立命館法学  一九九六年六号(二五〇号)一五四七頁(二〇七頁)





対人地雷の法規制について

堤 功一






目    次




一  は  じ  め  に

  一九九六年一二月一〇日国連総会で採択された地雷問題についての決議(51/45S)の前文によれば、現在世界には六〇以上の国にわたり一億一千万の地雷が埋設、遺棄されており(1)、年に二百万個増えて、毎週何百という民間人が犠牲となって死傷し、復興や開発の大きな障害になっているのに対し、一九九五年の一年間に除去されたものは約一五万個にすぎないと推定されているとのことである。九四年の一年間には国連関係者が六〇名以上地雷で死傷しているという(2)
  地雷の使用は対戦車、対人ともに第一次大戦から始まったが、第二次大戦においても北アフリカや独ソ戦あるいは中国などで多く使われ、戦後は朝鮮戦争、ヴェトナム戦争を通じ技術的にも大いに発達したといわれる。対人地雷は安価で、普通一個一〇ドルから二〇ドル、最も安いものは三ドルくらいからあるが、除去するには一個当たり数百ドルから千ドルかかる。最近はプラスチック製で在来の探知器では探知困難なものが増加して来た。安い費用で広い区域を押さえられるので、特に途上国で容易に使用されることとなる。
  地雷の使用を規制する現行の条約としては一九八〇年の「過度に傷害を与え又は無差別に効果を及ぼすことがあると認められる通常兵器の使用の禁止又は制限に関する条約」(以下特定通常兵器条約)の議定書IIがある。近年地雷が多く使用され紛争後にその惨害が大きな問題になっているのは、むしろこの議定書成立後のアフガニスタン侵攻、カンボジア内戦あるいはアンゴラやモザンビークの国内紛争であったから、あらためて地雷の規制の強化が叫ばれるに至り、一九九六年五月に改定議定書が作成された。
  本稿はこの議定書の改定を中心に問題の背景、経緯などを概観し、対人地雷の法規制についての現状の理解をはかることを目的とする。

二  国連を中心に見た近年の地雷問題の動き

  対人地雷の問題が特に注目を惹くようになったのは九〇年代に入ってからであり、九二年ガリ国連事務総長は安全保障理事会への有名な報告「平和への課題」(S/24111)の中で平和の構築の一環として地雷問題を取り上げた。九三年の国連総会では特定通常兵器条約の強化と地雷除去信託基金の設置を求める決議が採択された。九四年には国連総会に地雷問題に関する包括的な事務総長報告が提出され(A/49/357)、また、ガリ事務総長はフォーリン・アフェアズ誌秋季号に「地雷の危機」と題する寄稿を行なった。地球規模の地雷の危機について警告するこの論文の中で事務総長は、(一)地雷を生物兵器、化学兵器と同じ法的、倫理的枠組みの中に組み込め(二)地雷の本質は無差別なものなので、国際人道法の観点からその使用を禁止すべし(三)地雷の危機解決のためには生産、保有、移転、使用のすべてを禁止すべし、などとかなり踏み込んだ主張を行なっている。この年の総会に出席してクリントン大統領は対人地雷の終局的廃絶を目指すとし、その入手可能性を縮小するための国際合意の形成を提案した。この総会はまた対人地雷輸出モラトリアムの決議を採択したほか、地雷除去に関する国際会議の開催を決議し、この会議は九五年七月にジュネーブで行なわれた。
  このように対人地雷の規制強化、更には廃絶へと向かう動きは、九〇年代の始めから顕著となって来た。その主な原動力は欧米先進国の政府とNGOで、その背後には地雷の惨禍に対する怒りと、その廃絶を求める世論の高まりがあった。国連内外の動きは、この世論の反映である。

三  地雷規制に適用される国際法、特定通常兵器条約作成の経緯と規制の内容

(一)  国際人道法の基本原則
  兵器の使用に適用される国際法を論じた最近の好例は、核兵器の違法性に関する国際司法裁判所の勧告的意見であったと思われる(3)。裁判所は、人道法の構造を形成する条約文の中に含まれる基本的な原則として、第一に文民と民用物の保護のために戦闘員と非戦闘員を区別し、国家は文民を攻撃の対象としてはならず、従って民用と軍事目標を区別出来ないような兵器を使用してはならないことを述べ、第二に戦闘員に無用の苦痛を与えることは禁じられる、と述べている(パラ七八)。また裁判所は、これらの基本的な規則は犯すべからざる慣習国際法の原則をなしているとする(パラ七九)。
  第一の、文民の保護と無差別な攻撃の禁止の原則を示す具体的な条文としては、一九七七年の、ジュネーブ諸条約への第一追加議定書第五一条があげられよう。第二の、無用の苦痛、過度の傷害を与える兵器の禁止については同追加議定書第三五条がある。これは一八六八年のセント・ピータースブルグ宣言、一九〇七年のヘーグ陸戦規則二二条、二三条ホの規定にも遡る。
  この二原則は対人地雷についても適用される。しかしこれらの原則からだけでは、対人地雷は本質的に「軍事目標及び文民又は民用物に区別なしに打撃を与える性質を有するもの(五一条4)」であり、「その性質上過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器(三五条2)」であるからその使用は禁止すべきであるとの主張も行ない得るし、また、それは戦闘の方法如何によるものであり、地雷も適法に使用すれば正当な兵器であると主張することも可能であろう。国際人道法の慣行では実際に使用を禁止制限する特定の兵器については個別に条約が作成され、適法、違法の問題が明確にされて来た。これはその特定の兵器について規制されるという国家の意思を明確に示しておく必要からであろう。個別の条約としては、四〇〇グラム以下の発射物で炸裂性のものなどについての一八六八年のセント・ピータースブルグ宣言、一九二五年の毒ガス使用禁止議定書、七二年の細菌兵器禁止条約、九二年の化学兵器禁止条約などが例であり、対人地雷については八〇年の特定通常兵器条約の議定書IIが現行の条約として締結国間に適用されている。
(二)  特定通常兵器条約作成の経緯
  第二次大戦後この戦争の経験を踏まえ、傷病者、捕虜、文民の保護のため一九四九年に四本の条約が作成された。ジュネーブ諸条約と呼ばれる。しかし武力紛争の犠牲者の保護にはまだ不十分とされ、五〇年代から赤十字国際委員会を中心に研究が進み、その結果一九七四年から七七年にかけてスイス政府の主催によりベルンで「武力紛争に適用される国際人道法の再確認と発展に関する外交会議」が開催され、ジュネーブ諸条約への二つの追加議定書が採択された。赤十字国際委員会での研究の過程で具体的な通常兵器の使用禁止、制限についても条約を作るべきだとの見解が出され、七三年テヘランでの赤十字国際会議は「不必要な苦痛を生ぜしめ又は無差別の効果を有する通常兵器の使用の禁止又は制限」の問題の審議を外交会議に求める決定を行なった。七四年ルツエルンで、また七六年ルガノで政府専門家会議が行なわれ外交会議に上げられて、ナパームなどの焼夷兵器、遅動兵器、地雷、ブービートラップなどの背信的兵器、小口径火器、爆裂性兵器などが対象となるというところまでは議論されたが、不必要な苦痛の概念についての見解の不一致のため討議が進まず外交会議では結論に達しなかった(4)。そこで一九七七年の国連総会は、七九年にこの条約を作成する国連会議を開催すると決議し(32/152)、七九年、八〇年の二回の会議を経てこの特定通常兵器条約とその三つの議定書が採択されたのである。日本の批准は八二年六月であり、条約は八三年一二月に発効した。九六年七月現在六二国が批准している。
(三)  この条約の形
  条約の形は特に重要な問題ではないが、形からいうとこの条約は本体の傘の下に何本かの議定書乃至付属書が付くいわゆるアンブレラ条約である。枠組み条約ともいわれる。すなわち条約本体は趣旨、原則、手続きなどを規定し、禁止、制限などの対象、内容は付属の議定書などが規定する。条約本体はむしろ議定書作成のための手段と見てよい。規制などの実施の具体的対象、細目などを付属書、議定書、別表等に規定する枠組み条約は、軍縮関連では化学兵器禁止条約、細菌兵器禁止条約などの例があり、ある種の人権条約にも見られるが、近年は地球環境問題関連の例が多い(5)。環境問題のようにまず大枠の国際的な合意を固め、討議が詰まるにつれて細目の合意を進めるという場合にはこの枠組み条約のアプローチは有用であろう。フォローアップの機構、事務局のある場合は特にそうである。しかし通例国内の締結手続きに関してはそれが議定書であれ条約であれ特に差はない。すなわち新たな義務を負うものの締結は新たな条約の締結となる。結局この点は各国の国内法如何によるものであり、今次の地雷議定書の改定に当たって条約本体の改定を避けたのはこの配慮からでもあった模様である。
(四)  特定通常兵器条約に付属の「地雷、ブービートラップ及び他の類似の装置の使用の禁止又は制限に関する議定書」(議定書II)の内容
  現行議定書の要点は次の通りである。
・地雷等を文民に対して使用しないこと  無差別に使用しないこと  使用に当たっては文民保護のための予防措置をとること(三条)
・居住地域においては一定の場合(軍事目標に対して、又は軍事目標に極めて近接しての場合、また、標識、監視、囲い付きの区域で)のほか地雷等を使用しない(四条)
・遠隔散布地雷は軍事目標を含む地域以外では使用しない  使用の場合は正確な記録が必要、又は効果的な無力化装置を付けること(五条)
・玩具に取り付けたものなど特定のブービートラップを使用しないこと(六条)
・地雷原等を設置する場合は位置を記録し、敵対行為の停止後これについての情報を公開する(七条)
・国連の部隊、使節団などには保護措置をとり、情報を提供する(八条)
・除去のための国際協力(九条)
(五)  現行議定書の主な欠陥
  次のような欠陥があるとされたが、これは要するに内戦に適用されないことと、使用の禁止、制限が不十分である、との二点に帰すると言えよう。
・国内紛争に適用されない(民族解放戦争、反植民地闘争は入っている)
・除去についての責任が明確でない
・探知不可能な地雷でも使用出来る
・遠隔散布地雷についての制限が弱い
・履行確保及びモニタリングについて規定されていない

四  議定書改定の経緯とその内容

(一)  経  緯
  九三年一二月の特定通常兵器条約の強化を求める国連総会決議(48/79)に基づき次の通り七回の会議が行なわれ改定議定書が作成された。
  九四年二月、五月、八月及び九五年一月の四回  政府専門家会議
  九五年九月二五日ー一〇月一三日  第一回再検討会議  ウィーン
  九六年一月一五日ー一九日  第二回再検討会議  ジュネーブ
        四月二二日ー五月三日  第三回再検討会議  ジュネーブ
  第一回再検討会議には四四の締約国と四〇のオブザーバーが参加した。この数は各々第二回は四三と三三、第三回は五一と三六であった(6)
(二)  審議経過の概要
  紛争中、紛争後に対人地雷が住民、避難民に及ぼす広範、多大な惨害に関心が高まって、先進各国のNGOや、武力紛争の犠牲者の保護に当たるべき赤十字国際委員会は、再検討作業が始まる頃から、この際対人地雷の生産、保有、移転の禁止を含め廃絶にまで持って行こうとの動きを示し(7)、一部西側諸国の政府も政府専門家会議においてこの立場をとった。これに対しロシア、中国、インド、パキスタンなど主として非同盟、途上国側は、地雷は適法に使用すれば正当な防衛兵器であり、規制を強化しすぎれば大体の途上国はこの議定書に入って来ないだろうと強く主張した。この間にあって参加国の大勢は地雷使用の制限の強化で議定書改定をまとめようとの方針をとったようである。
  再検討会議のモランダー議長は第一回会議の後の九五年の国連総会第一委員会への報告において、参加国の間に重要な見解の相違があるとして、「ある国が対人地雷は本質的に無差別なものであるから本来違法であると見ているのに対し、他の国は自衛のために必要で正当な兵器であるとしている。多くの国で地雷は防衛計画の中で周辺的な役割を演じているだけなのに対し、他の国では国土の防衛に決定的な貢献をしている。」と指摘し、合意に達するためにはこの見解の相違から来る困難を乗り越えて行かなければならないとしている(8)
  結局主な問題点としては(ア)国内紛争への適用、(イ)使用制限の強化、(ウ)生産、保有、移転の禁止、(エ)現地査察を含む検証制度、という四点があったが、西側諸国の立場が厳格な規制を望むものから比較的現実的なものまでと開きがあったこと、政府専門家会議と再検討会議の双方の議長であったスウェーデンのモランダー大使が積極的に取り纏めに努力し、途上国側の主張に歩み寄った議長案のテキストを作成、これを基礎に交渉が行われたことなどから、改定議定書は先進国側の方が相当譲歩した内容のものとなった。国内世論の圧力のない途上国側に有利であったということである。すなわち、国内紛争への適用については、先進国側が当初平時をも含むあらゆる状況に適用されるとの提案を行なっていたが、インドなどが反対、平時は適用範囲から除かれた。国境防衛など現に平時に地雷を使用している国の反対が強かったということであろう。赤十字国際委員会やNGOが支持している生産、保有、移転の全面禁止は、スウェーデンなどの北欧諸国やスイス、オーストラリアなどが主張したが、途上国側の反対もあり、使用の制限という現行議定書のラインを一層強化する方向を探るべきではないかとの大勢となって、移転のみについてこの議定書の締約国乃至はこの議定書の適用に同意する国に対して以外は行なわない、ということだけが決まった。査察も含む検証については米国その他が熱心であったが、インド、メキシコなどが主権を犯すものとして現地査察の制度に強く反対、最後のぎりぎりまで大いにもめ、結局先進諸国が譲歩して、遵守状況について年次報告を出すこと、及び毎年締約国会議を開いて協議すること、のみの合意となった。
  使用の禁止、制限は現行議定書の本来のアプローチであり、この強化に反対はなく、結局その条件、程度をめぐる交渉が再検討の中心課題となった。再検討会議の米国首席代表であったマイケル・J・マセソン国務省法律顧問によればこの点の交渉の基礎となったのは米国の案であった。文民への被害を減少させるために、対人地雷は明確に標識を付け、監視された区域のみで使用するか、あるいは地雷自体に短期間で自己破壊する装置とやがて自己不活性化する機能の双方を備えさせることが米国の案の基本であった(9)。地雷の自己無力化機能を高めることによって規制を強化するとの考え方である。標識や監視については既に現行議定書に規定されており、本質的にこれを確認するものである。もう一つの重要な点は、探知不可能な地雷の使用を禁止したことである。通常地雷の探知は金属探知器で行なうので、鉄八グラムの単体相当以上の信号音が出ることが条件とされた。自己破壊装置、自己不活性化機能、探知の可能性などの事項とその信頼度は技術的な問題で、この交渉に随分時間がかかったようである。再検討会議が一回でコンセンサスに達せず、三回の会議を要したのも検証の問題のほかは主としてこの技術問題の詰めのためであった(10)。一般的にロシア、中国、インド、パキスタン、イランなどの諸国が規制の条件を緩やかなものにするよう努めた模様である。例えば中国は既に保有している地雷が多数なので、今後生産するもののみ探知可能にすると主張した。また自己破壊装置の信頼度についても低いものを主張した。西側としては、自己破壊装置と自己不活性機能の双方をあわせて九九・九%有効の信頼度を確保する(11)ことと探知可能性の二つの点について夫々九年という長期の猶予期間を認めるとの譲歩をして途上国側の同意を取り付けることが出来た。当初ロシアなど一五年の猶予期間も主張したし、インドは探知可能性の猶予期間は締結国が自分で決めるとの案を出していた。
(三)  改定議定書の内容
  九六年の国連総会第一委員会において再検討会議のモランダー議長が行なった報告の中で改定議定書の改善点とされた諸点は次の通りである(12)
・適用範囲に国内紛争も入る  これは国際人道法では初めてのことである
・探知不可能な対人地雷は使用禁止
・自己破壊装置と自己不活性化機能により九九・九%の信頼度で一二〇日以内に不活性とならない地雷は、囲い、標識、監視のある区域以外では使用禁止
・探知排除装置は禁止
・すべての地雷につき、標識や記録などの要件で使用制限の強化
・国連のPKO部隊、ミッシヨン、人道ミッシヨン、赤十字などへの保護の強化
・重要な事項の違反への刑罰義務
・周知広報義務  軍隊の教育義務
・地雷の除去乃至維持についての敷設者の責任を明確に規定
・地雷の除去、犠牲者のリハビリなどへの技術協力、援助の明記
・探知不可能な対人地雷、長命な遠隔散布地雷の移転禁止  非締約国への移転の制限  国家以外への移転の禁止
・毎年締約国会議で協議
・二〇〇一年に第一回再検討会議の開催
(四)  改定議定書についての評価、批判
  現行議定書に比べれば相当の強化が行われたと見るべきものであろう。モランダー報告の通り、適用範囲は国内紛争にまで拡大され、探知不可能な対人地雷の使用は禁止されるなど使用の制限は強化され、敷設者の除去責任が明記され、移転規制が導入され、そして毎年の報告と締約国会議で実施状況がチェックされるということになった。特に自己無力化をしない遠隔散布地雷が多数ばら撒かれるようなことが無くなったのは大きな改善であろう(13)。しかし廃絶までを望んだ西側先進国の政府やNGOから見れば、改定の失敗は許されないとしていろいろ譲歩を行い妥結したが、結果は抜け穴の多いものが出来て失望したということであったらしい(14)
  主な「抜け穴」とされるものは、例えば次のような諸点である。
・適用範囲に「平時」が入らなかった
・移転につき、相手が義務を守ると言いさえすれば規制されない(議定書の適用 に同意する国に対しては締約国でなくとも移転してよいー八条1C)
・探知可能性、自己破壊、自己不活性化などにつき、九年という長い移行猶予期間を認めた
・対人地雷の定義(二条二)に「主として(primarily)」の語が入り曖昧となった
・検証制度が欠けている
この中でも長い猶予期間は問題であろう。従来の型の地雷が長期間従来の方法で使用出来るのである。しかしこの猶予期間を認めなければ、多くの有力途上国やロシアは改定議定書に同意しなかったであろう。
  EU諸国やカナダなど、及び赤十字国際委員会や多くのNGOが批判的であり、既に再検討会議の直後から使用だけでなく生産、保有、移転も禁止して対人地雷の廃絶にまで持って行く努力を続けるとの意向を表明している。
  例えば赤十字国際委員会は、地雷の軍事的必要性といっても、それは限定的なもので、紛争中、紛争後に住民、避難民に及ぼす極めて広範多大な地雷の惨害を思えば、地雷は非人道、反平和の悪である、との本質論のほか、囲いの中で使うとしても、途上国では柵や杭は引き抜かれて住民の家の境界に使われ、標識板は屋根などに流用されるし、プラスチック製の軽い地雷は雨で土と共に流され外に出ることもあるので、囲いで害を防ぐことも実際的ではないなどとも主張し、結局は全面禁止、廃絶の道しかないという(15)


五  特定通常兵器条約とその議定書の性格
  −国際人道法のアプローチと軍縮のアプローチ
  この条約は作成の経緯についての説明で述べたように、特定の通常兵器の使用を禁止、制限することにより武力紛争の際の文民の保護を図るということを本来の目的としている。すなわちこの条約は国際人道法の条約である。しかしこの条約は、兵器の規制という点から見れば、軍縮、軍備管理の側面も持っている。国際人道法と軍備管理条約の二つの性格を併せ持っていると言えるであろう(16)。国際人道法の目的は、文民の保護であり、軍備管理、軍縮の目的は、平和の維持、安全保障にある。この二つの面を分けて考えるのはとり立てて意味のあることではないかもしれない。しかし交渉に当たる法律専門家の姿勢の影響というものがある。今次の議定書改定作業がジュネーブを中心にして主として各国の軍縮交渉関係者によって行なわれたためなのか、今回先進国側はどうも軍縮的アプローチが強かったように思われる。使用のみならず生産、保有、移転も禁止しようと主張するとか、検証制度にこだわるところは、化学兵器禁止条約の包括的なアプローチを思わせるものである。軍縮、軍備管理の観点からは、検証、査察、効果的国際管理などの事項が直ちに重要な問題となるのであろう。対人地雷の廃絶の場合は、その使用と移転の禁止を宣言的に規定するのみの国際人道法的アプローチでも十分の効果が挙げられるのではないかと感じる。また、幾つかの国は、地雷は自衛のために必要な兵器であるとの主張を繰り返している。これらの国の支持を得て廃絶に近付くためには、全面禁止を言うよりも、国際的な移転を禁止し、かつ、使用を自国領土内での自衛のためのものに限るとするのが一案ではないかと思うが、これも考え方として人道法的なアプローチによる方がより達成容易ではなかろうか。

六  議定書II改定以後の動き

(一)  米、日の政策表明など
  九六年五月三日の改定交渉妥結の前からも多くのEU諸国、カナダ、オーストラリアなどを中心に対人地雷の即時全面禁止を支持する国が増加して来ているし、米州機構は西半球を地雷フリーゾーンにする決議を行なっている。
  五月一六日クリントン大統領は米国の政策をまとめ、次の諸点を発表した。これは九四年の国連総会演説で表明したものと実体的には同様趣旨のものであったが、「禁止のための国際合意の追求」の言明は新しく、以前の「終局的には廃絶へ」の表現よりも踏み込んだもので、また、一層具体的な発言となっている。
・対人地雷禁止の国際合意を追求する
・朝鮮半島での使用と訓練用を除いて、従来の普通の地雷は使用しない
・保有する従来型の地雷は今世紀終りまでに破壊する
・自己破壊、自己不活性化の地雷は禁止条約が出来るまで使用の権利を留保する
・対人地雷の代替手段の開発を進める
  また、六月二九日リヨンにおいて橋本首相は対人地雷全面禁止支持の日本の立場を大要次のように述べた。
・日本は対人地雷の全面禁止に向けた国際的な努力を支持する
・その合意成立前でも自己破壊装置を有さない対人地雷は取得せず、使用しない
・合意成立前に侵略の脅威に晒され、防衛のため代替手段がない時は再検討する
・引き続き、地雷は輸出しない
  すなわち、この橋本発言では保有している地雷の破壊や地雷の生産停止については何ら触れていない。自衛隊は、本土が侵略された場合には使用の必要性を否定し切れないと考えているらしい。
(二)  オタワ会合
  議定書IIの改定結果に不満で対人地雷の廃絶を追求しようとする諸国は一〇月三日から五日迄カナダ政府の主催でその首都オタワに会合し、「対人地雷の世界的禁止に向けて」と題する宣言を採択した。正式参加国五〇、オブザーバー国二四、国際機関、NGOなど八の参加であった。国際戦略会議と名付けられたオタワ会合のこの宣言の主旨は、対人地雷の人道的、社会経済的コストが極めて大きいので、この兵器の禁止、廃絶が国際社会として緊急に必要であるとの認識の下に、法的に拘束力のある対人地雷禁止の国際合意を出来るだけ早く締結するため協力することをコミットする、というものであった。
  会合を終わる際にカナダのアックスワージー外相は、九七年六月にベルギーで全面禁止条約案を作り、一二月にオタワでこれを採択しようとまで述べた。にわかにテンポが早くなった感がある。しかし、国境を隔て敵対勢力と対峙しているあるオブザーバー国の代表は、防衛に地雷を使用しないということは自国国民の生命の犠牲においてのみ可能なのだと述べていたとのことである。
(三)  第五一回国連総会の決議
  九六年の国連総会には一般完全軍縮の議題の下に米国の主導で作成された「対人地雷禁止のための国際合意」と題する決議案が提出された。日本を含む八四国の共同提案であった。この決議案の主旨は、国連総会が対人地雷の広範な無差別、無責任の使用が非戦闘員に及ぼす苦痛と損害を懸念して、出来るだけ早期に全ての対人地雷を禁止する国際条約を締結する必要を認め、加盟国に対し出来るだけ早期に交渉を完了することを念頭に対人地雷の使用、保有、生産、移転を禁止するための効果的な法的拘束力のある国際条約を鋭意追求するよう強く促す、というものである。決議案は一一月一三日一四一対〇対一〇の表決で第一委員会を通過、一二月一〇日の本会議で一五五対〇対一〇の表決で採択され、総会決議51/45Sとなった。棄権はベラルーシ、中国、キューバ、北朝鮮、イスラエル、パキスタン、韓国、ロシア、シリア、トルコの一〇国であった。
  対人地雷について総会が全面禁止の国際条約の締結にまで言及したのは初めてのことである。従来の決議は、やがて廃絶にまで行く、という趣旨の表現に留まっていた。第一委員会での表決に際して、中国などが自衛権の発動の場合には地雷の使用は認められるべきであるとの立場を繰り返す発言を行っている(17)
(四)  今後の動き
  遺棄地雷の探知と除去及び犠牲者の支援の問題についての会議が九七年三月に日本で予定されている。また、上記のオタワ会合のフォローアップの会議が二月にオーストリアで行われ(18)、続いて六月にベルギーで、また再び一二月にカナダで、行われることになっている。
  一方米国を中心に九七年春会期からジュネーブ軍縮会議で全面禁止条約の審議に入ろうとの動きが見られるが、コンセンサス方式の軍縮会議では、はかばかしい審議の進展は容易ではないであろうと思われる。

七  お  わ  り  に

  戦争法規の中に、戦闘員と非戦闘員とを、そして文民、民用物と軍事目標を区別し、無差別に攻撃してはならない、また、戦闘員にも無用の苦痛を与えてはいけないという考え方が段々と形成されて、まず毒ガスやダムダム弾などを禁止する個別の条約が締結され、やがて一九七七年にこれらの原則を条約文に規定するジュネーブ諸条約第一追加議定書が作成され、次いでこれを受けて使用を禁止、制限すべき具体的な通常兵器について条約化が行われ、その典型的なものが地雷についての現行の議定書IIであった。ところが、対人地雷が一般住民に及ぼす惨害はむしろ一九八〇年のこの議定書の作成以後の武力紛争の場合に著しく、あらためてこの規制の強化が叫ばれ、その結果今次の改定が行われた。この改定も、対人地雷は、特に自衛の場合には、必要で正当な兵器であるとの前提に立っている。一部の有力国家は、この前提で今次の改定議定書に同意した。これに対し、より多数の国は、対人地雷の悪を見ればこの前提はもはや成り立たず、対人地雷は全面禁止とし、早期に禁止のための条約を作るべきだとする。
  このように、対人地雷については使用の制限強化を規定する今次の改定議定書と、早晩作成されるであろう全面禁止条約とが並立することになる趨勢である。上記五の末段で述べたようにこの二つを一本化し得る考え方もあると思うが、二つのレジームの並立という変則的な形であっても、これにより法規制の面で対人地雷の使用を大きく制限する画期的な進展が行われることになるのは確かである。

(付記)  地雷の探知と除去、犠牲者のリハビリの問題
  以上に述べた法規制の問題は、我々が直面している地雷問題の一面にすぎない。既に膨大な数の地雷が埋設、放置されており、深刻な問題となっていることは冒頭で述べた国連決議の示す通りである。遺棄されている地雷を探知、除去し、被害者のリハビリを助け、義足などを援助することは同様に重要で、しかもより緊急な問題である。日本は九七年の三月にこの問題についての国際会議を開催する計画とのことである。日本として大きな国際貢献を行う好機である。
  従来の探知、除去技術は、地雷原の突破、破壊を目的とする軍事的な要請に基礎を置いたものであり、住民の保護という現在の我々の目的に完全にはそぐわないし、また金属の探知を手法としているものが通例で、プラスチック地雷には適さない。新しい安全、迅速な探知技術の開発が要望され、各国で研究されているが、まだ優れた技術の完成を見ていない。日本では東京のジオ・サーチ社が路面下の空洞を電磁波で探査する地中レーダーを応用する探知技術を開発中であり、これはプラスチック地雷の探知も出来るので大いに期待されている(19)
  地雷の除去にはこのようなハイテク探知技術だけでなく、現地要員の訓練、除去機材、防護服、通信機材、移動機材の供与などシステム的な支援が必要とされる。日本は資金力もあり、技術力もある。大きな貢献が出来る筈である。必要なものは、国民の関心と支持である。


(1)  国連人道局の資料などにより地雷が百万個以上埋設乃至放置されているという国は次の通り(単位百万  韓国、ヴェトナムなど数が不明とされる国を除く)
      アフガニスタン         一〇
      クロアチア            二
      イラク             一〇
      アンゴラ          九ー一五
      エジプト            二三
      モザンビーク           二
      ボスニア         二ー  三
      エリトレア            一
      ソマリア             一
      カンボジア         八ー一〇
      イラン             一六
      スダン              一
      中国               一〇
(2)  D. Gowdey, The Land Mine Crisis:The Humanitarian Dimension, UNIDIR Newsletter, No. 28/29, Land Mines and the CCW Review Conference, Dec. 1994/May 1995, p. 17.  このニュースレターは有用な論文、資料を所載。
(3)  Advisory Opinion, Legality of the Threat or Use of Nuclear Weapons, International Court of Justice, 8 July 1996.
(4)  竹本正幸、国際人道法の再確認と発展(一九九六)二三九頁。
      浅田正彦、特定通常兵器使用禁止制限条約と文民の保護、京都大学法学論叢一一四巻二号及び四号(一九八三)。
(5)  地球環境関係の枠組み条約の例。
    一九八五年オゾン層保護ウィーン条約と関連の一九八七年モントリオール議定書
    一九九二年気候変動枠組条約
    一九九二年生物多様性条約
    一九七二年野生動植物保護ワシントン条約
(6)  再検討会議については、一般に会議の最終文書 CCW/CONF. I/16 (PartI) を参照。
    なお Goldblat, J., Inhumane conventional weapons, SIPRI Yearbook 1995 及びLand-mines and blinding laser weapons 同 Yearbook 1996.
(7)  赤十字国際委員会の主張については、Landmines Must Be Stopped, ICRC Special Brochure, 1995, Anti-personnel Landmines, Friend or Foe?, ICRC 1996.  などの刊行物を参照。
    また積極的に活動するNGOの例は次の通り。
    Human Rights Watch-Arms Project
    Physicians for Human Rights
    The U. S. Campaign to Ban Landmines
(8)  A/C. 1/50/PV. 17, 9 Nov. 1995.
(9)  M. Matheson, New Landmine Protocol Is Vital Step Toward Ban, Arms Control Today, vol. 26, no. 5, July 1996, p. 9.  また The United Nations Disarmament Yearbook 1995, p. 165 も参照。
(10)  The United Nations Disarmament Yearbook 1995, p. 175.
(11)  自己破壊装置は例えば電子技術利用のタイマーでよいが、多くの国では高価なものは使用されず、酸を利用するなどのロウテクのものが使われることになろう。従って信頼度は低いこととなる。それで自己不活性化機能で補い、両者併せて信頼度を高める。自己不活性化には、電池が消耗したら信管が働かなくなるようにしたものが普通使われるという。これは簡単な技術でよく、信頼性はあろう。
(12)  A/C. 1/51/PV. 11, 22 Oct. 1996.
(13)  遠隔散布地雷で悪名の高い例は、ソ連がアフガニスタンで飛行機やヘリから何百万個と撒いたバタフライ地雷といわれたものである。蝶ネクタイの形で片手に載る大きさ、爆発すれば腕や足は飛び、子供は死ぬくらいの力があるという。全く無差別の兵器である。また、英国などで開発されたハイテクの遠隔散布地雷で、発射機から一分間に何百発と撒かれるものもある。こういうものが探知不可能で、自己破壊もせずに残れば大変なことである。
(14)  批判論の例としてS. D. Goose, CCW States Fail to Stem Crisis, Arms Control Today, vol. 26, no. 5, July 1996, p. 9.
(15)  上記注(7)の資料参照。
(16)  この二面性に触れた論考の例として Bring, O., Regulating conventional weapons in the future-−humanitarian law or arms control?, Journal of Peace Research, vol. 24, no. 3, 1987.
(17)  A/C. 1/51/PV. 21, 13 Nov. 1996.
(18)  二月一二日から三日間の日程でウィーンで行われたこの会議は、オタワ・プロセスすなわちオタワ会合のフォローアップの一環であり、一一一か国が参加してオーストリアが提出した全面禁止条約案の審議を開始したが、参加国にはオタワ・プロセスに積極的な国家のみならず、米英仏日のように条約案の審議はむしろ軍縮会議で行おうとの立場の国や現段階での全面禁止に反対の国も含まれており、様々な見解が表明されたとのことである。オタワ・プロセスは六月にベルギー、次いで要すればノールウェーかスイス、そして一二月にカナダ、と続く予定とされる。
(19)  ジオ・サーチ社、東京都大田区に所在、代表取締役は富田洋氏、富田氏は専門家として九五年ジュネーブで開催の「地雷除去に関する国際会議」などの関係会議にも出席している。

参考文献(地雷問題及び地雷について)
  Landmines:a deadly legacy. Human Rights Watch, 1993.
  Hidden killers:the global problem with uncleared landmines.  US Department of State, 1993.
  Trends in mine warfare. Jane’s Information Group, 1995.(一九九七・一・八稿)