立命館法学  一九九七年六号(二五六号)一四一二頁(二〇〇頁)




不公正条項規制における問題点(一)
EU加盟各国の最近の動きを手掛かりに


鹿野 菜穂子






一  は じ め に
二  消費者契約における不公正条項に関するEC指令
    (93/13/EEC)
  1  不公正条項指令の概要
  2  国内法化の様々な態様
三  EU加盟各国の状況
  1  ドイツ
  2  オーストリア
  3  ギリシャ
  4  オランダ
  5  スウェーデン
  6  フィンランド  (以上本号)
  7  イギリス
  8  フランス
  9  イタリア
  10  ポルトガル
  11  ベルギー
  12  スペイン
  13  ルクセンブルグ
四  約款規制における論点とその検討
五  結      び




一  は  じ  め  に


  わが国では近時、取引の複雑化・多様化に伴って、消費者取引における被害はかつてになく深刻化している。このような中、平成八年一二月に、第一五次国民生活審議会消費者政策部会から、「消費者取引の適性化に向けて」と題する報告が公表された(1)。そこでは、現状の詳細な分析に基づき、消費者取引被害の防止・救済に関するわが国の従来の方策には、@  業種や取引形態ごとの規制という形を採ってきたために隙間ない対応ができない点、A  紛争解決ルールの予測可能性が明確でない点等に重大な欠陥があるという問題の指摘がなされ、わが国の消費者取引被害の防止・救済の実をあげるためには、具体的かつ包括的な民事ルールの立法化が必要であると提言されている。そして、平成九年秋からは、このような提言に基づいて、消費者取引の適性化のための包括的な立法を目指した具体的な法案作りが第一六次国民生活審議会消費者政策部会にて始められた(2)
  このように法案作成段階に入った現在の日本においては、条文化において生じうる具体的・個別的な問題について検討をすることが特に重要となることは言うまでもない。ところで、一九九三年四月五日にEC閣僚理事会にて「消費者契約における不公正契約条項に関する指令(93/13/EEC)」(以下「EC不公正条項指令」ないし「EC指令」とする)が採択され、これを受けてEC/EU加盟国が国内法の改正を進めてきたことは周知のところである。このEC指令が、わが国の消費者契約法案の起草において少なくとも一つの重要なモデルとされることにはほぼ疑いない。したがって、同指令が法体系を異にする各国においてどのような形で国内法化され、その際いかなる議論がなされてきたかを見ることは、わが国においてあるべき法律を模索し検討する上で大いに参考になるものと思われる。もちろん、ヨーロッパを含め世界各国における消費者保護行政や立法の動向について、これを紹介し検討する文献は既に少なからず存在しているが(3)、その多くにおいては、ヨーロッパの中でも、ドイツ、フランス及びイギリス(最近ではオランダも)等に焦点を当てており、他のEU加盟国における動きは必ずしも注目されていない(4)。しかし、後に見るように、これらの国々においても、大いに参考になる議論が存在している。そこで、本稿では、従来あまり注目されていなかった国の最近の動きを含めてEU全体を概観し、そこにおける問題点をいくつか拾って検討してみたいと思う。
  ところで、消費者契約の適性化ないし不公正契約条項の規制においては、実体法的な規定を置くことのみならず、これを実効あらしめるための手続を整備することが重要であることは言うまでもない。EC不公正条項指令も、この点を重視し、加盟国は「不公正な条項が継続して使用されることを阻止するための適切かつ効果的な手段」の存在を保障しなければならないこと(七条一項)、消費者保護について正当な利益を有する団体も、契約条項の不公正性の判定を求める資格が認められるべきこと(七条二項)、法的救済措置を求める際、個々の売主もしくは提供者のみならず、同一もしくは類似の約款条項を使用する多数の売主もしくは提供者、又はその使用を推奨する同業団体を相手としうること(七条三項)を要求しているし、実際、団体訴訟の手続はこの領域において既に多くの功を奏してきた(5)。さらに、裁判所における特別な手続、あるいは裁判所外の(行政)機関における迅速な手続を設けることによって、不公正な契約条項の使用に対する消費者の保護を推進している国も多い。しかし、今回のわが国における立法作業は、実体法的な民事ルール作成を主眼としているようであり、したがって本稿でも、手続面への言及は最小限にとどめ、実体面を中心に検討して行きたい。
  なお、EC不公正条項指令は、非加盟国の法律を準拠法に選択することによって指令の求めた保護基準が回避されることのないよう必要な措置を講ずべきことを加盟国に要求しており(六条二項)、このような準拠法ないし国際私法の問題も、私人による国際取引の機会が増加した今日においてわが国でも無視できない点だと思われるが、それ自体別の慎重な検討を要するので、本稿の対象からは除外する。

(1)  経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編『消費者取引の適性化に向けて−第一五次国民生活審議会消費者政策部会報告とその資料』(一九九七年)参照。なお、落合誠一=鎌田薫=松本恒雄=大村敦志「座談会/消費者契約適性化のための検討課題(1)−(4)完」NBL六二一−六二六号(一九九七年)は、この報告書について論じている。
(2)  一九九七年一〇月に、同部会の専門委員会から、具体的な立法化において検討すべき論点が提示され(経済企画庁国民生活局『消費者契約適性化法(仮称)の論点−消費者契約適性化のための民事ルールの具体的内容について−』(一九九七年))、これに基づいて同法の本格的な検討作業が開始された。一九九八年一月二一日には、具体的な「不当条項リスト」等を盛り込んだ中間報告が発表されている。これに対応して、学会における議論も活発であり関連文献も数多いが、最近の議論状況については、特に前記『消費者契約適性化法(仮称)の論点』及び『新版注釈民法13』(一九九六年)一六六頁以下[潮見佳男]を参照。
(3)  経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編『海外における消費者行政の動向−規制緩和と消費者行政−』(一九九七年)、経済企画庁委託調査『我が国における約款規制に関する調査』(商事法務研究会・一九九四年)七一頁以下、経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編『消費者取引と約款』(一九八四年)、廣瀬久和「附合契約と普通契約約款−ヨーロッパ諸国に於ける規制立法の動向」『基本法学  四ー契約』(岩波書店・一九八三年)三一三−三六二頁、同「『内容規制』に関する一考察(1)−『約款』規制法の意義と限界」NBL四八一号(一九九一年)二二−二七頁、河上正二「約款の適性化と消費者保護」『岩波講座・現代の法13』(岩波書店・一九九七年)一〇五頁以下。中田邦博「『契約のコントロール』−比較契約法研究序説−」立命館法学二四九号(一九九七年)一〇六二頁以下も、広くヨーロッパ諸国の比較を踏まえて不公正契約条項の内容規制の問題を取り扱っている。
(4)  EUの他では、アメリカ、オーストラリア、韓国等の状況が紹介、検討されている。これについては、前掲注(3)文献の他、松本恒雄「契約と約款−意思と規制  アメリカ」比較法研究四九号(一九八七年)四六頁、石原全「米国における約款の司法的規整−非良心性理論による是正」一橋論叢六六巻三号(一九七一年)三〇四頁、ミッシェル・タン「オーストラリアの取引慣行法による消費者保護制度」阪大法学四二巻四号(一九九三年)八三五頁、同「オーストラリアの取引慣行法による非良心的行為の規制」阪大法学四三巻一号(一九九三年)二五三頁、鄭鍾休「韓国における約款法の制度」ジュリスト八九三号(一九八七年)一一一頁、本城昇「韓国における約款規制」国際商事法務二三巻三号(一九九五年)二八七頁等を参照。
(5)  特にドイツでは、不公正な約款の使用差止のほとんどが、ベルリンの Verbraucherschutzverein をはじめ、各地の消費者団体や消費者センターによって提起されてきた。


二  消費者契約における不公正条項に関するEC指令(93/13/EEC)


  「EC不公正条項指令(93/13/EEC)」が採択されるに至る経緯及びその内容については、わが国でも既に多くの紹介がなされているが(6)、ここでは、各国の国内法と比較する際に必要な限度で、指令の内容を確認し、その後、各国の国内法化の実施状況を概観したいと思う。
1  不公正条項指令の概要
  (1)  目的と適用範囲
  九三年のEC不公正条項指令は、物及びサービスの取得者を売主又は提供者の力の濫用から保護するために、不公正条項に関する統一的な法の準則を採用しようとするものであり(序文九)、この準則は、売主又は提供者と消費者との間で締結される全ての契約に適用される(序文一〇)。
  この指令は、加盟国をはじめその他多くの国々の不公正条項規制に関する法律の分析に基づいて作成されたのであるが(7)、草案作成段階においては、その適用範囲について二つの伝統が大きく衝突した。すなわち、フランスにおいては、規制の対象は消費者契約に限定されており、しかし消費者契約に関する限り、標準化(standarised)されたものか否かに関らず全ての契約条項がコントロールに服するものとされていた。一方、ドイツ法によれば、事業者間であれ私人間であれ全ての契約が対象とされ、しかし、標準化された条項(普通取引約款)のみがコントロールに服するとされていた。結局、指令の対象は消費者契約(売主又は提供者と消費者との間で締結される契約)における不公正条項とされ、そこにおける「消費者」は、「自己の事業、営業又は専門的職業外の目的で行為する自然人」と定義された(二条)。一方、コントロールに服するのは「個別に交渉されなかった条項」に限定され(三条一項)、その典型として、標準契約が使用された場合が想定された(同二項(8))。
  (2)  指令における実体法上の規律
  指令の実体法的規定は大きく三つの部分から成る。
  第一の最も重要な部分は、信義則(good faith)に反する「不公正(unfair)」な条項という概念を中核にして内容規制を図るところである。すなわち、指令の三条には、個別的に交渉されていない条項は、信義誠実の要請に反し消費者の不利益において当事者の権利義務における重大な不均衡をもたらすときには不公正である、という一般条項が置かれている。この一般条項は、付表(Anex)における不公正契約条項の例示的・非網羅的リストによって補完されている。さらに、指令は、不公正性の評価における一般的指針として、とりわけ契約の目的とされた物又はサービスの性質、当該契約中の他の条項及び契約締結に伴う全事情を考慮に入れるべきこととする(四条一項)。
  第二は、解釈の問題に関るところである。指令の五条は、契約条項は「平易かつ明瞭な言語(plain and intelligible language)」で表現されなければならないことを強調し、条項の解釈において「疑いがある場合には作成者の不利に(in dubio contra proferentem)解釈されるべし」という準則(「不明瞭準則」といわれることもあるが、以下ではこれを「作成者不利の準則」とする)を確認している。
  第三は、「不公正」と判定された場合の法律効果に関する。すなわち、指令は、不公正な条項は消費者を拘束しないが、当該不公正な条項を欠いても契約が存続可能である限り、契約は他の条項につき消費者を拘束し続けるべきことを定める(六条一項)。そして、さらに、加盟国は不公正条項の使用を阻止するための適切かつ効果的な手段を保障しなければならないとして、差止や団体訴訟の必要性に言及する(七条)。
  この指令は、加盟国内部の不公正条項規制ルールの完全なる一致を目指しているのではない。指令は、実際には非常に重要な意味を持つであろうところの不公正条項リストの編纂について、加盟国に相当な自由を認めているし(9)、そもそも、指令は消費者保護のための最低基準を定めたにすぎず、加盟国はこの趣旨に矛盾しない限りでより厳格な規定を採用することができるとしているのである(八条「最低保護条項(minimal protection clause)」ないし「最低指令(minimum direction)」といわれる(10))。それだけに、共同体法の観点からは、指令が認める自由の限界はどこにあり、加盟国の各法律規定がこの自由の枠内のものかが問題とされることになる。
2  国内法化の様々な態様
  不公正条項に関する各国の個別具体的な規律とそこにおける議論状況については、三  において見ることとして、ここではまず、EC不公正条項指令の国内法化における全般的な流れを概観する。
  指令は、加盟国に、一九九四年末迄に各国の国内法をこの指令に適合させることを要求した(一〇条一項)。この期限については、必ずしも守られなかったが、一九九七年末現在までには、ほとんどの加盟国が指令の国内法化を遂行してきた。ただし、その国内法化のあり方は様々である。
  (1)  国内法化の形式
  ドイツ(一九九六年)、オーストリア(一九九六年)、ギリシャ(一九九一、一九九四年)、スウェーデン(一九九四年)、フィンランド(一九九四年)、イギリス(一九九四年)、フランス(一九九五年)、イタリア(一九九四年)、ポルトガル(一九九五年)等多くの国は、指令に基づき国内の法規に修正を加えた(ルクセンブルグ及びスペインは、未だその途上にある)。一方、オランダ及びベルギーは、九三年時点における自国の法規が既に指令と調和しているという考えをEU委員会に報告した。もっとも、いずれの場合にも、それが指令の要求を十分に充たしているかについては問題が残されている。
  指令の国内法化において採用された方法としては、指令自体を国内法化する独立の法律を設ける方法と、指令を既存の国内法の中に組み入れる方法に分かれた。前者を選択したのがイギリスであり、その結果イギリスでは今や、一九七七年不公正契約条項法(Unfair Contract Terms Act 1977)と一九九四年消費者契約における不公正条項規則(Unfair Terms in Consumer Contracts Regulations 1994)とが併存している。
  既存の国内法に組み入れるという後者の方法はさらに、民法典、あるいはその適用対象を消費者に限定しない私法への組入れと、消費者法典への組入れに分かれる。前者のうち、民法典への組入れを採用したのがオランダであり、(もっとも、指令採択前の一九九二年に施行された新民法典においてであるが)ドイツ・ポルトガルは、民法の特別法としての約款規制法への組入れを行った。オーストリア・イタリアは、民法典と約款法の双方にまたがるという意味で混合型である。これに対し、フランスは、指令の要求した規制内容を既存の消費者法典(Code de la consummation)の中に組み入れ、ギリシャも同様の対応を採った。スウェーデン及びフィンランドのコントロール規定は、民法と消費者保護法の双方に関る。
  (2)  適用範囲と規制内容
  不公正条項規制の適用範囲につき、異なる法体系間の対立が存したことについては既に触れたが、採択されたEC指令を受けて、多くの国は、国内法における規制の適用範囲を拡大することを迫られた。標準化されていない契約条項にもコントロールを及ぼすような改正(ドイツ)、あるいは、従来存在していた一定の契約類型(銀行取引や保険契約等)についての適用除外の削除(スウェーデン、イギリス)等がこれに該る。他方、後に見るように、適用範囲における各国の議論の中では、「個別に交渉された」条項をEC指令が規制から除外したことに対して、あらためて異論も提起されている。
  実体的な規制内容に関しても、各国の既存の法の相違から、指令の国内法化の過程で様々な困難ないし議論が生じた。まず、そもそも指令の中心に置かれているコントロールの一般条項(三条一項)が、イギリスに波紋を投げかけた。なぜなら、コモンローにおいては、信義則(good faith)によるコントロールは馴染みのないものだったからである。もっとも、これについては、文言ないし概念の技術的な問題であって、一度その文言が採用されればそれほどの困難は生じないであろうという楽観的な見方も存在する(11)
  第二に、「作成者不利の解釈準則」についてである。この準則は、いくつかの国においては、不公正契約条項に対抗するための既に古くから知られた武器であった。しかし、別の国においては、そもそもこの準則は継受されていなかったし、しかもこの準則を導入するとかえって消費者の利益にとってマイナスに作用するという批判も存する(12)。指令における「平易かつ明瞭な言語」の要請とこの解釈準則との関係についても、理解が分かれる。
  さらに、前述のように指令の付表には不公正条項のリストが掲げられているが、指令におけるこのリストの地位は明確ではないし、さらに国内法においてかかる具体的なリストを置くこと及びその具体的内容についても、様々な評価がなされている。
  指令は、あくまでも「最低保護(minimal protection)」基準を定めたに過ぎず、消費者により多くの保護を与えることは認めているので(八条)、多くの加盟国はこの権限を利用してきた。すなわち、ある国は、規制の適用範囲に消費者以外の者を含めているし(ドイツ、オランダ、ポルトガル)、これらの国の論者からは逆に、不公正条項の犠牲となりうる小商人などにも保護を提供すべきだという批判が、指令に対して投げかけられてきた(13)。また、ある国は、「個別に交渉された」契約条項も規制の対象に入れており(フィンランド)、この点に関する指令のあり方についても、以前から議論のあるところである(14)。さらに、指令は対価又は契約の主たる内容を原則としてコントロールから除外している(四条二項)のに対して、特に北欧諸国やギリシャは、契約の中核部分にも裁判所によるコントロールが及ぶとしており、指令におけるこの除外に対しては、北欧諸国はもちろんそれ以外の国の論者からも疑問が提起されている。

(6)  新美育文「消費者契約における不公正条項に関するEC指令の概要と課題」ジュリスト一〇三四号(一九九三年)七八頁以下、河上正二「消費者契約における不公正条項に関するEC指令(仮訳)」NBL五三四号(一九九三年)四一頁以下。さらに、松本恒雄「消費者取引における不公正な契約条項の規制−EU指令との対比で見た日本法の現状」伊藤進教授還暦記念『民法における「責任」の横断的考察』(一九九七年)四一頁以下も参照。
(7)  Howells and Wilhelmsson, EC Consumer Law 1997, 90.  なお、Hondius, Unfair Terms in Consumer Contracts, 1987 は、八七年当時の世界各国の不公正契約条項規制に関する法制度を詳細に分析しており、EC指令の起草においてもこれが参考にされたという。
(8)  委員会の当初の提案(OJ 1990 C 243/2, OJ 1992 C 73/7)においては、指令が個別に交渉された契約条項にも適用されることが構想されていたが、後にこのような限定が加えられたのである。
(9)  指令の付表に掲げられているのは、不公正条項の「例示的かつ非網羅的(indicative and non−exhaustive)」リストにすぎず、それ自体が加盟国を拘束するものではないと解されている(指令三条三項参照)。
(10)  Howells and Wilhelmsson, EC Consumer Law 1997, 90-91.
(11)  Hondius, European Review of Private Law (ERPL) 1997/2, 4-5.;Anne de Moor, Common and Civil Law Conceptions of Contract and a European Law of Contract, ERPL 1995/3, 270.
(12)  Willett, ERPL 1997/2, p. 87;Cf. Bernitz, ERPL 1997/2, 73.
(13)  Cf. Hondius, ERPL 1997/2, 5.
(14)  一九九〇年(OJ 1990 C 243/2)及び一九九二年(OJ 1992 C 73/7)の委員会提案では、個別に交渉された契約も指令の射程に入れることが考えられていた。


三  EU加盟各国の状況


  ここでは、日本における問題検討の手掛かりを得ることを目的として、一九九三年にEC不公正条項指令が採択された前後から現在に至るまでの、EU加盟各国の動きとそこにおける議論を、個別的に見て行きたい。

1  ドイツ(15)
  (1)  一九七六年西ドイツ約款規制法
  一九九三年の不公正条項指令が採択された当時、ドイツには、既に一九七六年制定の「普通取引約款規制法(Gesetz fu¨r die Regelung der Rechts der Allgemeinen Gescha¨ftsbedingungen:AGBG)」が存在していた(16)
  同法は、消費者契約か否かを問わず、およそ一方当事者が設定(stellen)する、「多数の契約に用いるために予め定式化され」かつ「個別に交渉されていない」契約条件(普通取引約款)を規制する法律である(一条)。同法は、契約の締結過程及び内容の双方に関する規定を含んでいる。すなわち、前者に関しては、約款が契約の構成部分となるためには、相手方が約款内容の認識可能性を与えられた上でその適用に同意することが必要であり(二条)、不意打ち条項は契約の構成部分とはならないこと(四条)、約款の解釈において疑いがあるときには「約款使用者に不利」な解釈がとられるべきこと(五条)等を規定する。一方、条項の内容面に関しては、約款条項が「信義誠実の命ずるところに反して約款使用者の契約相手方に不当に不利益を与える」ときには当該条項は無効である旨の一般条項を規定するとともに(九条一項)、不当性判定のメルクマールとして、法規定の本質的基本思想からの乖離及び契約目的達成の危殆化を掲げる(同二項)。この一般条項は、商人や公法人以外の者を相手とする取引については(二四条参照)、さらに絶対的に無効とされるべき条項(「ブラックリスト」ないし「絶対的禁止条項リスト」といわれる一一条)と、裁判官のさらなる評価を経て無効とされる条項(「グレイリスト」ないし「評価余地のある禁止条項リスト」といわれる一〇条)の詳細なリストによって補完されている。
  さらに、このような実体法的規制は、特に内容の不当性により無効とされるような条項に対して、団体訴訟による抽象的な差止及び撤回の請求を認めることによって、その実効性が図られている(一三条)。
  EC指令が採択された当初、ドイツでは、指令を国内法化するために−後に見るイギリスのように−独立の法律が制定されるべきか、それとも従来の約款規制法の一部改正によるべきかが議論されたが、法務省は、後者の途をとることを決定し、第一草案(一九九四年(17))とそれ対する批判を経て新たな草案を国会に提出し、一九九六年七月一九日に改正法が成立した(18)
  (2)  一九九六年の約款規制法改正
  一九九六年に行われた改正は、一二条の修正と、新しい二四条aの追加という二つの点に限定された。このうち、一二条は、同法の国際的適用範囲つまり準拠法に関する規定であるからここでは立ち入らない(19)。新設された二四条aは、以下のように消費者契約に関する特則を定める。
「二四条a〔消費者契約〕
  自己の営業活動又は職業活動の遂行において行為する者(事業者)と、自己の取引又は独立の職業活動に帰せられない目的で契約を締結する自然人(消費者)との間の契約に関しては、この法律の規定は以下の条件で適用される
  1  普通取引約款は、それが消費者によって契約に組み込まれたのでない限り、事業者によって設定(stellen)されたものとみなされる。
  2  五条、六条及び八条乃至一二条の規定は、条項がたとえ一回限りの使用を意図さていた場合でも、それが予め作成されたが故に消費者がその内容に影響を及ぼし得なかったときには、その予め作成された条項に適用される。
  3  九条における不当な不利益を判断するに際しては、契約締結に伴う事情も考慮されなければならない。」
  ここで特に「消費者契約」という見出しの規定が設けられたのは、ドイツ約款規制法とEC指令とが、基本的に異なるアプローチを採っていることに基づく。すなわち、先に触れたように、ドイツ約款規制法はその人的適用範囲を特に限定していないが、九三年のEC指令はその適用を消費者契約に絞っている。もちろん、指令はいわゆる「最低保護」基準を定めたにすぎないから、加盟国は適用範囲を拡大すること自体は許されるのであるが、一方、ドイツ約款規制法においてコントロールの対象とされる「普通取引約款」は、EC指令における「予め作成された条項」という概念より狭い。また、指令四条一項は、不公正性の評価において契約締結に伴う全ての事情が考慮されるべきことを規定しているが、ドイツ法にはかかる規定はなく、むしろ判例によれば契約条項の不当性判断においてはあくまでも「類型化された考察方法により一般化された基準」を基礎とすべきであると解されていた。そこで、ドイツ法は少なくとも消費者契約に関してはこれらの点をカバーするようその適用範囲を拡大する必要があると考えられ、前記の規定の新設に至ったのである(20)
  (3)  残る問題点
  このようにして行われたドイツ約款規制法の改正(指令の国内法化)に対する評価は一様ではないが、そこには、以下のような点において欠陥があると指摘されている(21)
  第一は、「透明性の原則(Transparenzgebot)」に関する。すなわち、指令の四条二項及び五条は、条項が「平易かつ明瞭な言語」で表現されなければならず、疑いが存する場合には「作成者に最も有利な解釈」が優先することを規定している。ドイツ約款規制法も、二条、三条及び五条において透明性を要請する規定を置いているが(22)、新設の二四条a第二号は、これらの条文に言及していないのである。したがって、形式的に見れば、「予め作成された」条項のうち「普通取引約款」の概念に該当しないものには−消費者契約においても−透明性は要求されないことになるとして批判されるのである。もっとも、ドイツの連邦通常裁判所(BGH)は、ここ十年ほどの間に、透明性の原則を、信義誠実の原則及びそれに基づく約款規制法九条一項における条項の不当性判断の中で展開してきたのであり(23)、二四条a第二号は九条には言及していることから、その限りでは消費者契約全般に「透明性の原則」が適用されることになり、実質的な不都合は特に生じないとも考えられる。
  第二に、ドイツ約款規制法とEC指令は共に、条項の内容コントロールは、対価及びその他の主たる契約内容を定めた条項には及ばないとしている点である(ドイツ約款規制法八条参照、指令四条二項)。この点については、対価と付随給付との限界づけの困難や、そもそも対価こそが給付の不均衡や不当な不利益の最たるものであること等の点から批判がある。ドイツの判例は、価格に関する条項でもそれが「不透明(nicht transparenz)」であればコントロール可能だと判断し(BGH NJW 1989, 222;1989, 582;1996, 455)、あるいは、銀行の手数料に関る当座貸越しや引出等の日数計算は、単に「価格に関する付随的な条項」に過ぎないからコントロールに服するとして(BGH NJW 1994, 318;1996, 2032;1997, 2042)、この制限を緩和してきた。
  さらに、規制の内容を実現するのための手続に関しても、例えばドイツ約款規制法(一三条四項)が不公正条項に対する使用差止ないし撤回の請求権の消滅時効を定めている点(24)は指令の要求に反するのではないか、「不公正条項の継続使用を阻止」するための「適切かつ効果的な」措置として、仮差止命令が導入されるべきではないか等の主張も見られるが、ここではこれ以上立ち入らない。

2  オーストリア
  (1)  一九七九年「消費者保護法」とオーストリア一般民法典の改正
  オーストリアでは、一九七九年三月八日に、包括的な「消費者保護法(Konsumentenschutzgesetz:KSchG)」が議会の承認を得て成立し、同一〇月一日より施行されたが(25)、消費者契約における不公正契約条項を規制するための規定も、その第一章に置かれていた。この法律は、事業者と消費者との間で締結される契約に適用され(一条)、これと異なる消費者に不利な合意は無効とされるという意味で片面的強行法規である(二条二項)。
  同法の六条は、不公正故に無効とされる「禁止条項」の二つのリストを置く。すなわち、一項に列挙されているのは、それが標準化されているか否かに関わりなく無効とされる一二の条項であり、これに対して二項は、個別に交渉されたことを証明できない場合にのみ無効とされる五つの条項を列挙する。
  一方、このような消費者保護法の規定に加えて、一八一一年オーストリア一般民法典(Allgemeines Bu¨rgerliches Gesetzbuch:ABGB)の改正が同時に行われ、八七九条三項及び八六四条aが規定された。民法八七九条三項は、契約条項の有効性に関し次のように規定する「普通取引約款又は契約の定型用紙に含まれかつ双方の主たる給付を定めるものではない契約条項は、全ての事情を考慮して、一方当事者に重大な不利益をもたらすと認められるときは無効である」。そして、民法八六四条aによれば、消費者契約であるか否かを問わず、相手方にとって不意打ちとなるような開示されていない不利益な契約条項は無効とみなされる。こうして、オーストリアは、民法典と消費者保護法の双方において消費者保護を推進するという形を採ることとなった(いわゆる「混合型」システム)。
  オーストリアがヨーロッパ経済共同体の加盟国となったのは一九九四年一月一日のことである。これをにらんで、一九九三年には消費者保護法の訪問販売に関する規定の若干の改正や消費者信用に関する法改正が行われたが(26)、EC不公正契約条項指令の国内法化が実現されたのは、一九九六年一二月のことであった。
  (2)  一九九六年法における消費者保護法の改正
  不公正契約条項指令の国内法化のために一九九四年に出された政府草案は、各界からの批判を受けて修正が加えられた後、一九九六年に国会に提出され、同年一二月一三日に可決成立した。この改正法は、指令の要求を越えて広く様々な問題を取り扱っているが(27)、指令の国内法化との関係で特に重要な点は、改正法二条の五乃至七号による、消費者保護法六条の修正である。
  すなわち、消費者保護法六条一項は、前述のように、絶対的に無効とみなされる一二の条項を列挙しているが、改正法(二条五号)により、その一部がより厳格な内容に修正され(28)、さらに三つの新たな条項が追加された(29)。また、消費者保護法六条二項は、個別に交渉されていない場合に限り無効とされる条項を列挙する規定であるが、改正法(二条六号)により、民法九〇八条に基づく消費者の権利(30)を排除又は制限する条項も無効とされることとなった。
  さらに、改正法(二条七号)により、「契約の一般的条件又は普通取引約款に含まれている契約条項は、その文言が不明瞭又は理解困難な場合には効力がない」という旨の規定が、消費者保護法六条三項に新設された。既に以前より、オーストリア一般民法典には、「作成者不利の解釈準則」が規定されていたのであるが、改正法は、指令における透明性の要請に応えるため、これを一歩進めた規定をあえて置いたのである。

3  ギリシャ
  (1)  一九九一年消費者保護法
  一九九一年に消費者保護法が制定されるまで、ギリシャは、消費者契約についても商人間契約についても、不公正契約条項に関する特別の規制法を有していなかった。裁判所は、不公正条項をめぐる問題を、民法典の一般条項に依拠して解決していた。例えば、約款条項を解釈する場合には、信義誠実に関する一般条項(民法二〇〇条)が持ち出されたし、約款の司法的コントロールは、良俗違反(一七八条、一七九条)あるいは権利濫用(民法二八一条)を根拠として行われた。極端な場合には、裁判所は、取引慣行を考慮し信義誠実の要求に従って約款条項の改定を行うこともできた(二八八条)。
  このような中で、一九九一年に、「消費者保護法」(Act 1961/91)が、消費者契約における不公正約款条項を規制する規定を導入した。同法は、一九九〇年にEC委員会より出された「EC不公正契約条項指令のための提案」におけるガイドラインを、指令の採択に先立って逸早くギリシャにおいて国内法化したのであり、これによって、公正の原則に基づいた消費者契約における普通取引約款のコントロールが、明確に導入されたのである(31)。一九九〇年のEC委員会提案は、最終的に採択された指令の内容より消費者にとって有利なものであったため、ギリシャの不公正契約条項に関する一九九一年法の規定も、消費者に有利な規定を多く含んでいた。
  (2)  一九九四年消費者保護法
  一九九一年の消費者保護法は、一九九四年の新しい消費者保護法(Act 2251/94)によって置き換えられ、現在に至っている(32)。以下では、九四年の改正を経た同法の内容とそれをめぐる議論を概観しよう。
    a  適用範囲
  九四年法は、その総則規定において、「消費者」に関する非常に広い定義規定を導入した。すなわち、同法一条三項によれば、消費者とは、「市場において、その者に対して物やサービスが提供されることが予定されている者、又はそのような物又はサービスを最終的な受取人として使用する者」をいう。一方、同法の適用対象とされる契約条項は、「予め不特定数の将来の契約のために作成された条項」(普通取引約款)に限定されている(二条)。この適用範囲は、一回限りの使用のために予め作成された契約条項にはコントロールが及ばないという点で、指令より狭く、国内における批判の対象となっている。
    b  約款の拘束力の一般的要件
  ギリシャの立法者は、「透明性の原則」に関するEC不公正条項指令の要求(特に指令五条)に特に注意を払い、契約に含まれている約款の存在及び内容についての消費者の認識を確保することを目的として、次のような規定を設けた。すなわち、二条一項によれば、消費者が自分の不注意によらずに契約締結時に普通取引約款を知らず、しかも供給者がその存在を指摘せず又はその内容を現実に認識する可能性を消費者に与えない場合には、その普通取引約款は消費者を拘束しない(33)。しかもさらに、同条の二項及び三項によれば、ギリシャで締結された契約の普通取引約款は、国際取引でない限りギリシャ語によらなければならず、しかもそれは明白な場所において明瞭な言語で表現されなければならないとされる。
    c  約款の解釈
  約款全体の拘束力が一応認められた場合、裁判所は、消費者保護の要請を考慮してその解釈を行わなければならない(二条五項)。しかし、契約書の記載と約款条項の内容との間に不一致が存する場合の解釈については問題がある。すなわち、一九九一年の消費者保護法は、個別的に交渉された条項はそれが消費者にとってより有利な場合にのみ優先すると規定していたのに対し、九四年法は、もっぱら個別に交渉された契約条項が普通取引約款に優先すると定めた(二条四項)。これは、消費者の自己決定(私的自治の尊重)を根拠としており、基本的には、「個別に交渉された」契約条項をコントロールの対象から除外するEC指令(三条一項)の考え方と共通している。しかし、これに対しては、実際には「交渉」の場合であっても事業者側が消費者の弱い立場を利用して不利益な内容を押し付ける危険が常に存在しているのであり、個別交渉条項を無条件で尊重することは疑問だという批判も加えられている(34)
  なお、不明瞭な契約条項の解釈において「作成者不利の準則」が適用されることは、指令(五条)と同様、同法に明確に規定されている(二条五項)。
    d  不公正条項のコントロール
  九四年の消費者保護法は、さらに約款条項が不公正性の審査に服するものとし、その際まず、指令と同様に、「消費者の不利益において当事者の権利義務における重大な不均衡をもたらす」普通取引約款を不公正なものとして禁ずる一般条項を設けている(二条六項(35))。しかし、九一年法は、「『重大な』不均衡」を要件とせず単に「消費者に不利益な不均衡」としていたのであり、この点で九四年法は消費者保護という観点からは後退したといわれる。
  先に見たように、EC指令は、契約の「主たる内容」や「対価ないし報酬」を規律する条項を直接的内容コントロールの対象から除外しているが(指令四条二項)、ギリシャ法は、この点では指令から離れ、これらの条項にも内容コントロールが及ぶものとした。これは、契約の主たる内容や対価関係こそが消費者にとって決定的に重要な事項であり、これをコントロールの射程に入れることが消費者の利益につながるという考慮に基づくのであり、国内の論者からも支持を得ている(36)
  内容コントロールの一般条項は、法律上不公正とみなされる条項のリスト(ブラックリスト)によって補完されている(二条七項)。このリストは、九一年法のそれを引き継いだものであり、売主側の義務ないし責任を免除ないし制限しあるいは売主に一方的な契約変更権を与える条項群、消費者の権利を制限ないし排除しあるいはその他の形で消費者の利益を剥奪する条項群、そして、消費者の不利益に立証責任を転換しあるいは消費者の訴訟上の権利を剥奪する等の手続に関する条項群を併せ、三一の条項から成る。
  「個別に交渉された」契約条項は、解釈において約款条項に優先するだけではなく(二条四項)、公正性コントロールの対象からも除外される(二条六項)。これも、私的自治及び契約自由の原則の尊重という伝統的な考え方に基づくが、これに対しても、附合契約においては「交渉」により不公正性が除去されるのを期待することは現実的に難しいという批判が加えられており、少なくとも契約の類型に応じた区別を設けるべきだという主張も見られる(37)
    e  不公正判定の効果
  不公正と認められた条項は、無効であり消費者を拘束しない。当該不公正条項を欠いても契約が存続しうる場合には、契約は当事者を拘束し続け、不公正条項が除去されたことにより生じた契約の欠缺は任意規定等によって補充される(消費者保護法二条八項、民法典一八一条)。
  不公正な条項に対しては、消費者が具体的な条項の無効を主張して訴を提起できるほか、所定の要件を充たす消費者団体が、条項の不公正性の抽象的な審査及び使用差止を求めて訴えることができる(一〇条九項)。なお、二条に違反した企業に対して所轄大臣は罰金を科することができ(38)、違反が度重なる場合には、一年間内の定められた期間につき企業活動の停止を命ずることもできる(一四条三項)。

4  オランダ(39)
  (1)  オランダ新民法典
  オランダでは、一九九二年一月一日に、新しい民法典(Burgerlijk Wetboek)が施行された(40)。この民法典は、一八三八年制定の民法典と商法典に置き換わるものであるが、新法では、弱い立場にある契約当事者に対する保護の提供がもはや私法における例外ではないという立場から、消費者法的な性格の規律が多く含まれており、約款における不公正契約条項についても、全く新しい一連の規定がそこに盛り込まれている(第六編五章三節二三一−二四七条(41))。
  これらの規定の適用対象とされる「普通取引約款」は、「多数の契約に採用されるものとして書面において定式化され」かつ「給付の中核」以外を定める条項である(二三一条)。一方、規定の人的適用範囲は、消費者には限定されていないが、一定規模の企業については後述二三四条に基づく無効化の主張が否定されている(二三五条)。
  同法によれば、契約締結過程において、約款使用者が相手方に約款の内容を知る相当な可能性を与えなかった場合(二三三条b号)、あるいは、契約条項が諸事情に照らして相手方に不当に不利益を与えると認められる場合(同条a号)には、当該条項は無効とされうる。そして、前者(b号)の「約款内容を知る可能性」は、約款使用者が契約締結時までに相手方に約款を交付した場合、あるいはそれが公平の観点から不可能なときには、約款が所定の場所にて閲覧に供されていること及び要求があれば送付されることを相手方に通知し、現に要求があった場合には約款使用者がそれに応じて送付した場合にはじめて、これを与えたものと認められる(二三四条)。ただし、この条件が充たされた場合には、たとえ約款使用者が、相手方が約款内容を知らないことを認識していたとしても、その効力に影響を及ぼさない(二三二条)。一方、条項内容の規制に関する前記一般条項(二三三条a項)は、特に消費者契約については、さらに不当条項の二つのリスト、つまり絶対的に不当とみなされる条項のリスト(二三六条ブラックリスト)と不当が推定される条項のリスト(二三七条グレイリスト)によって補完されている。
  さらに、同法は、消費者の利益の擁護を目的とする団体に提訴権を認めることによってその規制の実効性を図っている(二四〇条)。
  (2)  国内法化に対する態度と残る問題
  EC不公正条項指令に対して、オランダ政府は、オランダ法は既に新民法典において指令の要求に応じているので、同指令を国内法化するためにあらためて特別の措置を講ずる必要はないという立場を採った。しかし、これに対しては異論も提起されている(42)
  すなわち、まず適用範囲に関して、オランダ民法もドイツ約款規制法と同様、その対象を普通取引約款としており、したがってドイツにおけると同様、「標準化されていないが予め作成された条項」をカバーするように法律の適用範囲を広げるべきではないかという問題が提起されうる。しかし、オランダ政府はこれにつき、信義誠実に関する一般条項の存在(第六編二四八条)と、指令の趣旨に従って国内法を解釈する要請とが相俟つて十分な解決を導きうると考えている。
  次に、オランダ新民法典が、契約の解釈に関する準則、とりわけ指令五条後段の定める「作成者不利の準則」を採用していない点である。しかもオランダの判例は、他の多くの国と異なり、これを確実な解釈準則としては受け入れてこなかったし、指令後もその解釈態度を変更していない。したがって、この点で指令の要求に反しているのではないかとの批判も加えられているのである。

5  スウェーデン(43)
  (1)  一九七一年消費者契約条項法と契約法三六条
  スウェーデンがEUに加盟したのは、一九九五年一月一日である。それに向けて、スウェーデンでは、一九九四年一二月一五日に「消費者との関係における契約条項に関する法律(AVLK(44))」(以下、「消費者契約条項法」とする)が制定された。これは、一九七一年の同名の法律(一九八五年改正(45))に置き換わるものである。
  一九七一年法によれば、供給者が、日用品、サービス又はその他の目的物をその私用を目的とする消費者に提供する契約において、消費者にとって不公正と認められるような条項を用いるときには、市場裁判所(Market Court=marknadsdomstolen)はその使用差止を命ずることができ、それに従わない者に罰金を科すことができる(一条)とされた。
  この差止命令は、公法上の性質を有し、当然には当該条項の私法上の効力否定をもたらすものではない。私法上の効力については、北欧諸国における共通のルールである契約法三六条(46)が適用された。すなわち、同条は、裁判所は不合理な契約条項を改定し又はその効力を否定することができるとする一般条項であり、判例はこの一般条項の展開において不当な契約条項に対する私法的救済を行ってきたのである。
  (2)  一九九四年の消費者契約条項法
  一九九四年の新法は、それが市場法(market law)の準則と私法(civil law)の準則の双方を含んでいるという点において、旧法と異なる。この新法制定と同時に、契約法三六条に新法に言及する文言が含まれるとともに、市場裁判所法における若干の手続的な改正が行われた。以下、九四年法の内容を概観する。
    a  適用範囲
  一九九四年法も旧法と同様、消費者契約のみを対象とする(47)。さらに、同法は、「個別に交渉されていない条項」を「約款(standard term)」とする定義規定を新設し、これにつき同法のコントロール規定が適用されるものとした。ある条項が個別に交渉されたことの立証責任は、売主又は供給者が負う。
    b  契約条項の解釈
  EC不公正条項指令(五条)で採用された「作成者不利の解釈準則」は、スウェーデンにおいて既に周知のものであり、判例も少なくとも解釈準則の一つとしてこれを適用していたが(48)、今や九四年の消費者契約条項法の一〇条によって、制定法上の確立された解釈準則となった。すなわち、同条は、「約款の文言が不明瞭な場合において、売主又は供給者と消費者との間に争いが存するときには、その条項は消費者に有利に解釈されなければならない」とする。しかもこの規定は、口頭の文言にも、文言以外の状況から不明瞭が生ずる場合にも適用があるとされている。
  一方、契約条項は平易かつ明瞭な言語で表現されなければならないというEC指令(五条前段)の規定は、スウェーデンの新法の条文には盛り込まれなかった。しかし、「平易かつ明瞭な言語」のルールは、「作成者不利の解釈準則」の前提となる基本原則であり、スウェーデン法の一〇条もこの基本原則に従って解釈されるべきだとされている(49)
    c  不公正条項のコントロール
  不公正条項コントロールの一般条項であるEC指令三条一項の内容は、既にスウェーデン契約法三六条(50)によってカバーされていると一般に考えられた。むしろ指令は、契約の主たる内容や対価の定めをコントロールの対象から除外しており(四条二項)、あるいは、不公正の評価を「権利義務の重大な不均衡」のある場合に限定している(三条一項)ので、これらの点においてスウェーデン契約法三六条の方が指令より広い射程を有すると考えられたのである。
  一方、スウェーデン法は、指令の付表におけるような不公正条項の具体的リストは有していない。立法者は、スウェーデンでも既に判例において指令類似のリストが契約法三六条の下で形成されておりそれで十分であると考えたこと、及び従来からの法文編纂スタイルの違いから、九四年の新法においてこのような具体的なリストを法文に盛り込むことはせず、単に立法資料(51)の中に挿入されるに留まったのである。北欧諸国においては、このような立法資料も一つの法源として裁判所によって考慮されるという事実があるにせよ、法基準の明確性という観点からは問題が残ると批判されるところである(52)
  なお、公正性の評価において考慮されるべき事情につき、指令は、契約締結当時の事情のみを考えているのに対し(四条一項)、スウェーデン契約法三六条一項は、締結後に生じた事情も考慮できるとしている。そこで、スウェーデンの立法者は、九四年の消費者契約条項法(一一条二項)において、契約締結後に生じた事情はそれが消費者の利益に働く場合にのみ考慮しうるとして、契約法の同規定の適用に制限を加えた。
    d  不公正判定の効果
  ある条項が不公正ないし不合理と判定された場合の効果として、スウェーデン契約法三六条は、当該条項の効力否定と並んで、裁判官の契約条項改定権を認めている。そして、裁判所はしばしば、契約条項の不公正を是正するためにこの改定権を行使してきた。しかし、契約条項の改定は、通常、当該条項の内容を許容可能な境界線にまで引き戻すに過ぎないのに対し、無効の場合には、これによって生じた契約の欠缺が任意規定によって補充される結果、境界線の下にまで引き下げられるという点で、後者の効果を伴った規制の方がより厳格だといえる。そこで、今回の改正で、この契約法三六条における契約改定権についても一定の制限が加えられた(消費者契約条項法一一条三項)。
  九四年の消費者契約条項法は、一方で一連の私法上の規定を追加するとともに、他方で公法的性格を有する市場法(Market law)の規定を拡大した。すなわち、市場裁判所(Market Court)が、消費者オンブズマン等による申立に基いて(53)不公正な条項の使用差止を命ずることができる点は従来と同様であるが、今やその適用対象が銀行や保険会社の約款にも及ぶこととなり、さらに、個々の事業者のみならず業界団体等を差止命令の名宛人とすることが認められるようになったのである。

6  フィンランド
  (1)  一九七八年の消費者保護法(54)
  フィンランドの状況は、前述のスウェーデンと共通する点が多い。すなわち、フィンランドも、スウェーデンと同様、一九九五年一月一日付けでEUに加盟し、それに先立つ一九九四年の一二月に、国内法をEC不公正条項指令に適合させるため、従来から存していた一九七八年消費者保護法の改正を行った。
  一九七八年消費者保護法は、その第三章において、まず、消費者に商品を提供する商人は、価格その他の事情を考慮して消費者にとって不公正と認められる契約条項を使用してはならないと定めた上で(一条)、これに反して商人がかかる不公正な契約条項を使用する場合には、市場裁判所(Marknadsdomstolen=Market Corunt)は、違反における罰金の制裁を付してその使用の差止(Fo¨rbud)又は仮差止(Fo¨rbud tempora¨rt)を命ずることができるとし(二条、三条)、同様に消費者オンブズマンも、消費者オンブズマン法に従って、差止ないし仮差止を命ずることができるとした(三条二項)。もっとも、スウェーデンにおけると同様、この差止命令は公法上の性質を有し、当然には当該条項の私法上の効力否定をもたらすものではない。
  一方、フィンランドも、北欧諸国に共通の契約法三六条において、契約条項が諸事情を考慮して不合理であると認められるときは裁判官は当該条項の効力を否定し又は改定することができる旨定めた一般条項を持っているが(55)、スウェーデン法と異なり、フィンランドは、七八年消費者保護法の中にも、不公正契約条項の私法上の効力に関する一般条項を有していた。すなわち、同法第四章一条は、契約における価格及びその他の事項に関する条項が不公正な場合には、裁判官はそれを改定し又は無効とすることができると規定し(一項)、さらに、ある不公正な条項が、それ自体を改定して残部をそのまま存続させることが不可能なほど重要なものである場合には、裁判官は契約の他の部分についても変更を加えることができるとした(二項)。かくして、フィンランドでは、裁判所は、契約法と消費者保護法の規定を用いることによって不公正条項の規制を行っていた。
  (2)  一九九四年の消費者保護法改正(56)
  改正された一九九四年法における規律内容は、概略以下の通りである。
    a  適用範囲
  同法は、その名称からも明らかなように、消費者契約を対象とするものである。
    b  契約条項の解釈
  契約解釈における「作成者不利の解釈準則」は、既にフィンランドの裁判実務で受け入れられていたものであるが、フィンランドの立法者は、指令(五条)に応じて、これを明示する規定を第四章三条に新設した。
    c  不公正条項のコントロール
  不公正条項コントロールの一般条項であるEC指令三条一項は、既にフィンランドの国内法(契約法三六条及び七八年消費者保護法第四章一条)によってカバーされていると考えられたこと、指令が採用した禁止条項リストのアプローチは、フィンランドに馴染みのないものであったため、九四年の改正でもこれが法文中には盛り込まれず、単に「法典編纂議事録(travaux preparatoires)」における法律の趣旨説明で挙げられたに留まったことも、スウェーデンにおけるとほぼ同様である(57)
  フィンランドの契約法三六条によれば、公正性の評価において考慮される事情には、契約締結時の事情のみならず締結後の事情も含まれていた。そこで、この点もスウェーデンにおけると同様、指令に対応させるため、契約締結後の事情の変化は消費者の不利益な形で考慮してはならないという修正が、フィンランドの消費者保護法に加えられた(第四章二条二項)。
  指令は、内容コントロールの対象から「個別に交渉された」契約条項を除外しており(三条一項)、スウェーデンの一九九四年消費者契約条項法も同様の限定を加えるに至ったことは既に見たが、フィンランド消費者保護法四章一条におけるコントロールの一般条項には、そのような制限は存在していない。九四年の改正に際しても、EC指令の最低保護条項に鑑み、その変更は必要ないとされたのである。
  消費者保護法四章一条の下では、裁判官が対価関係に関する契約条項を改定することも可能である。これは、契約の主たる内容や対価をコントロールの対象から除外する指令四条二項と異なるが、むしろ消費者の利益に資するものとして、そのまま維持された。
    d  不公正判定の効果
  スウェーデンにおけると同様、フィンランドにおいても、ある条項が不公正と判断された場合の効果として、条項の効力否定と強力な改定権が裁判官に認められてきたが(契約法三六条、消費者保護法四章一条(58))、九四年法においては、EC指令に応ずるため、裁判官は消費者に不利な形で契約の他の部分を改定することはできないとされた(第四章二条三項)。なお、消費者オンブズマンの発動に基づく市場裁判所による差止命令の手続については、新法においても維持されている。

(15)  不公正条項に関するEC指令のドイツにおける国内法化については、松本恒雄・角田美穂子・鈴木恵「消費者契約における不公正条項に関するEC指令と独英の対応」一橋論叢一一二巻一号(一九九四年)一頁以下、谷本圭子「ドイツでの『消費者契約における濫用条項に関するEC指令』国内法化の実現」立命館法学二四七号(一九九六年)二七七頁以下、ユング・クンツ/鈴木恵訳「消費者契約における不公正条項に関するEC指令とそのドイツ国内法化」関東学院六巻一号(一九九七年)一三一頁。これに関する初期の議論状況については、前掲注(3)『我が国における約款規制に関する調査』二〇〇頁以下。ドイツ約款規制法全般については、河上正二『約款規制の法理』(有斐閣・一九八八年)、山本豊『不当条項規制と自己責任・契約正義』(有斐閣・一九九七年)、石田喜久夫編『注釈ドイツ約款規制法』(同文社・一九九八年)を参照。
(16)  一九七六年法制定に至る経緯については、伊藤進=トマス・エンデルレ「西ドイツにおける消費者保護のための普通取引約款規制法案について(上)(下)」ジュリスト五八七号六四頁以下、五九二号九三頁以下(一九七五年)、北川善太郎=安永正昭「約款に対する消費者保護の改善についての提案−連邦司法大臣の作業グループの第一部分報告書(一九七四年三月)(一)−(三)」民商法雑誌七三巻一号一二八頁以下、三号四〇五頁以下、六号八三六頁以下(一九七五−一九七六年)、石原全「西ドイツ『普通取引約款規制に関する法律』について」ジュリスト六三七号(一九七七年)一四九頁以下、高橋弘「普通契約約款と消費者保護(一)−(三)」法律時法四七巻一〇号一〇六頁以下、四七巻一一号九二頁以下、四八巻二号一二六頁以下(一九七五−一九七六年)、山口志保「約款規則からみた消費者保護と契約の自由」東京都立大学法学会雑誌三二巻二号(一九九一年)一七三頁等を参照。
(17)  Referentenentwurf des BMJ zur A¨nderung des AGB−Gesetzes, Verbraucher und Recht(VuR) 1995, 61-62.
(18)  Bundesgesetzblatt(BGBl) 1996 I 1013.  これに関する分析として、Heinrichs, Das Gesetz zur A¨nderung des AGB−Gesetzes, NJW 1996, 2190.
(19)  この点については、前掲注(15)の谷本論文、及び石田喜久夫編『注釈ドイツ約款規制法』二七二頁以下参照。
(20)  二四条a第一号は、従来解釈上争われていた点につき、消費者に有利な形でこれを立法上明確にしたものである。Cf. Heinrichs, fn. 19, at 2192.
(21)  See e.g., Reich, European Review of Private Law (ERPL) 1997/2, 61-62.
(22)  二条は、約款使用者の相手方が約款内容の認識可能性を与えられた上で約款の使用に同意することを要求し、さらに三条は、約款の不意打ち条項は排除されるべきことを、五条は、約款の解釈において疑いがあるときには「約款使用者の不利益に」なるべきことを規定する。五条に
ついては、上田誠一郎「法律行為解釈の限界と不明確条項解釈準則−ドイツ法における展開を中心として−(一)(二・完)」民商法雑誌九五巻一号一頁以下、同二号二〇九頁以下(一九八六年)を参照。
(23)  この点については、石原全「約款における『透明性』原則について」一橋大学法学研究二八号(一九九六年)四頁以下、鹿野菜穂子「約款による取引と透明性の原則」長尾治助ほか編『消費者法の比較法的研究』(有斐閣・一九九七年)九六頁以下参照。
(24)  無効な約款の使用または推奨を知った時から二年、それを知らなくても、使用または推奨の事実があった時から四年で請求権は消滅する。
(25)  BGBl 1979/140. 同法及びABGBの関連条文については、Hondius, Unfair Terms in Consumer Contracts, 1987, 130-135.
(26)  BGBl 1993/247;1993/532.
(27)  例えば、同改正法により、オーストリア一般民法典八六四条に、申込をしていないのに一方的に商品が送り付けられてきた場合を規律する規定が追加されたし、一二九八条には、重過失の立証責任転換に関する規定が追加された。また、消費者保護法にも、家屋改築契約やサービス契約に関する新たな規定が導入されている。
(28)  例えば、従来は軽過失を免責する条項は認められていたのに対し、改正により、人的損害については軽過失でも免責可能性が否定されることになった。
(29)  新たに追加されたのは、履行遅滞による利息を限定する条項、錯誤またはフラストレーションに基づく消費者の無効主張権を排除ないし制限する条項、履行遅滞によって事業者に生ずる費用(Betreibungs-und Einbringungskosten)を消費者に抽象的に(詳細な計算規定を置くことなく)負担させる条項である。
(30)  オーストリア一般民法典九〇八条によれば、一方当事者の過失による不履行の場合には、契約相手方は、既に受領した「手付け金(Angeld)」を取得し、あるいは自分が交付した手付けの倍額を請求することができる。
(31)  Alexandridou, ERPL 1997/2, 32.
(32)  Alexandridou, ERPL 1997/2, 31 ff.
(33)  Cf. Vamvoukos, Consumer law in Greecec33eThe state of play, Consumer Law Journal (CLJ) 1996, 7 ff, 9.
(34)  Alexandridou, fn. 32, 33-34.
(35)  不公正性の評価に際して考慮されるべき事情ないし一般的指針については、指令四条一項とほぼ同様の規定が消費者保護法二条六項に置かれている。
(36)  Alexandridou, ERPL 1997/2, 35.
(37)  Alexandridou, Neue Entwicklungen in der griechischen Verbraucherschutzgesetzgebung, VuR 1995, 387 ff., 389 ff.
(38)  初回は五〇万−二万 drachmas。二回目はその二倍とされている。
(39)  オランダにおける約款規制、特に新民法典における規制内容については、前掲注(3)『我が国における約款規制に関する調査』二三〇頁以下。さらに、廣瀬久和「不当条項規制とその根拠−ルクセンブルグとオランダにおける最近の立法を比較して」民事研修四〇一号(一九九〇年)九頁も参照。
(40)  家族法、法人、運送法の各編については、既にそれ以前に施行されていたが、大部分が施行されたのは、一九九二年である。オランダ新民法典の制定の経緯とその概要については、アーサー・S・ハートカンプ/曾野裕夫訳「オランダ私法の発展」民商法雑誌一〇九巻四=五号(一九九四年)六二三頁以下、同「オランダ新民法典における裁判官の裁量」同誌六四七頁以下、エーウッド・H・ホンディウス/松本恒雄・角田美穂子訳「契約法における弱者保護」同誌六六一頁以下。Hartkamp, Einfu¨hrung in das neue Niederla¨ndische Schuldrecht (Teil 1), Archiv fu¨r die Civilistische Praxis (AcP). 191(1991), 396 ff.;Vranken, (Teil 2), AcP 191 (1991), 411ff.
(41)  関連条文の翻訳については、山本豊「オランダ新民法約款関連条文」前掲注(3)『我が国における約款規制に関する調査』二四八頁以下。Nieper/Westerdijk, Niederla¨ndisches Bu¨rgerliches Gesetzbuch (Buch 6), 1995, S. 105ff.
(42)  Hondius, ERPL 1997/2, p. 94.
(43)  スウェーデンにおける消費者行政については、前掲注(3)『海外における消費者行政の動向』七三頁以下参照。
(44)  Laf om avtalsvillkor i konsumentfo¨rhallanden(AVLK) of 15 Dec 1994, 1994/1512.
(45)  一九七一年法の規制内容については、前掲注(3)『海外における消費者行政の動向』八三頁以下、高橋弘「約款規制に関するスウェーデンの関連立法」広島法学一巻三=四号(一九七八年)一五七頁以下参照。後者の一五九頁以下には、条文の邦訳も掲載されている。
(46)  スウェーデン契約法の三六条は、一九七六年から施行されたものであり、その内容は次の通りである「契約条項が、契約内容、契約締結時の事情、その後に生じた事実またはその他の諸事情を考慮して不合理と認められるときには、その条項は改定され、または強行できないと宣言されうる。当該条項が、契約がその本来の条項に従って存続しえなくなるほど重要なときには、契約はその他の点についても改定されまたはその全体において強行できないと宣言されうる。/二項第一項の適用においては、消費者および契約関係において劣った立場にある他の者の保護の必要性につき特別の考慮が払われなければならない。/三項第一項及び第二項は、契約以外の法律関係における条項にも準用される。」
(47)  なお、商人間の不公正条項の規制については、一九八四年の「商人間契約条項法」が存在しているが、これについては変更は加えられなかった。
(48)  Bernitz, Consumer Protection and Standard Contracts, 17 Scandinavian Studies in Law (1973), 13 ff., 30.
(49)  Bernitz, ERPL 1997/2, 74.
(50)  前掲注(46)参照。
(51)  いわゆる「法典編纂議事録(travaux preparatoires)」における趣旨説明。
(52)  Cf. Bernitz, ERPL 1997/2, 76. EC委員会が、デンマークが労働法(均等報酬)に関するEC指令に違反しているとしてデンマークを訴えた事件(Commission v Denmark, Case 143/83 [1985] ECR 427)では、ヨーロッパ司法裁判所は、「法典編纂議事録(travaux preparatoires)」を通した指令の国内法化では不十分だと判断している。
(53)  差止命令の申立は、第一次的に消費者オンブズマンが行い、オンブズマンがこの申立をしないことに決めた場合には、民間の消費者団体も裁判所に申立てをなすことができる。スウェーデンを含む北欧諸国では消費者オンブズマンが消費者保護の推進につき重要な役割を果たしてきたことは、既にわが国でも知られているところであるが、オンブズマンはこの他、消費者の苦情を受付けて関係業者や業界団体と交渉を行い、あるいは法律の規定に基づき業者に対して意見や情報の提供を求めることができる。
(54)  Act 20. 1. 1978/38. 七八年法の関連条文については、Hondius, Unfair Terms in Consumer Contracts, 1987, 136-139.
(55)  前掲注(46)参照。
(56)  Act 16. 12. 1994/1259
(57)  Wilhelmsson, ERPL 1997/2, 49 は、この点を批判する。前掲注(52)も参照。
(58)  ある条項が不公正と認められた場合、裁判官は消費者と事業者双方の利益において契約の他の部分まで改定しうるとされ、これによって両当事者の公正な均衡を図ることが目指されていた。