立命館法学  一九九八年一号(二五七号)


不公正条項規制における問題点(二)

− EU加盟各国の最近の動きを手掛かりに −

鹿野 菜穂子




一  は じ め に

二  消費者契約における不公正条項に関するEC指令
    (93/13/EEC)
  1  不公正条項指令の概要
  2  国内法化の様々な態様

三  EU加盟各国の状況
  1  ドイツ
  2  オーストリア
  3  ギリシャ
  4  オランダ
  5  スウェーデン
  6  フィンランド  (以上二五六号)
  7  イギリス
  8  フランス      (以上本号)
  9  イタリア
  10  ポルトガル
  11  ベルギー
  12  スペイン
  13  ルクセンブルグ

四  約款規制における論点とその検討

五  結      び


 

 


三  EU加盟各国の状況


 

7  イ ギ リ ス

  イギリスでは、一九九四年の消費者契約における不公正条項規則(Unfair Terms in Consumer Contracts Regulations 1994 (SI 1994/3159))によって、EC不公正条項指令(93/13/EEC)の国内法化が行われた。もっとも、同規則の制定前から、イギリスには、コモンローの準則や一九七七年の不公正契約条項法(Unfair Contract Terms Act (UCTA) 1977)が存在し、一定の範囲においてこの問題を規律していたのであり、これらは、九四年の規則制定後もなお、同規則と並んで適用される。そこで、以下では、コモンローのルールに簡単に触れた後、一九七七年法と一九九四年規則の内容を見てみよう。

 

  (1)  不公正条項に関するコモンローのルール

  判例法主義をとるイギリスにおいて、裁判所は、既に早くから、事業者によって一方的に用意された契約条項とりわけ約款において存在する独特の問題を認識し(1)、濫用的ないし不公正な条項を規律する準則も、まず、判例において具体化された。しかし、判例においては、形式的抽象的な「契約の自由」を尊重する風潮も強く、判例法の展開にはなお一定の限界があった(2)

    a  契約への組入れ要件と透明性の要請

  イギリスコモンローによれば、売主ないし供給者が用意した条項(約款)が契約に組入れられるためには、彼らが相手方(消費者)にその約款を知らせるための十分な手段をとったことが必要とされた(3)。もっとも、通常の場合には、その条項が契約書に記載されるか、あるいはその存在につき消費者に合理的な通知がなされることで足りるとされ、それ以上に消費者の注意を引き付けるような指摘や合理的に理解できる表現での記載が要求されるのは、不意打ち条項のような特別の場合にとどまった(4)

    b  契約条項の解釈

  コモンローは、「作成者不利の解釈準則(contra proferentem rule)」を採用してきた(5)。この準則によれば、当事者の一方とりわけ売主又は供給者が用意した契約条項が不明瞭な場合には、それは作成者とりわけ売主・供給者側の不利に解釈されるのであり、したがって、この準則の存在により、売主や供給者が自己に不利な結果を避けるためにより透明な条項を作成するようになるであろうことが期待された。しかし、現実には、作成者に「不利益な解釈」は、契約条項を明瞭に定めなかったことの制裁としては必ずしも強力ではなく、同準則だけでは契約条項の透明性を確実にもたらすことまではできなかった。

    c  非良心性(unconscionability)の法理

  契約内容の直接的なコントロール手段として、エクイティーにおける「非良心性(unconscionability)の法理」がある(6)。つまり、契約の内容が著しく不公正であり且つそれが一方の当事者の優越した交渉力の濫用によりもたらされた場合には、それは無効とされうるのである(7)。しかし、このルールは、交渉力の著しい不均衡と条項内容の著しい不公正をその要件としており、したがって、消費者契約における典型的な条項を広く一般的に捉えうるものではなかった(8)

 

  (2)  一九七七年の不公正契約条項法(UCTA)

  消費者運動の高まりと約款規制法制定の世界的動向の中で、イギリスにおいても、一九七七年一〇月二六日に不公正契約条項法(Unfair Contract Terms Act, 1977:UCTA)が制定され(一九七八年二月一日施行)、これにより、契約内容に対する直接的規制が行われるに至った(9)。本法は、三章から構成され、各章はその適用対象地域を異にしているが(10)、以下では、そのうち、イングランド、ウェルズ及び北アイルランドを対象とするところの第一章を中心にその内容を概観する。

    a  適用範囲

  この法律は、規制の対象を、ドイツにおけるように標準契約約款に限定することはせず、むしろ、広く約款以外の契約条項をもその対象とし、しかも、通常の「契約」条項の他、条件を定める一方的な「通知」も対象とされている(二条三項、一四条などを参照(11))。また、「個別に交渉」されたか否かも、基本的には本法の適用に影響を及ぼさず、ただ、場合によっては内容コントロールの段階で考慮されるにすぎない。

  同法はまた、EC指令やフランス法とも異なり、消費者取引にその適用を限定していない。但し、後にcにおいて見るように、一定の免責条項は、それが消費者に対して用いられた場合にのみ効力が否定されるのであり、したがって消費者取引か否かは、具体的なコントロールの段階では差をもたらしうる。

  しかし一方、規制される契約条項の種類に関しては、UCTAの射程は広くない。すなわち、本法は、規制対象をいわゆる免責条項に絞っているのであり、この点が、同法の大きな特徴であり、限界なのである。なお、同法は、保険契約、土地に対する権利の設定・移転・消滅に関する契約など、ある種の重要な契約類型についても、その適用が除外されている(付則一参照)。

    b  契約への組入れと契約の解釈

  一九七七年の不公正契約条項法(UCTA)は、不公正な内容の契約条項とりわけ不当な免責条項を規制するものであって、契約条項が契約に組入れられるための要件や契約条項の解釈に直接関する規定は設けていない。したがって、これらの点については、基本的に、前記コモンローの準則が適用される。もっとも、内容コントロールにおける合理性の審査の際には、顧客が当該条項の存在や範囲を知り又は知り得べきであったか否かも考慮されるべきこととされており(12)、したがって、この限りでは、同法の下でも契約条項の伝達や透明性は契約条項の効力に影響を及ぼしうるものであった。

    c  不公正条項のコントロール

  一九七七年法は、「不公正契約条項法」と呼ばれているが、既述の通り、そこで取り扱われているのは「不公正」な条項一般ではなく、ほとんどが民事責任を排除又は制限する契約条項(いわゆる免責条項)である。すなわち、確かに同法では、「責任の排除又は制限」はかなり広く定義されており、責任追求の行使を困難ならしめるような条項もカバーされてはいるが(13)、それでも、一方当事者に不当な利益を与え又は不当な不利益をもたらすような条項一般を含むものではない。これは、従来判例で問題となったケースの多くは免責約款であり、同法はこれに関する司法的規制を受け継いで制定されたという同法の制定経緯によるものであった(14)

  同法は、効力が否定される免責条項を具体的に列挙しているが、その際、当該条項がいかなる責任を排除ないし制限するものかに加えて、合理性の有無、消費者取引(消費者対事業者の取引)か否か、約款による取引か否かなどの基準を用いることにより、コントロールに段階を設けている。

  すなわち、まず、ネグリジェンスによる死亡・人身損害についての責任の排除・制限を定めた契約条項(二条一項)、動産売買法や物品供給法の規定に基づいて生ずる「権原等に関する売主の黙示の約束」に違反したことに対する責任を排除・制限する条項(六条一項)などは、それが消費者取引であるか否かを問わず、また合理性の審査も受けることなく、全て無効とされる。

  これに対し、例えば、ネグリジェンスによる人身損害以外の損害に対する責任を排除・制限する契約条項(二条二項)については、合理性の審査が行われ、当該条項が合理性の要件を充たさない場合に限りその効力が否定される。同様に、不実表示に対する責任あるいはその相手方の救済手段を排除又は制限する契約条項も、合理性の要件が充たされない限りで無効とされるにすぎない(八条)。もっとも、これらの場合には、消費者取引か否かは直接には問題とされていない。

  一方、消費者取引であるか否かにより区別され、消費者取引については事業者間取引より厳格な取扱いがなされる契約条項もある。例えば、「目的物が見本又は説明書と適合し、契約目的と適合していることに対する売主の黙示の保証」の違反に対する責任(いわゆる担保責任)を排除又は制限する契約条項は、消費者取引の場合には絶対的に無効であるが(六条二項、七条二項)、それ以外の取引においては、合理性の要件を充たさない限りにおいて無効とされるにすぎない(六条三項、七条三項)。消費者取引という基準と平行して、標準取引約款という基準が用いられる場合もある。例えば、一方の当事者について、契約違反に対する責任を排除又は制限する条項、合理的に期待される契約の履行と実質的に異なる履行をなすことを認める条項、契約上の義務の全部又は一部を免除する条項などは、それが消費者取引又は標準取引約款において事業者又は約款使用者の利益に用いられている場合に限り、しかも合理性の要件を充たさない限りでのみ、その効力が否定されるのである(三条)。

  ところで、既に見て来たように、UCTAでは、内容コントロールの可否はしばしば「合理性」の審査を通して決せられるものとされているのであるが、この「合理性」の審査においては、契約条項の場合は、契約締結時において当事者が知り又は知り得べきであった事情、当事者が予期し又は予期し得た事情が考慮され(一一条一項)、「通知」の場合には、責任が発生した時又は(通知がなかったら)責任が発生したであろう時点における一切の事情が考慮される(一一条三項)。さらに、瑕疵担保責任を排除・制限する条項(六条、七条)の場合については、特に、当事者間の交渉力の強弱、顧客が他の類似の契約を選択しうる可能性、当該条項についての顧客の認識若しくは認識可能性等も考慮されると規定されているが(一一条二項、付則二)、これらの事情、とりわけ交渉力の強弱は、それ以外の契約条項の合理性審査においても重要な意味を有すると解されている(15)。なお、合理性の立証責任は、一般に、免責条項を援用する者がこれを負担する(一一条五項)。

    d  不公正契約条項法の欠点

  一九七七年に制定された同法は、契約内容への司法的介入を立法上積極的に認めた点で画期的なものであったが、なお、いくつかの欠点が指摘された。

  第一は、既に見てきたように、この法律がいわゆる免責条項のみを規制の対象としている点である。免責条項の概念がかなり広く捉えられたとしても、例えばある種の義務や負担を消費者に課するような条項は、基本的にこの法律によってカバーされない。第二に、同法が予定しているのが、個別的な訴訟における事後的コントロールだけだという点である。すなわち、同法は、事前救済のメカニズム(団体訴訟による差止など)を用意しておらず、したがって同法の下では、個々の訴訟においてたとえある条項が無効だと判断されたとしても、その同じ条項が他の取引で用いられることを食い止める手段は存在しないのである。

 

  (3)  一九九四年の「消費者契約における不公正条項規則」

  イギリスは、EC不公正条項指令の国内法化のために、既存の法律の改正という方法を採るのではなく、既存の法律とは別個に、指令自体を国内法化する法規を設けるという方法をとった。これが、一九九四年の「消費者契約における不公正条項規則(Unfair Terms in Consumer Contracts Regulations 1994 (S.I. 1994 No. 3159))」である(16)。この規則は、全体として見ると、指令の規定に忠実に従ったものであるが、適用範囲その他の点において、指令との間に若干の相違も見られる。以下では、この規則を、一九七七年の不公正契約条項法(UCTA)及び九三年のEC不公正条項指令と比較しながら概観しよう(17)

    a  適用範囲

  一九九四年の規則は、EC指令と同様、もっぱら消費者取引のみを対象としており(18)、この点で一九七七年の不公正契約条項法(UCTA)と異なっている。規則二条は、各用語の定義を規定しているが、それによれば、「消費者」とは、この規則の対象とされる契約を締結するに際し「自己の事業(business)外の目的で行為する自然人」を指すものとされる。ここに「事業(business)」とは、営業ないし商取引や専門的職業も含むものとされているので(二条)、結局、消費者の定義は指令のそれとほぼ一致するといえよう(19)。UCTAは、一般的にはその適用対象を消費者に限定していないものの、一定の免責条項は事業者が消費者に対して用いる場合にのみ不公正とみなされるものとし、その限りで消費者概念を用いていたことは先に見た通りである。この消費者概念を九四年の規則のそれと比較すると、UCTAにおいては法人も消費者たりえたのに対し(20)、九四年の規則では自然人に限定されている点、UCTAでは買主が「事業の一環として(in the course of business)」行ったものではない限り消費者たりうるとされているのに対し(同法一二条)、九四年規則では「事業外の目的(for purpose which are outside his business)」で行ったことが要求されている点において、九四年規則の消費者概念の方がUCTAのそれより狭いと考えられている(21)

  九四年規則は、指令の前文一四及び一五に従い、雇用、相続及び家族法上の権利、会社の設立又は組織に関する契約などをその適用対象から除外している(付則一条)。これに対し、保険契約及び土地上の権利に関する契約は、UCTAとは異なり、同規則の適用対象から除外されていない。

  九四年の規則は、指令(三条)に従い、そのコントロールの対象を、「個別に交渉されていない」契約条項に限定した(規則三条三項乃至五項)。また、規則によれば、「契約の主たる内容を定め」又は「対価若しくは報酬の妥当性に関する」条項は、それが平易且つ明瞭な言語によって定められている限り、不公正性の審査を受けない。このような適用除外はUCTAには存在しなかったのであるが、同規則は、EC指令に従ってこれを設けたのである。

  しかし、先に見たように、UCTAはいわゆる免責約款のみを規制対象としていたのに対し、本規則は、より一般的に、あらゆる種類の不公正な条項を規制対象とする点で、UCTAより適用範囲が広い。そしてこの点が、同規則とUCTAとの最大の違いである。

    b  透明性の要請

  規則の六条は、EC指令の五条に従って、書面に記載された条項は平易かつ明瞭な言語によらなければならず、条項の意味について疑いが存する場合には消費者にとって最も有利な解釈が優先することを規定している。つまり、ここに、EC指令とほぼ同じ形での透明性の要請が規定されたのである。

  もっとも、この規定に対しては、いくつかの疑問も提起されている。すなわち、まず、同条によれば、契約条項は完全に透明でなくても(例えば条項に接することが物理的に困難であったり、小さな文字で書かれている場合でも)なお、平易且つ明瞭とされうるのではないかという点である。もっとも、これは「平易且つ明瞭」に関する今後の判例の解釈にかかってくる問題だともいえよう。第二は、条項が平易かつ明瞭でないときの制裁として、消費者に有利な解釈しか用意されていない点である。これでは、既にイギリスコモンローで採用されていた「作成者不利の解釈」準則以上のものとはならず、この準則をめぐって出されていた批判を免れえない。すなわち、ある条項が多義的である場合にそのいくつかの解釈可能性の中から消費者に相対的に有利な解釈が選択されたとしても、なおそれは消費者にとって絶対的には不利益でありうる。しかも、そのような不利益条項が消費者にとって相対的により有利なものとなるにつれ、それが不公正性の審査に合格して有効とされる可能性が多くなるとすれば、この準則はむしろ消費者の不利益にも働きうるのではないか、という批判も存在するのである(22)

    c  不公正条項のコントロール

  規則の四条によれば、「不公正条項」とは、「信義誠実(good faith)の要請に反し、消費者の不利益において契約から生ずる当事者の権利義務に著しい不均衡をもたらす条項」をいう(一項)。九四年規則の制定過程においては、UCTAが審査基準として用いてきた「公正性(fairness)」及び「合理性(reasonableness)」という概念と、EC指令の「信義誠実(good faith)」に依拠した「公正性」の概念との関係につき議論があったが(23)、結局、九四年の規則においてあらためて、指令(四条一項)とほぼ同じ「公正性」の概念が採用され、特に、ある契約条項が不公正故に無効とされるためには、それが権利義務の著しい不均衡をもたらすだけではなく、信義誠実の要請に反することが必要であることが明らかにされたのである。

  条項の不公正性の評価は、当該契約の目的である物又はサービスの性質を考慮し、契約締結の時点において契約に伴うあらゆる事情及び当該契約の他の条項又はその契約が依拠している別の契約の条項を参考にして行われるのであり(四条二項)、特に、当事者の交渉力、消費者が当該条項に同意する誘因を有していたか(例えば、代金減額その他の形での利益が与えられていたか否か)、物又はサービスが消費者の特別注文に応じて提供されたものか否か等の事情が考慮される(九四年規則の付則二条)。この点も、ほぼEC指令(四条一項、前文一六)に従ったものである。

  さらに、同規則の付則三条は、不公正とみなされうる条項の例示的非網羅的リストを列挙しているが(四条四項参照)、それは、UCTAにおけると異なり、免責条項に留まらず、売主又は供給者に一方的に利益を与える条項や、消費者に負担を課する条項などをも含むものである(24)。もっとも、このリストは、いわゆるブラックリストでもグレイリストでもない。同規則の制定過程において、少なくとも該当する契約条項については消費者に有利な形での立証責任の転換が導かれる(グレイリストとする)べきではないかという意見が出されたのに対し、イギリスの通商産業省は、例示的リストであっても契約書を作成しようとする者及び契約条項の効力に異議を唱えようとする者に対する有益な指針たりうるとして、このリストの位置付けを強化することを拒絶したのである。

    d  不公正判定の効果

  規則の五条は、EC不公正条項指令六条一項に従い、消費者契約における不公正な条項は、消費者を拘束しないこと(一項)、当該不公正な条項を欠いても契約が存続しうる場合には契約は当事者を拘束し続けること(二項)を規定する。

    e  不公正条項の事前コントロール

  先に見たように、一九七七年のUCTAは、不公正な条項を事前に排除する手続を含んでいなかった。しかし、一九九三年EC不公正条項指令の七条は、加盟国に対して、不公正条項の継続使用を阻止するための適切かつ効果的な手段を保障すべきこと(一項)、国内法上消費者保護について正当な利益を有する人又は団体に、一般的使用のために起草された契約条項が不公正か否かの判定を裁判所又は関係行政機関に求めることを許すべきこと(二項)、を要求している。そこで、イギリスも、一九九四年の規則において、公正取引局長(Director General of Fair Trading:DGFT)に、不公正条項の使用差止を求める権限を与えるに至った(規則八条(25))。すなわち、同条によれば、公正取引局長が、一般的使用のために作成されたある契約条項が不公正であるという申立を受けて検討した結果、その条項を不公正と判断した場合において、相当と認めるときには、かかる条項を消費者契約において使用し又は推奨する者を相手に、差止又は仮差止を求めて訴を起こすことができ(may)(八条二項)、裁判所は、公正取引局長の訴に基づき適切と判断した場合には差止を命ずることができる(同五項)とされる。しかも、公正取引局長は、個々の申立につき差止請求をするか否かの判断に至った根拠を示すべきものとされ(同四項)、これによって判断の透明性の確保が図られているし、さらに、この規則の実施状況につき相当な形式及び方法において情報を公表することができるとされている(同七項(26))。

  しかし、九四年のイギリスの規則は、一般の消費者団体にはこのような裁判所へのアクセス権を認めていない(27)。そこで、このことは「消費者保護に正当な利益を有する団体は裁判所又は所轄の行政機関に訴える権限が与えられなければならない」とするEC指令の七条に反しており、したがってこの点で指令の国内法化はイギリスにおいて実現されたとはいえないのではないか、という批判が加えられてきたし(28)、最近では、消費者団体が、欧州司法裁判所に対し、この点に関するイギリスの国内法化の不履行を主張して訴を提起する動きもあった。このような中、一九九七年に、イギリス政府が、消費者団体に不公正条項につき訴える資格を認めるという新しい政策を打ち出したことが報じられた(29)。この点に関するイギリスの今後の動きが注目されよう。

 

8  フ ラ ン ス

  不公正条項に対する消費者の保護は、フランスでは、元来一九七八年一月一〇日法(Nr.78-23)第四章の取り扱う問題であった。その後、一九九三年に、多くの消費者保護立法を統合した消費法典(Code de la consommation)が編纂され、七八年法の関連規定も、同法典の中に移された(L一三二ー一条乃至L一三五ー一条)のであるが、EC不公正条項指令が出された後には、フランスも、さらに国内法をEC指令にハーモナイズさせる必要性に迫られ、一九九五年に、消費法典の改正が行なわれるに至った。以下、時代を追ってその規律の変遷を概観しよう。

 

  (1)  一九七八年法第四章と一九九三年の消費法典

  一九七八年に、フランスでは、「商品及びサービスについての消費者保護及び消費者情報に関する法律」(Nr.78-23: 以下では「七八年法」とする)が制定され(30)、その第四章(三五条乃至三八条)には、不公正な契約条項から消費者を保護するための規定が置かれていた。その後、これらの規定は一九九三年制定の消費法典に組み込まれたが(L一三二ー一条乃至L一三五ー一条)、その際、内容的な変更はほとんど加えられなかった(以下、九五年の大幅な改正前の消費法典を「旧法典」とする)。

  七八年法及び旧法典は、その規制の対象を、事業者と消費者又は非事業者との間の契約(いわゆる消費者契約)に限定していた。しかし、一方、当該契約が標準化されたいわゆる約款による契約か否かは問わなかった。個別の交渉に基づいて定められた契約条項も、同法の規制対象とされたのである。

  同法によれば、@代金の確定若しくは確定可能性又は代金の支払い、目的物の内容又は引渡、危険負担、責任及び担保の範囲、合意の履行、解約、解除又は更新のいずれかに関する契約条項が、A事業者の経済力の濫用によって消費者又は非事業者に押し付けられたものであり、且つ、B事業者に過大な利益をもたらす場合には、その条項は「不公正(abusive(31))」な条項として法的コントロールに服するものとされた(旧法典L一三二ー一条一項)。しかし、このうち@の要件について見ると、これは、規制の対象とされる条項の種類を限定的に列挙したものであって例示ではないと解されていたのであり、さらに、Bにおける「過大な利益」に加えて、Aで「経済力の濫用」が要件とされていた点においても、コントロールの要件は厳格であったといえよう。

  しかも、消費者契約におけるある条項が上記三つの要件を充たした場合でも、そのことは直ちに、その条項の効力否定を意味するものではなかった。すなわち、同法により不公正とされた条項については、まずは、消費者問題担当大臣の下に設けられた不公正条項委員会(commission des clauses abusives(32))から事業者に対してその削除又は修正が勧告されうるにすぎない(旧法典L一三二ー四条)。私法上の効力は、不公正条項委員会の答申に応じ、コンセイユ・デタの議を経て、これらの条項を禁止(無効化)ないし制限するデクレ(政令)が出された場合にはじめて否定されるということが予定されていたのである(旧L一三二ー一条一項、二項)。

 

  (2)  判例の展開

  一九七八年法は、確かに、不公正条項をめぐるフランス法の歩みの中では重要な意味を持つものであった。しかし、同法が主に予定していたのはあくまでも行政的な規制であって、契約条項の効力はデクレを通して初めて否定されうるとされていた点に大きな限界があったし、しかも、条項を無効とするデクレは、その後ほとんど制定されなかった。

  しかし、その後、一九八七年七月一六日の破棄院判決(D. 1988, 49, note J. CALAIS-AULOY;JCP 1988, II, 21001, note G. PAISANT)は、裁判官がある条項を書かれざるものとみなすためにはデクレの存在は不可欠ではないという考えを打ち出し、さらに、一九九一年五月一四日の破棄院判決(D. 1991, 449, note J. GHESTIN)は、これを明確に確認した。こうして、判例は、七八年法及び旧消費法典の限界を乗り越え、不公正条項に対する司法的コントロールの道を自ら切り開いたのであり、このような裁判所の権限は、九五年の消費法典改正によって確認されることになった。

 

  (3)  一九九五年の法改正

  不公正契約条項に関する消費法典の規定は、一九九五年二月一日の法律第九六号(以下「改正法」とする)によって改正され、同法の第一編(Livre 1er)第三章(Titre III)「契約の一般条件」における規律が拡充された(33)。この法改正によって、フランスは、一九九三年のEC不公正条項指令の国内法化を図ったのである。以下では、改正されたフランス消費法典(以下「新法典」という)の内容を概観しよう。

    a  適用範囲

  EC不公正条項指令が、そのコントロールの対象を、「個別に交渉さなかった契約条項」に限定し、その典型として、「予め事業者によって作成されそのために消費者がその条項の内容に変更を加えることが実質的に不可能であった条項」つまり標準契約約款を予定している(指令三条)のに対し、フランス法は、従来からこのような限定を設けることなく、「事業者と非事業者又は消費者との間で締結された契約」の条項すべてをその対象としてきたし、九五年の改正後も、この点に変わりはない(新法典L一三二ー一条)。また、フランス法は、指令(一条二項)とは異なり、「強行的性質を有する法律又は規則の規定を反映した契約条項」も、適用範囲から排除していない(新法典L一三二ー一条参照)。したがって、これらの点において、フランス法は、指令より射程が広く消費者の保護に厚いということができる。

  保護される契約当事者として、指令は、「消費者」すなわち「自己の事業、営業又は専門的職業外の目的で行為する全ての自然人」を予定しているが(指令二条b)、フランス法は、従来から、「消費者」と並んで「非事業者」を保護の対象としてきたのであり、これによって、同法による保護の人的範囲が広く解されることもありうる(34)

    b  契約条項の解釈

  改正された消費法典のL一三三ー二条は、事業者が消費者又は非事業者に対して提示する契約条項は平易且つ明瞭に表現され記載されなければならない旨定めるとともに、「契約条項の意味について疑いが存するときには、その条項は消費者若しくは非事業者に最も有利に解釈される」ことを定めた。この規定は、EC指令を受けて、消費法典に新しく導入されたものである。もっとも、フランス民法典は既に以前より、「疑わしいときには、合意は、要約者の不利に義務を約束した者の有利に解釈されるものとする」という規定を有していたのであり(仏民一一六二条)、その意味で、同条は特に新しい法理を取り入れたのではない。

    c  不公正条項のコントロール

  消費法典のL一三二ー一条には、「不公正条項(clause abusive)」の定義が新たに設けられた(改正法一条)。これによれば、「消費者又は非事業者の不利益において契約当事者の権利義務に著しい不均衡を生じさせることを目的とし又はそのような効果を有する条項」が不公正条項とされる。先に触れたように、旧法は、「事業者がその経済力を濫用」することを要件としていたのであるが、この要件は改正法により削除された。

  消費法典の公正性コントロールの対象について見ると、九五年の改正は、これをある点では狭め、ある点では広げた。すなわち、まず、新しい消費法典によれば、同法の意味における条項の不公正性の審査は、契約の主たる目的や対価・報酬の定めには及ばないこととされた(同法L一三二ー一条七項)。旧法典においては、代金の定めに関する条項も規制の対象たりえたのであるが、新法典は、EC指令に従ってこの制限を設けたのである(四条二項)。一方、新法典は、旧法典において存在したところの、規制の対象を一定の種類の条項に限定するという形での制限を廃止した。新法の付表には、EC指令の付則に従って不公正な条項のリストが置かれているが、それは例示的・非網羅的なものにすぎない。これにより、今や、契約の主たる目的や対価・報酬を定めた条項を除けば、消費者契約における全ての契約条項が、消費法典のL一三二ー一条の適用を受けうることになったのである。もっとも、付表の例示的リストは、いわゆるブラックリストでもグレイリストでもない。つまり、たとえある契約条項がリストに列挙された条項の一つに該当する場合であっても、消費者はなお、当該条項が不公正であることの立証を免れないとされているのである(L一三二ー一条三項)。このようなリストの位置付けに対しては、フランスでも、イギリスにおけると同様の批判が加えられている(35)

    d  コントロールにおける裁判所、政府、不公正条項委員会の役割

  新しい消費法典は、従来と同様、コンセイユ・デタに、特定の不公正な条項を禁止し無効とするデクレを発する権限を認めている(新法典L一三二ー一条二項参照(36))。また、不公正条項委員会にも、従来とほぼ同様の権限を認めている(新法典L一三二ー二条以下(37))。

  しかし、新法は、なお明確にではないが、ある条項につきそれを無効と宣言するデクレが存在しない場合であっても、裁判所がそれを不公正であるという理由から効力を否定する(書かれざるものとみなす)ことができる旨を定めた(L一三二ー一条六項(38))。もっとも、裁判所のこのような権限は、一九九五年二月一日法によって創設されたのではなく、むしろそれ以前の判例により認められてきたものであることは、先に触れた通りである。

    e  不公正判定の効果

  EC指令は、不公正条項自体の効力否定と、残部の原則的効力維持を規定している(指令六条一項)。そこで、フランスの新しい消費法典もこれに従い、「不公正な条項は書かれざるものとみなされる」ことを確認する(L一三二ー一条六項)と共に、新たに、残る契約は不公正と判断された当該条項を欠いても存続しうる限り他の全ての条項において効力を有する、という旨の規定を追加した(L一三二ー一条八項)。

  なお、Lー四二一ー六条は、消費者保護団体に、不公正な条項を含む契約のモデルを提示し又は推奨する事業者団体を相手として、その不公正条項の削除を求めて民事上の訴を提起する資格を認めている(39)

(1)  Cf. Suisse Atlantique Societe d’Armement Maritine SA v. Rotterdamsche Kolen Centrale NV [1967] 1 A.C. 361 at 406.  約款が通常消費者にとって不透明であること、当事者間の交渉力が不均衡であり、消費者には約款の内容に変更を加える可能性はほとんどないことが指摘されている。

(2)  イギリスにおける契約自由の観念については、山田卓生「イギリスにおける契約自由と約款規制」比較法雑誌一四巻一号(一九八〇年)一頁、八頁以下参照。判例法の限界については、さらに、岩崎一生「英国不当契約条項法概説」愛媛法学一二号(一九七九年)一三頁、一五頁以下を参照。免責約款に関するイギリスの判例については、田中和夫「イギリスにおける免責約款の効力」一橋論叢四七巻二号(一九六二年)一三二頁、佐藤正滋「契約の基本的違反(一)(二・完)」神奈川法学九巻三号(一九七三年)一九五頁、一二巻一号(一九七六年)四三頁、石原全「英国における免責約款の司法的規整TーW」商学討究二三巻一号六三頁、二号六一頁、二四巻一号六七頁、二号九七頁(一九七二−七三年)、山本豊「イギリス法における免責条項二分論について」上智法学論集三四巻二=三号一三九頁(一九九二年)などに詳しい。

(3)  相手方に十分な情報が与えられていたかではなく、事業者側の行為が問題とされる。これにつき、長尾治助「英国不公正契約条項法の法技術概念について」民商法雑誌九〇巻五号(一九八四年)六四七頁注(6)、望月礼二郎『英米法〔改訂第二版〕』(青林書院、一九九〇年)三九〇頁参照。

(4)  See Willett, European Review of Private Law (ERPL) 1997/2, 81.  通常は約款の存在につき通知すれば足りるとされる点で、透明性の要請としては初歩的な段階にとどまるとする。

(5)  この準則については、上田誠一郎「英米法における『表現使用者に不利に』解釈準則(一)−(三・完)」民商一〇〇巻二号二二六頁以下、同四号六〇一頁以下、同五号八三六頁以下(一九八九年)参照。

(6)  イギリスにおける非良心性の法理については、大村敦志「『非良心性』法理と契約正義」『星野英一先生古希記念  日本民法学の形成と課題上』(有斐閣・一九九六年)五〇七頁、及び同注(10)掲載文献を参照。

(7)  See Fry v. Lane [1888] 40 Ch D 312;Cresswell v. Potter [1978] 1 WLR 255.

(8)  Willett, European Review of Private Law (ERPL) 1997/2, 82.  なお、この他に、基本的な契約義務に関する免責条項の効力を否定するために、判例では、「基本的契約義務違反(fundamental breach of contract)の法理」が展開された時期もあったが、後の貴族院判決により、同法理の内容コントロール準則としての意義は否定された。これにつき、佐藤正滋「『契約の基本的違反』に関するイギリスの Photo Production Case(1980)−免責条項は常に適用されるべきか」ジュリスト七九三号(一九八三年)六〇頁参照。基本的違反の法理と一九七七年の不公正契約条項法との関係についてはさらに、小泉淑子「(全訳)英国一九七七年不公正契約条項法(四・完)」JCAジャーナル八一巻四号二四頁を参照。

(9)  一九七七年の不公正契約条項法に関する紹介、研究は既に多く存在するが、条文の9845訳としては、小泉淑子「(全訳)英国不公正契約条項法(一)−(四・完)」JCAジャーナル二八巻一号−四号(一九八一年)、岩崎一生「英国不当契約条項法概説」愛媛法学一二号(一九七九年)一三頁以下、これに関する研究としては、石原全「英国の一九七七年不公正契約条項法について」国際商事法務七巻四号(一九七九年)一五六頁以下、飯塚和之「イギリスにおける消費者問題の最近の動向」ジュリスト増刊総合特集一三号・消費者問題(一九七九年)二九七頁以下、山田卓生「イギリスにおける契約自由と約款規制」比較法雑誌一四巻一号(一九八〇年)一頁以下、長尾前掲民商法九〇巻五号六三九頁以下、田島裕「過失責任の契約による免責−イギリス不公正契約条項法(一九七七)の制定」田中英夫編『英米法の諸相』(一九八〇年)五七一頁以下、廣瀬久和「附合契約と普通契約約款」『岩波講座・本法学  四  契約』(一九八三年)三三五頁以下、落合誠一他『わが国における約款規制に関する調査』(経済企画庁委託調査、商事法務研究会・一九九四年)一一九頁以下等を参照。特に最後の文献では、一九七七年法の内容と並んで、一九九三年末までの状況が紹介されている。

(10)  第一章の規定は、イングランド、ウェルズならびに北アイルランドを適用対象地域とするが、第二章は、専らスコットランドに適用され、第三章は連合王国全土に適用される。

(11)  例えば、駐車場などにおいて一方的に掲示してあるような免責条項がこれに該当するとされる。Ashdown v. Samuel Williams & Soms [1957] 1 Q.B. 409;White v. Blackmore [1972] 2 Q.B. 651.

(12)  一九七七年法の付則二条は、六条三項、七条三項四項に関する合理性の判断指標として、「顧客が当該条項の存在および範囲を知り又は知り得べきであったか否か」を挙げているが、この指標は同条以外の合理性審査においても適用されてよいとされる(長尾前掲民商法九〇巻五号六四六頁)。

(13)  同法一三条によれば、責任又はその強制手段を制限し又は義務負担を課する条件にかからしめるような契約条項、責任に関する権利又は救済方法を排除又は制限する契約条項、かかる権利又は救済法の行使の結果として何等かの不利益を行使者に与える契約条項、証拠則又は訴訟手続を免除又は制限する契約条項等も、「責任を免除又は制限する」条項としての取扱いを受けるものとされるている。

(14)  この点については、長尾前掲(民商法九〇巻五号)六四二頁及び田島前掲論文参照。

(15)  Smith v. Bush [1990] 1 A.C.831.  付則二条で掲げられた事情が、六条及び七条以外の契約条項の合理性審査においても考慮されるべきという解釈が主張されている点につき、前掲注(12)参照。

(16)  一九九三年にEC不公正条項指令が出された後、イギリスの通商産業省(Department of Trade and Industry (DTI))は、一九七二年の欧州共同体法二条二項に基づき、規則の導入によって指令の規定の国内法化をはかることを提案した。同省は、まず一九九三年一〇月に協議文書を公表して各界の意見を聴取し、一九九四年九月に二度目の協議文書を公表した後、同年一二月に国会に草案を提出したのであり、それが「消費者契約における不公正条項規則(Unfair Terms in Consumer Contracts Regulations 1994 (S.I. 1994 No. 3159))」として可決され成立するに至った。一九九四年規則の概要については、R. Lawson, Exclusion Clauses and Unfair Contract Terms 4th ed (1995), 158ff.;N Lockett/ M. Egan, Unfair Terms in Consumer Agreements:The New Rules Explained (1995), 51ff. などを参照。一九九四年四月に公表された不公正契約条項規制に関する最終協議文書については、経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編『海外における消費者行政の動向−規制緩和と消費者行政』(一九九七年)一六頁以下を参照。

(17)  See Willett, ERPL 1997/2, 85ff.

(18)  売主又は供給者と消費者との間で締結される契約の条項をコントロールの対象としている(三条一項)。

(19)  EC指令二条bによれば、「消費者とは、本指令の対象とされる契約において、自己の事業、営業、又は専門的職業外の目的で行為する全ての自然人をいう」とされる。なお、九四年の規則ではさらに、「売主」とは、この規則の対象とされる契約を締結するに際し「自己の事業に関係する目的で行為し商品を売却する者」を指し、「供給者」とは、この規則の対象とされる契約を締結するに際し「自己の事業に関係する目的で行為し商品又はサービスを提供する者」を指すと規定されている(二条)。

(20)  七七年不公正契約条項法一二条一項は、単に、「契約当事者の一方」とし、自然人には限定していない。

(21)  会社がその特定の事業にとって通常ではない取引をする場合には、「事業の一環として(in the course of business)」行ったのではなく、したがってこの場合の会社もUCTAの「消費者」の概念に該当すると解されている(R & B Customs Brokers Ltd v. UDT Ltd [1988]1 WLR 321.)。さらに例えば、事務弁護士が仕事で使用するために車を購入する場合、それは事業の「目的」でありしたがって九四年規則の消費者には該当しないが、「事業の一環として」行ったのではないからUCTAの「消費者」には該当しうるとされる。See Willett, ERPL 1997/2, 86.

(22)  Willett, ERPL 1997/2, 87 は、かかる意味で、最も「有利な解釈」とは、むしろその条項をより不利な内容にし、そのことによってその条項が不公正性の審査に失格する機会を増大させる解釈だともいえるとする。

(23)  一部には、UCTAの「合理性」の基準をEC指令の「公正性」の基準と同化させることによって、UCTAを指令に適合させることができるという主張もあったが、通商産業省は、確かに多くの事例において二つの基準が類似の結果を導きうるとしても、これらは、特に信義誠実への配慮の点で、同一の基準とは認められないと判断した。

(24)  リストの内容は、指令のそれに従っており、免責条項として、人身に対する損害を排除する条項(付則三条一項a)や契約違反に対する責任を排除する条項(付則三条一項b)を掲げるほか、供給者側に一方的に利益を与え又は消費者に一方的に負担を課する条項として、供給者側がサービス供給を停止している間も消費者は契約に拘束されるとする条項(付則三条一項c)、供給者に前払い金の保持を認める条項(付則三条一項d)、約束違反に対する過度な制裁を定めた条項(付則三条一項e)、不平等な契約取消権を定める条項(付則三条一項f)、相手方への通知なく契約関係を終了させる権利を供給者に認める条項(付則三条一項g)、契約の自動更新を定める条項(付則三条一項h)、消費者を隠れた条項に拘束する条項(付則三条一項i)を掲げる。なお、公正取引局(OFT)が毎年発行している不公正条項に関する冊子では、実際の事例に即して、これら各条項の具体的な例が示されており(それも、例えば、付則三条一項bにおける「契約違反に対する責任を排除する条項」などについては、さらにいくつかの具体的類型に分けてその例が示されている)、さらに、同付則のリストのいずれにも明白には該当しないような不公正条項の例も付加されている。しかも、ある不公正条項が公正と評価されうる条項に置き換えられた場合については、その改定された条項も掲げられており、これが公正な条項の一つのモデルとなっている。もちろん、この冊子で示された具体的な例や基準は、制定法としての強制力を持つものではなく、あくまでも単に一つの評価指針にすぎないが、実務にとっては非常に大きな影響力を有しているようであり、このようなシステムはわが国にとっても参考になろう。Unfair Contract Terms:A bulletin issued by the Office of Fair Trading (Issue No. 4 December 1997), 58ff.

(25)  通商産業省は、当初、この点につき特別の措置を講ずる必要はないとの考えであったが、これに対して特に消費者団体等からの強い批判を受け、さらに法律家からの具体的提言も受けて八条の規定を設けるに至ったとされる。

(26)  公正取引局(OFT)は、九四年の規則により新しい権限を与えられて以来、一九九七年までに一〇〇〇件を越す事件を取り扱ってきたし、毎年発行の冊子において、その取り扱った事件や不公正と推定される条項のリスト等の実務的に重要な情報を公表している。See Unfair Contract Terms:A bulletin issued by the Office of Fair Trading (Issue No. 4 December 1997).

(27)  これにつき、イギリスの通商産業省は、現在のところイギリス法では代表訴訟の一般的権利は認められていないので、消費者団体にそのような権利を認めることは適切でもなく必要でもないとの考えであった。

(28)  Willett, ERPL 1997/2, 97.  イギリス消費者協会(UK Consumers Association)や国家消費者評議会(National Consumer Council)のような団体に、このような権限が認められるべきだとする。

(29)  一九九七年六月に、新しい消費相のグリフィス(Nigel Griffiths)氏が、政府は政策を変更し消費者団体に不公正条項を訴える資格を認めるという見解を発表し、一九九八年一月には、通商産業省からこれに関する consultation paper が公表されたと報じられている。Cf. Current Surey, 5 Consumer L.J., CS 24, Issue 4, (1997);6 Consumer L.J., 81 (1998).

(30)  フランスの一九七八年法の内容とその制定経緯については、北村一郎「諸外国における消費者保護−フランス」加藤一郎・竹内昭夫編『消費者法講座  第一巻』(日本評論社・一九八四年)二四〇頁以下、大村敦志『公序良俗と契約正義』(有斐閣・一九九五年)一九九頁以下、廣瀬久和「附合契約と普通契約約款−ヨーロッパ諸国に於ける規制立法の動向」『基本法学  四ー契約』(岩波書店・一九八三年)三二八−三三二頁、奥島孝康「フランス消費者保護立法の新展開(上)(下)」国際商事法務六巻五号一九九頁、六号二四六頁(一九七八年)を参照。その後の動きについては、平野裕之「フランス消費者法典草案(一)」法律論叢六四巻五=六号二二一頁(一九九二年)、ミッシェル・モロー/吉田克己訳「消費者保護とフランス契約法−一九九二年一月一八日法の法律の寄与」ジュリスト一〇三四号(一九九三年)九二頁、経済企画庁委託調査『わが国における約款規制に関する調査』(商事法務研究会・一九九四年)一七六頁以下を参照。フランスの附合契約論については、さらに、山口康夫「附合契約(contrat d’adhesion)概念の展開」経済と法(専修大学大学院紀要)八号(一九七七年)一頁、北村一郎「契約の解釈に対するフランス破棄院のコントロオル(一〇完)」法協九五巻五号(一九七八年)一頁、大島俊之「ベルリオーズ『附合契約』(紹介)」民商法七九巻五号(一九七九年)一二七頁、安井宏『法律行為・約款論の現代的展開−フランス法と日本法の比較研究−』(法律文化社・一九九五年)などを参照。

(31)  abusive という仏語の訳としては「濫用的」の方が適切かもしれないが、EC不公正条項指令のフランス語版において、英語の「unfair」に相当する用語として「abusive」が用いられているので、ここではあえて abusive を「不公正」と訳することにする。

(32)  不公正条項委員会は、事業者代表と消費者代表の他、裁判官、行政官、法律家などの委員によって構成された(当初は各三名で計一五名の構成とされていたが、一九九三年のデクレ三一四号により改編され、事業者と消費者の代表を各四名とする計一三名の構成とされた)。委員会は、消費大臣が不公正条項を禁止又は制限するデクレの草案(projet)を委員会に呈示した場合に、それに関する意見を提出しなければならない。委員会は、事業者が非事業者又は消費者に対して慣行的に用いる契約書のモデルを審査する権限と任務を有し、不公正な条項を見出した場合には当該条項の削除又は改定を求めて事業者に勧告を発する。委員会は、さらに、毎年その活動報告書を作成し、場合によっては法律又は規則の改正を提案しなければならないとされた(旧法典L一三二ー二条−一三二ー五条)。

(33)  第一編第三章(Livre l re, Titre III)は「契約の一般条件」と題されるが、同章の中でも特に、第二節(Chapitre 2)「不公正条項(clauses abusives)」(L一三二ー一条乃至L一三二ー五条)、第三節「解釈及び契約の形式」(L一三三ー一条及びL一三三ー二条)が、本論との関係で重要である。九五年法の条文については、書物の他インターネット上にも掲載されている(http:www.abenou.org/consommation/)。同法の内容とその制定に至る経緯については、さらに経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編『海外における消費者行政の動向−規制緩和と消費者行政−』(一九九七年)四〇頁以下も参照。A. Benabent, Clauses Abusives:le droit francais et ses re´actions a` la directive europe´enne, ERPL 1995/3, 211ff.

(34)  フランスの判例においては、狭義の消費者でなくとも、自己の専門的職業外で契約する事業者や、当該取引につき知識を欠く者にも保護を与える方向で、人的適用範囲を広く解したものがある(Cass. civ l re, 28 avril 1987, JCP 1987, II, 20893, observ PAISANT)。もっとも、最近は、自己の職業的活動に関する契約については同法の適用は認められないとして、それに逆行する判決も出ており(Cass. civ l re 21 fe´vr 1995, JCP, 22502, note PAISANT;Cass. civ l re 3 et 30 janvier 1996, D 96, 228 note PAISANT)、それによると、指令の消費者概念より広いとは一概に言えないかもしれない。

(35)  H. Davo, ERPL 1997/2, 27.

(36)  旧法の下では、デクレによる不公正条項のコントロールは必ずしも十分に機能しなかった。一九七八年三月二四日には、売主の義務違反に対する消費者の損害賠償請求権を排除又は制限する条項、及び給付すべき物又はサービスの内容を一方的に変更する権利を売主又は提供者に与える条項を書かれざるものとみなすデクレが出されたが、それが、旧法の下で不公正条項の効力を明確に否定する唯一のデクレに留まったようである。

(37)  不公正条項委員会の役割については、前掲注(32)を参照。

(38)  旧法典のL一三二ー一条二項は、デクレによる条項の禁止・制限を定める一項を受ける形で、「前項の規定に反して定められる不公正条項」は書かれざるものとみなされると規定していたのに対し、新法典のL一三二ー一条六項は、単に「不公正条項は書かれざるものとみなされる」と規定しており、これによってデクレの存否に関わらず不公正条項が無効であることが示されたものと解されている。

(39)  消費法典第四編第二章(L四二一ー一条以下)には、消費者団体訴権についての一連の規定が置かれている。同規定の制定経緯については、前掲『我が国における約款規制に関する調査』一八三頁以下を参照。