立命館法学  一九九八年六号(二六二号)




世話事件および収容事件の手続 (三・完)
−ドイツ非訟事件手続法第六五条ないし第七〇条nの仮訳とコメント−
佐    上    善    和




目    次

一  は じ め に
二  世話事件の手続(第六九条gまで二五九号)
三  収容事件の手続(第七〇条nまで二六〇号)
四  一九九八年における世話法の改正(以上本号)


四  一九九八年における世話法の改正


1  改正に至る経過
  一九九七年および一九九八年の二年間に、ドイツの家族法には大きな改正が見られた。すなわち、一九九七年一二月一六日の親子法の改正、一九九七年一二月四日の保佐に関する改正、一九九八年四月六日の未成年者扶養に関する改正、一九九八年
五月四日の婚姻法の改正および一九九八年五月二九日の世話法の改正などである。これらの改正に伴い、民事訴訟法と非訟事件手続法にも改正が加えられている。そのうち、ここでは世話法の改正に関連する非訟事件手続法の改正を紹介するものである(1)
  世話法の改正の主眼は、世話人の報酬に関する定めを精密なものとすることによって、実務で争いのあった問題に決着をつけることにあった。手続法の改正の目的は、「技術的な」性格の規定を実務の流れに同調させ、事件本人からみて何の必要性もなく、不必要な手続を強いる手続行為に関する定めを、手続保障を損なうことなく修正することである(2)。「世話法が司法手続および裁判官の裁判に集中していることから、とりわけボランティアとして活動する者にとっては、面倒な手続となっており、また各ラントにとっても費用のかかる制度になっている」という批判(3)が、今次の改革の背景にあった。
  改正された内容をみる前に、ドイツにおける世話法施行後の運用状況を簡単に紹介しておくことにしよう。世話法が実際にどのように運用され、またどのような問題点が指摘されているかを知ることは、成年後見法の制定に取り組んでいるわが国にとっても参考になる点が多いと思われる。
  ドイツの世話事件および収容事件がどのように運用されているかを知るには、H・D・グメーリン等のSPD議員団が、一九九六年二月二一に、連邦政府に対して提出した「世話法の実施状況に関する質問書(4)」に対する、一九九七年三月三日の連邦政府の「回答書(5)」が適当である(6)。この回答書は、連邦政府が各ラント司法省に必要なデータの提供を求めて作成したものであるが、世話事件における事件数の余りの多さから、必要なデータがすべて出そろっているわけではない(7)
  (1)  世話事件数
  ドイツ全体では、たとえば一九八四年に後見事件と障害者監護の事件数は、二三三、三〇三件(後見事件七〇、一四九件、監護事件一六三、一五四件)であったものが、世話法施行後の一九九二年には四一三、八三六件、一九九五年には六二四、六九五件へと増加している。地域によって、世話事件には大きなばらつきがある。各ラントごとの世話事件数と人口比、および世話社団数とこれに対する補助金を一覧表にして示してみよう。
  もっともこの数字は、世話に関する事件の総数であり、世話人の選任に限っていえば申立件数は不明である。世話人選任によって手続が終結した事件数、および事件本人にはじめて世話人が選任された数と世話人の類型が明らかになるにとどまる。世話人選任によって終結した事件数は、一九九二年七五、一七〇件、一九九三年一〇四、五一一件、一九九四年一一三、一〇六件、一九九五年一二三、三一六件である。事件本人についてはじめて選任された世話人の内訳は上の表のとおりである。
  私人の世話人の約七五パーセントは、家族の中から選任されていると見積もられている。社団世話人の増加が著しいが、これは世話社団の設立およびそのメンバーの増加に対応するものといえる。認可を受けた世話社団の数は、一九九二年には三六一であったものが、一九九五年には八六八へと増加している。
  (2)  裁判官による審問
  世話人の選任、世話人の任務の変更、世話の取消等、世話に関する多くの場合に、裁判官は事件本人の直接の審問を実施しなければならない(第六八条a)。その審理は、一九九二年には一二六、九六二件であったものが、一九九五年には二〇三、六二七件に増加している。しかしこの数は、事件数の多いバイエルンなど六つのラントのデータを含まないものである。裁判官の直接の審問が予定されている事件のうち、これを行わないことのできる例外事例がどれほど存在するかは明らかではない。審理手続において、手続監護人が選任されているのは、一九九二年には三七、八一四件であり、一九九五年には五九、〇二〇件、一九九六年には七一、〇八四件に増加している。しかし、このデータは世話事件だけでなく、収容事件をも含むので世話事件の内訳は分からない。
  (3)  世話の任務の変更等
  当初命じられた世話人の任務の拡大・縮小・同意留保の命令・世話の延長ないし取消の件数は次のようになっている。これらはいずれも単純集計である。世話の取消事由の詳細は明らかではないが、大部分は被世話人の死亡によると推定されている。この数字から、世話の命令は当初は比較的制限的な範囲でなされ、後に必要に応じて世話の範囲を拡大していく方向で実務が運用されていると評価されている。
  (4)  収容事件
  民法第一九〇六条第一項(精神病を理由とする収容)、第四項(収容類似の措置)および各ラント法による公法上の収容の申立件数は次のとおりである。申立時における民法第一九〇六条第一項と第四項の区分は示されていないし、各年度ごとにデータの集約されたラントの範囲も異なるので不完全なデータであるが、一応の参考にはなるだろう。
  これらの数字からみるかぎり、民法第一九〇六条第四項による収容類似の措置の増加が著しいことが分かるが、その理由は明らかではない。

(1)  改正草案については、Entwurf eines Gesetzes zur A¨nderung des Betreuungsrechts sowie weiterer Vorschriften (Betreuungsrechtsa¨nderungsgesetz), Bundetags Drucksache 13/7158 vom 11. 03. 1997 http:// dip. bundestag.de を参照した。また新しい法律の条文については、NJW Beilage zu Heft 28/1998によった。
(2)  BT−Drucksache 13/7158, Begru¨ndung
(3)  BT−Drucksache 13/7133 vom 05. 03. 1997
(4)  BT−Drucksache 13/3834 vom 21. 02. 1996
(5)  BT−Drucksache 13/7133 vom 05. 03. 1997
(6)  Deinert, Neue Zahlen zur Praxis des Betreuungsrechts, FamRZ 1998 S. 934 も、このデータを利用している。
(7)  BT−Drucksache 13/7133 vom 05. 03. 1997 によれば、たとえばノルトライン・ヴェストファーレン州では、世話事件が一四万件以上にのぼるので、とても記録調査はできないと回答している。

2  世話法の改正に伴う非訟事件手続法の改正とその理由
  世話法の改正のための政府草案は、一九九七年三月一一日に提出され、連邦参議院の提案を盛り込んで、一九九八年五月二九日に成立した。これによる非訟事件手続法の改正は、以下のとおりである。ここでは、改正された新たな規定と改正理由書の紹介を行うことにする。ただし、第五六条gについては、世話人の報酬に関する民法の規定の理解が前提になるので、ここでは省略しておきたい(第六七条のコメントで簡単に触れている)。

第六七条
(1)  第一項第三文から第六文を次のように改める。
  手続監護人の選任に関する利益が明らかに存在しないときは、第二文の場合に選任を行わないことができる。選任しないときは理由を付さなければならない。手続の対象が世話人による不妊の同意(民法第一九〇五条第二項)であるときは、選任は常に必要である。事件本人が弁護士あるいはその他の適切な手続代理人によって代理されているときは、選任を行わず、あるいは選任を取り消すものとする。
(2)  第三項を次のように追加する。
  手続監護人の費用の償還および報酬は、国庫から支払われる。それは民法第一九〇八条eないし第一九〇八条iによって決定されるが、民法第一八三五条第三項、第四項、第一八三五条a、第一八三六条第一文第二号は準用しない/認められるべき報酬の額は、常に職業後見人の報酬に関する法律第一条によって決定される。第五六条g第一項および第五項を準用する。

〈コメント〉
1  本条の意義
  本条の改正の意義は、第一項第三文において、手続監護人の選任を不要とする事例を明らかにしたこと、および手続監護人の費用の償還と報酬額の確定を明らかにした点にある。
2  手続監護人の選任不要
  この点について「理由書」は次のように説明している。
「第六七条第一項は、事件本人が裁判所の直接の印象により、明らかにその意思を表明できない場合であっても、手続監護人の選任を必要的としている。この強行的で、事件本人にたびたび経済的に著しい負担となる規制について、実務ではこうしたケースでは世話に付す以外の選択肢を欠くために、その必要性が認められていない。世話人の交代にのみ関する法的審問は、手続監護人を介在させることで、擬制的に保たれている。なぜなら、事件本人は手続監護人に対しても意思を表明できないからである。世話人の人選については、世話官庁から包括的に情報が与えられる。
  新たな規定によって、第六七条第一項第二文に掲げられた手続監護人の選任のケースには、次の例外が認められる。すなわち、手続監護人の選任に関する事件本人の利益が明らかに存在しないときには選任を行わないことができる。それによって、手続監護人の選任は、純粋に明白な性質を有する場合にのみ行われないことが明らかにされる」。
3  手続監護人の費用の償還・報酬確定の手続
  従来より、弁護士が手続監護人に選任されたとき、その報酬は弁護士費用法によって定められるのか、あるいは世話人の報酬に準じて民法第一八三五条、第一八三六条によって定められるかについては規定がなかった。世話法の制定当時、実務は後者の立場に立っていた。しかしその後、この問題については見解の対立が深刻となり、弁護士費用法によって定められるとの見解が有力になっていた。
  今回の改正により、手続監護人の費用の償還および報酬請求権は、民法第一八三五条、第一八三五条aおよび第一八三六条によって定まり、弁護士費用法の適用は排除されることになった。
  民法第一八三六条第二項は、後見を職業とする後見人の報酬額について、標準となる基準を導入している。この報酬額の決定にとって重要なのは、後見に要する時間、後見人の能力および後見事件の範囲と困難性である。後見人の能力は、その専門教育の態様に応じて類型化される。下位段階は、修得された専門教育によって得られた知識を用いない後見人である。その専門知識が専門教育によって獲得された後見人が中位に位置する。その専門知識が大学教育による場合が上位段階である。これとともに、後見の困難性が考慮されるが、通常のケースでは副次的な意味しかもたないとされている。すでに存在している後見人が、報酬によって償われる専門知識を尽くしてもなお異例である困難を生じる場合には、増額されうるが、このケースは稀であるとされている。他方で、裁判所は、後見人の専門知識が個々の後見に有益であるとの推定を排除できる。このことは、能力の高い者を通常の事例の後見人として選任することを避けるか、あるいは選任された後見人に通常事例における報酬しか支払わないという選択肢を認めるものである。
  新たに挿入された第三項は、報酬は手続監護人が弁護士であってもその他の者であっても、統一的な基準によって定められること、また民法第一八三五条第三項の適用が排除されていることから、弁護士である手続監護人は、その事務所の経費を償還請求できないことを明らかにしている。このことによって、従来弁護士が弁護士費用法によって報酬を請求するのと、その他の者が手続監護人となった場合の報酬の不均衡が是正される。
  本条はさらに、手続監護人の報酬等は、常に国庫より支払われることを明らかにしている。これは従来、民法旧第一八三五条以下により、手続監護人がまず事件本人に対して請求し、事件本人が無資力であることが証明された場合にのみ、国庫に対して請求できるとしていたのを改めたものである。このことにより、手続監護人の請求権の実現が容易化される。国庫は民法第一八三六条cによって定められた給付能力の範囲内で、事件本人に対して求償することができる。

第六八条
    第一項第三文を次のように改める。
    裁判所は、事件本人に手続のありうべき経過を教示し、適切と認める場合には、事件本人に高齢に備えた代理権の可能性とその内容を示唆するものとする。

〈コメント〉
  後段が追加された。この改正は、連邦参議院の提案に基づくものである。その理由として次のように述べられている。
  第六八条第一項第三文の文言は、事件本人の審尋に際して世話を命令するか何の措置もとらないかということを前提としている。同じく法律で定められている高齢に備えた代理権あるいは法定代理人が選任されない(民法第一八九六条第二項第二文)場合のその他の援助は、第六八条による事件本人の審問の明示的な対象となっていない。しかしながら、審問の時点で高齢に備えた代理権あるいは事件本人の事務の処理が他の援助(隣人の援助、家族、友人、その他のサービス)によって解決されているとはいえない。世話の命令は、高齢に備えた代理権あるいは民法第一八九六条第二項第二文にいうその他の援助に対して補完的なものである。改正案は、この状態を考慮して、適切と認める場合には、関係人に対してこの選択肢に注意を向けさせることにしたものである。

第六八条a
    第三文を次のように改める。
    通常、事件本人の配偶者、両親、監護親および子に対しては、事件本人が重大な理由により異議を述べる場合であっても、意見を述べる機会が与えられなければならない。

〈コメント〉
  連邦政府の当初の草案では、「通常、事件本人の配偶者、両親、監護親および子に対しては、著しい遅滞なくして可能であるときは、意見を述べる機会が与えられなければならない」とされていた。この規定は、世話人の選任あるいは同意留保の命令を言い渡すに先立って、事件本人の配偶者等(以下、家族等という)に意見陳述の機会を与えなければならないとするものである。連邦政府の草案は、実務において手続に関心のある親族は、彼らの側から裁判所に接触を求めてくるが、しばしば何の反応もなく、審問ができないために手続を遅延させているという状況をもとに、事件本人の家族等の審問を「著しい遅滞なくして可能である場合」に限定しようとしていた。しかしその文言では、その趣旨は明らかではないとされ、事件本人が異議を述べても審問が可能である趣旨に改められた。
  旧第六八条a第三文に定める事件本人の家族等の審問は、一方では、彼らが事件本人の通訳者としての役割を果たしうるときは、事件本人の要求がなくても可能であるとされていたが、他方では、事件本人の審問に反対する利益も考慮されねばならないとされていた。すなわち、家族等が手続に関与する利益は、事件本人の利益と比較考慮され、事件本人の利益を害するときは、家族等の手続関与は後退するとされていたのである。事件本人が異議を述べるときは、家族等の審問は行われないことがあったのである。
  今回の改正は、事件本人が異議を述べた場合でも、家族等の意見陳述の機会を保障するとの定めは、当初の政府草案にも、また政府草案に対する連邦参議院の見解にもなかったため、その趣旨を測りかねるが、第六八条において、高齢に備えた代理権の可能性について示唆する規定を置いたことと無縁ではあるまい。事件本人と家族との関係を広範に、包括的に把握するために、また、世話人選任以外の可能性を探るためにも、事件本人の意思に反してでも家族等から意見聴取の機会を確保しようとするものであろう。

第六九条a
(1)  第三項第三文を次のように改める。
  この場合において、裁判は、裁判および即時の効力を有する命令が、事件本人または手続監護人に告知され、あるいは告知のために裁判所の書記課に交付された時に効力を生じる/その時点は裁判に付記されなければならない。
(2)  第四項を次のように改める。
  不妊(民法第一九〇五条第二項)に対する世話人の同意の許可は、手続監護人に対する告知、あるいは第六七条第一項第六文の場合には手続監護人に対し、また不妊の同意に関する裁判のために選任された世話人への告知によって効力を生じる。

〈コメント〉
  裁判は、第六九条a第三項第一文により、原則として世話人への告知によって効力を生じる。緊急を要する場合には、裁判所は第三項第二文に掲げられた要件のもとで、世話人への告知に先立って、即時の効力を命じている場合には効力を生じさせることができる。本案の裁判は、裁判と即時の効力を生じさせる命令が告知のために裁判所の書記課に交付された時に効力を生じる。裁判所はその時点を裁判に付記する(第三項第三文)。しかし、この定めは、裁判をする裁判官が裁判の時に裁判所にいる場合にのみ実際的である。たとえば、裁判がホームや病院でなされたときは、裁判に即時の効力を生じさせるためには、裁判官が裁判所に戻らなければならないが、これは合理的とはいえない。そこで新しい規定は、裁判が即時の効力を生じるためには、事件本人または手続監護人への告知で足りることとして、実務の要請に応えた。

第六九条c 第一項を削除し、第二項、第三項を繰り上げてそれぞれ第一項、第二項とする。

〈コメント〉
  従前の第六九条c第一項は、「裁判所が社団または官庁を世話人に選任したときは、最大二年間の期間をおいて、社団または官庁に代えて一人または数人の自然人を世話人に選任することができるか否かについて審査するものとする」と定めていた。この規定は、社団または官庁は可能な限り、限定された期間についてのみ世話人に選任されるという民法第一九〇〇条第一項を受けている。
  従前の第六九条c第一項は、これを受けて、裁判所に社団または官庁の世話人の場合に、最大二年間の間隔を置いて、社団または官庁に代わって自然人を選任できるか否かの審査義務を課していた。しかしこの期間は、裁判実務においては不要だと解されてきた。社団または財団はできるだけ早い時点で「制度的世話」を引き受ける固有の利益を有している。社団は、民法第一九〇八条第一項により、そのメンバーが世話人として選任された場合に報酬を受けるに過ぎない。官庁の場合には報酬は問題とならないし、官庁の仕事量からも是非とも必要である以上に世話を引き受けているわけではない。このような状況に照らすと、従来の第六九条e第一項による裁判所の審査義務は実質的に不要であるとして、削除されることになった。

第六九条d
(1)  第一項第二文を削除し、従前の第三文、第四文をそれぞれ、第二文、第三文とする。
(2)  第二項を次のように改める。
  健康状態の検査、治療行為または医的侵襲(民法第一九〇四条)に関する世話人または代理人の同意の許可に先立って、裁判所は専門家による鑑定を行わなければならない。鑑定人と治療担当医は、通例同一人であってはならない。第六八条a第三文及び第四文を準用する。
(3)  第三項第一文を次のように改める。
  不妊に関する世話人の同意の許可(民法第一九〇五条第二項)については、第六八条第一項第一文、及び第三文、第五項、第六八条a、第六九条a第一項第一文、第二項第二文を準用する。
(4)  第三項第五文を次のとおり追加する。
  鑑定人と医療担当医は同一人物であってはならない。

〈コメント〉
1  第一項第二文の削除について
  従前の第一項第二文は、「民法第一八三六条i第一項第一文の事件において、報酬が国庫から支払われる場合も同様とする」と定めていた。ところで新しく設けられた第五六条g第四項は、後見人、被後見人及び場合によって後見監督人は、報酬の確定の裁判手続で審問を受けるとされている。この審問は世話に関する費用の償還の場合にも必要的とされている。また第六九条d第一項第二文は、資力のある被世話人の直接の審問を定めていた。資力の有無で審問の形態を区別することは、合理的な根拠がない。報酬額が問題となる場合の審問については、第五六条g第四項を適用することで足りるとされたのである。
2  第二項、第三項の改正
  理由書によれば、本条の改正の意味は次のように説明されている。
  世話人が収容事件、治療行為あるいは被世話人が措置のために死亡し、あるいは重大かつ長期間継続する健康上の被害を被る十分な理由のある医的侵襲に同意するときは、これについて裁判所の許可を必要とする(民法第一九〇四条第一文(8))。許可に先立って、裁判所は専門家の鑑定を命じなければならない(第六九条d第二項第一文)。鑑定人と治療担当医は同一人物であってはならない(第六九条第二項第二文)。
  第一項第一文によって指示されている民法第一九〇四条は、明示的かつ書面による授権をえた代理人にも適用されることになった。そのため「代理人」という文言が追加された。
  第一項第二文で定められていた、鑑定人と治療担当医の人物の同一性の厳しい禁止は、実務においては、しばしば手続の遅延の原因になると批判されていた。なぜなら、とりわけ急速を要するケースにおいては、裁判所が必要なときに適切な鑑定を求めることができないからである。そこで、このようなケースにおいて必要となる手続保障を維持しながら、裁判を可能とするために、従来の人物の同一性の厳格な禁止を慎重に緩和することとしたのである。
  第三項第一文の改正は、不妊の許可に関する事件において、そこに掲げられている条文を指示することで、事件本人の手続保障を強化し、鑑定に対する裁判所のコントロールを強化しようとしている。この場合は、鑑定人と治療担当医との人物の同一性の禁止は、維持される。

第六九条e
  第一文を次のように改める。
  第三五条b、第四七条、第五三条第一項第二文、第二項、第五五条、第五六条gおよび第六二条を準用する。

〈コメント〉
  第五六条gを新設したことによる改正である。後見に関する民法第一八三五条以下に関する手続規定に関する第五六条gが新設された。本条で第五六条を掲げることにより、後見に関する手続規定が世話事件にも準用されることが明らかにされる。

第六九条f
  第一項を次のように改める。
(1)  裁判所は、次の場合には、仮の処分によって仮の世話人を選任し、または仮の同意留保を命じることができる。
  1  世話人の選任または同意留保の命令の要件が存在し、遅滞の危険があると認められる緊急の理由があるとき
  2  事件本人の状態に関する医師の証明書があるとき
  3  第六七条の場合において手続監護人が選任されているとき
  4  事件本人が直接に審問されているとき
    事件本人の審問は受託裁判官によってもなし得る。

第六九条d第一項第三文を準用する。遅滞の危険のあるときは、裁判所は事件本人の審問及び手続監護人の選任と審問に先立って仮の処分を命じることができる/手続行為は遅滞なく補完されなければならない。遅滞の危険のあるときは、裁判所は民法第一八五七条第四項及び第五項に反しても世話人を選任することができる。

〈コメント〉
  第六九条f第一項によって、裁判所はそこに掲げられた要件(世話人選任の延期による危険、医師の証明書、手続監護人の選任、事件本人及び手続監護人の審問)が満たされているときは、仮の処分によって仮の世話人を選任することができる。遅滞の危険のあるときは、裁判所は仮の命令を事件本人の審問なしに、また手続監護人の選任と審問を経ないで命じることができる。この場合には、手続行為は遅滞なく埋め合わせされなければならない。
  ところで、旧規定によれば、手続監護人は仮の処分の場合でも、また先行してなされた急速行為の後の手続行為の場合にも、常に直接に審問されなければならないとされていた。しかし、手続監護人の直接の審問は、この場合には通常は必要がない。手続監護人が意見陳述の機会を与えられることが必要であり、かつそれで十分である。これが第一項第四文から手続監護人を削除した理由である。

第六九条g
(1)  第一項第二文を次のように追加する。
  国庫の代理人が、被世話人は民法第一八九七条第六項によって選任された世話人に代わって職業後見人以外の、一人または数人の他の適切な人物によって世話されうると主張するときは、国庫の代理人には世話人の解任を拒絶する裁判に対して抗告権が認められる。
(2)  第五項第二文を次のように改める。
  第六八条第一項第一文による手続行為は、抗告裁判所が探知の結果を事件本人の直接の印象なくしても評価できると当初から認められているときに限り、受託裁判官によって行うことができる。

〈コメント〉
1  国庫の代理人の抗告権
  第一項の追加は、当初の連邦政府の改正草案には含まれていなかった。連邦参議院の提案により、民法第一八九七条第六項として「その職業のなかで世話を引き受ける者は、他に適切な人物を得られない場合にのみ選任されるものとする。世話人が、成年者が一人または数人の職業世話人以外の他の適切な人物によって世話されうることが明らかとなるような事情を知っているときは、世話人はこれを裁判所に報告しなければならない」との規定が追加された。これとあわせて、民法第一九〇八条b第一項第二文として「裁判所は、被世話人が職業世話人以外の、一人または数人の他の適切な人物によって世話され得るときは、第一八九七条第六項によって選任された世話人を解任することができる」との規定が追加された。
  その理由は次のとおりである。民法は、世話人の選任に際して詳細に順位を定めている。しかし、適切なボランタリーの後見人が、職業として世話を行う者(職業世話人)に優位するという原則は十分には表現されていない。そこで民法第一八九七条第六項でこのことを明規しようとしている。事件本人は、その任務の遂行に相応しい世話人を付せられるべきである。能力が高すぎる世話人は、できる限り避けるべきである。事件本人が無資力である場合の国庫の利益だけでなく、特別の能力を有する世話人をそれに相応しい知識と能力を真に必要とする事件本人に投入するために、留保しておく必要性も、このことを要求している。
  第二文は、ボランタリーの世話人への委任が可能である場合に、この事情を裁判所の報告することを確保しようとしている。このことはとりわけ、職業世話人の専門知識を要求する被世話人の重要な事件処理する場合にのみあてはまる。多くの場合、この世話はボランタリーの世話人への委任が可能であり、また適当であるにかかわらず変更されないまま継続されている。
  このような理由で改正された民法第一八九七条第六項及び第一九〇八条b第一項第二文を受けて、連邦参議院の提案により第六九条g第一項第二文及び第五項第二文が追加された。すなわち、民法第一九〇八条b第一項第二文の世話人交代の要件が存在するときは、これが実施されるよう手配される必要がある。選任された職業世話人が自らその交代に関する関心を示さないときは、世話の期間ごとの審査によってそれが確認されるのでない限り、第三者の側から後見裁判所の職権発動を促すことが必要になる。
  裁判所が法律上の要件に反して、世話人交代の申請に応じないときは、上訴によって救済されなければならない。しかし、事件本人や親族がこれに関心をもつことは稀である。抗告権能を有する世話官庁は、継続している世話のなかでの変更を知ることは少ない。それゆえ、国庫の代理人に、一定の要件のもとで抗告権が認められる。このことは事件本人には、職業世話人に代えてボランタリーの世話人が選任されるという一般的主張を前提とするだけではなく、むしろ国庫の代理人が世話官庁や世話社団との接触を通じて、それぞれの土地の状況について情報を得ている場合にのみ可能であるような具体的提案をすることが必要である。
2  第五項の改正
  第五項第二文の改正は、第六八条第一項第四文の受託裁判官による手続行為と関連して、学説・判例における対立に決着をつけようとするものである。この改正理由を明らかにしておくことは、第一審における受託裁判官の審理の可能性と限界を明らかにする意味でも重要であるから、理由書を忠実に紹介することにしよう。次のように説明されている。
 「第六九条g第五項によれば、抗告手続については第一審の規定が準用される。抗告裁判所は、この手続行為がすでに第一審において行われ、そして新たな探知によって追加的な資料が期待できないときは、事件本人の直接の審問あるいは直接の印象の獲得を行わなくてもよい。しかし、直接の審問が必要であるときは、通例、受託裁判官によって行うことができない(第六九条第五項第二文)。この規定を遵守すると、抗告裁判所は法廷での審問が可能でない限り、事件本人を訪問しなければならない。このことは裁判官の交通費という出費の増大を意味するだけではなく、事件本人にとっても抗告裁判所の裁判官全員による審問が負担となり、事件本人を萎縮させることもありうる。
  民訴法第三七五条第一項、第五二四条第二項第二文に対応する新しい規定は、受託裁判官による審問は、受託裁判官によってなされた事実確定に基づいて抗告裁判所が審問の結果を事件本人に関する独自の印象なくしても評価できるときは、常に可能であることを定めている。この要件は、受託裁判官の職務の適法性に関する第六八条第一項第四文の定めに対応する。第一審の実務は、受託裁判官の投入にきわめて抑制的である。(世話法制定時の)立法資料の広く流布された狭い解釈が、受託裁判官は客観的に明白で、稀な例外的事例においてのみ(たとえば昏睡状態にある事件本人に対して)認められるにすぎないという印象が支配していることも、これに寄与している(vgl. Schleswig−Holsteinische OLG, Schl. HA 1995, 187=MDR 1995, 607;Keidel/Kuntze/Winkler, FGG, 13. Aufl. 1992, Rn. 10 zu §68 m. w. Nachw.)。しかしながら、受託裁判官が審問と直接の印象を詳細かつ点検可能なように記載できるか否かが重要なのである(vgl. BGH NJW 1992, 1966= 抗告手続における単独裁判官の証拠調べに関する民訴法第五二四条第二項第二文について)。
  規定の適用領域が「極端な例外事例」に限られるという観念は、むしろ法律とはならなかった連邦9845政府の草案と結びついている(vgl. Bundestags Drucksache 11/4528, S.173)。それは、第一文による手続行為は受託裁判官によって行うことはできないと定めていた。今日の連邦参議院の提案による法律の定式は、連邦議会法律委員会の報告によれば、連邦政府草案で定められていた受託裁判官の原則的な排除は、慎重に緩和されることを示唆していた。第一項第一文による昏睡状態にある事件本人の受託裁判官の手続行為は、すでに連邦政府の当初の草案でも適法であったはずで(vgl. Bundestags Drucksache 11/4528, S. 173)、このことは規定の文言からも、またその意義からも明白であり、稀な例外に制限されるという結論は引きさせない」。

第六九条i
(1)  第一項第二文を次のように追加する。
  任務領域の拡大が重要なものではなく、あるいは第六八条第一項及び第六八条bによる手続行為が過去六ヶ月以内に行われているときは、裁判所は新たにこの手続行為を行わなないことができる/この場合においては、事件本人を審問しなければならない。
(2)  第七項第二文を次のように改める。
  第六九条d第一項第三文を準用する。
(3)  第八項を次のように改める。
  事件本人が世話人の交代に同意している場合であっても、民法第一九〇八条cによる新たな世話人の選任に先だって事件本人を審問しなければならない/第六八条a、第六九条d第一項第三文及び第六九条g第一項を準用する。

〈コメント〉
1  第一項について
  世話人の任務領域の拡大については、世話人の選任に関する規定が適用される(第六九条i第一項第一文)。事件本人の直接の審問は、任務領域の重要でない変更の場合にのみ、行わなくてもよい。この場合、裁判所は、必ずしも直接でなくても、事件本人を審問しなければならない(第六九条i第一項第二文)。
  裁判実務によれば、規定されている事件本人の直接の審問から生じる高額にのぼる費用の増大には不満が多い。しかも裁判官が自らの認識から知り、あるいは医師の証明書から、事件本人の状態が変化していない場合にも、直接の審問が定められている。このことは、立法者の見解に反して任務領域が必要性原則に則ってさし当たり狭く限定されるのではなく、予期される期間内での拡張の際に必要な直接の審問を避けるために、ある程度幅をみておく、という実務をもたらした。
  事件本人の直接の審問及び医師の鑑定書の作成が過去六ヶ月以内であるときは、新しい規定によって、裁判所はこの手続行為を改めて行わなくてもよくなった。しかしこの場合には、裁判所は事件本人を審問しなければならない。
2  第八項について
  第六九条i第八項により、新しい世話人の選任に先立つ事件本人の直接の審問が規定されている。この審問も、一部の裁判官からは費用が嵩むので避けたいと評価されている。このことはとりわけ、同一の世話社団内部での世話人の交代の場合にあてはまる。事件本人にとっては、しばしば選択の余地がないにもかかわらず、審問が必要とされているのである。新しい規定によると、世話人の選任に先立つ事件本人の直接の審問は、少なくとも事件本人が世話人の交代に同意しているときは省略することができる。同意の表明は第三者を通じて裁判所に伝えることもできる。

第七〇条
(1)  第一項を次のように改める。
  以下の規定は、収容措置に関する手続に適用する。収容措置とは次の各号に掲げるものをいう。
  1  自由の剥奪を伴う収容の許可
    (a)  子の(民法第一六三一条b、第一八〇〇条、第一九一五条)
    (b)  被世話人(民法第一九〇六条第一項ないし第三項)あるいは自由の剥奪と結びついた収容につき第三者に代理権を与えた者(民法第一九〇六条第五項)の
  2  民法第一九〇六条第四項による措置の許可
  3  精神病者の収容に関するラント法による自由を剥奪する収容の命令
      収容措置については民法第一六三一条bの収容を除いて、後見裁判所が管轄権を有する。
(2)  第五項第三文を次のように改める。
  事件本人がすでに自由を剥奪する措置のために施設に収容されているときは、その施設が存する地の裁判所が管轄権を有する。

〈コメント〉
  第一項第一号aによる子の収容につき、旧規定は民法第一七〇五条を掲げていたが、この規定は一九九七年一二月一六日の親子法改正法によって廃止された。また第二号において民法第一六三一条bが除外されたのは、この事件の管轄が親子法改正法により家庭裁判所の管轄とされたためである。
  世話法の改正による本条の改正は、第一項第一号bと第五項である。
  第一項第二文は、収容措置を定義し、第一号bにおいて自由の剥奪と結びついた被世話人の収容許可を定めている。新たな規定は、事件本人によってあらかじめ代理権を与えられた者による収容にも拡大した民法第一九〇六条第五項に対応させている。代理人は世話人と等置され、被世話人と同様の範囲で後見裁判所の許可を必要とする。被世話人ではなく、収容権限を付与した事件本人に被世話人と同様の手続法上の保護を与えるために、収容措置の定義を拡大したのものである。
  第五項の改正の理由は次のとおりである。
  各ラントの収用法による公法上の収容措置については、第五項第一文によれば、収容の必要性が生じた地の裁判所が管轄権を有する。しかし、実務においては、しばしば収容の必要性が居所ないし事件本人が現に収容されている地で生じるのか疑問があった。このような解釈によれば、収容施設の存する地及び収容の裁判の必要性のある裁判所は管轄権を有しない。しかしこうした解釈は実務上の問題を生じさせる。なぜなら、たとえば必要となる措置が、病院を管轄する裁判所によってはなされ得ないからである。このため、とりわけ週末及び休日に事件本人の審問及び裁判が遅延する。新しい規定によって、事件本人がすでに自由を剥奪する収容施設に収容されているケースについて、その施設の存する地の裁判所に管轄権が認められることになった。

第七〇条b
(1)  第一項第二文、第三文を次のように改める。
  選任は、第六八条第二項により事件本人の直接の審問が行われないときは、とくに必要である。第六七条第三項を準用する。
(2)  第三項を次のように追加し、従前の第三項を第四項とする。
  事件本人が弁護士あるいはその他の適切な代理人によって代理されているときは、選任は行わず、あるいは選任を取り消すものとする。

〈コメント〉
  第六七条第三項の改正に伴う改正である。その理由については、第六七条のコメント参照。

第七〇条g
  第三項を次のように改める。
  収容措置を命じあるいは申立てを却下する裁判は、確定することによって効力を生じる。裁判所は、即時の効力を命じることができる。この場合においては、裁判は、裁判と即時の効力の命令が、事件本人、手続監護人あるいは世話人に告知された時、告知のために裁判所の書記課に交付された時、あるいは裁判の執行を目的として第三者に通知された時に効力を生じる/その時点は裁判に付記されなければならない。

〈コメント〉
  本条の改正は、第六九条a第三項の改正と趣旨を同じくする。
  収容措置を命じ、あるいはその申立を却下する裁判は、第七〇条g第三項第一文により確定することによって効力を生じる。裁判所は第二文によって即時の効力を命じることができる。この場合において、裁判及び即時の効力が告知のために裁判所の書記課に交付された時に効力を生じるとされていた(第三文旧規定)。このことは、裁判所の通常の勤務時間外の裁判の場合には機能しない(第六九条aの理由参照)。そこで第七〇条g第三項に定める即時の効力を有する命令の裁判は、第六九条第三項第三文の場合と同様に効力を生じさせることができなければならない。さらに、裁判及び即時の効力の命令が世話人に告知され、あるいは裁判の執行のために第三者(たとえば収容施設の長)に通知された場合にも効力を生じさせることが適切である。

(8)一九九八年七月一五日、フランクフルト上級地方裁判所は、回復の見込みのない脳梗塞患者の世話人(患者の娘)から申し立てられた胃ゾンデを通じた栄養補給措置の中止の許可を、民法一九〇四条によって判断してもよいと判断した(OLG Frankfurt/M, Beschluβ vom 15. 7. 1998 = JZ 1998, S. 799 = NJW 1998, S. 2747). この決定に対しては、手続監護人のコメント(Knieper, Vormundschaftsgerichtliche Genehmigung des Abbruch lebenserhaltender Maβnahme, NJW 1998, S. 2720)とミュラー・フライエンフェルスの評釈がある(JZ 1998, S. 1123)。

  〔訂正〕 二五九号、二六〇号における「受命裁判官」を「受託裁判官」に改める。