立命館法学 一九九六年四号(二四八号)




◇論説◇
深夜交替制労働の現状と法規制の課題


吉田 美喜夫






目    次




一 は じ め に
 政府は一九八七年の「経済運営五カ年計画」で労働時間短縮を閣議決定し、一九九二年から一九九七年の計画期間中に週四〇時間制の実現を期し、年間総労働時間を一八〇〇時間程度に向けできる限り短縮するとした(1)。また最近では、労働大臣が過労死の防止のために日経連に労働時間の管理の適正化を要請するとともに、全国の労働基準局に対し、企業に対する指導、監督を徹底するように指示を出した(2)。また、文部省も家庭の教育力を向上させるため、親子の接する機会が増えるように労働環境づくりへの協力を経済五団体に対し要請した(3)。
 このように、行政当局の時短への意気込みは認められるし、過労死の防止も意識されているといえる。しかし、たとえば二〇三名の過労死事例の調査の結果、深夜勤務従事者が六二例を占めていたという報告(4)にも見られるように、深夜労働ないし深夜交替制労働が過労死の有力な原因になっているにもかかわらず、その規制のために断固とした方針が打ち出されていないだけでなく、むしろ逆に、女子の深夜業禁止の撤廃が「規制緩和」の一環として議論されている状況である(5)。
 たしかに、企業間競争が激化しているという事情の下で、操業時間を維持ないし延長しようとする要請と労働時間の短縮という要請とを両立させるためには、交替制を採用する必要もあろう。つまり、時短を進めるための交替制の場合のように、個別の労働者の労働条件改善の意味を有する交替制というものもありうる。しかし、交替制が容認できるからといって、深夜時間帯も含む交替制を同列に論ずることはできない。後述のように、深夜交替制労働は大きな弊害を伴うからである。このことは一般に知られている事実であるにもかかわらず、深夜交替制労働に対して従来一般的な法規制が行われて来なかっただけでなく、八〇年代半ば以降の労働時間法制の改正の際にも規制は加えられなかった。
 しかし、最近の「24時間型社会」の進展の下では、今以上に深夜交替制労働が労働者一般の問題となる可能性があるだけでなく、第三次産業では、不規則で昼間労働と異なる労働の質・量の交替制が普及する可能性もある(6)。
 このように、深夜交替制労働という弊害の大きい労働形態が放置され、さらに拡大する可能性がある状況の下では、その規制のための本格的な立法論議を行う必要がある(7)。しかし本稿では、さしあたり深夜交替制を法的に規制しようとする場合の基本的な問題に限定して検討することにする。

二 深夜交替制労働の現状
[1] 交替制労働の意義
 本稿では、交替制労働一般ではなく、深夜交替制労働を問題にするが、その前提として、まず交替制の意味を確認しておく必要がある。
 交替制労働とは、普通、労働者をいくつかの組に分けて、一定の周期ごとに勤務時間帯を変える労働形態をいう(8)。そして、交替制には、組数、交替数、時間帯、各勤務の順序、一周期の長さ、非番の日数、休日の配置などに応じて様々な種類がある。ある調査では、交替制を採用する七一六事業所に計一二三五種類の交替制度が存在していたことが明らかにされている(9)。
 ところで、交替制労働を問題にする場合、重要なことは、いかなる視点から問題にするかということである。そこに含まれている労働者保護に反する要素を問題にすることが課題であるとすれば、当該の交替制が深夜労働(10)を含む形態か否かを重視する必要がある。この場合には、深夜の時間帯を含まない交替制は議論の対象から外しても構わないが、逆に、深夜の時間帯にのみ固定されて労働に従事する形態(11)は交替制労働の先の定義に該当しないが、議論の対象に含める必要がある。この点で、後述の労働省の「賃金・労働時間制度総合調査」は、交替制の分類に当たって、深夜業の有無と操業の連続性とが十分に視野の中に入っていない弱点があるといえよう(12)。本稿では、以上のような認識から、交替制労働一般ではなく、とくに「深夜交替制労働」を検討対象にしている。
 なお、交替制労働の一部として行われる深夜業ではなく、深夜業そのものについて検討する必要があるかも知れない。しかし、後述のように、深夜業は交替制の一部として行われる場合でも弊害が大きいのであるから、ましてや深夜業にもっぱら従事するなどという労働形態は一層問題があると考える。したがって、以下では深夜業一般については検討せず、それは女子の深夜業の是非という問題との関連でのみ扱うことにする。
[2] 深夜交替制の採用企業数および交替制従事者数
 では、深夜交替制労働にどのくらいの労働者が従事しているであろうか。この点を明らかにする十分な調査がないのが現状である。たとえば労働省調査(13) (以下、「一九九二年調査」という)によると、交替制労働の採用状況は、一九九二年の場合、企業数の割合で一五・二%、労働者比率で八・四%である。ただし、この調査は、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸・通信業、卸売・小売業・飲食店、金融・保険業、不動産業、サービス業という日本標準産業分類に基づく代表的な九大産業に対象が限定されているばかりか、企業規模も三〇人以上が対象である。したがって、実際には交替制労働が採用されていることが明らかな第一次産業、海運、公務、医療などについて、一定の事業並びに零細な規模の事業が除かれていたり、独立の産業として区分されていないという問題がある。しかも、この調査は交替制の採用いかんを問題にしているのであって、それが深夜業を含んでいることを前提としていない。
 そこで、事業場規模一人以上で、かつ明確に深夜業を含む深夜交替制勤務採用実態に関する調査(14)について見ると、深夜交替制労働を採用している事業場の割合は一五・一% (事業場数約四六万事業場)、労働者の割合は一四・一% (約四六九万人)であるとしている。しかし、この調査対象も民営事業場に限られている。
 さらに、やや古いが、深夜業を含む交替制労働の有無を調査したものとしては、一九八五年一二月の労働基準法研究会第二部会報告で利用された労働省調査(15)がある。それによると、企業数割合一四・六%、労働者数割合一〇・四%としている。しかし、この調査も一九九二年調査と同じく九大産業の企業規模三〇人以上についてのものである。
 このように、行政レベルできちんとした実態調査すら行われていないのが実情である。そこである研究者は、労働省の「賃金労働時間制度等総合調査」を利用して、深夜労働を含むと予想できる三交替制と一昼夜交替制に従事する労働者数の割合を三・五%と推定している。また、総務庁統計局「社会生活基本調査」(一九九一年)と同「労働力調査」(一九九一年)を利用して、午前三時台前半に仕事に従事している人の割合 (三・〇四%)を基礎に、交替制でこの時間帯を含む深夜勤務につくものは、その三倍程度 (九・一二%)いるものとして二六七万人という数字を出している(16)。
 いずれにせよ、ほぼ労働者の一割程度が深夜交替制労働に従事しているといえるであろう。
[3] 交替制の採用形態
 交替制の採用状況を見る場合、もう一つ問題にすべきことは、労働者がいかなる形態の交替制に従事しているかである。なぜなら、同じ交替制でも、その形態によって労働者に対する負担の程度・内容が大きく異なるからである(17)。
 交替制の形態別の適用労働者の割合は、前掲労働省の一九九二年調査の場合、二交替制が四三・九%、三交替制が一五・九%、一昼夜交替制が九・〇%、その他が一五・七%である。このうち、予備直がなく恒常的に時間外、休日労働が必要となる二組二交替制が三四・〇%、三組三交替制が一一・八%である。さらに、二四時間ないしこれに近い連続勤務という非常に過酷な一昼夜交替制労働に従事する労働者の割合が依然として高いことに注目すべきである。逆に、週四〇時間・週休二日制、年休二〇日、その他の休日を含め一四三日の休日を可能にする形態である(18)五組三交替制下の労働者の割合は、一・一%に止まっている。ただし、五組三交替制も、人員増を伴わなければ、かえって各組ごとの構成人数が減少し、労働密度の増大、仮眠確保の支障、欠勤者の穴埋め出勤などにつながり、ゆとりの創造とは全く別物に堕する危険のあることには注意が必要である(19)。

三 深夜交替制労働に関する新しい変化
[1] 深夜交替制労働の拡大の背景
 深夜交替制労働の歴史は古い。すでに工場法の制定が論議されていた当時の一九〇九年には、一般的に深夜業が行われていたのは綿糸紡績業であり、そこで深夜業禁止の対象となる女子・年少者が約八万人いたとされるので、当時の全労働者約七〇万人の一一・八%に相当していた(20)。
 ところで、深夜交替制労働は、病院などの公共的必要や製鉄、化学などの連続操業に対する技術的必要のほか、減価償却を早めるためといった経済的ないし採算上の必要から採用されている。とくに企業採算上の理由から交替制を採用したとする事業所の割合は、やや時期は古いが、一九七六年段階で四四・四%であり、技術上の理由の三八・四%を超えていた(21)。
 このような傾向は、今日、一層強まっているといえる。なぜなら、「ME化」の進展は、ロボットに見られるように、連続操業を技術的に可能にするだけではなく、高額なME機器の導入は減価償却への衝動を強めざるを得ないからである(22)。また、経済の国際化と企業間競争が、とくに一九八五年のプラザ合意以降激化しており、国際的な金融取引に象徴されるような企業活動の二四時間体制化が一層進展している(23)。たとえば、一九八七年一〇月から民放テレビの二四時間放送が開始された(24)ことは、このような変化を示す象徴的な出来事である。
 こうして、本格的には八〇年代後半から都市全体の「24時間型社会」化が進行し、コンビニエンス・ストアー、深夜営業レストラン、そこに品物を運ぶ運送業、ガソリン・スタンドなどで二四時間営業が増大した。このうち、コンビニエンス・ストアーの場合(25)、一九九三年調査では、六〇%弱の店舗で二四時間営業、九二%強で年中無休営業が行われていた。しかし、家族経営の形態をとっていたり、店長や一部の管理職以外、パート、アルバイトで運営されているため、労働組合への組織化が不十分であったり、短期間の就労で止まるため、常夜勤も厭わないといった事情から、深夜労働の矛盾が表面化せず、潜在化している点に注意すべきである(26)。同じく、コンビニエンス・ストアーを含むファミリーレストラン、ホテルという対人サービスの三業種の深夜労働を調査した東京都立労働研究所「サービス産業における深夜労働と労働衛生(27)」でも、深夜労働が二〇、三〇代の若年層で、かつ、パート、アルバイトに大きく依存していること、正社員の方がパート、アルバイトより深夜業の受け止め方がはるかにネガティブである実態を明らかにしている。深夜業の拡大が不安定雇用と結合していく傾向を孕むとともに、そのような雇用形態が若年層で担われていることにより、矛盾の表面化が抑えられているのである。なぜなら、若年層の場合、健康や家庭生活への深夜業の悪影響が小さく意識されるからである(28)。
 このように、「24時間型社会」への変化に伴い、日常生活においても深夜交替制労働に接する機会が増えているが、実は、日常生活では直接接しない分野で、実際には多くの労働者がこの形態の労働に従事しているという点を看過してはならない。つまり、先の一九八六年労働省調査によれば、深夜交替制の採用事業場数の割合は平均で一五・一%であるが、高い業種を順に見ると、保健衛生 (二八・二%)、鉱業 (二四・五%)、製造業 (二四・四%)、運輸交通 (二二・八%)であり、それらは商業 (一・一%)、金融広告 (二・九%)、接客娯楽 (一三・二%)などよりはるかに高い割合となっているのである。
[2] 労務管理の「改善」に伴う変化
 最近の変化として注目しておくべきことは、時短との関係で新しい問題が発生している点である。なるほど、時短の推進と操業時間の維持ないし拡大を両立させようとすると、交替制が必要となるが、ここでいう問題は、そのようにして生じたものではなく、時短の推進を名目にして深夜交替制の内容の悪化が引き起こされているという問題である。
  (1) 郵便事業の場合
 まず、郵便事業の場合、一九九三年三月に導入された「新夜勤」により次のような変化が生じている。たとえば、渋谷郵便局の場合、三交替制がとられており、日勤の九時から一七時四五分 (休憩四五分を含む)、中勤の一〇時から一八時四五分 (休憩四五分を含む)のほか、夜勤として次のような勤務が行われている。すなわち、始業時刻に違いはあるが、午後三時四五分始業で、終業が翌日午前九時五〇分という勤務の場合、拘束は一八時間五分で、実働一三時間二〇分、中断時間一時間五〇分、休憩一時間一五分、休息一時間四〇分で、賃金の支払われる時間は一五時間となっている。
 この勤務の特徴は、従来、夕方五時から翌朝九時までの一六時間勤務で、途中に有給の仮眠三時間四分(29)があったのに対して、新夜勤では、途中で一旦勤務が切られ、二つの勤務を結合したものであって連続一六時間労働ではないという理解の下に、仮眠時間が廃止され、無給の中断時間と有給の休息時間に区分された点である。このような改正により、形式的には一勤務の時短を進めつつ、実質的には労働時間を長くするとともに、賃金も減らすことができるという仕組みが導入されたということができる。
 このような長時間の深夜勤務が月に四〜五回あり、昼の勤務の場合も早出や準夜勤などがあって不規則な生活が強いられている。途中の勤務の中断は深夜でのことであるため帰宅をするには中途半端であり、また、中断時間に仮眠をとれということになっているが、それに充てるには短いので眠れず、仮眠が奪われたことで疲労が増大しているということである(30)。たとえば、新夜勤明けの疲労が二〜三日続く人が六四・二%という調査結果となっているだけでなく、新夜勤従事者の在職死亡例が全国的に著増している(31)。
  (2) 国立病院の場合
 もう一つは、国立病院の場合である。ここでは、変則二交替制(32)の試験的導入の結果を受けて、過去五〇年間続いてきた三交替制が変則二交替制に変更される可能性がある(33)。すなわち、厚生省は一〇施設一二カ所の国立病院・療養所で、研究目的に変則二交替制を八週間実施した (一九九五年九月)。その理由は、三交替制は看護婦の生活リズムを崩し、深夜時間での交替のため夜勤を苦痛なものとするとの認識に立ち、夜勤の回数を減らし働き易い勤務体制の検討をする点にあった。
 変則二交替制の勤務内容は、いくつかのタイプに分かれるが、たとえば国立療養所札幌南病院 (結核病棟)の場合、夜勤Aを例にとると、一五時三〇分始業、一九時一五分まで勤務、一九時一五分から二〇時まで休息 (一五分)と休憩 (三〇分)、二〇時から二三時四五分まで勤務、二三時四五分から〇時三〇分まで休息 (一五分)と休憩 (三〇分)、〇時三〇分から四時一五分まで勤務、四時一五分から五時まで休息 (一五分)と休憩 (三〇分)、五時から八時まで勤務、八時から八時一五分まで休息 (一五分)、八時一五分から九時まで勤務というものであり、拘束一七時間三〇分、実働一六時間(34)というものである。
 この実験結果の報告 (注33の報告書)では、看護婦の反応として、月四回の夜勤回数は魅力的であるとか、夜間通勤しなくてよい、長時間継続してケアができる、などの肯定的評価が紹介されている。しかし、この変則二交替制労働に従事した看護婦に対する全日本国立医療労働組合 (全医労)のアンケート結果の中間集約(35)によると、この交替制の結果、長時間労働になるので朝の交替時の申し送り事項が増え、時間がかかるようになること、全体として疲労状態が継続すること、家族への負担が大きくなったこと、夜勤翌日の休日にも眠気が続いてボーッとして寝たきりで活用できないなどの回答が多数に及んでいる。三交替制の場合は、準夜勤と夜勤を各二人、計四人で担当しているが、変則二交替では、二人で夜勤部分を担当するのである。したがって、右のような看護婦の反応は、看護婦の人数を増やさずに、一シフトの時間を長くすることで夜勤の回数を減らそうとする新勤務体制の当然の結果であるといえよう。これでは、すでに現在の三交替制の下でも、全医労調査では、公務災害補償の申請された在職死亡が一九八〇年から一九九五年に一九四人 (平均年齢四四・九歳)に上るという現状の改善にはつながらないのではなかろうか。
 かつて一九七〇年に、鉄鋼大手において、三組三交替制が四組三交替制に変更された際、四組三交替制自体は多くの利点があり、労働者の要求でもあったのだが、要員の据え置きや時間管理の厳正化など、「技術革新・合理化の嵐のような進行の中で行われた(36)」ために、細切れ休憩など、むしろ労働条件が悪化したという経験があったが、以上の二例に見られるような交替制の変更は、このような経験を彷彿とさせる動きということができる。

四 深夜交替制労働の問題点
 深夜交替制労働が様々な弊害を伴うことは、周知の事実といってよい。しかし、その弊害についての認識の程度や意味づけも変化する。そこで、以下では、弊害についての理解を基本的な内容に限定して改めて整理しておくことにする。
[1] 健康への悪影響
 深夜交替制労働がもたらす最大の弊害は、健康に対する弊害である。
 人間は進化の過程で、体温、脈拍、血圧、ホルモン分泌などが昼間に活発となり、夜間に低下するという生理的な昼夜リズム (サーカディアン・リズム=日内リズムまたは概日リズム)を獲得してきた。夜間働くことは、この低下した生理機能に抗して働くことから負担を増大させる一方、本来活発なリズムとなっている昼間に睡眠をとることから、質の悪い睡眠となってしまう。こうして、全体として、深夜労働は疲労を蓄積させ、健康障害をもたらすのである(37)。
 しかし、深夜交替制労働がどのような健康障害の原因になるかについて、従来、必ずしも専門家の間でも一致があるとはいえなかった。たとえば、一九八五年一二月一九日の労働基準法研究会報告「深夜交替制労働に関する問題点と対策の方向について」(38)が、当面、深夜交替制労働に対する法的規制を行わず、労使自治において考慮されるべき事項を指針として示すに止めるとの結論を出した理由の一つは、同研究会により設けられ、指針の作成に当たって参考にされるべきものとしている深夜交替制専門家会議の報告が「深夜交替制勤務と疾病との関係について因果関係ありとするもの、ないとするものの両方のデータがあり、明確な結論は得られていない」としたことにあったと考えられる。
 また、上記専門家会議の認識は、一九七八年の日本産業衛生学会交代勤務委員会「夜勤、交代勤務に関する意見書」(一九七八年五月二九日(39))と学問認識の段階としてはほぼ同じ時期のものといってよいが、この意見書でも、交替勤務が消化器疾患、呼吸器疾患、腰痛等の運動器疾患、各種の神経系症状の進展、一般的健康状態の低下、過労による疾患の誘発などの健康障害の原因であることが確認できるとしていたのに対して、まだこの段階では、「一般の循環器疾患や神経系疾患は、平均罹病率でみれば必ずしも交代勤務者にとくに高率にはみとめがたいが、深夜業の連続や交代勤務時の過労によって脳血管疾患、虚血性心疾患、急性心不全などにもとづく死亡事例が多数報告されていることからいって、交代勤務はこれらの特定の疾患の発生を促進すると考えられる」という見解で止まっていた(40)。それだけでなく、当時、外国の研究の到達点は、この問題について、わが国における見解よりもより否定的であったといわれる(41)。
 しかし、最新の研究によれば、深夜交替制労働が心血管疾患の高い危険因子であるとする研究が多数を占めるに至っていると指摘されている(42)。したがって、すでに今日、八〇年代前半までとは違った医学的認識の段階に到達しており、それは深夜交替制労働と疾病との強い関連性、とくに過労死という深刻な結果につながる心疾患などとの関連を明確にしているといえる。
 なお、以上のような深夜交替制労働と疾病との関連を問題にする場合、次のような指摘には留意する必要がある。すなわち、そもそも医学的な「究極の証明」にこだわる態度は否定される必要があるということであり(43)、また、深夜勤務の影響を健康障害、つまり「病気」の有無から直接判定することは、病気を起こさないように本人も工夫しているから、「病気」そのものを標的にしても夜勤の影響を明確にすることは困難であって、その前駆症状である疲労、とくに慢性疲労を問題にすべきだという見解である(44)。
[2] 社会生活・家庭生活との不調和
 人間は、その誕生の時以来、社会的動物であった。つまり、動物としての生理的リズムだけでなく、社会的存在としてのリズムも進化の過程で獲得してきたのであって、人間には社会的生活の刺激やそれによる時刻意識が働いているのである。したがって、時差のある海外旅行をしても、当地の社会生活と同調することでリズムを回復できるが、深夜労働者は昼間寝ているわけであり、それと関係なく社会は展開しているので、社会のリズムと同調できないのである(45)。また、この意味で社会的動物としての人間にとって最も身近で最小単位の社会である家族とのリズムの同期も重要である(46)。労働者と家族との関係では、国際的には労働者が担う「家族的責任」に注目が集まっているが、夜勤従事者は家族と生活リズムが違うので、家族構成員相互が気兼ねをするなど、家族的責任を果たす以前の状態にある。したがって、家族的責任を果たすことが可能になるということは、深夜交替制労働の弊害を除去する視点からも重要な課題である。
[3] 生活の不活性
 深夜交替制労働は、健康・家族に関する問題で止まらず、人格の発展を阻害している点でも問題である。つまり、一般の社会生活とのリズムのずれと疲労の蓄積により生活が不活性となるのである(47)。深夜交替制労働に従事している労働者の日常は「いつも睡眠のことを考えて生活している(48)」という声に表現されている。これでは、自己の能力を高めたり、社会参加の意欲は湧いてこない。また、「交替勤務がいやだなあと思うのはどんな時か」という問いに対して、「夜勤で昼寝ている時、家に客が来た時 (そんなことで「いちいち来るなよ」と言いたくなる(49))」と回答している。これでは、友人・知人・近所の住人なども交際を遠慮することになる。こうして、ますます生活が全体として不活性になるのである。
 このような生活状況を見ると、深夜交替制労働に従事する労働者の場合、労働から自由になるという、つまり労働と無関係な時間を過ごすという余暇の本来の意義自体が否定されているといえる。いいかえれば、余暇が次の労働のために支配されているのである。たとえば、夜勤明け後の昼の睡眠では質が悪いので、不足した睡眠を十分に回復できず、それを回復するために、どうしても長い時間睡眠が必要である(50)ことから、休日が睡眠のために充当されてしまうのである。もちろん、休日を何に利用するかは自由であるが、その自由の行使として睡眠するのではなく、睡眠せざるを得ない状態にあるとすれば、使用者の指揮命令の下に置かれていない時間も規制を受けていることになるのであって、それから完全な解放が保障されるべきであるという余暇ないし休日の趣旨に反するといえる。
 同様の問題は、一生涯という視野で見た場合にも認められる。なぜなら、深夜交替制労働に従事してきた労働者は、年金生活に入っても多くの異常を訴えるという事実があるからである(51)。

五 深夜交替制労働に対する法規制の基本的な考え方
[1] 深夜交替制労働に対する現行法規制の概要
 わが国には現行法上、深夜交替制労働それ自体を直接規制する規定はない。わずかに、以下のような規制があるに過ぎない。
 まず、労働基準法上は、第一に、労働条件明示の原則に基づき、交替制をとる場合、使用者は「就業時転換に関する事項」を明示する義務がある (労基法一五条一項、労基則五条一項二号)。
 第二は、交替制をとる場合、「就業時転換に関する事項」を就業規則に記載する必要がある (労基法八九条一項一号)。
 第三は、満一八歳未満の者および原則として女子の深夜業が禁止されている (労基法六一条、六四条の三)。
 以上のほかは、労基法上の労働時間、休憩、休日、年休の定めに反しないような交替制にしなければならないという意味での一般的な規制を受けるに過ぎない(52)。
 次に、労働安全衛生法上、一定の規制がある。深夜業が同時に危険有害業務でもある場合には、その面からの規制があるが、ここでは、深夜業の側面についての規制に限っていうと、以下のようなものがある(53)。
 第一は、深夜業を含む業務については、常時五〇〇人以上の労働者がいる事業場の場合、その事業場に専属の産業医を選任する必要があり、通常より人数規模を縮小している (一三条)。
 第二は、定期健康診断は、深夜業を含む業務に常時従事する労働者については、当該業務への配置替えの際と六月以内ごとに一回行わねばならないことになっている (労安法六六条、労安則四五条)。そして、健康診断の結果、労働者の健康を保持するために必要があると認められるときは、事業者は、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講じなければならず、その際、医師または歯科医師の意見を聴かなければならない (労安法六六条の二、六六条の三)。
 第三は、労働者の健康障害の防止並びに労働者の健康、風紀および生命の保持のために事業者が講ずべき措置として、一定の夜間の労働について、睡眠および仮眠の設備を設けることが義務づけられている (労安法二三条、労安則六一六条)。
 以上のように、現行法上の深夜交替制労働に対する法規制はきわめて不十分である。そこで、以下では、個別の解釈論を離れて、立法化に当たってはもちろん、現行法の解釈・適用上も踏まえられるべき深夜交替制労働を規制する場合の基本的な考え方について、いくつかの問題に即して述べることにする(54)。
[2] 深夜交替制労働の基本的問題とその考え方
  (1) 深夜交替制労働の必要性の存否
 深夜交替制が採用される理由として、医療など公共性がある場合 (公共性)、溶鉱炉など生産技術上、中止できない場合 (技術性)、生産手段の最大限使用による利潤を追求する場合 (経済性)の三つに区別し、前二者以外、原則的に禁止すべきだと主張される場合が多い。そして、たとえば水野教授は、投下資本の早期回収という目的の三交替制の指示は労働契約上の安全配慮義務に基づき、無効と主張される(55)。注目される見解であるが、たとえばタクシーのように、公共性、経済性を併有している例も考えられるのであるから、特定の事業を上記三つのいずれか一つに性格づけることが困難な場合もある。
 ところで、深夜交替制が認められる場合とそうでない場合を厳密に区別する議論の意義を否定するものではないが、むしろより重要なことは、深夜交替制労働が労働者に深刻な弊害を及ぼすものである以上、原則的には禁止されるべきものであることをハッキリさせ、その上で、例外を認めるという考え方をすることである(56)。この認識に立つことによって、深夜交替制労働に対して厳しい法規制を加えることが基礎づけられるといえよう。例外を認める基準は、基本的にはその弊害に照らし、人間の生命、健康、安全に直接関係する業種か否かに求めるべきである。加えて、技術的必要性の場合も、操業の中断が技術的かつコストの甚大性からみて不可避である場合に厳しく限定されるべきである。「24時間型社会」化に伴って拡大している深夜交替制労働は、この基準に照らせば当然許されない。とくに「国民の生活行動の要求とサーヴィス供給側の操業体制とは元来相互規定的なものである(57)」ことからすると、たとえばドイツの閉店時間法に見られるように、コンビニエンス・ストアーの深夜営業の規制は当然可能であるばかりか、地球の環境や資源、エネルギー問題も考慮に入れた場合、「24時間型社会」自体を意識的に縮減する努力が必要である。
 もう一つの重要な点は、業務の種類によって深夜交替制労働の必要性の程度に違いがあるとしても、そのような労働に伴う弊害に違いはないということを確認することである。およそ深夜交替制労働に共通した弊害の除去は、いかなる必要性に基づく場合も行われねばならない。強い公共性のある業務の場合、ややもすると労働条件が悪くても甘んずるべきであると意識されがちであるが、たとえば病院は生命に関わるから深夜業が認められるとしても、医療従事者に疲労が蓄積して労働の内容が低下したのでは、逆に深夜業を正統化する根拠に反することになる。したがって、そうならない労働条件を保障しなければならないといえよう。公共性のある業種で深夜業が行われるとしても、それで労働者が健康を害するのであれば、その結果は公共性の故ではなく、経済性を追求した故であると評価されるべきである(58)。前述のように、実際は企業採算上の理由による深夜交替制の採用が最も多いわけであり、この場合には、直ちに違法というのは現実的ではないから、当面、より厳しい規制を加え、結果的に、深夜交替制労働自体を可及的に縮小 (業務も従事労働者数も)する方向をめざすべきである。法規制は、現に深夜交替制労働に従事している労働者の保護とともに、このような結果の実現にも役立つような内容にすべきである。
  (2) 「時短」のための深夜交替制の可能性
 深夜交替制と時短とは、さしあたり、次の二つの問題と関係する。
 一つは、労働時間の短縮が一定の交替制の形態自体を不可能にする可能性があるという点である。すなわち、連操型の各種交替制ごとに労働時間を算定し、法定労働時間が四〇時間となった場合に、それらがどれだけの長さの時間外労働および休日労働を組み込むことになるかについて詳細に検討した研究(59)によれば、連操型の二交替制では、二組二交替制と三組二交替制が、三交替制では、三組三交替制が、そして、一昼夜交替制が恒常的な時間外労働・休日労働を含むことになり、四組二交替制、四組三交替制、五組三交替制になって初めてそれから解放されることになるのである。時短が進むと一定のタイプの交替制はできなくなるのであり、その意味で、基本的な労働時間の基準に関する改善が深夜交替制労働の改善に対して有する積極的意味を評価する必要がある。
 もう一つは、逆に、時短の推進のために交替制を導入するという場合である(60)。しかし、一般的にその是非を論ずることには問題がある。なぜなら、どのようなタイプの交替制を導入するかで弊害に大きな違いがあるからである。とくに、深夜の時間帯を含む交替制の場合、そうではない交替制と同列に論ずることはできない。前述のように、深夜に労働すると非労働時間にまで悪影響が及んでしまい、時短の目的である「ゆとり」を生み出すことにつながらないからである。つまり、深夜交替制労働は時短の目的に反する結果を招くことになるのである。したがって、交替制一般と深夜交替制とは区別して評価する必要がある。基本的な考え方としては、時短を目的にする以上、総労働時間を短縮するだけでなく、夜勤の連続をできるだけ避け、夜勤の前後には十分な勤務間隔と連休・週末休日を配置するタイプにすべきである(61)。なお、常夜勤労働は医学上の条理も含んだ公序良俗 (民法九〇条)に違反するので禁止されるべきという見解が注目される(62)。
 以上の認識からすると、時間外労働・休日労働を恒常的に組み込む交替制は到底許されないことになる。元々きわめて疲労が大きいだけでなく、労働時間以外にまで影響が及ぶ深夜交替制労働の場合には、できるだけ所定労働時間内に、かつ、より短い労働時間に限定することが規制の基本に据えられるべきだからである。そして、制度的、規則的、恒常的に時間外・休日労働に従事することを余儀なくするような三六協定については、その免罰的効力、時間外・休日労働の合法化効力は多分に疑問とする見解(63)や三六協定としての効力を否定する見解(64)があるが、私見では、後者に賛成である。なぜなら、前述のように深夜交替制労働自体が例外的に認められるべきものであり、加えて、時間外・休日労働も例外的な性質のものである以上、二重の例外は労働者保護の理念に照らし認められるべきではないと考えるからである。いいかえれば、制度的・規則的・恒常的に時間外・休日労働を含むような深夜交替制の存在は許されないと考える以上、その法形式上の根拠となる三六協定の法的効力も否定されねばならないのである(65)。
  (3) 交替制を深夜労働の許容根拠とすることの問題点
 前述のように、深夜交替制それ自体に対する法規制がなく、それについても一般的な労働時間などに関する規制が適用されるだけであるため、従来、その規制について行政解釈が大きな役割を果たしてきた。その場合、週休一日制の「一日」の意義を一定の交替制では「継続二四時間」とする解釈に見られるように、深夜交替制の利用をできるだけ可能にするよう法規定を緩和して解釈する傾向にあった。その基礎には、行政当局において、この形態の労働の弊害に関する認識の不十分さがあるのではないかと思われる。この点を示す好例が、交替制を深夜労働に対する規制を緩和する根拠とする考え方である。
 このような考え方は、すでに工場法の段階でも採用されていた。すなわち、工場法の労働時間規制に関する重要な柱の一つとして、女子・年少者 (一五歳未満)に深夜業 (午後一〇時から午前四時)を禁止していた (四条)が、五条では、施行後一五年間、一定の業務に四条による深夜業禁止の適用除外を認めていた。具体的には、果実の缶詰など腐敗・変質を防止する必要上、一時に作業をしなければならない業務、新聞の印刷業務、製鉄業・ガラス業などの連続操業の必要性のある業務の三つである。このうち、最後の業務は「職工ヲ二組以上ニ分チ交替ニ就業セシムルトキ」(五条三号)に深夜業が許されることになっていた。しかし、次の六条で、五条に該当しない業務でありながら、以前から深夜業が行われていた紡績業を実際は念頭に置きつつ、紡績資本との妥協の産物として、「職工ヲ二組以上ニ分チ交替ニ就業セシムル場合ニ於テハ本法施行後十五年間第四条ノ規定ヲ適用セズ」との一般的な定めが置かれてしまったので、五条三号については適用する必要がなくなった(66)。そして、大正一二年 (一九二三年)の法改正により、五条、六条が削除された後も、附則三項で交替制による場合には施行後三年間四条を適用しないことを定めるなど、深夜業の規制は先送りされた。そして、実際に深夜業が女子・年少者に禁止されたのは一九二九年七月一日以降のことである(67)。以上において注目すべきことは、交替制の採用が深夜業を認める要件とされている点である。
 現在の労基法でも、満一八歳未満の労働者に深夜業を禁止しながら、交替制による場合には満一六歳以上の男子について深夜業を許容している (六一条一項但書(68))。このような規制が行われた理由について、若年の低賃金労働者の使用ができなくなることを回避しようとする使用者からの要請と、若年労働者の雇用機会の減少を回避し、職業訓練の機会を確保する必要性にあるとする理解もある(69)。では、行政当局がこの点についていかなる認識に立っているかであるが、労働省は、夜勤の疲労が昼間の労働で回復することをその根拠としている(70)。しかし、この根拠は、工場法の制定当時の知見でも事実に反するとされていた。すなわち、岡は、農商務省の調査である綿糸紡績の『職工事情』第三章の概要を紹介しつつ、夜業によって減少した体重は昼業に復帰しても回復しないことを明らかにしている(71)。ましてや上記の認識は今日の労働医学上、維持できないといえよう。つまり、深夜労働の疲労が昼間の労働で回復するという考え方は誤りであり、交替制の仕組みそのものでは深夜労働の疲労は回復しないのであって、労働者が交替制のサイクルから離脱し、一定期間の休息 (年休など)をとることによって初めてその弊害を緩和できるのである。交替制を深夜労働の許容根拠とする考え方は、交替制の下での深夜労働の方が深夜労働のみに従事することよりはましである、という素朴な認識に基づくものだといえるが、これは改められるべき認識である。
  (4) 深夜交替制における労働時間の「長さ」と「構造」
 深夜交替制労働は、生体リズムにも社会的リズムにも反して労働するものであり、それだけに肉体の消耗も激しい。さらに家庭生活などにも弊害を及ぼす。そうだとすれば、可能な限り、このような弊害を除去するような労働時間の規制を行う必要がある。
 この観点から見た場合、第一に問題となるのは、「一日」を「二四時間」とする解釈である。たとえば、労働省通達では、連操型三交替連続作業の場合、法定週休一日制の下で一週に二休日与えることになることを理由に、週休日としての一日は一暦日ではなく継続二四時間で良いとしている(72)。そのため、夜勤明けの二四時間が休日とされてしまう。
 すでにこの解釈に対しては多くの批判がある。たとえば、経営側の判断で交替制を導入した以上、二休日与える結果も甘受すべきである(73)、番方の順序のとり方によっては、一週二休日を与えなくてもよい場合もある(74)、この通達は、任意の時間帯に作業停止時間を設けることのできる「鉱山等」を念頭においたものであるので、妥当性は疑問(75)、理由が明確ではない(76)などの批判である。そして、通達の解釈を認めるにしても、六勤務に対して一休日が与えられる場合(77)や公益上または生産技術上の理由による交替制であり、かつ継続二四時間の大部分が同一暦日にあるべきという見解もある(78)。
 私見によれば、週休二日制が普及している状況の下では、通達の解釈は時代遅れであるだけでなく、休日としての実質化を図り、社会的リズムとの同期を確保するため、単に二四時間で良いというのではなく、暦日単位を基本とした労働時間規制の原則を維持すべきであると考える(79)。また、交替制により勤務が二暦日にまたがる場合、前日の勤務として扱われる(80)ことは「労働時間規制が労働の継続性に対する規制であることから当然(81)」であるとしても、「深夜労働が、すでに全くの例外とはいえなくなっている現在、深夜交替制については、『一二時から一二時』という通常の『一日』を半日ずらした勤務時間制を認める必要性は、たかまっているように思われる(82)」との認識に従った規制は支持できない。
 第二は、労働時間やそれから自由な時間は、単に長さだけを考慮すれば良いか、という問題である。たとえば、前述の郵便局の新夜勤は、たしかに各勤務の労働時間は形式的には短くなったが、それを可能にしたのは、途中にあった賃金の支払われてきた仮眠時間を削って途中に中断時間を置き、形式上は二つの勤務を実質的には結合して深夜の時間帯での労働時間を拡大させたものである。このような労働時間の組立てを許してしまっているのは、各勤務の間に置かれるべき「休息時間(83)」の規制がないだけでなく、より根本的には、当該の労働時間が昼の時間帯にある場合と夜の時間帯にある場合とを区別せず、単に時間数としてのみ評価しているためであると考える。そのため総時間数は短縮されたとする数字合わせを可能にしているのである。
 深夜の時間帯での労働の弊害を踏まえると、そこでの労働時間は長さについてそれ以外の時間帯とは異なった評価が行われるべきである。そして、その弊害が他の生活時間部分にも及び、それを回復するには時間が必要であるとすれば、深夜労働に対しては割増賃金の方法ではなく、時間の方法で補償すべきである。この点に関し、前記・日本産業衛生学会の報告では、「夜勤労働の改善及び制限」について、「徹夜勤務を常態とする就労形態をとる事業場では、勤務明け日の就労を原則禁止するとともに、八時間労働を二勤務として計算する」(同報告九一頁)としていることが参考に値する。
 同様のことは、勤務から離脱した時間についてもいえる。時間数として自由な時間が確保できただけでは不十分であり、その自由な時間が十分に利用できる形で与えられているか否かが重要である。とくに、深夜交替制労働は疲労の蓄積が問題となるが、ストレス要因が強い場合、単に食べて寝るという疲労対策では、今日の職業性疲労は取れないのであって、レクリエーションやスポーツなどを積極的に行うための心身や時間の余裕が必要であるとされている(84)ことからすると、疲れて何もできない時間では不適切であって、積極的に利用できるような時間帯での自由時間の保障が必要である。割増賃金も、このような時間を利用するために必要な経費を賄うための金銭的な措置と考えるべきである。
 このような労働時間の配置の構造を確保するためには、一勤務の上限のしばりや前述のような勤務の間隔の規制が不可欠である。これがないと、郵便事業や国立病院の事例に見られるように、交替制自体の内容の悪化を許してしまうのである。この点では、ILO「夜業に関する勧告」(一七八号)が、深夜労働の上限を八時間、二つの勤務の間に少なくとも一一時間の間隔を置くことを求めている規制が参照されるべきである。
  (5) 深夜業の男女平等化の是非
 労基法では、女子の深夜業を原則として禁止している。この禁止は、一九五二年の労基法改正以来、法律そのものや命令の改正を積み重ねることによって、禁止対象がかなり縮減されてきた。そして、今日では、男女の平等化の観点から女子の深夜業の全面解禁が論議されるに至っている。そこで、女子に対する深夜業禁止の解除の是非が問われることになる。
 たしかに、ドイツでも、一九九四年の新労働時間法(85)の制定により、それまで女子現業労働者の深夜業を禁止していた (一九条一項)一九三八年の旧労働時間法が全面改正され、九四年法ではとくに女子の深夜業禁止は謳っていない。法改正の契機となったのは、周知のように、上記深夜業禁止規定を違憲とした連邦憲法裁判所判決である(86)。
 ところで、この判決で注目される点は、女子の深夜業禁止を違憲としたという一点にあるのではない。その第一は、裁判所が、深夜労働はすべての人間に有害であることを宣言した点である。深夜労働が男子より女子に弊害が大きいということは証明できないと判断した点は、なお議論の余地があると考える(87)が、性別に関係なく有害であるという認識を基礎にして判決を下した意義は大きい。第二に、深夜労働を無制限に開放することは「身体を害されない権利」を保障する基本法二条二項一文に反するとした点である。したがって、男女の別なく深夜労働に対して適切に規制が行われねばならないことになる。この点は、新労働時間法で、たとえば次のように具体化されたといえる。すなわち、「深夜労働および交替制労働に従事する労働者の労働時間は、人間にふさわしい労働の形成についての確実な労働科学上の認識に従い、確定されねばならない」(六条一項)と。第三は、女子についてのみ深夜労働を禁止するという制度が、伝統的な性別役割分業の固定化につながるものであることを指摘している点である。つまり、深夜業の禁止という保護が男女同権を実現するための優遇措置とはならず、むしろ逆に女子に対して、たとえば求職の際に不利益を及ぼし、ひいては性別役割分業の固定化につながる原因になっているというわけである。したがって、深夜労働に従事する労働者に男女の区別なく一定の保護を行う場合も、たとえば子供の世話のために母親にのみ深夜業を禁止するということがあってはならないのである。このような性別役割分業の解消は、家族的責任の男女の平等な担当を意味するが、家族的責任に関するILO一五六号条約をより高いレベルで具体化している一六五号勧告(88)では交替制労働および夜間労働の割当を行うに当たっての労働者の必要への考慮に、家族的責任に基づくものも含まれていることが参照されるべきである。
 ところで、上記判決では、女子にのみ深夜労働を禁止することは男女平等の原則に反するとしたが、同時に、深夜労働が健康を害するものであることも認めた。そうであれば、女子に深夜労働への道を開くことで平等化を図るのではなく、男子にも禁止することが首尾一貫した考え方であるといえよう。実際、女性に対する保護を男女共通の権利にしていこうというのが世界的な傾向であるといえるからである(89)。本判決は、女子が深夜業の禁止によって様々な不利益を被っているという現実的な認識に立ちつつ、禁止というレベルでの保護を男女共通化することで男女の平等化を図るのではなく、深夜業の弊害の除去を講ずるレベルでの平等化を追求する立場をとり、その具体化を立法府に委ねたものといえよう。
 以上のように見てくると、わが国の場合も、まず深夜業の弊害を明確に認識すること、そのような認識の基礎の上に男女の区別なく深夜労働に適切な規制を加えること、性別役割分業の解消のための措置も同時に行うこと、という少なくとも三点の一致が規制をめぐる議論の前提として必要であると考える。

六 お わ り に
 一九八七年の労基法改正に先立つ労働基準法研究会第二部会報告(90)は、深夜交替制労働について、労使の自主的規制のための指針を提示するに止まった。そのような結論に至った理由は、以下の四つであった。すなわち、((1))実態が多様であり、画一的な規制は実態にそぐわない、((2))主要先進国でも、女子年少者を別にすれば、法的規制を加えている国はほとんどない、((3))国際的に認められている基準がない、((4))このような労働の問題点に対する措置について専門家の中でも一致がない、という理由であった。しかし、上述してきたように、このような理由は今日では維持できない。
 今後の深夜交替制労働の規制を考える場合、女子の深夜業の解禁を議論の焦点にするのではなく、上記のように健康や家族生活を犠牲にしながら過酷な労働に従事している男子労働者を含めた深夜交替制労働一般の規制を焦点にすべきである。その場合、狭義の労働法による規制で止まらず、ドイツの「閉店時間法(91)」の例に見られるような営業規制も必要である。とくに、商品を購入して生活するという今日の消費生活が、市民生活のリズムを基本的に規制している実態に照らすと、商店の閉店時刻をコントロールすることによって市民の生活もコントロールできるのである。このような社会的規制を問題にすることになれば、やがては「24時間型社会」の進行をどう規制するかという問題に行き着かざるを得ない。そのような視点からの深夜交替制労働の規制こそが課題である。



(1) このような目標は、これ以外にも再三表明されている。たとえば、一九九二年六月の「生活大国五か年計画」など参照。
(2) 朝日新聞一九九六年四月一〇日付。なお、労働省は、一九九六年五月二〇日、緊急全国労働基準局長会議を招集し、ホワイトカラーの職場について、労働時間規制の遵守のための監督を強化する方針を出した。朝日新聞一九九六年五月二〇日付。
(3) 朝日新聞一九九六年五月一八日付。
(4) 上畑鉄之丞「いわゆる過労死の背景」総合臨床四〇巻六号一〇二四頁以下参照。
(5) 労働分野での「規制緩和」の歴史と現状について、矢崎英敏「労働分野における規制緩和の現状と労働法制の課題」労働法律旬報一三八三号一一頁以下参照。
(6) 渡辺 章「深夜交替制労働の規制を考える」労務事情昭和六二年五月一日号一三頁、同「サーヴィス産業の労働時間・休日問題」季刊労働法一三六号二九頁以下参照。
(7) 議論の必要を指摘する最近のものとして、毛塚勝利「労働基準の規制緩和をめぐる議論と課題」ジュリスト一〇八二号一一三頁参照。また、これまでにもすでに多くの改善提案がある。包括的な提案としては、交替制勤務基準研究会「夜勤・交替制の勤務基準に関する提言」(一九八四年四月)がある。
(8) 労基法上もこの意味である。昭和二三年七月五日基発九七一号。
(9) 日本産業衛生学会交代勤務委員会「夜勤・交代制勤務に関する意見書」月刊いのち一四〇号四六頁以下参照。
(10) 本稿では、午後一〇時から午前五時の時間帯での労働をいうが、規制の対象幅として、これで十分というわけではない。
版面(11) たとえば、一昼夜交替制もこれに含めてよい。
(12) 日本産業衛生学会交代勤務委員会・前掲意見書四三頁参照。
(13) 労働省政策調査部『賃金・労働時間制度の実態』(平成五年版)。なお、この調査は各年度で行われているが、「交替制」の項目は必ずしも各年度版に含まれておらず、平成五年版の前には、平成二年版の調査がある。
(14) 一九八六年に実施された労働省労働基準局の調査「深夜交替制勤務に関する調査結果」(昭和六三年一〇月)。ただし、この調査での業種の区分は労基法八条に対応させた (ただし、第一次産業は除く)以下の通りである。製造業、鉱業、建設業、運輸交通業、貨物取扱業、商業、金融広告業、映画・演劇業、通信業、教育研究業、保健衛生業、接客娯楽業、清掃・屠殺業の一五業種である。
(15) 「賃金労働時間制度総合調査」(昭和五四年)。労働法律旬報一一三五・六号一〇七頁以下に掲載。
(16) 鷲谷 徹「24時間化社会における労働と生活」経済科学通信七四号一五頁参照。
(17) この点について、詳しくは、松本一弥「交替勤務編成の現状と問題点」労働の科学四五巻七号三四頁以下参照。
(18) 佐伯静治他編『改正労働基準法実務全書』(労働旬報社・一九八八年)一七三頁参照。
(19) 化学一般全国協議会交替労働問題政策委員会『交替労働を告発する!』(一九九四年九月)一五頁、東京大学労働法研究会『注釈労働時間法』(有斐閣・一九九〇年)二〇一頁参照。
(20) 岡 実『改訂増補 工場法論 全』(有斐閣・一九一七年)四八八頁以下参照。
(21) 日本産業衛生学会交代勤務委員会・前掲意見書四九頁参照。
(22) 今野順夫「ME化の雇用・労働に及ぼす影響」日本労働法学会誌六六号四四頁以下参照。
(23) 鷲谷・前掲論文一四頁以下参照。
(24) 田比良敏夫「24時間社会と放送」経済科学通信七四号二〇頁以下参照。
(25) 宮崎利行「コンビニエンスストアの労働と仕事」日本労働研究雑誌四二五号三二頁以下参照。
(26) 鷲谷・前掲論文一八頁参照。
(27) 賃金と社会保障一〇七一号一九頁以下参照。なお、この調査は、深夜労働の是非論はひとまずおいて、その存在を前提にした上で、あるべき深夜労働の在り方を追求しようとしたものである。この点で、方法論上、限界がある。寺沢勝子「夜勤労働の是非と労働条件問題」賃金と社会保障一〇七一号九頁参照。
(28) 森 隆男「サービス業における深夜労働の意味するもの」賃金と社会保障一〇七一号一七頁参照。
(29) 特例休息と呼ばれる。それ以前には五時間の仮眠時間があった。
(30) 渡辺・前掲論文「サーヴィス産業の労働時間・休日問題」四三頁では、これを「待機時間」の規制のないことから生ずる問題であることを一般的に指摘している。
(31) 一九九三年七月から一九九六年一月までで二一件の死亡例が報告されている。郵政産業労働組合・新夜勤廃止全国連絡会「郵便内務交替制勤務健康調査の集約報告」(一九九五年六月一九日)参照。
(32) 一日二四時間を日勤・夜勤の二つの勤務で交替に行うが、その場合、各勤務帯の長さが異なる交替制のことをいう。
(33) 試験結果について、厚生省の研究班の研究報告書 (研究代表者佐藤静子)「平成七年度国立病院・療養所における看護婦等の勤務体制に関する研究」(一九九六年五月)参照。なお、朝日新聞一九九六年一〇月二二日付は、厚生省が二交替制の導入を認める通知を出した旨伝えている。
(34) 休息時間は労働時間に算入されることになっている。
(35) 「二交替勤務体制の『実証的研究』結果について」(一九九六年二月一〇日)全医労情報一四九号一頁以下参照。
(36) 蓼沼謙一『労働時間・残業・交替制』(労働法実務大系11)(総合労働研究所・一九七一年)二五九頁。
(37) 酒井一博「夜勤・交代制の改善方向」労働事情昭和六一年四月一五日号八頁参照。
(38) 労働法律旬報一一三五・一一三六号一〇〇頁以下所収。
(39) 月刊いのち一四〇号四二頁以下所収。
(40) 日本産業衛生学会交代勤務委員会「意見書」月刊いのち一四〇号五九〜六〇頁参照。
(41) 日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連要因検討委員会報告『職場の循環器疾患とその対策』(一九九五年二月)三九頁参照。
(42) 前掲・日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連要因検討委員会報告三九頁参照。
(43) 渡辺・前掲「深夜交替制労働の規制を考える」一三頁参照。
(44) 酒井・前掲論文七頁参照。
(45) 森岡三生「交替制に関する西ドイツ・ルーテンフランツの提言に思う」労働の科学三二巻四号五頁参照。
(46) 鷲谷・前掲論文一七頁参照。
(47) 酒井・前掲論文九頁参照。
版面(48) 交替勤務者の生活困難に関する回答の一例である。京都医療労働組合連合会「看護婦闘争の前進のために」(一九九〇年五月)三七頁。
(49) 前掲『交替労働を告発する!』三二頁。
(50) 前掲『交替労働を告発する!』三七頁では、「休みの日を寝不足のために、寝てしまい、一日損をした気分を味わう」時、交替勤務がいやだなあと感じると回答している。このような寝不足解消に向かう傾向については、労働医学上、解明が進んでいる。酒井・前掲論文八頁参照。
(51) ドイツのメディア産業労組での調査による。宮前忠夫「夜勤職場にも人間的労働条件を」(上)労働法律旬報一三五七号五〇頁参照。
(52) 現行法上の詳しい法解釈論としては、東京大学労働法研究会・前掲書一八一頁以下参照。
(53) 佐藤勝美『労働安全衛生法の詳解』(労働基準調査会・一九九二年)一九八、三一二、六一六頁以下参照。
(54) 不十分な法規定と実態との溝を埋めるための規制基準を求める観点から、社会的、経済的、生理・心理的すべての諸相を総合して、人間の「はたらき」の態様に関する自然科学分野での規範的な基準を「働態」的基準と呼びつつ、それに照らして深夜交替制労働の規制されるべき諸点を提起しているものに、野沢浩『労働時間と法』(日本評論社・一九八七年)一八一頁以下がある。
(55) 水野 勝「労働時間制と立法構想」日本労働法学会誌六七号一二〇頁参照。
(56) 前掲の交替制勤務基準研究会の「提言」もこの考え方を出発点としている。
(57) 渡辺・前掲「サーヴィス産業の労働時間・休日問題」四二頁。
(58) 松岡三郎「交替制と労働基準法」労働法律旬報八四四号七九頁参照。
(59) 東京大学労働法研究会・前掲書一八九頁参照。
(60) これを提案しているものに昭和五三年六月二三日基発三五五号がある。なお、高木紘一「深夜交代制労働」法律時報五八巻七号六七頁参照。
(61) 松本・前掲論文三四頁以下参照。
(62) 渡辺・前掲「深夜交替制労働の規制を考える」一二頁参照。
(63) 東京大学労働法研究会・前掲書二〇三頁参照。なお、この見解は、三六協定の免罰的効力・合法化効力が疑問視される対象から公共的・技術的理由があり作業の中断ができない交替制を除いている点に問題がある。
(64) たとえば、青木宗也『労働時間法の研究』(日本評論社・一九八二年)一三三頁以下参照。
(65) なお、通達では、予備直がなく恒常的に八時間労働を超えることを前提にしているような交替制について改善するように指導している (昭和五三年六月二三日基発三五五号および昭和六一年四月五日基発二一五号)。
(66) 田村 譲『日本労働法史論』(御茶の水書房・一九八四年)二八頁以下参照。なお、岡・前掲書四二六、四八一頁以下も参照。
(67) 菊池勇夫『世界の中の労働法』(一粒社・一九七一年)一七頁参照。
(68) なお、交替制をとる場合には、午後一〇時三〇分までの労働を一八歳未満のものについて許可する規定がある (労基法六一条三項)。これは、深夜時間帯に及ばない二交替制を可能にさせるためである。
(69) 青木宗也「交替制労働の法的諸問題」有泉 亨編『労働時間の法律問題』(日本労働協会・一九六六年)三八頁参照。
(70) 労働省労働基準局『全訂版労働基準法』(下)(労務行政研究所・一九八八年)五九九頁参照。
(71) 岡・前掲書四九二頁以下参照。
(72) 昭和六三年三月一四日基発一五〇号。
(73) 松岡三郎「交代制労働の労基法上の問題点」季刊労働法七二号二六頁、石松亮二「交代制勤務の法的諸問題」労働判例一〇九号一七頁参照。
(74) 菅野和夫他『セミナー労働時間法の焦点』(有斐閣・一九八六年)二四六頁参照。
(75) 東京大学労働法研究会・前掲書一九七頁参照。
(76) 盛 誠吾「現行労働時間法制の解釈・適用上の限界と法改正問題」日本労働法学会誌六七号四三頁参照。
(77) 有泉 亨『労働基準法』(有斐閣・一九六三年)二九八頁参照。
(78) 蓼沼・前掲書二五六頁参照。
(79) 同様の見解として、浜村彰「深夜交替制労働をめぐる立法論の課題」労働法律旬報一一四八号五七頁、山本吉人「交替制と労使の紛争」季刊労働法五七号四一頁参照。なお、社会生活、文化生活、政治生活、家庭生活等労働者をとりまく「日常生活時間」のサイクルが一日単位で繰り返されていることから、一日単位の労働時間の規制の重要性を強調するものに、木下秀雄「雇用・就業形態の多様化と労働時間規制」日本労働法学会誌六八号五五頁以下がある。
(80) 昭和六三年一月一日基発一号。
(81) 柳屋孝安『労働基準法I』(青林書院・一九九四年)四〇四頁。
(82) 東京大学労働法研究会・前掲書六五頁。
(83) ドイツの新労働時間法五条ではこの時間を規制している (旧法では一二条一項)。
(84) 前掲・日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連要因検討委員会報告一二頁参照。
(85) 本法の解説として、藤原稔弘「ドイツの新労働時間法と労働時間規制の柔軟化」労働法律旬報一三五四号六頁以下、法律条文の翻訳として、小俣勝治・藤原稔弘「ドイツにおける労働時間法の統一と柔軟化に関する法律」労働法律旬報一三五四号一五頁以下がある。
(86) BVerfG, Urteil vom 28. 1. 1992, Betriebs-Berater Beilage 3, S. 2. 本判決の解説として、齋藤純子「女子の夜業禁止に対する違憲判決と積極的差別是正措置」日本労働研究雑誌四〇一号八〇頁以下、小俣勝治「現業女子労働者に対する深夜労働禁止の違憲性」労働法律旬報一三一三号五〇頁参照。
(87) 母性を有する女性には、男性とは異なったホルモン・バランスが備わっており、その結果、夜勤疲労の性差となって現れるだけでなく、妊娠・出産への強い有害因子と考えられるとの見解 (上畑鉄之丞「女性の生理的機能と深夜労働」労働法律旬報一〇九七号二五頁以下参照)は無視されるべきではない。深夜労働は、時間外労働や休日労働とは同列に論じられない弊害を含むといえる。
(88) ILO一五六号条約および一六五号勧告については、朝倉むつ子他「家族的責任と調和する労働生活を求めて」労働法律旬報一一七三号四頁以下、大脇雅子「ILO一五六号条約の批准と今後の立法課題」労働法律旬報一三八一号六頁以下参照。
(89) このことを強調するものとして、黒岩容子「『女子のみ保護』から『男女共通の保護と規制』へ」季刊・労働者の権利二一四号三四頁以下参照。
(90) 前掲「深夜交替制労働に関する問題点と対策の方向について」
(91) ドイツの閉店時間法の研究として、和田肇「ドイツにおける小売業の労働時間規制」名古屋大学法政論集一六五号一頁以下がある。