留学体験記 菊地 俊介 大学院文学研究科東洋史学専修博士後期課程2回生(休学中) 留学期間:2010年9月から2012年7月まで 留学先 :南開大学歴史学院 留学形態:高級進修生(中国政府奨学金を受給)1.留学されたきっかけは? 「中国政府奨学金」による「高級進修生」として、研究留学をしています。 中国近現代史を専攻して研究者を目指す大学院生なら、ほとんどの人が通る道です。 勿論、現地を知らずに中国研究をしていて良いのかと自覚していましたし、外へ出て 自分を試したい、自分の研究を世界に通じるものに仕上げたいという素朴な思いもあります。 ともあれ、まずは避けて通れない道と考えたからです。 実は当初の留学期間は1年間の予定でしたが、もう1年間延長することにしました。 更なる研究の展開が第一の目的ですが、どうやら現地の人や社会に、私の肌が合っていたようです。 2.研究留学と語学留学の違いは? 語学留学では、世界各国から来た留学生と一緒に中国語を学びますが、研究留学では、 現地の中国人学生と一緒に中国語で学びます。 つまり、中国語は目的ではなく手段です。言わばプールで泳ぐ前にいきなり海に飛び込む ようなものと言えましょう。 それは苦労しましたよ。留学する1年前に、某留学専門機関の相談員を訪ねると、語学面では HSK(漢語水平考試)6級を取得しているなら、現地に行ったらすぐ適応できますよ、と。 しかし世の中そんな甘い話はありません。現地に行ってみると、教室で大人しく勉強する 中国語と現地で飛び交う中国語は大違い。とにかく毎日自分で中国語を勉強しないと。 キャンパス内の至る所で、早起きの学生らが朝から英語の教科書を広げて音読しています。 私は近所の天津図書館から子供向けの絵本を借りてきて、朝から英語を練習する中国人学生の中に 混じって、中国語を音読。 恥ずかしがったら負けです。 3.研究留学の日々の生活は? 「高級進修生」は、自分の研究を進めるための「研修」という立場ですので、授業への出席は 自由です。一人で黙々と資料収集と考察と論文執筆を進めていても良いのです。 でもそれだけでは勿体ない。 指導教授のゼミのほか、いくつか授業に出て現地の学生と交流しました。友達も沢山できましたよ。 ゼミや授業では中国語の研究発表も数回こなしました。演劇の台詞を覚えるように、1週間くらい 前から毎日発表の練習をしていましたね。 授業を通して中国の研究成果を吸収しつつ、あとは自分を追い込んで休むことなく学内外の図書館や 档案館に足を運んで資料収集、論文執筆に悩む日々。 やはり最終的には、研究は孤独な自分との闘いです。 4.中国人学生との交流を通して感じたことは? 私が出会った中国人学生はみんな純粋で親切、好奇心旺盛、言葉の面でもまだまだ不自由のある 私に辛抱強く、いや気持ち良くつき合ってくれました。本当に感謝しています。 私の研究テーマは日中戦争期の日本の対中国占領統治ですが、このような複雑な日中関係に関わる 研究の話でも、ちゃんと一緒に考えてくれます。これは大きな励みでした。 みんな私に良くしてくれるのに、私には何ができるのか。自分の語学力や研究の進歩など、 そう簡単にはいかないもので、時に焦りを感じながらよく悩みました。せめてできることは、 恵まれた環境を無駄にせずに精一杯研究に取り組むことであろう、と。 それは現地の学生も分かってくれているのではないでしょうか。 中国にいて中国史を専攻する中国人学生は、元々必ずしも日本に強い関心を寄せているとは限りません。 そこへ日本人の私が加わるわけですから、彼らが接することのできる限られた日本人として、私との 関わりが彼らの日本認識に及ぼす影響は大きいと考えて良いでしょう。 責任の重さを感じます。 5.留学を考えている後輩にメッセージを。 留学は現地の人と社会に触れる貴重な経験ですが、カルチャーショックも少なからずあるでしょう。 東洋研究を志す皆さんには、現地に行って「見たまま」、「感じたまま」で済ませないでほしいと思います。 見たもの、感じたものにある背景や、これから中国人や中国社会とどう関わっていけば良いかなど、 考えてみて下さい。 その手立てとなるのが、歴史や文化を学ぶことです。そのことは同時に留学生活をより豊かにし、 留学中の困難を乗り越える力にもつながると思います。 当たり前ですが、留学して1年が経った私とて中国の全てを知り尽くしたわけではありませんし、 まだこの先いろいろな発見があるはずです。 皆さんに負けずに頑張ります。