立命館大学文学部 ピタッと学ぶ

国際文化学域

上田 高弘 教授

モダン・アートと書くと、皆さんはどんな作品を思い浮かべますか? ピカソやゴッホは有名ですが、実際に美術館に足を運んでみると、絵具を画布にぶちまけたり、市販の便器に署名をしたりと、「美術」の定義を混乱させる作品が溢れています。そうした事物や行為を「作品」として映じさせるものを広く「批評」と呼んでみると、モダン・アートの歴史それ自体が批評史の様相を呈してきます。この研究の面白さに学生時代に開眼したのですが、私は欲張りなので、みずから批評を書き、同時代の美術にも深く関わる道を選びました。いえ、扱う対象は音楽などの諸芸術にも広がり、ゆえに研究も授業も、さまざまな具体的作品との出会いに満たされています。

小田内 隆 教授

私は中世ヨーロッパの世界を研究しています。それは遠い過去ではありますが、現代ヨーロッパの基礎はこの時代に形成されたのです。中世ヨーロッパ研究の面白さというのは、私たちとは異なった過去世界の文化や価値観を知るばかりではなく、それをつうじて「現代」をより深く認識することができる点にあるといえましょう。私の場合、キリスト教世界である中世ヨーロッパにおいて、正統のローマ・カトリック教会から「異端」とされた人々の運命に関心があります。異端者をはじめとしたマイノリティに対する迫害と不寛容の歴史は、現代の世界の各地に起きる宗教対立という私たちの「今」を考え直す材料を与えてくれるからです。

唐澤 靖彦 教授

軍事史のなかでも、要塞築城が専門。特に、明治初期から日清・日露戦争にかけて築造された、洋式砲台・堡塁と附属建設物の研究です。東京湾や大阪湾や軍港を敵艦隊によって火の海にされないため、予算不足に苛まれながらも築かれたそれらは、様式美と機能美が一致した、赤レンガや石等を主な材料とする素晴らしい建造物です。しかし、明治の先人たちによる国土防衛の技術の結晶は現在、よくて草木の繁茂の中で崩落していき、ひどいものは完全に壊され、忘れ去られようとしています。貴重な歴史的遺跡が消え去ってしまうとの想いから、紀淡海峡の島々から舞鶴、呉、佐世保、台湾の基隆、東京湾沖、そして対馬の山の中で泥 だらけになってます。

川口 能久 教授

フォースターは、20世紀を代表する小説家の一人です。主要な作品のほとんどが翻訳で読めるようになりました。彼の小説の基本的主題である人間関係を中心に研究しています。オースティンは、ブームと言っていいほどの、根強い人気を保ちつづけています。女性の権利が制限されていた階級社会のなかで、女性の主体的な意志をどのように実現させようとしたのか、このことをどのように表現しているのか、といった問題を研究しています。私の研究の面白さは、突き詰めれば、英語を「読む」(単なる英文解釈ではありません)ことの面白さ、そして自分で考え、そのことを表現することの面白さということになるようです。

崎山 政毅 教授

僕の研究は「ラテンアメリカ思想史」を取り扱っています。ときにはチェ・ゲバラのような革命家、ときにはカルロス・フエンテス(メキシコ)やホルヘ・ルイス・ボルヘス(アルゼンチン)のような詩人・作家、ときにはふつうの人びとが生活のなかで感じ取る自由や平等、公正・不公正の感覚、そしてときには先住民族の宇宙観までの広い領域が研究対象です。ですから、理論や本から得られるものに研究は限定されません。人類学や農村社会学のフィールドワークのような調査からわかるものごとを、理論や歴史資料の分析と繋ぎ合わせて受け止め、考察し、できるならば現地に投げ返す。これが僕の研究のもっとも大切な、そしてもっとも面白いところです。

下川 茂 教授

スタンダールは『赤と黒』・『パルムの僧院』で有名な19世紀フランスの小説家ですが、小説以外に旅行記・美術論・音楽論等様々な分野の著作を残しています。又、軍人としてナポレオンの下でヨーロッパ各地を転戦し、イタリア領事として生涯を終えた彼は、他国の事情にも通じていました。その小説は物語としても大変面白く読めるものですが、作品の背後にある作者の広範な知識・体験を踏まえると、より一層面白くなります。スタンダールと宗教の問題を長年研究してきた私は、その成果を『『赤と黒』と聖書 ― ジュリアンとイエス物語』(2007年)にまとめました。現在は音楽、とりわけオペラと小説の関係に焦点を絞って研究を進めています。

高橋 秀寿 教授

戦後のドイツ人がナチズムの時代や第二次世界大戦、ホロコーストをいかに記憶して行ったのかを分析することが私の研究テーマですが、この問題はこれまで政治家や思想家の発言、ジャーナリズムや学問での論争などによってアプローチされてきました。私は流行歌や映画、テレビ・ドラマ、記念碑などにも注目することによって、記憶の形成・変化と国民そのものの変化を関連づけて論じることで、その構造を明らかにして、現在起こっているさまざまな記憶の現象(日本では従軍慰安婦の問題や小林よしのりの戦争論など)も、社会構造、すなわち時間と空間、そして国民の構造的な変化とかかわっていることを明らかにしようとしています。

竹山 博英 教授

私はイタリアの文化の様々な分野について研究をしていますが、今考えるとそれは文学的関心から出発していると思えます。たとえばマフィアに関する研究は、シチリア出身の現代作家シャーシャの作品に触発されたものだし、墓地の研究は世紀末の文学への関心から出発しています。イタリア文化の魅力は多様性と独自性です。非常にユニークなものが様々な分野に幅広く存在していて、目を奪われてしまいます。しかしその根底を探ると古い歴史的伝統が見えてきます。過去にこだわりつつ、現代を見据える視点が必要です。自分の研究のここがおもしろいなどという発想は私にはありませんが、研究に関しては、歴史性を意識しつつ、広い視野を保とうと努力しています。

中川 優子 教授

南北戦争後のアメリカは大きな転換期をむかえ、健康で裕福で活発なアメリカ女性が、新しい国アメリカを象徴するものとして雑誌、広告そして文学に描かれるようになりました。一見明るい未来を象徴しているように思われますが、実際そう単純ではありません。またこの頃社会進出を試みる「新しい女性」がイギリス小説にも登場しました。私はこのような女性の表象を英米小説、とくにこの女性たちに共感しながらも、複雑な思いをもって描いたヘンリー・ジェイムズやその周辺の作品にみいだし、研究しています。作品を精読する以外にたくさんの小説や資料を読まないといけませんが、意外な作品間のつながりがみえたりするのが面白いです。

檜枝 陽一郎 教授

中世ヨーロッパには動物を題材とした一連の物語があり、狐や熊、雄猫などの人間に身近な動物たちが、人間よろしくさまざまな策謀を巡らして自分の思いを遂げようとする。人間社会への批判であるのは明白で、こうした物語を読むことで当時の社会がより鮮明に見えてくる。人々が金銭を追い求め、名誉欲に駆られ、恥を顧みずに行動するさまが批判されている。そんな中世人の善悪の価値観を知ることで、その行動様式もいっそう理解可能になる。人々の内面を突き動かしていたものはなにかを知るのは、当時の文化を理解するために重要であり、また一つの時代の人間像を理解することは、人類の歴史のなかで現代人をより深く理解することにつながる。

丸山 美知代 教授

私がロシア生まれのアメリカ人作家ウラジーミル・ナボコフの作品を読み始めてから30年になります。『ロリータ』を書いた人といえば、読んだことのない人でも、「ああ、あのロリコン小説の作家」と思い出す人が多いでしょう。ヨーロッパから来た中年男性(実は38歳)が、アメリカの12歳の少女に恋をします。でもその執着心の背後には、読者が探り当てなければならない多くの秘密が潜んでいるのです。特にナボコフのような英語を母国語としない英語小説作家の場合、きわめて慎重に選ばれた言葉で書かれた作品には、読者をミステリーの探偵のように感じさせる力があります。文学作品を英語で読むことの楽しみは、ここ にあるのです。

小林 功 准教授

わたくしはビザンツ(東ローマ)帝国の歴史について研究を行っています。ビザンツ帝国は世界史の教科書ではほんの少ししかふれられない国家です。また今はもはやない国家でもあります。なので、あまり大きな意義のない国家と思っている人もいるかも知れません。実際わたくしも昔、「もう滅んでしまった国家のことを調べて何の意味があるの?」と聞かれたことがあります。しかし、中世にはビザンツ帝国こそがヨーロッパの中心でした。現在のヨーロッパの文化の多くも、そしてヨーロッパで起きる国際紛争のいくつかは、ビザンツ帝国やその周囲との関係に起源・原因があります。滅んだ国家ではありますが、研究する意義 にも富んだ、魅力的な国家なのです。

須藤 直人 准教授

南太平洋の島々と海の世界を、日本との関連で考える文学・文化研究をしています。どの世界も「相手にどう見られるか」「相手をどう見るか」というアイデンティティ・ゲームの中で、都合の良い「私たち」「よそ者」を作り出してきました。西洋諸国が世界中を植民地化したことで、ゲームは世界規模のものとなり、世界の様々な事柄がつながり、反発し合いながら混ざり合うこととなりました。植民地の時代の後、その「つながり」は時に見えにくくなり、常に変化してもいますが、この世界共通のゲームは終わっていません。見えにくく、変化する「つながり」を、南太平洋の大海原をただよいながら、頭と足を使って見つけ出す のが面白いところです。

竹村 はるみ 准教授

私は、近代初期のイギリス文学・文化を研究しています。特に、カリスマ的な人気を誇ったエリザベス一世が統治した16世紀後半は、シェイクスピアをはじめとする優れた文人を輩出し、イギリス文学のルネサンス期として重要な一時期を画しました。近代の戸口で政治・宗教・社会構造をめぐる価値観が混沌とした様相を呈する一方、大衆劇場や出版文化など新手のメディアの出現により創造的エネルギーが充溢した興味深い時代です。私は目下、当時のイングランド社会を『妖精の女王』という壮大な叙事詩に描いた詩人エドマンド・スペンサーと、パトロン、印刷業者、同輩詩人など彼が関わった様々な文学・知的コミュニティに関する研究を進めています。

長澤 麻子 准教授

現代社会を形成する「近代化」は、寛容や平等の精神をとなえた17・18世紀ヨーロッパの啓蒙主義に始まります。しかし、世界の紛争や虐殺は今なおやむことを知りません。とりわけ20世紀ヨーロッパでは、ナショナリズムの台頭に伴い、反ユダヤ主義が強まり、ナチズムのホロコーストにまでいたりました。なぜ啓蒙の精神から、このようなことが起こったのでしょうか。現在の私の研究は、ドイツの近代化過程において失われていったもの、および、獲得されていったもののなかに、ユダヤ人が排斥された社会的・思想的要因を、20世紀初頭のドイツでエッセイストおよびジャーナリストとして活躍したヴァルター・ベンヤミンの思想から解明することです。

中村 忠男 准教授

人間の移動と社会や文化の変容との関係について、とりわけ宗教現象に注目しつつ研究を進めています。具体的には、南アジア(インドやパキスタンなど)におけるヒンドゥー教の巡礼に自ら参加しながら、近代以降の世界における宗教の多義的な現れ方について考察したりしています。宗教というと一般に前世紀の遺物といったイメージがありますが、実際には世界のいたるところで、新たなテクノロジーの発展や社会関係の変化に合わせて柔軟に変化しており、むしろそれらの動きを加速させることすらあります。ですので、これからもそうした宗教と現代社会の関係について、ひたすら現場を歩きながら、アクチュアルな問題として考えていきたいと思います

西林 孝浩 准教授

仏教美術史および日本・東洋美術史が専門です。仏教美術には、日本の美術のみならず、シルクロードを通じて、さまざまな地域の文化・芸術を吸収しつつ発展してきた経緯を読み解いてゆく面白さがあります。京都という恵まれた環境を活かして、皆さんも是非その面白さを味わって欲しいと思います。また最近では、日本美術史でマンガやアニメーションも扱われ、日本という枠組みの中で、その特異性や面白さについて説明されることが多いのですが、欧米を含む様々な地域の文化や芸術との関わりも密接だと思います。文化芸術専攻として、様々な地域の文化や芸術を参照しつつ、これからの日本・東洋美術について考えることも、 私の重要なテーマです。

宮本 直美 准教授

私はクラシック音楽と社会の関係を研究していますが、根本的な問題意識は、ある文化に対して人々が「高尚だ」とか「低俗だ」とかいうかたちで日常的に持っている価値観がどのように形成されているのか、ということです。多くの人にとってクラシック音楽は、敷居が高いものに感じられるかもしれませんが、なぜそう感じられるのでしょうか。これは、音楽だけに言えることではありません。以前は「くだらないもの」と思われていたまんがは、現在では、日本が世界に誇る文化として注目されています。まんがに対する価値観が変化したのはなぜでしょうか。文化の様々な領域に潜んでいるこのような価値意識を探ることに、私は 関心を持っています。

森永 貴子 准教授

専門はロシア社会経済史です。ソ連があった頃のロシア史研究は工業資本研究が中心でしたが、現在は歴史の見直しが進み、経済の担い手としての商人・企業家やその文化への関心が高まっています。ロシア・アメリカ会社は毛皮商人の活動の高まりの結果設立されたもので、その経営史はロシアの北太平洋進出史、近世日本の対外関係史と重なります。また主な取引商品である毛皮、茶は世界商品としてヨーロッパ諸国のアジア貿易にも深く関係していました。こうした近世・近代の国際商業史を軸に、ロシアと周辺諸国の流通を解明することで、ヒト・モノ・情報(文化)が伝播していくダイナミズムを知ることができるのが私の研究 の醍醐味です。