日常的・恒常的な自治体行政の業務ではないことから事務局体制もそれほど整備されているわけでもなく、また財政負担能力にも自治体間で格差があるため、結局は自治体の行政姿勢が反映してしまうということのようである。障害者の投票権保障に理解と実行力があり、財政負担能力のある自治体の選挙管理委員会であれば、この調査で指摘された多くの問題点を改善することはそれほど困難なことではないであろう。
  投票所の設置・運営を超えた問題点についても、この調査では示されたように思われる。例えば、障害者の移動の権利を保障しなければならないのは、なにも選挙の投票日に限ったことではなく、日常的に保障されなければならないことがらである。障害者の投票権保障の前提として、障害者の移動権が保障されている社会的状況が必要なのである。
,0  『平成七年版  障害者白書』(総理府編)のサブタイトルは、「バリアフリー社会をめざして」であった。同書にも指摘されているように「バリアフリー」とは障害のある人が社会生活をしていく上で障壁となるものを除去するという意味であるが、この障壁(バリアー)には、交通機関、建築物等における物理的な障壁にとどまらず、資格制限等による制度的な障壁、点字や手話サービスの欠如による文化・情報面の障壁、障害者を庇護されるべき存在としてとらえる等の意識上の障壁までをも含むものである。障害者の移動権を保障するということは、この物理的な障壁を除去することである。公共交通機関や公共建築物・施設、そして民間建築物やさらには街全体の障壁を除去していかなければならない。
  こうした社会環境全体をつくりなおしていくには、たしかに多くのコストと時間がかかることである。だが、京都市が全国に先がけて、「京都を車いすで自由に歩ける町にしよう」という発想から、一九七六年に「福祉のまちづくりのための建築物環境整備要綱」を策定してから二〇年が経とうとしている。この間に国際障害者年(一九八一年)や「国連・障害者の一〇年」(一九八三−一九九二年)を経験し、一九九三年に改正された障害者基本法にもとづく国レベルでの障害者プランから地方自治体ごとのプランづくりの時代へと移行してきている。障害者が町を車いすで自由に歩ける社会に向かって、京都はどのように変わってきたのか、そしてこれからどのように変わっていくのか。時代の大きな流れの中で地方自治体が具体的にどのように取組みを行い、そしてこれから進めていくべきなのかについて、今後引き続き注視し、検討していきたい。
*  参政権のバリアフリー化を求める当事者の運動は、「障害者と政治参加」(『ノーマライゼーション』一九九九年一一月号、日本障害者リハビリテーション協会)「参政権のバリアフリー」(『季刊・福祉労働』八八号、二〇〇〇年)といった雑誌の特集記事にみられるように、近年ますます拡大し高揚しつつある。二〇〇〇年には、東京と大阪で、現行郵便投票制度(公職選挙法四九条二項)が投票意思をもちながらも投票所に行けない者から投票の機会を奪うものであり憲法違反であるとして、国家賠償請求訴訟が提起されている。こうした障害をもつ人々の主体的自覚的行動が具体的に見られるようになるほどまでに、現行公選法が社会のノーマライゼーション化の課題との矛盾を増してきているのである。
    本調査は、筆者の責任でまとめたものであるが、諸事情のため一部にしか公刊できずに、実施から数年たってしまったものである。しかし、上記のような障害者の参政権をめぐる情勢のもとで、紀要に掲載することに一定の社会的意義があると思われるので、今回投稿することにした次第である。

〈参考資料=調査票〉

障害者の参政権保障のための投票所調査

  この調査は,障害をもつ人々が選挙において投票しやすいように,どれだけ配慮が行われているのか,実情を調べて,今後の改善策を提案していくことを目的にしています。
  以下の調査項目について,投票所の中で確認したうえで,該当する回答に○印をつけてください。

(基礎項目)

0.投票所の所在地を教えてください。
                市町村                区                建物の名前

(投票所の外で)

1.投票所には障害者専用の駐車場はありますか?
                ある            ない
2.投票所の入り口に車いす用のスロープはありますか?
                ある            ない

(投票所の中で)

3.聴覚障害をもつ人のために,手話通訳者は配置されていましたか?
                いる            いない
4.視覚障害の人のために,候補者の名前が点字で表示されていましたか?
                いる            いない
5.弱視障害の人のために,投票用紙記載台に特別の照明がありましたか?
                ある            ない
6.車いすの人のために,高さが低い投票用紙記載台が置かれていましたか?
                いる            いない
7.自分で文字を書くことが不自由な人のために,代理投票の制度がありますが,きちんと対応されているようでしたか?
                いる            いない            わからない
8.障害をもつ人に対して,係りの人の応待は適切にされているようでしたか?
                いる            いない            わからない
9.その他,お気付きの点があったら,自由にご記入ください。

ご協力ありがとうございました。