立命館法学  一九九五年四号(二四二号)




従業員持株制度の研究(三・完)
−ドイツとの比較による制度目的の再検討を中心として−

道野 真弘






目    次




第三節  従業員持株制度の運営
  次に、制度運営の側面から検討を試みる。
  当然のことながら、制度を運営するにあたって綿密な計画が必要である。また、上に見てきたような目的を達成するためにはどうしても長期的な視野が必要であり、一時的な思いつきのようなものであってはならない。したがって、「従業員株式の提供を効果的に実施するためには、計画されている制度について知識を与え、心づもりをさせるとともに、制度を長期的に継続し、株式の提供も規則的に行うことで、従業員の長期的関心を呼び起こさねばならない(1)」ことは言うまでもない。このことは、証券業界を中心に実務界が切望している個人投資家育成の側面からも、また長期的財産形成という側面からも重要である。それとともに明確にしておかなければならないことは、
  ---  提供する株式の種類
  ---  株式提供の方法
  ---  株式の提供を受けることのできる(従業員の)範囲
  ---  提供に必要な資金の調達を誰が引き受けるか
などであろう。その他、従業員に対する株式の提供の際に生じる問題として、提供後の旧株主の地位、従業員株主による労働環境および資本に対するリスク負担、従業員株式と企業の信用力の問題、労働者の従業員株式の配当の租税上の取り扱いといった点がある。
  これらの諸問題点につき、経営学的側面も含め、様々な方法で検討を加えるのがこの節の課題である。
  第一項  株式の種類
  提供する株式の種類に関する問題がある。普通株にするか優先株にするか、といった点である。ドイツの普通株と優先株の差異は日本のそれとかわらない。優先株には議決権を制限することがほとんどである点も類似している。
  確かに優先株は利益配当が比較的高率である点から、従業員の財産形成には普通株よりは役立つかもしれない。しかしながら、労働と資本の対立の緩和、従業員の経営参加という観点から考察すれば、優先株は適切ではないのではないか。例えば、優先株を与えられた従業員株主は、旧株主(通常は普通株主であることが多い)の地位とのバランス上、さほど優遇されないのではないか、との懸念を抱きうるし、また実際優先株と言えど会社の利益を考えれば普通株に比してさほど大きな利益配当を行うことは不可能であろう。事実日本において行われている優先株の発行件数はわずかではあるが、そのわずかな場合でも、優先株は期限を区切って消却されるかまたは普通株に転換されることが多いのは周知のとおりである。そうなれば、従業員は優先株とはいえさほど優先されていない、との不信感を使用者に対して抱く、ということは十分考えられることである。また、優先株を無議決権株とする場合、従業員の経営参加、さらに言えば個々の従業員株主としては微力ではあるが企業に対する支配の機能が排除されることになる。このことはドイツにおいても、「優先株式の形態で従業員株式が提供される場合、おそらく労働と資本の対立の緩和に役立つことはない。労働者は旧株主に対して特別な立場に置かれ、他方でこの特別な立場が、企業の、ある優先権を伴った株式を提供するという計画に関して従業員株主に不信感を持たせうる。つまり、旧株主とのバランスを考えた、ある種どうでもよいような優先権を付与するのではないか、といった不信感である。他方、従業員株主に優先配当を行うため旧株主が不利になることを理由として議決権を与えない場合、労働者が有するわずかで微力だが厳然として存する支配の機能を排除されることになる。最も重要なことと思われるのは−まさに優先的内容が与えられた場合−これは労働者の仕事量の増加が伴うであろうということである」と指摘されている(2)。この点を考慮した場合、ドイツにおいては優先株の提供もあるが、それよりも普通株を選択することの方が多いようである。そのうえで、購入の際に特別に奨励金を出すかまたは優先価格で譲渡することが通例である(3)
  確かに、「持株制度については、ドイツでは株式会社が少ないこともあって未だ一般化していないようである。むしろ議決権を持たない資本参加(優先株か)の方が普及するのではないか」という指摘もある(4)。理由については触れられていないが、再三述べているように、ドイツ人のリスクを嫌う国民性から、少しでもリスクが緩和されもしくはそれだけ大きな利回りの期待できる優先株を好むのかもしれない。日本においても同様に考えることはできる。しかし、私は、やはり普通株が提供されるべきであると考える。財産形成のみに重点を置いても、先程述べたようにさほど大きな利益を従業員株主に与えることは困難であるばかりか、重要な点は、従業員持株制度には会社に対する帰属意識向上の目的も含むということである。そうであるならば、議決権に代表される共益権も含まれる普通株が妥当であろう。
  ただ、未公開企業において、株式公開直前における株式を、数年間優先株とし、後々普通株へ転換するという方法は考えられまいか。すなわち、株式を容易に売却することは長期的財産形成の面からは避けたいが、他方従業員の利益獲得(株式公開の際には、いわゆる創業者利得を得ることができる)という側面からは売却を認めるべきである、という両側面を考量して、優先株を従業員に提供し、一定期間は株式を公開した後も売却を認めないこととするのである。もちろん、公開後の売却に伴うキャピタルゲインと同等の利益配当をすることは事実上不可能であろうし、定款において定めをなす必要があることから、その手続きは困難でもあろう。しかし、従業員の財産形成の意味合いからは、公開に伴う株価上昇(創業者利得)から経済的利益を得る権利と、長期的資産形成という二面から検討すべきであり、その意味で、この場合に限って、優先株の発行も考えうる。
  第二項  従業員に提供する自社株取得(または新株発行)の方法の選択
  従業員に提供する株式をどのように調達するか、という問題である。おおまかに言えば自社株の取得と新株の発行であるが、それもさらに細かく分類される。自社株の取得は流通市場での取得とそれ以外の取得(公開買付等)が考えられるが、通常は前者であろう。日本では従業員に対する新株割当の規定はなく、第三者割当の規定によるほかない。この手続きは煩雑であるためあまり利用されず、ごく一般的には持株会が独自で市場で購入するのが常であるが、その際、毎月一定の日に買付を行うので、それを見越して売買が活発化することから株価に影響を与えることもしばしばであるため、それを回避するために会社で別に自社株を購入して持株会に譲渡するようにしたいとの要望があった。そこで、平成六年商法改正において自己株式取得規制を一部緩和し、正当な理由のある、使用人に対する譲渡に供する場合は発行済株式総数の三%を超えない範囲で取得を認めた(5)(前述第一章第二節第一項参照)。自己株式取得全般としては、どれほど利用されるかという点につき「潜在的なニーズは相当に高いと考えられるが、当面どの程度利用されるかは(中略)、わが国経済の厳しい現状やみなし課税の存続を考えると予断を許さないものがあり、比較的長い目で見る必要があるものと考える」との指摘がある(6)が、使用人への譲渡のケースとしては、大和證券で、使用人への譲渡のための自己株式取得を行うことが取締役会で承認され、今年(一九九五年)六月二九日の株主総会で決議された(7)。現時点では予測が困難であることは事実であるが、この改正および最大手証券会社の大和證券が実施することによって、またみなし配当課税は自己株式の消却の際に課されるものであるから従業員への譲渡の際には問題がないと考えられるので、日本でも自己株式取得による従業員(または従業員持株会)への提供の方法が一般的となるであろうということは、自己株式取得規制緩和を財界自体が望んでいただけに考えられうることである。
  ここにおいて、一つの法解釈論が存在する。平成六年改正商法第二一〇条ノ二第一項は自己株式取得が認められる場合として、「正当の理由あるとき」「使用人に譲渡するために」は可能であるとするが、この二点での絞り込みの意義について問題となりうる(8)。立法担当者は、「正当の理由」とは「会社が使用人に譲渡するために自己株式を取得することが会社の業務の運営や従業員の福利厚生などに資する場合をいう」とし、具体例として本条新設の主目的としての従業員持株会への譲渡や、永年勤続の従業員または功労ある従業員に対する報奨として譲渡する場合を挙げられる(9)。このことを考慮して、私見としては、およそ「使用人(10)」に対する譲渡は、「正当の理由」ある場合には当該条文により自己株式の取得が認められるべきであると解する。前述の通り、従業員持株制度には、当該会社の従業員に加えて、当該会社の子会社の従業員で当該会社の従業員に準ずるものと認められる者も参加でき、商法改正も従来の従業員持株制度の運営方法を変更する意図はない以上、このように従業員持株制度に参加する子会社従業員もここにいう「使用人」に含まれると解してよいと考える(11)。このように「使用人」の範囲は比較的広範に把握することができるので、これに絞りをかけるため「正当の理由」が要求されることになる(12)。そしてこの正当性は、使用人に譲渡する目的の正当性と解することができる(13)。ただし、いかなる使用人に対してであれ、その譲渡価額の妥当性は問題となろう(14)。また、子会社等においてその会社の従業員で組織し、親会社の株式の買付も行う拡大従業員持株会(第一章第二節参照)については、実務上、「使用人」に明白に該当しないと理解されており(15)、法文上も「使用人」に含めて考えるのは困難であろう(16)
  なお、ドイツにおいては新株発行(増資に伴う自社株発行)としては、通常の資本増加(株式法第一八二条以下(17))、条件付増資(第一九二条以下(18))、認可資本(genehmigtes Kapital)(第二〇二条以下(19))、会社財産による増資(第二〇七条以下)の四つの方法が用意されているが、従業員に対する株式の提供との関係では前三者が関連する。増資については株主総会の決議を必要とする(株式法第一八二条第一項等)ことから、やはり利用しやすいものは株式市場での自社株の取得である。自己株式の取得は原則として禁じられていることは日本と同様であるが、従業員への譲渡を目的とする場合は認められる(株式法第七一条一項二号)。認可資本は、増資の中では最も利用しやすいのではないか。日本でいう授権資本に類似するものであるため、株式市場での買付と同様、市場の動向に合わせてフレキシブルに対応できる点で便利であると考えられる(20)
  第三項  提供の対象となる従業員の範囲
  前項においても、法文解釈上の「使用人」の範囲が問題となったが、ここでは、従業員持株制度に関連する実質的理由から、どの範囲の従業員に譲渡するのが制度目的にとって適切か、という問題である。
  従業員持株制度の、資本(生産資本)の広い層への所有の拡散という目的に沿うのは、できるかぎり広い範囲の従業員に提供することであることは明らかであろう。またそれは、従業員間の対立を引き起こさないためにも必要となる。しかしながら一方で、誰にでも購入が可能ではない、という程度の制限をすることが労働者の「企業家意識」とも言うべき、社会的ステータスを有することによる信望を得る機能(本章第二節第二項第二款((1))参照)を考える場合には必要ではないか。すなわち、「株式資本を広く拡散させるという趣旨から望ましいことは、できるだけ多くの従業員に従業員株式を提供し、従業員の所得の差や従業員の種類によって区別をつけない、ということである。これは従業員間の対立を呼び起こさないためでもある。(略)この反面、株式につき、労働者の一人あたりの最大購入可能数を制限することで、誰にでも購入することが可能なわけではない、購入することで自己の価値が高まるような、プライドを持てるようなものと思わせることは必要であろう(21)」。そこで通常は企業での在職期間によって制限をすることも多いであろう。このことはドイツでは事実行われており、四〇%の企業が一年以上としている(22)。これは一年未満では所得の面でも株式投資する余裕がないことが原因であろうと考えられるが、日本では、通常、制限はないようである(23)。制限を設けると、従業員間の不公平感を生ぜしめるためである(24)。これらのことを総合的に勘案すれば、提供の対象となる従業員の範囲は極力制限すべきでない。社会的ステータスを得るという目的は、報奨の意味として自社株を与える際の基準を明確にすることで達成でき、所得の面で株式投資する余裕のない従業員が無理をしないようにするためには、給料の一定割合までのみ投資することができるという制限を行うことで達成可能である(25)
  第四項  自由な処分の制限−株式の譲渡制限−
  従来、日本においては従業員持株制度からの脱退の際には株式を持株会(会社)もしくは持株会(会社)の指定する者に売却することを契約内容に含めることが通例であった。その理由は表だっては、制度維持のため株式の外部流出を極力避けるため、とされていた。最近では上場会社及び非上場会社で証券会社等の整備した制度を実施しているものに関しては、同じ理由で、会からの脱退の際には単位未満株は換金して現金を返還することが通常である(これが上場会社については最近株式累積投資制度への振替を可能にする方向へと動いていることは前述(26))。これが譲渡制限との関連で問題となる。すなわち、株式の譲渡は原則として自由であることが定められている(商法二〇四条一項本文)。これは株式会社において社員たる株主の個性があまり問題とならず、かつ会社資本充実維持のため、原則として出資金の払い戻しが認められていないこととの均衡上、承認される原則である(27)。ただ、事実上多くの中小企業においては株主の個性が問題となり、株式の社外流出を阻止したいとの要請が存在する。そこで株主総会の決議に基づき定款に規定することにより、株式の譲渡制限をなすことができることとした(同条項但書(28))。この規定以外に、契約によって株式の譲渡制限をすることができるか、という問題である。
  この、株式の自由譲渡性と、定款もしくは契約による譲渡制限の問題についての学説を簡単に説明すれば、以下のようになる(29)。すなわち、定款による譲渡制限以外の制限の効力の有無を、その一方当事者が会社であるか、会社以外の第三者であるかによって論じるのが通説であり、会社と株主の間の譲渡制限契約は同条の脱法行為として無効であるとする。これに対して一方当事者が会社以外の第三者である場合(株主同士の場合もあるであろう)は、私的自治の範囲内であり、原則として有効であるとする。さらに、会社と株主の間の譲渡制限契約においても、株主の投下資本の回収を不当に妨げない合理的な契約内容である場合には、例外的に有効となるとする説も有力に主張されている。また、会社と株主の間であると、会社以外の第三者と株主の間であるとを問わず、公序良俗(民法九〇条)違反か否かを基準にすべきであるとの説もある(30)。学説に対し、この点が問題となった判例は、当事者が会社であるか否かを問題としていない。
  私は、会社が譲渡制限をする場合は、原則として商法二〇四条第一項但書の規定する方法のみが認められるべきであると解する。すなわち、通常は個人株主に比して力の強い会社が、弱者たる株主の権利を制約することを例外的に認めるのであるから、商法の規定を厳格に適用すべきと考える(31)。むろん会社とは全く別個に、例えば従業員三人が共同で株式を購入し、三人の共有のもと他の者の承諾なく自己の持分を売却できない旨契約で定めることは会社法の適用外であり(私的自治の範囲内であり)、可能である。これに対して、会社ないしは会社と同一視できる者が、定款による譲渡制限以外に制限をすることを認めるとすれば、何らかの合理的な理由がなければならない。そして先にも述べたように、契約の内容が株主の投下資本の回収を不当に妨げない合理的なものである場合には認められると解するのが有力である(32)。ただ、私見としては、投下資本の回収を不当に妨げなければそれでよいかというと、とりわけ従業員持株制度に関しては、附合契約的性質や、従業員の財産形成促進等、会社法とは別の法領域において考慮すべき点が多々あると考える。
  さてそこで、ドイツにおいてこの点について有意義な議論を行っているので、ドイツの場合を見てみよう(33)。ドイツでは従業員株式の性質からして譲渡制限が施されることとなるが、その譲渡制限の、とりわけ譲渡禁止期間の設定についてはどのようにすればよいのであろうか、という問題が生じている。通常、従業員には、提供された従業員株式を自由に処分することについて制限が加えられる。制限を加えなければ、所得税法一九a条や財産形成促進法に基づく優遇措置を受けることができないが、その趣旨は、従業員の資本参加は従業員の中長期的な財産形成を一つの目的としているゆえ、譲渡禁止期間の設定が求められるのである。また、企業にとっても従業員が企業への帰属意識を高めてもらうことが目的の一つである。それゆえ、従業員株式が提供されたと同時に売却等処分されるのならその趣旨に反する。したがって、一定期間の譲渡禁止特約が付されていることが通常である。そうでないと、国家による奨励の恩恵が受けられないことにもなるのである。やはりここでは勤労者の財産形成促進等、政策的意味合いからの理由付けがなされている。これは、労働者保護という国の最高法規としての憲法からの要請(34)でもあり得る。そのような理由付けにより正当化された制限も、では、どの程度まで制限が可能かという問題につながる。長期財産形成、企業への帰属意識、という点からすれば長いほど良さそうであるが、当然のことながらそうは言えない。あまり長いと、日本的に言えば譲渡制限の問題と絡むが、それをさておいても従業員が売却の自由があまりないような株式に購入意欲を持ち得るかというと、そうではないことに異論はなかろう。あくまで財産形成として、株式の保有が有用であるということを従業員が納得する程度の期間が望ましいのではないだろうか(35)。その具体的な期間の設定としてどの程度がよいかは非常に困難な作業であるが、基本的には法定の恩恵を受けられる期間(すなわち六年。第一章第一節第五項第二款参照)プラス一、二年の範囲ではなかろうか。「過度に長期の譲渡禁止期間(中略)は、従業員株式の提供によって期待される労働と資本の社会的な対立に対してプラスの影響を与えはしないであろう。これは企業に対する労働者の不信感に現われる。このことで従業員は、法律上の禁止期間を超える任意の処分の制限が、自分たちでなく、実際は企業に役立つと思うようになるだろう。
  全く任意の処分に制限を加えないことはあまり有益ではない。というのは取得者の大部分がすぐに従業員株式を、優先価格と実際の相場価格との差額を確保しようと売却しうるからである。そうなれば、株式資本の広範な拡散ということが達成されないということになりかねない。また労働者の経済的生活基盤の拡大という目的も、金銭財産から生産財への転換によっては達成されえないことになろう(36)」。このこともまさに従業員の中長期的財産形成促進の目的のもと、妥当な範囲内であれば譲渡禁止期間を設定することが可能であるという趣旨である。
  再度日本に戻ろう。通常日本では、上場会社の従業員持株制度は譲渡禁止期間を設けず、単位株に達したならば自由に持株会より引き出すことができるとされている。逆に言えば単位未満株では引き出すことが原則としてできないのであるから、月々数万円の積立によって単位株に達するのは通常一、二年以上の歳月を要するであろうから、実質上、単位未満株については流通性がないということとは別に一定の譲渡禁止が施されているといえる。また、それら以外の形態の従業員持株制度(とりわけ小規模閉鎖会社で行われているもの)は、株式を外部へ流出するのを防ぐため譲渡禁止特約を締結することが多いであろう。判例等でも、自由な譲渡を全く認めないケースも多々ある(ワールド事件、大阪特殊合金事件等)。これらの事実を考慮すれば、ドイツの議論は日本でも有意義である。すなわち、繰り返しになるが譲渡禁止期間はあまり長すぎず、短すぎない、適度な期間でないといけない、ということである。そしてこの適度な期間ということについては、基準を設定することは困難ではあるが、個別の事件の諸事情に応じて、まったく譲渡の自由が認められない場合も含め、解決していくほかは現状においては方法がない。そして結局はその基準は、公序良俗に反しない合理性を有する制限は認められる、ということになろう。これは株主の投下資本の回収を図ることを不当に害しないという、二〇四条の立法趣旨のみを指すのではなく、譲渡制限契約の目的(従業員の財産形成に資するものか、従業員の保護は図られているか)等も考慮の対象とすることとなると解する(37)。神崎教授は、従業員持株会による株式の譲渡制限につき、「配当性向が高くない場合、すなわち、会社の当期利益の相当部分が利益配当として株主に分配されない場合には、かかる約定(脱退時に取得価格で会等に売却する旨の定め、引用者注)は、従業員持株制度によって株式を取得した従業員から、その者が本来受けるべき重要な利益を奪うものであり、不合理なものとして、公序良俗に反する無効なものと解される(38)」と述べられている。確かに、多数説としては会社から独立した持株会が従業員と譲渡制限契約を結んだとしても原則として有効であり、商法二〇四条一項との抵触問題は生じないというが、私は現行の持株会が会社から独立した存在であるとは事実の把握として問題があると考える。また、同条項との抵触問題を別にしても、従業員持株制度の趣旨、すなわち主に従業員の財産形成促進が目的であるということや、あるいは従業員持株制度の特殊性、株式投資の本質等を勘案して(39)、譲渡制限契約の効力の有無を検討すべきであり、そういった意味で、公序良俗という基準によって検討すべきとする神崎教授の見解に賛成する(40)。このことは、新設の商法二一〇条ノ二第一項の「正当理由」による絞り込みも、公序良俗に反する理由による使用人への譲渡を認めない趣旨(41)であろうことから、法律的にも補強されたと解する。
  第五項  管理の形態の選択
  そのように提供された従業員の株式をどのような形態で管理していくか、という問題である。日本では、持株会が中心となって従業員持株制度を運営することが主となっている。基本的には右のような分類が可能であろう。
  現在は証券会社方式が大半を占めているが、これには参加する従業員全員が組合員となるものと、一部の従業員(役員であることも多い)が組合員となるものとがある。前者については従業員たる参加株主は全員が組合の構成員(組合員)となる。したがって従業員は組合の出資者であり、組合に対して出資割合に応じて持分を有することになる。これに対して後者はその組合自体に従業員は参加せず、組合は管理事務を行うのみで、従業員は開設した口座ごとに自己の持分を管理されることになる。いずれにせよ、その名義は持株会理事長名義であることが多い。
  次に信託銀行方式であるが、任意団体(通常法人格なき社団と認定できる)としての持株会を、少数の従業員または役員により形成し、これが管理運営を行うものである。そのうえで管理運営の受託者である理事長等が信託銀行に対して株式投資信託を依頼する形になる。
  これら三方式については法律的な構成が異なるのみで、実際上の差異はほとんど生じない(42)
  なお、持株会等の管理組織を有しない形態についても若干触れておくと、これは閉鎖会社では利用されているが、一般に一時的な方法で、例えばオーナー株主の所有する株式の放出等で従業員に提供することが多い。閉鎖性維持のための従業員への提供のケースが多く、よほどの高配当でないかぎり従業員にはメリットが少ないのが現状のようである(43)。そのほか前述のごとく、公開会社等大会社では持株会がないと、管理の面で不便な点も考えられる(44)
  この点、ドイツでは、以下のような説明がある。「企業は、個別の管理か、一体的管理かを決めなければならない。一体的管理の場合、企業は従業員株式の議決権行使を自身に留保することが可能となる。もしそのような定めが提供の約款に含まれるならば、企業上層部による管理は労働者の企業に対する不信感を生じさせかねない。企業が議決権を行使する場合、従業員株式の支配機能は発揮されない。これは労働者の(株式)引受への関心を全く増進しえないであろう。
  一体的管理はそういった意味で従業員による支配機能を損なうが、それでも、経営協議会(Betriebsrat)が、従業員株主の議決権を株主総会で行使することを規定することができる。ここで従業員株式の支配機能が効力を発しなければ、労働と資本の対立の確実な緩和の可能性はほとんどない。この対立は結局、自分の議決権で共同支配を株主総会において行っているという感情を労働者が抱く場合にのみ緩和されうる。このことおよび一体的管理の際の経営協議会による議決権行使よりも好ましいという理由で、企業はほとんど個別の管理を選択する。(略)個別の管理については、上に述べたこととは反対に、一体的管理によって現われる労働者の企業に対する不信感は生じず、従業員株式に対する従業員の関心はより大きい。個別の管理の際、労働者は実務上、管理費用を負担しなければならない。これに対して一体的管理の際は、通例会社が生じた管理費用を負担している(45)」。ドイツでの実務上の管理運営方法については具体的な資料が見当たらないので、このような見解があるとだけ述べておく。
  これに関連して、間接参加の長所と短所につき若干触れておこう。ドイツにおいてはとりわけ議論が盛んである。ヴォルフガング・ドレヒスラーはその論文の中で次のように述べる。すなわち、直接参加は、直接であるという心理的な面での長所があり、会社に対する帰属意識は中間に位置する団体を介する場合よりも高まり、また中間団体を形成する際のコストが不要となる、と。また、これに対して、間接参加の重要な長所は、個人で行えない様々なことが可能となり、中間に位置する団体によって個人では行い得ない活動の展開が可能である、という(46)
  ドイツにおいて実務上従業員持株制度がどのように管理運営されているのか具体的な資料に乏しいが、直接参加(証券会社(ユニバーサルバンク)による通常の株式管理業務による)の形態が主流であると思われる。株式会社に出資者として参加するのに、間接的参加よりは直接的に参加するほうが理論的には普通の形態である。それは株式というものは個人が個人として所有するものであり、共有形態は例外的に規定されていることからも理解できる。
  また、間接参加の場合にもドイツは徹底して中間団体(日本風に言えば持株会)を会社と切断しているという点で日本とは違いがある。これもまた、日本にとって考慮しうる側面を有しているように思われる。すなわち、日本においては証券会社の主導となっているとはいえ会社内部に持株会が設置されている(47)。これが従業員持株会の会社に対するチェック機能、具体的にいえば議決権の行使に伴う監視機能が働かない原因の一つであるといってよい。日本においては純粋持株会社が認められていないので持株会を会社形態にすることには困難が伴うが、組合形態であっても、従業員による主体的な運営がなされることによって独立性を高め、またそうすることで参加する従業員の意見集約もより容易となるであろうから、会社に対する監視機能は高めることができると推測される。また、ドイツではそういった中間に位置する会社が、その資金でもって不動産や機械等を購入し、使用者企業に対して貸し出す、ということも可能であるという(48)。企業内労働者協同組合として活用することができよう(49)
  第六項  資金調達
  日本では国による従業員持株制度に対する資金的援助がないので、制度実施の資金面での負担者は企業と従業員しか考えられていない。ドイツではこれに対して国も従業員持株制度を実施する際の資金調達の当事者となる。
  ドイツにおいては、通常従業員の財産形成としての資本参加に対して事実上重要な資金源となるのは国家である。しかしながらすべてを国家が賄うには財源がないばかりでなく、労働者や企業にとって大きな利益を生み出しうるものであるからには、一定の負担による責任を自身で負うほうがよい(「受益者負担の原則」に基づくと言えるであろう)。自主的に制度を実施する以上は国の助成は副次的な財源であるとも言えよう。また、その他の理由からも労働者および企業の資金調達負担を全くないものとすることはできない。すなわち、株式の提供に対する従業員の関心を最大限高いものにするには、従業員の資金調達の負担は少なくしておくべきである。しかし一方で負担を最大限小さくすることは、従業員の生産財への長期的な参加意識を高めることにならないと考えられる。というのも企業が過度に負担すると、譲渡禁止期間終了後すぐに株式を売却する(日本でいえば単位株になったらすぐ引き出して売却する)ことを助長しかねない。できるかぎり多くの利鞘を稼ごうとするし、また簡単に手に入ったものにはあまり執着しないものであろう(50)。また、従業員の資金調達負担に関して、その所得を考慮しなければならないことはもちろんである。その場合、その所得格差に応じて負担割合にも格差を付けることはすべきではない。従業員間での対立が生じかねないからである。累進課税的な方式による所得の再分配は国がすべきことであって企業がすべきことではない。
  このようなドイツの議論を見ても、明確な基準をもとに従業員と会社の従業員持株制度に対する負担を論じることは困難である。ひるがえって日本の制度を見れば、相当程度を越える会社の負担(高額の奨励金等)は利益供与禁止の問題とも関連する。従業員が制度にかかるほとんどのコストを負担するのであれば従業員にとっては制度に対する関心が薄れるし、また昨今の株価低迷の折、従業員の財産形成の目的も達成されにくく、従業員持株制度の意義が縮小する。簡単に結論は出ないが、従業員持株制度に関する一切の事務費用を会社が負担し、株式購入費用については、一般の株主と変わることなく従業員自身で負担するが、その際一定の補助金を支給するという現在一般的な従業員持株制度の方法が妥当であろう。
  国の負担については、日本では提唱するのさえはばかられる。というのは、従業員持株制度を奨励するには一般市民からの税金を利用することになる。ということは、一般市民に対して一定の利益が存することを証明しない限り、従業員持株制度に対して優遇措置を講じる了承されないであろう(51)。ドイツでは国からの助成が行われている。具体的には、優先価格と時価の五〇%を超えない範囲で、五〇〇マルクまで免税措置がある。その余の部分については、企業との資金調達の分担を考えることになる。そして優先価格の支払については利益参加等で充填するのが通常であることはすでに述べた。しかしながら、従業員持株制度のみを優遇することに対する批判が続出し、できる限り多くの国民が優遇措置を受けることができるようにと、有限会社や協同組合に至るまで、多くの従業員資本参加形態が優遇措置を受けることができるようになったこともすでに述べた。
  従業員持株制度に対する負担に関連して今一つ問題となるのは、株式が従業員に対してその時点の相場価格より低い価格で提供される場合、旧株主は資産または利益の損失をこうむることになる。提供に関する約款に記載されている企業および労働者の負担から、自動的に旧株主の負担の程度も明らかとなることが多い。従業員株式の発行で旧株主にとっては物質的な不利を伴いうるだけでなく、その企業への影響力を多かれ少なかれ減少させるので、この問題の特別な意義にかんがみて別途項を改めて取り扱うことにする。
  第七項  従業員持株の提供後の旧株主の地位
  従業員持株の提供の際には常に旧株主への影響、それまでの資産価値の減少が問題となる。株価の下落に加え減配もありうるし、場合によっては経営への関与の権利が脅かされる。
  従業員持株制度の目的の一つは、将来的資金調達の選択肢を拡大することにある。ところが、そういった目的によって従業員に対して優先的価格で従業員に株式を提供するにあたって、旧株主の有する株式の価値および配当分の低下を招くことになりうる。これは従業員持株を優先価格で提供するうえにそれに見合った企業の生産性および経済性が改善されなかった場合に生じる。そのうえ(日本では株主平等原則によって許され得ないが)優先配当をするものとすればなおさらである。これを放置しておいてよいか。思惑と裏腹に資金調達に支障をきたさないか。具体的に言えば、この場合、不利な扱いが限度を超える場合は、現に存する固定的株主がその株式を売却し、または今後その会社の株式を購入することをせず、潜在的固定的株主すなわち転換社債権者等も同様に株式の取得を控えることになる、といった危険が生じかねない(52)。これに対しては、「一般に提供価格と市場価格との差額は企業の利益からは補填されず、計算上従業員にかかる出費として清算されていることから、杞憂にすぎない」と反論(53)することもできる。とはいえ、注意すべき点ではあろう。
  これとの関係では、取締役の忠実義務が問題となる。基本的には通説(第一章第二節第一項参照)が妥当であると考える。取締役は会社に対して忠実義務を負うのであり、旧株主に対して負うのではない。
  なお、増資手続における資本の水増しによる一株あたりの資産価値の低下は直接従業員持株と関係するのではなく、調整を怠ったすべての増資手続に特徴的なものであるゆえ、従業員持株制度のみを非難する材料とはならないであろう。
  次に、ドイツにおいては、従業員株式の提供に際して、旧株主が、新株発行の際の引受権を放棄することとなる。これは旧株主には不利となり、そのような差別的取扱いに正当性を付与するためにどのように解釈すべきかという問題がある。日本においては株式の譲渡制限を課している会社については株主に法律上の新株引受権が付与されているが、株主以外に対する新株の割当には株主総会の特別決議を要するものとされている(商法二八〇条ノ五ノ二第一項)。ここにおいてドイツと全く同様の問題が生じる。ドイツでは各株主は新株引受権を当然に有し(株式法一八六条一項)、発行株式総数の四分の三以上の多数による決議があったときに限り新株引受権が排除されうる(同条三項)。それゆえ、旧株主は新株引受権の排除につき意見を述べる機会が保障されているのであるから問題はない。同様のことが日本においてもいえるであろう。
  第八項  従業員持株の提供を成功させるための準備
  日本では証券会社等の主導により制度が各会社に導入されており、通常はこの段階は実施しようとする会社レベルではあまり問題とはならないと考えられる。ドイツでもおそらくはユニバーサルバンクが指導していると考えてよいであろう。ここでは証券会社が行うと、実施する会社が行うとを問わず、制度導入の際のポイントにつき述べたい。
  制度を導入する際に重要な点は、従業員に対して提供に関する情報、とりわけ提供に関する約款を示し、株式の所有に伴う諸形態を示す。またその目的を知らしめ、それが企業に有利なためだけに実施するのではないことを理解させる。さらに、従業員の消費傾向や貯蓄意欲を考慮することも大事であろう。
  具体的に述べるならば、まず第一に、株式所有に関する知識を与えることが必要になるであろう。これは、最終的には従業員株式の所有というだけでなく、株式市場における個人株主の育成にも関連する問題といってよい。日本においても従業員持株制度で得た知識をもとに、他の会社の株式を購入するようになった個人投資家も多いと聞く(54)。そこで、従業員株式の提供を企画し、従業員にそれについての詳細な情報を提供するに先だって、株式の所有形態の魅力を熟知させるべきであるということは、ドイツにおいても指摘されている(55)
  バブル崩壊にともなう日本の現状は、増加傾向にあった個人持株比率が平成五年度に若干低下しているが(56)、ここ数年、二三%前後で推移している。これは日本では少ない数値として、個人投資家の株式市場離れとしてとらえられている。ドイツでも、前述のごとく、一九五〇年代には一時四割を超えていたこともあるようだが、現在の日本と同様の株価高騰の後の急落を六〇、七〇年代に経験し(57)、それ以後は二〇%台で推移している、とのことである。いずれにせよ個人持株比率の低下は著しく、日本の現状と考えあわせてみても、個人投資家とりわけこれから株を買おうとする潜在的投資家の不信感をぬぐうことは困難であろう。困難ながらも、基礎的な点から指導をすることは重要になる。価格変動は経済全体の流れの具現であるので、従業員株式の提供の際に経済との基本的な関連につき適切な情報を与えなければならない。証券市場における自己責任の原則を認識させるためには、多くの正しい情報を、タイムリーに与えることである。
  第二に、提供に際して、労働者の消費性向につき考慮することが必要となる。従業員への株式の提供を確実なものとするためには労働者の依然高い消費性向およびその結果としての限定的な貯蓄意欲を考慮しなければならない。労働者が、他の潜在的投資家よりも消費性向が強いのは、基本的に財産形成に興味がないということではなく、所得から生じる貯蓄可能な額がわずかであるためかも知れない。
  第三に、従業員株式の提供に関して、どのような取り決めをなすか、どういった規定を置くかということも問題となろう。すなわち、会社と従業員の間の法的関係をどうとらえるか、ということである。一般の従業員持株制度は規約のひな型が存するが、原則的に自由な形態で行うことができる。ただし、先述した譲渡禁止の問題も含め、公序良俗に反する契約が是認されるはずはなく、ドイツにおいても、以下のような議論がある。すなわち、従業員は従業員株式を引き受けることで、会社の出資者たる地位につくことになるが、このことが基本法第九条第一項に基づく結社の自由の裏返しとしてのいわゆる消極的結社の自由、すなわちいかなる者も団体や会社の共同出資者となることを強制されない、という原則との関係でどういった意味を有するであろうか、という問題である。この原則に基づき、事業体内のいかなる合意や労働協約も、従業員に対して参加を義務づけることはできないことはいうまでもなかろう。事業体内の合意および労働協約は、その集団的画一的契約における強制を通じて、各労働者との個々の契約において資本参加に関して企業に有利となるような手段としては用いることはできない。したがって、最終的な資本参加の意思決定は使用者および従業員のもとに留保されているということは確認できる。これは所有権絶対の原則や、意思決定の自由の原則からも求めることができる帰結である(58)。ただし、そのような合意や労働協約で、制度自体を規定することは可能である。その場合であっても、先述の諸原則に反する点を規定することはできず、例えば労働者の自由な処分権限を制限することになる譲渡禁止期間の設定等は法律に基づく必要があろうが、そうでないなら、法律に限らず労働協約、事業体内の合意、個別の契約、または企業内での慣習によって規定されうる。
  その他、業種別の従業員の従業員持株制度に対する関心の高低、従業員の職種(ブルーカラーかホワイトカラーか)別の関心の高低等も、実施の際には念頭に置くことが必要であろう(59)
  第九項  従業員の失職の危険とその個人財産減少への不安
  ドイツにおいて、所有の拡散の手段としての従業員株式が社会の安全の強化、社会不安の払拭に貢献できるか、という点は問題とされている。これは日本にも当てはまることであろう。この問題は、株式投資の前提として、株主が株式を所有する際には常にリスクがつきまとい、従業員株主についてはそのことと失職の可能性が連結している、ということから生じる。
  すなわち、株主は、自分とは無関係に、自らの出資する株式会社の経営状況の悪化または不況によって、その有する財産の一部(すなわち株式)が下落する、という危険性を常に有している。つまり経営基盤の悪化している会社の従業員株主にとっては、その職を失うという不安だけでなく、個人資産に対する不安も生じることになる。これは、一定の期間所有株式の譲渡を制限される場合に特に高まりかねない。
  大企業はともかく、中小企業においては倒産の可能性がより大きい。そしてこの倒産の際にも従業員の負担が大きくならないよう、企業を超えたレベルで、すなわち複数の会社がその株式や金銭を出資する基金をつくり、その基金に対して従業員が参加するという形態が、ドイツで考えられていることはすでに述べた(第一章第一節第二項第二款、本章第三節第二項第二款参照)。しかしこの場合は、会社と従業員の関係があまりにも希薄で、従業員の経営参加に資するのかどうか疑わしく、また「労働」対「資本」の対立を緩和すべき従業員持株制度が、この対立を激化する可能性もある(前述)。また、この形態では本来の意味での株式投資、従業員持株といえるかどうか問題がある。とはいえ、一社のみでは経営上安定した従業員持株制度を実施できないという場合には、この方法は検討する価値がある。
  これ以外の、一般的な従業員持株制度においては、従業員株主の有する前述の二重のリスクを回避する方法は、ないといってよく(60)、ただ経営の健全化を推進するほかない。
  第一〇項  企業の信用度
  ドイツで問題の一つとなっているのは、前節の会社経営上の目的の項で述べた会社のPR効果とは相矛盾するようであるが、従業員株式が会社の信用をおとすのではないか、ということである(61)。これについては、信用を数値化することはできないので実証することは不可能である。ただ、例えば従業員株式に対して会社が倒産した場合における優先的権利を付与しているような場合は、一般株主にはマイナスになるし、外部の金融機関等にすればそのような優先的権利は投資の際に消極的判断がなされうるものであって、信用に対して悪影響を及ぼすことになる。しかしながら大部分の企業では、従業員株式は普通株式と同等の権利を与えられているにすぎないので、このような信用に与える悪影響の指摘は、実務上あまり意味のあるものではない。優先株についても、残余財産分配請求権まで優先させているとは思えない。
  日本については、現在従業員の持株は優先権を付与するものではない。その意味で上記のような問題は起こり得ない。しかし、従業員株主の数が増大し、奨励金の負担も増すようなことになると、資本基盤に影響はなくとも、支払能力の面で不安が生じうることは指摘できるであろう。

(1)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 64.
(2)  Peez, a. a. O., S. 66.
(3)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 67.; 河本他・従業員持株制度のすべて(前掲はじめに注(2))一五頁参照。
(4)  労働問題リサーチセンター他前掲第一章第一節注(20)一四頁参照。これをどう解釈するか断言はできない。形式的には、原文でどうなっているのか定かではなく、本当に優先株についての見解なのかどうか不明であり、実質的には、これも予測の域を出ない発言であるからである。
(5)  吉戒修一「平成六年商法改正法の解説(2)」商事法務一三六二号二頁参照。
(6)  武井優「平成七年における株式実務」商事法務一三七七号七二頁。なお、みなし配当課税は、三年間凍結されることとなった(日本経済新聞一九九五年九月一二日付夕刊等参照)。
(7)  「大和證券、六月定時株主総会で自己株式取得を決議へ平成六年改正商法施行後発の使用人に譲渡するための取得(ニュースNEWS)」商事法務一三八九号四〇頁、「大和証券、自社株投資会に自己株式を譲渡するための議案を付議へ普通株式三〇〇万株・取得総額三〇億円(ニュースNEWS)」商事法務一二九二号四五頁参照。また、詳細については山崎龍治「従業員持株会への譲渡を目的とした自己株式取得−大和證券の事例について−」商事法務一三九七号三五−四二頁参照。
(8)  証券取引法研究会「自己株式取得緩和に関する商法改正要綱案について−従業員持株会への譲渡のための自己株式譲渡−平成六年一月二八日(金)大阪証券取引所会議室にて」インベストメント一九九四年一二月号三八−五五頁参照。なおこれは要綱案の段階での議論である。
(9)  吉戒前掲本節注(4)三頁参照。
(10)  吉戒参事官も述べられるように、原則として、商業使用人を含めた従業員を指すものであり、取締役、監査役は含まれないと解するのが素直であろう(吉戒前掲本節注(4)三頁参照)。
(11)  山崎前掲本節注(7)四二頁同旨。
(12)  証券取引法研究会前掲本節注(8)五二頁河本発言参照。
(13)  証券取引法研究会前掲本節注(8)五二頁森本発言参照。
(14)  結論には達していないが、従業員に対する報奨の意味での譲渡などにおいては、他に特別の事情(それによる財政の悪化等)がない限り、無償譲渡でも問題ないのではなかろうか。
(15)  山崎前掲本節注(7)四二頁参照。
(16)  しかし、拡大従業員持株会が認められた経緯を考慮に入れれば、通常の従業員持株会とのバランス上、認めても差し支えないように思われる。グループ化拡大従業員持株制度についても同様である。法文上どのように解しても認められないというのであれば、認められるように立法化すべきであると考える。
(17)  同法一八六条第三、四項によると、所定の手続きを踏むと新株引受権の一部または全部を排除することができる。そのうえで従業員に対して新株引受権を与えるという方法で、従業員株式が発行できる。
(18)  同法一九二条第二項第三号によれば、株主総会は、従業員に対して、新株引受権を与えることができる。その際、その払込は従業員が会社から与えられた利益参加(Gewinnbeteiligung)に基づく金銭請求権により行う。
(19)  同法二〇二条第一項によると、定款に取締役会に対して一定の額まで増資することを授権することができるが、それとともに、同四項により従業員への交付を規定することができる。この場合は現金での払込もできるし、年間剰余金のうち利益積立金に繰り入れる部分をこれに当てることもできる(二〇四条第三項、五八条第二項)。
(20)  このことを証明するものとして、グスキおよびシュナイダーの調査によれば証券取引所での自社株取得が多い(従業員株式発行会社の四四・一%)ようであるが、その次に認可資本によるもの(四二・七%)が多い(Vgl. Peez, a. a. O., S. 68−69.; Guski/Schneider, Betrieb-liche Vermo¨gensbeteiligung in der Bundesrepublik Deutschland-Eine Be-standsaufnahme)。
(21)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 69−70.
(22)  Vgl. Guski/Schneider, Btriebliche Vermo¨gensbeteiligung in der Bundesrepublik Deutschland-Eine Bestandsaufnahme.
(23)  ただ、古い資料ではあるが、商事法務研究四四八号の座談会(前掲本章第二節注(18))九頁によると、入社後一年か三年で区切っている会社が多いという。これは資金力(信用)の乏しさ等の他、本文で指摘した点が挙げられる。
(24)  野村證券累積投資部前掲第一章第二節注(18)一二−一三頁参照。
(25)  後者は持株会規約のひな型で明確にされている(野村累積投資部・前掲第一章第二節注(17)四六頁(参考3第五条)参照)。
(26)  野村累積投資部前掲第一章第二節注(17)四八−四九頁(参考3第二〇条)参照。
(27)  河本一郎・現代会社法(商事法務研究会、新訂第七版、一九九五年)五頁、酒巻俊雄=志村治美編・会社法(青林法学双書)(青林書院、一九九四年)九三−九四頁(吉井担当箇所)、鈴木竹雄・新版会社法(法律学講座双書)(弘文堂、全訂第四版、一九九三年)一〇七頁、龍田節・会社法(有斐閣法学叢書)(有斐閣、第五版、一九九五年)二〇九、二一二頁、森本滋・会社法(現代法学)(有信堂、第二版、一九九五年)一四六頁、弥永真生・リーガルマインド会社法(有斐閣、改訂版、一九九五年)四五、四七頁等参照。
(28)  戦前は譲渡制限が認められていた。これが財閥の権限強化に役立っていると考えたGHQ(連合国最高司令官総司令部)の意向を受けて、株式の譲渡を戦後の改正(昭和二五(一九五〇)年)で絶対的に自由とすることにしたが、多くの中小企業ではこの規定にもかかわらず株主間で譲渡制限契約を締結するなどして事実上譲渡制限がなされていたため、昭和四一(一九六六)年の改正で現在のように譲渡制限が認められたことは周知の通りである。
(29)  詳細は、上柳克郎「株式の譲渡制限---定款による制限と契約による制限」河本一郎=神崎克郎=河合伸一=岡本昌夫=前田雅弘=森本滋=上柳克郎(以下河本=神崎他と略する)『従業員持株制度(企業金融と商法改正1)』(有斐閣、一九九〇年)一一五−一三一頁、前田雅弘「契約による株式の譲渡制限(以下論文((1))とする)」法律論叢一二一巻一号一八−四六頁、同「契約による株式の譲渡制限(以下論文((2))とする)」河本=神崎他『従業員持株制度』一三三−一四五頁、山本為三郎「定款による株式譲渡制限制度の法的構造」『現代企業法の諸相(中村真澄教授・金沢理教授還暦記念論文集第一巻、一九九〇年)』一三五−一六三頁、同「会社の行う株式の譲渡制限について」法学研究六六巻一号一四三−一六六頁参照。なお、従業員持株制度と株式譲渡制限との関係については、これらのほか、南保勝美「従業員持株制度における株式買戻」法律論叢六七巻四・五・六号三九九−四二二頁、藤原俊雄「契約による従業員持株の譲渡制限」法経研究四一巻一号一−三一頁参照。
(30)  神崎克郎「従業員持株制度における譲渡価格約定の有効性」判例タイムズ五〇一号六−七頁参照。
(31)  市川兼三「従業員持株制度における退職時の株式買戻(中)---ワールド平成三年事件---」商事法務一三二二号二八頁同旨。
(32)  石井照久=鴻常夫・会社法第一巻(商法「IIー1)、一九七七年、二二二頁、大隅健一郎=今井宏・新版会社法論(上)、一九八〇年、三五四頁、前田前掲本節注(29)論文((1))三八、三九頁、前田前掲本節注(29)論文((2))一三九頁参照。
(33)  契約の態様に関しては、先買権の設定、売却申込義務の設定などが考えられているという(前田前掲本節注(29)論文((1))二九−三〇頁参照)が、ここで問題にするのは契約内容であるから、これについては触れない。
(34)  一九六五年の改正株式法の趣旨の中には、基本法(憲法)の原則との調和を図るという意味もあった。それは、株式法政府草案理由書にも記されていることである。また、河本教授も、「基本法の中にもられている三つの原則、換言すれば、自由な人格の発揚、私的所有権の保障と同時にそれの社会的拘束という諸原則に株式法を調和させるというもの」が目的としてあったと述べられている(河本他・従業員持株制度のすべて(前掲はじめに注(2))二八頁参照)。
(35)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 73.
(36)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 72−73.
(37)  この点、公序良俗違反という基準を用いて譲渡制限契約の内容の効力を検討する見解に対しては、とりわけ会社と株主の間の契約については、そのような会社内部における公序良俗とは、結局は二〇四条一項但書の立法趣旨に他ならないとする指摘もあるが(前田前掲本節注(29)論文((2))一三九頁参照)、会社と株主との間とはいえ、契約内容は会社法の領域内に限られるものではなく、とりわけ従業員株主が当事者である場合には、労働法、財産形成促進法等にも関連する場合があり、単純に公序良俗の指すものが即二〇四条一項但書の立法趣旨であるというようには解せないと考える(南保前掲本節注(29)四一六頁ほぼ同旨)。
(38)  神崎克郎前掲本節注(30)六−七頁参照。
(39)  従業員の有する株式が株式市場に対して与える影響は、発行株式総数に占める割合の大きさに比例することは疑いないが、市場価格のPKO(Price Keeping Operation 株価維持操作)またはPLO(Price Lifting Operation 株価上昇操作)のために利用することは厳に避けなければならない。これを理由とした譲渡制限契約が、後々従業員の経済的利得につながるとしても、公序良俗に反するものであることは言を待たない。
(40)  公序良俗という一般条項を基準にするのは他に手段がない場合に限定すべきであるが、従業員持株制度に関する法律がない現状では、とりわけ二〇四条一項の規制がおよばない事例においては当該一般条項を基準とするほかない。なお、前掲本節注(37)参照。
(41)  吉戒前掲本節注(5)三頁参照。
(42)  もっとも、持株会理事長等がなす株式の管理を、委任に基づくものと構成するのか、信託契約に基づくものと構成するのかで重大な差異が生じる。これは、信託銀行方式であるか証券会社方式であるかを問わず、一つ問題となろう。すなわち、両方式とも、持株会理事長等を介して、二つの契約がなされるわけであるが、一方の証券会社または信託銀行との契約については、証券会社は委託契約、信託銀行は信託契約と明確に運用されているようである(野村證券前掲第一章第二節注(1)八九頁参照)。しかし他方の従業員各人との契約についてはまた別の契約が結ばれることになる。
  これについては、実務上証券会社方式では理事長が、会員従業員を共同委託者とする管理信託財産を管理する受託者となり(持株制度に関するガイドライン第二章一二、野村累積投資部前掲第一章第二節注(17)四七頁(参考3第九条)参照)、信託銀行方式では理事長が会員従業員の代理人となって、信託銀行と各会員間の信託契約を代行する形式となっているようである(新谷前掲第一章第二節注(12)三一四−三二一頁(資料六)参照)。すなわち、実務上理事長の信託法上の問題が生じるのは証券会社方式のみである。そしてこの場合、受託者たる理事長等には重い義務が課される(牛丸前掲第二章第二節注(19)論文(7)三一頁参照)ことは前述した。そのように会社にとって不利な面もある証券会社方式が圧倒的に多いのは、この信託法上の厳格な義務について会社側が認識していないことが原因なのであろうか。税負担の面からも、証券会社方式の優位性は見いだせないように思われる(新谷前掲第一章第二節注(12)五三−五五頁参照)。
(43)  新谷前掲第一章第二節注(12)三五−三六頁参照。
(44)  ただし、証券会社等にその管理全般を委託することが実務上は多いという(野村累積投資部前掲第一章第二節注(17)二−五頁参照)。そうであるなら、持株会の存在意義は管理以外の点に求めなければならない。
(45)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 74−75.
(46)  Vgl. Wolfgang Drechsler, Indirekte betriebliche Beteiligung, in: MAB, K. 6290, S. 4−5.
  シュナイダーおよびツァンダーによれば、
・「直接参加と比較して、間接的構造は長所を示すことができる。
・従業員団体の「プール的性質」は、会計書類および管理上の任務を簡素化することが可能となる。
・従業員と雇用企業との間には全く契約は存在しない。企業の側からすると多様な契約を、従業員団体との一つの契約的結びつきに軽減することができる。
・従業員団体が投資政策においてその形態を任意に形成する余地が認められる可能性により、財政政策上の自由な行為の余地が生じる。
・「法人団体」の中間形成により、労働者および社員たる地位は結果として切り放され、従業員参加は会社法へと移る。
・要するに間接的解決は全体としての参加モデルに「より多くの」柔軟性を与える」という(Schneider/Zander, a. a. O., S. 194, 198−199)。これらから、日本と同様に、間接参加も一面で評価されつつあるようである。
(47)  管理全般を証券会社等に委託することが多いことはすでに述べた(前掲本節注(44))。持株会が会社に対してかなり独立性を有するようになったことは評価できる。
(48)  Vgl. Drechsler, a. a. O., S. 3.
(49)  これを事業持株会社とする可能性は存在する。これについては、後日別稿にて詳述する予定である。
(50)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 76.
(51)  牛丸前掲はじめに注(4)「従業員持株制度の法律上の諸問題」七頁参照。
(52)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 97.; Peterssen, a. a. O., S. 115.
(53)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 98−99.; Steinbrink, a. a. O., Sp. 137.
(54)  田端前掲第一章第二節注(29)三九頁等では、従業員持株制度は、個人投資家育成の機能を有していると述べられている。
(55)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 81.
(56)  北村英章「平成五年度株式分布状況調査結果の概要」商事法務一三六五号一七−二五頁参照。
(57)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 81.
(58)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 88−91.
(59)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 93−96.
(60)  このことは株式投資の大前提として、従業員持株制度にあっても維持すべきであると考える。下落の際にも取得価格で買い取るとなると、一般の株主との平等が害されるだけでなく、さらに広い意味での証券取引の公正が害される。また、取得価格で買い取る旨の約定は、通常株価が上昇することを念頭に置いてなされるものであろうが、ここにおいても、それが公序良俗に反し無効となりうることはすでに述べた。これとの関連でも、取得価格での買取は認められない。
  また、実際界および裁判所は、とりわけ裁判で問題となるような従業員持株制度においては、株式を提供しているという意識よりも、むしろ社内預金的に考えているのではないか、との指摘がある(河本=神崎他前掲本節注(29)『従業員持株制度』八〇頁(森本発言)参照)。しかし個人投資家育成の意味がなく、証券市場の要請に応えられない。
(61)  Vgl. Peez, a. a. O., S. 104−106.


第四節  補説---「従業員持株制度」の定義
  この節においては、補説として、これまで述べてきた点をふまえて、「従業員持株制度」の定義について述べたい。
  日本においてはドイツ以上に、というよりもむしろ全く、従業員持株制度に関して直接規定する法律がない(1)。実務において形成され、多くの法分野にまたがる制度である従業員持株制度を、法形式上定義することは困難であり、この節に至るまで定義を確定しなかったのもそのためである。
  そのような従業員持株制度を、あえて定義するとすればどのようになるか、現在に至るまで、従業員持株制度はどのような定義を与えられてきたのであろうか。学説上は、一般には「会社がその従業員に特別の便宜を与え、自社株を長期にわたって継続的に買い付け保有させることを経営方針として採用し、これを推進する制度」とされているようである(2)。また、「会員に資金を拠出せしめ、場合によっては会社が奨励金などの特別の便宜を与え、株式を共同購入してこれを共有し、拠出額に基づいて持分の配分計算する制度をいう」という定義もある(3)。さらに、従業員持株制度の意義は必ずしも明確な定義はないと前置きした上で、「従業員が組織的継続的に自社株投資を行うのに対し、会社がそれに経済的援助を与え、自社株取得および保有を促進する制度であるということができる」との定義付けをされる文献もある(4)
  実務ではどうか。全国証券取引所協議会が把握する「従業員持株制度」とは、「会社が常設機関として持株会を設置し、持株会の加入者である従業員が毎月資金を拠出し、その資金で持株会が継続的に当該会社の株式を購入する仕組み」であり(5)、また日本証券業協会においては「従業員が、自社の株式の取得を目的として持株会を組織し、その運営を行うもの」をいう(6)(7)
  従業員持株制度を、実務界の要望通り、今まで以上に発展させようとするなら、明確な定義付けをなす必要があると考える。なぜなら、従業員持株制度の内容が各社で異なっており、制度全体として曖昧なものであるなら、それに対する従業員の信頼を得ることは困難だからである。後にも述べるが、従業員持株制度立法を作成し、一定の基準を満たす従業員持株制度のみを、従業員持株制度として奨励することによって各社の制度内容をより良好なものとするとともに、内容につき従業員に情報を詳細に開示することを法律上要求するなどすることによって、従業員持株制度に対する信頼が高まり、より一層の発展が期待できるものと考える。
  では、どのように定義づけるのが適当か。上述の点を勘案して、従業員持株制度とは、「会社が、自社従業員に対して、従業員の財産形成、従業員の会社に対する関心の向上等を目的として、株式を提供する制度」である。この定義の重要な点は、((1))会社が多少なりとも関与していること、((2))従業員、会社および株主に利益となる目的、とりわけ従業員の財産形成促進、会社に対する従業員の関心の向上という目的を有すること、((3))(((2))に関連して)中長期的に従業員が株式を保有するような、継続的な制度であること、である。
  ((1))について。会社もしくは会社に準じる団体が関与していることが必要であることは実務、学説とも一致した考えであろう。従業員の自発的意思による「従業員持株会」は、先述したように株主間の契約法上の行為であって、私的自治の範囲内である。会社が介在することによってはじめて、会社全体の問題として会社法の領域に関連するものとなり、また、会社対従業員の関係であるから、一見私的自治の範囲内とはいえ、そこには強者対弱者の関係がある以上、労働法上に見られるごとく、私的自治の原則の修正があってしかるべきである。
  持株会の介在については、重視しない。ドイツがそうであるように、従業員に自社株式を提供するということにつき、持株会の存在は必然ではないからである。持株会の利点は、会社の会計上の煩雑さを避けるためということにつきると考えるので、会社がそれにもかかわらず会社自体で管理運営することは、それだけでは法律上は問題とはならないであろう。むしろ、持株会の有無にかかわらず、会社に対する従業員株主の意見表明の機会(その中心となる議決権の行使)が保障されているか否かが問題である。そしてこれが保障されていない限りは、従業員の会社に対する関心の向上という目的、さらに詳しくいえば従業員の経営参加という目的に適さないと考えられるので従業員持株制度として認めることはできない(8)
  持株会との関連でもう一点問題点を挙げておくと、従業員の福利厚生団体が、他の活動(業務)とともに従業員に対する会社からの自社株の提供の管理も行い、いわゆる持株会と同様の行為をする場合、これは従業員持株制度に含めてよい。福利厚生は会社の主導のもと行われ、また従業員の財産形成等の目的で行われるのが通常であるからである(9)
  会社の関与には、奨励金等の経済的援助があることが要件となるか。私は不要であると解する。経済的援助があるときにはとりわけ株主に対する利益供与の問題が生じ、これを法的に検討する必要があることは当然であるが、援助がなくても、会社が関与している以上は、間接的ではあるが従業員に対する出資の強要になる可能性はとりわけ閉鎖会社ではあり得る。また、上場を目前に控えた会社にあっては、株式を援助なく通常の価格で譲渡したとしても、利益供与的な意味合いが生じないとはいえない。
  ((2))について。目的については一節を設けてすでに詳細に論じたが、従業員持株制度の目的が正当なものでなければならないことは当然である。基本的には従業員の財産形成及び従業員の会社への関心向上を主たる目的とすべきであろう。先述したとおり、安定株主形成等は、目的としては妥当ではない。従業員は一旦取得した自社株式をみだりに手放すことは少ないという報告もあるが、このように実際上安定株主たることを期待するにとどめるほかはない。
  ((3))について。従業員の財産形成促進を念頭に置くならば、中長期的な視野で継続的に従業員持株制度が行われなければならない。一時的、間歇的なものは制度に含めない方がよいとの方向性が見えてくる。それはまた、奨励策の恩恵を受けんがための形式的な制度設置を助長しないためにも必要であろう。
  ここで一旦、ドイツの従業員持株制度の定義を見てみたい。端的に言ってしまえば、定義に関する議論については日本同様、厳格なものを求めることは困難である。両国において従業員持株を定義する法律はなく、従業員株式を奨励(免税等)する法律がある点では日本よりは定義をなす理由はあるが、そうはいっても従業員株式をとりわけ他の一般の株式と区別するべき理由がないからである(10)。というのは、例えばカール・ハインツ・クネッパー博士が、「従業員株式」につき法律上規定された概念や明確に理解される事柄を表しているわけではないと指摘している(11)ことからもうかがえる。その点を認識した上で、ドイツ従業員株式を定義するとすれば、三つの特徴があると言える。第一に「株式会社(または株式合資会社)がその自社株を従業員に対して優先価格で、同時に譲渡禁止期間の取り決めをして譲渡する」ということである。第二に「この根拠が労働法上の合意(arbeitsrechtliche Vereinbarung)に基づくが、そこでは株式により生じる社員(Gesellschafter)としての権利には触れられない」ということである。第三に、「従業員株式は、なんら特別の、優先的または劣後的権利を表章するものではない」ということである。つまり、株主平等の原則の結果、一般の株式と同様経済的利益もリスクも内包するものであるということである。もっとも従業員株式を無議決権優先株式とすることは時折あるようである(12)。また、様々な学者が様々な定義を行っている(13)が、これもまた従業員株式の定義づけは現在のところあくまで自己の論文の主題をはっきりさせるためにすぎない。私自身の見解では、従業員株式は日本の持株と同様、会社が自社の株式をその従業員に対して何らかの奨励をして交付する制度である、ということでよいと思う。ただし、繰り返しになるが、これにつけ加えて、ドイツにおいては当該制度は従業員の資本参加および社会政策としての勤労者財産形成促進の一環として位置づけられているということは強調しておくべきであろう。従業員株式については資本参加の各形態の中でも様々な意味で特に優れたものであるとの論調が強い(14)。「ドイツは、財形制度に古くから関心をもち、国家社会政策の重要な一分野として、一九五〇年代から財形法を制定して推進に努めてきた」という指摘がある(15)が、日本とは違って政策的配慮が随所になされていることは第一章で述べたとおりである。それゆえ厳密に言えば会社だけでなく国による奨励もあるが、会社が(自己の利益のため)奨励策を講じないで国の奨励のみ行われるということは事実上あり得ないので上述のごとき定義でよいと考える(16)
  ドイツにおいてはこのように国からの優遇措置を受けることが、従業員持株制度の利点である。日本では国からの奨励はないし、また奨励を提唱することが困難であることは国民の税金を利用することからも当然である。しかし奨励されなくとも、従業員持株制度が証券会社、信託銀行主導のもとで行われるものではなく、立法により規制されるものである必要は、それが労働者の保護と関連し、また、諸先達が様々に理論を展開して解決してきた法律的諸問題からも、是認されることであると思う。それは、社内預金制度が国からの経済的援助はなくても、労働省の奨励によって規制が加えられているのと同様に考えることができよう。国の経済的援助も必然ではない。したがって、会社が従業員の福利厚生のために実施する制度である、という点から出発する前述のような定義が妥当と考える。


(1)  自己株式取得規制緩和との関連で従業員持株制度に関する法律の条文ができたことはすでに述べた(商法二一〇条ノ二平成六年法律第六六号)。また、証券取引法にも従業員持株制度という文言はないが、使用人への譲渡に供する目的での自己株式取得や内部者取引に関する関連条文がある(証券取引法二四条の六、二五条等に前者に関する規定があり、一六六条五項各号(とりわけ八号)に、内部者取引の禁止規定の適用除外事項が列挙されている)。その他、間接的に関係のある条文は多数存在する(河本他・従業員持株制度のすべて(前掲はじめに注(2)一一九−一三三頁参照)が、どれも直接従業員持株制度を規定するものではない。
(2)  河本=神崎他『従業員持株制度』(本案第三節注(29))二頁参照。
(3)  太田昭和監査法人『持株制度運用の実務』(中央経済社、改訂三版、一九九〇年)一頁。
(4)  新谷前掲第一章第二節注(12)二頁。
(5)  田端前掲第一章第二節注(29)二八頁参照。ただし、これに「多くの場合、会社から持株会に対し、奨励金として一定の補助金が与えられている」との文言が付される年度がある(北村前掲同注(29)二七頁)。
(6)  新谷前掲第一章第二節注(12)二八七頁(資料(一))参照。
(7)  判例においてはどうであろうか。私の把握している限りでは裁判所自身で定義付けをしているものはない。単に事実として「・・・持株会は、熊谷組および同社が全額出資する子会社の従業員が、少額資金を継続的に積み立てることにより熊谷組の株式を取得し、もって従業員の財産形成をなし、会社との共同体意識の高揚を図るという目的で設立した団体とされており・・・」(福井地裁昭和六〇年三月二九日民事第二部判決(判例タイムズ五五九号二七五−二七九頁))とか、「従業員の財産形成に寄与するという従業員側の利益と、従業員に被控訴人の株式を取得させることにより愛社精神を高揚させ、会社との一体感を強めて会社の発展に寄与させるという会社側の利益とをその目的として、係長以上の役職にある従業員を対象とする従業員持株制度の導入を・・・」(名古屋高裁平成三年五月三〇日民事第四部判決(判例タイムズ七七〇号二四二−二四九頁))といったように認定しているのみである。これは紛争の解決のために従業員持株制度の定義付けが不要であったことから致し方ないことであろう。
(8)  持株会については、前述の全国証券取引所協議会や日本証券業協会のように持株会の設置を重視しているものも多い一方で、先の述べた定義のほか「従業員持株制度とは、会社がその従業員に自社の株式を取得させるために何らかの便宜を供与する制度をいう。すなわち、この制度の目的は、会社の従業員をして自社の株式を取得させることにあり、そのための手段として、便宜を供与するのである。従って、従業員持株制度の直接の結果は、従業員によるその会社の株式の保有である」(味村前掲第一章第二節注(4)(上)二頁)というように持株会の設置を重視しない定義もある。
(9)  市川第一章第三節注(1)三頁によると、「本稿で用いる資料との関係により」との限定付きではあるが、「従業員の共済会や互助会ないしこれに類似する福利厚生団体が自社株式を所有するとしても、これは従業員持株会による株式所有には考えないことにする」とされている。私は、財産形成促進を前面に出す近時の持株制度においては、福利厚生団体が、福利厚生目的で会社からの援助を受けて株を買い付け、従業員に提供しているような場合は従業員持株制度に含めてもよいのではないかと考える。あるいは、市川教授は、そのような福利厚生団体が、団体の資金運用目的で株式を所有する場合のみを考えておられるのであろうか。もしそうであるのであれば、それは単なる機関投資家であって、教授の見解の正当性は明白である。
(10)  河本他・従業員持株制度のすべて(前掲はじめに注(2))七頁によると、「普通の株式は、会社の財務政策の達成の目的でもって発行されるのに対して、従業員株は、経営社会政策的目的(betriebssozialpolitische Ziele)の達成のために発行される」という。この点での差異は私も同感であるが、大株主としての国が低所得者層に分譲する場合は従業員株式ではないとする点、若干の疑問がある。というのは、国営企業が、民営化する際に従業員持株制度が利用されたという事実がある(第一章第一節第一項参照)が、これはもちろん従業員への提供を通じて一面で低所得者層に対する資本の分散という意味もあったわけである。これは従業員株式ではないとはいえないのではあるまいか。
(11)  Karl Heinz Knepper, Die Belegschaftsaktien in Theorie und Praxis, in: ZGR, Ma¨rz 1985, S. 419.
(12)  Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 186.
(13)  参考までに他の定義を掲げておく。Edgar Castan は「従業員株式とは、被用者が所有する、自社の株式資本に対する持分であり、使用者がその取得を援助したものである」とする。また Klaus Steinbrink は「従業員株式のもとでは、株式は雇用会社によってその従業員に交付され、その際企業監督の社会政策上の動機づけが主要な役割を担わなければならないものと理解される」という。そのほかにも多数の定義づけがあるが、大きな差異はないので割愛する。
(14)  Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 185.
(15)  労働問題リサーチセンター他前掲第一章第一節注(20)一三頁参照。
(16)  ドイツの定義付けから示唆を受けるべき点はないか。本文ではあくまで本論文の主題を明確にするためのみに日独の定義付けを検討したが、ここで若干述べる。端的に言えば、ドイツでは財産形成促進を目的として国の助成がある一方で、従業員株式を他の株式と全く同列に扱っている点を強調すべきであろう。それは、持株会のようなものを介せず直接に会社に参加する形態が現在のところ(近時間接参加が普及する兆しを見せてはいるが)主流である点からも見受けられる。持株会を介すると、株式が社員たる地位の表章とは別の意味あいを有するように思えてならない。この危惧が、現実化しているケースは稀ではあるが、しかし厳然としてあると思われる。


総      括
  以上、これまで述べてきたことを要約すれば、以下のようになる。まず、第一章において、日本とドイツの従業員持株制度の実態について述べた。日本においては、従業員持株制度は会社が自己の利益となる点を考慮して発展し、今日の定着を見、ドイツにおいては、低所得者層への資本の分散等を目的として、国営企業の株式放出等を通じて行われてきた、すなわち、日本では会社の視点が、ドイツでは国の政策的視点が、従業員持株制度の基点であった。そして日本では従業員持株制度に対する国の奨励策はなく、ドイツでは税制上の優遇策等、国の積極的施策があった。ただそうはいっても、日本でも従業員、すなわち労働者の利益を無視したわけではなく、ドイツにおいても、会社の利益を無視したわけではないという点で、日独の従業員持株制度の差異は、単に力点の置き場が違うだけであり、本質的な差異ではない、ということが言える。
  第二章では、日独の従業員持株制度の比較を通して、従業員持株制度の現代的意味に基づく本質を検討した。ある制度の本質を解明する際に最も重要であると思われる制度目的を、一節を設けて詳細に論じた(第二節)。従業員持株制度の制度目的は、大まかに分けて経営上の目的、社会福祉政策上の目的、国家の社会経済政策上の目的の三つに分類することができ、先にも述べたように、日本では第一の目的に、ドイツでは第二、第三の目的に力点が置かれている。詳細はここでは繰り返さないが、日本においては、従業員持株制度の整備がさらに進み、国からの奨励も行われるのであれば、制度目的から生じる効果も、今以上のものが得られるであろう。第二、第三の目的は、会社法の分野においても、またそれ以外の法分野においても重要なものが多い。現在の日本の労使協調のもとでは問題とならないことではあるが、従業員持株制度は、従業員の会社に対する関心の増大とも相まって、コーポレートガバナンスの一翼を担い得るし、財産形成促進法との関連では社会保障的側面も有する。ただ一言つけ加えれば、問題となる制度目的もある。とりわけ安定株主の形成については、会社を害する目的でもある(第二項第一款((5)))。
  そのような様々な目的を担う従業員持株制度を、どのように運用していくか、目的に資する形態はどのようなものか、詳細に論じた(第三節)。適切な目的設定も、制度自体がそれを実現できるに足るものでなければ用をなさない。
  そして第二章の最後に、補説として、従業員持株制度の定義を試みた(第四節)。定義を先に提示しなかったのは、従業員持株制度の内容が非常に多岐にわたり、また実務の必要から生じた制度であることから、「はじめに定義ありき」の態度では、制度の本質を見誤ると判断したからである。
  最後に、このような議論を前提に、従業員持株制度の現代的意義を探りたい。これまでみてきたように、日本の従業員持株制度は、会社の利益に資するものであるという点から出発したものではあるが、事実上従業員の財産形成に役立つものであるからこそ、ここまで発展してきたのである。したがって、従業員持株制度が、今後一層の発展を遂げるためには、勤労者財産形成制度の一種であると事実上認識できるし、そのように認識すべきである。それゆえドイツと同様に勤労者財産形成促進法に基づく国の援助があってしかるべきであると考える(1)。しかし、ドイツで従業員持株制度というあらゆる企業形態の中の一部にすぎない株式会社で利用できるだけのものを援助することについては労働者間の不平等につながると批判があったように、現在においては日本でもこれを国民の税金を利用して援助することについて国民を納得させることが、第二章第二節で詳細に論じた制度目的、とりわけ社会的、国家政策上の目的を示すだけでは困難であろう。また、国に財源を求めることの不安定さも考えられる(2)。すなわち、国も景気の影響を受け、不景気の際には福祉等の予算が削減されることはよくあることである。
  そこでこのような国の援助を最終目的としつつも、現状では困難な状況にあることから、従業員持株制度を従業員の財産形成及び会社への経営参加といった正当な目的につき効果を上げることで、まずは従業員持株制度に対する国や労働者の信頼を得る必要があると考えるのである。具体的には、実質的にも法的にも適正な制度としての従業員持株制度を定義づけることによって、違法、不適切な形態を減じる方向に向け、また会社法に反しない範囲で一定の会社からの奨励を義務づけるのである。これは、社内預金制度が、各社の独自の福利厚生制度でありつつも、労働省令により最低利率を六%(現行三%、第二章第二節第一款((6))参照)にされていることと照らし合わせても、不可能なことではなかろう(3)。また、社内預金制度は、その高負担の中多くの会社で廃止の検討を行っているというが(4)、そうであれば、社内預金に代わる制度として従業員持株制度がそのような取扱いを受けても、労働者の貯蓄の選択の幅を広げるという意味で有益であろう。ただし従業員持株制度が、元本保証の制度となることは、企業の財政負担の問題もあり、また個人投資家育成の目的にも合致しないことから認めるべきでなく、あくまで株式投資であることを堅持すべきである。
  このような立法化を図ることが、停滞気味の従業員持株制度を再び発展させるために必要であると考える。ただ、これは従業員持株制度が良い方向に発展する一つの契機にすぎず、再び様々な問題が生じるであろうことは想像に難くない。従業員持株制度発展の初期の段階から、あまりに過度の期待をかけるべきではない(米国でも「あまり多くの卵を一つのバスケットに入れることは危険だ」といわれていた(5))と指摘されていたことは前述した。私自身、そのような様々な問題を今後も検討し、従業員持株制度の発展に深く関わりたいと望むのである。

(1)  個人投資家育成の観点からも、従業員持株制度に対する援助を求める意見はとりわけ実務家から多く発表されている(田端前掲第一章第二節注(29)三九頁等参照)。
(2)  労働問題リサーチセンター等前掲第一章第一節注(20)一六頁では、ヘキスト社における財形制度を紹介しており、ヘキスト社の担当者も優遇措置の縮小の場合の、制度存続に対する危惧を述べられている。
(3)  社内預金の性質については銀行預金と同種のものであるとの見解と会社に対する貸付金であるという見解とが対立しており(日経新聞一九九五年六月三日付朝刊参照)、仮に後者の見解をとればそれはドイツにおける従業員貸付(Mitarbeiter-Darlehen)であり、他人資本参加と解することができる。その意味で社内預金制度と従業員持株制度を比較することは不可能なことではない。
(4)  日経新聞一九九五年六月三日付朝刊参照。三%に最低利率を下げる措置も、廃止とならないようにしようとの配慮からである。
(5)  第一章第二節注(3)「各社に従業員持株制度採用の機運」八頁参照。


訂正〕  第一章第二節表中、平成元年度の上場会社数が「二、三〇一社」となっているが、「二、〇三一社」の誤りである。

後  記
  現在までに公表された従業員持株制度に関する論文は非常に多く、また内容も多岐にわたっているゆえに、引用できなかったが示唆に富む論文も数多くある。本論文脱稿後にも、三枝一雄「従業員持株制度の商法上の問題点」法律論叢第六七巻第二・三号二〇七−二二四頁を目にした。また、実務上は自己株式取得禁止規制の緩和とも関連して、変動期にあるといってよい。実務書としては、本文に引用した野村證券累積投資部編『持株会の設立と運営実務』(商事法務研究会、一九九五年)のほかにも、太田昭和監査法人編『持株制度運用の実務』(中央経済社、第四版、一九九五年)を手にした。これらも私の研究には多くの示唆を与えてくれるであろうが、物理的制限もあり、深く検討することはできないままではあるが、ここでこれまでの研究成果を発表させていただくことにした。今後も従業員持株制度については研究対象とする所存であり、多くの示唆をいただいた諸先生方に心から謝意を表する次第である。
[再校]