教員インタビュー

朝尾幸次郎先生インタビュー

朝尾 幸次郎

立命館大学文学部の言語コミュニケーションプログラム(2012年度から「言語コミュニケーション専攻」に改称)は2013年3月、はじめての卒業生を送り出します。これを機会に、プログラム設立にかかわったひとりである朝尾幸次郎さんにお話をうかがいました。

■プロフィール

朝尾 幸次郎

デンバー大学大学院(米国)スピーチ・コミュニケーション研究科、東京外国語大学大学院外国語学研究科修了。日本大学、東京外国語大学、東海大学助教授、教授を経て、2003年、立命館大学(文学部)に着任。

----  今、全国には「コミュニケーション」という名前のつく学科や専攻がたくさんあります。 それと立命館大学文学部の「言語コミュニケーション専攻」はどこが違うのですか。
他の大学でコミュニケーションと名前がついている学科や専攻はたいてい外国語を学ぶことがその内容です。私たちの専攻で行っているのは外国語ではなく、文化をつくりだす、人間のいとなみとしてのことばの実践です。
---- ややまぎらわしいようにも思いますが。
そのとおりです。名前には悩みました。設置構想の段階では文学部内で通称、「新言語系プログラム」と呼んでいました。実際の名称を考えるにあたっては「人文言語プログラム」「実践言語プログラム」「ことば学プログラム」などが候補にあがりました。でも、どれも社会的になじみのあるものとはいえず、浮かんでは消えていきました。「それやったら、いっそ(新言語系プログラム)でええやないか」という声も出たほどです。(笑)
---- それが「コミュニケーション」という名前に落ち着いたのは?
コミュニケーションというのは人が人間となり、社会をつくり、文化を生み出す営みそのものです。外国語を学ぶことをコミュニケーションと呼ぶ方が本来、正しくないのです。海外の大学で外国語を学ぶ学科をCommunicationと呼んでいるところはありません。Department of Foreign LanguagesとかDepartment of Asian Languagesのように呼びます。私たちの教学こそコミュニケーションの正しい意味と内容なのです。
---- 国語でなく、そのようなコミュニケーションを教学とするような学部や学科は海外にはあるのですか。
はい、アメリカの大学ではコミュニケーション学科という専攻がどこにもあります。とても人気が高い分野です。
---- それが日本になかったのはどうしてですか。
それ自体が研究の大きな課題となるものです。これからコミュニケーションをてがけられる方にはぜひ取り組んでほしいものです。幕末、英語のspeechを「演説」ということばで日本語に取り入れたのは福澤諭吉です。「スピーチ」という概念が日本語になかったというのはきわめて示唆的です。当時、わが国では人前で話す、演説をするというのは外国語でするものであって、日本語ではできないと考えていました。森有礼でさえ、日本語でおしゃべりはできるけれども、人前で考えを述べることはできないと公言していました。
---- それが大方の考えであったと。
ええ、そこで福澤は「おれが今から日本語で演説をしてみせる」と言ってみんなの前で立ち上がり、1時間ばかり時事問題について演説をしてみせたのです。
---- 今から考えると信じられない話です。
しかし、今でも状況はそれほど変わっているわけではありません。
---- と言いますと?
「演説」と聞いてどのようなイメージを浮かべますか。たいてい選挙演説のような壮士然としたものではないでしょうか。本屋さんの実用書のコーナーをのぞいてみてください。スピーチの本がたくさんあります。でも、そこにあるのは結婚式披露宴のスピーチ実例集とか、朝礼のネタ本とかいったものです。人前で話すということは日本では未だこのレベルなのです。
---- 本来のスピーチというものがまだ日本にはないということですか。
そのとおりです。たとえばアメリカ大統領と日本の首相の演説を比べてみてください。アメリカ大統領は聴衆に語りかけ、気持ちを動かそうとします。しかし、日本の首相の演説は原稿を読むだけです。これは語りかけではありません。儀式です。西欧の文化ではことばで人を納得させ、うなずかせ、気持ちを動かす、それがリーダーの資質です。アメリカには歴史に残る演説がすべてアーカイブとして保存されています。それは公共の文化財なのです。
---- そのような新しい領域の専攻を立ち上げるのに不安はありませんでしたか。
不安は大いにありました。しかし、だからこそ大きなチャレンジとしてとらえてきました。そのようなとき、スタッフのひとりとして仲山豊秋先生が加わっていただけることになりました。元、NHKでアナウンス、ナレーションで長く活躍された方です。仲山先生が加わってくださるということで、「よし、これでできる」と大きな確信となりました。今年、はじめて送り出す卒業生はアナウンサーとして放送局に採用されています。
---- 言語コミュニケーションプログラムでは発足3年目、NHKラジオ第1の番組「渋マガZ」の公開生放送をてがけられました。番組制作や舞台での上演も教学の内容ですか。
はい。プログラムを立ち上げたとき、ひとつのモデルとしていたのはアメリカの大学のスピーチ学科でした。スピーチ学科というのは実は演劇学科でもあるのです。人前で話すことも、舞台で演じることも、ことばによる実践という点では同じものです。映画『ベン・ハー』でアカデミー主演男優賞を獲得したチャールトン・ヘストンはノースウエスタン大学スピーチ学部の出身です。
---- スピーチ学部ですか。
そうです。ノースウェスタン大学は話しことば研究では全米一で、ここは学科ではなく学部なのです。スピーチあるいはスピーチ・コミュニケーションとよばれる分野は演劇ととても相性がいいのです。たいての学科にはオーラル・インタープリテーションという授業があります。
---- オーラル・インタープリテーションですか。
これは演技をしない演劇です。演じる人は聴衆の前に本を持って立ちます。その一節を読み上げ、ことばで演じるのです。今、日本でも広まってきた本の読み聞かせも同じ考えによる活動です。
---- 話すだけではないということですね。
そうです。私たちはシナリオを作って演じたり、小説を書くといったことも行っています。これは同じくアメリカの大学のクリエイティグ・ライティング(Creative Writing)という授業を念頭においたものです。
---- 言語コミュニケーションプログラムの活動をひとことで言うとどういうことになりますか。
「ことばによる実践」です。たとえば、文学作品であれば、これまで大学では人の書いたものを学生は解釈してきました。しかし、私たちは作品を私たちで作り出し、演じるのです。
---- 言語コミュニケーションプログラムには音声表現、文章創作の他、日本語教育、言語研究も領域として設定されています。
はい、ことばを学び、教えるというのはまさにことばの実践です。言語研究も従来のようにことばをシステムとして見る言語学から、より広い立場で言語運用からも見ていくことで新しい領域を拓くことができます。
---- 言語教育、言語研究でも新しい流れを作り出すということですね。
そのとおりです。

---- 今日はどうもありがとうございました。

先生紹介

  1. 渡邉玲奈, 1期生 朝尾幸次郎先生

    朝尾幸次郎先生はこんな人(渡邉玲奈, 1期生)

    何事にも真っ直ぐ、精一杯に取り組んでくださる朝尾先生★お仕事と勉学の両立が出来たのは先生のおかげです!一筆書いて頂いたり・・・本当にありがとうございました!最後に頂いた厳しいお言葉も、期待して下さっているからこそですよね。ぐさっと来ました!頑張ります‼見てて下さい(*^○^*)/

  2. 京極優花, 2期生 岡本雅史先生

    岡本雅史先生はこんな人(京極優花, 2期生)

    何気ない雑談から始まる緩急自在の先生のトークは、知らず知らずのうちに聞く者を魅了していきます!人柄もおおらかでノリが良く、くりっとした目がチャーミングな、みんなに愛される先生です!

  3. ●○○○ 北出慶子先生

    北出慶子先生はこんな人(Jiaru Ni, 1期生)

    同じ組み合わせの服を見たことがない!! スカーフが似合うおしゃれで美人な先生です。学校以外でも、学生の生活のことを考えてくださり、いつも笑顔で優しく、かつ妥協しない丁寧な指導をしてくださいます。年齢不詳!!

  4. 柳文仁, 1期生 清田淳子先生

    清田淳子先生はこんな人(柳文仁, 1期生)

    いつでもあたたかく見守ってくださる先生の、その穏やかな表情は情熱に満ちた強い“芯”に支えられてこそ。ゼミを担当するにあたって、本来は専門外である文章、特に物語の創作についても、ゼミの誰より勉強して還元されるほどです。授業内外で、お風呂上がりの柔らかなベッドのように僕たちを包み、「自分の生徒は自慢の子供!」と言わんばかりに、他の先生方にゼミ生の話をなさっているようです。研究だけでなく将来の相談も親身になって聞いてくださり、本当にもう第二のお母さんです!

  5. 島田直樹, 1期生 田中省作先生

    田中省作先生はこんな人(島田直樹, 1期生)

    世界を飛びまわる不思議な先生、研究者です。ゼミ生の誰一人として先生の研究について理解できていません、ごめんなさい。言語に関する知識はとても多く、学生の研究には初歩からすごく難しいことまで丁寧にご指導いただきました。人工言語や少数言語、言語処理、プログラム、論文の書き方など“なんでもごされ”、一度お話を聞くといいでしょう。
    自転車、ツーリング、カフェめぐり、ご当地ゆるキャラなど多趣味な方です。クレバーな雰囲気と人間味があふれかえってます。学生のために、時間を省かず作ってくださる省作先生です!

  6. 田野絵里香, 1期生 仲山豊秋先生

    仲山豊秋先生はこんな人(田野絵里香, 1期生)

    話すプロ。もうこの一言につきます。仲山先生とお話させて頂くときには、自分の頭もフル回転しているのがよくわかります。甘いものがお好きという可愛らしい面もあります。

  7. 馬場美佐, 2期生 湯浅彩央先生

    湯浅彩央先生はこんな人(馬場美佐, 2期生)

    笑顔の素敵な湯浅先生!お年を感じさせないその外見と、明るく気さくな中身で打ち解けやすく、楽しい授業をして下さいます♪♪ある授業時間、先生の服がトマトの匂いでいっぱいだったことは、今でもすごく印象に残っています(笑)笑いの多い楽しい先生です★

  8. 山下沙理, 1期生 湯川笑子先生

    湯川笑子先生はこんな人(山下沙理, 1期生)

    母親の持つ優しさと厳しさの両方を兼ね備え、いつも学生を我が子のように思い熱心に指導してくださる、言語コミュニケーションのお母さん。学生の持つ可能性の上限を決めず、最大限引き出す指導をしてくださり、またアカデミックなこと以外の相談にも親身になって共に悩み、必ず解決へのヒントをくださいます。本当に学生をやる気にさせる天才であり、その名のとおりよく笑う、お茶目で可愛らしい先生です。

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