立命館法学  一九九八年五号(二六一号)


ドイツ労働法における平等取扱原則(二)

蛯原 典子




  目    次


  は じ め に

  第一章  平等取扱原則の歴史的展開
      一、萌芽ー一九三三年以前
      二、積極的利用ー「ドイツ第三帝国」時代
      三、新たな展開ー一九四五年以後
      四、平等取扱原則の今日的意義      (以上二六〇号)

  第二章  平等取扱原則の適用領域

    第一節  平等取扱原則が完全に適用される領域
      一、賞与・特別手当
      二、経営における高齢者扶助
      三、事業所変更にともなう補償

    第二節  平等取扱原則が部分的に適用される領域
      一、指揮命令権の行使
      二、賃 金 支 払
      三、損害の賠償
      四、解    雇

    第三節  平等取扱原則が適用されない領域
      一、採    用


      二、再  雇  用                  (以上本号)

  第三章  平等取扱原則の基本的論点

    第一節  平等取扱原則の法的根拠
      一、制定法に根拠を求める見解
      二、労働法上の法思想に根拠を求める見解
      三、実態の構造に根拠を求める見解
      四、配分的正義に根拠を求める見解

    第二節  平等取扱原則を適用する前提条件
      一、「比較しうる状況」の有無
      二、集団的・個別的合意の有無
      三、差別的取扱に関する客観的理由の有無
      四、その他の条件

    第三節  平等取扱原則の法的効果
      一、給付請求権
      二、損害賠償請求権
      三、差別停止請求権
      四、労務給付拒否権

  お わ り に

 

第二章  平等取扱原則の適用領域

  ドイツ労働法における平等取扱原則は、今日では個別的労働契約法全般に浸透する基本的な秩序原理(tragendes Ordnungsprinzip)として理解される(1)が、同時にこの原則は平等な取扱に関する労働者の主観的権利(subjektives Recht)を法的に規定するものではなく、労働関係当事者の一般的な権利義務を創設する客観的法規(objektiver Rechtssatz)であると考えられている(2)。したがって、ある労働条件に関して平等取扱の要請される事態が発生すると、そこに平等取扱原則が適用され、それを根拠として労働関係当事者の具体的な平等取扱義務や平等取扱請求権が発生する。このような意味で、平等取扱原則は一般条項的性格(generalklauselartiger Charakter)を有するといえる。

  平等取扱原則が一般条項的性格を有するために、この原則が適用される問題領域をあらかじめ特定することはできない。そこで、この原則がいかなる領域に対してどのように適用されるのかを知るためには、これまで平等取扱原則の適用が問題となってきた個別具体的ケースを類型化して検討を行う必要がある。さらに、類型化された事例集団は、平等取扱原則が完全に適用される領域、部分的に適用される領域、そして全く適用されない領域という三つの領域に分類されうる。というのは、個別具体的ケースにおいて問題となる事案の性質上、他の法制度との関連で平等取扱原則を適用する実務上の意義がわずかにとどまる場合や、他の法規や法原則が優先され、その結果平等取扱原則の適用が否定される場合があるからである。以上のような分類に基づき、本章では、平等取扱原則がいかなる労働条件に関してどのように適用されるのかを個々の事例集団ごとに考察する。さらに、平等取扱原則の適用が制限される領域については、その原因についても検討していくこととする。

 

第一節  平等取扱原則が完全に適用される領域

  すでに述べたように、平等取扱原則は、そもそも使用者が法的義務を負っていないにもかかわらず任意に支払う特別給付、すなわち任意的社会給付(freiwillige Sozialleistung)の領域に適用されてきた原則である。任意的社会給付は、労務給付に対する直接の反対給付を意味せず、使用者が法的義務を負わないにもかかわらず任意に支払うものであり、使用者には、そのような給付に供する財政資金の調達や給付の対象となる人的範囲の選択について、広い裁量の余地が認められる。しかし、任意的社会給付は労働者にとって決して付加的なものではなく、生計の基盤として重要な意義を有するものであり、また使用者も、全く私利私欲なく労働者に恩恵を与える意図で給付を行うのではなく、人事政策や労働市場政策の一環として一定の目的を達成するために給付を行う場合がほとんどである(3)。このことを受けて、今日では任意的社会給付に関する合意が労働契約や労働協約において取り決められ、それに基づき労働者の法的請求権が認められるようになってきている。

  労働契約上、もしくは労働協約上の取り決めが存在しない場合であっても、その他の法的根拠から、任意的社会給付に対する労働者の法的請求権が発生する場合がある。その法的根拠として、まず第一に経営慣行(betriebliche U¨bung)があげられる。これは、任意的社会給付の支給が時間的に継続して行われている場合に、その事実を慣行とみなし、それを根拠に労働者の法的請求権を認めるものである。しかし、給付の時間的継続が問題とならないケースにおいて、使用者が恣意的に個々の労働者あるいは労働者集団を任意的社会給付の支給対象から排除するとき、経営慣行は成立しえず、したがってそれを根拠に労働者の法的請求権が発生することはない。このようなケースにおいて、平等取扱原則は、任意的社会給付に対する労働者の請求権の法的根拠として登場する。すなわち、任意的社会給付の支給対象から排除された労働者は、平等取扱原則を根拠として、他の労働者と同様の給付に対する請求権を得ることができるのである。

  本節では、平等取扱原則の中心的な適用領域である任意的社会給付のうち、代表的な形態である@賞与(Gratifikation)・特別手当、A経営における高齢者扶助(betriebliche Altersversorgung)、B事業所変更にともなう補償(Abfindung)に関して、平等取扱原則がどのように適用されるのかを具体的事例を素材として考察する。


一、賞与・特別手当

  賞与や特別手当に関する平等取扱原則の適用事例は非常に多い。とくに、クリスマス賞与の支給における差別的取扱に関して多くの判決が存在し、そのなかで平等取扱原則の具体的内容が確定されてきている。以下では、平等取扱原則の適用事例として典型的なクリスマス賞与の支給における差別的取扱−ここでは現業労働者と職員の差別的取扱−に関する判決(4)を素材として、平等取扱原則の具体的内容を確認する。

  本判決の事案はつぎのようであった。卸売業を営む使用者は、雇用している約三〇名の職員(Angestellte)と九名の現業労働者(Arbeiter)に対してクリスマス賞与を支給していた。しかし、現業労働者の受け取る賞与の額は職員の受け取る賞与の額よりも低く設定されていた。一九七七年に職員に対して支給された賞与は月給の一〇〇%相当額であったのに対して、現業労働者に支給された賞与は月給の七〇%相当額であった。これを受けて、現業労働者として雇用されている原告らは使用者に対し、平等取扱原則を根拠として、一九七七年に関して月給の一〇〇%にあたる賞与の支払を請求した。これに対して使用者は、任意に支払われるクリスマス賞与の支給に関して現業労働者と職員を差別的に取り扱うことは許容されると主張し、原告らの訴えの棄却を求めた。このような事件に関して、連邦労働裁判所第五法廷はつぎのように判断した。

  原告らが訴えの請求権の根拠として平等取扱原則を援用したことは正当である。労働法における平等取扱原則によれば、使用者は、その事業所の個別の労働者あるいは労働者集団を、客観的な理由なく、一般的に優遇する労働関係上の規制から排除することや不利な地位におくことを禁じられる。賞与の支給に関して使用者が一定の要件を設定する場合には、その事業所で働く労働者が非客観的あるいは恣意的な理由に基づきその給付から排除されることのないよう給付の要件を明確化することが、平等取扱原則によって要請される。学説においても、任意の給付を与える際にその対象となる人的領域を限定する場合、その集団形成が客観的に正当化されるものである場合に限り、平等取扱原則は使用者に対して自由を認めるものであるということが一貫して承認されている。

  差別的取扱や集団形成が客観的に正当なものであるかどうかは、任意の給付の目的に従ってのみ評価されうる。任意の給付を与える使用者が、同時に一定の結果を獲得しようとする以上、使用者は、提供された個別の労務給付に対して追加的に報酬を支払うことによって達成しうる一定の目的を追求する。このような目的の決定において使用者は自由である。それゆえ、望ましい結果に行き着くよう給付の要件を決定することも使用者の自由である。このことから、給付の要件とそれに基づく差別的取扱が給付の目的と直接的な関係にあることはすでに明らかであり、したがって差別的取扱が客観的に正当であるか否かは、給付の目的によってのみ判断されうる。

  本件においても、現業労働者と職員の差別的取扱が客観的に正当でないということは、クリスマス賞与の目的に従って評価される。使用者は、無条件にクリスマス賞与を支給していたのであるが、そのクリスマス賞与の目的は、他の目的がなにも告示されていない場合においては、クリスマスの祝祭に際して労働者に生じる特別な支出への寄与、そして過去に行われた仕事に対する追加的な報酬の支払にある。クリスマスの祝祭に際して労働者に生じる追加的な支出は、現業労働者と職員に関して同じように発生するものである。同様に、現業労働者と職員は過去に同じように自己の労務給付を提供している。おそらく存在したであろう現業労働者と職員の労務給付の価値の相違は、使用者が賞与の高さを、労務給付の価値に対する使用者側の尺度である労働賃金の高さに対応させることによって、すでに考慮されているのである。

  以上のように、連邦労働裁判所は、クリスマス賞与の支給目的を、クリスマスの祝祭に際して労働者に生じる家計支出の増大の軽減と過去に行われた仕事に対する追加的な報酬の支払に特定し、現業労働者と職員の差別的取扱はそのような賞与の目的と直接的な関係にないと判断した。そして、現業労働者に支給する賞与の額を職員と比較して低く設定する使用者の措置が客観的に正当化されない以上、現業労働者である原告らは、職員と同様に月給の一〇〇%相当額の賞与を要求することができるとして、原告らの平等取扱請求権を認めた。

  また、使用者は上告審においてはじめて、クリスマス賞与の目的は会社にとってとくに重要な職員を現業労働者よりも強く企業に拘束する点にあり、現業労働者と職員の差別的取扱はこの目的の達成のために実施したものであると主張した。これに対して、連邦労働裁判所はつぎのように述べている。

  労働法における平等取扱原則は、事業所の平和をもたらし、その維持にも寄与し、労働者と使用者の紛争や労働者間のねたみを互いに防止するものである。それゆえ、使用者が賞与や類似の特別手当をすべての労働者に対して平等に支払おうとしない場合、使用者はその差別的取扱の理由を労働者に対して公表しなければならない。なぜ自分が他の労働者と同様に取り扱われないかを知っている場合にのみ、労働者は定められた要件が正当であるか、自分が法と正義に従って取り扱われているかについて、自分なりの判断を下すことができるのである。

  以上のような理由から、連邦労働裁判所は、使用者は適時に、遅くとも労働者が訴えによって平等な取扱を要求するときには、労働者に対して差別理由を公表しなければならないと判断した。

  本判決から、平等取扱原則の内容について以下の点が明らかになる。まず第一に、クリスマス賞与の支給において恣意的な差別的取扱を受けた労働者は、平等取扱原則を根拠として賞与に対する法的請求権を獲得しうる。第二に、使用者が賞与の支給において一定の要件を定める場合、平等取扱原則によれば、その要件は労働者が非客観的もしくは恣意的な理由から排除されることのないように定められなければならない。第三に、使用者は差別的取扱の理由−それは最終的に賞与を支給する目的を明らかにすることにつながる−を、適時に適当な方法で労働者に対して公表しなければならない。第四に、クリスマス賞与は、使用者がとくに他の目的を公表していない限り、クリスマスの祝祭に際して生じる労働者の家計支出の増大の軽減と、過去の労務給付に対して追加的に報酬を支払うという二つの目的を有するとみなされる。第五に、このような賞与の目的は、現業労働者と職員の差別的取扱を正当化しうるものではない(5)。第六に、たとえば賞与など使用者による給付が問題となる領域に平等取扱原則が適用され、労働者の平等取扱請求権が認められる場合、それは有利な給付を受けた労働者と同等の給付に対する請求権の発生を意味する。

  賞与や特別手当のような任意的社会給付に関しては、原則としてすべての労働者が平等取扱原則を根拠として請求権を獲得しうる。仮に使用者が、常に任意的なものであるとの留保を付して賞与を支払うことによって、当該賞与に対する将来的な請求権を明示的に否定していた場合であっても、使用者は客観的な理由なく個々の労働者を賞与支給の対象から排除することはできない。さらに、使用者によって支払われる給付の目的は、平等取扱請求権の発生には影響を与えない(6)。上記判決において、クリスマス賞与支給の目的と現業労働者と職員の差別的取扱の関連が検討されている点に明らかなように、給付の目的は、むしろ問題となる差別的取扱に客観的な理由が存在するか否かを判断する際に決定的な意味を有する。すなわち、問題となる差別的取扱が給付の目的と直接的な関係にあり、その目的の実現に寄与するものである場合に、その差別的取扱には客観的な理由が存在すると判断されるのである。たとえば、賞与あるいは特別手当の支給において、過去の一定期間に欠勤時間を有する労働者を皆勤の労働者と比較して不利に取り扱うことについて、当該給付の目的が過去の労務給付に対する報酬の支払にある場合には、その差別的取扱には客観的な理由があると判断される。これに対して、当該給付の目的が労働者によって示された企業への忠実(Betriebstreue)に対する報酬の支払にある場合、その差別的取扱には客観的な理由がなく平等取扱原則違反と判断される。


二、経営における高齢者扶助

  経営における高齢者扶助として問題となるのは、主に企業年金(Betriebsrente)である。企業年金は法律上の年金保険給付を補完する役割を有しており(7)、現在労働者の約半数が対象となっている。企業年金もまた任意的社会給付のひとつの形態であり、平等取扱原則を根拠として法的請求権が発生する。なお、平等取扱原則が扶助に対する請求権の法的根拠となることについては、経営における高齢者扶助の改善に関する法律(Gesetz zur Verbesserung der betrieblichen Altersversorgung, vom 19. 12. 1974 (BGBl. I S. 3610))一条一項四文(8)に明文の規定が存在する。

  経営における高齢者扶助に関しても、使用者が扶助を与えるための要件を設定する場合には、その要件は、労働者が恣意的もしくは非客観的に扶助から排除されることのないように定められることが平等取扱原則から要請される。したがって賞与や特別手当の場合と同様、年金の支給に際して現業労働者と職員を差別的に取り扱うことは平等取扱原則に違反する。

  経営における高齢者扶助に関して最も問題になったのは、パートタイム労働者とフルタイム労働者の差別的取扱である。連邦労働裁判所はつぎにあげる判決(9)において、客観的な理由のないパートタイム労働者とフルタイム労働者の差別的取扱は平等取扱原則に違反するとの判断を示した。

  本判決の事案はつぎのようであった。被告企業は事業所協定によって導入された扶助規程(Versorgungsordnung)に基づき、勤続二〇年以上フルタイム労働者として働き、引き続き六五歳満了後に年金生活に入った従業員と、勤続二〇年以上事業所の一員であり、かつフルタイムで就労していた期間が合計で少なくとも一五年に達するパートタイム労働者に企業年金を支給することになった。パートタイム労働者である原告女性はこの要件に該当しなかったため、年金支給の対象から排除された。そこで原告は平等取扱原則を根拠に、企業年金の支給に対する部分的な期待権を有することについて確認の訴えを提起した。これに対して被告は、原告はパートタイム労働への転換によって扶助に対する期待権を失っており、また扶助を受ける権利を誰に与えるかは使用者が自由に決定できるとして、原告の訴えの棄却を求めた。この事件について連邦労働裁判所第三法廷はつぎのように述べ、事件を州労働裁判所に差し戻した。

  事業所組織法七五条(10)によれば、使用者と従業員代表委員会は、事業所において就労するすべての人間が法と正義の原則に従って取り扱われ、とりわけ血統、信条、国籍、出自、政治的もしくは労働組合上の活動、政治的もしくは労働組合上の立場、あるいは性を理由に異なった取扱が行われないよう監視する義務を負っている。同法に列挙される差別禁止事由は、使用者と従業員代表委員会が個々の労働者集団の間で恣意的な差別を行ってはならないという一般的な原則の一例にすぎない。使用者と従業員代表委員会は、本質的に同一のものを恣意的に不平等に取り扱うことも、本質的に同一でないものを恣意的に平等に取り扱うことも義務づけられない。このような原則は、経営における高齢者扶助の給付に関しても大きな意味を有している。

  パートタイム労働は、労働者が、フルタイムの労働時間でなく部分的な労働時間のみ使用者の指揮の下におかれるという点で、フルタイム労働と区別される。その労務給付は、フルタイムの労働関係の場合よりも量的にわずかである。したがってパートタイム労働の賃金は、原則として労務給付の減少の割合に応じてのみ削減されうる。経営における高齢者扶助もまた広い意味で労働賃金に含まれる。判例によれば、年金給付は賃金の性格と扶助の性格を有すると考えられている。もっとも、高齢者扶助は過去に示された企業への忠実に対して給付されるものであるから、高齢者扶助において労務給付と賃金は厳格な双務関係にたつものではない。しかし、企業への忠実という側面において、フルタイム労働者とパートタイム労働者の間に本質的な差異は存在しない。扶助の必要性に関しても同様である。このことから、労務給付量の相違だけをもって、フルタイムの労働者に対して与えられる経営における扶助給付からパートタイム労働者を排除することに、十分な客観的理由があるとはいえない。

  もっとも、特別な利害状況のなかで差別的取扱に関する客観的な理由が存在する場合には、パートタイム労働者とフルタイム労働者の差別的取扱を即座に違法とすることはできない。この点に関して、被告は、市場においてフルタイム労働者を確保することが困難であるがゆえに、フルタイム労働者にとって有利な内容の扶助規程によってフルタイム雇用に刺激を与えなければならなかったとする差別理由を主張する。仮にこのような被告の主張が適切であったとしても、たとえば、パートタイム労働者を、常にその希望に基づきフルタイム雇用に受け入れる用意が被告にあったという点が確認されないかぎり、被告の主張は当該差別的取扱を正当化しうる客観的な理由であるということはできない(11)

  本判決において平等取扱原則を根拠に示されたパートタイム労働者とフルタイム労働者の差別的取扱の禁止は、一九八五年就業促進法(Gesetz u¨ber arbeitsrechtliche Vorschriften zur Bescha¨ftigungsfo¨rderung vom 26. 4. 1985 (BGBl. I S. 710))において明文化された。すなわち、同法二条一項に「使用者は、パートタイム労働であることを理由として、パートタイムで雇用されている労働者をフルタイムで雇用されている労働者に対して差別的に取り扱ってはならない。ただし客観的な理由が差別的な取扱を正当化する場合は、この限りでない。」という規定がおかれたのである。したがって現在では、パートタイム労働者や些小時間就労者(Geringfu¨giger Bescha¨ftigte(12))を企業年金を受け取る権利のある労働者集団から排除することは、就業促進法二条一項によって禁止される。

  ただし、就業促進法二条一項は、客観的な理由の認められるパートタイム就労者とフルタイム就労者の差別的取扱をも禁止するものではない。すなわち、パートタイム労働かフルタイム労働かというただそれだけの基準に基づく差別的取扱は違法であるが、それとは別の新たな差別的取扱の基準が述べられ、それがパートタイム労働者とフルタイム労働者の差別的取扱を正当化するのであれば違法とはいえない。そこで問題となったのが、短時間労働を理由に法律上の年金に対する権利を有していない労働者(13)を高齢者扶助給付から排除するケースである。これについて、経営における高齢者扶助が使用者に対して継続的な負担を課すものである以上、賞与などの場合よりも広い裁量の余地が使用者に認められなければならないという理由から、社会保険加入義務を負わない労働者を企業年金の支給対象から排除することは平等取扱原則に違反しないという見解が示されている(14)。しかし他方で、そのような基準によって短時間労働者を高齢者扶助の支給対象から排除する場合、その対象となるのは圧倒的に女性の労働者であり、したがって間接的な女性差別の存在が推定され、最終的にそのような取扱は男女同一価値労働同一賃金原則を定めたヨーロッパ経済共同体設立条約(EWG−Vertrag)一一九条(15)に違反するという見解が主張されている(16)

  パートタイム労働者とフルタイム労働者の差別的取扱の他には、有期の労働関係にある労働者と期間の定めのない労働関係にある労働者の差別的取扱が問題になった。連邦労働裁判所(17)はつぎのような説示において、当該差別的取扱の客観性を認めている。

  使用者は通常、経営による高齢者扶助によって企業への忠実を促進し、それに対して報酬を支払い、そして労働者を事業所へ拘束しようとする。したがって、期限つきで雇用され一時的にしか事業所にとどまらない労働者に対しては、使用者はそのような利益を有しない。それゆえ、有期の労働関係にある労働者を経営における高齢者扶助から排除することは客観的に正当である。

  また、労働関係の開始時点に一定の最高年齢(Ho¨chsteintrittsalter)を越えていないことを扶助給付の要件とする取扱、すなわち新たに採用された高齢の労働者を経営における高齢者扶助から排除する使用者の措置も、長期的な企業への忠実の獲得という扶助の目的に照らして平等取扱原則に違反しないと考えられている(18)

  その他の点で、扶助規程において、労働者が死亡した場合にはその労働者の遺族に対して年金を支給する旨が定められている場合、平等取扱請求権は労働者の遺族に対しても与えられる(19)。また扶助規程に寡婦年金(Witwenrente)が規定されている場合、それは同様の条件で寡夫年金(Witwerrente)の内容をも有するものでなければならない(20)。このことは、経営における高齢者扶助に関して、寡婦と寡夫の差別的取扱が客観的でないということを意味する。

  なお、経営における高齢者扶助は使用者によって給付されるものであるから、平等取扱原則の名宛人は原則として使用者である。しかし実際には、企業年金の支払が金庫(Kasse)や基金(Fond)に委ねられているケースが存在する。そのような場合、使用者だけでなく、このような機関もまた平等取扱義務を負う(21)


三、事業所変更にともなう補償

  使用者が自己の経営する事業所を閉鎖、縮小あるいは移転する場合、それにともなって労働者にも解雇や配置転換などのさまざまな経済的不利益が生じる。そこで使用者が労働者全員を対象として一般的に補償を支払おうとするとき、平等取扱原則が適用され使用者は平等取扱義務を負うことになる。したがって補償の支払における差別的取扱は、客観的に正当化される場合にのみ許容される。

  使用者が補償を支払う際の基準は、平等取扱原則に基づき、労働者が恣意的もしくは非客観的に補償の給付から排除されることのないように設定されなければならない。この点に関して、たとえば労働者の希望による終了契約(Aufhebungsvertrag)の締結による労働関係の終了であるか、あるいは使用者からの解雇による労働関係の終了であるかといった労働関係の終了形式は、原則として客観的に正当な差別的取扱の基準とは考えられない。ただしつぎにあげる判決(22)のように、補償の目的との関連で、それが客観的な基準とみなされる場合がある。

  本判決の事案はつぎのようであった。被告である使用者は機関の解散を決議し、すべての労働者に労働契約の解約を告知した。その後、解雇保護の訴えを提起した一部の労働者と被告機関の間で和解が成立し、被告機関解散時において従業員であり一年以上事業所で働いていたすべての労働者に対して補償が支払われることになった。その補償は、解雇保護の訴えを提起したか否かにかかわらず、被告による解約告知に基づいて解雇された労働者だけを対象とし、給与額や就業期間といった一定の基準によって配分された。原告は解約告知期間満了前に被告との終了契約に基づき労働関係を終了していたため、補償支払の対象に含まれなかった。そこで原告は、補償の目的は職場の喪失によって労働者に生じる不利益の調整にあり、原告は実質的に被告による解雇によって職場を失ったのであるから、終了契約の締結を理由として補償の支払から排除する使用者の措置は客観的に正当化されないと主張し、自己に対する補償の支払を要求した。これに対して被告は、原告のように新たな職場を見いだしたために前もって終了契約を締結し、事業所を退職した労働者は、補償の支払による援助を必要とせず、そのような労働者に対しても補償を支払うことにより補償の配分に供しうる資金を減少させることは適切とはいえないとし、原告による訴えの棄却を求めた。これに対して連邦労働裁判所第二法廷はつぎのように述べ、原告の訴えを退けた。

  使用者が事業所の閉鎖後、任意に、かつての労働者の大部分に対して補償を支払う場合、使用者によって定められた一定の配分基準に従って行われる給付は平等取扱原則によって評価されなければならない。平等取扱原則は、使用者によるすべての任意の給付に関して妥当する。そのなかには、使用者が事業所閉鎖の事態において、それに相当する(たとえば社会計画から生じる)法的義務なしに退職した労働者に対して支払う補償も含まれる。支配的見解や判例によれば、労働法における平等取扱原則は、事業所における労働者の恣意的な不平等取扱を排除するものである。不平等取扱によって、本質的に同一の事態が非客観的な、あるいは事実に即さない理由から異なって取り扱われる場合、その不平等取扱は恣意的であるとみなされる。客観的に正当化されない不平等取扱の違法性から、禁止される差別的取扱の無効もしくは無効可能性が生じ、通常は平等取扱をもたらす給付に対する請求権も生じる。任意的社会給付において使用者が行う差別的取扱は、その差別的取扱が給付の目的に従って正当化される場合にのみ平等取扱原則に対する違反とはならない。事業所閉鎖にともなう補償には、通常、社会計画上の補償のように、経営上の理由による解雇に基づき労働者に生じる不利益を軽減するという目的が存在する。事業所閉鎖のためにさまざまな労働者集団にとって生じる法的・経済的結果は同じか、あるいは比較しうるものであり、したがって使用者はこのような給付の目的において、他の集団を補償の支払から排除する一方で恣意的にひとつの集団に対して補償を支払ってはならないのである。

  本件において差別的取扱のメルクマールとされた労働者の退職の方式は、事業所変更にともなう補償における差別的取扱のメルクマールとして完全に公正であるとはいえない。なぜなら、解約告知後に新たな仕事を見つけるため事前に事業所を退職した労働者もまた、自分たちの長期の就労期間に基づく重大な社会的財産を失ったのであり、解雇によって生じる不利益を自力で軽減しようと努め、それを達成した労働者が、詳細な検討もなしに一括して不利に取り扱われる結果になるからである。

  しかしながら、本件においては原告に対して補償を支払わないことが正当と評価される理由が存在する。すなわち、事業所閉鎖という社会的な問題にとっては、可能な限り多くの労働者に対して少なくともわずかな補償を支払うことが客観的なのではない。むしろ、諸事情を考慮する下で事業所の停止によって典型的に生じる不利益を顧慮することが客観的といえるのである。その際、労働者の労働市場に対する見通しが決定的に顧慮される。使用者が可能な範囲で、事業所の閉鎖によって最も困難な不利益を受けた労働者を援助しようとするとき、それは恣意的であるとはいえない。「ただ」社会的な資産を失ったにすぎず、少なくとも継続して新たな職場を見つけた労働者が不利な取扱を受けるのは、客観的な差別的取扱といえる。

  本判決のように、解約告知期間満了以前に終了契約によって労働関係を解消した労働者が、その後新たな雇用上の地位を見つけているという事情が考慮されている場合、労働関係の終了形式に基づく差別的取扱は客観的に正当化される。このことは、事業所閉鎖にともなう補償には、解雇された労働者を補助金によって経済的に援助するという目的が存在し、そして失業状態にない労働者は、失業状態にある労働者と比較して補助金による経済的援助を特別必要としていないことから根拠づけられる(23)

  ところで、本判決は使用者によって任意的に支払われる補償が問題とされた事例であったが、通常、事業所変更にともなう補償に関しては事業所組織法の諸規定が適用される。すなわち、原則として二〇名をこえる選挙権(事業所組織法7条)のある労働者を有する事業所において使用者が事業所変更に着手しようとする場合、使用者は事業所変更につき従業員代表委員会と協議しなければならない(同法一一一条)。同時に、使用者と従業員代表委員会は、事業所変更の実施によって労働者に生じる経済的不利益を調整・緩和するための措置、すなわち社会計画(Sozialplan)に関しても協議しなければならない(同法一一二条)。他方、使用者と従業員代表委員会は、事業所で働くすべての労働者が非客観的な差別的取扱を受けないよう監視する義務を負っている(同法七五条一項)。したがって、使用者と従業員代表委員会の間で合意された社会計画が事業所組織法七五条一項に違反する場合、その社会計画は無効となる(24)

  社会計画に関しても、補償を支払う際の基準の客観性は、当該社会計画の意義と目的によって判断される。つぎにあげる判決(25)は、社会計画に基づき労働関係終了時点における個々の労働者の労働時間を基準として、パートタイム労働者に対して比例的な補償が支払われたのに対して、フルタイムからパートタイムに転向して就労していた労働者が、フルタイムで勤務していた年数につき満額の補償を請求した事件である。連邦労働裁判所第一〇法廷はつぎのように述べ、補償の支払におけるフルタイム労働者とパートタイム労働者の労働時間に比例した取扱は平等取扱原則に違反しないとして、原告の訴えを退けた。

  本件における社会計画の目的は、事業所の操業停止によって生じる経済的不利益の調整と緩和にあり、労働関係終了時点における労働者の社会的資産の喪失を調整しようとするものである。したがって、労働関係終了時点における個々の労働者の労働時間は、補償額の算定基準として決定的である。使用者と従業員代表委員会は事業所組織法七五条に従い、事業所で就労する労働者を平等に取り扱う義務を負っているが、パートタイム労働者が解雇時点における個々の労働時間に比例して補償を受け取ることを定める社会計画の規定は、一般的な平等取扱原則にも、就業促進法二条一項に規定されるパートタイム労働者の不利益取扱の禁止にも違反しない。なぜなら、労働賃金が個々の労働者の労働時間に相当するものである以上、個々の労働時間は、事業所閉鎖によって労働者が失う社会的資産にとって本質的なものだからである。

  では、社会計画に基づく補償における高齢労働者と若年労働者の異なる取扱は正当であろうか。使用者と従業員代表委員会は、事業所組織法七五条一項により、労働者が一定の年齢段階を越えたことを理由に不利な取扱を受けることのないよう留意しなければならない。しかしながら、社会計画に存在する経済的不利益の調整と緩和という目的に照らし、高齢年金を受給する資格を有する高齢労働者を補償の支給対象から排除することは、客観的な差別的取扱とみなされる。なぜなら、この場合の差別的取扱の理由は労働者の年齢にあるのではなく、年齢から結果として生じる状況、すなわち高齢労働者については年金によって職場の喪失から生じる不利益が調整されるという点にあるからである(26)

  なお、社会計画の目的は、事業所の操業停止によって生じる経済的不利益の調整と緩和のみに限定されるわけではない。たとえば、実際に事業所が閉鎖されるときまで、あるいは事業所変更において最終的に組織編成が完了するまで事業所の運営を継続することにつき使用者に利益が存在し、そのために労働者の協力が必要である場合、使用者と従業員代表委員会は、労働者が一定の期日にみずからの希望に基づき事業所から退職しているかどうかを基準として差別的取扱をすることが許される。なぜなら、この場合の社会計画に基づく補償には、企業への忠実に対して報酬を支払うという目的が存在するからである(27)

(1)  Gu¨nter Schaub, Arbeitsrechtshandbuch, 8. Aufl., 1996, S. 970.

(2)  Wolfgang Zo¨llner/Karl−Georg Loritz, Arbeitsrecht, 4. Aufl., 1992, S. 195.

(3)  Hans−Bernd Maute, Gleichbehandlung von Arbeitnehmern, 1993, S. 121.

(4)  BAG vom 5. 3. 1980, BAGE Bd. 33, S. 57.

(5)  この点に関して、本件の第二審であるデュッセルドルフ州労働裁判所は、現業労働者と職員の差別的取扱を許容する立法上の規定が存在することを理由に、そのような差別的取扱は客観的であると判断していた。しかし上告審は、州労働裁判所のこのような判断を一般的に否定している。現業労働者と職員の差別的取扱については、本稿第三章第二節三2(2)参照。

(6)  Franz Marhold/Markus Beckers, Gleichbehandlung im Arbeitsverha¨ltnis, AR−Blattei SD, 1996, Rdnr. 136.

(7)  企業年金の給付形態はさまざまである。そのなかでとくに問題となるものとして、@使用者を相手とする直接的な年金請求権の承認、A使用者が労働者の生命に対して生命保険契約を締結し、労働者もしくはその遺族を当該保険金の受給権者とする形態、B労働者が自分自身に対して締結した生命保険の掛金、もしくは法律上の年金保険における高額保険のための掛金に供する資金を使用者が継続的に付与する形態、C使用者が、労働者もしくはその遺族に対する年金給付の法的請求権を承認する権利能力を有する扶助機関(年金金庫(Pensionskasse))を設立する、もしくはそれに対して経費を援助する形態、D使用者が、給付に対して法的請求権を付与しない権利能力なき扶助機関(共済金庫(Unterstu¨tzungskasse))を設立する、もしくはそれに対して経費を援助する形態、があげられる。Manfred Lo¨wisch, Arbeitsrecht, 4. Aufl., 1996, S. 322. なお、第三版の翻訳であるレーヴィッシュ著・西谷敏他訳『現代ドイツ労働法』(一九九五年・法律文化社)三五六頁も参照。

(8)  経営における高齢者扶助の改善に関する法律一条一項四文はつぎのような規定になっている。「事業所慣行もしくは平等取扱原則に基づく扶助義務は、扶助に対する承認(Versorgungszusage)によって生じる義務と同等である。」

(9)  BAG vom 6. 4. 1982, BAGE Bd. 38, S. 232.

(10)  本件において争われている扶助規程が事業所協定によって導入されたものであることから、ここでは事業所構成員に対する差別的取扱の禁止を規定する事業所組織法七五条一項が問題とされている。この事業所組織法七五条一項は平等取扱原則の具体化と評価されるものであるが、通説・判例によれば、同条に列挙される差別事由にとどまらず、むしろ使用者と従業員代表委員会は一般的な平等取扱原則に留意しなければならないと考えられている。Karl Fitting/Heinrich Kaiser/Friedrich Heither/Gerd Engels, Betriebsverfassungsgesetz Handkommentar, 18. Aufl., 1996, S. 1043, Rdnr. 22. なお事業所組織法七五条一項については、本稿第三章第一節一1(2)参照。

(11)  なお本件では、パートタイム労働者を経営における高齢者扶助から排除することは男女同一賃金の原則に違反しないかという点についても検討が行われた。すなわち、問題の扶助規程はたしかに男性と女性を直接的に区別するものではない。しかし、パートタイム労働で働く者は、その圧倒的多数が女性である。また女性は、通常、家庭責任のためにその職業上の活動をしばしば中断せざるをえず、そのために、扶助規程において扶助を受ける要件とされていた「長期にわたる継続的な就労」を達成することができない。したがって本件においては、「長期的な継続的就労」というメルクマールによって男女同一賃金原則の回避が隠蔽されている可能性がある。連邦労働裁判所はこのように述べ、州労働裁判所に対してこの点に関しても検討する必要性を指摘している。

(12)  些小時間就労者については、社会法典第四編(Sozialgesetzbuch IV vom 23. 12. 1976(BGBl. I S. 3845))八条に規定されている。すなわち、些小時間就労者とは、週労働時間が一五時間未満で、通常の労働賃金月額が年金保険全被保険者の平均労働者賃金月額の七分の一をこえず、多いときでも総収入の六分の一をこえない労働者(一項一号)、あるいは就労が本職として(berufsma¨βig)行われる場合と、賃金が一号において述べられた限界を超える場合を除き、雇用の性質上その就労が開始から一年間に常に長くて二カ月もしくは五〇労働日に限定されるか、もしくは前もって契約上限定されている労働者をさす(一項二号)。

(13)  些小時間就労者については年金保険の加入義務が免除されている(社会法典第四編二八条g)。

(14)  ArbG Berlin vom 18. 3. 1993, BB 1993, S. 1812.

(15)  EWG-Vertrag 一一九条は、加盟国が男女同一賃金原則の適用を確保すべきことを定めるとともに、そこでいう賃金とは通常の基本給、棒給のみならず、現金または現物給付の如何を問わず労働者が直接または間接に支払を受けるすべての対価をさすこと、出来高給の計算においては同一の単位に基づき計算が行われ、時間給の場合には同一の労働に同一の額が支払われなければならないことが規定されている。

(16)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 215.

(17)  BAG vom 13. 12. 1994, DB 1995, S. 931.

(18)  BAG vom 14. 1. 1986, BAGE Bd. 50, S. 356;Peter Ahrend/Jochen Ru¨hmann, Betriebliche Altersversorgung −Bedeutung der Gleichbehandlung, AuA 1992, S. 207ff. (209).

(19)  Theo Mayer−Maly, Gleichbehandlung im Arbeitsverha¨ltnis, AR-Blattei SD, 1975, G VIII;Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 221.

(20)  BAG vom 5. 9. 1989, DB 1989, S. 2615;Winfried Boecken, Zur Gleichbehandlung von Witwen und Witwern im Rahmen der betrieblichen Altersversorgung, DB 1989, S. 924ff. (929);Ahrend/Ru¨hmann, a.a. O., S. 209.

(21)  Jobst Gumpert, Die praktische Anwendung des arbeitsrechtlichen Gleichbehandlungsgrundsatzes, BB 1959, S. 707ff. (709).

(22)  BAG vom 25. 11. 1993, SAE 1995, S. 137.

(23)  Monika Schlachter, Anmerkung zu BAG vom 25. 11. 1993, SAE 1995, S. 141ff. また別の判決によれば、すでに解雇期日より前に終了契約を締結して労働関係を終了させた労働者は、事業所の解散が事実となったときに労働関係を終了した労働者と比較して、労働市場へ接近する機会をより大きく有しているということによって根拠づけられる。BAG vom 30. 11. 1994, BB 1995, S. 620;BAG vom 20. 4. 1994, BB 1994, S. 1938.

(24)  もっとも、社会計画が事業所組織法七五項一項に違反することから、直接的な個別的法上の法的効果は導き出されない。しかしそれと同時に使用者が平等取扱原則に違反している場合、労働者は訴訟によって個別的法上の法的効果を発生させることができる。Stephan Fritsch, Gleichbehandlung als Aufgabe von Arbeitgeber und Betriebsrat nach § 75 Abs. 1 BetrVG, BB 1992, S. 701ff. (707);Fitting/Kaiser/Heither/Engels, a. a. O., S. 1043, Rdnr. 22.

(25)  BAG vom 28. 10. 1992, NZA 1993, S. 717f. Reinhard Ku¨nzl, Gleichbehandlung, Kasseler Handbuch zum Arbeitsrecht Bd. 1, 1997, S. 1157 も同旨。

(26)  BAG vom 31. 7. 1996, DB 1997, S. 281;Peter Schrader, Der arbeitsrechtliche Gleichbehandlungsgrundsatz im Sozialplan, DB 1997, S. 1714ff. (1715).

(27)  BAG vom 9. 11. 1994, BB 1995, S. 1038.

 

第二節  平等取扱原則が部分的に適用される領域

  本節において取り上げる四つの領域には、いずれも平等取扱原則の適用が肯定される。しかしその場合、先に述べた任意的社会給付の領域とは異なり、平等取扱原則の適用は「部分的なものにとどまる(1)」、あるいは「制限的なものにとどまる(2)」とされる。この「部分的」もしくは「制限的」という言葉は、ここで取り上げられる領域に対して平等取扱原則が適用される場合、他の法規や法原則との関連で平等取扱原則の適用が限定されたり、あるいは平等取扱原則を適用する実務上の意義がわずかにとどまることを意味している。本節では、各領域における平等取扱原則の内容や具体的事例を検討するとともに、平等取扱原則の適用が制限される原因についても検討を行う。


一、指揮命令権(Direktionsrecht oder Weisungsrecht)の行使

  使用者は、労務給付の場所、時間、種類、態様および範囲をより詳細に決定する権利、すなわち指揮命令権を有する(3)。この指揮命令権によって、使用者は労働義務の内容を一方的かつ継続的に形成することが可能となる。労働義務内容の形成は、具体的には、日常的な労働の指示・監督を通じてなされる労働の方法や態様の決定・変更、労働者の配置および配置転換命令を通じてなされる労働の種類や場所の決定・変更、労働時間の配置の決定・変更、年次有給休暇の時期の決定・変更などによって行われる。また指揮命令権には、事業所の秩序(Ordnung des Betriebs(4))を設定し規律する権利も含まれ、具体的には、機械・器具の使用に関する規程の遵守、他の労働者との協力・事業所や労働者の安全保持を目的とする規程の遵守、事業所への出入規制などのさまざまな措置がとられる。

  指揮命令権の行使の領域に対しては、とくに一九五〇年代、使用者の形成の自由、すなわち契約の自由が平等取扱原則に優先するとし、平等取扱原則の適用を否定する見解が述べられていた。しかし現在では、指揮命令権の行使に対する平等取扱原則の適用を肯定する見解が支配的である(5)。その理由として、平等取扱原則は、法律関係の一方当事者である使用者に強力な決定権が付与されることによって、他方当事者である複数の労働者の間で有利に扱われる者と不利に扱われる者とが発生する場合に、労働者間の利益を公平に分配することを目的とするものであるが、使用者の指揮命令権の行使はまさにこの典型的なケースにあたるという点があげられる。すなわち、ここでの平等取扱原則は、優位にある者をコントロールする手段として使用者の形成権を制限する機能を有するのである(6)。しかし、ここで問題となるのは、平等取扱原則と使用者の形成の自由、すなわち契約の自由との関連である。両者は互いに排斥しあうものではなく、両立して存在し、いかなる場合においても互いに慎重に考慮されなければならない法原則である。このような観点から、契約の自由が優先するケースと平等取扱原則が優先するケースは、つぎのように区別される。

  指揮命令権の行使に対する平等取扱原則の適用を検討する際には、ルールの作成(Aufstellung der Regel)と、命令によるルールの実行(Vollzug durch Erteilung der Weisung)が区別されなければならない(7)。まず、使用者が指揮命令権を行使して個々の労働者の労働義務内容を形成する場合、そこではルールの作成が問題となる。ルールの作成に関しては、使用者が労働契約の内容に従いそのルールを確定することができるかが問題であり、労働契約上可能であり法律上の差別的取扱の禁止が存在しない限り、契約の自由が優先する。つぎに、作成されたルールの実行は、主に個別の労働者に対する命令に基づいて行われるが、その場合使用者は命令を与える労働者を自由に決定することができる。つまり、個別の労働者に対する命令によるルールの実行に関しては契約の自由が優先し、平等取扱原則に基づいてその正当性が検討されることはない。しかしルールの実行において、使用者が個別の労働者に対する命令を他の労働者に対しても同様に与える場合、平等取扱原則は使用者による指揮命令権行使の限界として作用する。したがって、使用者はひとつの命令を複数の労働者に対して与える場合には、客観的な理由なく何人かの労働者を命令の対象から除外したり、あるいは何人かの労働者にのみ命令を与えてはならない。他方、使用者が指揮命令権によって事業所の秩序を設定し規律する場合には、それがそもそも複数の労働者を対象とするものである以上、とりわけ平等取扱原則の遵守が不可欠となる。

  なお、今日たいていの事業所においては、事業所組織法によって規定される従業員代表委員会の共同決定が存在し(8)、使用者による指揮命令権の行使はこの共同決定によってコントロールされる。この場合には、原則として事業所組織法七五条一項に規定される差別的取扱の禁止が問題となる。したがって、指揮命令権の行使に関して平等取扱原則が直接に問題となるのは、事業所組織法が適用されない事業所(9)や従業員代表委員会が存在しない事業所(10)といった共同決定が存在しない領域や、事業所協定によらず従業員代表委員会の同意(Zustimmung)が問題となる使用者の命令によって行われる規制の領域であるとされる(11)

  以上のように、指揮命令権の行使における平等取扱原則の適用は、契約自由の原則や従業員代表委員会の共同決定制度との関連で、部分的なものに制限される。このことを念頭においたうえで、つぎに指揮命令権行使の領域における平等取扱原則の適用事例を検討する。第一に取り上げるのは、使用者が指揮命令権を行使して個別労働者の労働義務内容を形成するケースであり、具体的には労働の命令や格付け(Einstufung)・配置転換(Versetzung)に関する平等取扱原則の適用について検討する。第二に取り上げるのは、使用者による事業所の秩序の設定・規律に関するケースであり、具体的には出入口検査(Eingangs− und Torkontrolle)と勤務規定(Dienstvorschriften)に関する平等取扱原則の適用について検討する。


  1、労働の命令

  使用者は平等取扱原則に基づき、労働を対象となる労働者に対して平等に配分しなければならない。このことは、使用者が労働者に対して法定時間外労働(Mehrarbeit)、所定時間外労働(U¨berarbeit)、深夜労働(Nachtarbeit)、祝日労働(Feiertagsarbeit)を命令する場合に妥当する(12)。また操業短縮にともなう短縮労働(Kurzarbeit)の命令にも平等取扱原則が適用される(13)

  もっとも、労働の命令において行われる差別的取扱に客観的な理由が存在すれば、平等取扱原則に対する違反は存在しない。すなわち、使用者は、付随的な労働の命令を与える労働者集団を形成することができる。客観的な理由と認められるものとして、まず第一に、付随的な労働に従事することによって高額な報酬を受け取るといった労働者の利益があげられる。たとえば使用者が時間外労働の配分に関して、常にその労働に同意する労働者を動員することにしている場合、同意していない労働者に時間外労働を配分しなかったからといって平等取扱原則に違反するわけではない。これに対して使用者が、時間外労働に同意している複数の労働者のうち何人かの労働者を客観的な理由なくその労働の配分から排除するときには、平等取扱原則に対する違反が存在する(14)。第二に、労働者の個人的な諸事情(家族構成、既婚・未婚の区別、通勤手段など)があげられる。たとえば、深夜労働や日曜労働を命令する際に未婚の労働者を優先的に動員することは、既婚の労働者は超過勤務よりも家族生活を優先させるということが立証されれば、客観的な差別的取扱とみなされる(15)。また、たとえば人里離れた田舎に住む労働者に対して深夜にシフトが終了する労働を命じると、その時間にはもはや帰宅するための交通手段が停止しており労働者が家に帰れなくなるという場合、その労働者を深夜労働の命令対象から除外することは、客観的に正当化される差別的取扱である(16)。また、使用者が指揮命令権を行使して年次有給休暇の時期を決定する際には、労働者の家族構成が差別的取扱のメルクマールとして重要である。たとえば、使用者が、義務教育を受けている子供をもつ労働者に対しては学校の休暇期間に有給休暇の時期を決定し、それ以外の労働者には学校の休暇期間以外の時期に有給休暇を取得させる場合、そのような差別的取扱は平等取扱原則に違反しない(17)

  労働の命令に関して平等取扱原則が適用される場合、使用者は平等取扱原則に反しない命令実施方法を採用し、一定の期間内に可能な限り均等な負担を労働者に対して課さなければならない。その場合の一定の期間を一週間とするか、一カ月あるいは一四半期(1/4 Jahr)とするかは、各事業所、各部門あるいは各職業ごとに使用者によって決定される。そして一定の期間内に均等な負担を労働者に課す手段としては、順番(Turnus)を採用することで十分である(18)。これに対して、たとえば時間外労働に動員される労働者をくじによって決定すること(Losentscheidung(19))は、もはや時代遅れとして否定される。


  2、格付け(Einstufung)・配置転換(Versetzung)

  今日たいていの企業においては、労働協約のなかで賃金と労務給付の対応関係を定めた賃金グループ(Vergu¨tungsgruppe)が設けられており、使用者はこの賃金グループに基づき労働者の格付け、あるいはその変更(昇格・降格)を行う。ここで、使用者が一定のメルクマールに従って昇格を行うというルールを作成する場合、平等取扱原則が適用され、使用者はその要件を満たしている労働者を、客観的な理由なく昇格の対象となる労働者集団から排除してはならない。以下では、このことについて連邦労働裁判所が判断したケース(20)を検討する。

  本判決の事案はつぎのようであった。連邦職員労働協約(Bundesangestelltentarifvertrag)で定められた賃金グループに基づき格付けされていた原告は、賃金グループXbからWbへの昇格を人事局(Personalamt)に申請した。この昇格は、公務員計画ポスト(Beamtenplanstellen)に任命され、かつ二年半以上賃金グループXbに格付けされていた職員が、任務の範囲、人格形成ならびに能力形成に関して各ポストにおいて明確な能力を示した場合に実施されることになっていたが、原告に関してはその職務領域の縮少などを理由に昇格申請が却下された。これに対して原告は、公務員計画ポストに任命され二年半以上賃金グループXbに格付けされていたすべての職員が、実際に行われた仕事を顧みることなく賃金グループWbへ昇格したにもかかわらず、同様にすべての要件を充足している自分はこの優遇措置から排除されたとして、配慮義務ならびに平等取扱原則違反に基づき昇格請求権の存在に関する確認の訴えを提起した。これに対して被告は、賃金グループWbに対応する基準を満たしていない職員を賃金グループWbへ格付けしたことはないと主張し、訴えの棄却を求めた。これについて連邦労働裁判所第四法廷はつぎのように述べ、事件の審理を州労働裁判所に差し戻した。

  支配的見解によれば、契約自由の原則が平等取扱原則に優先する。賃金や給与につき、とくに協約の文言以上の事柄は、通常個別契約によって取り決められる。それゆえ、報酬に対する請求権を根拠づけるには、比較しうるすべての労働者が多くの報酬を受け取っているという事実の存在だけでは十分でない。もっとも原告の主張が適切だとすると、被告は個別契約上の取り決めや労働者の個別的な視点を顧慮することなく、協約の内容をこえて一般的に一定の職員の格付けを行っていたことになる。そのような一般的な賃金変動においては平等取扱原則が遵守されなければならず、個別の労働者が非客観的な、もしくは事実に反する視点を理由に排除されてはならない。しかしこのことは、被告が協約の内容をこえて、同一職務上の地位にあったすべての職員を賃金グループWbへ昇格させたということを原告が証明しえた場合にのみ妥当する。

  使用者による一般的な取扱の存在が証明された場合、原告に対する差別的取扱に客観的な理由が存在するか否かが問題となる。ここで、職務領域の縮小による原告の仕事価値の低下という、被告によって述べられた差別的取扱の理由が問題となる。しかし、これに対しては命令権の限界が留意されなければならない。原告は、すでに少なくとも賃金グループXbの範囲内で雇用されることに対する請求権を有している。したがって被告は、原告を賃金グループXbの枠内で雇用するように行動しなければならず、ただ職務のいくつかが廃止されたことをもって原告がこれまで一度も賃金グループXbの基準を満たすことができなかったと主張することはできないのである。仮に被告が賃金グループXb内部において、賃金グループWbの基準を満たしていないにもかかわらず特別な労働を行った職員を任意で賃金グループXbに昇格させたというのであれば、当該差別的取扱に関する客観的理由の存在は肯定されたであろう。

  この判決からも明らかなように、通説および判例によれば、使用者による労働者の格付けあるいはその変更が個別的に行われる場合、契約自由の原則が優先され平等取扱原則は適用されない。平等取扱原則が適用されるのは、使用者が格付けあるいはその変更を一定のメルクマールに従って行うというルールを作成し、そのルールを使用者が実行する場合に限定されるのである。

  さらに使用者は、指揮命令権の行使によって、労働者の職種や職務内容、勤務場所を変更することができる。このような使用者の措置は配置転換(以下、配転)と呼ばれ、使用者は何人の労働者、そしてどの労働者を配転するかにつき原則として自由に決定することができる。この使用者による配転命令に関して平等取扱原則が問題となるのは、ある労働者がより価値の高い職務に配置されたことを理由として、その労働者と同一の資格をもつ他の労働者が、同等の職務への配置を使用者に対して要求するケースである。しかし通常、配転は個別の労働者の能力や適性の差異を考慮して行われるので、客観的な理由の存在が肯定されやすい。したがって、配転に関して平等取扱原則が適用され請求権が発生する実際上の可能性はわずかであるとされる(21)


  3、出入口検査(Eingangs− und Torkontrolle)

  事業所の秩序を維持するために、使用者が事業所の出入口で、労働者に対して所持品検査や身体検査を行う場合がある。このような使用者による出入口検査は、労働者の一般的人格権を侵害する恐れが高いという理由から、これを使用者の指揮命令権の行使によって実施可能な措置と考えることの是非が問題とされている(22)。もっとも今日では、出入口検査は事業所組織法八七条一項一号により従業員代表委員会の共同決定のもとにおかれている。さらに、労働契約や労働協約上の取り決め、あるいは共同決定権の有無にかかわらず、出入口検査の実施には、@追求される目的の達成にとって出入口検査の実施が不可欠であること、そしてA相当性原則(Grundsatz der Verha¨ltnisma¨βigkeit)の遵守が不可欠と考えられている。このうち@に関しては、たとえば事業所内で事業所財産の窃盗が頻繁に発生し、使用者が緊急にこれを阻止しなければならないというような逼迫した状態が考えられる。Aに関しては、検査を実施するにあたり労働者の名誉を侵害しない手段がとられること、検査の実施が不当に長い期間に及ばないこと、そして平等取扱原則に違反しないことが要求される。ここでは、第三の要件である平等取扱原則の遵守について言及した判決(23)を検討する。

  本判決の事案はつぎのようであった。製粉機工場での穀粉の窃盗を阻止するために出入口検査の実施を計画した被告は、守衛に対して事業所より帰宅する労働者に対する無作為抽出検査の実施を命令した。守衛は原告に強い疑いを抱き、原告を呼び止め検査を行ったが、原告はこれを拒否した。というのも、原告はとくにしばしば守衛たちの注意を引くという理由で、平均して他の労働者よりも頻繁に検査を受けていたのである。被告がこの検査拒否を理由に原告を即時解雇したため、原告は解雇無効を求めて訴えた。これに対してマンハイム州労働裁判所はつぎのように述べ、原告に対してなされた解雇の正当性を否定した。

  仮に、出入口検査が今日の支配的見解において適法であるとしても、一連の基本的な諸要件、とりわけ平等取扱原則の尊重という要件が満たされていなければならない。平等取扱原則を尊重する必要性は、出入口検査の本質から生じる。無作為抽出検査によって行われる出入口検査は、検査が実施される可能性についてすべての労働者を均等な地位におき、それによって労働者の軽率な行動を阻止するものである。さらにそれは威嚇的な原理(abschrekkendes Prinzip)を包摂し、労働者の名誉を侵害する性格を有するが、この性格は、出入口検査を受ける必然性がすべての労働者に対して存在する場合に初めて排除され、そしてはじめて労働者全員にとって甘受しうるものになる。これに対して平等取扱原則が守られない場合、人間の不完全性の結果として、個人の自由や尊厳に対する不可侵性が軽視される状況になるのは避けられない。このことは、たとえば検査を受ける労働者の選考が、検査する者の主観的な考えによって行われる場合や、一定の人間にあらかじめ存在していた猜疑心によって行われる場合に妥当する。選び出された労働者は、客観的な根拠がないにもかかわらず、とくに疑わしい人物であるというラベルを付けられることになるのである。

  本件における出入口検査の実施方法をみると、検査を実施する守衛の個人的な立場、すなわち一定の労働者に対する先入観による影響を受けた立場に対して自由な裁量の余地が認められていたこと、さらに守衛が疑いを抱く要素は全く客観的な判断によらず、主観的な評価に基づくものであったことから、平等取扱原則に対する違反が存在する。このように違法な出入口検査を原告が拒絶したことは即時解雇の理由にもならず、また通常解雇の理由にもならない。

  本判決も述べているように、出入口検査の実施には、平等取扱原則の遵守が不可欠の要件となる。それでは、どのような方法によって出入口検査を実施すれば平等取扱原則に違反しないといえるのだろうか。まず実際にすべての労働者が出入口検査を受ける場合、そこには平等取扱原則の違反が存在する余地はない。しかしこのような方法を採ることは、多くの労働者を雇用する巨大事業所において出入口検査を実施する場合には事実上不可能である。そこで、このような巨大事業所においても実現可能で、かつ平等取扱原則にかなう検査実施方法とはいかなるものかが問題となる。ここで平等取扱原則は、常にすべての労働者が実際に検査を受けることを要求するものではなく、少なくとも検査を受ける可能性がすべての労働者にとって等しくなることを要請するものである(24)。したがって、たとえば人間が通過するとき偶然にランプが点灯するという装置を用いて、ランプが点灯したときに出口を通過した労働者だけを検査するという方法や、客観的な手法に基づく無作為抽出検査は平等取扱原則に違反しない。また、客観的な容疑を根拠として個別の労働者を検査する場合、そこには差別的取扱のための客観的な理由が存在するため平等取扱原則の違反は存在しない。これに対して、具体的な容疑の根拠がないにもかかわらず、たとえば外国人の労働者や未成年の労働者といった一定の労働者集団に限定して出入口検査を実施することや、くり返し一定の労働者に対して検査を実施することは平等取扱原則に違反する。


  4、勤務規定(Dienstvorschriften)

  使用者が指揮命令権を行使して、労働時間中の喫煙禁止や事業所内での一定の服装の着用に関する定めを勤務規定におく場合、使用者はその勤務規定の適用に際して平等取扱原則を遵守しなければならない。たとえば、使用者は客観的な理由がないにもかかわらず、何人かの労働者に対してのみ喫煙を禁止することはできない。しかし客観的な理由が存在する場合には、従業員の一部分に対してのみ勤務規定を適用することが許される。喫煙禁止に関していえば、とくに一定の部署にのみ存在する火事の危険性や、もしくは煙のない状態で顧客に接する必要性などが客観的な理由としてあげられる。

  なお、勤務規定による事業所秩序の規律もまた出入口検査の場合と同様に、事業所組織法八七条一項一号により従業員代表委員会の共同決定の下におかれている(25)。したがって、共同決定制度によって非客観的な差別的取扱が是正されるところでは、平等取扱原則は直接的には問題とならない。


二、賃金支払

  賃金支払に対する平等取扱原則の適用は、今日では判例および学説によって一般的に承認されている。しかし、ここでもまた平等取扱原則の適用は部分的に制限される。第一に、労働契約当事者による自由な交渉によって取り決められた賃金に対しては、平等取扱原則は適用されない。なぜなら、ここでは労働契約当事者の契約の自由が平等取扱原則に優先するからである。したがって労働者が採用の時点で、事業所における一般的な賃金よりも低い条件の賃金を使用者と取り決めた場合、その労働者は採用後に平等取扱原則を根拠として、事業所における一般的な賃金と同等の賃金を使用者に対して要求することはできないとされる(26)

  第二に、今日たいていの事業所においては、使用者による賃金の支払は労働協約や事業所協定によって規制されている。まず賃金に関して労働協約上の取り決めが存在する場合、平等取扱原則が適用される必要はない。なぜなら、労働協約当事者は基本法一条三項が述べるところの規範制定者として、基本法三条の差別的取扱禁止規定に直接拘束されるからである(27)。また使用者は、協約締結組合の組合員ではない労働者に対して、協約上の規定を適用する義務を負わない。なぜなら、協約締結組合の組合員である労働者とそれ以外の労働者を差別的に取り扱うことは、協約拘束性の有無から正当化されるからである(28)。他方、事業所組織法八七条一項一〇号および一一号によれば、賃金支払に関する問題は従業員代表委員会の共同決定事項とされている(29)。したがって、使用者による賃金支払が事業所協定によって規制される場合、そこで生じる差別的取扱に関しては事業所組織法七五条一項の差別的取扱禁止規定が問題となり、平等取扱原則は直接的に問題とならない。

  以上のことから、使用者による賃金支払に対して平等取扱原則が適用されるのは、労働契約や労働協約による取り決めが存在しない領域(30)、あるいは事業所協定による規制が存在しない領域において、使用者が統一的な規制の方法で一般的に賃金を引き上げたり、もしくは一般的な手当の支給によって労働賃金の高さを一方的に確定する場合である(31)。たとえば、三〇%から四〇%に及ぶ一般的な賃金の引き上げから何人かの労働者が排除された事件において、連邦労働裁判所は、その賃金の引き上げに相当して労働者の生計費が明らかに上昇している点に着目し、平等取扱原則の適用を肯定した(32)。また別の判決において、連邦労働裁判所は、客観的な理由がないにもかかわらず、個別の労働者もしくは労働者集団が一般的な賃金変動(Lohnwelle)の枠内における賃金の引き上げから排除されてはならないとする判断を示した(33)。さらに一定の時点に労働協約の拘束を受ける職員とそれ以外の職員の給与が一般的に引き上げられたケースにおいて、少なくとも個別的な昇給のなかに、賃金水準や物価水準の上昇を理由とした「基本額(Grundbetrag)」が含まれている場合には、協約の拘束を受けない個々の職員はその給与の引き上げから排除されてはならないという判断が示された(34)。さらに連邦労働裁判所はつぎにあげる判決(35)において、一定の時点における賃金の引き上げだけではなく、異なった時点かつ異なった高さで一般的に賃金の引き上げが行われた場合にも平等取扱原則の適用を肯定している。

  本判決の事案はつぎのようであった。果実販売卸売業を営む被告は労働協約の拘束を受けず、任意に労働者の労働賃金を引き上げていた。その引き上げ額は毎年全労働者を平均して二〇〇DMであったが、そのなかには一〇〇〇DMに及ぶ賃金の引き上げを受ける労働者もいれば、全く賃金の引き上げを受けない労働者も存在した。原告Aの賃金は毎年引き上げられていたが、一九七九年五月を最後に引き上げられなくなった。Aは、少なくとも被告の雇用する労働者の九五%が一九七九年から一九八一年の間にコンスタントな(linear)賃金の引き上げを受けており、自分は賃金が引き上げられていない唯一の労働者であると主張し、月額一〇〇DMの給与の引き上げを請求した。他方、原告Bもまた毎年給与の引き上げを受けていたが、一九七九年九月を最後に引き上げられなくなった。Bは、第一審にあたるブレーメン労働裁判所において一九八〇年九月から一二月に月額一五〇DMの給与の引き上げ請求が認容されたのに続き、Aと同様の主張を根拠として、一九八一年一月から一九八二年二月までの期間に関して月額一五〇DMの給与の引き上げを請求した。原告AとBの訴えに対して、被告は、問題の期間にコンスタントな賃金の引き上げを行ったことはなく、実際にはとくに労務給付を考慮する下で、資格、年齢、家族構成、扶養義務、事業所への労働者の帰属(Betriebszugeho¨rigkeit)を考慮して、かつ個別の労働者と事前に綿密な話し合いのうえで賃金の引き上げを行っていたと主張した。さらに被告は、Aは一九八一年に配転命令を受けた後、その職務上の地位における仕事しか行っておらず、同一の仕事に従事する他の従業員がAの給与より少ない報酬しか受け取っていないことにかんがみれば、Aはむしろ過剰な給与の支払を受けていたと主張し、またBについては、たび重なる遅刻や上司に対する侮辱を理由として賃金の引き上げを受けることができなかったのだと主張した。これに関して、連邦労働裁判所第七法廷はつぎのように判断した。

  判例によれば、平等取扱原則は使用者に対して、恣意的に、つまり客観的な理由がないにもかかわらず何人かの労働者あるいは労働者集団を一般的な優遇措置から排除することを禁止する。客観的な理由が存在しないとき、排除された労働者は一般的な措置による取扱を要求することができる。労働報酬の領域において、任意の賃金引き上げが個別的に行われる場合であっても、その引き上げ額の一部分がすべての労働者に妥当する一般的な賃金構成要素に基づいている場合(36)には平等取扱原則の適用が認められる。

  賃金支払の領域における平等取扱原則の適用に関する従来の判決からは、賃金の引き上げが一定の時点(bestimmter Zeitpunkt)に行われているという共通性が見いだされる。しかし、一定の時点における賃金引き上げという事実は、平等取扱原則の適用可能性にとって必要な要件ではない。たしかに、賃金引き上げの一定の時点を確定することは、平等取扱原則から生じる請求権の内容の確定を容易にする。しかし、個々の労働者が賃金の引き上げから完全に排除されていることの立証においては、同僚の労働者が、仮に異なった時点にであったにせよ一定の期間(bestimmter Zeitraum)に賃金の引き上げを受けていたにもかかわらず、問題の労働者がその期間に賃金の引き上げを受けなかったという事実が重要である。本件においては、一定の期間に少なくとも労働者の八〇%以上が一二五DM以上の賃金引き上げを受けていた。州労働裁判所はこの点を根拠として、被告による賃金の引き上げには購買力の調整(Kaufkraftausgleich)を目的とするコンスタントな賃金構成要素(lineare Komponente)が含まれていたと判断したが、この判断に誤りはない。当該期間における少なからぬ物価上昇率にかんがみれば、使用者による一般的な賃金引き上げのうち、その一部分が物価の上昇にともなう労働者の購買力低下の調整に寄与すると判断することは、経験則や事実上の推定(tatsa¨chliche Vermutung)によって支持しうる。ここで被告が、コンスタントな賃金構成要素である「基本額(Grundbetrag)」と、個別の労働者の労務給付や格付けが考慮される賃金構成要素である「能力額(Qualifikationsbetrag)」の範囲を明確にしなかった場合、それは民事訴訟法二八七条二項による査定(Scha¨tzung)という方法で確定される。すなわち、購買力低下を調整するための基本額がいかなる高さであるかは、裁判官が、何人かの労働賃金の上昇率をそのときどきの標準的な期間における物価上昇率と比較することによって確定しうる(37)

  結果として連邦労働裁判所は、本件賃金引き上げに存在する購買力低下の調整という目的に照らし、原告A・Bを一般的な賃金引き上げから排除する客観的な理由は存在しないと判断した。

  最終的に判例は、賃金の引き上げに設定された目的と両立しうる客観的な理由が存在する場合を除いて、労働者は平等取扱原則にしたがい、賃金引き上げの一部分を構成する基本額の付与から排除されてはならないという結論に達している。もっとも使用者が一定の労働者集団を形成しそれが客観的に正当と認められる場合、使用者は賃金の引き上げにおいて差別的な取扱をすることが可能である。客観的に正当化されうる集団形成のメルクマールとして、格付け、労働者の年齢、家族構成、扶養義務の有無、事業所への労働者の帰属、労務給付の内容があげられる(38)。たとえば、多くの子どもを有する労働者にのみ物価高手当を与え、独身の労働者には物価高手当を全く与えないという使用者の措置は、子どもの多い労働者にとっては、独身の労働者もしくは子どものいない労働者と比較して物価上昇によって受ける家計への影響がより深刻であるという理由から正当化される。また、既婚の労働者で配偶者が仕事に就いている場合、それに基づく賃金支払における差別的取扱が認められる場合がある。事業所の構成員である期間(勤続年数)が、一般的に賃金支払における差別的取扱の客観的な基準となりうるか否かについては、使用者は経営にとって忠実な労働者に対して勤続年数に応じた高い賃金を支払うことができるとする見解(39)が主張される一方で、手当を与える理由(たとえば物価高手当であれば生計費の上昇の緩和)と差別的取扱の基準(企業への忠実の程度)との関連が欠けている場合には、勤続年数は客観的な基準とはなりえないという見解が主張されている(40)。また、使用者による手当が労務給付に対して支払われるものである場合、使用者は平等取扱原則に従い、当該労務給付を提供したすべての労働者に対してその手当を支払わなければならない。たとえば外国語手当は、労務給付の提供において語学の知識を使用するすべての労働者に対して支払われなければならないとされる(41)


三、損害の賠償


  1、使用者による損害賠償請求

  労働者は労働契約の締結によって、使用者に対して労務を提供する義務を負う。したがって、労働者が労務給付を不完全にしか提供せず、その不完全給付について労働者側に故意・過失が存在する場合、労働者は積極的債権侵害(positive Vertragsverletzung)に基づく損害賠償義務を負う。また、労働者は労働契約上、使用者の所有する資材や施設を注意深く取り扱う義務を負っており、この義務に違反した場合も労働者は積極的債権侵害に基づく損害賠償義務を負うことになる。

  ところで、ドイツ民法は雇用契約につき特別の故意・過失の基準を定めていないので、労働者による積極的債権侵害に基づく損害賠償義務は、BGB二七六条(42)に基づき軽過失によるものであっても発生することになる。また、労働者の不法行為責任(BGB八二三条一項)に関しても同様のことがいえる。上記の理由により労働者が損害賠償義務を負う場合、BGB二四九条以下に規定される完全賠償の原則に基づき、労働者はすべての損害結果について責任を負う。

  以上のような民法上のルールに基づき、使用者が労働者に対して損害の賠償を請求する場合、平等取扱原則が適用され使用者が平等取扱義務を負うか否かについては争いがある。平等取扱原則の適用を肯定する見解は、個別の労働者を客観的な理由なく侵害する不平等取扱は、使用者による損害賠償の請求に関しても排除されるべきであり、複数の労働者によって引き起こされた損害の賠償請求に関して、使用者は客観的な理由なく、損害を引き起こした労働者のうちの何人かにのみ損害の賠償を請求してはならないと述べる(43)。しかし、使用者による労働者への損害賠償請求に平等取扱原則を適用することに関しては、つぎの二つの点が指摘される。

  まず第一に、複数の債務者が一個の給付を負担する場合、債権者は各債務者に対して任意に全部または一部の給付を請求することができるとするBGB四二一条(44)の存在が指摘される。この規定によれば、使用者は平等取扱の義務を負わず、むしろ損害賠償の責任を負う労働者を選択する権限を有し(45)、使用者によって損害賠償を請求された労働者が、その他の損害賠償義務のある労働者に対して求償することになる(BGB四二六条二項(46))。第二に、判例によって展開されてきた労働者責任の制限原則(47)の存在が指摘される。すなわち、通常の労務給付において非常に高額な財貨を取り扱わなければならない労働者にとって、上述した民法上の過失責任ルールや完全賠償の原則は非常に過酷なものとなる。この点にかんがみて、経営によって指示された労働によって引き起こされた損害の配分に関しては、たとえ労働者の軽過失によって引き起こされた損害であっても、使用者はその損害のすべてを負担しなければならないという原則が、判例によって確立されている。また中程度の過失(mittlere Fahrla¨ssigkeit)もしくは重過失によって引き起こされた損害であっても、さまざまな事情を考慮したうえで労働者の責任が制限されている。このような状況の下では、使用者による損害賠償請求に対して平等取扱原則を適用する実務上の意義はわずかにとどまるとされる(48)


  2、労働者の被った損害に対する使用者の措置

  労務を給付する際に損害を受けた労働者が使用者に対して損害賠償を請求し、使用者がそれを履行する場合、平等取扱原則が適用され使用者は平等取扱義務を負う。もっとも、損害賠償請求権が個別の労働者の権利として発生している場合、労働者はその権利に基づき訴訟を通じて個別に損害賠償請求をすることができるので、平等取扱原則を適用する実務上の意義は存在しない。したがって、平等取扱原則の適用が問題となるのは、使用者の故意・過失がないにもかかわらず労働者が物的損害(Sachschaden(49))を受け、使用者がその物的損害に対してBGB六七〇条(50)のいう費用の償還をする必要がなく、そのうえで使用者が任意に損害の賠償を行う場合に限定される。また、労働者の人的損害に対し使用者によって任意に支払われる慰謝料(freiwilliges Schmerzensgeld(51))に関しても、平等取扱原則が適用される。労働者の被った損害に関して、使用者がそもそも賠償義務を負わないにもかかわらず一部の労働者に対してのみ損害を賠償し、その他の労働者を損害賠償の対象から排除するとき、排除された労働者は平等取扱原則を根拠として損害の賠償を請求することができるのである。

  使用者が任意に損害を賠償する場合には、一定の裁量の余地が使用者に対して認められる。したがって、使用者が裁量の枠内で労働者に対する損害の賠償を差別的に行う場合には、客観的な理由の有無が問題となる。たとえば使用者が事業所の火事によって労働者に生じた損害を任意に補償する場合、放火の疑いのある労働者をその補償から排除することは許容される(52)。また、損害により財産上の不利益をとくに強く被った労働者に対して使用者が特別な補償を行うことも、正当な差別的取扱として認められる(53)


四、解    雇

  解雇における平等取扱原則の適用可能性は、学説においてこれまで否定されてきた。その理由は、たとえばつぎのように根拠づけられる(54)。まず通常解雇(ordentliche Ku¨ndigung(55))の場合、解雇制限法一条二項(56)は、労働者の人物(Person)もしくは行為(Verhalten)に解雇を行わなければならない理由が存在するか、あるいはその労働者の解雇に逼迫した経営上の必要性(dringende betriebliche Erfordernisse)が存在する場合にのみ、その解雇の正当性を認めている。つまり今日では、解雇の正当性は原則として個々の労働者の個別的な事由に基づいて判断されなければならず、そこには平等取扱原則が適用されるための前提条件である比較の可能性が存在しない。また、逼迫した経営上の必要性が解雇の理由とされる場合においても、解雇制限法一条三項(57)によれば、使用者は、解雇の対象となりうる複数の労働者のなかから実際に解雇する労働者を選ぶにあたって社会的視点(soziale Gesichtspunkte)を十分に考慮しなければならず、ここでもまた個人的な諸事情を考慮することが要請されている(58)。したがって、通常解雇における平等取扱原則の適用は解雇制限法によって排除される。

  つぎに特別解雇(auβerordentliche Ku¨ndigung)の場合、BGB六二六条一項(59)によれば、労働関係の継続が期待しえない重大な事由の存在が不可欠であるとされる。その重大な理由もまた、労働者による義務違反の重大さや類似の過ちをくり返す可能性、これまでの労働者の態度など、労働者の個人的な事情に関連している。また、特別解雇においては労働者の全人格が評価されるが、互いに完全に同一の人格というものは決して存在しないのであり、したがって特別解雇においても客観的に同一の事態というものは存在しない。以上のような説明によって、解雇の領域に平等取扱原則を適用することは完全に否定されていた。

  一方、判例もまた解雇に対する平等取扱原則の適用を否定する。もっとも、判例においては、形成権に対する平等取扱原則適用の否定がその根拠としてあげられていた。たとえば、使用者の時間外労働に関する命令に従わなかった労働者の即時解雇が問題となった事件において、即時解雇理由と同じ状況にあった労働者の数と実際に即時解雇された労働者の数が合わないという原告の主張に対して、連邦労働裁判所は、「平等取扱原則が、解雇権のような形成権の行使において適用されうるのであればともかく、そうでない限り原告の主張する点は重要でない。むしろそのような考えは拒否されるべきである」と述べている(60)。また、山猫スト(wilder Streik(61))を行った複数の労働者のうち一人だけが即時解雇された事件で、その即時解雇は平等取扱原則に違反しているとの原告の主張に対して、連邦労働裁判所は先の判決を引用し、平等取扱原則は解雇権の領域には適用されず、したがって「使用者は特別解雇を言い渡す際に、その解雇において同じ重大な理由が存在する労働者を平等に取り扱う必要はない」と判断した(62)

  しかし今日では、使用者による労働者の解雇に対しても平等取扱原則が適用されるべきであるとの見解が、学説において有力に主張されている。そして上記のような判例の見解に対しては、指揮命令権の行使に対する平等取扱原則の適用が承認されていることとの整合性が指摘される。すなわち、指揮命令権の行使に対する平等取扱原則の適用が肯定され、かつ平等取扱原則が使用者の形成権を制限する機能を有することが一般的に承認されている以上、むしろ解雇権が形成権として把握されるがゆえに平等取扱原則の適用が認められなければならないとされる(63)。他方で、形成権をその機能に着目して権利処分的形成権(einbrechendes oder rechtsvernichtendes Gestaltungsrecht)と内容充足的形成権(ausfu¨llendes Gestaltungsrecht)に分け、内容充足的形成権(たとえば指揮命令権)には平等取扱原則が適用されうるが、権利処分的形成権には平等取扱原則は適用されないとする見解も主張された(64)。しかしこの見解に対しても、むしろ使用者は労働条件の変更を変更解約告知によって実現することも可能であり、その場合解雇は機能的に内容充足的形成権と非常に近似してくるのであり、結果的にそのような形成権の機能上の区別によっても、指揮命令権には平等取扱原則が適用され、解雇には平等取扱原則の適用が否定されるということは説明しえないとされる(65)

  以上のように、学説においては、解雇の領域における平等取扱原則の適用可能性を認める見解が支配的となっている。しかしながら、先に述べたように、通常解雇の場合には解雇制限法、そして特別解雇の場合にはBGB六二六条一項によって使用者による解雇の正当性が判断されることになっている。そしてこれらの法規は、解雇の正当性判断に際して個別的な検討を要請するものである。したがって、そのような法律上の要請と、平等取扱原則において問題となる使用者による措置の集団的関連性とをどのようにして両立させるかが問題となる。ここで、仮に平等取扱原則が解雇の領域において、使用者に対して解雇理由に該当するすべての労働者の解雇を要請するか、あるいは禁止するものであると考えた場合、解雇の領域に平等取扱原則を適用することは、場合によっては使用者に大量の労働者の解雇を義務づけることに行き着く。この場合、法律上の規制と平等取扱原則は決して両立しえない。他方、平等取扱原則は使用者が一部の労働者を解雇する場合に、客観的に正当な基準に従って解雇される労働者を決定し、その結果何人も恣意的な差別的取扱を受けない状態を創設するものであると考えた場合、法律上の規制と平等取扱原則は矛盾せず、両者の両立が可能となるのである。

  では、法律上の規制と平等取扱原則の両立は具体的にどのようにして達成されるであろうか。この点に関して、平等取扱原則は原則として、通常解雇が解雇制限法一条に基づき社会的に正当なものであるか、もしくは特別解雇に関してBGB六二六条一項の要求する重大な理由が存在するかを判断する際に取り入れられるにすぎず、平等取扱原則に対する違反から解雇の法的無効を直接的に導き出すことはできないと考えられている(66)

  まず通常解雇に関して、解雇制限法一条二項は、労働者の人物や行為が解雇の理由とされるケースをあげている。このケースに関して、多くの労働者が解雇に結びつくような行動をとった場合、使用者は、同じ行動をとった他の労働者を引き続き雇用する以上、その行動が労働者を引き続き雇用する妨げとなっていると主張することはできないと考えられる。たとえば、使用者が、同じ方法で違法なストライキに関与した複数の労働者のうち一人の労働者だけを解雇し、その他の労働者を引き続き雇用している場合、解雇された労働者の違法なストライキへの関与という行動は、使用者による解雇の有効性を根拠づけることができない。もっとも、解雇された労働者の違法なストライキに対する関与の程度が他の労働者と比較して大きい場合や、解雇された労働者が再度このような事態を発生させる可能性を根拠づける状況が存在する場合、それらの事情は客観的な理由として当該差別的取扱を正当化する。これに対して、たとえば違法なストライキへの関与を理由とする解雇において、労働者の資産状況や年齢、健康状態といった社会的基準(soziale Kriterien)に従って解雇される労働者を選考するなど、解雇理由と関連のない基準に基づき解雇される労働者が選ばれた場合、その措置は非客観的な差別的取扱とみなされる(67)。他方、逼迫した経営上の必要性による解雇のケースにおいて、解雇制限法一条三項によれば、使用者は社会的視点を考慮したうえで解雇される労働者を選び出すよう義務づけられる。この社会的選択(Sozialauswahl)の規定は、解雇の対象となりうる複数の労働者のうち一部分だけが解雇される場合に、問題となる労働者間での公正を実現するために設けられたものであり、この規定それ自体が平等取扱原則を具体化するものであると評価される(68)

  つぎに特別解雇に関して、BGB六二六条一項によれば、労働契約の継続を要求しえない重大な理由の存在することが特別解雇の要件となる。これに関して使用者が、特別解雇の理由が存在するすべての労働者を解雇せず一部の労働者だけを解雇し、そのような差別的取扱を客観的に正当化しうる理由を主張できない場合、そこで問題となっている特別解雇の理由は、BGB六二六条一項のいう労働契約の継続を要求しえないほどの重大な理由とはいえないと推定される(69)。したがってその場合、BGB六二六条一項に基づき当該特別解雇は無効となる。

  ところで、ここまでは解雇制限法、もしくはBGB六二六条一項が問題となる解雇に関して検討してきたが、それらの法規定の効力が及ばない解雇の場合(70)、平等取扱原則はどのようにして適用されるのであろうか。この場合も、解雇の法的無効は平等取扱原則に対する違反を根拠として直接には導き出されない。したがって、仮に二つの完全に同様の解雇事例が存在するとしても、使用者が一方の事例において労働者を解雇しないことを理由として、他方の事例における労働者の解雇を無効とすることはできない(71)。使用者による解雇の法的無効は、BGB一三四条(法律上の禁止規定に違反する法律行為の無効)、BGB一三八条一項(良俗に反する法律行為の無効)から導き出されることになる(72)。したがって、使用者による差別的な解雇が善良の風俗に反する場合、その解雇は当該規定によって無効となる。

(1)  Maute, a.a. O., S. 120;Mayer−Maly, a.a. O., G I.

(2)  Zo¨llner/Loritz, a.a. O., S. 197.

(3)  Alfred Hueck/Hans Carl Nipperdey, Lehrbuch des Arbeitsrechts Bd. I, 7. Aufl., 1963, S. 158.

(4)  事業所の秩序とは、「事業所における妨害なき労働遂行および労働者の摩擦なき共同生活(Zusammenleben)と協力(Zusammenwirken)との保障を目的として、労働者またはその集団に対して一般的に行われる拘束力ある行為規制」と定義される。土田道夫「労働契約における労務指揮権の意義と構造(三)」法学協会雑誌一〇五巻一二号一二〇頁。

(5)  Hartmut Egger, Gestaltungsrecht und Gleichbehandlungsgrundsatz im Arbeitsverha¨ltnis, 1979, S. 60ff.;Reinhard Richardi, Gleichbehandlungsgrundsatz und Vertragskontrolle, Mu¨nchener Handbuch zum Arbeitsrecht Bd. 1, 1992, S. 152.

(6)  Maute, a.a. O., S. 137;Richardi, a.a. O., S. 152.

(7)  Richardi, a.a. O., S. 152.

(8)  従業員代表委員会の共同決定の対象は、社会的事項、人事的事項、経済的事項に区分される。このうち、社会的事項(soziale Angelegenheiten)は労働条件・就業規則に関するものからなり(事業所組織法八七条一項)、人事的事項は雇入れ、配転、格付け変更、解雇といった個別的人事措置とその計画段階を含むものである(同法九九条一項等)。そして経済的事項は、経営の組織・活動方法・活動領域における根本的変更に関するものである(同法一〇六条三項)。社会的事項については従業員代表委員会の狭義の共同決定権(Mitbestimmungsrecht)が認められており、使用者は従業員代表委員会の同意がなければ措置を全く実施することができない。他方、人事的事項に関する従業員代表委員会の関与の形態は、通知を受ける権利、意見聴取を受ける権利、協議権であり、社会的事項と比較して弱い形態となっている。そして経済的事項については、従業員代表委員会の関与は協議権までしか認められていない。中島正雄「西ドイツにおける人事問題の共同決定」季労一二八号一五七頁以下参照。

(9)  事業所組織法は使用者と従業員代表委員会に関する法である。したがって、従業員代表委員会が選出されない事業所(一条)、すなわち選挙権のある一八歳以上の常用労働者(七条)が五名未満である事業所、または五名以上の常用労働者を有していたとしても、そのなかで被選挙権を有する労働者(八条)が三名に満たない事業所には、事業所組織法は適用されない。

(10)  脚注(9)で示した従業員代表委員会選出のための最小規模を満たしていても、選挙が実施されない場合、従業員代表委員会は存在しない。したがって、この事業所における労働者には共同決定制度による指揮命令権行使に対するコントロールは機能しない。

(11)  Zo¨llner/Loritz, a.a. O., S. 197f.

(12)  Hueck/Nipperdey, a.a. O., S. 430;Mayer−Maly, a.a. O., G III 2;Richardi, a.a. O., S. 152. マイヤー・マリーはつぎの二つの場合に使用者は平等取扱義務を負うとする。すなわち、@使用者が必要とする労働者の数よりも多くの労働者が追加的な勤務をもたらす労働を行う意思がある場合、A自由な時間を切り詰める準備のある労働者が必要とされる労働者の数よりも少ない場合である。

(13)  Hueck/Nipperdey, a.a. O., S. 430;Mayer−Maly, a.a. O., G III 2. マイヤー・マリーによれば、操業短縮にともなう短縮労働がすべての部門を平等に対象とすることなく導入される場合には、短縮労働の命令がくり返し行われる場合にのみ平等取扱原則が適用される。

(14)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 156.

(15)  Maute, a.a. O., S. 142.

(16)  Ebd. S. 142.

(17)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 157.

(18)  Ebd. Rdnr. 155.

(19)  Erich Frey, Gleichbehandlungsfragen bei Ausu¨bung des Direktionsrechts, DB 1964, S. 298ff. (299).

(20)  BAG vom 10. 4. 1973, AP Nr. 38 zu § 242 BGB Gleichbehandlung.

(21)  Egger, a.a. O., S. 69f. 配転命令に関する平等取扱原則の適用については、土田道夫「西ドイツにおける配置転換の法理(二・完)」法政大学社会労働研究三三巻一号一一二頁以下も参照。なお、事業所組織法九九条一項によれば、使用者は格付けや格付け変更、配転を行う場合、それに関する情報を従業員代表委員会に提出しその同意を得なければならない。この制度もルールの適正な実行を確保しようとするものであり、使用者の指揮命令権に対する制限として機能する。

(22)  この点については、使用者による出入口検査の一方的な実施は認められず、労働契約もしくは労働協約上の合意が必要であると考えられている。Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 158.

(23)  LAG Mannheim vom 28. 10. 1953, BB 1954, S. 129.

(24)  Maute, a.a. O., S. 140., Marhold/Beckers, a, a, O., Rdnr. 163.

(25)  事業所秩序に関する使用者の命令とそれに対する事業所組織法の規制に関しては、土田・前掲「労働契約における労務指揮権の意義と構造(三)」一二二頁参照。

(26)  Zo¨llner/Loritz, a.a. O., S. 197. もっともこのような契約自由の平等取扱原則に対する優位を考える場合には、使用者と労働者の合意が真の意味での自由な交渉によるものであるかに注意する必要がある。この点については、本稿第三章第二節二参照。

(27)  Zo¨llner/Loritz, a.a. O., S. 201;Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 178.

(28)  Zo¨llner/Loritz, a.a. O., S. 201.

(29)  従業員代表委員会の共同決定に服する賃金問題は以下の点である。すなわち、賃金制度、とくに報酬支払原則の設定や新しい報酬支払方法の導入と適用、その変更(一〇号)、出来高払賃金率や割増賃金率の設定、ならびにそれと同等の労務給付と結びつけられた賃金の設定(一一号)である。

(30)  労働契約において賃金に関する取り決めがなされなかった場合、賃金額はBGB六一二条二項によって、通常一般的に行われている賃金支払に従って確定される。したがってこの場合、平等取扱原則が問題となるのは賃金請求権の根拠づけに関してではなく、賃金の高さに関してである。また労働協約の規定が存在しない領域としては、労働協約において賃金の取り決めが存在しない場合と、労働協約によって取り決められた賃金額をこえる賃金が使用者によって任意に支払われる場合が考えられる。

(31)  Neuss Wolf Hunold, Gleichbehandlung im Betrieb, DB 1991, S. 1670ff. (1670). また、たとえばメーヤー(Daniel Meyer)は、一般的な賃金の引き上げから何人かの労働者が排除されることは、単なる経済的な不利益取扱にとどまらず、同時に人格的な不利益取扱をも意味すると述べている。Daniel Meyer, Der Gleichbehandlungsgrundsatz im schweizerischen Arbeitsrecht, 1976, S. 282.

(32)  BAG vom 25. 4. 1958;Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 180.

(33)  BAG vom 25. 4. 1959, AP Nr. 15 zu § 242 BGB Gleichbehandlung;Marie−Luise Hilger, Zum Anspruch auf Gleichbehandlung im Arbeitsrecht, RdA 1975, S. 32ff. (33).

(34)  BAG vom 9. 11. 1972, AP Nr. 36 zu § 242 BGB Gleichbehandlung.

(35)  BAG vom 11. 9. 1985, BAGE Bd. 49, S. 346.

(36)  脚注(34)の判決で取り上げられたケースである。

(37)  基本額の査定に関して、本判決の控訴審であるブレーメン州労働裁判所は、問題の期間の各年に実施された賃金引き上げの最低額が、その年の物価上昇率と平均的な協約賃金の引き上げ率の中間にあることから、その賃金引き上げの最低額が基本額の唯一の基準になると判断していた。これに対して連邦労働裁判所は、そのような最低額が購買力の調整にのみ寄与し、その他の目的には寄与しない基本額にあたるとは必ずしもいえず、また平均的な協約賃金の引き上げ率も生計費以外の要素も含めて決定されるものであり、基本額の基準としては不適切であるとして事件を控訴審裁判所へ差し戻した。

(38)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 186.

(39)  Bu¨hnenoberschiedsgericht Frankfurt a. M. Schiedsspruch vom 1. 7. 1954, AP Nr. 2 zu § 242 BGB Gleichbehandlung.

(40)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 188.

(41)  Mayer−Maly, a.a. O., G IV.

(42)  BGB二七六条一項一文および二文はつぎのように規定されている。「債務者は別段の定めがない限り、故意および過失につき責任を負う。取引に必要な注意を怠った者は過失あるものとする。」

(43)  Mayer−Maly, a. a. O., G VII. もっとも労働者の異なった資産状況は、差別的取扱の基準として客観的であるとされる。

(44)  BGB四二一条一文の規定は以下の内容である。「複数の者が一個の給付を負担する場合において、各人が全部の給付を行うべき義務を負い、債権者がただ一回の給付を請求する権限を有するときは(連帯債務者)、債権者は任意に、各債務者に対して全部または一部の給付を請求することができる。」

(45)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 205.

(46)  BGB四二六条二項一文は以下の内容である。「連帯債務者の一人が債権者に満足を与え、かつ他の債務者に対して求償することができるときは、他の債務者に対する債権者の債権はその債務者に移転する。」

(47)  労働者責任の制限原則について、Lo¨wisch, a.a. O., S. 344ff.

(48)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 204.

(49)  これに対して、労働者の被った人的損害(Personenschaden)に対する使用者の民事法上の賠償責任は、労災保険の給付によって排除される(ライヒ保険法六三六条)。

(50)  BGB六七〇条は、「受任者が委任契約を履行する目的で状況に応じて必要と判断されてしかるべき費用を拠出したときは、委任者は費用償還義務を負う」と規定されている。この規定を準用することによって、労働者は、使用者の過失がないにもかかわらず、労務給付を提供する際に自己に生じた損害の賠償に対する請求権を有するとされている。LAG Baden−Wu¨rttemberg vom 17. 9. 1991, BB 1992, S. 568.

(51)  上述したライヒ保険法六三六条に基づく労働者の人的損害に関する使用者の免責(脚注(49)を参照)によって、損害にあった労働者またはその遺族の使用者に対する慰謝料請求権(BGB八四七条)も排除される。Lo¨wisch, a.a. O., S. 341.

(52)  Mayer−Maly, a.a. O., G VII. なおここではふれられていないが、そこでいう放火の嫌疑は客観的で具体的な根拠が存在するものでなければならないであろう。

(53)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 209.

(54)  Hueck−Nipperdey, a.a. O., S. 428f.

(55)  ドイツ労働法において解雇はつぎの二つに分類され、それぞれ別個の法規制が行われている。そのひとつが、労働契約の一方当事者によって単独でなされる労働関係の終了、すなわち通常解約告知(通常解雇)である。そしてもう一方が、特別な理由から労働関係を即時に解約する、いわゆる特別解約告知(特別解雇あるいは即時解雇)である。

(56)  解雇制限法(Ku¨ndigungsschutzgesetz, vom 25. 8. 1969 (BGBl. I S. 1317))一条二項一文はつぎのような規定である。「労働者の人物もしくは行為上の理由、あるいは労働者を引き続き雇用することを妨げる逼迫した経営上の必要性によらない解雇は、社会的に正当化されない。」

(57)  解雇制限法一条三項一文の規定は以下の内容である。「労働者が本条二項のいう逼迫した経営上の必要性を理由に解雇された場合であっても、使用者が労働者を選択する際に社会的視点を顧慮しなかったか、もしくは十分に顧慮しなかった場合には、その解雇は社会的に正当化されない。労働者の請求に応じて、使用者は当該社会的選択に行き着いた理由をその労働者に提示しなければならない。」

(58)  考慮されなければならない社会的視点とは、事業所所属期間、労働者やその家族の収入状況と資産状況、労働者の労働市場における見通し、労働者の年齢と健康状態、とくに新たな労働や、場合によっては生じうる住居の変更に対する適合といった、職場の変更と密接に結びついている結果などである。Lo¨wisch, a.a. O., S. 406. また、解雇制限法一条三項が規定する社会的選択に関しては、藤原稔弘「ドイツ解雇制限法における社会的選択の法理」季労一七九号一二一頁以下において詳細な検討が行われている。

(59)  BGB六二六条一項はつぎのような規定である。「すべての個別的諸事情を顧慮し、かつ両契約当事者の利益を考量する下で、その雇用関係を解約告知期間の満了、もしくはその雇用関係の合意による終了まで継続することが解約者に対して要求しえない事実が理由として存在するとき、その雇用契約は重大な理由に基づき、各契約当事者によって解約告知期間を遵守することなしに解約されうる。」

(60)  BAG vom 28. 2. 1958, AuR 1958, S. 378.

(61)  ドイツ労働法においては、協約能力を有する者、すなわち労働組合による争議行為のみが適法である。したがって、労働組合とは別個の労働者集団が行う争議行為、いわゆる「山猫スト」は原則として違法である。その場合、使用者は労働契約違反を理由として、違法な争議行為に参加した労働者を解雇することができる。なお、協約能力を有する労働組合が事後的に山猫ストを追認する場合には、山猫ストは遡及的に適法なストとして認められる。

(62)  BAG vom 21. 10. 1969, BAGE Bd. 22, S. 162.

(63)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 189.

(64)  たとえばゼルナー(Alfred So¨llner)はつぎのように述べている。労働関係における平等取扱原則の適用領域は、BGB三一五条の労働法における効力領域と一致する。しかしBGB三一五条に基づく給付決定権の有する機能と、解雇権の有する機能は異なっている。したがって、平等取扱原則は、BGB三一五条に基づく給付内容を決定する形成権には適用されうるが、解雇には適用されない。このゼルナーの見解に関しては、Egger, a.a. O., S. 32 参照。

(65)  Ebd., S. 33.

(66)  Richardi, a.a. O., S. 153.

(67)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 193.

(68)  Herbert Buchner, Der Gleichbehandlungsgrundsatz bei der Ku¨ndigung von Arbeitsverha¨ltnissen, RdA 1970, S. 225ff. (228);Richardi, a.a. O., S. 153.

(69)  Mayer−Maly, a.a. O., G VI;Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 194. この場合、使用者はいかなる考量に基づいて一部の労働者の解雇に行き着いたのかを説明する義務を負い、それが達成されれば当該特別解雇は有効であるとされる。Maute, a.a. O., S. 164.

(70)  BGB六二六条一項はきわめて例外的な解雇について規定するものであるから、ここでは通常解雇について規定する解雇制限法の適用範囲が問題となる。解雇制限法は、職業訓練生、および週労働時間が一〇時間未満もしくは月労働時間が四五時間未満の労働者を除き、労働者が通常五人以下である事業所および行政機関には適用されない(解雇制限法二三条一項二文、三文)。

(71)  Richardi, a.a. O., S. 153f.

(72)  ArbG Regensburg vom 23. 4. 1990, BB 1990, S. 1418.

第三節  平等取扱原則が適用されない領域

  本節では、平等取扱原則の適用が原則として否定される領域、すなわち労働者の採用過程を取り上げる。もっとも、この領域に関しても平等取扱原則の制限的な適用を認める見解が主張されている。本節では、採用の領域において平等取扱原則の適用が否定される原因を明らかにし、そして採用の領域における平等取扱原則の適用をめぐる学説の議論状況について検討を行う。さらに、原則として採用の領域における平等取扱原則の適用は否定されるが、再雇用に関しては異なる議論のなされる場合があるので、この点に関しても検討する。


一、採    用

  採用の領域における平等取扱原則の適用に関して、通説および判例においては、たとえばひとつの採用ポストをめぐって複数の採用希望者が存在する場合、使用者は、その採用希望者のなかから一人を決定する際に平等取扱のルールに拘束されることはなく、客観的でない理由から一人の採用希望者を優先することができると考えられている(1)。このように採用の領域における平等取扱原則の適用が否定される理由として、たとえば、求職者は採用の時点においていまだ事業所の構成員ではないという点や、求職者には労働関係が存在せず、いまだ法的な結びつき(vinculum iuris:rechtliches Band)が欠けているという点が指摘される(2)。また、労働契約の締結に至っていない求職者はいまだ使用者の権力領域には入っておらず、それゆえ平等取扱原則は適用されないという指摘もなされる(3)。さらに、平等取扱原則を個別労働者の人格権を保護する手段とみなす見解によれば、求職者は使用者によって人格を侵害されるような状態になく、したがって平等取扱原則は適用されないと指摘される(4)。しかし、採用の領域における平等取扱原則の適用を否定する理由として最も有力に主張されるのは、契約の自由が平等取扱原則に優先するという点である。

  採用における使用者の契約の自由は、全く制約を受けないわけではない。採用における差別的取扱の禁止を規定する強行規定(5)があれば、使用者の採用の自由は制限される。しかし、そのような強行規定の存在しないところでは、使用者は採用希望者のなかから実際に採用する者を自由に選び出すことができる。このことは、連邦労働裁判所のつぎのような説示のなかにみることができる。

「個別事例において法的な、あるいは労働協約上の契約締結の要請(たとえば重度身体障害者、鉱員保護認定証の所持者)が介入しない限り、当事者が労働契約を締結しようとするか、あるいは誰と労働契約を締結しようとするかは、基本法二条一項によって保護される契約自由により当事者の自由におかれる(6)。」

  この見解からも明らかなように、採用においては使用者の契約の自由が前面に押し出され、平等取扱原則は完全に後方に退くものと考えられている。採用における契約自由の優位性を認める理由としては、使用者による労働関係の解消が非常に困難であり、また労働関係それ自体が使用者に対して多くの義務を課すものであるがゆえに、採用の段階においては使用者に対して自由が認められるべきであるとの見解が主張される(7)。また別の見解によれば、採用の段階に平等取扱原則を適用することは、結果として使用者による労働契約締結を強制することにつながるとの理由があげられる(8)。判例もまた、使用者は新たに採用する労働者との労働契約締結を平等取扱原則によって拘束されるべきではないという理由から、契約自由の平等取扱原則に対する優位を認めている(9)

  採用の領域における平等取扱原則の適用を否定する見解に対して、それを肯定すべきとする見解も主張される。もっとも、肯定説においても平等取扱原則の厳格な適用は主張されない。平等取扱原則を採用の領域において厳格に適用することは、使用者に対して労働契約の締結を強制することにつながるが、それは最終的に憲法上保障される契約の自由を制限することに行き着くとして否定される(10)。平等取扱原則の適用を肯定する見解がもっぱら主張するのは、労働者を採用する際に、使用者に対して客観的でない理由に基づく選考を禁止すべきであるということである。たとえばバドゥラ(Peter Badura)は、潜在的使用者に対し、自己の採用に関して事実に基づく客観的な判断を要求する求職者の権利が現行法の一部を構成すると考えられるのは当然であると述べる(11)。また、ライポルド(Dieter Leipold)は求職者の労働権(das Recht des Stellenbewerbers auf Arbeit)を根拠として、事実に基づく視点だけが採用の判断において決定的であることが認められ、妥当な方法で採用の判断が行われず、その結果労働者として採用される求職者の資格が否定されたということが実際に証明される場合、BGB八二三条一項に基づき、採用が拒否されたことを理由として損害賠償請求権が発生すると述べる(12)

  しかしながら、以上のような採用に対する平等取扱原則の制限的適用を主張する見解に対しては、つぎのような批判が述べられる。すなわち、使用者は労働者を採用する際に、求職者の職業上の能力だけではなく、場合によってはその求職者が好感を抱ける人物であるかといった個人的な要素も考慮する必要がある。したがって、採用に際して客観的な理由に基づく選考を使用者に対して義務づけるとしても、同時に広い裁量の余地を使用者に対して認めなければならない。しかし、求職者の性格に関する使用者の個人的な評価が差別的取扱を正当化する客観的な理由として認められる場合、使用者が常に、使用者の好みによれば実際に採用された者は採用されなかった者よりも好感がもてたと主張することによって差別的取扱を正当化できるとするならば、採用に対して平等取扱原則を適用することの実務的な意義はきわめて疑わしいとされる(13)。また別の見解によれば、仮に採用の領域において平等取扱原則を適用し、使用者に客観的な理由に基づく選考を義務づけたとしても、実際に使用者がその平等取扱義務に違反した場合、労働者はそれに対する請求権として何を主張できるのかという疑問が提示される。この場合における求職者の法的救済としてまず考えられるのは、求職者の採用に対する法的請求権を認めることであるが、これは使用者の契約自由を侵害することにつながるため許容されない。つぎに、性を理由とする差別的取扱禁止の違反に対する損害賠償請求権について定めたBGB六一一a条二項(14)の規定を類推適用することが考えられる。しかし、ここで填補されるのは信頼利益の損害にとどまり、使用者はわずかな出費さえ覚悟すれば採用において自由に行動する可能性を有することになる(15)。このように、法的効果の点で求職者の法的救済が困難であるならば、採用に対して平等取扱原則を適用し、使用者に対して客観的に正当な判断を請求する労働者の権利を想定しても、その実効性はきわめてわずかであるとされる(16)。最終的に、採用の領域における平等取扱原則の適用を肯定する見解は、学説および判例における一般的な支持を得るに至っていない。


二、再雇用

  先に述べたように、通説によれば、採用の領域における平等取扱原則の適用は原則として否定される。しかし、前もって使用者と一定の関係にあった労働者の再雇用が問題となる場合には、平等取扱原則の適用が認められることがある。再雇用の領域における平等取扱原則の適用が問題となるケースを以下で検討する。


  1、ストライキ後の再雇用

  労働組合が適法なストライキを実施した場合、これに対する対抗手段として使用者はロックアウト(Aussperrung)を行うことができる。適法なストライキやロックアウトは、争議行為期間中、労働者と使用者双方の労働契約上の諸義務を停止させる。この場合、争議行為の終了をもって労働者と使用者の労働契約上の諸義務は当然に復活し、停止状態を元に戻すための特別な措置は不要である。しかし判例によれば、労働関係を即時に解消させる効果をもつ解消的ロックアウト(lo¨sende Aussperrung)が例外的に認められる。すなわち、使用者が争議行為期間中も生産を継続しようとする場合、ストライキに参加している労働者のポストに他の労働者を配置したり合理化措置をとる必要が生じれば、その結果ストライキに参加している労働者のポストの廃止が必要になる。そのような場合には、ストライキに参加している労働者との労働関係をロックアウトによって解消する可能性が使用者に対して与えられなければならず、この場合に限り、解消的ロックアウトが認められる(17)。もっとも、解消的ロックアウトが適法に行われた場合であっても、争議行為終了後に従来のポストが維持されていることが証明された場合、使用者は解消的ロックアウトの対象となった労働者を再雇用する義務を負う。しかし、そこで再雇用の対象となる労働者がストライキに参加した労働者の一部にとどまる場合、使用者は再雇用する労働者を自由に選び出すことができるであろうか。これについて連邦労働裁判所大法廷(18)はつぎのように述べている。

「労働争議は限定的な目的の達成に寄与するものであり、争議の終了後は、一般的に両者の関係が継続され、労働が再開される。したがって再雇用がもっぱら使用者の意向に従って実施されるということはありえない。そのようにして使用者に自由を認めることは、使用者がコントロールを受けない事態、そして使用者が負担と感じる労働関係を解消することに対してコントロールを及ぼすことのできない事態に行き着くであろう。・・労働者の再雇用は、使用者の自由な裁量のなかにおかれるのでなく、使用者の公正な裁量のなかにおかれうる。」

  この「公正な裁量に基づく再雇用」について差別的取扱の禁止が不可欠であり(19)、この点で平等取扱原則の適用が認められると考えられている(20)

  また、違法なストライキの場合、そのストライキに参加した労働者は労働契約義務違反を犯したことになり、使用者はBGB六二六条一項に基づく即時解雇の権利と、解雇制限法一条による労働者の態度を理由とする通常解雇の権利を獲得する。すなわち、使用者は違法なストライキに参加した労働者の労働関係を有効に解約することができ、この場合に労働者の再雇用請求権が生じる余地はない。もっとも、使用者が違法なストライキへの参加を理由として労働者を有効に解雇し、後になってその労働者を任意に再雇用する場合、平等取扱原則が適用され使用者は平等取扱義務を負う(21)。したがって、使用者は違法なストライキへの参加を理由として解雇された労働者を再雇用する場合、対象となる労働者の一部だけを再雇用してはならない。ただし客観的な理由が存在すれば、再雇用における差別的取扱は許容される。たとえば、ストライキの違法性を認識していたかにもかかわらず、そのストライキにおいて傑出した存在であった労働者を再雇用の対象から排除することは客観的に正当であるとされる(22)


  2、職業訓練生の受け入れ

  事業所における職業訓練制度は、一九六九年職業訓練法(Berufsbildungsgesetz vom 14. 8. 1969 (BGBl. I S. 1112))によって規定されている。それによれば、訓練生(Auszubildende)と養成者(Ausbildende)は、労働契約とは別個の職業訓練契約(Berufsausbildungsvertrag)を締結し、それによって生じる職業訓練関係は、原則として取り決められた期間の満了もしくは期間満了前の卒業試験(Abschluβpru¨fung)の合格によって終了する(一四条一項、二項)。しかし今日では、職業訓練終了後に、その訓練生を通常の労働関係に引き継ぐことが実務上一般的に行われている。このような場合に使用者が、同時に職業訓練期間が終了する複数の訓練生のうち一部の者だけを労働関係に引き継ごうとするとき、平等取扱原則が適用されうるかという問題が生じる。このようなケースは純粋な意味での再雇用ではなく、新たな労働契約の締結であるため、先に述べたように平等取扱原則の適用は否定されるとの見解が一般的である。しかし訓練生という身分であったにせよ、彼らはすでに従業員のなかに統合されており、使用者との関係を全く有していない求職者とは本質的に異なる存在である。このような理由から、職業訓練生の受け入れに対する平等取扱原則の適用可能性が問題とされるようになった(23)。しかし連邦労働裁判所はつぎの判決(24)において、訓練生の受け入れに関する平等取扱原則の適用を否定する判断を下している。

  本判決の事案はつぎのようであった。被告との職業訓練契約に基づき機械工として訓練を受けていた原告は、職業訓練期間中、職業学校の生徒新聞に、原子力発電所の建設反対デモに関する記事を掲載した。被告はこの記事を契機として、原告に対し、職業訓練終了後は通常の労働関係に原告を引き継ぐ意思のないことを文書によって通知した。卒業試験に合格した原告は、被告との労働関係の存在を確認する訴えを提起した。この事件につき、連邦労働裁判所第二法廷はつぎのように述べている。

  原告と被告の職業訓練契約は、原告の卒業試験の合格によって終了している。職業訓練関係の終了後に訓練生を通常の労働関係に引き継ぐという被告の義務は、職業訓練契約からも職業訓練法からも生じない。仮に経営実務においては、職業訓練を好成績に修めた訓練生を通常の労働関係に引き継ぐのが一般的であり、そのために訓練もその経営の必要性に従って行われるのが普通であるとしても、そのような使用者の義務は生じない。したがって、法的あるいは労働協約上の労働契約締結の要請が介入しない限り、両当事者は労働契約の締結において自由である。採用の判断における使用者の裁量を一定の義務の下におこうとする学説上の諸見解は、判例において支持されない。

  最終的に、連邦労働裁判所は、被告の判断が事業所組織法七五条一項の差別的取扱禁止規定にも違反していないとして原告の訴えを退けた。

  以上のように、判例においては訓練生の受け入れに対する平等取扱原則の適用は否定され、訓練生の労働関係への引き継ぎに対する請求権は認められていない。また、使用者に対し客観的な判断に基づく選考を義務づける見解も、判例および学説上一般的な支持を得るに至っていない。したがって、たとえば使用者が訓練を修了した複数の訓練生のなかから一人だけを労働関係に引き継ぐ場合、使用者は事業所組織法の規定に反しない限り対象となる者を自由に選び出すことができるのである。

(1)  Go¨tz Hueck, Der Grundsatz der Gleichma¨βigen Behandlung im Privatrecht, 1958, S. 62.

(2)  BAG GS vom 28. 1. 1955, AP Nr. 1 zu Art 9 GG Arbeitskampf;G Hueck, a.a. O., S. 62;Hueck/Nipperdey, a.a. O., S. 423.

(3)  Erich Frey, Der Grundsatz der Gleichbehandlung bei Neueinstellung, Umgruppierung und Versetzung, BB 1963, S. 1139ff. (1140).

(4)  この見解については、Maute, a.a. O., S. 144 参照。

(5)  ヨーロッパ経済共同体設立条約(EWG−Vertrag)一一九条、BGB六一一a条、六一二条三項、重度身体障害者法(Schwerbehindertengesetz vom 26. 8. 1986 (BGBl. I S. 1421, ber. S. 1550))五条があげられる。

(6)  BAG vom 5. 4. 1984, DB 1985, S. 602.

(7)  Theo Mayer−Maly, Die Gleichbehandlung der Arbeitnehmer, DRdA 1980, S. 261ff. (272).

(8)  Maute, a.a. O., S. 148.

(9)  BAG vom 4. 5. 1962, AP Nr. 32 zu § 242 BGB Gleichbehandlung.

(10)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 171. また、ひとつのポストをめぐって複数の採用希望者のなかから一人を選択する際の使用者の裁量を制限することは会社の政策にそぐわず、実用性の点でも一貫して幻想的なものであるとされる。Zo¨llner/Loritz, a.a. O., S. 143.

(11)  Peter Badura, Grundfreiheiten der Arbeit, FS fu¨r Berber 1973, S. 11ff. (22). またガミルシェークも、「労働力を採用する際にいわゆる差別的取扱を禁止することは納得しうる」と述べる。Franz Gamillscheg, Die Grundrechte im Arbeitsrecht, AcP 164, S. 385ff. (417).

(12)  Dieter Leipold, Einstellungsfragebo¨gen und das Recht auf Arbeit, AuR 1971, S. 161ff. (166).

(13)  Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 173.

(14)  BGB六一一a条一項および二項はつぎのような規定である。「使用者は、約定もしくは措置、とりわけ労働関係の創設、職務上の昇進、指揮命令、もしくは解雇において、性を理由に差別的取扱をしてはならない。ただし、約定や措置が、労働者によって行われる職務の性質を対象とし、かつ特定の性がその職務にとって放棄しえない要件である場合、性を理由とする差別的取扱は許容される。紛争において、その不利益取扱が性を理由とするものであることを推定させる事実を労働者が疎明した場合、使用者は、性に基づかない客観的な理由が不平等取扱を正当化すること、または遂行される職務にとって、その性が放棄しえない要件であることについて証明責任を負う。」(一項)、「使用者が、労働関係の創設において一項の差別的取扱禁止規定違反の責を負う場合、それによって不利益取扱を受けた求職者は、三カ月分の収入額を上限として適切な補償金の支払を要求することができる。一月分の収入とは、仮に労働関係が創設されていたとして、一月に通常の労働時間で求職者に当然与えられていたであろう金銭や物の収入とみなされる。」(二項)。

(15)  一九八〇年のBGB改正によってもりこまれた六一一a条二項の規定は、性による差別的取扱によって労働契約が成立しなかった場合、使用者は、労働者が労働契約の不成立は起こらないと信頼したことによって被った損害の賠償義務を負うと定めていた。しかし、このように差別的取扱を受けた求職者の法的救済を信頼利益の損害の填補に限定する場合、実際には、求職者は求職活動に費やした応募費用だけしか請求することができず非常に不十分なものとして、ヨーロッパ裁判所からも異議が唱えられていた。これに対して連邦労働裁判所は、一般的人格権侵害を根拠として、BGB八四七条に基づき一月分の賃金を上限とする慰謝料請求を求職者に対して認めた。このような事態を受けて、それまでの信頼利益の損害の填補にかわり三カ月分の収入額を上限とする補償金の請求権を認めるという法改正が行われ、現在に至っている。Lo¨wisch, a.a. O., S. 52.

(16)  Maute, a.a. O., S. 148ff. なお、脚注(15)で示したように、その後の法改正によって、労働契約の創設における性差別に対する損害賠償請求権の内容は信頼利益の損害填補にとどまらず、三カ月分の収入額を上限とする補償金の支払にまで高められている。したがって、この見解の論理でいけば、三カ月の収入額を上限とする補償金の支払が、採用における使用者による差別的取扱を減少させるほどの威嚇的な作用を有するものであれば、労働者に対して使用者の客観的な判断に対する請求権を認めることには意味があるとも考えられる。もっとも、とくに性を理由とする採用差別に関して規定されたBGB六一一a条二項を採用における一般的な差別的取扱のケースに類推適用できるかという問題は依然として残される。

(17)  BAG GS Beschluβ vom 21. 4. 1971, BAGE Bd. 23, S. 292.

(18)  Ebd., S. 316.

(19)  Mayer−Maly, Gleichbehandlung im Arbeitsverha¨ltnis, AR-Blattei SD, 1975, G II.

(20)  もっとも脚注(17)にあげた連邦労働裁判所大法廷決定によれば、使用者の再雇用義務は平等取扱原則からではなく、労働争議の手段に関して問題となる相当性のルール(Gebot der Verha¨ltnisma¨βigkeit)から生じるとされる。

(21)  Zo¨llner/Loritz, a.a. O., S. 433;Marhold/Beckers, a.a. O., Rdnr. 176.

(22)  Mayer−Maly, Gleichbehandlung im Arbeitsverha¨tnis, G II.

(23)  Maute, Gleichbehandlung im Arbeitsverha¨ltnis, S. 147.

(24)  BAG vom 5. 4. 1984. 脚注(6)参照。