立命館法学  一九九六年六号(二五〇号)一四五二頁(一一二頁)




反トラスト法と技術革新
−「技術革新市場」分析をてがかりとして−


宮井 雅明






目    次




一  課題の設定

  我が国独占禁止法第一条では、「公正かつ自由な競争」の促進が「事業者の創意を発揮」させる効果をもつことが認められている。その具体的意味は必ずしも詳細に議論されている訳ではないが、競争秩序の維持によって技術革新の促進が期待されていることは確かであろう(1)。この点を捉えれば、独占禁止法は、技術革新促進の手段としても性格づけ得ることになる。しかし、実際には、我が国において独占禁止法がかような役割を担ったことは一度もなかったと言ってよい。その代わりに、我が国では、産業の保護育成策の一環として技術力の向上が図られてきた。そのことは、有望技術の政府による選別、外国企業の日本市場進出からの保護を前提とした外国技術の(有利な条件での)導入の促進、補助金や税制上の優遇措置を通じた有望技術の開発促進、補助金や税制上の優遇措置とも結び付いた鉱工業技術研究組合法に基づく共同研究開発の促進等に顕著に表れている(2)。しかし、相当程度の技術力を身につけるに至った我が国が従来通りの仕方で技術力向上を図るとすれば、徒に国際摩擦を拡大する結果となろう。何よりも、今日の我が国の産業競争力の一つの源泉とされる民間企業による研究開発の組織と態様は、生産系列等に見られるように、特殊日本的な企業間関係や取引慣行とも密接に結び付いている(3)。国際的にも国内的にも日本型企業社会の変革のあり方が問われている今日、産業の保護育成を主眼とする従来の技術政策もまた見直されてしかるべきである。そして、見直しの方向性を探る一つの鍵は、独占禁止法にあると思われる。もちろん、独占禁止法は万能ではない。地球環境問題等への対処が迫られている今日では、そもそも、一国の技術進歩の方向性の決定は市場原理にのみ委ねられるべき問題ではあり得ない。ただ、技術開発の担い手として民間企業の存在が無視し得ないのも事実である。独占禁止法は、民間企業に研究開発面での社会的責任を全うさせるうえで何らかの役割を果たし得るのではないか。
  この点で注目されるのは、九〇年代以降のアメリカ反トラスト法の運用において「技術革新市場」における研究開発競争減殺の蓋然性を根拠とするクレイトン法第七条にもとづく合併規制の事例が目立つことである(4)。八〇年代のアメリカでは産業の国際競争力強化のための反トラスト法の規制緩和の必要性が唱えられた。反トラスト法は、技術革新と競争力強化の妨げと考えられていたのである。これに対して、「技術革新市場」の提唱は、むしろ反トラスト法の積極的適用による技術革新の促進を志向する点で注目されるのである。本稿は、この「技術革新市場」をめぐる議論を素材として、技術革新の促進において独占禁止法が果たし得る役割を考察するものである。もっとも、アメリカにおいても議論は進行中なのであり、「技術革新市場」分析がどこまで実務に定着するかは予断を許さない状況にある。しかし、この提案には、少なくとも問題提起としての意味はあると思われる。現時点でも、この問題提起の意味とその受けとめ方を問うことは許されよう。本稿では、とりあえず、反トラスト法と技術革新との関係に関する従来の議論との比較において「技術革新市場」提唱の意義を探ることに焦点を絞り、その日本法への示唆については暫定的な結論を述べるに止めたい。なお、本来ならば具体的な事例分析を行うべきであろうが、紙幅の都合上それは後日の課題としたい。

二  「技術革新市場」の前史

(1)  反トラスト政策における技術革新の考慮ー出発点としての「多様性の確保」
  技術革新の促進(「進歩性」あるいは「動態的効率性」)は従来より反トラスト政策の目標として掲げられて来た。反トラスト政策において技術革新をいかに考慮すべきかは、具体的には、主として特許権の反競争的な使用や特許ライセンス契約中の反競争的条項に対する反トラスト法の適用のあり方(いわゆる「特許・反トラスト問題」)と関連して議論されて来た。そこでは、反トラスト法上容認されるべき特許独占の範囲が問題とされ、研究開発への誘因として権利者に保障されるべき独占的報酬に関する認識が議論を左右して来た。かくして、特許制度そのものが独占の損失と技術革新促進との均衡点をどこに見いだしているか、さらには、特許制度の現実の機能をいかに評価するか(5)、その前提として市場構造と技術革新との関係をいかに理解するかが問われることとなった(6)。いずれにせよ、特許・反トラスト問題においては、特許制度の趣旨をどこまで尊重すべきかという形で、いわば間接的に技術革新の促進が考慮されるに止まっていた(7)
  これ以外の問題領域では、市場構造と技術革新との関係に関して定説がないこともあって、従来、技術革新の促進は反トラスト法の適用において副次的ないし付随的目標として位置付けられるに止まっていた。ただ、少なくとも、構造規制の必要性が強調されていた七〇年代までは、市場の非集中化を追求することは技術革新の促進と矛盾しないという認識が一般的であった。その根底には、研究開発における多様性の確保こそが技術革新を促進するという認識ないし信念があったと考えられる。たとえば、有名なスモッグ事件(8)において司法省反トラスト局は、新たな排ガス規制導入への対処を目的とする自動車メーカー間の共同研究開発が、開発の進展度が最も遅れているメーカーに合わせるかたちで研究開発を意図的に遅らせる点でシャーマン法第一条に違反するとして提訴した。この提訴の背景には、研究開発におる多様性確保の方針があったと言われる(9)
(2)  アメリカの国際競争力に対する懸念と研究開発共同事業に対する規制緩和
  反トラスト政策において技術革新促進を直接的に考慮する契機となったのは、七〇年代末以降のアメリカ製造業の国際競争力の低下をめぐる議論であった。これを受けて、反トラスト政策においては、特許・反トラスト問題における反トラスト法の規制緩和、合併規制における効率性の考慮といった諸点のほか、従来の反トラスト法の運用が研究開発における共同事業の障害となっていないかが問われた。これは、日本等において、外国で開発された基盤技術を定着させるための競争者間の協調が政府によって黙認ないしは助長されたことを念頭に置いた問題提起であった。この研究開発共同事業において、反トラスト法の適用における技術革新の考慮のあり方が中心的に問われることとなったのである。
  この問題領域における議論と実務は、以下のような経緯を辿ることとなった。まず、研究開発の効率性を高める共同事業に対して反トラスト法は元来寛容であることが確認されたが、競争者間の結合一般に対して反トラスト法は厳格に適用されるという産業界全体に浸透している認識が共同事業の障害となっていることが問題とされた(10)。かような誤解を払拭するために、研究開発共同事業に対する反トラスト法の運用方針の明確化の必要性が唱えられた。かくして、司法省反トラスト局は、一九八〇年に「研究開発共同事業に関する反トラスト法ガイドライン(11)」を公表することとなったのである。
  八〇年代に入り、アメリカ製造業の国際競争力の低下が一時的なマクロ経済的要因にのみ起因するものではなく、アメリカ製造業の経営と生産のシステムにも問題があることが明確に認識されるようになる。研究開発共同事業については反トラスト法の運用方針の明確化以上の措置が求められ、一九八四年に国家共同研究法が制定された(12)。これにより、研究開発共同事業への合理の原則の適用、反トラスト訴訟で敗訴した原告による被告への訴訟費用の支払いの可能性、司法省に届け出られた共同事業についての三倍額損害賠償の免除が規定された。これは、必ずしも実体法の変更を意図するものではなかったが、三倍額賠償の可能性が反トラスト訴訟を提起する誘因として機能していることに照らせば、明らかに、研究開発共同事業に対する特別の規制緩和と性格づけられるものであった。同法は、一九九三年に、共同生産事業を適用対象に含めるために改正され、国家共同研究生産法と改称された(13)。共同生産事業にまで適用対象が拡大された理由は、立法過程からは必ずしも明らかではない。ただ、制定に至る議論の経緯に照らせば、生産現場での情報を研究開発にフィードバックさせて研究開発段階から品質向上を図る必要性が認識されていたことは確かなようである(14)
  このように研究開発共同事業については反トラスト法上特別扱いが認められて今日に至っているのであるが、その過程において研究開発共同事業の競争に及ぼす影響に関しても分析が行われた。研究開発共同事業は直接的には企業間の研究開発競争の減少を意味するから、研究開発競争(の減少)とそれが技術革新に及ぼす影響とを説明するための新たな分析手法が求められた。かくして提唱されたのが「研究開発市場」の概念であった。
(3)  「研究開発市場」の意義
  その名が示すように「研究開発市場」とは、一種のサービスとしての研究開発活動を対象とする取引の場を、製品や技術の市場とは区別される独自の市場と想定するものである。前述の八〇年のガイドラインでは、「研究開発市場」を前提とする分析は見られず、研究開発競争は既存の商品市場を枠組みとする競争過程全体の中の重要な一要素であるという前提の下に分析が行われている。反トラスト政策の文脈で「研究開発市場」の概念が提唱され始めたのは、W. F. Baxter 局長時代の司法省反トラスト局によってではないかと思われる。「研究開発市場」の概念は、研究開発共同事業本体が競争に及ぼす影響を説明するための分析道具として援用されている。
  Baxter 氏自身の説明によれば、研究開発共同事業本体の反競争的効果として重視されるべきなのは、研究開発のための資産の集中よりむしろ、研究開発を遅らせ、あるいは、研究開発への投資を減らすための共謀の可能性であるとされる。かような共謀は、その存在が発覚しにくいためにアウトサイダーの反応を困難とする点では通常の商品市場における共謀より助長されやすい側面をもつが、他方で、抜け駆けの利益が大きい(逆に言えば、技術革新の波に乗り遅れることの危険性が大きい)ために実効性に欠ける場合が多いとされる。「研究開発市場」における市場占拠率は共謀の可能性を推測する指標としての意味を有するが、その算定には困難が伴うので、実際には「研究開発市場」のいかなる参加者も同じ占拠率をもつ(すなわち、研究開発の遂行能力において同等)と想定される。結局、彼は、共同事業が研究開発における規模の経済性や重複投資の回避(特に後者が強調されている)に寄与し得ることも考慮に入れて、問題の共同事業以外に研究開発の主体が二以上存在するか否か(市場占拠率が約三三%以上か否か)を違法性判断の一応の目安とすべきだと主張する(15)
  この議論は、協調行為の予防に重点を置いた八〇年代のシカゴ学派の合併規制の分析枠組みを応用したものと言える。「研究開発市場」の地理的範囲は通常「世界」と考えられている点、他に研究開発の主体が存在する限り共謀が成立する余地はほとんど無いと考えられている点から見て、この議論は、事実上、研究開発共同事業本体を反トラスト法の適用から除外する意思表示だったとみてよいであろう。八四年の国家共同研究法の立法過程や八八年の国際的事業活動ガイドライン(16)でも、基本的には同様の分析が踏襲されている。ただし、八四年の国家共同研究法の立法過程では、「研究開発市場」の参加者の大部分が共同事業に参加する場合(over-inclusiveness と表現されている)の問題点として、「研究開発市場」における共謀の可能性とは別に、研究開発の誤りが社会に及ぼす影響の大きいことや、優勝劣敗の圧力の減少による研究開発意欲の減退が強調されていた(17)。これは、シカゴ学派の影響というよりむしろ、研究開発における多様性の確保への伝統的な関心を反映しているのだと思われる。この点は、後の「技術革新市場」分析の立場に受け継がれていると見られる。
  八〇年代の「研究開発市場」と比較すると、九〇年代の「技術革新市場」は、研究開発共同事業に限らず、合併・株式取得一般の競争秩序に及ぼす影響を予測するための分析枠組みとして提唱され、しかも、反トラスト法上の規制を緩和する根拠としてよりも、むしろ、規制の根拠として提唱されている点が特徴的である。かような特徴を有するだけに、「技術革新市場」に対する批判も少なからず存在する。次章では、まず、「技術革新市場」の理論的根拠を探り、次に、「技術革新市場」をめぐる議論を概観する。


三  「技術革新市場」の意義


(1)  「技術革新市場」の理論
  実務における「技術革新市場」の理論的根拠を示すものと一般に見なされているのは、一九九五年に公表された Richard J. Gilbert と Steven C. Sunshine(両氏とも当時司法省反トラスト局に所属していた)の共同執筆論文である(18)。以下では、この論文を手がかりとして「技術革新市場」の理論的根拠の分析を試みる。
  ((1))  「技術革新市場」の目的と問題意識
  彼らの目的は、合併・株式取得(以下では単に合併と総称する)が引き起こす市場構造の変化が技術革新に及ぼす影響を、反トラスト法の解釈運用においてより良く考慮するための分析枠組みの開発にあった。彼らの問題意識は、技術革新への努力が経済発展の源泉として重要であるにもかかわらず、従来の反トラスト法は競争が技術革新に及ぼす影響を十分に考慮して来なかったという点にある(19)。この点では、彼らもまた、八〇年代における競争力問題に対する関心を共有しているようにも見受けられる。
  ((2))  「技術革新市場」における問題の所在
  従来のクレイトン法第七条の「競争の実質的減殺」の判断に際しては、専ら、合併の価格競争への影響に焦点が絞られていた。しかし、価格競争は、競争の一つの次元に過ぎない。実際には、さまざまな次元における非価格競争が現代の企業間競争の中心であると言っても過言ではない。彼らは、非価格競争が常に消費者の便益につながるとは限らない(例えば、過度の製品差別化や宣伝・広告への出費の問題を参照)が、その一形態である技術革新への努力に関しては、それが経済発展を通じて消費者の便益を高めることに疑いはないとする。問題は、特定の合併が技術革新にいかなる影響を及ぼすかの決定が困難な点にあるとされる(20)。すなわち、価格競争に関しては、関連市場における集中率の増大が(少なくとも一定程度は)企業の価格に対する支配力を高め得ることは理論面でも実証面でも確認されて来ているが、これと同様の関係が技術革新への努力に関しても成り立つかが問われる。もし同様の関係が全く成り立ち得ないのだとしたら、クレイトン法第七条の文脈で「技術革新市場」を想定することは無意味となる。何故なら、集中率自体に反競争的効果の指標としての意味が認められないとしたら、関連市場の画定も無意味だからである。かくして、「技術革新市場」分析の成否は、市場構造と技術革新との関係についていかなる前提に立つかに依拠することになる。
  また、合併が技術革新に及ぼす影響を分析する枠組みとして既に、既存の製品ないしは将来の製品の市場を前提として、合併が技術革新に及ぼす影響を分析する手法が提唱されて来た。かような状況の下で敢えて「技術革新市場」を提唱するからには、従来の分析枠組みでは何故不十分なのかが明らかにされねばならない(21)。彼らは、「技術革新市場」分析によって、合併が引き起こす研究開発競争の減少に伴う経済厚生上の損失がより良く分析され得ることを示すことで、これに応えようとするのである。
  ((3))  市場構造と技術革新との関係に関する認識
  彼らは、独占者は既存の製品からの独占的収益の流れを犠牲にするのを恐れて研究開発投資に消極的になるという Arrow の理論(22)を起点として従来の学説を整理している。彼らは、Arrow の理論を概観した後、その結論を(合併の文脈において)修正する要因として以下の諸点を挙げている。(i)技術革新の利益の専有可能性の問題、(ii)真に革新的でパラダイムの転換をもたらす技術革新に対しては(独占者に限らず)既存の製品に強くコミットする企業は投資したがらない場合があり得ること、(iii)研究開発を遂行する能力という点ですべての企業が平等とは言えないこと、(iv)独占利潤を守るための独占者による戦略的な研究開発投資があり得ること、(v)合併前の研究開発競争の激しさと合併当事者の技術力、(vi)研究開発投資の重複の除去、研究開発における規模の経済性、補完的な資産の結合等により合併が研究開発の効率性を高める可能性、(vii)研究開発支出と技術革新との因果関係が不明確であること、(viii)技術革新と市場構造との関係は必ずしも一方的なものでなく「技術革新↓市場構造」という方向での因果関係も想定し得ること、である(23)
  かような学説整理の仕方に、この問題についての彼らの立場が反映されているように思われる。彼らは、市場構造と技術革新との関係に関して定説が存在しないことを認めてはいるが、明らかに、競争の促進こそが技術革新を促進し、その速度を速めるという認識(あるいは信念)を分析の出発点としているのである。彼らは市場構造と技術革新との関係に関する実証研究もいくつか紹介しているが(24)、そこでも、集中率と研究開発活動との間に正の相関関係が成立するとは必ずしも言えないことが強調されている。
  ((4))  「技術革新市場」を枠組みとする経済厚生の分析
  彼らは、厳密に言えば、技術革新の促進そのものを目的視している訳ではない。技術革新の成果が、画期的な新製品の導入や既存製品の品質向上ないし費用低減を通じて、最終的には消費者に還元されるが故に、また、その限りにおいて、反トラスト分析の中で技術革新への影響を考慮すべきだとするのが彼らの立場であろう。かような立場を反映して、彼らは、研究開発活動を最終製品の生産へのインプットと捉える。このように捉えることによって、既存の商品市場を枠組みとする分析では把握しきれない経済厚生上の損失を分析することが可能となるというのが彼らの主張である(25)
  彼らは、アルミ・インゴットを中間製品として、そこからアルミ・ケーブルとローン・ファーニチャアという二つの異なる最終製品が生産される場合を例として挙げている。ここで、インゴットから二つの最終製品を一貫生産するアメリカとヨーロッパの二つの会社が存在するものとする。この二社は、ケーブルに関しては世界市場で競争関係にあり、ローン・ファーニチャアに関しては、それぞれアメリカ市場とEU市場で独占の地位を占めているが、相互には現実にも潜在的にも競争関係にはないものとする。この二社が合併する場合、その経済厚生に及ぼす影響はいかに分析されるか。
  最終製品と中間製品の市場にのみ焦点を絞った従来の分析では、ケーブルについての世界市場においてのみ(複占から独占に移行する訳であるから)合併は反競争的効果を有すると結論される。「技術革新市場」を前提とするとどうか。仮に合併によって研究開発への誘因が失われ、よりエネルギー効率の高い溶解プロセスのように中間製品の生産費用を削減するような技術革新が妨げられ、あるいは、その開発が遅らせられるとしたら、合併なき場合と比べて最終製品の生産費用はより高い水準に止まることになろう。この点を考慮に入れるならば、技術革新の喪失ないし遅れによってローン・ファーニチャアの生産費用(したがって、その価格)もまた、合併なき場合より高い水準で維持され得ることになる。また、ケーブル価格も、合併なき場合と比較して、従来の分析が示すよりも高い水準に維持されることになる。さらに、中間製品の製法に関する技術革新が既存企業による新たな最終製品(たとえば自動車部品)の市場への進出を可能にするとしたら、この側面でも合併は技術革新の成果を消費者が享受する機会を奪うことになり得る。かくして、「技術革新市場」分析によって、従来の分析では見逃されていた経済厚生上の損失を示すことが可能となると彼らは主張する(26)
  また、この例にもあるように、既存の製品の市場と「技術革新市場」とは、必ずしも一対一で対応する訳ではない。基礎研究や応用研究の段階での技術的課題については、一つの「技術革新市場」が複数の最終製品市場のインプット市場と位置付けられる場合が多いであろう。最終製品市場では(現実にも潜在的にも)競争関係にも取引関係にもないが、「技術革新市場」では現実に競争関係にある企業間での水平的合併があり得ることになる。彼らは、かような場合において従来の分析の下で見逃されていた反競争的効果を分析し得る点も「技術革新市場」分析の長所として掲げている。現に、ドイツのZF社によるGM・アリソン部門の取得事件は「技術革新市場」分析のかような長所が発揮された事例であったとされる(27)
  ((5))  実務における「技術革新市場」分析の適用可能性
  以上説明した長所があるとしても、「技術革新市場」の境界を確定することには実務上の困難が伴う。彼らは、研究開発活動そのものよりも特定の研究開発活動を行うための「特定の資産」の存在に着目すべきことを主張する(28)。「特定の資産」の外延は、必ずしも具体的に明らかにされている訳ではない。が、実験ないし試験のための物的施設のみならず、長年の研究開発活動や生産活動の経験から得られる知識の蓄積も「特定の資産」に含まれることは明言されている(29)。経済学研究のうえでは、企業ないし産業の技術知識の蓄積の大きさを数量化し測定する手法がいくつか提案されていると言われる(30)。彼らがこれらの研究成果を念頭に置いていることは明らかである。いずれにせよ、「特定の資産」を識別し得ない場合には客観的に「技術革新市場」を画定することは実務上不可能であり、この点に「技術革新市場」分析の限界があるとされる(31)
  具体的な市場画定の手順は以下のとおりである。まず、合併当事者間で重複する研究開発活動の識別の後に、これと代替可能な研究開発活動の担い手を、前述の「特定の資産」を手がかりとして識別する。次に、一九九二年水平的合併ガイドラインの手順に沿って供給面での代替可能性の面から市場参加者を最終的に画定する。その際、仮定上の独占者の「少額だか有意で一時的でない」研究開発の削減に対して、これと競合する研究開発活動を遂行するに必要な資産を二年以内に獲得すると予想される企業が市場参加者として追加される(32)
  「技術革新市場」画定後は、合併が技術革新の削減をもたらす蓋然性が分析される。この分析では、(i)合併企業は技術革新を削減する能力を有するか、(ii)合併企業は技術革新を削減する誘因をもつか、(iii)合併は研究開発の効率性に寄与するか、が問われる。
  (i)は、合併企業による技術革新の削減を牽制し得る研究開発活動の担い手がどれだけ存在するかという問題である。合併企業が技術革新を削減する仕方は二通りあり得る。一つは合併企業による一方的削減、もう一つは研究開発削減の共謀によるものである。後者の共謀が成立する可能性が小さいことは既に八〇年代から指摘されていた。ここでの焦点は、むしろ前者にある。すなわち、「特定の資産」が一つの企業に集中して研究開発における多様性が失われる場合が「技術革新市場」分析の主たる標的なのである。いずれの場合も「技術革新市場」における市場占拠率の測定によって能力が測られる。算定の尺度としては、研究開発支出、(最終製品の生産水準を含む)企業活動の水準、「特定の資産」の規模等が用いられるとされる(33)
  (ii)では、たとえば以下のような状況が念頭におかれている。すなわち、「技術革新市場」からみて下流に位置する製品が他の製品から激しい競争圧力を受けているといった場合には、仮に技術革新を削減する能力があっても、それを行使することは下流製品をめぐる競争に遅れを取ることを意味する。この場合、合併企業は技術革新を削減する能力はあっても、その誘因をもたないと説明される(34)。(iii)は、八〇年代における研究開発共同事業の効率性に関する議論を踏まえたものである。重複投資の回避、規模の経済性、補完的資産の結合といった、研究開発共同事業に関して主張された利点が合併についても当てはまる場合のあることが認められている訳である(35)。結局、合併が技術革新に及ぼす影響も、大筋では、一般の合併分析の手順に沿って分析可能であると結論される。
  以上要するに、「技術革新市場」分析を構成する諸要素は次のように整理されよう。第一に、研究開発における多様性の確保に対する関心が受け継がれていることは明らかであろう。第二に、八〇年代の「研究開発市場」の議論が踏まえられていることも見逃せない。それは、「技術革新市場」画定における「特定の資産」への着目、技術革新を削減する共謀の困難さの説明、研究開発における集中の利点への配慮といった諸点に示されている。第三に、「技術革新市場」分析の独創性は、(ア)技術革新を一方的に削減する力の形成を重視する点、(イ)研究開発を最終製品の生産へのインプットと捉える点、(ウ)「特定の資産」の識別の問題と関わって、技術知識の蓄積の測定手法に関する経済学研究の成果を積極的に取り入れようとする点に見いだすことができる。なお、(イ)の点は、競争者の費用引き上げ戦略として垂直的制限ないし垂直的合併を説明する理論の応用と説明されている(36)。このように整理してみると、「技術革新市場」分析は、必ずしも突飛な提案という訳ではなく、従来の議論を踏まえつつ新たな経済学研究の成果を取り入れることによって、より一般的な分析枠組みを提示するものと性格づけられよう。
(2)  「技術革新市場」をめぐる議論
  ここでは、Gilbert と Sunshine の主張に対する批判を、前節の((1))から((5))の項目毎に概観してみよう(37)
  ((1))や((2))における技術革新の重要性に対する認識自体は、批判者も共有している。批判が集中しているのは、((3))と((4))における分析である。
  ((3))に関して批判者は、「技術革新市場」分析が、(i)研究開発における集中の増大と研究開発活動の減少との間の因果関係と(ii)研究開発活動の減少と技術革新の減少との間の因果関係とを暗黙のうちに前提としていると指摘する。しかし、このうち(i)に関しては、現代の経済学は経済的データを用いて因果関係を予測し得る程の水準には達していない。また、合併が研究開発活動を削減する二つの道筋のうち、共謀による削減に関しては、研究開発における集中が共謀を容易にすることを示す理論は確立されていないとされる。合併企業による一方的削減に関しても、それが社会的に望ましい研究開発活動の削減なのか、それとも、重複投資の回避や社会的にみて過大な投資水準の適正化と評価されるべきなのかを見極めるための理論は存在しないとされる(38)
  (ii)に関しては、技術革新は研究開発活動のアウトプットと位置付けられるが、技術革新の質の問題、研究開発努力の重複、浪費、決定の誤り、研究開発活動の機会費用等を考慮すると、より多くの研究開発活動が常により多くの市場性ある技術革新を生み出すとは限らないとされる。「技術革新市場」分析は、この面での因果関係を安易に前提とする点で飛躍があるとされる(39)
  以上の批判に対して、Gilbert と Sunshine は、市場構造と技術革新との関係について定説がないとしても、集中が技術革新を遅らせる場合のあることが認識されている以上、事案の特性に応じて合併が技術革新に及ぼす影響を分析する必要性は否定されないのであって、そのための分析枠組みとして「技術革新市場」には意味がある旨を主張する(40)。批判者もまた、研究開発における集中が技術革新の削減をもたらす場合のあり得ること自体は否定しないであろう。ただ、それを利用可能なデータから予測する試みは、成功するよりも失敗する可能性が大きいとみているのである。そして、技術革新を抑圧する合併を規制しないことに伴う損失よりも、予測の失敗によって技術革新の促進にとって有益な合併が規制されることをより強く懸念しているのである。このことから、批判者の立場は、集中の増大が技術革新の増大をもたらすというシュンペーター的見方を暗黙のうちに前提としていることが読み取れる。「技術革新市場」分析の立場とその批判者とでは、議論の前提となる実態認識が異なっているのである。
  ((4))と((5))に関わる批判も、この前提の違いに由来しているか、あるいは、それと結び付いていると言える。((4))に関わっては次のような批判が投げかけられている。すなわち、「技術革新市場」分析が優位性を発揮するとされている事例は、ほとんどの場合、既存の商品市場を枠組みとして分析し得る。なぜなら、「技術革新市場」で競争関係にある企業は、通常は最終製品の市場においても現実に競争関係にあるか、あるいは、少なくとも、判例法上の(「現実の」及び「知覚された」)潜在的競争の理論(41)の下で、潜在的な競争関係に立つと考えられるからである。Gilbert と Sunshine が掲げる設例は非現実的である。仮に、彼らが掲げるような事例が現実に存在するとしても、かような場合に合併を規制することは、上述の理由から「過剰な」規制となる可能性が大きい(42)。さらに、((5))に関しては、研究者やエンジニアを含む研究開発活動の構成要素が著しく流動的なアメリカにおいて技術革新を遂行する能力の独占はほとんどあり得ないこと、そして、そのこととも関連して、Gilbert と Sunshine の言う「特定の資産」に何が該当するかが不明確であること等が指摘されている(43)。かくして、「技術革新市場」は、単に不必要であるのみでなく、反トラスト当局の恣意的な判断に基づく合併規制(特に、既存の商品市場との関連では「多角的」と性格づけられる合併の規制)の余地を拡大するものとして批判されるのである(44)。以上の批判に対して、Gilbert と Sunshine は、既存の商品市場との関連で「水平的」あるいは「垂直的」と分類される合併であっても、その技術革新への影響を分析する上で「技術革新市場」はなお有益であることを改めて強調している(45)
  この他にも次のような批判がある。すなわち、反トラスト判例法上独立当事者間での商取引が存在することが関連市場の必要条件とされているが、研究開発活動は、ほとんどの場合企業内部の活動であり、独自に商取引の対象とされることは稀である。それ故、研究開発活動について関連市場は成立し得ない場合が多いという批判である(46)。これに対して、Gilbert と Sunshine は、研究開発についての商取引の(可能性ではなく)事実の有無によって関連市場の存否が左右されるのはおかしい。そもそも、関連市場の画定は合併の反競争的効果を識別する前提としてのみ意味を有するのだが、「技術革新市場」はまさに合併の反競争的効果をより良く分析するための一方法として提案されている、と反論する(47)


四  むすびにかえて


  「技術革新市場」分析は、研究開発競争の減殺を合併規制の根拠として提示する実務的手法を開発することにより、インジャンクションないし停止命令の立案において直接的に研究開発競争の促進を図ることを可能にするための提案であった(48)。この意味で、技術革新促進政策としての反トラスト政策の現実的可能性を追求したものと言える。また、「技術革新市場」分析は、多様性の確保と消費者利益の保護にこそ、技術革新の促進における反トラスト政策の基本理念が存することを示唆している。しかし、前述のように、まさに、この基本理念に関わる批判が現に存在する。この点をいかに考えるべきか。
  今日の反トラスト政策は、経済政策の一分野としての性格をますます強めており、反トラスト法制定時におけるポピュリズムは一掃されたかに見える。反トラスト法をアメリカ社会の理想のシンボルに止まらせる事なく、実効性ある企業活動のルールとして定着させるためには、反トラスト法の経済政策化は避けられない選択であった。しかし、今日の反トラスト政策論議においては、経済学の研究水準が反トラスト政策の方向性を規定するといった本末転倒が往々にして見られる。「技術革新市場」分析への批判は、まさに、この本末転倒の典型であるように私には思える。合併が技術革新に及ぼす影響を確実に予測する分析手法は確立されていない、だから、研究開発競争の減殺を根拠とする合併規制は差し控えるべきだという論法が、批判の核心となっているからである。これに対して、「技術革新市場」分析は、合併が技術革新を遅らせる可能性が完全には否定しきれない以上、利用し得る全ての分析道具を用いて規制の可能性を追求すべきとの立場に基づいている。どちらも研究開発における集中がもつ功罪両面を認識しているのだが、規制の失敗による弊害と規制しないことによる弊害とのどちらを重視するか、換言すれば、集中を優先するか競争プロセスを優先するかが立場を分けているのである。反トラスト法が本来体現しているはずの多様な価値の実現に配慮するために、少なくとも経済学が明確な指針を提供し得ない領域においては競争プロセスの確保を優先すべきではないかと私は考える。少なくともこの意味において、私は「技術革新市場」分析を肯定的に評価したい。
  結局、多様性の確保と消費者利益の保護の視点からする技術革新促進政策として独占禁止政策は機能し得るという点こそが、我々が「技術革新市場」の議論からくみ取るべき最大の教訓であると言える。問題は、そのための具体的方策として、「技術革新市場」を含み得るような「一定の取引分野」の解釈が可能か否かであろう(49)。紙幅の都合上、詳細な検討は別に譲らざるを得ないが、少なくとも理論上は「一定の取引分野」に「技術革新市場」を含めることは可能だと思われる。ただ、開発段階での研究が大半を占め、生産現場との密接な連携を特徴とする日本企業の研究開発活動の実態に「技術革新市場」分析がどこまで適合するのか、さらに検討する余地があると思われる。
  なお、本稿では(不十分ながら)反トラスト政策論の文脈に照らして「技術革新市場」分析の意義を分析したに止まる。この提案を、別の文脈、特に、産業の国際競争力強化のための政策論議の文脈の中に位置付けてみると、別の側面が見えて来るのかもしれない(50)。いずれにせよ、残された課題は多い。

(1)  我が国独禁法第一条の目的規定の中に技術革新の促進を明示的に読み込む最近の解釈論として、丹宗曉信『経済法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会一九九六年)七三ー七七頁を参照。
(2)  例えば、後藤晃『日本の技術革新と産業組織』(東京大学出版会一九九三年)を参照。
(3)  例えば、大阪市立大学経済研究所・明石芳彦・植田浩史編『日本企業の研究開発システムー戦略と競争』(東京大学出版会一九九五年)所収の諸論文、特にIV「自動車部品メーカーと開発システム」(植田浩史執筆)を参照。
(4)  Thomas N. Dahdouh and James F. Mongoven, The Shape of Things to Come:Innovation Market Analysis in Merger Cases, 64 Antitrust L. J. 405, 406 n. 4 によれば、以下に掲げるとおり、一九九四年と九五年の二年間で、司法省反トラスト局の提訴に係る合併事件が二件結着し(((1))((2))の事件ーいずれも合併は断念された)、連邦取引委員会が同意命令(consent order)を発した合併(合弁を含む)事件が七件(((3))−H)、手続を開始した事件が一件(I)存在する。
  ((1))  United States v. General Motors Corp. and ZF Friedrichshafen, A. G., Civ. No. 93-530 (D. Del., filed Nov. 16, 1993).
  ((2))  United States v. Flow International Corp. & Ingersoll Rand Co., Civ. No. 94-71320 (S. D. Mich., filed Apr. 4, 1994).
  ((3))  American Home Prods. Corp., C-3557 (Feb. 14, 1995).
  ((4))  Wright Medical Technology, Inc., C-3564 (Mar. 23, 1995).
  ((5))  Sensormatic Electrics Corp., C-3572 (Apr. 18, 1995).
  ((6))  Boston Scientific Corp., C-3573 (May 5, 1995).
  ((7))  Montedison S. p. A., C-3580 (May 25, 1995).
  ((8))  Glaxo plc., C-3586 (June 14, 1995).
  ((9))  Hoechst AG, C-3629 (Dec. 5, 1995).
  ((10))  Upjohn Co., FTC File No. 951 0140, 60 Fed. Reg. 56, 153 (Nov. 7, 1995).サ
  特に連邦取引委員会が「技術革新市場」の援用に積極的であること、連邦取引委員会の事件では製薬その他の医療関連産業が標的となった事件(((3))((4))((6))((8))((9))((10)))が圧倒的に多いことが分かる。ちなみに、その他の事件では、((1))が大型商用車および軍用車用の自動トランスミッション、((2))がウォータージェット・ポンプおよびその部品、((5))が万引き防止用商品監視システム、((7))がポリプロピレン技術の研究開発に関わる。「技術革新市場」分析が提唱された背景としてこれらの技術や産業の特殊性も無視し得ないであろうが、その分析は後日の課題とせざるを得ない。サ
  なお、一九九五年四月六日に公表された司法省反トラスト局・連邦取引委員会「知的財産のライセンスに関する反トラストガイドライン(Antitrust Guidelines for the Licensing of Intellectual Property)」の3・2・3においても「技術革新市場」分析が用いられている(ガイドラ
インの原文については、4 Trade Reg. Rep. (CCH) ¶ 13, 132 を参照した)。
(5)  従来の議論を総括するものとして、see, e.g., L. Kaplow, The Patent Antitrust Intersection:A Reappraisal, 97 Harv. L. Rev. 1815 (1984).
(6)  従来の理論・実証研究の概観として、see, e.g., F. M. SCHERER AND DAVID ROSS, INDUSTRIAL MARKET STRUCTURE AND ECONOMIC PERFORMANCE (3d ed.), 630-660 (1990).
(7)  ただし、特許ライセンス契約中のグラント・バックないしアサイン・バック条項の反トラスト法上の分析におけるように、ライセンシーの研究開発意欲への影響が直接的に問われる場合もある。
(8)  United States v. Automobile Manufacturers Association, Inc., 1969 Trade Cas. (CCH) ¶ 72, 907 (C. D. Cal. 1969).
(9)  See, Donald I. Baker,”Patents, Pools and Progress (or Why Patent Pools Can Often Be Illegal), remarks prepared for the Banking Law Journal’s fifth annual Institute on Licensing Law Practices in New York City on May 24, 1973, reprinted in 5 Trade Reg. Rep. ¶ 50, 173 (1973).  当時司法省反トラスト局に所属していた Baker 氏は、スモッグ事件提訴と関連して次のように述べている。「競争は、技術開発を促す巨大な拍車を提供する。技術革新には熟練とハード・ワークと金が必要である。人は、成功に対する報酬を期待する−あるいは、失敗の報いを恐れる−ことなくして、これらのものを差し出すことはしない。さらに、競争は、異なる人が異なる道を求めるように、技術革新における多様性を促進する傾向にある。その結果は、競争のない場合よりも、より大きな成功のチャンス、あるいは、より多くのチャンスの提供であることが多い。」そして、そのことを顕著に示す実例(不愉快な実例であるが)として、それぞれ異なる技術に基づいて同時並行的に進められた四つの原子爆弾開発プロジェクトが挙げられている。
(10)  この点の問題提起として、see, Douglas H. Ginsberg, Antitrust, Uncertainty, and Technological Innovation, 24 Antitrust Bulletin 635 (1979).
(11)  Department of Justice, Antitrust Division, Antitrust Guide Concerning Research Joint Ventures.  (原文は、HERBERT HOVENKAMP, ECONOMICS AND ANTITRUST LAW (Hornbook Series Lawyer’s Edition), at 507-552 (Appendix B) (1985) を参照した。)
(12)  P. L. 98-462.
(13)  P. L. 103-42.
(14)  See, e.g., Thomas M. Jorde and David J. Teece, Innovation, Cooperation, and Antitrust, in THOMAS M. JORDE AND DAVID J. TEECE (ed.), ANTITRUST, INNOVATION, AND COMPETITIVENESS, at 47-81 (1992).
(15)  この段落の叙述については、see, William F. Baxter, The Definition and Measurement of Market Power in Industries Characterized by Rapidly Developing and Changing Technologies, 53 Antitrust L. J. 717, 719-723 (1984).
(16)  U.S. Department of Justice Antitrust Enforcement Guidelines for International Operations. 原文は、P. AREEDA AND L. KAPLOW, ANTITRUST ANALYSIS:PROBLEMS, TEXT, CASES (4th ed.), 1992 Supplement, at 121-231 を参照した。特に、Case 6 が研究開発共同事業に関わる。
(17)  上院報告(S. Rep. No. 98-427)の関連部分については、see, [1985] U.S. Code Congressional and Administrative News, vol. 4, at 3115.
(18)  Richard J. Gilbert and Steven C. Sunshine, Incorporating Dynamic Efficiency Concerns in Merger Analysis:The Use of Innovation Markets, 63 Antitrust L. J. 569 (1995).
(19)  以上の叙述につき、id. at 569-570.
(20)  以上の叙述につき、id. at 571-574.  なお、「技術革新市場」分析は、技術革新の水準を意図的に削減する力としての市場力の概念を前提とするが、価格競争のみでなく非価格競争についても市場力の概念を想定し得ることは、既に一九九二年の水平的合併ガイドラインにおいて示唆れていたことに注意する必要がある。See, U.S. Department of Justice and Federal Trade Commission Horizontal Merger Guidelines, § 0. 1 n. 6.(原文は、ABA ANTITRUST SECTION, ANTITRUST LAW DEVELOPMENTS (3d ed. 1992), vol. II at 1367-1392 (Appendix F) を参照した。)
(21)  See, Richard J. Gilbert and Steven C. Sunshine, supra note 18, at 571.  なお、既存の商品の市場を枠組みとする研究開発競争の分析手法についての諸提案はそれ自体として検討に値するが、時間と紙幅の都合上、本稿では断念せざるを得なかった。
(22)  Kenneth J. Arrow, Economic Welfare and the Allocation of Resources to Invention, in NATIONAL BUREAU OF ECONOMIC RESEARCH (ed.), THE RATE AND DIRECTION OF INVENTIVE ACTIVITY at 605-625 (1962).
(23)  以上の叙述につき、see, Richard J. Gilbert and Steven C. Sunshine, supra note 18, at 574-579.
(24)  Id. at 579-581.
(25)  Id. at 570.
(26)  以上の叙述は、Id. at 581-586 を要約したものである。
(27)  Id. at 587. GM・アリソン部門の取得事件とは、註(4)に掲げる((1))の事件である。本件の合併当事者は、大型商用車・軍用車用の自動トランスミッション一般の研究開発において競合関係にあった。他方、最終製品は車種によって市場が細分化されており、流通経路の違い等から合
併当事者の最終製品での競合関係はごく一部の市場でのみ存在したに過ぎなかったと言われる。
(28)  Id. at 588.
(29)  Id. at 589-590.
(30)  例えば、後藤晃・前掲書三五ー四四頁を参照。
(31)  Richard J. Gilbert and Steven C. Sunshine, supra note 18, at 588.  この点は、一九九五年の「知的財産のライセンスに関する反トラストガイドライン」3・2・3でも踏襲されている。
(32)  Richard J. Gilbert and Steven C. Sunshine, supra note 18, at 595-596.
(33)  Id. at 590-592.
(34)  Id. at 592-593.
(35)  Id. at 593-594.
(36)  See, Thomas G. Krattenmaker and Steven C. Salop, Anticompetitive Exclusion:Raising Rivals’ Costs to Achieve Power over Price, 96 Yale L. J. 209 (1986)
(37)  ここでは、Symposium:A Critical Appraisal of the”Innovation Market, 64 Antitrust L. J. 1-82 (1995) に所収の諸論文を参照した。
(38)  Richard T. Rapp, The Misapplication of the Innovation Market Approach to Merger Analysis, 64 Antitrust L. J. 19, 26-33.
(39)  Id. at 33-36.
(40)  Richard J. Gilbert and Steven C. Sunshine, The Use of Innovation Markets:A Reply to Hay, Rapp, and Hoerner, 64 Antitrust L. J. 75, 76-78.
(41)  潜在的競争の理論につき詳しくは、泉水文雄「企業結合規制における潜在競争(一)(二)・完」法学論叢第一一七巻第一号二〇頁以下、第三号五二頁以下(一九八五年)を参照。註(4)で掲げた諸事件のうち潜在的競争理論が適用し得た事件がどれほど存在するか、本当にそれで十分だったかは詳細な検討を要する論点であるが、本稿では検討を断念せざるを得ない。
(42)  George A. Hay, Innovation in Antitrust Enforcement, 64 Antitrust L. J. 7, 12-16;Richard T. Rapp, supra note 38, at 37-45.
(43)  Richard T. Rapp, supra note 38, at 36-37.
(44)  See, in particular, Robert J. Hoerner, Innovation Markets:New Wine in Old Bottles?, 64 Antitrust L. J. 49, 55-58.
(45)  Richard J. Gilbert and Steven C. Sunshine, supra note 40, at 80-82.  なお、連邦取引委員会の実務経験に照らして、技術革新における競合関係や、企業の技術革新遂行面での競争力は、企業自身が研究開発の成果を外部に誇示することにより、あるいは、研究者同士のネットワーク等により、外部からも十分に観察し得ることを強調する意見につき、see, Thomas N. Dahdouh and James F. Mongoven, supra note 4, at 420-422.
(46)  Robert J. Hoerner, supra note 44, at 50-55.
(47)  Richard J. Gilbert and Steven C. Sunshine, supra note 40, at 78-80.
(48)  現実の同意命令の実態については、Thomas N. Dahdouh and James F. Mongoven, supra note 4, at 437-440 に詳しい。知的財産のライセンスや設備の一部譲渡のほか、人的資源(すなわち研究者)の移転までも選択肢として考慮されるという。
(49)  我が国での先駆的研究として、根岸哲「先端技術産業と独占禁止法」公正取引委員会事務局編『現代日本の産業組織と独占禁止政策』(大蔵省印刷局一九八七年)所収参照。
(50)  See, e.g., FTC Staff Report:Competition Policy in the New High-Tech, Global Marketplace, Executive Summary and Principal Conclusion, 64 Antitrust L. J. 791 (1996).
追記  紙幅の都合上、引用文献は大幅に削らざるを得なかった。失礼をお詫びしたい。