(1) Esser, J., Grundlagen und Entwicklung der Gefa¨hrdungshaftung, 1941, 2. Aufl., 1969. なお、Esser の危険責任論が既に浦川教授によって詳細に紹介・分析され(浦川道太郎「ドイツにおける危険責任の発展(一)(二)(三・完)」民商法雑誌七〇巻(一九七四年)四五八頁、六〇一頁、七七三頁)、本稿における検討も多くの点でその成果に依拠するものであることは、前述の通りである。
(2) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 69f.
(3) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 71.
(4) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 72f.
(5) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 73.
(6) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 73f.
(7) 危険責任原理の基本的性格を明らかにした上で、Esser は危険責任原理が補うべき課題領域の確定を行う。まず、不法行為責任に該当しない不運損害は、許された侵害に基づく不運損害と許されない侵害に基づくそれに大別される。前者には収容・徴用・差押え・防疫のための身体拘束等の公的侵害、及び、緊急避難・相隣関係上の侵害等の私的侵害が属する。後者は行為者の無能力・無過失・支払無能力・不特定性等によって不法行為責任による救済がかなわず不運に止まるものである。それは更に、((1))行為者の無過失の行為から生じた損害、((2))物、設備、施設の支配領域又は利益領域において第三者によって生じた損害、((3))自然現象による損害、((4))前三者における損害回避措置によって生じた損害に区別される。危険責任の課題領域とされるのは((2))である(((1))は不法行為責任が問えない状態、((3))は私法的整序領域ではなく保険や公的扶助の課題領域((4))は民法上の緊急避難の課題領域)(Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 75ff.)。
(8) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 80.
(9) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 81.
(10) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 83.
(11) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 89ff.
(12) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 92f.
(13) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 97.
(14) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 97f.
(15) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 99.
(16) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 100.
(17) Esser の危険責任論における危険責任原理の理論的基礎と具体的内容の密接な関連性を示すために、六点の具体的内容の内の幾つかについてより詳細に紹介するならば、以下の通りである。すなわち、((2))賠償範囲の制限について。危険責任原理による損害賠償の範囲に関して、その責任原理の損害分配機能に対応した諸々の制限が存在する。すなわち、責任最高限度額の設定、非財産的損害の排除、及び間接的損害の排除である。最高限度額は個別法規定によってその都度決定されるゆえに非常に不統一的・硬直的であるが、しかしながら保険における危険計算の考慮及び賠償責任者の経済的破滅の防止のために危険責任原理において合目的的であるとされる。非財産的損害は危険責任においては、不法行為責任において正当化されるようには、受け入れられないとされる。というのは、危険責任原理における純粋な配分的正義の根拠は、もはや何も分配され得ず、むしろ取り消され得ない損害の緩和の為に新たなものが付与されなければならない場合には適合的ではないからとされる。同様に、損害分配法における直接的侵害(「(事故による人的)被害者」・「事業に際して」の被害)への補償の制限は、危険責任が担っている不運関与者---被害者及び答責者---間の事故損害の分配に関する問題という整序課題の本来的構成要素をなすとされる(Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 107ff.)。((3))いわゆる好意同乗者の処理について。危険責任原理は、社会的に危険曝露に、相応の予測可能性なしに強制された者の保護を整序課題とすることから、交通手段の乗客の異なった処理がなされる。すなわち、例えば鉄道交通のような、大量輸送手段、独占事業者、社会的に不可欠の設備が問題となる限りで、当然にまた乗客も事故損害に対して保護される。それに対して、たとえ業務上職務上の理由からでも、自由意志で他人の自動車に身を委ね、またはタクシーのように公共目的ではなく、私的目的に使用される自動車を借りた者は、不可避的にではなく、自らの主導権によってその自動車の危険に身を曝す者であるがゆえに保護されないとされる(Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 109f.)。((5))いわゆる「不可抗力」免責要件の意義について。危険責任原理の答責性の範囲及び限界は、主観的帰責可能性からではなく、損害惹起事象の、引き受けられた事業領域の事業及び危険への所属から生ずるので、そのことに基づいた本質的に明確な保証領域の限定が存在する。不可抗力概念はしたがって最高度・最終的な注意義務といった擬制的概念の仮装から解放され、「外部から自然力又は第三者の行為によって事業領域にもたらされた事業外の事象」として客観的意味において把握される。その概念は、「引き受けられ答責され得る、自らの独自の典型的危険を伴った事業領域の社会的に妥当な境界、事業関連的ではない損害惹起に対する境界である」(Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. 111ff.)。
(18) Referententwurf eines zur A¨nderung und Erga¨nzung schadensersatzrechtlicher Vorschriften. 本草案については大阪市立大学外国法研究会による翻訳が存在する。大阪市立大学外国法研究会「損害賠償法の改正および補充のための法律の参事官草案(一)〜(九・完)」法学雑誌一五巻(一九六八年)一一八頁〜一八巻(一九七一年)一〇九頁。
(19) Gutachten und Vorschla¨ge zur U¨berarbeitung des Schuldrechts. 本鑑定意見書については法政大学現代法研究会による紹介・検討がなされている。法政大学現代法研究会『西ドイツ債務法鑑定意見書の研究』(一九八八年)。
(20) Larenz, K., Lehrbuch des Schuldrechts II/2, 12. Aufl., 1981, S. 698ff.
(21) Deutsch, E., Unerlaubte Handrungen und Schadensersatz, 1987, S. 171.
(22) Ko¨tz, H., Deliktsrecht, 6. Aufl., 1994, S. 134.
(23) Ko¨tz, a. a. O. (Fn. 22), 136ff.
(24) 通説的理解にたつその他の論者の考え方を簡単に紹介しておこう。Weyers は危険責任原理の目的を、危険源を占有しその利益において危険な活動を認められている者は、危険もまた負担しなければならないという原則による不運損害の分配と解し、また責任の根拠をいわゆる「許された危険」より生じた損害の引き受けに見いだす。すなわち、機械化された交通機関、核エネルギー、公共的強制接種、環境負荷的活動は、政策的決定に基づく公益的なものであるがゆえに許容されなければならないが、しかしながら、そこから生じた万一の損害は責任法によって処理され得るとする(Esser, J./Weyers, H. L., Schuldrecht II, 7. Aufl., 1991, S. 637f.)。Fikentscher も、Esser の業績以来初めて危険責任原理に独自の積極的帰責原理が基礎づけられ、危険責任もまた加害者の真の答責性に基づくことの理解が貫徹したことを指摘する。そして、危険責任の正当化の多様な観点として、許された程度で何らかの危険を行った者が危険創出及び危険支配の基本思想に基づいて責任を負うべきとする点、あるいは、危険から利益を得る者への帰責という点、更には、Ko¨tzによる法政策的及び経済的根拠付等を挙げている(Fikentscher, W., Schuldrecht 8. Aufl., 1992, S. 790f.)。
(25) Larenz, K./Canaris, C. W., Lehrbuch des Schuldrechts II/2, 13. Aufl., 1994, S. 604ff. なお、この Larenz 債権法各論教科書改訂一三版における危険責任に関する叙述は、Canaris による全面的な改訂が加えられ、それに伴って、本稿において順次検討するように危険責任原理の理解に関して幾つかの新たな特徴が見いだされる。
(26) Larenz/Canaris, a. a. O. (Fn. 25), S. 608.
(27) Larenz/Canaris, a. a. O. (Fn. 25), S. 611f.
(28) Bru¨ggemeier, G., Deliktsrecht, 1986, S. 51f.
(29) Schlechtriem, P., Schuldrecht Besonderer Teil, 3. Aufl., 1993, S. 364f.
(30) それら諸論点は参事官草案、債務法改正鑑定意見書を巡る議論において活発に展開された。そこにおける各論者の主張の詳細については、浦川・前掲(1)七七三頁、青野博之「西ドイツにおける危険責任論の動向と日本法への示唆」前掲(19)五八五頁。
(31) BGBl. I 1957 S. 1110, 1114.
(32) 水管理法二二条一項の責任規定に関する従来の議論状況については、加藤一郎編『外国の公害法』下巻(一九七八年)二七〇頁(石村善治教授執筆箇所)。
(33) その代表的な論者は Larenz であった。Larenz, K. Die Schadenshaftung nach dem Wasserhaushaltsgesetz im zivilrechtlichen Haftungsgru¨nde, VersR 1963, S. 597.
(34) Gieseke/Wiedemann/Czychowsky, Wasserhaushaltsgesetz Kommemar, 5. Aufl., 1989, S. 757f. ; Schro¨der, J., Die wasserrechtliche Gefa¨hrdungshaftung nach § 22 WHG in ihren burgerlichrechtlichen Bezu¨gen, BB 1976, S. 63. いずれの学説も、判例が水管理法二二条一項の適用に関して常に違法性を認めて来たことをその有力な根拠に挙げる。
(35) Larenz, a. a. O. (Fn. 20), S. 733.
(36) Brox, H., Besonderes Schuldrecht, 11. Aufl., 1984, S. 381. ; Ko¨tz, a. a. O. (Fn. 22), S. 140. ; Fikentscher, a. a. O. (Fn. 24), S. 796.
(37) Bru¨ggemeier, a. a. O. (Fn. 28), S. 52f.
(38) Larenz/Canaris, a. a. O. (Fn. 25), S. 611.
(39) Esser, a. a. O. (Fn. 1), S. VII.