立命館法学  一九九七年六号(二五六号)一四九八頁(二八六頁)




株式会社の組織機構の法的実態と立法課題



王 保 ●(著)
祖 曉 峰(訳)







一、序    説
二、中国会社法上の株式会社の組織機構
  (一)  立法者の着目点
  (二)  会社組織機構の法的特色
  (三)  伝統的企業の指導体制の継受と改革
三、株式会社の組織機構の現状
  (一)  株式会社の組織機構の法的実践
  (二)  株式会社の組織機構の法制度の実施における問題点
四、株式会社の組織機構の運営において提示された立法課題
  (一)  健全な株主総会の運営規則
  (二)  取締役会の構成と取締役の行為規則の完備
  (三)  監査会の監督の徹底
五、結    び




一、序    説


  株式会社の組織は、株式会社法律制度の重要な構成部分であり、その組織機構は株式会社の組織制度の核心である。したがって、株式会社の組織機構の樹立と完備、およびそれを有効に運営させることは、中国会社法の基本任務の一つである。
  中国会社法上の株式会社の組織機構を評価する際に、まず基準という問題に出会う。制度の完備を基準とするのか、それとも実践考査を基準とするのか。これは一つの避けられない選択である。制度の完備のみを基準として、その理論構成と完成度に注目すれば、制度を持って制度を論ずることになりやすく、実施の効果と問題を軽視することとなる。同様に、株式会社の組織機構制度の実践と問題のみを注意すれば、現象につき惑わされ、この制度の本質を軽視することとなる。したがって、両者を結合しなければならない。
  中国株式会社の組織機構を考察する際に、社会的経済的背景を注意するだけでなく、株式会社の組織機構制度と伝統的企業の指導体制の関連をも注意すべきである。前者において、中国の経済が成熟した市場経済ではなく、建設中の社会主義市場経済であることを注意しなければならない。したがって、成熟した市場経済条件下の株式会社の組織機構制度の経験の全てを中国会社法に反映させることは不可能である。ここにおいて、中国会社法は、一種の矛盾性を表している。すなわち、外国の会社法上の慣行規則の多くを吸収していると同時に、不完全な所や欠点がある。後者を注意しなければならず、現行会社法上の株式会社の組織機構には、顕著に伝統的な企業指導体制の痕跡が残されている。これらの痕跡は、一部は現代的な株式会社の組織機構制度と統一できるものであり、一部はさらなる改革を待たなければならない。従って、中国会社法上の株式会社の組織機構のさらなる健全化は、なお困難に満ちた任務である。
  中国株式会社の組織機構の合理性や問題点を探求する際において、実践の中で考察しなければならない。言い換えれば、我々は、現実と法がどの程度において一致するのか、どの程度において一致しないのかという会社法と現実の真の関係を考察しなければならない。言うまでもなく、現実と法の偏差は、多くの国においても普遍的である。しかも、この偏差は、形式上に現れているだけでなく、実質上にも現れている。しかし、この偏差が二つの違う意義を反映しており、一つは、会社法の規定が有効に実施できなかった、もう一つは、会社法のミスで一部の規定が実施し得ないのである。明らかに、有効に現行会社法を実施することは、中国の現代的な制度の樹立にとって重要な意義を有する。そして、有効に会社法を実施することは、会社法を紙面上の文字から実践の中で人々が例外なく遵守する制度に変わらせることである。しかも、会社の組織機構の運営が形式上に合法となるだけでなく、実質上においても合法となることである。しかし、現実の中で露呈した株式会社の組織機構の問題は、無視することができず、これらを将来の立法課題とすべきである。
  本論文の目的は、制度と実践の二側面から、株式会社の組織機構がいかにして、形式的合法から実質的合法になることを検討し、株式会社の組織機構が形式的合法から実質的合法に移行する規則の空白の補充を探求し、株式会社の組織機構の法律制度を完備するものとする。

二、中国会社法上の株式会社の組織機構


(一)  立法者の着目点
  株式会社の組織機構は、会社の内部管理体制と内部機構体制(1)と呼ばれ、伝統的な会社法の会社機関と経理を含む。会社法の起草過程において、有限会社の組織機構の設計に違う意見が存在していたが、株式会社の組織機構については違う意見が存在しなかった。従って、立法者の指導思想が貫徹されやすい。立法者が株式会社の組織機構を設計する際の着目点は、以下である。
  1.会社組織機構の四つの段階の堅持
  会社法が認定した会社組織機構の四つの段階(2)は、@株主総会。株主は会社資産の所有者であり、株主が権力機関として株主総会を構成して、会社の重大事項を決定する。A取締役会は、会社の業務執行と経営決定の機関であり、株主総会に責任を負い、法律規定と株主総会の授権に基づき、経営管理を決定し、会社の支配人(経理)等の高級管理者を任免する。取締役会会長は対外的に会社を代表する。B支配人(経理)が取締役会によって任命され、法律が規定した職権と会社定款、取締役会の授権に基づき、会社の生産経営管理を為す。C株主の代表と一定の比率の従業員代表によって構成される監査役会は、会社の内部監督機関として、経営管理者を監督する。
  2.組織機構の規範化と簡潔、効率の統一の重視
  立法者は、株式会社の組織機構の設計に対して、有限会社の組織機構のように敏速に設計しておらず、その規範性と統一性を強調している。株式会社の規模が大きく、株主の数が多く且つ分散しており、問題が生じれば多くの株式所有者の利益に影響するために、会社の組織機構を統一する必要がある。同時に、立法者は、機構の重複を防止し、互いのなすり合いを避ける(3)ために、会社組織機構の簡潔、効率も重視している。
  3.株式会社の組織機構の構成部分間の責任分担と相互制約の強調
  会社法の規定は、株主総会、取締役会と監査役会の責任分担、相互制約を明確にさせ、所有者、経営者と従業員間の関係を調節し、激励と制約の結合したシステムを形成させ、所有者の利益も保障し、経営者に充分な経営自決権を与える(4)ように注意している。

(二)  会社組織機構の法的特徴
  株式会社の組織機構の特徴は、上述した立法者の着目点に由来するし、中国会社法の公布の背景にも関係する。会社法の公布の背景は、一方、中国が長期間の経済体制の改革を既に経たのであり、他方、正式に市場経済体制を国家の経済体制の目標としたところで、社会主義市場経済の初段階にあるのである。企業制度について言えば、商事会社は、社会経済生活から離れて二〇年あまりの後、七〇年代末に始まった外商投資企業を設立した初歩的実践を経て、他の領域に再現したばかりである。その上、多くの株式会社は国有企業を改造したものである。その中で、一部の株式会社は依然として国家の持ち株会社である。このような状況の下で、一体どの程度、外国の会社法の経験を参考すべきか。直ちに成熟した市場経済国家の会社法の会社機構の経験を導入するのか、それとも中国の市場経済発展の実状に留意して、段階的に、選択的に外国会社法の会社機関の手法を導入するのか。明らかに、中国会社法は後者の立場をとった。
  1.会社株主総会の中心的地位の確認
  国際的意義についていえば、株主総会の権限の弱体化、取締役会の権限の強化は、既に現代的な株式会社法の発展趨勢となっている(5)。しかし、中国現行会社法は、会社制度を回復したばかりという国情に基づき、他の国より株主の合法的権益の保護を強調する必要がある。従って、株主総会の権力機関としての地位を名実ともに、すなわち株主総会の会社機構の中での中心的地位を確認しなければならない。その顕著な現れは、株主総会は株式会社が設けなければならない権力機関(すなわち最高意志決定機関)である、且つ、会社法が授権資本制を採用していないため、株主総会は広範な職権を有し、登録資本の増加または減少、会社債権(転換会社債権を含む)の決定を含ましめる所にある。
  2.会社代表の単一性と法定化
  いわゆる会社代表の単一性と法定化とは、会社の代表権が会社法の規定した取締役会会長一人にあることを指す。この手法は、会社法が始めてではなく、民法通則に由来するものである。民法通則第三八条の規定によれば、「法律と法人組織の約款に基づき、法人を代表して職権を行使する責任者は、法人の法定代表者である」。この規定の要点は二つがある。一つは、法人代表は法定代表者のみを指す。もう一つは、法定代表者は、法人を代表して職権を行使する責任者でなければならず、これによって、一人によって法人を代表する制度が確認された。会社法人は、企業法人の一種であり、民法と商法が一般法と特別法の関係に基づき、その会社代表者制度は、当然民法通則の一般規定に従うべきである。
  3.監査役会構成の二元性と集体的な職権の行使
  株式会社の監査役会は、株主の代表と一定の比率の従業員の従業員代表によって構成される。その中に、株主の代表である監査役は、株主総会によって選任される。従業員代表である監査役は、従業員の選挙によって選任される。監査役会に招集者が決められ、監査役会を招集、進行する。取締役会の傍聴以外に、会社法は監査役の個人的職権を定めていない。言い換えれば、監査役会は、一つの機構としてしか法律の規定した監督職権を行使できず、監査役が個別的に監督権を行使するのではない。
  4.経理の職権の法定化と法的地位の多元化
  多くの大陸法系国家の会社法とちがって、中国会社法は、支配人(経理)の職権について列挙式で明確に規定している。支配人(経理)の地位は、会社法では詳細に規定されていないけれども、会社法の条文の精神は、支配人(経理)の身分を掲示している。第一、会社法一一九条の規定によれば、支配人(経理)は、「会社の生産経営管理を為し、取締役会の決議の実施を組織する」。支配人(経理)は、明らかに会社の日常経営管理に対して全ての責任を負う高級管理者である。第二、支配人(経理)が取締役会によって任命され、取締役会との関係は選任関係にある。すなわち、広義の雇用関係の一種である。従って、支配人(経理)は会社の高級被用者である。第三、会社法の一一九条第八項の規定によれば、支配人(経理)は、法定職権を行使するほかに、「会社の定款と取締役会が授与したその他の職権」を行使しうる。これは、支配人(経理)と会社間に一種の代理関係にあることの現れである。この代理関係が法律規定に基づくものでもあれば、授権に基づくものでもある。従って、支配人(経理)は、会社の代理として、法定代理と委任代理の性質を兼ねている。しかし、支配人(経理)は会社の代理人であり、その職務範囲内で会社の法定代表者と看做すのは、会社法の規定に反するものである(6)
  5.株式会社の組織機構の間に存在する責任関係
  会社法の規定によれば、取締役会は株主総会に責任を負い、支配人(経理)はその取締役会に負うのである。いわゆる「責任を負う」とは、取締役会が株主総会の決議を執行し、株主総会の監督を受け、株主総会に仕事を報告すること(7)、支配人(経理)が取締役会の決議を執行し、取締役会の監督を受け、取締役会に仕事を報告すること、を指す。明らかに、この「責任を負う」という関係は、相互間の一種の制約を表している。しかし、取締役会が株主総会に責任を負うのと支配人(経理)が取締役会に責任を負うのとは、同じではない。前者は、選任関係に基づくのであり、後者は、招聘関係に基づくのである。

(三)  伝統的企業指導体制の継受と改革
  上述した特徴は、中国会社法上の株式会社の組織機構が外国会社法の多くの慣行規定を吸収したけれども、外国会社法と違うところもあることを表した。ここにおいて、多くの原因があろうが、伝統的企業指導体制の継受と改革に関係がなくはない。
  1.伝統的企業指導体制の基本構成
  いわゆる伝統的企業指導体制とは、国有企業が長い間に用いた企業内部指導体制を指す。この企業指導体制は、本世紀三〇年代の中華ソビエト時代に始まり(8)、その後一時期に中断していた。八〇年代に、再びこの体制が実行され、かつ系統過、規範化の時期に入り、その中心的現れは「全民所有制工業企業法」(一九八八年)である。本法の第七条と第四章の規定によれば、伝統的企業指導体制の基本構成は、以下である。
(1)  工場長(または経理)は企業の法定代表者である。
(2)  工場長(または経理)は生産経営管理機構の責任者である。企業が工場長をリーダーとする生産経営管理システムを樹立する。工場長は企業において中心的地位にある。
(3)  企業が工場長(経理)責任制を実施する。これは伝統的企業指導体制の現れである。八〇年代に、再び工場長(経理)責任制を実施したには二つの原因がある。積極的な意義について言えば、「現代企業は、分業の細かさ、生産に高度な連続性を有し、技術の要求が厳格的で、協調関係が複雑で、統一的な、有力的な、効率的な生産指揮と経営管理のシステムを樹立しなければならない。工場長(経理)責任制を実施することによって、初めてこの要請に応えることができる(9)」。消極的な意義について言えば、一九五六年から実施した党の指導の下での工場長責任制には、「決定が遅く、効率が低く、責任を負う者がいない」等の弊害が存在し、現代的な大型生産の需要に適応し得ない(10)
  工場長責任制とは、実質的に工場長が所有者である国家に責任を負うことを指す。「全民所有制工業企業法」の四四条によれば、工場長の就任方式には、委任、招聘と従業員代表大会による選挙の三種類があるが、選挙でも政府の管理機関の認可を必要とする。従って、国家と工場長の関係は、基本的に委任と招聘の関係である。工場長は、委任者と招聘者に責任を負う。
  工場長責任制の主な内容は、企業の物質文明と精神文明の建設の二方面を含むべきであり、すなわち企業の物質文明と精神文明の建設に全面的に責任を負うのである。
(4)  工場長が企業の生産経営管理について決定権を有する。法的意義について言えば、工場長の法的職権に現れている。@法律と国務院の規定に従い、企業の各計画を決定または申請する。A企業の行政機構の設置を決定する。B政府主管機関に副工場長級の行政幹部の任免または招聘、解雇を要請する(法律と国務院に別の規定がある場合を除く)。C企業の中堅行政幹部を任免または招聘、解雇する(法律に別の規定がある場合を除く)。D給料の調整意見、ボーナスの分配意見と重要な規定制度を提出し、従業員代表大会の審査同意を要請する。福祉基金の使用意見とその他の従業員福祉に関する重大事項の提案を提出し、従業員代表大会の審議決定を要請する。E法に従い従業員を奨励、処罰する。政府主管機関に副工場長級の行政幹部の奨励、処罰を要請する。
  以上のように、工場長責任制を実施する国有企業において、国家が保留している国有企業に対する一部の決定権を除いて、企業の経営決定権、業務執行権、生産指揮権と対外代表権は、すべて工場長(経理)の一身に集中する。
  2.株式会社の組織機構の企業伝統的指導体制に対する継受と改革
  上述した株式会社の組織機構と伝統的企業指導体制とを比較すれば、会社法の株式会社組織機構が伝統的企業指導の一部を継受したことは明らかである。その主な現れは以下である。
  (1)  経営者責任制。上述のように、株式会社の組織機構は「経営者責任制」を採用した。この継受は、形式上に現れただけでなく、つまり「責任を負う」という語彙を使用しただけでなく、伝統的企業指導体制の実質をも継受し、つまり所有者に責任を負うのである。その中で、取締役会が直接に所有者ーー株主総会に責任を負い、支配人(経理)が取締役会に責任を負うことに通じて、間接的に株主総会に責任を負う。しかし、株主会社の組織機構は、工場長責任制の中の「一人制」と「単式責任制」を継受せずに、「多層責任制」と「段階責任制」を採用し、その間の制約関係を増やした。
  (2)  支配人(経理)の職権の法定化。支配人(経理)の職権法定化は、株式会社経理制度の継受のもう一つ重要な内容である。従って、中国会社法上の支配人(経理)制度が他の国家の会社法に由来するものである。しかし、株式会社の支配人(経理)は、伝統的企業指導体制の経理のような広範な決定権がなく、会社の日常経営に総責任を負う高級管理者としての職権のみを有する。言い換えれば、株式会社の支配人(経理)制度は、伝統的企業指導体制の経理の職権法定化の形式のみを継受した。
  (3)  代表者の法定化。上述のように、会社代表者の単一制と法定制は、「民法通則」の法人の代表制度に由来する。しかし、これは、直接に「全民所有制工業企業法」の企業法定代表者制度を継受したものである。代表制度そのものについて言えば、この継受は、形式上に現れているだけでなく、実質上にも現れている。
  (4)  継受と徹底改革。株式会社の組織機構が伝統的企業指導体制に対する継受は、概括的な継受ではなく、伝統的企業指導体制の個別な部分に対する簡単な移植でもなく、改革の基礎において、伝統的企業指導体制の個別な要素に対する吸収である。国有企業が会社を改造する形式の採用につれて、企業法律制度も改革を経た。その中に、企業組織機構の改革が含まれる。「党指導下の工場長責任制」から「工場長責任制」まで、企業に責任を負う者がいないと工場長に責任を負う権限がない問題を解決し、企業の不確定の性質から経済組織の確定の問題を実質的解決した。「工場長責任制」から「会社組織機構」までは、企業組織機構の改革を新たな水準に到達させた。これは、株式会社の組織機構が伝統的企業指導体制の継受において行った革命である。第一、伝統的企業指導体制の単一構成が株式会社の多元的な組織機構に取って変えられた。伝統的企業指導体制において、企業の行政機構としては、工場長(経理)がただ一人である。株式会社において、このような指導体制の単一的構成が株主総会、取締役会、取締役会会長、支配人(経理)と監査役会によって構成された多元的な構成に取って変えられた。かつ、その間に制約関係が存在する。第二、伝統的企業指導体制における支配人(経理)の職権は、株式会社の組織機構の中で分散され、支配人(経理)の地位も相対的に弱体化された。伝統的企業指導体制から株式会社の組織機構になると、経営決定権、業務執行券、生産指導権と対外代表権は、支配人(経理)が一人で行使するのではなく、それぞれに取締役会、支配人(経理)と取締役会によって行使される。同時に、支配人(経理)は法定代表者ではなくなり、企業における中心的な地位も存在しなくなり、ただ上述したような会社の経営管理に総責任を負う高級管理者、会社の代理人と高級被用者の地位を有するのみである。第三、株式会社の組織工において監督機関が設けられ、伝統的企業指導体制において経営者の日常経営に対して監督を行う企業機関がない問題を解決した。

(1)  卞燿武「関於『中華人民共和国公司法(草案)的意見的』氾報」(一九九三年六月二二日)
(2)  全国人大法律委員会関於「中華人民共和国公司法(草案)」審議結果的報告(一九九三年一二月二八日)
(3)  同右
(4)  同(2)
(5)  王保樹「現代股 「フ36」 有限公司法発展中的几個趨勢性問題」「中国法学」一九九二年第六期
(6)  江平主編「公司法教程」法律出版社一八〇頁
(7)  王保樹「中国公司法的制定与公司運営上的留意点」「判例時代」八五七
(8)  「中華蘇維埃国有工場管理条例」(一九三四年四月十日)
(9)  「中共中央関於経済体制改革的決定」(一九八四年)
(10)  袁宝華「関於『中華人民共和国国営工業企業法』(草案)的説明」


三、株式会社の組織機構の現状


(一)  株式会社の組織機構の法的実践
  一九九三年一二月二九日に公布した会社法は、新設の株式会社の組織機構に基準を示し、従来の株式会社の組織機構の規範化に向け条件を整えた。一九九五年七月二日に、国務院が「有限会社と株式会社が〈中華人民共和国会社法〉に従っての規範化への通知」を発した。この通知によれば、会社の組織機構の設置及び取締役、取締役会会長、監査役、監査役会の招集人、支配人(経理)の就任条件と就任手続きは、会社法の規定に合致すべきであり、規定に合致しないものは、定められた期限(一九九六年一二月三一日)内に、改正すべきである。この後に、国家体制改革委員会、国有資産管理局等が、相次いで通知を発した。その要求は、以下である。株主総会、取締役会、監査役会は議事規則を制定すべきである。会社の取締役、監査役が株主総会の選挙によって選ばれ、支配人(経理)及びその他の高級管理者が取締役会によって選任され、いかなる組織と機関も以上の役員を任命せず、会社の株主総会の人事選挙決議と取締役会の選任決議に対して認可手続きをも取らない。関係組織と機関は、法定手続きが履行される前に、国有株の株主代表が提出する予定の取締役、監査役の人選に意見を述べることができる。国家公務員は、取締役、監査役、支配人(経理)に就任してはならない。一部の機関において、国家公務員の身分が判断できない場合、人事機関の意見を求めるべきである。国家公務員が取締役、監査役、支配人(経理)に在職するときは、国家公務員または取締役、監査役、支配人(経理)を辞職しなければならず、両者を兼任してはならない。国家公務員が会社の職務に就任するときは、株主総会で取締役、監査役に選ばれた或いは取締役会で支配人(経理)に選任された後に、国家公務員を辞職しなければならない。これらの規定は、すべて紙上の会社法を実践中の会社法に変えるためのものである。上述した措置が会社法の実施と同時に実施するために、株式会社の組織機構がさらに完備され、その運営水準も高められた。その主な特徴は、以下である。
  1.会社の権力機関と権力機関の実現形式と同視する観念を改めた。会社法一〇五条によれば、株主総会の招集は、すべての株主に通知または通告すべきである。しかし、会社法の執行当初には、株式制企業の試行の弁法を用いたことで、上述規定に反する現象が生じた。
  その一、株主総会を株主代表大会に改めた。取締役が自ら株主代表大会に出席する代表の資格株式を決める。例えば、株主代表大会に出席する資格株式を一〇〇〇〇株と決め、当該数の株式の所有者だけが株主代表大会に出席できる。一〇〇〇〇株に満たない株主は、資格者に委託するかまたは組み合せて一〇〇〇〇株ごとに一名の代表が会議に出席する(11)
  その二、なお株主総会と呼ぶが、手法が上述と同じである(12)
  その三、株主総会の招集通知に株主総会に出席する資格株式数を記載し、上述した委託と代表を推薦する手法を取らない(13)
  上述した現象の出現は、これらの会社の取締役が、株主が多いので通知したとしてもすべてが出席することがないと考えるからである。さらに、一定の株数の大株主さえ会議に出席すれば、会社法の規定した決議の表決権の数に達しうる。言うまでもなく、これは、会社の権力機関としての株主総会と権力機関の実現形式としての株主総会会議とを混合したものである。会社法の実施につれて、上述したやり方が改められただけでなく、株主総会と株主総会会議との混合から、両者に区別を付けることができた。明らかに、いかなる組織も違う二つの側面がある。一つは、構成上の側面で、すべての構成員によって構成されるのか、それとも構成員の代表によって構成されるのかである。二つ目は、その実現の側面で、いかなる形式で実現、存在するのかである。
  株主総会は後者として、会議形式で存在するのである。株主が会議に参加するか否かは、自由である。株主総会は、前者として、すべての株主によって構成される。一方、株主が、投資者として代表を通じず、自己の利益要求を実現する必要があるから、株主総会という直接的な民主形式を選択した(14)。もう一方で、会社法人は、自律法人であり、自治を実現する必要があり、すべての株主によって構成された権力機関がなければ、法人の意思を決定できない。従って、株主総会の招集通知と公告は、すべての株主に向けなければならない。観念の変化が実践中の変化を引き起こし、以上の現象は、一九九五年下半期から存在しなくなった。
  2.株主が表決権を行使する形式の多様化。会社法の規定によれば、株主が表決権を行使するには二つの方式がある。株主が株主総会に出席し、自ら表決権を行使する。株主が代理人に委託して株主総会に出席し、代理人が授権範囲以内で表決権を行使する。言うまでもなく、会社法のこの規定の精神は、株主の表決権を行使する便宜をはかるものである。実際において、株主がこの二つの表決権を行使する方式以外に、会社法の精神に違反しない表決権を行使する方式を採用した。
  その一、通信による表決。すなわち、株主が株主総会に出席せず、会社の用意した表決票に通信による表決の意思を表明する。この表決形式は、会社の住所地に住んでいないが、株主総会の審議事項に表決したい株主の要求を満たすものであり、株主が容易に表決権を行使しうるという精神に合致する。しかし、実際において、通信による表決の設置は、すべて株主の利益保護を配慮したものではなく、取締役会の仕事上の便宜を図る要求の現れである。通信による表決の出現した背景について言えば、これは、会社が人数の不足によって必要な決議を形成しえないことを避けるためではなく、殆どの株主が出席することにより会場の不足の矛盾を解決するためである。
  通信による表決の採用は、理論と実務上の解決すべき問題が提示された。(1)通信による表決が存在する状況下において、どのように出席株主の表決権の数を計算するのか。会社法は、株主総会に出席する株主の表決権の最低法定比率を定めていないが、決議の通過は会議に出席する株主の所持する表決権の半数以上(特別決議事項において三分の二)を基準とする。従って、出席した株主が代表する表決権の数を計算するには、通信形式で表決権を行使する株主に影響を及ぼすことが避けられない。通常の理論では、通信による表決は、株主が株主総会に出席しないことを前提とするものである(15)。実際において、この見方は、会議に出席する株主の表決権を計算する際に、通信で表決権を行使する株主を除くものと理解されやすく、明らかに妥当ではない。通信による表決の実践によれば、会議出席を二段階として理解できる。一つは、形式的な意味においての出席であり、株主本人が自ら会場に出向き会議に出席する。二つ目は、実質的な意味においての出席であり、株主本人が自ら会場に来ないが、株主本人が他人を通じずに自ら株主総会の決議事項を審議する意思表示である。株主の通信による表決は、実質的な意義においての出席と為しうるので、会議に出席する株主として計算すべきである。しかし、表決票は、株主総会の招集通知に記載した期限内に到達すべきである。(2)通信による表決の、臨時の株主提案に対する効力。言うまでもなく、通信による表決は、株主総会の既定議案に対する表決であり、株主総会の進行中に臨時に提出された議案に対して、予め表決することができない。従って、株主総会に対して、株主の臨時の動議によって議案が提出された際に、通信形式をもって表決を行う株主の意思を包括的に推定できず、具体的な議案に即して判断すべきである。例えば、臨時提案と既定議案が、完全または基本的に衝突するときは、通信による表決が既定議案に賛成していれば、通信による表決が臨時提案に反対の表示したと推定する。反対の場合は、当該通信による表決が臨時提案に賛成したと推定する。また、臨時提案と既定議案は、一致または基本的に一致する場合に、通信による表決で既定議案に賛成を表示した者は、当該通信による表決が臨時提案に賛成を表示したと推定される。反対の場合は、当該通信による表決が臨時提案に反対を表示したと推定できる。臨時提案と既定議案が、無関係であれば、当該通信による表決は、臨時提案に対する意思表示を推定すべきではない。すなわち、賛成と推定すべきでなく、また反対や棄権とも推定すべきではない。通信により投票した株主が会議に出席しなかったと見倣すべきである。(3)通信による表決と自らの会議出席の選択。株主の表決権は、私法上の権利に属する。株主がいかなる方式で当該権利を行使するのかは株主の個人の事情である。言い換えれば、株主が通信による表決と自らの会議に出席して表決を行うことについて選択権を有する。実務上において、会社に二つのやり方がある。一つは、株主総会の招集通知の中で上述した表決形式を列挙し、株主に選択させる。もう一つは、直接に一部の株主に通知し、その一部の株主に通信による表決の形式を取らせる。明らかに、一つ目のやり方は、株主の利益の保護に有利であるが、二つ目のやり方は、株主の利益の保護に不利である。実際において、小株主が二つ目のやり方に対し、法院に訴訟を提起し、会社が株主総会に出席する権利を剥奪したと訴えている。小株主の主張は以下の通りである。この二つのやり方のいずれにおいても、株主が表決権を行使できるが、二つ目のやり方では、株主が発言権と質問権を行使できない。会社法一一〇条によれば、株主には質問権がある。しかも、通信による投票には確かに株主の質問権を保護できない欠点がある。しかし、問題は、通信による投票の固有の決定にあるのではなく、会社が株主に選択権を与えないところにある。(4)株主総会がすべて通信による表決形式を選択できるか。このやり方では、すべての株主が会場のある株主総会会議を選択できなくなり、通信による投票の表決形式しか選択しえない。しかし、株主総会がこの形式を決議し、会社の定款に記載すれば、その後の株主総会はこの形式を採用しうるのである。
  その二、二重委託投票(再委託投票を指す。以下同じ)。すなわち、株主が代理人に委託して、投票の指示をなし、受託代理人が投票の指示をまとめ、その代理人に委託して、株主総会に出席して投票する。この投票による表決の形式は、海外での上場会社に出現している。この表決形式と一般の代理人に委託して株主総会に出席させ表決権を行使させるのとは、本質的な区別がない。しかし、二重の委託関係が含まれたために、それ自身の特徴が、自然に形成され、同時に理論上と実務上の新たな問題が生じた。まず、会社法が規定した代理人に委託して株主総会に出席させるとは、株主委託であり、二重委託投票は会社法の精神に合致するのか。委託代理投票は、代理人が代理権限において、株主本人の名義で株主総会に出席し、決議事項に表決の意思表示を為すのであり、その意思表示の効力が直接株主本人の行為に帰属する。ここにおいて、二つの特徴がある。一つは、代理人が株主の名義で株主総会に出席し、表決権を行使することである。もう一つは、表決の意思表示の効力が直接に株主に帰属するのである。表面の意義について言えば、二重委託投票は、委託投票の特徴に合致しない。しかし、もし二回の委託は共に厳格に会社規定の手続きに従って行ったのであれば、第二次の委託は株主の委託の本旨に違反せず、かつ受託人が再委託をするという事実を株主本人が知っており、会社定款に認められていれば、会社法の精神に違反しないこととなり、採用することができる。しかし、二重委託投票によって、生じた弊害に十分な注意が必要である。二重委託投票は、株主の代理人が直接に株主総会に参加するのではない。代理人が委託した者が株主総会に出席するのである。従って、株主が代理行為に対して監督しにくく、詐欺行為が生じやすい。言い換えれば、株主の代理人が株主の投票についての指示を変え、自己の意思で再委託する可能性がある。従って、二重委託投票を認めると同時に、詐欺行為の防止処置を取るべきである。例えば、二重委託投票の認可条件を規定し、二重投票によって表決権を集め、株主総会、株主の二重委託投票に対する監督及び委託投票の取消等の誤りを避ける。
  3.株主総会会議の公証人による監督。大株主の存在と多種の表決形式の採用によって、株主総会の真実性と公正性については、自然に重要視される。言うまでもなく、株主総会の招集、議案の準備は、取締役会が職権に基づき行うことであり、株主総会の進行は、取締役会会長の行使すべき職権である。従って、監査役会の監督を受けるべきである。しかし、会社には社会公衆株主が多いために、その経営が多くの人の利益に影響を及ぼし、強い社会性が現れる。監査役会に会社外部の監査役がいない状況において、会社外部の監督が必要である。これにより、上場会社の株主総会の進行に公証人による監督が導入された。とりわけ上海の上場会社は、一般的にこの処置を執っている(16)。株主総会会議の公証人による監督の主要範囲は以下である。@通信による投票の監督。会社が通信による投票の送付住所を会社の委託した公証人役場の住所とし、会社の住所としない。通信投票の開封と表決状況の集計を公証人役場が担わされる。このようにして、取締役会による自己に不利な投票の引き抜きを避けることができ、通信投票の真実性を保証する。A会場に出向き、株主総会会議の全過程に対して公証を行う。この目的は、株主総会会議が会社法、会社定款の規定した決議手続き、決議方法の遵守と表決の真実性について監督し、株主の会社に対する信頼感を樹立するところにある。
  4.取締役会は職能を実現する中で完備する。国有企業の内部指導体制は、所有者から直接に工場長(経理)に至るために、中間層がない。株式会社の取締役会の地位は、外商投資企業の取締役会とも違う。従って、株式会社の取締役会の運営は既有の企業形態の中で、先例を見つけることができず、実践の中で次第に経験を蓄積し、自己を完備するしかない。その主なものは、以下である。
  (1)  経営の意思決定と業務執行の分離の模索。取締役会と株主総会の関係について言えば、取締役会は業務執行機関である。しかし、取締役会は、会議体として一つ一つの業務を具体的に執行することが不可能であり、日常的経営の決定を通じて株主総会の決議を執行するのである。言い換えれば、取締役会は会社機関としてその職権が日常的経営の意思決定を含むと同時に、業務執行をも含む。従って、実践の中で、両者の分離を実現することは、取締役会の運営に必須のものである。現在、二つの分離方式がある。一つは、業務執行取締役の設置である。取締役会の全体が日常的経営の意思決定を担当し、業務執行取締役が業務執行を担当する。例えば、山東新華製薬株式会社の取締役会は、一二名の取締役によって構成され、一〇名の取締役が業務執行取締役である。もう一つは、取締役会議の設置であり、取締役会の閉会期関中の業務執行を担当する。このやり方は、会社法一二〇条の規定した「会社は必要に応じて、取締役会の授権にもとづき、取締役会の閉会期間中、取締役会の一部の権限を取締役会会長に行使させることが出来る」との精神に一致する。例えば上海国脈通信株式会社は、取締役会の決定の効率を高め、会社の経営管理に関する事務を適時処理するために、取締役会会長会議制度を設けた。取締役会会長会議は、副会長及び取締役会会長の指定した審議事項に関係する取締役によって構成される。その具体的な権限は、臨時株主総会の招集、会議の日時、場所、開会方式、招集手続きと議事の運営を担当すること、臨時株主総会に報告すること、株主総会の決議を執行すること、会社内部管理機構の基本構成と子会社、支店の設立、合併、分割または解散を決定すること、会社の基本管理制度を決定すること、投資計画中の市場変化に明らかに適応しないあるいは、投資によって会社に効果をもたらす項目に対して即決的な調整を為すこと、計画外の投資項目を決定し、次回の株主総会において説明することである。
  (2)  取締役会秘書の設置。この制度は深369市から始まった。深369市人民代表大会が一九九三年四月二六日に制定した「深369経済特区株式有限会社条例」の一二〇条は、取締役会に秘書の設置を規定した。秘書は、取締役会の日常事務を担当し、取締役会の任命を受け、取締役会に責任を負う。一九九六年から上海も、取締役会秘書制度を実施した。一九九六年三月二一日に、上海市証券管理事務室、上海証券取引所が「B株の上場会社の取締役会秘書の設置に関する暫定規定」を公布し、上場会社の行為を規制し、取締役会の効率を高め、投資者利益を保護するとした。一九九六年四月十日に上海市経済体制改革委員会等が公布した「国務院(一九九五)一七号通達(17)の実施に関する実施意見」においても、「会社が取締役会秘書を一人設置し、取締役会会長が推薦し、取締役会が任命する」ことを要求している。一九九六年八月九日に、上海証券取引所が「上海市証券取引所の上場会社の取締役会秘書の管理弁法(試行)」を公布した。この規定は、上海の上場会社に適用するだけでなく、その他の地域の上海証券取引所に上場した会社にも適用され、基本的に取締役会秘書制度の外郭を確定した。
  取締役会秘書の職権は以下の通りである。@中国証券監督委員会、地方証券管理機関、政府の関係機関及び上海証券取引所が要求する取締役会、株主総会の出す報告と書類を準備、提出する。会社情報の公開事務を担当し、会社の関係情報を、即時にかつ正確にすべてを公開することを保証する。B取締役会会議と株主総会を準備し、会議の記録を担当し、会議の書類と記録を保管する。C取締役会の決定に意見と提案を提供し、取締役会が職権行使に当たって、国家の法律、法規、会社定款及び取引所の関係制度を遵守するよう努め、取締役会が関係規定に違反して、決議を為した際には異議を申し立て、かつ中国証券監督委員会、地方証券管理機関及び取引所に事実を報告する権利を有する。D会社の株主名簿、資料の管理と保存、取締役会の印鑑の保管を担当し、有資格の投資者が会社の公開資料を得られるように確保する。E会社の諮問サービスを担当し、会社と株主との間の関係事務及び株主の日常的来訪と着信を処理することに協力する。F会社の国内外の宣伝活動を担当する。G会社と取締役、中国証券監督委員会、地方証券管理機関、取引所、各仲介機関との間の関係事務の処理を担当する。H取締役会に授与されたその他の職権である。
  取締役会秘書の就任要件は、大学以上の学歴を有し、金融、工商管理、株権事務等に三年以上従事し、上海証券取引所の養成コースを経て、かつ試験に合格し、一般的に年齢が四五歳以下であること。取締役会秘書は、会社の経営状況と業界知識を熟知し、良好な個人的素質と職業道徳を有し、高い接待能力があること。以上の「弁法」によれば、会社法二七条の規定する取締役、監査役、支配人(経理)に就任できない場合は、同様に取締役会秘書に適用する。かつ取締役会秘書は原則的に専任者が担当するが、会社の取締役も兼任できる。しかし、ある行為が取締役と取締役会秘書によって、別に為されるべき場合において、取締役会秘書を兼任する取締役は、取締役会秘書の身分で為すべきである。
  取締役会秘書の任免の手続きは、取締役会がその他の人員を任命する場合より複雑である。取締役会が取締役会秘書を任命した後、以下の手続きを履行すべきである。株主総会に報告すること、マスコミを通じて社会公衆に公開すること、中国証券監督委員会、地方証券管理機関と証券取引所に報告すること、である。取締役会は、取締役会秘書を解任する場合、直ちに書面形式で中国証券監督委員会、地方証券管理機関と証券取引所に通知し、次回の株主総会に報告し、マスコミを通じて社会公衆に、解任された取締役会秘書の解任原因を説明する。
  取締役会秘書の設置は、会社の組織機構の研究に新たな課題を提起した。どのように取締役会秘書の地位と性質を認識するか。言うまでもなく、取締役会秘書の実践が、会社の組織の一部分にすべきことを明らかにした。しかし、彼は株主総会の選挙で選ばれたのではないから、取締役会の構成員ではなく、取締役の地位を有しない。反対に、取締役会秘書は、取締役会に任命されたのであり、上述した規範文書の規定によれば、会社の高級管理者に属する。会社法の規定した高級管理者は、会社の日常経営に対して、総責任(会社の経理)または部門責任(財務責任者)を負うのである。明らかに、取締役会秘書は、これに属せず、取締役会が職権を執行する際に、生じた事務に対して総責任を負う高級管理者である。上述した規範文書は、取締役会秘書が取締役会の職権執行の合法性に対して監督すると規定するが、これは妥当でもなければ、不可能でもある。取締役会秘書は、取締役会によって任命され、取締役会の監督を受け、取締役会に責任を負うのであるから、反対に取締役会を監督することができない。
  5.監査役会が組織の中で監督の職権を執行する。監査役会制度は、実践の中で二つの傾向を示した。一つは、法定権限で確定した監督を具体化する。もう一つは、監督の筋道を具体化する。前者は、主に取締役会の決定手続きの監督(取締役会に列席、重大決定の討論に参加)、財務監督(中期財務報告の審査、年度財務報告、年末決算と分配予定案等)、取締役と支配人(経理)の行為の合法性への監督、株主総会決議の執行への監督である。後者は、それ自身に専門事務機構がない状況下において、主に会計監督、従業員監督と併せて行い、事前の監督の強化に重点を置き、会社の制度建設を促す。

(二)  株式会社組織機構の法制度の実施中の問題点
  商事会社が中国で回復して間もないために、人々が企業に対する伝統観念を未だに転換できず、会社法自身の欠陥を加えて、株式会社の組織機構の法律制度の実施は、その効能価値を十分に表すことができず、一部の会社において法の精神からの逸脱さえ現れている。主に以下の通りである。
  1.株主総会が形式化する可能性が現れる。株主総会の権力機関の地位は、株主の強い参与意識の基礎の上にのみ樹立できる。かつ、会社は、株主が株主総会会議に参加し、表決権を行使する条件を作るべきである。いかなる株主の参与意識を希薄化し、上述条件を軟化するやり方では、株主総会を形式的にさせることとなる。株主総会の形式化の可能性は、以下のことに由来する。(1)株主総会に参加する人数が少ない。これは、主に株式が高度に分散する会社に現れている。ある会社の一九九四年度年会に、八〇二名の株主が会議に出席し、七八一六八〇九株を代表し、会社の株総数の一一・一四%をしめる。一九九五年の年会に、三六〇名の株主が会議に出席し、五三九九六八七株を代表し、会社の株総数の四・五二%をしめる。こうなったのは、主に少額株主が株主総会に興味がないからである。この状況に対して、株式の高度に分散する上場会社は、困惑し、大株主と比較的大株主の介入を求めるために、適切な措置を採らざるを得なくなった。(2)株主総会がお土産を配り、株主の注意をそらす。多くの上場会社は、株主総会に参加する株主にお土産を配ることで、「株主総会の出席専業者」を作り出した。これらの株主は持ち株の数が小さいが、同時にいくつかの会社の株を所有している。彼らは、投資の利潤を得るためでもなければ、利息の分配を得るためでもなく、会社をコントロールすることがなおさら不可能であり、ただ株主総会のお土産を得るためである。株主総会の季節になると、家族全員で会場を回る。この現象によって、株主が会議に出席して表決権を行使することから、会議に出席してお土産をもらうことに変えられた。(3)持ち株株主が会社を支配し、少額株主は会社に影響を与えるのに無力になった。国有企業が株式会社に改造された後、人々が公有制に誤った理解をしたために、国有株は、業種を問わず多くの株式会社の持ち株となり、絶対的な支配的地位さえ占る。従って、多くの少額株主は注意を証券市場での証券投資に向けざるを得ず、株主総会に活力が欠けることとなる。
  2.取締役会の構成と運営は、その地位の要求に適応しない。取締役会は、株式会社の業務執行と日常経営決定の機関として、その基本要求は、構成員の素質と専門化及び決定の適時性である。実践中の取締役会は、運営水準を高めようとしているが、それが適応しないことも明らかである。株主の取締役に対する観念は不正確である。中心問題は取締役が誰に属するかである。この問題に正確に答えるのは、取締役会を有効に運営する鍵である。この問題は細かく二つの方面に分けられる。その一、取締役は会社それとも株主に属するか。株主とりわけ持ち株の株主からすれば、取締役は株主の取締役である。取締役の人選は株主が推薦するからである。言うまでもなく、これは錯覚であり、取締役の選任手続きと取締役の地位を混同したからである。確かに、取締役は株主の推薦または指名によるのであるが、これは取締役の就任の初歩手続きを表すものであり、取締役と株主との関係を表すものではない。反対に、取締役は、取締役会の構成員であるから、会社の取締役であり、会社と委任関係にある。(1)取締役は、個別の株主(持ち株の株主さえ)に責任を負うのか、それともすべての株主に責任を負うのかである。この問題は、主に持ち株の株主のいる会社と、相対的に多額の株を所有する株主のいる会社に現れている。ある会社において、取締役会の任期満了の前に、突然に株数の比較的多く有する株主が現れたために、当該株主は、自己利益を代表する取締役を要求した。すなわち取締役会の構成の変更を要求する。選挙を経ずに自己利益を代表する「取締役」の取締役会入りを要求する場合さえある。明らかに、これは、取締役と株主とのあるべき関係の顛末である。上述したように、取締役は会社の取締役であるが、これは取締役と株主と何の関係もないことを意味するのではない。取締役は、株主が選挙したのであるから、取締役と株主の間に選任関係が存在し、取締役は選挙者に責任を負うべきである。しかし、取締役は、株主総会の選挙により生じたのであり、個別の株主の選挙により生じたのではない。従って、取締役は、すべての株主に対してのみ責任を負うのであり、すなわち会社法一一二条が規定したように、「取締役は株主総会に責任を負う」のである。(2)専業の取締役が少ない。とりわけ国有株主の持ち株会社においては、この現象が得に顕著である。これらの会社において、取締役会の構成員は、三種類の人によって構成されている。すなわち、国家株が推薦した取締役、国家株に関連ある国有法人株(国家株が持ち株である会社と国有独資会社)が推薦した取締役、当該会社に勤務する取締役である。前者の二種類の取締役が大多数を占めたために、専業の取締役は少なくなっている。言うまでもなく、株式会社が社会化に発展する過程に於いて、会社の社会的責任は加重された。この状況下において、取締役会の構成員の中に一定数の会社外の専門化を取り入れることは必要である。しかし、取締役会が日常経営決定の重い任務を担っていることを鑑みれば、会社の経営状況を熟知する取締役は、比較的多くいるべきである。従って、会社内で勤務する専業の取締役は、少なくないようにすべきである。(3)多数の会社取締役は、職務給与しかなく、株主総会が決めた報酬はない。国有企業から株式会社まで、経営層の報酬問題は適当に解決されていない。会社法が株主総会で取締役の報酬を決定すると規定しているけれども、多くの会社の取締役の報酬は、株主総会によって決められるのではなかった。その中で、会社に勤務する取締役は、職務の序列で高級管理者の給与のみを受領し、会社外の取締役は、手当を受領するだけである。明らかに、これは人々が「公平」を「平均」と理解した結果である。言い換えれば、「少がよくても、不均衡がよくない」という信条は、なお存在している。しかし、権利と義務は一致するものである。取締役の得るべき報酬がなければ、取締役に賠償責任を負わせることは不可能である。従って、取締役の報酬を保証しないやり方は、取締役の激励、制約するメカニズムの樹立に適応しないのである。
  3.取締役会会長が経理を兼任するのは、会社法の精神に反する。会社法の規定によれば、取締役会会長は会社の法定代表者であるが、法律は、取締役会会長の職権に関する規定が少なく、法定代表者の地位とは釣り合わない。しかし、支配人(経理)の職権に関する規定は、前述した全民所有制工業企業法の支配人(経理)の職権の強化の手法を継受したため、経営管理に必要な内容を含んでいた。これによって、両者は、権力構造上において不均衡となり、両者間の協調を実現しにくい。言うまでもなく、取締役会会長の代表権の行使は、主に対外的である。しかし、対内的な業務執行の基礎がなければ、法定代表者の職権を行使し得ない。同様に、支配人(経理)は、会社の生産経営管理を主管するのであれば、対外的に適当な代表権を有すべきである。両者の交錯と会社の権力分配構造上の欠陥を解決するために、多くの会社は、取締役会会長が経理を兼任する手法を採用した。しかし、これによって生じた新たな問題は無視できない。一つは、取締役会会長と支配人(経理)との会社組織機構における緊密な関連と両者間の関係の協調を注意しただけで、両者の就任手続きの違いと地位の重大な差別を無視したのである。もう一つは、取締役会会長が取締役会の閉会期間中に支配人(経理)に対する監督責任を無視したのである。取締役会会長の支配人(経理)兼任を認めれれば、彼らの地位を曖昧にさせただけでなく、自己が自己を任命する弊害もあり、取締役会の支配人(経理)に対する監督を実現しがたい。従って、現代企業制度の試作方案は、「取締役会は取締役会構成員による経理の兼任を決定できるが、取締役会会長は一般に経理を兼任しない(18)」と、特に指摘している。

(11)  福建省燿華玻璃工業股「フ36」囲有限公司召開第七次股東代表大会的公告、上海証券報一九九四年一一月二九日第四版
(12)  合肥美菱股「フ36」囲有限公司関於召開第五次股東大会的公告、上海証券報一九九四年一一月二九日第八版
(13)  深「フ36」祁市華宝(集団)股「フ36」囲有限公司関於召開特別股東大会的公告、上海証券報一九九四年第一版
(14)  王保樹「股東大会的地位及其運営的法理」、中国社会科学院研究生院学報一九九五年第一期
(15)  劉江永編訳「日本的股「フ36」囲行使制度」、経済科学出版社一九九三年版、五二頁
(16)  上海大衆出租汽車股分有限公司一九九六年年報一四頁、上海国脈通訊股分有限公司一九九六年年報一〇頁、上海申華実業股分有限公司一九九五年年報六頁
(17)  「国務院関於原有有限責任公司和股分有限公司依照『中華人民共和国公司法』進行規範的通知」(一九九五年七月二日)を指す
(18)  国家体制改革委員会生産可編「如何制定現代企業制度試点法案」、改革出版社四三頁

四、株式会社組織機構の運営において提示された立法課題


(一)  株主総会の運営規則の健全化
  株主総会は、会社の権力機関として、株主の多数表決権が代表する意思を集めることができるはずである。従って、株主総会の運営規則を健全にすることは、会社組織機構を完備するための重要課題になることが避けられない。
  1.株式会社株主総会の出席株主の法定人数制度を樹立すること。
  現行会社法には、決議事項通過の法定多数制度しかなく、出席株主の法定人数制度がないために、少数の会社が上述したような四・五二%の株しか代表しない株主の出席で株主総会を行う状況を生じさせた。言い換えれば、総株数の五%未満の株主は、株数の九五%の株主を支配した。明らかに、これは、資本多数決定原則と株主民主主義の精神に違反したのである。この状況を変えようとすれば、出席株主の法定人数制度を樹立しなければならない。
  言うまでもなく、現代の各国の会社法は、出席株主法定人数制度に対して違う立場を採っている。ある国の会社法は、出席株主の法定人数制度について一般規定を設けず、重要な決議事項の通過に表決権の絶対多数(例えば四分の三(19))をえなければならないと規定する。ある国の会社法は、直接に出席株主の法定人数を規定する。例えば、フランスの商事会社に関する法律は、普通の株主総会を招集する際、出席株主が表決権の四分の一の株式を有し、特別の株主総会を招集する際、出席株主が少なくとも表決権の二分の一の株数を有する、と規定した(20)。ある国では、制限的に出席株主の法定人数を規定した。例えば、日本商法典二三九条は、「総会ノ決議ハ本法又ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外発行済株式ノ総数ノ過半数ニ当ル株式ヲ有スル株主出席(21)」と規定した。これらの国の規定は、差異があるけれども、その基本精神で一致している。すなわち、株主総会中心主義を放棄し、取締役会中心主義に改めたのであるから、近代的な会社法のように、株主総会に出席する株主が表決権の多数を代表することを強調しなくなった。しかし、中国の会社法は、これらの国の会社法と違い、授権資本制を実施せず、なお株主総会中心主義を取っている。従って、株主総会に出席する株主が代表する株数は、発行株総数の二分の一を超えるべきである。
  2.通信表決形式の樹立と規範
  多くの会社が既に採用した通信による表決に関しては、会社法は、将来の修正において認めるべきである。しかし、法的形式でこの制度を樹立する際に、株主権益の有効な保護という問題を十分考慮すべきである。一つは、通信による表決を株主の選択できる形式とし、株主の採用しなければならない形式としないことである。もう一つは、株主が会社に通信による表決を送付した意味を明確にすることである。つまり、当該株主が株主総会に出席したと見なし、出席株主の総数の内に計算する。取締役が取締役会に不利な投票を引き抜くことを防止するために、通信による投票の監督制度を樹立すべきである。
  3.表決権行使の例外制度の樹立
  会社の各株主に、一株ごとに一つの表決権がある。その所持する株主によって、その株数と同数の表決権を有する。これは、会社法が認めた株主の表決権行使の原則である。しかし、多数の株を所有する株主による株主総会の操作を防止するために、違う種類の株を所有する株主の利益を平衡するために、外国の経験を参照する必要がある。表決権行使の例外規則を規定するということは、一定数の株を所有する株主による表決権行使への制限、利潤分配優先権を有する株に表決権がないこと、会社の所有する自社株に表決権がないこと、決議事項に利害関係を有する株主は表決権を行使できないこと、が含まれる。
  4.会社の株主総会に出席する株主へのお土産分配の禁止
  会社が株主総会に出席する株主にお土産を分配することで、上述した株主の注意力をそらす弊害があるだけでなく、すべての株主に対して、不公平でもある。株主総会に出席しないのは、株主が権利を放棄する一種の選択であるけれども、会社は、これによって、株主総会に出席する株主と出席しない株主に対して、異なる待遇をすべきではない。そうしなければ、株主総会に出席する株主が会社のお土産を受け取ることができるが、株主総会に出席しない株主がお土産を受け取れないことは、株主の平等原則に明らかに違反するのである。従って、禁止すべきである。
  5.株主総会決議瑕疵規定の充実
  現行会社法は、株主総会決議が法律、行政法規に違反し、株主の合法的権益を侵害した場合に、株主が人民法院に当該違法行為と侵害行為の停止を要求する訴訟を提起する権利があるとしか規定していない。株主の合法的権益を保護するために、この規定を詳細に記すべきである。一つは、「違反」の範囲を会社定款の違反にまで拡大することである。もう一つは、決議違法の訴訟を「決議取消の訴え」(つまり株主総会の招集手続き、決議方法の違法と定款の違反)と「決議無効の確認の訴え」(つまり決議内容の違法)に分けるべきである。侵害停止の訴えを加えて、三種類がある。三つめは、訴訟を提起しうる株主を具体化することである。

(二)  取締役会の構成と取締役の行為の規則
  株主総会は会社の権力機関であるけれども、取締役会が会社の日常経営の決定と業務執行の重任を担っている。その構成と有効な運営は、会社の存続と発展に重要な意義を有する。従って、さらに取締役会制度を完備すべきである。
  1.取締役会の構成規則の健全化
  現行会社法は、会社の意思による自治を尊重するために、取締役会の構成員が五名から一九名までのみと規定し、取締役会の構成原則を規定しなかった。しかし、取締役会構成の合理性が直接に取締役会の役割の発揮に影響するために、取締役会の構成原則の健全化は、会社法の今後の立法課題の一つとなる。取締役会の職権行使の需要と実践中に提示された問題に基づき、取締役会の構成は以下の原則を実行すべきである。会社外部と会社内部の構成員を組み合わせ、会社の内部構成員を主とするが、会社の支配人(経理)の人数が多すぎると良くない。従って、会社内部で勤務する取締役は、取締役会構成員の三分の二より少なくすべきでない。
  2.取締役会から発生する規則
  現行会社法の規定した取締役が株主総会の選挙によって就任することは、取締役会が発生する基本規則である。しかし、この規則だけでは、会社組織機構の運営の需要に適応できない。実際において、大株主が自己の推薦した取締役がその利益を代表することを要求することが存在していることを鑑みれば、大株主が推薦した取締役を通じて必要があり、中小株主にも彼らの推薦した取締役が選出される機会を与え、取締役会構成の多元化を実現する。
  3.取締役会の運営の合理化の推進
  現行会社法が規定した取締役会の職権、運行方式と取締役の責任は、取締役会の運営の合理化の基礎である。しかし、会社法の中に、取締役会の運営規則の密度を増加することは、必要である。(1)取締役会の監督権能の強化。現行会社法の規定によれば、支配人(経理)は、取締役会によって任命され、取締役会に責任を負うのであるから、当然取締役会の監督を受けるべきである。同様に、取締役会会長を除いて、取締役は、単独の職権を有せず、多くの場合は取締役会の委託を受けて職務を執行するのであるから、委託者たる取締役会の監督を受けるのも当然である。しかし、現行会社法はこれに対して不備である。将来の会社法の改正において、取締役会が取締役と会社支配人(経理)の職務執行を監督する職権を明確に規定すべきである。(2)会社代表者制度の改革。会社の現代化と生産経営の多元化の発展につれて、取締役会会長のただ一人を会社代表とするのは、不足である。会社運営の需要に適応するために、会社代表者が一人である伝統を突破し、会社定款で多数代表者を承認すると改めるべきである。しかし、会社を代表する者が多すぎると、会社と債権者にとって不利であることを考慮して、会社法で会社代表者は三人を超えてはならないと規定すべきである。(3)取締役の第三者に対する責任制度の樹立。会社が第三者の利益を侵害した場合において、会社は第三者に対する不法行為責任を負うべきである。しかし、取締役は業務執行者であり、取締役が職権濫用で会社利益を侵害することを防止するために、また第三者の受けた損害に充分な救済を受けさせるためにも、その第三者に対する責任を規定することは、必要である。しかし、取締役がどの程度において第三者に対して責任を負うべきかは、当事者の利益の平衡を考慮する必要がある。会社が第三者を違法に侵害さえすれば、取締役は第三者に対して責任を負わなければならないのか(22)。それとも、過失があれば第三者に対して責任を負うのか、それとも悪意と重過失を前提とすべきか(23)。会社が第三者に対して既に責任を負ったことを鑑みれば、第三者の受けた損害がすでに会社から救済を受けているので、取締役が第三者に対して責任を負うのは、故意と重過失を要件とすべきである。(4)表見取締役会会長の規定の追加。「外観主義原則」貫徹し、「外観」を信頼した第三者を保護するために、現在起草中の契約法の中の「表見代理」との連接のためにも、表見取締役会会長に関する規定を設けるべきである。

(三)  監査役会の監督の徹底
  取締役会と同様に、監査役会にも構成の合理と運行の適切と言う問題がある。いかにして監査役会に有効に監督職権を行使させることは、会社法の完備の重大な課題の一つである。
  1.監査役会の組織の強化
  現行会社法は監査役会の構成員が三人より少なくなってはならないと規定しているが、実際において株式会社の監査役会の構成員も三人しか居らず、その人員構成も不合理であり、財務会計、法律を知る者が欠けており、監督職責を履行する需要を満たすことができない。将来の会社法の改正において、監査役会を強化すべきである。監査役会の人数の増加、監査役会における財務会計、法律を知る人員の比率と、上場会社の監査役会の外部構成員の比率を規定することを含む。
  2.監査役会の職権の充実
  会社法は、会社の取締役、支配人(経理)の行為によって会社利益が害された場合に、更生無効の際に、監査役会が会社を代表して訴訟を提起することを明確にすべきである。法律は、監査役会の調査権を明確にすべきでもあり、監査役は、会社(子会社を含む)の業務、財産状況に対して調査を行うことができ、取締役、支配人(経理)に会社の営業状況の報告を要求することができる。

(19)  李功国ほか訳「欧州一二国公司法」のオーストリア会社法、ベルギー会社法、ドイツ会社法の部分、蘭州大学出版社一九八八年版、二九頁、七六−七七頁、二〇九−二一〇頁
(20)  卞
燿武主編「当代外国公司法」法律出版社一九九五年版四二〇頁
(21)  塩野宏ほか編「小六法」、有斐閣一九九三年版八四八頁
(22)  台湾公司法第二三条
(23)  中国「海南経済特区股「フ36」囲有限公司条例」一〇六条、「日本商法典」二六六条の三

五  結    び


  言うまでもなく、中国株式会社組織機構の法律制度に対して全面的な考察を為すのは、時期尚早である。株式会社制度が再建されてまだ間もないからである。株式制試行から起算しても、一〇年ぐらいである。一九九四年七月一日の会社法の実施から起算するならば、わずか三年あまりである。同時に、株式会社の数が少なく、上場会社もわずか七一〇社である。株式会社組織機構の法律制度の実施と実践は、なお不十分であり、その考察において、正確な判断を下すことは困難である。
  また、株式会社組織機構を考察することは、純理論的なことではなく、前述した制度の研究と実践の考察との結合が必要である。本文も社会調査の資料の引用を注意したけれども、調査の幅が狭く、データが不十分で、定性分析を充分な定量分析の基礎の上に打ち立てがたいと痛感している。明らかに、これは理論の抽象化に影響するもう一つの要素である。
  以上の原因で、本文の中国株式会社組織機構制度に対する認識は初歩的なものである。しかし、本文が描いた総体的な外郭は、なお中国株式会社組織機構制度の現状と趨勢を反映したものである。すなわち、中国の株式会社組織機構制度は、会社の各機関の間の分業と制約の関係を反映したものであり、基本的に会社運営の需要に適応している。実践中の株式会社の運営は、総体的において会社法に合致している。しかし、実質上、会社法の精神を逸脱する現象は、無視できない。その上、会社法自身に欠陥がある。従って、さらに会社法を完備するための多くの課題は、既に現れているから、立法者が計画的に順序よく完成していることが必要である。