立命館法学  一九九八年六号(二六二号)


フランスにおける行政の自然災害防止義務と損害賠償責任

北 村 和 生







は  じ  め  に

  我が国との比較でいうならば、フランス本土(me´tropole(1))は、自然災害の影響をそれほど受けない地域であるといえるだろう。しかし、フランスにおいて自然災害が全くないというわけではない。確かに大規模地震のような災害は一部の地域を除いて滅多に発生しないが、水害(inondation)、地滑り(glissement de terre)、雪崩(avalanche)といった災害は決して少なくない。ある論者によると、潜在的にこれらの災害の危険に曝されているコミューン(2)の数は、次のようになる。すなわち、七五〇〇のコミューンが水害の危険に、三〇〇〇が地滑りの危険に、一四〇〇が地震の危険に、四〇〇が雪崩の危険に曝されている(3)。このため、フランスにおいては自然災害によって被った損害を理由として、国や地方公共団体、とりわけコミューンに対して損害賠償を請求する訴訟が少なくない。
  本稿は、これらフランスの自然災害に関わる訴訟のうち、行政賠償責任(responsabilite´ administrative(4))の判例を中心に、フランスの行政判例が、自然災害による被害の発生防止につきどのような義務を行政に課したのか、また、そこにはどのような特色があるのかを考察するものである。
  このような考察を行う理由は主として二つ考えられる。第一に、我が国では、水害や土石流災害をはじめ、行政の自然災害の防止義務から国家賠償を請求する事例は多数にのぼっている(5)。これらの訴訟を考える上で、フランスの行政判例の考察から、何らかの示唆を得られるのではないかということである。第二に、我が国のフランスにおける行政賠償責任に関する紹介は、これまでにも多数にのぼっているが、自然災害を理由とする訴訟については必ずしもそれほど多くはなかった。しかもこの分野は、後にも触れるように、一九九五年二月二日法(いわゆるバルニエ法(Loi Barnier))による都市計画(urbanisme)法の手法を利用した自然災害防止のシステムの制度改革や近時の判例の蓄積があり、変化の激しい領域である。したがって、本稿によるフランス判例の紹介はフランス行政賠償責任の現代的な側面を紹介するという意義もある。
  さて、これまでのところ本稿では自然災害という言葉を特に定義づけることなく使用してきた。確かに、自然災害という言葉が、水害や雪崩といった典型的な事態を示していることは間違いない。しかし、フランスにおいては自然災害という言葉の定義は必ずしも明白なものではない。
  その理由の一つとして、制定法によって用語が統一されていないことが挙げられる。保険による自然災害被害者への補償制度を定めた一九八二年七月三日法は、「決定的な原因として、自然の要素による、異常な強さを持つ実質的な損害を、本法でいう自然災害(catastrophes naturelles)の効果と呼ぶ」としている。また、後述するメールの権限を規定した地方公共団体一般法典(Code ge´ne´ral des collectivite´s territoriales(6))のL二二一二ー二条(かつてのコミューン法典(Codes des communes)のL一三一ー二条)五号は、メールの警察権限の一つとして、「火災、水害、堤防の決壊、土地または岩の崩落、雪崩その他すべての自然の事故、伝染病、獣疫といった事故や災害(fle´aux calamiteux)及びすべての種類の汚染を適切な予防(pre´caution)によって防止し、必要な救助の提供によって終わらせる配慮」を規定している(7)。また、学説では、自然危険(risques naturels)という表現を使っているものが多く、これらの用語の違いは必ずしも明白ではない(8)
  また、自然災害という言葉は、化学工場の爆発事故などの技術的な災害と区別して使われることが通常であるし、本稿でもそのような区別を念頭に置いている。しかし、この両者は必ずしも截然と分離できるわけではない。たとえば、自然災害を原因として技術的な災害が発生することもあり得るからである。
  さらに、いわゆる人災と自然災害を区別するのは場合によっては難しい。というのも、国やコミューンといった公共団体がその責任を追及されるのは、これらの団体が損害の発生に寄与したからであり、純粋な自然現象のみによって起こった損害であれば、少なくとも過失を前提とした行政賠償責任の対象とはなりにくいからである(9)
  最後に、右記のように自然災害の定義が必ずしも明白ではないことから、自然災害のバリエーションは非常に多くなってしまう。フランスにおいても数は少ないものの落雷による被害を問題にした事件(10)や、竜巻による被害も発生している。考えうるすべての自然災害を考察対象とすることは、結局は考察を散漫にしてしまう恐れがあると考えられる。
  以上のことから、本稿での「自然災害」は、上記CGCTの規定にある災害のうち、フランスにおいて典型的な自然災害であり、判例上よく現れているもの、すなわち、水害、雪崩、地滑りといったタイプの事件を念頭において使うこととする。したがって、原発事故や化学工場の爆発といった災害は本稿の考察対象から除外する。
  それでは、本論にはいる前に、本稿の考察対象を確認し、どのような順序で考察を行うかを示しておこう。
  行政が自然災害に対応する場合、大まかに分けて、災害発生前(たとえば、自然災害発生の危険がある地域での建築の禁止、災害に備えた防災設備の設置)、災害発生時(たとえば、罹災者の救助活動、消防活動)、災害発生後(たとえば、被害者への補償金の支払い、被災地の復興)の三つのレベルが想定されることが多い。本稿は、既に述べたように、このうち、災害発生前、行政の自然災害予防を対象とする。すなわち、自然災害が発生する前に、被害の発生を防止する義務を持つ行政が、その義務を履行しなかったか、または履行を遅滞した際の損害賠償責任である。もちろん、災害発生直前の避難命令などは災害発生時の措置と必ずしも明確に区別できるものではなく、これらの措置を一切考察対象から除外するものではないが、本稿は、主として行政の災害防止義務の懈怠に基づく損害賠償責任を検討する。したがって、ORSEC(Organisation du Secours)計画(11)などの災害時の被害者救援制度や災害時の消防役務の活動については、原則として考察対象外とする(12)
  加えて、本稿が対象とするのは過失責任(responsabilite´ pour faute)に関する判例である。無過失責任は、立法による救済制度(13)が適用される場合を除きあまり問題にならないし(14)、また本稿はフランスにおいて行政がどのような自然災害防止の義務を負っているのかを、行政賠償責任の判例から明らかにすることを目的とするため、義務違反=過失が責任の根拠となるケースを考察対象とする。
  以下では、まず、第一章で、コミューンの有する一般警察権限の不行使に関する問題を中心に紹介する。次章で、都市計画法関連の警察権限の不作為などに関して、行政賠償責任を追及した事件の主要な判例を考察し、そこにどのような特徴が見られるかを検討する。最後に、以上のフランスの行政判例の検討からどのような点を導き出せるかをまとめ、本稿の結論としたい。




第一章  コミューンと自然災害防止権限(一般警察)


第一節  メールと自然災害防止に関する一般警察権限

  フランス行政法における、一般警察(la police ge´ne´rale)の権限においては、たとえば、後で触れるようなキャンプ場の設置許可といった特定分野に限定することなく、一般的に公序を維持するための権限が行政に与えられているとされる。法律上は、CGCTのL二二一二ー二条とL二二一二ー四条がメールの持つ一般警察権限について規定しており、地方における一般警察の権限は、第一義的にメールが有している。
  CGCTのL二二一二ー二条は、まずはじめに「地方警察(la police municipale)は、よき秩序、公の治安、公の安全、公衆衛生(le bon ordre, la su^rete´, la se´curite´ et la salubrite´ publiques)を守ることを目的とする」という規定を置いており、その後に九項目にわたって警察措置を具体化して規定している(15)
  本稿に関係するのは、CGCTのL二二一二ー二条第五号であり、既に引用したように、一定の場合に、自然災害を予防するために適切な予防措置をとる権限をメールに与えている。したがって、メールがこの一般警察権限を適切に行使せず私人に損害を発生させたときは、コミューンが損害賠償責任を負うことになる。
  自然災害の予防に関してメールが有する権限は、L二二一二ー二条だけではなく、L二二一二ー四条(旧CCのL一三一ー七条)にも見られる。この規定によると、「L二二一二ー二条五号が規定している自然の事故のような、重大または差し迫った危険に際しては、メールは状況が必要とする安全の措置の執行を命じるものとする。メールは当該県内の国の代表に対して緊急に連絡をとり、自らが命じた措置を伝える」。
  これら二つの規定からは二つの義務がメールには課せられる。一つは、L二二一二ー二条に基づく義務で、住民の安全を脅かすような自然災害やすべての種類の災害の防止という一般的義務である。もう一つは、L二二一二ー四条に基づく義務で、重大または特別な危険に際して、状況が要求するあらゆる措置をとる特別な義務である(16)。前者の義務は、規制すなわち法的行為を行う権限と、被害を小さくするため防災工事を行わせたり、または防災のための工作物を設置させる権限である(17)
  このように、メールは、自然災害を防止するための一般警察上の権限を有している。しかし、メールに自然災害防止の権限を授権している規定は、L二二一二ー四条やL二二一二ー二条のように非常に概括的な規定である。果たして、これらの概括的な規定から具体的なメールの作為義務は導かれうるのであろうか。
  警察権限の不作為責任について論じているロミによると、「警察権限を与えられた行政機関に課せられた義務の存在は、たとえそれら[警察権限]を創設したりその範囲を明らかにしたりする特別な規定がなくても明らかなものとなる(18)」。すなわち、上記のような概括的な規定から、危険を表示する権限、洪水の危険を理由として工事の中止を命じる権限、雪崩の危険を理由として危険地域からの退避を命じる権限などが導かれる。それ以外にもメールは実際に災害が発生した後に、被害者を救助する役務を組織する義務もある。また、「特別で重大な危険」の際には、L二二一二ー四条に基づいて(19)、L二二一二ー二条と同じく、危険地域からの退避命令、居住、交通の禁止を行う義務を負う。その他、メールは緊急工事を命じることもできる。この工事は、コミューンが管理する物だけではなく私人の所有物も対象とすることができるが、コミューンが費用を負担する。
  また、ロミによると、一定の条文は、警察権限の不作為が一定の範囲内であれば認められるという、「自由意思(arbitre libre(20))」を行政に与えていて、行政はすべての場合において作為を義務づけられているわけではない(21)。もちろん、後に見るように、判例の傾向は、警察権限を委ねられている機関の作為義務の範囲を拡大する傾向にある。しかし、ロミの表現を借りるならば、行政の上のような自由はそれ自体、過誤を犯すことへの一定の権利(un certain droit a´ l’erreur)を前提としているのであり、一定の場合において重過失要件が今も維持されていることは、このことを証明するものであると述べてい(22)(23)
  それでは、次に自然災害について、具体的に一般警察権限の不作為または遅滞などが、どのような場合に、過失すなわち義務違反であるとされるのかについて考察するが、そこではロミが指摘しているように、重過失要件の有無が一つの注意点となるであろう。
第二節  メールの一般警察権限と行政賠償責任

  ここでは一般警察の権限に基づいてコミューンはどのような自然災害防止の義務を負い、どのような場合に義務違反を犯したことになるのかを判例を通して具体的に明らかにしてみよう。もっとも、一般警察の権限は非常に概括的で、行政の権限は多岐にわたるため、判例上主要な論点を検討するに止める(24)
一  危険表示(signalisation)、危険を知らせる義務
  発生しうる自然災害などの危険を表示し、私人に危険を知らせることは、災害の種別を問わず、最も基礎となる防災対策であろう。一九八七年七月二二日法は、その第二一条において、市民が自然災害や技術災害といった大規模災害に関する情報を請求する権利(droit a´ l’information des risques majeurs)を規定している。このような規定は、主に次章で取り上げる都市計画の手法による災害防止措置とも関わるものであるが(25)、CGCTのL二二一二ー二条五号に基づく一般警察の措置においても関連を持ちうる。
  コミューンは、CGCTのL二二一二ー二条などの規定に基づいて、一般警察の権限により、雪崩や地滑りなどの自然災害に関する危険を表示し私人に知らせる義務がある。モローによると、コミューンがこの情報提供の義務に違反しているといえるためには、第一に、隠され不可視(invisible)であるが、明白ではないような危険が存在し、コミューンの責任者がこれを探知しえたこと、第二に、通常私人が予測し、それに対して備えなければならないような危険を越える危険が存在することの二つの要件が充たされなくてはならない(26)。したがって、軽微な危険などについては表示の義務はないことになるであろう(27)。また、危険が他の方法で被害者に知られるようなものであったときは過失相殺が認められることもある(28)
  また、モデルヌによると、このタイプの事案において行政裁判所が過失を認定するのは、危険の発生を予見することができ、行政機関に当該危険に対処するのに必要な時間的余裕があったのに、行政機関がこれに対応しなかったときである(29)。そして、このときには、責任の要件として、行政裁判所は、重過失ではなく単純過失を要求することが多(30)(31)。危険を表示する義務は、重過失の根拠と考えられる履行の困難な義務を示すものではなく、比較的尊重することが容易な義務であるからである(32)。また、危険を表示する義務の程度はコミューンの性格によって異なり、後に触れるように、観光地であるコミューンは、それ以外のコミューンに比して一層厳格な義務を負うものと考えられている(33)
二  行政の調査義務
  自然災害防止に関する行政の警察権限の不作為やその不適切な行使が問題になる場合、行政の調査義務が問題になることがあり得る。自然災害の発生は予測が難しいため、行政が権限を行使することが難しい場合が少なくない。このような場合、行政が権限行使の前提として、事前に適切な調査を行っていれば、当該危険を予測することができたことを理由として、警察権限の不行使を過失であると認定できるのか、しかも、重過失ではなく単純過失で責任を認定することができるのであろうか。
  この論点を扱った著名なコンセイユデタの判決があるので(34)(以下では、ヴァル・ディゼール判決と呼ぶ)、やや詳しく取り上げることとする。
  ヴァル・ディゼール判決の事案は次のようなものであった。一九七〇年二月一〇日午前八時頃、ローヌ・アルプ地方のヴァル・ディゼール(Val d’Ise`re)というコミューンの山岳部で雪崩が発生した。この雪崩は、非常に速度が速く、ちょうど雪崩の発生地の近くにあったフランス屋外スポーツ連盟(Union des centres de plein air)の山小屋を襲い、このため、朝食をとっていた三五名の研修生(stagiaire)、三名の従業員、スキー場の監視員(pisteur)一名の計三九名が死亡した。被害者の遺族らは国とコミューンに対して損害賠償を請求した。訴訟では、コミューンが、雪崩に備えた工作物を設置していなかった点や、研修生らに対して、山小屋からの退去を命じていなかったことが過失にに当たると主張された。一審のグルノーブル行政裁判所の判決は、国とコミューンの過失を認定しその責任を認め、その責任割合は半々とした(35)。これに対して、コミューンは判決を不服としてコンセイユデタで原判決を争ったが、国は控訴しなかった。しかし、国は結局コンセイユデタでの審理中に全責任がコミューンにある旨の趣意申立書(conclusions)の提出を行った。
  コンセイユデタは、国の主張については手続的な理由で斥け、コミューンの責任について次のように判示した。まず、CAC(Code de l’administration communale)九七条(現行法のCGCTL二二一二ー四条にほぼ該当する規定である)により、コミューンが雪崩の被害防止の権限を有することを確認し、「審理の結果、ヴァル・ディゼールの町の拡大期に−この時期にUCPAの山小屋は建設されたが−雪崩の危険に曝された地域の調査は、詳細には行われなかった」ことなどを理由として、「事案の状況においては、ウィンター・スポーツの施設の発展規模と被る危険の重大さを考慮するなら、コミューンが行った予測と防止の措置の不充分は被害者に対する責任を生じる性質の過失を構成する」と判示した。
  ヴァル・ディゼール判決によると、コミューンは警察権限を行使するために、自然災害の可能性や発生する場所についての調査を行う義務があり、この義務に違反することによって、過失を犯したことになる。また、判決に従うなら、この過失の判断においては、重過失は要求されておらず、コミューンに対して厳格な義務が課せられているということができる。
三  自然災害防止施設などの設置義務
  上記のヴァル・ディゼール判決においても見られるように、自然災害の結果を減少させるために工作物を建築しなかったかあるいは不充分な工作物しか建築しなかったときや、適切な工事を施工しなかったため自然災害による損害が発生したとき、コミューンは、CGCTのL二二一二ー二条に基づく一般警察の措置をとる義務に反したことを理由として、損害賠償責任を負いう(36)(37)。論者によってはこの義務を防御義務(l’obligation de protection)と呼んでおり、この義務は、既に見た一般警察に関する条文に基づいている(38)。コミューンが行う工事は、具体的には、雪崩や水害を防ぐためや、海による浸食を防ぐための施設の設置などであるが、それだけではなく雪崩の発生を防止するための人工雪崩の発生という工事もあり得る(39)
  以前のコンセイユデタの判例には、特別な法令の規定がない限り、コミューンがこのような工事を行うことは必ずしも義務とはならず、工事を行わなかったことによる損害賠償責任の発生は重過失を要件としている例がある(40)。しかし、近時の判決には、「損害賠償責任を生じる性質の過失(faute de nature a` engager la responsabilite´)」という表現が使われることがむしろ多く(41)、必ずしも重過失が必要とされるわけではない。
  重過失が要求されるかどうかももちろん重要だが、このタイプの事件においてむしろ注目すべき点は、コミューンが自然災害防止のための工作物を設置したり工事を施工したりする義務は、当該コミューンの財政などの能力によってその程度が異なるとされる点である。我が国の水害訴訟などにおいてもよく問題になるように、防災施設を設置することは場合によっては財政的に非常に困難なものとなりうる。特に、フランスの場合、一般警察権限に基づいて、この義務を課せられるのはコミューン、すなわち地方公共団体である。フランスのコミューンはその規模において多様で、非常に小規模なコミューンが存在することを考えると、コミューンの財政的な規模などが問題になりうるのは理解しやすいところである。それでは、財政などの制約は、自然災害発生を防止するコミューンの義務を免除するのであろうか。この問題に関する判決例も、多くは雪崩に関する事件が中心でありここでも雪崩に関する事案を見ていくことになる。
  (一)  責任を否定した事例
  コミューンの財政などの制約を少なくとも理由の一つとして、あるいはこの点を判決中で指摘してコミューンの責任を免責した事例をまず見ていくこととしよう。
  まずはじめに紹介する事例は次のようなものであった。ティーニュ(Tigne)というコミューンが一九五五年に居住用の画地(lotissement)の造成を行おうと考えた。ティーニュはサヴォア県の知事から画地の許可を得て画地を造成し、一九六〇年から販売を開始した。当該画地は造成以前から雪崩に襲われたことがあり、造成後も、一九六五年、一九六七年と雪崩に襲われていた。一九七〇年、とりわけ巨大な雪崩が画地を襲い、一二の山小屋と五つの建物が全半壊した。これに対して、雪崩の被害を被った建築物の所有者であるカロ氏らが、コミューンに対して、雪崩に対処する義務を怠ったとして損害賠償を請求した。
  一審のグルノーブル行政裁判所は、公土木の責任に基づく無過失責任の適用を否定し、一般警察の権限不行使に基づくコミューンの責任を検討し、カロ氏ら原告が、「コミューンが有する制限された予算手段を考慮すると、一層効果的な保護を保証する工作物の設置が可能だったということを立証していない」などと判示し、カロ氏らの請求を棄却した(42)
  コンセイユデタは、次のように判示して、被害者らの請求を認めなかった(43)。既に、ティーニュは、当該画地を雪崩から防御するための工事を行っており、「工事のいくつかは事業者の非能率によって遅滞していたし、建築された工作物も雪崩の危険に完全に対処するには充分効果のあるものでもなかったが、当時のその[ティーニュの]財政(ressource)と比例して法外なより大規模な工事を実施しなかった地方公共団体は、雪崩のような自然の事故を予防するための警察措置の規定について、コミューンの責任を生じる性質の過失を犯してはいなかった」。
  その他、最近の事件として、同じく雪崩に対する防御施設の不充分を理由にコミューンの警察上の権限不作為を追及した判決としてコンセイユデタの一九八九年の判決があり(44)、コミューンの責任について、コミューンが建築物を雪崩から守るための一定の工事を行っていたことを認定し、「コミューンが、その財政との均衡からはずれるようなより重大な工事を行わなかったところで、雪崩のような自然の事故を防止するための警察措置の規定についてコミューンの責任を生じる性質の過失を犯さなかった」とほぼ同様の判示を行った。
  それでは、災害を防止する施設の設置が不充分であるとき、判例は財政制約を理由として、常にコミューンを免責しているのであろうか。項を改めて、コミューンの財政能力を考慮しながらも責任を認定した事件を見ておこう。
  (二)  責任を肯定した事例とコンセイユデタの立場
  財政制約について触れながら、コミューンの責任を肯定した事例として既に挙げたヴァル・ディゼール判決がある。事案は紹介したので、関連する箇所を引用しておこう。コンセイユデタは、「この時期、コミューンは、雪崩に対する効果的な防御を確保するために必要だった防御工作物の建築計画を限られたごく一部しか実行していなかったし、証拠によると、そのような工事がコミューンの財政からして均衡を欠くとはいえない」と判示した。
  それでは、上記のカロ判決とヴァル・ディゼール判決の違いはどこにあるのか。ヴァル・ディゼール判決の論告を担当したラセールは、カロ判決の解決はヴァル・ディゼール判決には適用できないとする(45)。ティーニュとヴァル・ディゼールの両コミューンの違いは、第一に、ヴァル・ディゼールはティーニュと比して規模が大きく、受け入れできるツーリストの数も多いことである。第二に、ヴァル・ディゼールでは、雪崩が頻繁に起きるなど危険性が高く、防御施設を設置する必要性が高かった。以上のことから、ラセールはヴァル・ディゼールは、防御施設を建築する必要性に明白に適合しない計画を立てていたのであり、危険の予測や予防についてのこのような不充分は、コミューンの責任を裏付けるものとした。また、評釈者には、UCPAの山小屋は青少年を受け入れるものであったことを裁判所が考慮しているとの指摘もある。
  以上のように、フランスの行政判例はコミューンの一般警察による責任について、財政などの制約による免責の可能性を認めているということができよう。ただし、単純に財政制約論を受け入れているわけではなく、とりわけ雪崩の事例に関しては、観光客(スキー客)を多数受け入れ、そこから多額の収入を得ている観光地のコミューンには厳格な姿勢をとっていることが指摘できるであろう。また、危険の程度や種類も見過ごすことはできない。ヴァル・ディゼール判決の場合は人の(しかも未成年者が中心である)生命への危険があったし、それが現実化したわけである。カロ判決のような物損しかなかった事例とは区別して考えるべきであろう。
第三節  自然災害防止責任と免責事由

  フランスにおいても我が国と同じく、自然災害を理由とした行政賠償責任訴訟において、最もよく免責事由として登場するのは不可抗力かまたは当該自然災害が予見不能であったという主張である。しかし、一方で、フランスにおいては、既に不可抗力が行政賠償責任の免責事由として働くことは滅多にないとされる。ここでは、不可抗力と予見不能の問題に焦点を当てることとしたい。
  また、不可抗力の問題は決してコミューンの一般警察権限に関わってのみ問題になるわけではなく、次章で扱う特別警察権限やあるいは国の災害防止義務においても同様に問題になるのであるが、記述の都合上、ここでまとめて取り上げることとする。
一  不可抗力の位置づけ
  判例の検討にはいる前にフランス行政賠償責任において不可抗力がどのような意味を持ちどのような機能を有しているのかを確認しておこう。
  不可抗力は、偶発事故(cas fortuit)、第三者の過失、被害者自身の過失と並ぶ、フランス行政判例が認めている免責事由の一つである。不可抗力は、過失責任だけではなく無過失責任においても免責効果を有する。免責事由として、偶発事故という類似するカテゴリーも存在するが、偶発事故の免責効果は過失責任に限定されているという点で不可抗力とは異なる。また、自然災害が問題になるときは主として不可抗力の有無が判例上では検討されており、偶発事故が検討されることはあまりない。偶発事故が免責事由として現れるのはたいてい機械の爆発事故などの技術的な事故の場合である(46)。したがって、本稿では偶発事故については触れない(47)
  フランス行政法における、不可抗力の要素は通常三つあるとされている。すなわち、事件(e´ve´nement)が、予見不能で(impre´visible)、回避不能(irre´sistible)で、外部的(exte´rieur(48))であることである(49)。これらの三要素のうち、不可抗力の中心となる要素は、学説上回避不能であるとされている(50)。しかし、そうであるとしても、予見不能は回避不能の前提として判断されるものであり(51)、行政裁判官は、予見不能が存在することを不可抗力の要素として要求している(52)。自然災害については後に見るとおり予見可能性が問題とされることが少なくない。
  予見不能の性格は、ポンティエによると、以下の四つに分類される(53)。第一に、突発性(soudainete´)であり、突然の増水などを指すが、必ずしも突発的な事件すべてが予見不能とはならない。第二が、強度(intensite´)である。規模の大きい災害は回避が不可能ということからすると、予見不能より回避不能の問題でもある。しかし、予見不能であるためには、災害に一定の規模が必要という意味で、強度は予見不能と一定の関係を持つ。第三に、蓋然性(probabilite´)である。蓋然性が高いと予見不能とはならない。第四が、期間(dure´e)である。長雨などが例として考えられよう。これも回避不能とも関係するが、予見不能の性格をも示している。
  予見不能や不可抗力についての学説は以上の通りであるが、次に自然災害に関する判例の中で具体的にこれらがどのように判断されているかを検討する。
二  判例における不可抗力と予見不能
  判例においては、予見不能または例外的という言葉はよく使われるが、回避不能という点にはあまり触れられない。とりわけ、自然災害に関する訴訟の多くでは、予見不能が認定できないことを理由にして不可抗力を否定するという構成をとる判決が多いが、予見不能の有無のみが不可抗力の認定の有無を左右しているというわけではない。回避不能は、黙示的に判断されていると考えられている。例として、既に取り上げた、ヴァル・ディゼール判決が挙げられる。ヴァル・ディゼール判決は、不可抗力について次のように述べている。山小屋を襲った雪崩は、「その例外的な強さに関わらず、一九一七年以来少なくとも同じ発生場所から、山小屋のあったイゼール川左岸の地域に三回雪崩が到達しているということを考慮すると」、不可抗力ではない。判決は、不可抗力の有無を判断するにあたって、過去の事例、すなわち、予見できたかどうかの問題にしか触れていない。しかし、前節で引用した箇所に見られるように、コミューンの防護施設設置の義務を上記引用箇所の直後に検討していることから、少なくとも当該雪崩が防御施設によって防ぐことができるということ、すなわち回避可能であることが、前提とされていることがわかる(54)
  しかし、回避不能が等閑にされているわけではないにせよ、たいていの訴訟で問題なっているのは予見不能の有無である(55)。予見不能であるとは通常予見しうるかどうかということであり、相対的な概念であることはいうまでもないが、いずれにせよ行政判例は、予見不能が認められる領域−すなわち多くの場合ではそれは不可抗力の成立を意味する−を限定する傾向にある。
  (一)  グラン・ボルナン判決と予見可能性
  まず、当該地域で以前に発生している現象は予見不能であるとはされない。ここでは、最近の判決を例にして検討することとする。事案は次のようなものである。一九八七年七月一四日、フランス南東部に当たるローヌ・アルプ地方は豪雨に襲われていた。この地方のオート・サヴォワ県にあるグラン・ボルナンというコミューンを流れるボルヌ川の両岸にはキャンプ場が設置されており、当時、三〇〇人ほどのキャンプ客がいた。夕方一九時頃キャンプ場はおりからの豪雨による鉄砲水に襲われた。この鉄砲水により、二一名の死者と二名の行方不明者を出すこととなった。ちなみに、この夏は雨の多い年で、前月の降雨量は通常の年の四倍に達していたとされる。政府が設置した調査委員会の報告は、必ずしも行政の責任を明白に認めるものではなかった(56)こともあり、被害者の遺族らは、キャンプ場の設置許可権限などを有する国(後述するように、特別警察権限になる)と一般警察権限を持つコミューンに対して権限の不作為または不適切な権限行使が事件の原因であるとして、損害賠償を請求した。
  一審のグルノーブル行政裁判所は、当日の降雨が不可抗力の性質を示すものであるとして、請求を棄却する判決を下した(57)。論告が刊行されていないので、セルヴォアンの評釈に基づいて一審判決の判断を見ておこう。一審判決が、不可抗力の性格を認めたのは次のような理由によるものであった。まず、不可抗力が認められるためには、既に見たように、予見不能、回避不能、外部性が必要であるが、セルヴォアンによると論告では後二者には触れられておらず、もっぱら予見不能が検討されているという。そして、本件で予見不能を認定するために考慮された要素は複数挙げられているが、重要なものとして、まず第一に、自然現象の例外的な強さがある。すなわち、鉄砲水に先立つ三時間に降った降水量である。次に問題になるのは、これまでの事例との関連性である。すなわち、この地域でこれまでどの程度の降水がありまた鉄砲水が発生したことがあるのかという点である。セルヴォアンによると、この地域では過去二五〇年間に六回の水害が発生している。しかし、先例が意味を持つのは、「過去の事件が現在の事件とその規模と位置(localisation)において同一であるときのみである(58)」。このことから、場所などが今回の水害と必ずしも一致しなければ、これまでの水害は先例としての意味を持たず、予見可能性を裏付けるものではないこととなる。以上の点から、グルノーブル行政裁判所は請求を棄却した。
  これに対し被害者側は控訴し、リヨン行政控訴裁判所は、一九九七年五月一三日に一審判決を覆し、被害者の損害賠償請求を認める判決を下した(59)。一審判決と行政控訴裁判所の判決が正反対になったのは、主として不可抗力の認定において二つの判決が異なる判断をしたからである。
  まず、行政控訴裁判所での論告によると、災害の原因は二つあったとされる。第一が二ヶ月続いていた豪雨で、第二が災害当日の雷雨である。そして、論告は、予見不能のみがこの事件では重要であるとし、予見不能の性格が示されるかどうかについて、ヴァル・ディゼール判決を引用し、一度でも当該場所で当該現象が発生しておれば、予見不能は認められないとする。すなわち、「特定の場所で既に発生したことがあるのであれば、その自然現象は発生しうるのであるから、もはやそれ[自然現象]は、予見不能でもないし、その強度も以後は予見不能ではない(60)」と、述べ、先例の存在が認められることから予見不能を認めることはできないとした。
  判決はこれを受けて、「災害の原因となった増水の規模に関わらず−その原因は以前に認められた水害と同じである−原告らが受けた損害の原因となった事件は、予見不能ではないし、したがって、不可抗力事例と同一視することはできない」。と判示した。そして、一般警察の権限に基づくコミューンの責任については、メールは、一般警察の権限に基づいて、キャンプ場業者に対していかなる措置も禁止措置も行わなかったし、豪雨当日、豪雨の情報が連絡されていたにもかかわらず、危険を予防するための措置をとらなかったとして、過失を犯したと判示した。
  ヴァル・ディゼール判決以来、先例の存在から予見不能を厳格に解釈する傾向が見られたことは確かである。しかし、グラン・ボルナン判決は、たとえ、規模やあるいは場所が同一でないとしても、そこでかつて水害が発生しておれば、予見不能とはいえないとしている点で注目すべき判断であるということができる。評釈によると、この判断は、たとえ災害と災害の間の期間が非常に長くなっても(たとえば、数百年に一度の水害)、予見不能を認めないことを意味しうるのであり、不可抗力が認められるのは、かつて一度も発生しなかったような災害か、または非常に長期間にわたって発生しなかった災害のみを意味することになる(61)
  (二)  予見不能に関するその他の判例
  災害の規模について、判例は、「例外的でかつ予見不能な規模」であることを要求している。たとえば、豪雨が「例外的で予見しえない激しさと強さ(violence et intensite´)」有していることを、予見不能の性格を認めるために要求している判決例が見られる(62)
  また、仮に不可抗力の性格が認められる数少ない事例においても、行政判例は、司法判例と異なり、免責を不可抗力が寄与した割合に限定する(63)。こうするとたとえ不可抗力の性格が自然災害に見られるとしても、行政は少なくとも自らが寄与した損害−たとえば公の工作物の欠陥によって損害が拡大した部分が考えられるが−、については損害賠償責任を免れなくなる。したがって、行政が完全に免責を得られることはほとんどないこととなる。
  以上のように、近時の行政判例は不可抗力の認められる範囲を厳しく限定し、不可抗力の免責効が認められる可能性を著しく小さくしたということがいえる。

第二章  特別警察の権限に基づく責任


  本章では前章とは異なり、コミューンではなく国の責任を中心に検討する。自然災害防止のための国の権限は、特別警察と総称される個別の立法によって授権された権限である。その権限は多種多様で、そのすべてをここで紹介し検討することはできない(64)。したがって、ここではその中でも国の有する都市計画法に関連する権限を中心に検討することとする(65)。というのも、近時、自然災害防止に関する都市計画法上の権限の不行使や遅滞を理由とする行政賠償責任訴訟においても判例の蓄積が見られ、それらの重要性は次第に増しているからである。
  しかし、都市計画法に関連する防災権限は国の責任だけを生じるわけではなく、コミューンの責任を生じることもあるので、コミューンの責任について後に触れるものとする。
一  自然災害防止のために国が有している都市計画法に関する権限

  我が国においても夙に指摘があることだが、自然災害による被害を防止する方法の一つはそもそも自然災害のおそれがある地域での開発や建築を禁止または制限することである(66)。フランスにおいては、早くからこのような手法が採用されてきたし、多種多様な制度が存在し、頻繁に法改正が行われている。ここではどのような制度が存在するのか行政賠償責任判例の理解に必要な限りで簡単に紹介しておく(67)。また、これらの都市計画に関する文書を総称して以下では防災都市計画文書(68)と呼ぶこととする。
  まず、比較的古くから存在する防災都市計画文書として都市計画法典R一一一ー三条に基づく制度がある。この制度は一九五五年四月二九日のデクレによって創設され、後に都市計画法典に含められた(69)。この規定は、「洪水、浸食、地盤沈下、地滑り、雪崩といった危険に曝された地域での建築は、もし許可されるとしても、特別な条件に服させしめうる。この地域は、関係役務への諮問と、・・定められた形式における調査を経た後、知事のアレテによって画定される」いうものであった。すなわち、「危険地域(pe´rime`tre de risque)」が知事によって定められ、その地域内では建築は禁止されるかまたは一定の条件が付されることとなる。この制度はいわゆるRNU(全国都市計画規制(re`glement national d’urbanisme))の一つであり、国の権限に属する。RNUの多くはPOS(土地占用計画(Plan d’occupation des sols(70)))を持たないコミューンにしか適用されないが、R一一一ー三条はそのような適用の制限を持たず、POSを持つコミューンにも適用されうる(71)。ただし、後に見るように、R一一一ー三条の危険地域の設定は、バルニエ法によって創設されたPPRに吸収され、R一一一ー三条は改正を受けた。
  もう一つが、PER(自然災害危険計画(Plan d’exposition aux risques naturels))と呼ばれる制度の系列である。一九八二年七月一三日の法律によって、自然災害被害者補償制度と同時に創設された。PERは、プレゼンテーション報告(rapport pre´sentation)、危険地域の図面(documents graphiques)、建築物の規制などを定めた規制(re`glement)の三つの文書からなる。これらによると、@白地域(予測しうる危険が存在しない地域)、A青地域(制御可能な(mac370^trisable)危険に曝された地域で、建築等には特別の条件が付される)、B赤地域(非常に危険に曝された地域で、ここではすべての建築等は禁止される)の三種(72)に分類される。PERの作成にはコミューンの意見を徴するなど、その作成にコミューンもある程度関わることができるが、国の機関である知事のアレテによって認可され効果を持つものであり、基本的に国の権限に属する(73)。PERは、行政地役権としての効力を有し、POSの地役権のリストに含められる。上記のR一一一ー三条と異なり、PERは、土地を利用する活動すべてに適用され、将来だけではなく、既存の建築物にもある程度適用があるという点で一層強い効果を持った制度ともいえる。また、PERに違反した建築物は、原則として一九八二年法による自然災害被害の救済制度の恩恵を受けることができず、保険会社は保険契約を締結しないことができることとされていた。
  しかし、PERは作成手続の複雑さやその作成費用が多額にのぼること、危険地域とされた地域での開発がたち行かなくなるため、地方議会から賛成を得にくかったことなど様々な問題点を抱え、結局、当初の目的を達成することができず、「半ば失敗(demi−e´chec)」と評価されることとなってしまった(74)。このため、政府はPERの改革をおし進め、その結果、PERは、バルニエ法によって廃止され、新たな制度に場所を譲ることとなった。
  バルニエ法は、PERを廃止してPPR(自然災害予防計画(Plan de pre´vention des risques naturels pre´visibles))を創設した。PPRは、PERの問題点とされていた、複雑で費用のかかる策定手続を相対的に容易なものとした。一方で、手続終了前でのPPRの暫定的な効果発生などPERにおいてよりも一層知事の権限を強化し、災害防止における権限を国に集中した。
  それだけではなく、バルニエ法は、それまで多数存在し、複雑な体系を持っていた防災都市計画文書をPPRに統一することとした。これにあわせて、PERだけではなく、前述の都市計画法典R一一一ー三条に基づく危険地域の設定その他、類似する各種の制度がPPRに統一された(75)
  PPRは、一定の改善点はあるものの、PERと基本的には異なるものではなく、自然災害の危険のある地域をゾーニングによって示し、その地域での建築その他の活動を禁止または制限し、あるいは条件を付与するというものである。PERと同じく、都市計画地役権としての性格を有しており、POSに付されることとされている(76)
  上記の自然災害を特別に対象とした防災都市計画文書だけではなく、POSやSD(指導シェーマ(schema directeur(77)))などにおいても、自然災害の危険の有無は考慮される(78)。たとえば、都市計画法典L一二一ー一〇条は、POSとSDの双方において自然災害予防について触れているし、同L一二三ー一条は、POSが自然災害の危険を考慮しなくてはならないという規定を設けている(79)。しかし、本稿では、自然災害を特に対象とした防災都市計画文書を扱う。というのも、越権訴訟においてと異なり、行政賠償責任ではこれらが問題になる例が多いからである(80)。それでは項を改めて判例の考察を行うこととする。
二  防災都市計画文書作成の遅滞または不作為の過失

  これらの防災都市計画文書の作成の不作為や遅滞などを理由として、被害者が損害賠償を請求した判例は、既に一定の蓄積を持っており、その多くはR一一一ー三条に関する事例である。PERやPPRは未だその歴史が短く、またその策定が特にPERについては簡単ではなかったこと、それに引き替えR一一一ー三条が比較的簡単な手続で策定される制度であったためある程度普及していたためであろう。PPRの作成が進展するならば、将来的にはPPR作成の不作為や遅滞を理由とした行政賠償責任訴訟が増加することになるであろう(81)。ただし、現在の行政裁判所における判例は、多くがR一一一ー三条に関するものであるので、これに関する判例をここでの考察の中心することとする。
  R一一一ー三条などの防災都市計画文書の作成権限の不作為に基づいて行政賠償責任が問題になるのはどのような場合であろうか。典型的なケースとしては次のようなケースが考えられる。R一一一ー三条などによってある地域が危険な地域であると指定されると、建築許可(permis de construire)が交付されないか、または建築に一定の条件が付されることとなる。もし、知事が、自然災害の危険がある地域を危険地域に指定せず、そのため、建築許可が交付され、建築が行われたかまたは条件が付されずに建築許可が交付された結果、自然災害による被害が発生した場合、被害者が国の危険地域指定の不作為を理由として行政賠償責任を請求するというケースである(82)
  まず、判例の検討にはいる前に、確認しておくべきことは、建築許可は、当該土地が自然災害から安全であることを保証するものではないということである。コンセイユデタの判例によると、係争物件の建築のために、「コミューンが交付した建築許可は、当該建築に耐えうる土地の強度に関する保証を建築主に与えるものではない」とされており(83)、最近の判例にもこれを確認しているものがある(84)。しかし、コンセイユデタは、主として都市計画法典R一一一ー三条を手がかりにして、自然災害危険地域の指定の不作為を過失と判断する判例を展開させ、被害者の保護をはかってきた(85)
  危険地域の指定の不作為を理由として行政賠償責任を請求した判例のリーディングケースとなったのは一九七九年七月二七日のコンセイユデタ判決である(86)。事案は次のようなものであった。既に触れたティーニュというコミューンのメールが、コミューン内でレストラン兼用ホテル(ho^tel−restaurant)の建築に対して検査済証(certificat de conformite´)を発給した。しかし、そこには、当該土地が雪崩の危険のある地域に指定されており、必要なときには避難措置の対象となる旨の付記があった。レストラン兼用ホテルのオーナーであったブラン氏は、そのような記載が顧客に対して悪影響があることから、検査済証の記載の取消と損害賠償を請求した。危険地域の指定には時間がかかるため、建築許可が交付された時点では、ブラン氏がレストラン兼用ホテルを建築していた土地は雪崩の危険のある地域であると知事のアレテによって指定されていなかった。
  一審のグルノーブル行政裁判所は、取消については請求を却下し、損害賠償請求については、一部国の責任を認めた。コンセイユデタは、取消については一審判決の判断を維持し、損害賠償については、知事が一九五五年のデクレ(後のR一一一ー三条)に基づいて、一九七〇年まで危険地域を画定する手続をとらなかったことを認定し、この異常な−長期にわたった−不作為が、行政に対して、「この地域でのレストラン兼用ホテルの建築のため、一九六九年にブラン氏の申請によって建築許可が交付されたとき、危険の現実と重大さを評価することができない状態にした過失を構成する」と判示したが、一方でブラン氏の不注意をも認定し賠償額を半額に減額した。
  ブラン判決の場合、R一一一ー三条に基づく危険地域の決定を行うのに約一五年という年月がたっていたことから、異常に長期にわたる不作為であるとして、過失が認定されたわけである。しかし、この判決の重要性はむしろ、国が自然災害の危険地域の決定について不作為を犯せば、行政賠償責任を生じることを明らかにした点であろう。その後も既に紹介したヴァル・ディゼール判決など多数の判決で防災都市計画文書の作成の遅滞または不作為が行政賠償責任の根拠となった。しかも、責任要件は単純過失であり、重過失は要求されないのが判例の立場となった(87)
  ある論者によると、R一一一ー三条に基づく権限の不作為または遅滞に基づく行政賠償責任で過失が認められるためには、次のような点が考慮されているとされる(88)。すなわち、第一に、当該コミューンの人口規模と都市化の展望であり、第二に、潜在的な危険の強さと当該危険の種類である。当該地域が、人口が多いとかあるいは増加する傾向にあるときには、もし危険が現実のものとなれば国の過失が認定されるほうに傾くし、また、いうまでもないことだが、危険が大きいほど国の過失は認定されやすくなる。
  このように考えれば、ある程度の人口があるコミューンでの自然災害については、ほとんどの事案でR一一一ー三条の権限不作為は過失と認定されることになりそうだが、過失が認定されるためには、建築許可が出された当時、当該自然災害の危険は知られているかまたは知られているべきものでなくてはならない。よく判決が使う用語法に従うのであれば、「当時行政が保有していた情報を考慮すると」、どうだったかである(89)
  危険が行政に知られていなかったことを理由として、過失を否定した事例としてコンセイユデタの一九八九年六月一六日判決がある(90)。この判決は、雪崩によって山小屋が破壊されたという被害者が、このような雪崩の危険のある地域への建築許可が認められたのは行政による危険地域の決定が遅滞していたからであると主張した事例である。判決は、一九〇五年以来、雪崩は、山小屋の上の斜面にある森林によって止められていたことなどを認定した論告にしたがって(91)、当時のいかなる資料も当該地域を危険地域であると考えることを可能にはしていなかったのであり、「当時保有されていた情報を考慮すると」、「国は損害賠償を生じる性質の過失を犯さなかった」と判示し、国の防災都市計画文書作成の遅滞を過失とは認定しなかっ(92)(93)
  しかし、行政の自然災害防止義務を強化するという近時の判例の立場は、この点においても顕著であり、行政判例は、建築許可交付当時の知見という要件を次第に緩和してきている(94)。たとえば、一九八三年二月二三日のコンセイユデタ判決は(95)、地滑りの危険が「地域の特徴(caracte`ristiques de la zone)」を考慮して、当時知られていたかどうかを問題にしている。また、地滑りによって居宅を破壊された被害者による損害賠償請求事件であるが、一九九五年二月二八日のリヨン行政控訴裁判所の判決(96)は、当時行政が自然災害の危険を知っていたかどうかという原則自体は問題にはしなかったが、この点について一定の推定を導入している。すなわち、危険が当該土地の形状(configuration des lieux)から明白であれば、当該危険が行政の知らないものだったということにはなりえないと判示している。
三  許認可機関の過失

  前項で考察したのは、防災都市計画文書作成の不作為または遅滞によって、それらの文書を作成する権限を有する国が損害賠償責任を追及されたタイプの事件である。しかし、被害の発生には通常次のようなプロセスが踏まれていると考えることができるだろう。すなわち、防災都市計画文書が存在しないが故に、何らかの許認可(多くは建築許可であるが、画地許可(autorisation de lotir)の場合もあり得る)が被害者に交付され、自然災害の危険のある地域に建築物が建造され、危険が現実化して被害が発生するというプロセスである。確かに、防災都市計画文書の策定が遅滞していたことが、損害発生の前提であろうが、果たして自然災害の危険がある地域に建築許可などを与えた行政機関に過失があるとはいえないのであろうか。これがここでの問題である。防災都市計画文書の作成は国の権限であるが、様々な許認可はコミューンの権限であることが多い。
  理論的には、防災都市計画文書が存在していても、許認可を与えてしまうというケースも考えられないではないし、このようなケースが仮にあれば当然それは過失であると認定される(97)。しかし、実際に問題になるのは、国が防災都市計画文書を作成していないために、たとえば何らかの許認可権限を持つコミューンの機関が許認可を与えてしまい、被害者から損害賠償を請求されるというケースである。パルマンティエ=リュージェによると、重大な危険が認められるとき、行政は建築許可を拒絶したり建築許可に条件を付したりということができるし、それをしなくてはならず、このような不作為は過失であると考えられるというのである(98)。たとえ、防災都市計画文書による危険地域の画定が行われていなくても、許認可権限を有する機関は、自然災害の危険を理由として建築許可などの申請を拒否しなくてはならないというコンセイユデタ判例がこのような考えを裏付けている(99)
  しかし、このような責任も上記のケースと同様に一定の限界がある。それは、許認可時点での行政が有していた知見である。たとえば、一九九三年四月八日ボルドー行政控訴裁判所判決を挙げてみよう(100)。事案は水害に関するものである。原告はサント・マリー・ド・レというコミューンに居住用家屋の建築許可を一九八七年三月に取得した。しかし、この家は水害によって一九八七年から一九八八年にかけての冬に損害を受けた。当該土地は、地下水層の上昇によって水害の危険に曝された湿地に存在していたのである。原告は、都市計画法典R一一一ー三条に基づいてコミューンは水害の危険のある地域においては建築許可を拒否しなくてはならないにも関わらず建築許可を与えた過失があるし、国は危険地域の確定を怠っていた過失があると主張した。この事件でサント・マリー・ド・レのメールは、知事のアレテによる危険地域の確定が行われていなかった以上、自らには過失はなかったと主張したが、判決は、メールが当該土地の水害の危険を建築許可申請を審理する機関に知らせていたことを認定し(101)、「当該地域が洪水の起こりやすい土地であることを知りながら、関係人に建築許可を交付していたメールは」、コミューンの責任を生じる性質の過失を犯したと判示した。
  以上のように、現在の行政判例の立場からは、建築許可などの個別の処分を行う行政機関も、R一一一ー三条などの防災都市計画文書が未だ作成されていないことを理由として、その責任を免れないといえよ(102)(103)。このため、行政は、建築許可の申請者に対して、建築許可を与える前に、当該土地の災害の危険性を調査させることもある(104)
四  一般警察と特別警察の措置の競合

  自然災害防止の権限については、前章で触れたコミューンの権限と多くは知事が持つ国の権限が競合している。たとえば、知事が自然災害の防止に関する特別警察上の権限を有している場合、メールはその一般警察における義務を免除されたりあるいは軽減されたりするのであろうか。あるいは、一般警察と特別警察の権限行使の義務のレベルに違いがあるのであろうか。この点について触れて本章を終えることとしたい(105)
  一般論として述べると、特別警察の権限の存在は、一般警察の権限を有する行政機関の作為義務を軽減したりするものではない。特に反対の法令の規定が存在しない限り、一般警察権限の行使には特別警察権限は障害とはならない。メールは、一般警察権限に基づいて特別警察よりも厳しい措置をとることもできる(106)。したがって、たとえば、国が特別警察権限を有しているとしてもそのことはメールが自ら有する一般警察権限の懈怠に基づく責任を免れないことを意味するのである。また、メールが一般警察と特別警察の権限の両方を持っているときも同じである(107)
  例として、既に事案を紹介しているグラン・ボルナン判決を挙げる。グラン・ボルナン判決では、一般警察権限の不作為に基づくコミューンの責任が追及されたが、一方で国も特別警察権限の不作為などを理由としてその責任を追及された。国が有していたのは特にキャンプ場設置許可に関わる権限である(108)。グラン・ボルナン判決で問題になったのは、一九七三年のアレテによって知事が与えたキャンプ場設置許可とその後一九七八年に与えたキャンプ場の拡大の許可であった。鉄砲水に襲われたキャンプ場は、後の調査によって、川の水位より低いところがあり水害に襲われやすいところであったことが判明した。リヨン行政控訴裁判所判決によると、たとえ、法令が明文で要求していなくても、「キャンプ場の開設許可を出すとき、知事は、当該施設の利用者の安全を考慮する権限」があり、「洪水から施設とその占有者を保護する特別な措置をとらずに前述の許可を与えた知事は、被害者に対して国の責任を生じうる過失を犯した」。グラン・ボルナン判決であれば知事は少なくともキャンプ場開設の許可に一定の条件を付すべきであったのにそれをしなかったことが過失と判断される。
  すなわち、自然災害からキャンプ場の利用者の安全を考慮するという意味では、同一の目的を持っている特別警察と一般警察だが、はじめに述べた一般論のように、それぞれが独立してその行使を義務づけられ、義務の懈怠があった場合にはやはり独立してその損害賠償責任を追及されることになるのである。
  ここではグラン・ボルナン判決を例としたが、本章で取り上げた、主に国が有する防災都市計画文書に基づく特別警察権限と、前章で取り上げたメールの一般警察権限についても同様と考えることができる。どちらの権限を有する行政機関もその自然災害防止の義務を免除されるわけではないのであり、この点においても行政の自然災害防止義務が強化されていることが指摘できるであろう。

む    す    び


  まず、これまでのフランスの行政判例の考察から、どのような傾向が見られるのか簡単にまとめておこう。
  端的に述べれば、フランスの行政判例は、行政の自然災害防止義務を行政にとって厳格に解釈しており、義務違反すなわち過失が認められる領域を拡大してきたし、また現在も拡大しつつあるということができよう(109)
  まず、判例は、行政の裁量を認めていると解釈できるコミューンの一般警察について、行政に調査義務を課すなどして、義務違反の認められる範囲を広く認定している。それは、事例によっては必ずしも明白でないことがあるものの、行政の責任の要件として重過失を要求せず単純過失で責任を認定している事例が増えていること(110)、不可抗力や予見不能が成立する余地をほとんどなくしており、行政の免責が事実上あり得なくなっていることなどから明らかであろう。
  次に、行政判例は防災都市計画文書作成の不作為についても国の責任が認められる余地を拡大してきている。古典的である一般警察に関する行政賠償責任に加えて、近時の判例は、行政がその災害防止義務違反を追求される領域を新たに拡大したと見ることができる。判例上問題になるのは、主として都市計画法典R一一一ー三条だが、重過失ではなく単純過失を要件として行政賠償責任が認められてきている。この傾向は、自然災害のみで問題になっているというわけではなく、九〇年代に顕著になった重過失要件の制限という行政判例の流れの一部である(111)。また、同時に、判例は次第に行政が免責される余地を減らしてきており、行政に厳しい自然災害防止義務を課そうとしている。ただし、この分野においては上記の一般警察の領域と異なり、都市計画法という法改正の激しい分野であるので、今後の判例の展開に注意が必要といえるかもしれない。特にPPRの制度下で過去R一一一ー三条に関して形成された判例がどの程度妥当するのか、明らかとはなっていないのである。
  また、本稿では考察対象との関係から検討していないが、近時、フランスにおいては、上記のような行政が国民を危険から保護する義務の強化を環境法で問題になる予防原則(principe de pre´caution)との関係で説明する見解が見られる(112)。現時点では、予防原則自体がかなり曖昧な点を残していることもあり、予防原則が、自然災害に止まらず、行政の危険防止義務を検討する上でどのような役割を果たすのかは明確ではない。この原則は一九九三年のHIV汚染血液訴訟コンセイユデタ判決で現れているとされるが(113)、それ以外の領域で行政の危険防止義務を裏付ける概念となるかまたそれはどの程度であるか、そのことによって今後のフランスの行政判例にどのような影響があるかといった点は今後の検討課題であるといえるであろう。
  しかし、フランスの行政判例は、行政に対してのみ厳格な姿勢をとっているのではない。このことを最後に補足しておく必要があるだろう(114)。行政判例は、上で見たように、行政の義務違反が認定される可能性を拡大してきたといえるのだが、一方で被害者の責任をも厳しく問うという傾向が見られる。とりわけ建築許可に関する事例で判例は損害発生に被害者の不注意などが寄与していたという理由で賠償額を減額している。たとえば、一九八九年二月二二日のコンセイユデタ判決(115)は、R一一一ー三条に基づく危険地域を作成しなかったことを理由として国の責任を認めているが、一方で、「自らその建築物の設置を計画していた場所の安全を確認しなかった」という不注意を理由として、国の責任を半額に減額した原審判決を認めている。また、それだけではなく行政の全責任を免責することもありうるとされる(116)

(1)  ただし、DOM‐TOM と呼ばれる海外県や海外領土は別である。B. Ledoux, Les catastrophes naturelles en France, 1995, p. 37.
(2)  コミューン(commune)とは、我が国の市町村に該当するフランスにおける最も基本となる地方自治体である。フランス本土と海外県をあわせて、三六七〇〇のコミューンが存在する。コミューンの長はメール(maire)と呼ばれ、ほぼ我が国の市町村長に該当するが、住民の直接選挙ではなく議会の中から選出される。A. Van Lang, G. Gondouin et V. Inserguet−Brisset, Dictionnaire de droit administratif, 1997, p. 64.
(3)  A. Berramdane, L’obligation de pre´vention des catastrophes et risques naturels, R.D.P., 1997, p. 1718.
(4)  ほぼ我が国でいう国家補償に当たる。行政賠償責任に関する事件には行政裁判所が管轄を有する。
(5)  我が国では国家賠償法二条の問題として検討されることが多いが、一条に関する事例もないわけではない。我が国におけるこの問題を扱う比較的最近の文献として、たとえば、阿部泰隆「土石流、崖崩れ、山崩れ災害における国家賠償責任判例」損害賠償法の課題と展望(一九九〇年)一一一頁。
(6)  以下では、コミューン法典はCC、地方公共団体一般法典はCGCTと略する。一九九六年二月二一日の法律によってCCからCGCTへの改正が行われた。CGCTL二二一二ー二条、CGCTL二二一二ー四条ともにそれぞれの旧規定と大差ない。
(7)  9845語訳として、村上順・改訂版フランス市町村法典(一九九四年)七五頁、外国の立法三四巻一ー二号(一九九五年)四二頁。
(8)  用語の使い分けについて、以下の論文参照。J. Hermann, Les de´cisions administratives a´ l’e´prueve des risques naturels:les sanctions du juge administratif, in La pre´vention des risques naturels, CREDECO, 1993, pp. 89-93.
  Voir P. Se´gur, La catastrophe et le risque naturels, R.D.P., 1997, p. 1693.
(9)  もちろん無過失責任(responsabilite sans faute)が問題になることはあり、一部の制定法は無過失責任を認めている。
(10)  落雷による火災について、C.E., 7 janvier, Yannakakis, R.D.P., 1976, p. 1509, note M. Waline.
(11)  参照、山田敏之「フランスの災害対応体制」外国の立法三四巻一ー二号(一九九五年)二五頁以下。
(12)  消防役務に関する最近の文献として、X. Pre´tot, La responsabilite´ des services d’incendie et de secours, R.D.P., 1998, p. 1001.
(13)  一九八二年法により、保険制度を利用して自然災害の被害者の物的損害を救済するための制度が作られた。この立法については多数の文献があるが、最近のものとして以下の文献参照。C. Guettier, Indemnisation des victimes de catastrophes naturelles et socialisation du risque, R.G.D.A., 1997, p. 672;E. Le Cornec, Indemnisation des catastrophes naturelles et des calamite´s agricoles, J.C.E., Fascicule 950-14, 1996.
(14)  F. Moderne, Responsabilite´ de l’Etat et des communes en cas de re´alisation de risques naturels et technologiques majeurs, Droit et Ville, 1986, p. 167.
(15)  F. Chauvin, La responsabilite´ des communes, 1996, p. 40.
(16)  F. Moderne, op. cit., 1986, p. 169.
(17)  M. Sousse, La notion de re´paration de dommages en droit administratif francais, 1994, p. 276.
(18)  R. Romi, La responsabilite´ pour carence des autorite´s de police administrative, L.P. A., 10 de´cembre 1986, no. 148, p. 29.
(19)  もっとも、裁判所はかなり拡張的に解釈しているとされる。M. Sousse, op. cit., p. 289.
(20)  我が国の用語法に従うと、行政の裁量ということになろう。
(21)  M. Sousse, op. cit., p. 289.
(22)  R. Romi, op. cit., p. 30.
(23)  重過失の適用領域について、北村和生「フランス行政賠償責任における重過失責任」(一)法学論叢一二七巻四号(一九九〇年)六六頁以下。
(24)  Voir F. Vincent, Responsabilite´ en matie`re de police, J.C.A. Fascicule 912, 1996.
(25)  F. Zimeray, Le maire et la protection de l’environnement, 1994, p. 119.
(26)  J. Moreau, Re´gime ge´ne´ral de la protection municipale contre les dangers d’origine naturelle, in Collectivite´s Locales, 2510, 1985, no. 45.
(27)  C.E., 6 mai 1970, Khalerras, R., p. 304;C.E., 6 fe´vrier 1981, Barateau, R., p. 905.
(28)  C.E., 22 juin 1987, Ville de Rennes c. Compagnie rennaise de linoleum, R., p. 223.
(29)  F. Moderne, op. cit., 1986, p. 170.
(30)  重過失と単純過失の区別とその根拠について、北村・前掲五六頁以下参照。
(31)  重過失を認めた事例として、C.A.A., Lyon 1er fe´vrier 1990, Consorts Pressigout, R., p. 980;C.A.´A., Lyon, 1er fe´vrier 1995, Consorts Duchatel et Mazoyer, no. 93LY00483.
(32)  F. Moderne, op. cit., 1986, p. 170.
(33)  M. Sousse, op. cit., p. 277.
(34)  C.E., 14 mars 1986, Commune de Val d’Ise`re c. Madame Bosvy et autres, J.C.P., 1986. J. 20670 conclusion Lasserre, observation F. Moderne;A.J.D.A., 1986, p. 298 et p. 337 note M. Azibert et M. Fornacciari;L.P.A., 7 mai 1986, no. 55, p. 9.
(35)  T.A., Grenoble, 19 juin 1974, Dame Bosvy et autres c. Ministre de l’Equipement et Commune de Val d’Ise`re, J.C.P., 1975. II. 17956, observation F. Moderne;A.J.D.A., 1975, p. 194, note F. Servoin.
(36)  F. Moderne, op. cit., 1986, p. 174.
(37)  いわゆる公土木(les travaux publics)の責任とは別である。J. Hermann, op. cit., p. 98.
(38)  J. Hermann, op. cit., p. 98.
(39)  M. Sousse, op. cit., p. 285.
(40)  C.E., 6 janvier 1971, Dame Louvet, R.D.P., 1971, p. 1467, note M. Waline.
(41)  J. Hermann, op. cit., p. 98.
(42)  T.A., Grenoble, 19 juin 1974, Carot et autres c. Commune de Tignes, Gaz. Pal., 1975, 1. 236, note F. Moderne. .
(43)  C.E., 27 juillet 1979, Carot et autres c. Commune de Tignes, R., p. 342;Droit et Ville, 1979, no. 8, p. 255.
(44)  C.E., 16 juin 1989, Association le ski alpine murois, R., p. 141;R.F.D.A., 1989, p. 719;D.S., 1989, inf. rap. p. 227;L.P.A., 21 janvier 1991, no. 9, p. 11.
(45)  Lasserre, conclusion pre´cite´e sous C.E., 14 mars 1986.
(46)  J. −F. Couzinet, Cas de force majeure et cas fortuit:cause d’exone´ration de la responsabilite´ administrative, R.D.P., 1993, p. 1392.
(47)  フランスにおいては私法と公法とで、用語は同じでも免責事由の位置づけが異なるので注意が必要である。
(48)  偶発事故における内部性とは、たとえばある機械が故障して爆発したが、たとえその原因は不明でも原因は機械の内部にあったという意味で、事故は内部的であると説明される。不可抗力の要素である外部性は、この内部性と対立する概念であり、偶発事故と不可抗力を区別すための要素である。しかし、偶発事故は、本稿の立場からはあまり重要ではないと考えられるので、この説明には立ち入らない。また、近年では内部性や外部性という区別には批判的な見方が強い。J. −F. Couzinet, op. cit., p. 1401.
(49)  J. −F. Couzinet, op. cit., p. 1391;F. Leduc, Catastrophe naturelle et force majeure, R.G.D.A., 1997, p. 414.
(50)  J. −F. Couzinet, op. cit., p. 1397.
(51)  J. −M. Pontier, L’impre´visibilite´, R.D. P., 1986, p. 22.
(52)  J. −F. Couzinet, op. cit., p. 1397.
(53)  J. −M. Pontier, op. cit., pp. 11-14.
(54)  J. −F. Couzinet, op. cit., p. 1397, note 32.
(55)  A. Berramdane, op. cit., p. 1748.
(56)  調査委員会の報告によると、この事件の原因は、この時の豪雨が激しいものであったこととボルヌ川の周辺の地形が鉄砲水を起こしやすいものであったこと、そして、当該キャンプ場の設置を可能にする行政の許可は違法ではないものの思慮に欠けるものであったことである。Le Monde, le 8 aou^t 1987.
(57)  T.A., Grenoble, 2 juin 1994, Claude Raymont et autres, L.P.A., 10 fe´vrier 1995, no. 18. p. 15, note F. Servoin;Espaces, no. 134, 1995, p. 44.
(58)  F. Servoin, note pre´cite´e sous T.A., Grenoble, 2 juin 1994, p. 17.
(59)  C.A.A., Lyon, 13 mai 1997, M. Balusson et autres, L.P. A., 14 novembre 1997, no. 137, p. 21;D.A., juillet 1997, p. 7, conclusion L. Erstein;D.S., 1998. J. 11, note C. Schaegis;Droit de l’environnement, no. 51, 1997, p. 51, note G. Fontbonne.
(60)  L. Erstein, conclusion pre´cite´e sous C.A.A., Lyon, 13 mai 1997 , p. 8.
(61)  C. Schaegis, note pre´cite´e sous C.A.A., Lyon, 13 mai 1997 , p. 13.
(62)  C.E., 27 avril 1982, Compagnie ge´ne´rale des eaux, R., p. 768;C.E., 23 janvier 1981, Ville de Virzon, R., p. 28;C.A.A., Lyon, 28 septembre 1994, Commune de Bastia, No. 92LY00727.
(63)  A. Berramdane, op. cit., p. 1749.
(64)  詳細は、以下参照。M. Sousse, op. cit., p. 292;E. Le Cornec, La police des maires et des pre´fets face aux risques, L’Assurance francaise, no. 730, 1997, p. 43.
(65)  フランスの都市計画法制に関する9845語文献は少なくないが、全般的なものとして、稲本洋之助他・ヨーロッパの土地法制(一九八三年)一頁以下、原田純孝他編・現代の都市法(一九九三年)一六五頁以下。
(66)  P. Planchet, La mac370^trise de l’urbanisation des zones expose´es a` des risques naturels, L.P.A., 7 octobre 1994, no. 120, p. 17.
(67)  ここでは都市計画法に関連する制度の紹介は本稿で扱う判例との関係で必要な限りに止める。
(68)  以下で紹介するものには、厳密には、都市計画文書(documents d’urbanisme)に該当しないものもあるが、本稿では都市計画法に関連することから本文中のような名称を使用する。Voir F. Zimeray, op. cit., pp. 100-106.
  また、「防災都市計画文書」という用語は、我が国における「都市計画」の語感とは必ずしも調和しないが、フランスにおける urbanisme の特色について、原田純孝他編・前掲一九二頁ー一九三頁。
(69)  G. Liet−Veaux, Principales re`gles nationales d’urbanisme et de construction, J.C.A., Fasciclue 447-10, no. 80, 1996.
(70)  POSとは、一般的にコミューンのレベルで策定される都市計画文書であり、すべての者を拘束する土地利用の一般的な規範を定めている。Dictionnaire de l’urbanisme et de l’ame´nagement, 2e e´dition, 1996, p. 580.サ
  また、POSについての9845語文献として、以下の文献参照。稲本他・前掲二七ー三〇頁、見上崇洋・行政計画の法的統制(一九九六年)二八〇頁。
(71)  J. Morand−Deviller, Re`glement national d’urbanisme, Urbanisme, 1995, p. 939 et p. 941.
(72)  F. Bouyssou, Les plans d’exposition aux risques naturels, Droit et Ville, 1985, p. 244.
(73)  C. Cans, Risques technologiques et naturels majeurs, Urbanisme, 1995, p. 1021 et p. 1025.
(74)  E. Le Cornec, Les plans de pre´vention des risques naturels pre`visibles, L’Assurance francaise, no. 716, 1995, p. 8.
(75)  PSS(浸水地域計画(Plan de surface submersible))、PZSIF(森林火災危険地域計画(Plan de zones sensibles aux incendies de fore^t))などがある。Voir Guide ge´ne´ral Plan de pre´vention des risques naturels pre´visibles, Ministe`re de l’Ame´nagement du Territoire et de l’Environnement et Ministe`re de L’E´quipement, des Transports et du Logement, p. 49;E. Le Cornec, Risques naturels, J.C.E., Fascicule 950-20, 1993;C. Cans, op. cit., p. 1034.
(76)  Voir C. Cans, Risques naturels majeurs, Urbanisme, 1997, pp. 1071-1076.
(77)  指導シェーマについては、見上・前掲二七五頁以下。
(78)  A. Berramdane, op. cit., p. 1736.
(79)  Voir N. Calderaro, Le juge administratif et la pre´vention des risques naturels, L.P.A., 24 mai 1996, no. 63, pp. 7-8.
(80)  ただし、これらの諸制度が輻輳した状態が妥当かどうかは別個の考慮が必要である。特別な防災都市計画文書よりも、POSなどの一般的な都市計画文書による規制のほうが適切とする論者もいる。Voir E. Principi, S’accomoder des inondations, E.F., no. 71, 1996, p. 16.
(81)  二〇〇〇年までに二〇〇〇のPPRの作成が意図されている。Guide ge´ne´ral, op. cit., p. 9.
(82)  J. Hermann, op. cit., p. 100.
(83)  C.E., 20 avril 1966, Loncq, R., p. 268.
(84)  C.E., 26 juin 1985, SCI de la Chalp, R., p. 206;J.C.P., 1986. II. 20648, observation J. −B. Auby.
(85)  A. Parmentier−Luget, La responsabilite´ administrative en matie`re d’urbanisme, 1996, p. 239.
(86)  C.E., 27 juillet 1979, Blanc et ministre de L’e´quipement, R., p. 352;Droit et Ville, 1979, p. 248, note F. Bouyssou;Re´pertoire du Notariat Defre´nois, 1980, p. 736, note F. Moderne.
(87)  A. Berramdane, op. cit., p. 1745.
(88)  J. Hermann, op. cit., p. 100.
(89)  A. Berramdane, op. cit., p. 1745;J. Hermann, op. cit., p. 101.
(90)  L’arre^t pre´cite´e.
(91)  J. Hermann, op. cit., p. 101.
(92)  A. Parmentier−Luget, op. cit., p. 241.
(93)  Voir C.E., 25 octobre 1985, Poinsignon, R.D.I., 1986, p. 62;C.E., 29 juin 1992, M. Leblanc, R.D.P., 1993, p. 1122.
(94)  A. Berramdane, op. cit., p. 1745.
(95)  C.E., 23 fe´vrier 1983, Epoux Dubroca, no. 22-195. ただし、賠償請求は棄却している。
(96)  C.A.A., Lyon, 28 fe´vrier 1995, Consorts Baudizzone, E.F., no. 69, 1995, p. 30.
  ただし、本判決は都市計画法典R一一一ー二条についての判決である。R一一一ー二条の規定とは、「建築物がその状況あるいはその規模によって公衆衛生または公共の安全に侵害を与える性質のものであるならば、建築許可は拒否するか、または、特別な条件の遵守を留保して与えることができる」、というものである。
(97)  A. Parmentier−Luget, op. cit., p. 242.
(98)  A. Parmentier−Luget, op. cit., p. 243.
(99)  C.E., 23 octobre 1987, Albout, R., p. 325;R.F.D.A., 1988, p. 543, note H. Jaquot.
  ただし、この判決は行政賠償責任ではなく、越権訴訟に関するものであり、また、この判決の論理には学説上非常に反対が強い。行政機関の解釈はこの判決に判例としての一般的な効力を認めないものとしている。Voir F. Servoin, Les risques naturels en montagne et le droit de l’urbanisme, L.P.A., 21 fe´vrier 1996, no. 23, p. 31.
(100)  C.A.A., Bordeaux, 8 avril 1993, Madame Desfouge`res, L.P.A., 23 juin 1993, p. 21, note J. Morand−Deviller;A.J.D.A., 1993, p. 709, observation J.C.B.;J.C.P., 1993, e´d. N., p. 356, note Marie−Chiristine Rouault;D.A., 1993, no. 364.
(101)  この点はコミューンに対する国の責任という別の問題とも関わるが、本稿では触れない。Voir J. Morand−Deviller, note pre´cite´e sous C.A.A., Bordeaux, 8 avril 1993, p. 21.
(102)  C.E., 13 mars 1989, M. Bousquet et autres, A.J.D.A., 1989, p. 559, note J. −B. Auby.
(103)  その他、C.A.A., Nancy, 6 aou^t 1993, Consorts Derlin et Lovato, no. 92NC00589;T.A., Strasbourg, 8 novembre 1995, SA Socie´te´ Seloi et M Philippe Gourdon c. Commune de Saint−Julien−le`s−Metz et Pre´fet de la Moselle, B.J.D.U., 1996, p. 217;C.A.A., Bordeaux, 8 fe´vrier 1996, Mme Miquel, Commune de Fourques no. 95BX00049 et no. 95BX00086.
(104)  Voir V. Melgoso, Des e´tudes pour couvrir les communes, E.F., no. 72, 1996, p. 26.
(105)  地滑りにおける特別警察と一般警察の関係について、B. Jorion, Les risques souterrains, D.A., 1997, mai, p. 4.
(106)  Par exemple R. Chapus, Droit administratif ge´ne´rale, tome 1, 9e e´d., 1995, no. 790, p. 631.
(107)  C.E., 18 de´cembre 1959, Socie´te´ 《Les films Lute´tia》, R., p. 693.
(108)  キャンプ場の設置に対する行政の監督権限はグラン・ボルナン事件を契機にして強化された。Voir F. Bouyssou, Le camping et le caravaning, J.C.P., N., 1985, D., p. 33;G. Liet−Veaux et J. −M. Marchand, Camping, caravanage, J.C. A., Fascicule 454-20, 1995.
(109)  Voir F. Servoin, op. cit., 1996, p. 29.
(110)  なお、本稿の対象ではないが、消防の役務についても近時重過失責任の適用を制限するコンセイユデタ判決が下されている。X. Pre´tot, op. cit., pp. 1007-1011.
(111)  医療事故訴訟について、北村和生「フランス行政賠償責任における医療事故と無過失責任」政策科学三巻三号(一九九六年)四〇頁。
(112)  Par exemple C. Schaegis, note pre´cite´e sous C.A.A., Lyon, 13 mai 1997, p. 14.
(113)  M. −A. Hermitte, Le sang et le droit, 1996, p. 306;le me^me auteur, Le principe de pre´caution a` la lumie`re du drame de la transfusion sanguine en France, in Le principe de pre´caution, 1996, pp. 179-198.
  また、北村和生「フランス行政賠償責任におけるHIV感染血液訴訟」立命館法学二五一号(一九九七年)一三頁。
(114)  A. Berramdane, op. cit., p. 1750.
(115)  C.E., 22 fe´vrier 1989, Ministre de l’E´quipement , du Logement, de l’Ame´nagement du Territoire et des Transports c. E´poux Faure, Margerit, Blanc et Chaldival, no. 82-298.
(116)  A. Berramdane, op. cit., p. 1750.

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