〈コメント>
1 通知義務
後見裁判所は世話事件における裁判を他の国家機関に通知しなければならない。この通知は、従来は「民事事件における通知に関する命令」Anordnung u¨ber Mitteilungen in Zivilsachen vom 1. 10. 1967 (MiZi)(最終改正一九九三年一月三一日)にその根拠が置かれていた。通知の対象となる裁判は、第六九条、第六九条iによるものであって、世話人の選任、同意留保の命令、意思表示の範囲の拡大と制限、任務領域の拡張と制限、選任の延長、同意留保の拒絶と取消し、仮の処分である。通知は、次の目的を達成するためにのみ認められる。第一は、事件本人の福祉に対する重大な危険を避けるためである。その例は、事件本人に対して刑事訴訟手続が係属し、そこで世話事件において認識可能な事件本人の責任無能力が発見されなかったときである。ここでは不当な刑事訴追の危険が存在する。その他の裁判手続でも、事件本人にはその行為無能力が考慮されないことによる危険がありうる。
第二は、第三者の重大な危険を避けるためである。事件本人が暴力的であり、彼が敵とみなしている特定の者を殺害しようと意図しているとき、あるいは事件本人がその職務活動(たとえば医師、薬剤師、看護士、弁護士、公証人など)の中で、第三者に著しい損害を与えようとしていることが認められるとき、さらに行為能力がなくしたがって婚姻能力がない事件本人が婚姻しようとしていることが認められるとき(婚姻法第一八条第一項によれば、婚姻は無効であり相手方が害される)である。
第三は、公益に対する重大な危険を避けるためである。事件本人が運転免許、銃砲所持あるいは狩猟許可を有し、彼が運転や銃砲によって他人を害するという具体的で確実な危険が存在する場合である。
通知は、相当であると認められる場合に限られる。人物に関する通知によって、情報に対する自己決定権を制限することは許されない。通知を受ける機関の任務遂行に対する公益が、事件本人の保護利益を上回る場合でなければならない。
本条第一項第一文によれば、通知されるのは裁判とされている。判決の主文のみが通知されるか、理由を含めて通知されるかは裁判所の判断による。
2 通知の受領者
通知を受けるのは第一項によれば、他の裁判所、行政機関及び他の公務署である。私人、私的機関は受領者にはなり得ない。銀行や貯蓄銀行も、一部は公法的な性格を有するものがあるが、受領者にはなり得ないと解されている。
3 通知の手続
従来は、通知は先に指摘したように民事事件における通知に関する命令(MiZi)によって行われてきた。しかし、人格権保護に関する連邦憲法裁判所の判例(とりわけ国勢調査法と個人情報が問題とされた一九八三年一二月一五日判決 BVerfGE 65, 1)を契機として、裁判所の裁判の通知についてもその法律上の根拠が必要だとされ、一九九七年六月一八日に「民事及び刑事事件における職権による司法の通知に関する法律 Gesetz u¨ber Mitteilungen der Justiz von Amtswegen in Zivil- und Strafsachen =Justizmitteilungsgesetz =JuMiG, BGBl 1997 Teil I, S. 1436)が成立した。通知の法律上の根拠は、裁判所構成法施行法の改正という形で認められている。
裁判所構成法施行法第一二条が、通知に関する一般的な根拠を定め、第一三条が通知の要件を定めているが、その内容は非訟法第六九条k第一項ないし第四項と実質的には異ならない。事件本人、手続監護人及び世話人は、裁判が行政機関等に通知されること、及び通知内容について伝達される。この伝達は、通知と同時になされる。第三項第一号から第三号に掲げる事由のあるときは、伝達を省略することができる。
削除された第五項は通知を受けた機関の情報の利用制限を、第六項は情報の抹消を定めていたが、司法通知法によって裁判所構成法施行法第一九条、第二〇条に包括的な定めが置かれたため、不要とされた。
第六九条l(選挙人名簿及び住民登録官庁への通知)
(1) 第六九条第一項ないし第六九条i第一項による裁判によって、事件本人にその事務のすべての処理のために世話人が選任され、あるいは任務領域がそこまで拡張されたときは、後見裁判所はこれを選挙人名簿の管理に管轄を有する官庁に通知するものとする。裁判が民法第一八九六条第四項及び第一九〇五条に掲げられた事務を含まないときも同様とする。世話が第一文及び第二文により、事件本人の死亡以外の理由で終了しまたはそれが制限されたときも通知がなされなければならない。
(2) 事件本人の居所指定に及ぶ同意留保が命じられたときは、後見裁判所はこれを世話人の申立てにより住民登録官庁に通知するものとする。第一文により同意留保が取り消されあるいは世話人の交代があったときも、通知がなされなければならない。
(3) 削除
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〈コメント〉
本条は、後見裁判所が特別な二つのケースにおいてする通知について定めている。すなわち選挙人名簿及び住民登録を管轄する官庁への通知である。通知をなすべき裁判は、司法通知法によって第六九条第一項ないし第六九条i第一項に限られることになった(第一項第一文の冒頭部分が追加された)。また第三項は第六九条k第五項、第六項を準用していたが、その削除に伴い同様に削除された。
第六九条m(収容施設の管理者に対する通知)
(1) 収容措置の期間中の、事件本人の居所指定に及ぶ世話人の選任、この世話の取消し及び世話人の交代は、事件本人の居住する施設の管理者に通知されなければならない。
(2) 削除
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〈コメント〉
本条は、収容されている事件本人の居住する施設の管理者に対する、居所の指定にとって意味のある裁判所の措置の通知に関する規定である。第二項の削除は、第六九条l第三項の削除と同じである。
第六九条n(犯罪の訴追等のための通知)
この法律、裁判所構成法施行法第一六条および少年裁判所法第七〇条第二文、第三文に掲げられている事件のほか、後見裁判所は、事件本人の人物が認識可能な手続による裁判ないし認識を、職権により、犯罪の訴追ないし秩序罰のためにのみ、伝達官庁が伝達を排除する事件本人の保護すべき利益が優越していることを認識できないときに限り、他の裁判所または官庁に通知することができる。第六九条k第三項、第四項を準用する。
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〈コメント〉
本条は司法通知法によって追加されたものである。同法の理由書(BT-Drucksache 13/4709 vom 22. 05. 1996, Begru¨ndung B zu Artikel 11 zu Nummer 3 (§ 69n und o) によれば、本条の意義は次のように説明されている。
この規定によって、第六九条k第一項、第二項および第六九条l第一項及び第二項に定められた通知の範囲が、犯罪の訴追及び秩序罰のためにも拡張される。従来定められている規定とは反対に、この通知は裁判所の裁量に委ねられる。その利益考量によって事件本人の利益が保護される。非訟法自体によって規定され、あるいは掲げられた通知のほかには、事件本人の人物が認識できるような通知は適法とはされない。なお、本条にいう事件本人とは被世話人を指す。
第六九条o(裁判所構成法施行法の適用)
第六九条kないし第六九条mによる通知については、裁判所構成法施行法第一九条及び第二〇条を適用する。第六九条kないし第六九条nによる通知が事件本人以外の他の人物に関するときは、裁判所構成法施行法第二一条を適用する。
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〈コメント〉
本条は、司法通知法によって追加されたものである。通知を受けた情報の利用規制に関して、従前の第六九条k第五項、第六項、第六九条l第三項及び第六九条m第二項に代えて、裁判所構成法施行法を適用する旨を定めたものである。
三 収容事件(第二章第四節)
第七〇条(収容事件の定義及び管轄裁判所)
(1) 以下の規定は、収容措置に関する手続に適用する。収容措置とは次の各号に掲げるものをいう。
1 自由の剥奪を伴う収容の許可
(a) 子の(民法第一六三一条b、一七〇五条、一八〇〇条、一九一五条)
(b) 被世話人の(民法第一九〇六条第一項ないし第三項)
2 民法第一九〇六条第四項による措置の許可
3 精神病者の収容に関するラント法による自由を剥奪する収容の命令
収容措置については、後見裁判所が管轄権を有する。
(2) 第一項第二文第一号および第二号による収容措置については、その任務に収容を含む後見、世話あるいは監護が係属している裁判所が管轄権を有する。後見等の手続が係属していないときは、第六五条第一項ないし第三項、第六五条a第一項第一文、第二項第一文を準用する。第一号および第二号の場合の仮の処分については、第六五条第五項を準用する。
(3) 第二項第一文の場合においては、後見裁判所は収容措置に関する手続を、重大な理由のあるときは、本人の審問の後、法定代理人の同意を得て、本人が収容されていた地の裁判所に移送することができる。ただし、その裁判所が手続を引き受け
この場合には第四六条第二項を準用する。共通の上級裁判所が求められるときは、手続の移送を受けるべき裁判所は、記録を受領したときから共通の上級裁判所の裁判に至るまで仮の措置について管轄権を有する。再移送は許される。移送によって管轄を有する裁判所は、収容措置の延長についても管轄権を有する。
(4) 第一項第一号および第二号による収容措置については、第三五条bおよび第四七条を準用する。
(5) 第一項第二文第三号による収容措置については、収容の必要が生じた地の裁判所が管轄権を有する。裁判所は不服申立てを許さない決定によって、手続本人が収容されていた地の裁判所に移送することができる。
(6) ラント政府は、適切な手続の促進と迅速な解決のため、第一項第二文第三号による収容措置に関する手続を規則によって数個の区裁判所の管轄区の中の一つの区裁判所に指定することができる。ラント政府は、この権限をラント司法行政に委ねることができる。
(7) 収容措置について、後見あるいは収容を含む世話ないし監護が係属している裁判所以外の裁判所が管轄するときは、この裁判所は収容措置について管轄する裁判所に、後見、世話あるいは監護の取消し、収容の任務領域の消滅および後見人、世話人あるいは監護人の変更を通知する。収容措置について管轄する裁判所は、他の裁判所に収容措置、その変更、延長および取消しを通知する。
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〈コメント〉
1 収容事件
収容とは、狭義では閉鎖された病院ないし施設に、自由の剥奪ないし制限を伴って事件本人の身柄をおくことを指し、これには民法上のものとして両親・親権者らによる未成年者の収容(第七〇条第一項第一号a)、と世話人による被世話人の収容がある。後者は世話法によって新設されたものである。公法上の収容は、世話法による改正前は、各ラントの精神病者の収容を定める法律に基づいてなされていた。しかしその手続は、おおむね非訟法に準拠していたため、世話法によってその手続を統一して、民法上の収容と同様に取り扱うこととされた(第七〇条第一項第三号)。
収容類似の措置とは、事件本人を収容することなく、病院や老人ホーム等の施設に居住する成年の被世話人に対して、ベッド囲いを設けること、ベルトで椅子に固定すること、部屋に複雑な操作をしなければ開かない鍵を設置すること、さらには薬物を投与すること等によって長期間または規則的に自由を奪う措置をいう。
一九九五年における収容事件の申立ては一一万件を超えるとされており(BT-Drucksache 13/7133 vom 05. 03. 1997 http://dip.bundestag.de/)、非訟事件の重要な分野を形成するに至っている。
これに対して、いわゆる外国人法による不法滞在者の国外退去前の収容(§ 57 AuslG)、伝染病予防法、性病予防法等の連邦法に基づく隔離や収容の措置は、非訟法には含められていない。これらは「自由剥奪に関する裁判手続に関する法律(Gesetz u¨ber das gerichtliche Verfahren bei Freiheitsentziehungen vom 29. 6. 1956 = FEVG)によって扱われる。なお、ドイツ法における収容手続の概観については、佐上・前掲注(2)参照。
2 土地管轄
民法上の収容については、収容を含む世話事件がすでに係属しているときは、その裁判所が収容の許可についても管轄権を有する(第二項第一文)。世話事件が係属していないときは、世話事件の管轄の定めに準じる。ただし、本条第二項によれば、移送に関する重大な理由についての第六五条a第一項第二文は準用されていない。公法上の収容については、監護の必要の生じた地の裁判所が管轄権を有する(第五項)。これは住所地・居所地とは一致しない。この裁判所は、事件本人が収容された地の裁判所に移送することができる。この場合、民法上の収容とは異なり、重大な事由の存在、法定代理人の同意、事件本人と行政庁の審問、移送を受ける裁判所の受け入れ表明は定められていない。この決定には不服申立てが許されていない(第五項第二文)。
第七〇条a(手続能力)
事件本人は、一四歳以上であるときは行為能力にかかわらず、手続能力を有する。
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〈コメント〉
本条は、収容事件において事件本人が行為能力の有無にかかわらず、手続能力(訴訟能力)を有することを明らかにしている。旧法のもとでも、収容事件については事件本人の自由に対する重大な侵害の可能性があることから手続能力は承認されていたが、これを明文化したものである。ただし、一四未満の子に手続能力を認めるのは適当でないとされた。
この定めは、収容措置が問題となるすべての事件に適用される。事件本人は自ら審問を受けて意見を述べ、手続代理人を選任し、裁判官を忌避しあるいは抗告を提起するなどすべての訴訟行為をすることができる。手続について手続監護人が選任されてもこの能力は制限されない。なお、詳細については第六六条のコメントを参照のこと。
第七〇条b (手続監護人)
(1) 事件本人の利益を擁護するために必要である限り、裁判所は事件本人に手続監護人を選任する。第六七条第一項第二文第一号、第三文を準用する。
(2) 裁判所が手続監護人を選任しないときは、収容を命じる裁判にその理由を示さなければならない。
(3) 選任は、それがあらかじめ取り消されていない限り、次の理由によって終了する。
1 手続を終結させる裁判の確定
2 その他の理由による手続の終結
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〈コメント〉
1 選任の必要性
本条は世話事件における第六七条と趣旨を同じくする。手続監護人の意義およびその法的性格等については、第六七条のコメントを参照されたい。
収容事件においては、事件本人はその自由の侵害の危険に直面しているのであって、手続監護人の必要性は世話事件以上に強いといえる。 第一項は原則を定めるが、 第六七条が準用されている。手続監護人が必要であるかどうかは、事件本人の利益を擁護するために第三者の援助を必要とするか否かの判断、したがって事件本人の障害の程度、自由の侵害の重大性が重要になる。
事件本人が自ら十分に利益を主張できないときや鑑定人の質問に答えられないなど、直接の法的審問を受けることができないとき、あるいは両親や後見人・世話人が収容を申し立て、事件本人との利益衝突が考えられるような場合には、手続監護人の選任は不可欠とされている。裁判所がその必要性を認めるときは、手続監護人を選任しなければならない。収容類似の措置にあっては、事件本人の受ける不利益の程度による。老人ホームの門の閉鎖の場合には必要がないが、長期間の固定ベルトの装着の場合には必要だと解されている。手続監護人の選任の時期については定めがないが、事件本人の審問がなされる前には選任されていなくてはならない。
手続監護人が選任されたときは、理由付けを必要としないが、選任しないときは収容を命じる裁判の中でその理由を示さなければならない(第二項)。世話事件にはこのような定めはない。
2 手続監護人の地位
手続監護人とされるのは弁護士、世話官庁の職員あるいはソーシャルワーカー等である。手続監護人は、当該の手続においては事件本人の法定代理人としての地位に立ち、事件本と同様に手続に関与する。また手続監護人として独自の審問をうけ、終結協議への参加および不服申立権能を有する。監護人の選任によっても事件本人の手続能力は制限されない。
手続監護は、次の事由により終了する。(1)裁判所の決定。たとえば、事件本人が弁護士を選任した場合である。(2)収容を命じる裁判が確定したとき。第一審で命じられても、これに対して抗告があると手続監護は継続する。(3)その他の理由による終了。行政庁による公法上の収容申立ての取り下げ、事件本人の死亡などである。手続監護人の選任、その人選、選任申立ての却下に対しては、事件本人及び法定代理人は常に(通常)抗告を提起することができる。
第七〇条c(事件本人の直接の審問)
裁判所は収容措置に先立って、事件本人を直接に審問し、彼についての直接の印象を獲得しなければならない。裁判所は、必要である限り直接の印象を事件本人の通常の環境の中で獲得しなければならない。裁判所は事件本人に手続のありうべき経過について教示しなければならない。第一文による手続行為は、受命裁判官によってすることができない。第六八条第一項第五文、第二項ないし第五項を準用する。
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〈コメント〉
1 本条の意義
本条は世話事件における第六八条と同趣旨の定めである。事件本人の直接の審問は、法的審問の要請を満たすだけでなく、裁判官が直接の印象を獲得することを要請するものである。本条は第七〇条第一項第一文による収容措置のすべてに適用される。従って収容類似の措置および収容の延長についても適用される。事件本人の審問は非公開である。
2 直接の審問によって明らかにされること
本条は、裁判所が事件本人に対し、口頭で直接に審問し、本人についての直接の印象を獲得すべきことを義務づけている。口頭での直接の審問と直接の印象の獲得の二つの要請が掲げられているが、両者を区別する実益は乏しい。この直接の印象を、裁判所は必要があると認めるときは通常の環境の中で獲得しなければならない。通常の環境とは、事件本人が現に居住する場所(自宅、老人ホームその他の施設)をいう。裁判所が事件本人の住居を訪問することを求める事件本人の権利は、第六八条第一項第二文と異なって収容事件では認められていない。また住居への立ち入りの拒絶を求める事件本人の異議も認められていない。
通常の環境での審問においては、とくに、事件本人の病状についての印象、病気の種類、手続に至った経過、居住環境、同居家族、あるいは接触のある親族の存在、手続監護人その他の代理人の選任状況等を知ることができる。事件本人の発言だけでなく、身振りやしぐさ、表情等を記録に残すことが必要である。これをもとに鑑定人の鑑定を批判的に検討する基礎を獲得することが期待されている。この審問には、事件本人の信頼する人物を同席させなければならない。この申立ては適切な時期になされる必要がある。この申し出が遅れたために、信頼する人物が同席できなかったときは、手続を違法とはさせないので、事件本人は手続のやり直しを求めることができない。それ以外の者(学生や修習生)については、事件本人の意向に反して同席させることができない(第六八条第四項参照)。
審問の結果については、裁判所は事件本人と口頭で協議しなけばならない(Schluβgespra¨ch 終結協議)。
審問を実施しない場合等については第六八条のコメント参照。
第七〇条d(官庁およびその他の者の意見陳述)
(1) 裁判所は収容措置に先立って、次に掲げる者に意見陳述の機会を与えなければならない。
1 事件本人の配偶者。ただし配偶者が継続的に別居していないとき。
2 事件本人が同居し、あるいは手続開始のときに同居していた両親および子
3 事件本人の世話人
4 事件本人によって指名された信頼できる人物
5 事件本人が滞在している施設の長
6 管轄官庁
(2) 事件本人が未成年者であるときは、親権を有する親及び身上監護を行う法定代理人及び世話親は、直接に審問されなければならない。
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〈コメント〉
本条は世話事件における第六八条aと同趣旨の定めである。本来非訟事件は非公開が原則であるが、ある者が関係者にも知られないで施設に収容されることのないように、意見陳述の機会が与えられる者の範囲が広く認められている。もっともこの陳述機会が認められていることは、彼らの法的審問請求権を保障するためではなく、裁判所の職権探知の実質を高めるためのものと解されている。これらの者は非訟法でいう手続関係人になるわけではない。意見陳述の方法は定められていないので、非訟法第一二条により口頭または書面で陳述の機会を与えれば足りるとされる。事件本人が未成年者であるときの法定代理人等の直接の審問は第二項が定めている。
第六八条aと異なり、本条の審問は強行的だと解されている。なぜなら、ここに掲げられた者の審問を一定の場合には省略できるとする例外が定められていないからである。従って、裁判所は事件が他の者の審問によって十分に解明されたと考える場合でも、ここに掲げた者の審問を省略することができない。
第七〇条e(鑑定人の鑑定)
(1) 第七〇条第一項第二文第一号及び第三号による収容措置に先立って、裁判所は事件本人を直接に検査し、あるいは質問をした鑑定人の鑑定を取り寄せなければならない。鑑定人は、通常、精神科医でなければならない。鑑定人は精神科の領域で経験のある医師でなければならない。第七〇条第一項第二文第二号による収容措置については医師の診断書で足りる。
(2) 第六八条b第三項及び第四項を準用する。
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〈コメント〉
本条は、第六八条bと同様に、収容措置を命じるには鑑定を必要とする旨を定めている。収容類似の措置の場合には医師の診断書で足りる。鑑定を原則とする理由、鑑定人となりうる者、鑑定と医師の診断書の区別、鑑定事項等については、第六八条bのコメントを参照のこと。
収容事件における鑑定については、とくに収容ないし収容類似の措置の必要性、代替的な措置の可能性、病状の予測、リハビリの可能性等について明らかにしなければならない。事件本人は鑑定について意見を述べる機会を保障される。異議が出されると、裁判所は職権で調査しなければならないし、この意見陳述の機会を与えないで裁判することは手続を違法なものとする。
第七〇条f(裁判の内容)
(1) 収容措置を命じる裁判には、次の事項を定めなければならない。
1 事件本人の表示
2 収容措置の具体的表示
3 収容措置があらかじめ延長されないときは終了時点。この時点は最大一年とする。明らかにより長期間の収容の必要性があるときは、裁判言い渡しの後最大二年とする。
4 上訴の教示
(2) 裁判は申立てを却下するときも、理由を述べなければならない。
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〈コメント〉
収容を命じる裁判では、その措置の内容が特定されなければならない。収容の態様に応じて次のようになる。この収容の場合には、意図されている措置が具体的に表示されなければならない。被世話人の収容の場合には、収容施設の態様(精神病院、断酒治療施設あるいはリハビリ施設等)が記載されるだけで足りる。どの具体的施設を選択するかは、世話人の裁量に委ねられる。収容類似の措置については、たとえば固定ベルトの装着、居室の閉鎖の時間等が具体的に表示されなければならない。
本条において注目すべきは、収容の終了時点を明示しなければならないとする第一項第三号であろう。このことは収容措置が必要な期間に限定されることを意味し、医師の診断だけで延長されることが阻止される。収容措置は延長の裁判がない限り、裁判の取消しを必要とすることなく終了する。収容の期間は、裁判所によって定められる。その際専門家の鑑定が具体的な手がかりを与えていなければならないと解されている。措置が終了する時点は、裁判言い渡しの後一年であり、例外的に二年とされる。
第一項第四号によれば、上訴の教示が含まれていなければならない。上訴の教示は法律の素人にも理解できるものである必要があり、これを欠くときは、即時抗告の期間が進行しないと解されている。収容申立てを棄却する裁判に対する上訴の教示は定められていないが、それをすることが望ましいとされている。
第二項によれば、裁判は申立てを認容するときも、却下するときも理由を述べなければならない。
その他第六九条のコメント参照。
七〇条g(裁判の告知と効力)
(1) 裁判は常に事件本人自身に告知されなければならない。医師の診断により事件本人の健康に不利益であるときは、事件本人に理由を告知する必要はない。
(2) 収容措置が命じられる裁判は、第七〇条dに掲げられた者及び官庁ならびに事件本人が収容されている施設の長に対しても告知されなければならない。管轄官庁に対しては、裁判所が意見陳述の機会を与えたときは、常に告知されなければならない。
(3) 収容措置を命じあるいは申立てを却下する裁判は、確定することによって効力を生じる。裁判所は即時に効力を生じることを命じることができる。この場合においては、裁判は裁判及び即時発効の命令が裁判所の書記課に告知されたときに効力を生じる。
(4) 裁判所の命令に基づく勾引は管轄官庁によって実施される。
(5) 裁判所は、その希望に応じて第七〇条第一項第二文第一号による収容を行うについて、世話人、両親、後見人あるいは監護人を援助しなければならない。管轄官庁は裁判所の特別の裁判に基づいてのみ実力を用いることができる。管轄官庁は、必要な場合には警察を利用することができる。
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〈コメント〉
1 事件本人に対する裁判の告知
第一項は、ほぼ第六九条aに対応している。
事件本人に対する裁判の告知は、第一項第一文により必要的だとされている。この告知は手続監護人または代理人がいる場合でも省略できない。事件本人の抗告期間は、告知のあったときから開始する。ただし、医師の診断によって裁判理由を告知することが事件本人の健康に重大な不利益を生じさせるときは、裁判の結論部分だけの告知で足りる。この点については、第六九条aのコメントを参照。
2 他の手続関与者に対する裁判の告知
収容を命じる裁判は、第二項第一文によって、第七〇条dに掲げられた者及び管轄官庁にも告知される。それゆえ、手続監護人、事件本人の配偶者、両親、子、世話人、施設の長、事件本人が信頼できると指名した者、管轄官庁がこれにあたる。これに対して収容申立てを棄却する裁判については定めがないが、これは非訟法第二〇条の一般原則に従って判断される。この場合にも、第七〇条dに掲げられた者及び官庁には抗告権があると解されている。
3 裁判の効力
収容を命じる裁判及び収容申立てを却下する裁判は、確定することによってはじめて効力を生じる。世話事件の裁判は、世話人への告知によって効力を生じる(第六九条a第三項第一文)が、本条にはその旨の定めがない。それゆえ、抗告権を有する者すべての抗告期間が徒過した時点ではじめて効力を生じることになる(第七〇条m、第二二条参照)。この規制は、非訟事件の裁判は告知することによって効力を生じるとする第一六条第一項の例外をなすものであるが、旧法の定めを引き継いだのである(非訟法旧第六四条h、第五五条a参照)。
裁判所は申立てまたは職権によって、裁判が即時の効力を持つことを命じることができる。即時の効力を必要とする理由は、裁判の中で示されなければならない。収容がすでに行われているとき、あるいは仮の処分が命じられる場合には、裁判の即時の効力が必要になる。即時の効力を持つ命令には不服申立てができない。抗告裁判所も即時の効力を命じることができる。
4 勾引
収容事件においては、事件本人が審問のため(第七〇条c第五文)、鑑定準備の検査のため(第七〇条e第二項)、及び観察のための収容のため(第七〇条e第二項)任意に出頭しない場合に勾引することができる。勾引を担当するのは管轄官庁である(青少年局、世話官庁、ラント収用法による管轄官庁)。このことは世話法第一条によって明らかであるが、第七〇条g第四項にこれを明記したことは、勾引は執行官や警察によってはなしえないことを確認するためであるとされている。
5 収容の実施
公法上の収容は、ラント法によって管轄権を持つ官庁によって実施される。これに対して民法上の収容は、両親、後見人あるいは世話人によってなされる。裁判所は収容の許可を与えるだけである。両親や世話人が収容を実施するに際して、事件本人が抵抗したり、人員や特別の車輌を必要とするときは、管轄官庁や裁判所はこれに協力することができる(第五項)。世話人等が、裁判所の許可を利用するかどうかは、その裁量に任される。しかし収容しないことによって、事件本人に不利益が生じていると認める場合には、民法第一六六六条、一八三七条、一九〇八条iによって、後見裁判所は必要な措置を講じることができる。場合によっては、許可を取り消すこともできる。
第七〇条h(仮の収容措置)
(1) 仮の命令によって仮の収容を命じることができる。第六九条f第一項及び第七〇条gを準用する。第七〇条dは遅滞の危険のない限りこれを準用する。
(2) 仮の命令は六週間を超えてはならない。この期間で十分でないときは、鑑定人の意見を聞いた後、新たな仮の命令によって合計三ヶ月に至るまで期間を延長することができる。鑑定の準備のための収容(第七〇条e第二項)は、この全体の期間の中に算入される。
(3) 第一項及び第二項は、民法第一八四六条により収容措置がとられる場合に準用する。
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〈コメント〉
1 概説
第七〇条hは、収容事件における仮の処分について定めている。世話事件に関する第六九条fと同趣旨の定めである。公法上の収容に関しては、ラント法には即時ないし仮の収容を行うことができる管轄官庁あるいは警察による措置権(Eingriffsbefugnis)が定められているが、本条はそれをカバーするものではない。措置権は依然としてラント法で定められている。
その他の内容については、第六九条fのコメント参照。
2 民法第一八四六条による仮の命令
民法第一八四六条は、未成年者の後見につき、「後見人が選任されていないか、あるいは後見人がその義務の履行を妨げられているときは、後見裁判所は事件本人の利益のために必要な措置を講じることができる」と定めている。この規定は民法第一九〇八条iによって、世話事件に準用される。非訟法第七〇条hは世話人がすでに選任され、収容の許可を求める申立てが係属している場合の仮の処分を定めるものであるが、民法第一八四六条が準用される場合は、より幅広い局面を対象としており、また裁判所自身が収容を命じる措置を講じることもできる。
この場合の仮の処分については、次の要件を満たすことが必要だとされている。(1)世話人が選任され、この者が収容の許可を申し立て、そして裁判所がこの措置を許可するような緊急性があること、(2)遅滞の危険があること、(3)事件本人の健康状態について医師の診断書が存在することである。世話人、手続監護人の選任、第七〇条dに掲げられた者と官庁の審問は省略できるが、後に遅滞なく補完されなければならない。第七〇条h第三項による措置は、あくまで暫定的なものであり、事件本人の利益が期待される場合にのみ適法であり、また暫定的な性格を有するにすぎないから、世話人等が選任された時点で、この命令を取り消す必要がある。選任された世話人は収容を申し立てるか否かについて判断しなければならない。適切な期間内に申立てをしないときは、民法第一八四六条による命令は不適法となる。
第七〇条i(収容措置の取消し)
(1) 収容措置は、その要件が消滅したときは取り消される。第七〇条第一項第二文第三号による収容措置の取消しに先立って、裁判所は、手続の若干とはいえない遅滞のおそれのあるときでも、管轄官庁に意見陳述の機会を与えなければならない。かかる収容措置の取消しは、常に管轄官庁に告知されなければならない。
(2) 収容措置の延長については、最初になされた措置に関する規定を準用する。全体として四年を超える収容の場合には、裁判所は、事件本人を従前に治療し、鑑定し、あるいは事件本人が収容されていた施設に属していた鑑定人を選任してはならない。
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〈コメント〉
1 収容措置の取消
収容措置はそのための実体法上の要件が消滅したときは、職権によって全部または一部が取り消される。措置の取消しは、延長が必要であるかに関して審査されるだけでなく常になされる。第一項は、裁判所の手続監督義務を定めていると解されている。本条は民法第一六三一条b第三文に対応する。
取消しの裁判をするに先立つ関係者の審問は、公法上の収容についてのみ定められている。鑑定を命じることも、それが通例であるとはいえ、必要的なものとはされていない(第七〇条e第一項参照)。事実状態が明白であるときは、裁判所は鑑定を必要とせず、また手続遅滞を生じさせるその他の手続行為をとることなく、取消しをしなければならない。とくに事件本人及びその他の者や官庁の審問が定められていないことに注意するべきである。公共の利益・公共の秩序のため、公法上の収容の取消しに先立って、管轄官庁の審問をすることが求められている。行政庁が異議を述べ、また必要となる措置を講じることを可能とさせるためである。その他の者の審問は第一二条による。若干とはいえない遅滞とは、数時間程度を意味すると解されている。
公法上の収容の取消しは、上訴の提起を考慮できるように、常に管轄官庁に告知される(第一項第三文)。これは民法上の収容には適用されない。
2 収容措置の延長
新たな収容措置については第七〇条以下による。収容措置の延長のためには、最初の措置が継続期間を定めていることが必要である。第七〇条第一項第三号に掲げられた期間を経過する前の延長については、すべての手続が繰り返されなければならない。
第二項第二文は、収容類似の措置には適用がない。本項は、事件本人の地位を強化しようとしている。事件本人に対する鑑定者の予断に基づいているのではないかという危惧は避けられなければならない。それゆえ長期間にわたる収容の場合には、鑑定人の変更が定められ、施設と関係のある鑑定人は除外されている。
第七〇条k(実施の停止)
(1) 裁判所は、第七〇条第一項第二文第三号による収容の実施を停止することができる。停止は条件と結合させることができる。停止は通例、六ヶ月を超えてはならない。停止は一年まで延長することができる。
(2) 裁判所は事件本人が条件を履行せず、またはその状態によって必要であると認めるときは、停止を取り消すことができる。
(3) 停止及びその取消しに関する手続については、第七〇条dを準用する。
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1 収容の停止
本条は公法上の収容についてのみ適用される。収容を柔軟に実施するために停止が認められている。第一項第三文によれば、停止は通例六ケ月を超えることができないが、最大一年まで延長することができる。この期間を経過すると裁判所は、措置がさらに必要であるかを裁判する。民法上の収容は、裁判所や行政官庁によってなされるのではなく、法定代理人によって行われる。世話人は自ら被世話人の収容を取りやめることができる。
本条が定めているのは、すでに命じられた収容の実施の停止だけであって、収容手続自体の停止ではない。収容手続自体の停止はあり得ない。いったん手続が開始されると、収容を命じるか、申立てを却下するかのいずれかによって決着をつける。
裁判所は、事件本人の病状が改善され、「条件」を通じて公共の安全ないし公共の秩序に対する危険が収容をもはや必要としないほどに小さくなっていると認めるときは、試験的に退院を命じることができる。その条件としては、医師の治療を受けること、一定の薬を定期的に服用すること、これらを保健局のコントロールに服させること、特定の環境や人物を避けること、一定の援助を求めることなどが考えられる。裁判所は、これらの条件を遵守しているかの監督を管轄官庁ないし保健局に委嘱することができる。
2 停止の取消し
第二項によって収容の停止を取り消すための要件は、(1)収容停止の条件を全部または一部遵守しないこと。公法上の収容が問題になっているので、事件本人が条件を遵守しない理由を問わない。(2)事件本人の健康状態が悪化したことである。たんに従順でないだけでは取消事由とはならない。条件を変更すること、あるいは追加的な援助を付与することによって取消しを避けることができるか否かについても審査しなければならない。試験的に退院している間に、事件本人が再び公共の安全を危うくするときも停止を取り消すことができる。
停止及び停止の取消しの裁判には、第七〇条dに掲げられている者の審問を必要とする。これらの裁判は、収容の命令ないし収容申立を却下する裁判に類似するので、即時抗告に服する(第七〇条g第三項第一文、第七〇条m第一項の準用)。
第七〇条l(裁判の申立て)
(1) 第七〇条第一項第二文第二号、第三号による収容の実施における個々の規制のための措置に対しては、事件本人は裁判所の裁判を申し立てることができる。その申立てとともに、却下されあるいは行われなかった措置の発令の義務づけも申し立てることができる。
(2) 申立ては、事件本人がその却下または不作為によって権利を害された場合にのみ適法である。
(3) 申立ては執行停止の効力を持たない。裁判所は執行の停止を命じることができる
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〈コメント〉
1 本条の意義
本条は、収容措置の実施過程における裁判上の保護を定めている。第一項は裁判所構成法第二三条や各ラント収用法の該当の規定をモデルとしている。これは民事裁判所に指定された行政裁判手続といわれる。公権力よる個人の権利の侵害に対してはできる限り欠缺のない裁判所による保護を認めることは、法治国家的要請であるといわれる。
民法上の収容については、本条は適用されない。収容措置に関する責任は行政庁にあるのではなく、事件本人の法定代理人にあるからである。
2 審理の対象となる措置・規制
いわゆる行政行為よりも広く、事実上の行為を含む。施設の長の措置だけでなく、従業員の措置も対象になる。規制に関しては次のような事項が問題となる。訪問規制、手紙や荷物の受け取り、衛生に関する規制、照明の規制、部屋の監視、施設の医師による治療の拒否、患者所有のラジオ・テレビの規制、食事の提供(夕食を午前中に配膳するなど)、個人記録の閲覧拒絶、個人記録に記載するとの訓告(それは実施の停止に影響を及ぼしうる)、施設内での移転、他の施設への移転の拒否などである。
これに対して、一般的な規制は、第七〇条lの対象とはならない。たとえば、監督官庁の一般的な行政命令、手渡されあるいは告知された注意書、施設の利用規則などである。しかしこの利用規則や行政命令に基づいてなされた個別ケースの措置は、第七〇条lによって裁判所の審査の対象となる。また第七〇条lによれば、収容の実施における措置だけが異議申立ての対象となる。それゆえ非訟法及びラント法に基づき、措置が施設と被収容者との法律関係から生じたことが重要である。被収容者の債権者が施設の長の保管する被収容者の動産を差し押さえたことに対する異議は、本条の対象とはならない。
3 申立て
申立ての方法については定めがない。陳述内容と申立人が十分に認識できる書面であれば足りると解されている。また電話による申立ても、非訟手続では書面主義が採用されていないので適法であると解されている。電話による申立てがあったときは、後見裁判所はこれを記録しなければならない。
申立権を有するのは、第一項によれば収容されている事件本人である。外部者も、彼の権利が侵害されたときは申立権がある(非訟法第二〇条参照)。たとえば訪問を拒絶された者や、被収容者との手紙のやりとりを監視された弁護士などである。
申立ては、実施を停止させる効力を持たない(第三項)が、裁判所は異議申立てのなされている措置の停止を命じることができる(第三項第二文)。
4 手続と裁判
手続は非訟手続による。通例被収容者である事件本人と施設が手続に関与する。事実の探知は非訟法第一二条による。口頭弁論は必要ではない。また裁判に対しては不服申立てができないとされている(第四項)ので、理由を記載しなければならないとされている。裁判は関係者への告知によって効力を生じる。
この裁判においては、(1)なされた措置を取り消しないし承認(第一項第一文)すること、(2)被収容者から要求のあった措置をとるよう施設に命じること(ある措置をとることを拒否していた場合、第一項第二文前段)、(3)被収容者から要求のあった措置をとるよう施設に命じること(施設の不作為に対して、第一項第二文後段)、(4)なされた措置が違法であることを確認すること(第二項第三文)が問題となる。
第七〇条m(抗告・抗告手続)
(1) 確定することによって初めて効力を生じる裁判に対しては即時抗告ができる。
(2) 収容措置、仮の措置あるいはこの措置の取消しを却下する裁判に対する抗告は、第二〇条にかかわらず、第七〇条dに掲げられた者及び管轄官庁にも認められる。
(3) 第六九条g第三項、第五項を準用する。
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〈コメント〉
1 収容事件における抗告
本条は収容事件における抗告手続について定めている。
世話事件におけると同様に、収容事件における裁判に対しては、即時抗告と通常抗告に服する裁判および不服申立てができない裁判が区別されている。
即時抗告のできる裁判は、(1)収容を命じあるいは収容申立てを却下する裁判(第七〇条第一項第二文第一号ないし第三号)、(2)仮の処分によって仮の収容を命じあるいはこの申立てを却下する裁判(第七〇条h第一項第二文、第七〇条g第三項第一文)、(3)民法第一八四六条による裁判、(4)収容措置を変更しあるいはこれを求める申立てを却下する裁判(第七〇条i第二項第一文)である。収容事件における即時抗告の期間は、抗告権者ごとに別々に進行する。
不服申立てのできない裁判は、(1)移送の決定(第七〇条第五項第二文)、(2)公法上の収容の実施における個々の規制措置に関する裁判(第七〇条l第四項)、(3)鑑定人への勾引命令(第七〇条e第二項)である。
これ以外の裁判は、通常抗告に服する。また収容事件においては司法補助官は関与しないので、その処分に対する異議は問題にならない。
2 抗告権を有する者
非訟法の一般原則である第二〇条により、事件本人及び手続監護人は常に抗告権がある。手続監護人は、事件本人の意思に反してでも固有の抗告権を有する。法定代理人も常に抗告権を持つが、世話人は収容を許可する裁判に対しては抗告権を有しない。それがあっても利用しなければすむからである。
第七〇条m第二項は、収容措置、仮の収容措置を認めあるいはこれらの措置を取り消す裁判に対しては、第二〇条の定めにかかわらず、第七〇条dに掲げた者及び官庁にも抗告権を認めている。それゆえ配偶者(ただし長期間別居しているときは除く)、両親及び子、世話人、事件本人が信頼する者、施設の長、管轄官庁、その他ラント法によって審問されるべき者に抗告権がある。
なお、非訟法第二〇条第二項によれば、申立事件においては、申立てを却下する裁判に対しては申立人のみが抗告権を認められる。第七〇条m第二項は、そこに掲げられている事件については第二〇条第一項だけでなく第二項をも排除する趣旨と解される。公法上の収容事件は申立事件であり、ラント法により官庁の申立てによってのみ開始される。収容を命じる裁判に対しては、第二〇条によりその権利を害された者及び第七〇条m第二項によって第七〇条dに掲げられた者に抗告権が認められる。公法上の収容申立てを却下する裁判に対しては、申立てをした官庁のみに抗告権があると解されなければならない。そうでないと第七〇条dに掲げられた者による抗告を許すことになるからである。第七〇条m第二項は、却下の裁判に対しても第二〇条の要件を放棄するとは明示していないからである。
3 抗告審の手続
抗告審の手続については、第六九条g第五項が準用されている(第三項)。
第六九条gのコメントを参照されたい。
第七〇条n(裁判の通知)
通知については、第六九条k、六九条n及び第六九条cを準用する。第七〇条i第一項第一文による収容措置の取消し及び第七〇条k第一項第一文による収容の停止は、事件本人の居住する施設の長に通知されなければならない。
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〈コメント〉
本条は、司法通知法によって改正を受けている。これについては、第六九条k、第六九条mのコメントを参照されたい。