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 熊猫Tさん

始めに…

  2001年の8月上旬、諸先生・先輩と一週間の中国旅行に行った。行き先は三峡と上海、多数の名所旧跡のあるコースだ。実は、私には今回が初めての中国旅行であり、非常に有意義な経験が出来た。ご同行した方々は、「オマエが一番はしゃいでいた!」と口を揃えられるハズ、つまり私はそれほどこの旅行を満喫し、色々と仕出かしたのだ…。

  さて、今回の旅行記は、私の五感(視・聴・嗅・味・触の五つの感覚)を通じての「中国」体験を中心に筆を進めており、あまり名所旧跡の案内には力を入れていない。そのような旅行案内を期待された方、申し訳ない。でも、実体験を綴った方が、皆さんが中国をイメージする際のお役に立つ様な気がする。皆さんが面白おかしくお読みになったら幸いです。 

 


嗅(その一)

 関西国際空港を飛び立ち、中継ポイントの上海空港に降り立った。飛行機を降りてまもなく、留学経験のあるK先輩が思わず呟く。「ああ、中国に戻って来たって感じがするなあ。」何のことか分からず、ポカンとしていた私。

 その様子を見た先輩は説明して下さった。「分からんか?中国独特の臭いがするんやー!」何か臭うかな、クンクン。…でも鼻が悪いのか、私には何も臭わず、先輩の言葉の真意を測りかねた。
このように、私の中国旅行はハテナ・マークからスタートした。

味(その一)

 その後、飛行機の乗り換えを二度経て、目的地の成都に到着。しかし、既に中国時間午後10時近く(日本時間だと午後11時)で、機内食含めて4回の食事をしているにも関わらず、バスはレストランへ向かう。皆さん流石に箸が進まない。麻婆豆腐が登場すると、やっと笑顔がこぼれる。

 ではいただきます…うわ、舌がビリビリする!

  話には聞いていたけど、本当に辛い(辣)ではなくしびれる(麻)だ。「麻婆豆腐太辣了」(マーボ豆腐は辛い)という初級中国語でよく見る文章は、「太麻了」に書き直しだ?と一人で納得。(ちなみに、「麻婆」とは「アバタ顔の奥さん」の意味。陳という姓のアバタ顔の奥さんが創作した料理だといわれている。)
冷房のかなり効いていた部屋だったが、汗が吹き出た。成都の人たちは、しびれる麻婆豆腐を食べて汗をかき、暑い夏を乗り切るんだ、と実感できた瞬間だった。

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杜甫草堂にて
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武侯祠

  翌日、成都市内を観光。三国蜀の宰相諸葛孔明が祭られる武侯祠、詩聖杜甫の旧宅があった杜甫草堂を訪ねた。

  さて、武侯祠でのコト。Y先生が私を掴まえてこう仰った。「覚えておきなさい、これが中国の蝉の鳴き声です。」
静寂の中で蝉の鳴き声だけが響く。
そして、その鳴き声は聞き慣れた「ミーンミーン…」というものではなく、「ジージー…」と鳴くアブラゼミの声だった。虫の鳴き声などは、やはり実際に足を運ばないとなかなか理解できない。貴重な体験だ。

   

 


味(その二)

その後、バスは重慶に向かった。夕食はご当地名物の火鍋。「火鍋」とは、紅(辛い味)・白(あっ さり味)に分かれたスープの中に具をくぐらせて食べる料理で、さながら「中華風しゃぶしゃぶ」と言った所。私が座ったテーブルは、他のテーブルと違い異様 な雰囲気を漂わせていた。

 原因は、私とS先輩。二人して辛い紅スープに、具を次から次へとたっぷり入れる。極め付けは、血の滴るウナギ。「ウナギ、いっときますか?」というS先輩のお誘いに「ハイ」と二つ返事の私。そんな二人のやり取りを無視して、あっさり白スープで食べる他の方々。レストランのウエイトレスさんも「コイツら、何なの?」という表情を浮かべる。
 結果は…。「鋼鉄の胃袋」とあだ名されるS先輩が体調を崩された、いわんや私をや。日本から持ってきた正露丸が全然効かないなんて!
チャレンジ精神は旅のスパイスだが、このスパイスは少々効きすぎた。

視(その一)

重慶から三峡下りの遊覧船に乗る。船旅では白帝城に登り、三国蜀の英雄劉備や李白の漢詩に思いを馳せたり、中国語カラオケを熱唱するK先生に大ウケのフランスのおばさんがいたりと、盛り沢山の内容だった。
しかし、船旅で一番強烈な印象として記憶に残るのは、船の甲板から見た朝日の美しさだ。早 起きした私は、同部屋のOさんと甲板へ。既に何人かが、思い思いの時間を過ごしていた。その場にS先生が居合わせていて、写真を撮って下さった。切り立っ た崖から朝日が顔を覗かせ、泥水の長江に暖かな陽光を映す…何という美しさ、そして暖かさ。あの感動と美しさは言葉では表現できない。しかし、あの朝日を見られただけでも、中国に旅行した甲斐があった、と断言できる。

 

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白帝城にて
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そして次のように実感した、このような中国の大自然が多くの詩人の表現力を育み、鍛え上げてきたのだ、と。

 


聴(その二)

船を下り、バスで武漢に向かう。途中、三峡ダムの工事現場等に寄るが、基本的にバスの中。高速道路でかなり揺れて大変な思いをする。
ようやく、武漢に到着。夕食後、OさんとMさんの三人でホテルの周りをブラブラ散歩することにした。

途中、大きな道を横断しようとするものの、足が中々前に出ない。中国の車は、本当に飛ばす。「ビューン」「シューン」という音が耳に入ると、身がすくんでしまったのだ。(そのせいか、帰国後しばらくは日本での乱暴な車の運転も可愛く見えた。)
…そんな私を置いて後の二人はさっさと横断。「待ってくれ~!」あせる私、でも横断のタイミングがつかめない。
その時何故か、小学生の頃の長縄跳びをふと思い出す。タイミングがうまく取れないため中に入れずに飛べない同級生をからかったけど、これはあの時の罰かなあ…。

後でMさんに言われた。「もう、ビビリすぎですって!」確かに。でも、怖いものは怖いよ。上海でも、車によるスリリングな体験をする。(それは後ほど)

 

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荊州城にて 「蜀」の旗も一緒に
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東湖にて

 

翌日、湖北博物館や東湖を観光した後、黄鶴楼に行く。李白や崔顥の漢詩で知られた旧跡だ。楼に登ると、気分はすっかり唐代の詩人。

…とここまではいいが、この後がいけない。

“肉体派”の私、行った先々で体を動かさないと気がすまないのだ。(武侯祠でも、孔明の墓の周りを走る、という暴挙?に出た)3回10元、9回30元(1元=約15円)で鐘を突ける、という看板に遭遇。折角だしここは一つ、と思いチャレンジした。

まずT先生のご子息が3回の方でトライ。一回ごとにおじさんが甲高い声で「家内安全」「健康第一」みたいな決まり文句を言ってくれる。なかなか面白い。当然私は9回鐘を突くことにした。
体全身で反動をつけ「オリャー!」と掛け声一発、鐘を「どつく」。(関西弁。「突く」なんてものじゃなかった)「ゴ~ン!」よーし、手ごたえあり。

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いきます
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オリャー!
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ゴ~ン!

この調子でどんどん行くぞ、と思うものの、6回目辺りから頭がカアーとなり、体もフラフラに。おじさんも変な日本人の鐘突きに笑いながらの掛け声。長いような短いような体験だった。

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そろそろ疲れが…
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フラフラ

同行した方のコメント。「君の声と同じで、やたら鐘の音がでかかった。でも、最後の方はヨレヨレやった。」これは、体を鍛えなおして、再チャレンジせねば。

 


視(その二)

観光後ホテルに戻り、自由行動の時間になる。私は諸先生・先輩方と繁華街へ買い物に出かけた。地図を見てあるいは現地の人に聞きながら、行きたいお店を探すがなかなか辿り着かない。やっと到着したものの散々歩いて疲れた。

ただ、貴重な光景に遭遇できた。スイカなどの果物やジュース、食べ物を売っている大勢の露天商たちが一斉に脱兎のごとく駆けだした。何事か、と思ったらパトロールに来た公安の姿が見える。なるほど、無許可で商売している人たちばかりだから、公安の姿を見れば逃げるのは当たり前だ。あっという間に街は静かになる。

…三十分後、同じ所を通りかかると、彼らは何事もなく商売を再開し、街は活気を取り戻している。変わり身の早さに驚かされた。流石に中国の商売人たちはタフだ。

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道端の露天商

聴(その三)

いよいよ今回の旅行の最終目的地、上海に到着。昼食後の自由行動では、今回の私の旅行の目的の一つ、書店巡りに精を出した。先輩方とタクシーを拾って本屋に行こう、となるが拾ったタクシードライバーの運転の怖いこと。

何が気に入らないのか、ドライバーは殺気立っていた。タバコはプカプカ、クラクションは鳴らしっぱなし、轟音を上げて、我々を乗せた車は上海の街並みを疾走する。高速では、何度も車線変更をして(勿論クラクション付き)、他の車を追い越す。
加えて、昼食時に飲んだビールと、重慶以来の腹痛のせいか、私の状態は最悪。車酔いのような状態で、意識が遠のきそうになった。でも「ブゥワーブゥワー」という感じのけたたましいクラクションの音だけは鮮明に覚えている。
あのタクシーは、下手なジェットコースターよりもスリリングだった。

嗅(その二)

楽しかった中国旅行も終わり、帰国の途に着くことになった。ここには書いていないもの(書けない ものもあるが)以外でも、かけがえのない経験をすることができた。流石にお腹が痛いのは辛いが、中国に滞在できるならそれも我慢できるなあ。そんなことを 思いながら、雲の上で今回の旅行の色々な場面を回想していた。

そうこうしている内に、あっという間に関西国際空港に到着。ああ日本に戻って来た、と少し安堵する。しかし、何故か違和感があって落ち着かない。
…ここで一週間前のK先輩の言葉を思い出す。分かった、臭いだ!日本では、漢方薬のような独特の臭いがしない。その事に私の五感が違和感を覚えたのだ。旅の最後の最後で先輩の言葉の真意が掴めた…。
中国で経験した感覚は時間が経てばすぐに忘れるだろう。しかし、刺激さえ与えられれば、記憶と共に感覚は蘇るはずだ。中国の大地に再び立った時、「これだ、この感覚だよ」と叫ぶ自分の姿を想像した。今すぐにももう一度中国に行きたいな。そんなことを思いながら、空港を後にした。

終わりに

私の「中国」体験は以上の通りである。皆さんも、興味があれば中国に行ってもらいたい。そして、自分なりの「中国」を体験してもらいたい。

…一人の人間が得る知識と経験は微々たるもので、中国という大きなジグソーパズルのほんの数ピー スに過ぎないのかもしれない。でも、そのピースは自分にとってかけがえのない宝物だ。ならば、ピースの数を増やそう。そのピースを集めて出来上がったの が、その人にとっての「中国」なのだから。
皆さんはどんな「中国」を体験するのだろうか。この旅行記を読んで中国に行きたくなった人がいれば、うれしく思います。最後に一言。
祝您一路平安!(道中ご無事で!)

 


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