立命館法学  一九九七年六号(二五六号)一四八二頁(二七〇頁)




韓国法上のストック・オプション



李 範燦*









一.は  じ  め  に


  ストック・オプション制度は米国や英国・フランス等西洋の諸国で広く利用されている(1)。日本でも早期導入のために議員立法の形で商法改正が行なわれ、一九九七年五月一六日に参院で可決成立し(五月二一日公布)、まもなく同年六月一日(一部は一〇月一日)から施行されている(2)
  韓国においても、証券取引法第一八九条の四を新設することにより(一九九六年一二月一六日改正、一九九七年一月一三日公布)株式買入選択権(incentive stock option)制度を導入(3)、つづいて証券取引法施行令第八四条の六(一九九七年三月二二日公布・施行)、株式買入選挙権制度の運営に関する基準(一九九七年三月一八日制定、以下、「運営基準」という)、租税減免規制法第一三条の二等を制定・改正し、一九九七年四月一日から積極的に施行することになった。株式買入選択権制度は後述の通り多数の会社が採用しているが、その具体的内容は様々に分れている。
  本稿では、韓国法上のストック・オプション制度の規制内容を概観し、その間の会社の利用状況を紹介することにする。

二.ストック・オプションの意義


  ストック・オプションとは会社の役員・職員に対する業績連動型インセンティブ報酬制度の一類型として、会社の設立と経営・技術革新等に寄与し、または、寄与しうる能力のある当該会社の役員・職員に、株式を有利な条件(価額)で取得する権利を付与する制度である。ストック・オプション制度は従業員の福利厚生を向上するという結果の面では従業員持株制度(ウリ社株組合制度)と似ていると言えるが、その趣旨・方法等は根本的に異なる制度であ
(4)

1.ストック・オプションの順機能(肯定的効果)
  ストック・オプションを活用すると会社と役員・職員の利害関係が一致し、よって会社の経営革新の誘導と対外競争力の向上をはかることができる。
  (1)  優秀な人材の確保    会社の立場から見ると専門的経営者や専門技術の保有者等を雇傭する場合、多額の賃金を負担なく優秀な人材を確保することができ、彼らに経営者意識を高め目的実現への動機を誘発することができる長点がある。
  (2)  業績による成果給的報酬    役員・職員の立場から見ると当該会社が成長して高収益を創出するようになると、その会社の株価があがり、その株価が役員・職員が選択権の行使により取得する時の価額(権利行使価格)より高くなるとその差益を得ることができ、業務実績による成果給的報酬を受ける結果となる(5)
  (3)  先端産業の創業促進    特にこのストック・オプション制度は資本力がおとり、従業員に有利な雇用条件を提供することのできないベンチャ企業が高級な人材を確保するのにふさわしい方法であって、先端技術の産業化をはかる中小企業においてもっとも有用な制度といえよう(6)

2.ストック・オプションの逆機能(否定的効果)
  ストック・オプション制度は必ずしもバラ色のものではなく、その合理的運営ができない場合には否定的効果をもたらすことがある点は留意すべきであろう(7)
  (1)  和合・団結の阻害    ストック・オプション制度は長期的な経営計画に基づいて会社の業績向上をめさすが、権利行使期限が長ければ長い程、長期的な株価上昇に役員や従業員がどのように貢献したかが必しも明らかではなくなる。そこで株式買入選択権を付与される役員・従業員と付与されない役員・従業員との間にその衡平性が欠ける恐れもある。特に従業員の場合は従業員持株制度とは異って、大部分の従業員が排除されるから、従業員全体の和合・団結を阻害する結果ともなりうる。
  (2)  株主の利益侵害    株価が暴落した時又は内部者取引や相場操縦等不公正な株式取引により株価が下落した状態において、付与する株式の価額を決定する場合には、株式の希釈化により株主の利益を侵害する恐れもある。
  (3)  従業員の利益侵害    従業員に現金報酬に代えてストック・オプションを付与した場合に、もしも将来の株価が暴落すれば、ストック・オプションを行使できず、従業員の利益を相対的に減らす結果ともなる。かつて従業員持株制度が必ずしも従業員の利益とならなかったことも参考に値するのではなかろうかと思う。
  (4)  会社財政の不実化    会社が自己株式方式により自己株式を取得・保有している間に時価が下がれば、会社に含み損が生ずる等、資本維持の原則上危険をもたらす恐れもありうる。

三.ストック・オプションの規制内容


1.株式買入選択権の付与が可能な法人
  株式買入選択権を付与しうる法人は大統領令で定める法人に限る(証取法  第一八九条の四第1項)。証券取引法施行令によると、@  株券上場法人、A  協会登録法人、B  ベンチャー企業がこれに属する(証取法施行令  第八四条の六第四項)。ベンチャー企業とは「中小企業創業支援法」の規定による創業者または「新技術事業金融支援に関する法律」の規定による新技術事業者であり中小企業創業支援法の規定による「創業支援業務に関する基準」に適合する事業を営む内国法人である。

2.株式買入選択権付与の対象者及び除外者
  株式買入選択権が付与されるべき対象者は、当該会社の役員・職員に限られる。しかし、会社の役員・職員は特定されれねばならない。役員・職員全員に付与することは認められない。租税減免規制法施行令第一一条の三第一項は従業員全員に株式買入選択権を付与する場合は税制特例の適用を排除することを明らかにしている。
  なお、当該会社の役員・職員の中でも株式買入選択権が付与されることのできない者を、施行令は具体的に挙げている(証取法施行令  第八四の六第一項、租減法施行令  第一一条の三第六項)。証券取引法施行令によると、当該会社の@  最大株主及びその特殊関係人、A  主要株主及びその特殊関係人は付与対象者から除外されているが、これは株式買入選択権制度運用の公正性確保をねらったものである。主要株主とは名義に関係なく自己の計算で議決権ある発行済株式総数の一〇〇分の一〇以上を所有する者と、それ以下の株式数を所有する者であっても役員の任免等経営事項に付き、事実上重要な影響を及ぼす事実上の支配株主を含む(証取法  第一八八条第一項、証取法施行令  第八三条の四)。特殊関係人とは、個人の場合には配偶者及び近い親戚・姻戚等を含み、法人の場合にはその役員と関係会社及びその役員を含む(証取法施行令  第一〇条の三第二項)。

3.株式買入選択権の付与方法
  株式買入選択権を付与する方法としては新株交付、自己株式交付及び株価差額交付の三種の方法を定めている(証取法施行令  第八四条の六第二項)。@  新株を交付する方法は株式買入選択権の行使価額であたらしい株式を発行して交付する方法である。A  自己株式交付方法は株式買入選択権の行使価額で自己株式を交付する方法である。B  株価差額交付方法(SAR・stock appreciation rights)は株式買入選択権の行使価額と時価との差額(行使価額が時価より低い場合の差額をいう)を現金または自己株式で交付する方法である。
  この場合もっとも重要なのは株価の決定をいかにするかの問題である。証券取引法施行令は株式買入選択権の行使価額と時価の算定方法は証券管理委員会が決定する旨定めている(証取法施行令  第八四条の六第三項)。

4.株式買入選択権付与の限度
  株式買入選択権制度の濫用を防ぐためには株式買入選択権を付与しうる総限度と一人当りの限度を定める必要がある。そこで証券取引法施行令は会社の財務構造、他の株主の権利、制度の効率性等を考慮して上場法人、登録法人、ベンチャー企業に分けて定めている。即ち、株券上場法人や協会登録法人は発行済株式総数の一五%、ベンチャー企業は発行済株式総数の五〇%となっている(証取法施行令  第一八九条の四第五項各号)。しかしこの割合の算定においては、すでに付与した株式買入選択権の中、特別決議日現在、行使しなかった株式買入選択権を行使する場合に付与すべき株式の数を減じて算定しなければならない(証取法施行令  第八四条の六第五項本文)。なお、解釈上ベンチャー企業が登録法人・上場法人になると、その限度を充足するまでは追加付与が制限される。
  税法上は付与総限度の規定はないが、一人当に付与する税制上の優待限度を発行済株式総数の一〇%範囲内、年間五千万ウォン以内に定めている(租減法  第一三条の二第一項第五号)。したがって、証券取引法施行令は一人当の株式買入選択権付与の限度を定めていないが、実務界では租税減免規制法が認める限度内で一人当の株式買入選択権付与の限度も定めるであろう。実際、上場会社協議会が制定した標準定款第一〇条の三第四項には「役員又は職員一人に対して付与する株式買入選択権は発行済株式総数の一〇〇分のスを超ゆることができない」と定め、つづいて同条第五項にも付与すべき株式の「一人当取得価額(買入価格)は第一項の株主総会の特別決議前三日間の平均終値(終価)による。この価額が額面額に達しなかった場合には額面額による」と定めている。

5.株式買入選択権の効力(行使期間)
  株式買入選択権は株主総会で特別決議をした日から三年が経過しなければ行使することができない。しかし、証券取引法第一八九条の四第四項は株式買入選択権の行使期間の上限に付き定めていないが、明定した方が望ましいであろう。上場会社協議会では上記の標準定款により特別決議後一〇年以内と定めるよう勧めているが、実務界の利用状況(後述)をみても一〇年以内と定めた会社の数が一番多い。
  総会の決議日から定款上定めた株式買入選択権の行使期間満了日までにはその効力があるので、会社もその期間中は恣意的にその付与を取消することができない(証取法  第一八九条の四第四項)。
  株式買入選択権はその行使期間中効力があっても、後述の通り、他人にその権利を譲渡することは制限される。但し、株式買入選択権者が死亡した場合には、その相続人に付与したものと見做される(証取法  第一八九条の四条第五項)。

6.株式買入選択権の付与手続
  会社が株式買入選択権を付与するには、まず定款に以下の様な特定重要事項を定め、実際株式買入選択権を付与する時ごとに、株主総会の特別決議を以て、付与しなければならない。
  (1)  定款の規定    一定の場合株式買入選択権を付与しうる旨、株式買入選択権の行使で交付する株式の種類と総数、株式買入選択権が付与される者の資格要件、一定の場合株式買入選択権の付与を取消しうる旨を定款で定めなければならない(証取法  第一八九条の四第二項第一ー四号)。
  (2)  株主総会の特別決議    株式買入選択権の付与に付き、定款で定めても、株式買入選択権を具体的に与えるには株主総会の特別決議を経なければならない。その特別決議により決定されなければならない事項は大統領令で定める(証取法  第一八九条の四第三項)。証券取引法施行令によると、特別な決議をしなければならない事項として、株式買入選択権を付与されるべき者の氏名、株式買入選択権の付与方法、株式買入選択権の行使価額および行使期間、株式買入選択権を付与される者の各々に対して株式買入選択権の行使によって交付すべき株式の種類および数、を挙げている(証取法施行令  第八四条の六第六項)。
  (3)  勧告    証券管理委員会は定款の記載事項、株主総会の特別決議事項、その他必要事項を定める基準を制定し、株式買入選択権制度の付与法人に必要な勧告をすることができる(証取法  第一八九条の四第七項・施行令  第八四条の六第七項)。この場合株式買入選択権付与会社はその基準及び勧告にしたがうよう義務づけられている(証取法施行令  第八四条の六第八項)。

7.株式買入選択権付与会社の登録・公示義務
  株式買入選択権を会社の役員・職員に付与しようとする会社は、その公正性確保のため証券管理委員会に予め登録しなければならない(証取法  第三条第六号)。この場合、既に継続して開示をしてきた株券上場法人と協会登録法人は株式買入選択権付与計画書だけ提出するよう登録手続を簡素化し、ベンチャー企業は株式買入選択権付与計画書と事業者登録証の提出を要すると規定した(運営基準  第三条)。
  株式買入選択権を付与した会社は株式買入選択権付与の決議後、遅滞なく証券管理委員会が定める方法及び手続に従って証券管理委員会と証券取引所又は協会に申告をしなければならない(証取法  第一八九条の四第八項、証取法施行令  第八四条の六第九項)。この場合、証券管理委員会と証券取引所又は協会も、その申告日から株式買入選択権の存続期限内は上記計画書を備置き、一般人が閲覧しうるよう公示しなければならない(証取法  第一八九条の四第八項)。

8.株式買入選択権の保護と濫用防止
  (1)  株式買入選択権の保護    株式買入選択権に関する紛争を防止するために株式買入選択権の付与及び権利行使に係わる重要事項を記載した書面の作成を会社に義務つけ(運営基準  第四条)、会社の恣意的取消行為も制限することにした。勿論、会社は定款の定めに依り取締役会の決議を以て株式買入選択権を取消することが出来るが、その取消事由は  @  役員・職員本人の任意的退任・退職、A  役員・職員の故意・過失により会社に重大な損害を蒙らせた場合、B  会社の破産・解散により権利行使に応ずることが出来ない場合、C  其他契約書上の取消事由が発生した場合に制限している(運営基準第五条第一項)。
      一方、役員・職員が株式買入選択権を行使した場合には会社も遅滞なく応ずる必要がある。そこで会社は新株又は自己株式を交付する場合には役員・職員が株金額払込期日まで払込代金を払込だ時に遅滞なくその株券を交付しなければならない。株価差額交付の場合にはその差額を遅滞なく交付するよう交付義務の履行期限を明定した(運営基準第八条)。
  (2)  株式買入選択権の濫用防止    @株式買入選択権は役員・職員の死亡・定年退職その他本人の帰責事由以外の事由による退任・退職と定款で別に定めた場合を除き、原則的に在任・在職中の役員・職員に限って行使しうることにした(運営基準  第五条第二項、第三項、第八条第一項)。A  株式買入選択権はその譲渡・担保提供を禁止し、その差押も排除し、一方、株式買入選択権の譲渡・担保提供・差押はその効力を喪失する旨と、株式買入選択権の行使等に係る役員・職員の未公開情報の利用行為の禁止(証取法  第一八八条の二)及び相場操縦等不公正取引の禁止(証取法  第一八八条の四)規定に違反する行為の禁止を契約書に明記させることにした(運営基準  第九条)。

四.株式買入選択権に係わる施行規定の整備


1.施行令上の調整
  証券取引法施行令は株式買入選択権制度の活性化をはかるために他の法令の規定との調整をなした。
  (1)  交付すべき株式の保有株式数算入    改正証券取引法第二一条は株式公開買付け制度を整備しながら株式の所有概念を保有概念に拡張し、その保有概念に株式買入選択権を付与した場合も含めた。その結果株式買入選択権を行使する前にも付与すべき株式をすでに保有するものと見做し(証取法施行令  第一〇条の四第八号)、株式の保有量を算定する時は付与すべき株式の数を保有株式の数に加へるよう定めた(証取法施行規則  第四条の二第三項)。
  (2)  株式買入選択権制度の活性化    株式買入選択権制度の活性化をはかる措置として、@  株式買入選択権の行使により取得した株式を譲渡する場合、短期売買差益返還規定(証取法  第一八八条第二項)の適用を免除することにし(証取法  第一八八条第八号、証取法施行令  第八三条の六第五号)、A  株式買入選択権の行使による自己株式の交付の場合には自己株式の取得・処分制限期間(取得又は処分後六月間)に関する規定の例外を認めることにした(証取法施行令  第八四条の三第二項第六号但書)。B  証券会社の役員・職員が株式買入選択権の行使により株式を取得するか又は取得した株式を処分する場合には証券会社役員・職員の売買取引の制限規定(証取法  第四二条)の例外を認めることにした(証取法施行令  第三五条第一〇号)。

2.租税減免規制法上の調整
  株式買入選択権制度の活性化を左右するのは税制上の支援策であるといっても過言ではない。
  改正租税減免規制法第一三条の二第一項によれば、適法な手続により株式買入選択権を行使する場合には所得税及び法人税の計算において特例を認め課税をしないことにした。
  (1)  株式買入選択権の行使の場合    株式買入選択権を行使すると、行使時の時価と行使価額との差額(optin premium)が発生する。その差額に対して従来は個人の場合勤労所得税を課税したが、現在は税を免じた。又、会社が自己株式交付方式によって自己株式を取得・保有した後、役員・職員がオプションを行使した時彼等に株式を譲渡すれば、その際、差額が発生し、従来は不当行為計算否認規定を適用してその差額を益金算入としたが、現在は益金に算入しなくなった。
  (2)  株式譲渡の場合    株式買入選択権の行使により取得した株式を他人に譲渡する場合には、上場会社においては旧法上も同じく非課税であった。しかし非上場会社においては旧法上も現行法上も譲渡所得税を課税するが、但し勤労所得税を課税した部分は必要経費として認めることになった。

五.株式買入選択権制度の利用状況


  韓国においては多数の会社が積極的に株式買入選択権制度を採用している。株式買入選択権制度の最近の利用状況に関する以下の統計資料は、韓国上場会社協議会の調査部が調査したのを引用した(8)
  この実態調査は一九九七年六月一日から六月三〇日まで実施したのである。調査対象は一九九七年三月三一日現在で一二月決算法人五八五社(法定管理中の一二社は除外)と一九九七年六月三〇日現在で三月決算法人九九社(法定管理中の二社は除外)に限ったのであり、三月決算法人の数は(  )内に表示する。
  株式買入選択権制度を定款に採用した会社の数を見れば、一二月決算社は五八五社の中一四社(二・四%)、三月決算社は九九社の中二二社(二二・二%)である(9)
1.株式買入選択権付与対象
  株式買入選択権を付与する対象は全部役員・職員としているが、証券取引法第一八九条の四の通り、「会社設立と経営・技術革新に寄与したことか、寄与しうる能力のある」役員・職員と正確に制限しなかった会社も九・一%になっている。(表(1))

2.交付株式の種類
  役員又は職員が株式買入選択権を行使する場合、会社が交付すべき株式の種類を普通株式と決めた会社は一二月決算会社の場合は七一・四%、三月決算社の場合は三六・四%であるが、「普通株式又は優先株式」と不適法な選択的記載をした会社が三月決算会社の場合五九・一%になっている。ストック・オプション制度に関する正確な理解が望ましいといえよう。(表(2))

3.株式買入選択権付与総限度
  法が認める株式買入選択権の付与総限度は上場会社 の場合は発行済株式総数の一〇〇分の一五であるが、一二月決算会社の五七・二%、三月決算会社の九一%が、最大限度である一〇〇分の一五を規定している。積極的な活用態度だと思える。一二月決算会社の中には三社(二一・四%)が一〇〇分の二〇まで限度を拡張しているが、これは法律違反であり、早速縮小して是正しなければならないであろう。(表(3))

4.一人当の付与限度
  租税減免規制法は課税特例規定の適用限度を一人当り発行済株式総数の一〇〇分の一〇と定めているが、一二月決算会社の七一・四%、三月決算会社の七七・三%が最大限度を定めている。個人当限度を一〇〇分の一五まで拡張した会社も三月決算会社の中一社ある。これは証券取引法の違反ではないので定款規定の効力は有効であるが、オプションを行使する個人が税法上の優待を受けることができなく、減免額が減るだけである。(表(4))
5.株式買入選択権の行使期間
  株式買入選択権の行使期間は表(5)で見るように各会社が様々の規定をしている。その期間を株主総会決議の日から三年を経過した日から七年内と定めた会社の数が多く、一二月決算会社の六四・四%、三月決算会社の五四・六%となっている。二番目に多いのが、五年内と定めた会社である。(表(5))

6.株式買入選択権の取消事由
  株式買入選択権の取消事由については大部分の会社が同じである。株式買入選択権制度の運営基準や上場会社協議会の標準定款規定例に従った訳である。(表(6))

六.お  わ  り  に


  韓国の実務界は株式買入選択権制度の導入を大変歓迎していることは最近の利用状況を見るとわかる。大部分の上場会社は一二月決算会社であるので、一九九八年二−三月中の定時総会では数多くの会社がストック・オプション制度を採用するであろう。
  しかし株主総会が大株主の意のままに運営される状況の下では、ストック・オプション制度の悪用の憂いがある。ストック・オプションの合理的な運営は、情報開示の充実化、少数株主の保護装置の強化、経営の透明性の高度化等が前提条件となっている。現行法上はストック・オプション行使期間、自己株式の取得財源、自己株式の処分期間等につき明文規定がないので一層詳細な定めをなし、特に取締役のお手盛を防ぐ適切な対応策を講究することが望ましいのである。


*  成均館大学校法科大学教授
(1)  金教昌、「Stock Option 制度●会社別(上場・一般)具体的活用方案」、人権●正義(大韓弁護士協会誌)一九九七、七、第二五一号、七二面以下参照。
(2)  編集部、「なぜストック・オプション導入を急いだか−議員立法による商法改正−」月刊取締役の法務一九九七、五、二五、八頁以下参照。
(3)  全弘烈、『'97改正証券去来法解説』六〇七面以下参照;金教昌、前掲論文七  二面以下参照。
(4)  韓国の従業員持株制度は従業員の主人意識の鼓吹と財産形成の支援を目的にして、従業員全員に企業公開又は有償増資の際、株式の優先割当(二〇%)をするのであるが、経営成果の向上にもっとも大きな影響を与える役員が排除されているばかりか、一定の従業員に限らず、従業員全員が一律に新株引受権を行使しうるので、多様な成果給的補償制度ではない(詳しい比較は、●●●、「Stock Option 制度●●●●●●●」、STOCK OPTION ●●●●●●(韓国上場会社協議会研修教材)八六面参照)。
(5)  全弘烈、前掲書、六〇九面参照。森本  滋、前掲論文、二・三頁以下参照。
(6)  保岡興治、「ストック・オプション制度等に係る商法改正の経緯と意義」、商事法務一四五号六頁参照。
(7)  全弘烈、前掲書六〇九面参照;森本  滋、前掲論文、二・三頁参照。
(8)  上場、一九八七年八月号、四八面以下参照。
(9)  一二月決算社の中株式買入選択権制度を採用した会社の数が少ないのは、改正証券取引法の施行日が一九九七年四月一日であり、株式買入選択権に関する規定(証取法  第一八九条の四)は公布日(一九九七年一月三一日)から施行したが、証券取引法施行令と株式買入選択権制度運営基準が三月に制定され、株主総会は二月末から三月に開催された結果、株式買入選択権制度を採用する準備ができなかったからである。