2007年度JASRAC寄附講座
音楽・文化産業論U


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2007.9.29

今年度で4年目にあたるJASRAC寄附講座「音楽・文化産業論U」が、後期もキャンパス プラザ京都で幕を開けました。今日は、本講座の開講式が執り行われました。
※司会進行 宮下晋吉教授(立 命館大学産業社会学部教授)

 

1.武田勝正氏(JASRAC文化事業部部長) による開講式挨拶

JASRACは昭和14年に設立された公益社団法人で す。作詞家・作曲家・音楽出版社から音楽著作権の管理委託を受けて、CD録音や楽譜出版、テレビ、ラジオ放送、インターネットでの音楽配信などで音楽を利 用する際に許諾を行い、その対価として著作権使用料をお支払いいただき、その使用料を各権利者に分配するという音楽著作権の管理事業を行っています。この 管理事業のほかに、平成10年からは公益法人として広く社会一般に貢献していこうということで、講演会やシンポジウム、あるいは子供たちに生の演奏を親し んでもらうための演奏会などを行っています。この文化事業の一環として、平成16年度より立命館大学産業社会学部において、JASRAC寄附講座を提供さ せていただいています。

 ここ京都に は世界的なハイテク企業がいくつもあり、また伝統産業も盛んです。そこで生み出されている製品は、著作権や特許権などの知的財産と深く関っています。それ らは知的財産の塊そのものであると言っても、過言ではありません。

 数日前の新 聞に次のような記事がありました。日本の野菜ブランドが日本よりも先に中国で商標登録されてしまい、日本の野菜が輸出できなくなっているというのです。そ こで日本の農林水産省は、知的財産への意識を高めなければ日本の農産物すら生き残っていくことができないとして、危機感を強めています。植物の新品種は種 苗法という法律で保護されています。今や農業の技術やアイデアまでも、知的財産として活用していこうという動きが広がっているのです。

 このように 知的財産は、その国の文化や経済を支える基盤となるものです。同時にわが国のように鉱物資源などが乏しい国が将来発展していくためには、これからますます 重要になってくることは間違いありません。

 皆さんがこ れから活躍される社会において、必ずや知的財産の知識を必要とする場面に遭遇されることになります。この講座は、コンテンツビジネス界の第一線でご活躍さ れている方を講師に迎え、知的財産についての幅広い知識と理解を深めていただく絶好の機会です。どうぞ、積極的に参加していただきたいと思います。

 

2.國廣敏文氏(立命館大学産業社会学部長)による開講式挨拶

 この講義はJASRACの寄付によって成り立っているということで、まずはじめにJASRACにお礼を申し上げます。それから、この講 座のコーディネーターである反畑誠一先生がいなくては、素晴らしい講師の方々を呼ぶこともできませんでした。反畑先生にも、お礼を申し上げたいと思いま す。

 JASRACはさまざまな場所で知的財産についての研究会を行っていますが、学部レベルでのサポートは、日本全国この講座だ けです。つまりここにいる学生は、日本で唯一この講座を聴くことができる学生なのです。一生に一度しか聴くことができない内容の講義を毎週聴くことできる 素晴らしい機会ですので、ぜひ積極的に受講し、自分の今後の進路などの役に立てていただきたいと思います。

 

3.開講オリエンテーション

講師:反畑誠 一(たんばた・せいいち)先生

音楽評論家・立命館大客員教授。社団法人全国コンサートツアー事業者協会理事。芸 術選奨推薦委員。日本レコード大賞常任実行委員。
J-popを中心にジャンルを 超えて幅広い視野で評論活動を、新聞(京都新聞)・ラジオ(FM綾部)・テレビ(KBS京都)を通じて展開中。30余年間にわたり、日本人アーティストの アジア公演に同行取材を続ける傍ら、PROMIC調査団員としてアジア各国の音楽産業事情を現地視察するなど、アジアの音楽ソフト市場の調査・分析の第一 人者。

 

CD (コンパクトディスク)と音楽文化」

講義のタイトルは、「CDと音楽文化」。 どうしてCDを切り口にしたのかというと、CDが1982年に音楽商品化されて、今年でちょうど25年なのです。ということで今日は、CDと音楽文化との 関わりの歩みを振り返りつつで話を進めていきたいと思います。

 

1)2006年世界の音楽産業

 2006年、世界の音楽産業はどうだったでしょうか。つい先日、IFBI(国際レコード産業連盟)から発表されたものを以下 にまとめてみました。

@全世界で は、前年に比べると減少傾向にあった。
A日本。ロシア、南アフリカ、韓国、アルゼンチン、アイル ランド、インドネシア、ハンガリー、マレーシア、インド、中国、ベネズエラの12カ国は、前年実績を上回った(日 本は1%増)。
B日本、韓国は、パッケージの減少を音楽配信の増加でカ バー。
CCD売上減少の 要因=価格競争、小売店の陳列スペースの縮小(大型化。宮崎と熊本では市内のCDショップがなくなってしまいました)、海賊行為(特にアジア地域)、他エ ンタテインメント分野との融合(映画DVD、ゲーム、携帯電話、ネットへの支出等)。
D音楽配信=インターネット、モバイルともに堅調に成長。Ringtunes(着うた)が最大の売上シェアを占める。
Eシングルトラック(着うたフル)=全体の10%に。
Fシングルトラックのダウンロード数は7億9,500万件(前年比89%増)。パッケージを含め、全体で前年比60%増。9億3,100万件で、史上最高を記録。
G音楽配信市場=アメリカ52%、アジア(日本ほか)20%、ヨーロッパ18%。
Hリリースタイトル数=リリースタイトル総数:パッケージ +音楽配信=15万タイトル以上。旧譜の配信も進み、消費者の選択肢は拡大傾向にある。

 昨年の世界 の音楽産業・音楽売上実績の上位10位を見てみると、たったの1%増ではありますが、伸びたのは日本だけです。あ とのすべての国は前年比で減少しました。パッケージと音楽配信をメディア別に分けて、昨年と一昨年の売上金額を見てみると、音楽配信は85%の伸び、一方 でパッケージは11%の伸びにとどまっています。

 

2)CD(コンパクト・ディスク)

 CDが登場する前は、円盤型の回転レコードが主流でした。そのアナログレコードには、SP、EP、LPの3つの種類がありま す。SP(standard playing record)は1分間に78回転、EP(extended play)は1分間に45回転、LP(long play)は現在DJなどが使っているレコードで、1分間に33と3分の1回転です。われわれはこの円盤レコードに針を落として、音楽を聴いていました。 大変良い音が出るのですが、針を落として溝をなぞっていくのでどうしてもノイズが出てしまったり、また回転数を遅くしても、容量が少ないということが、ア ナログレコードの問題でもありました。

 1982年10月、日本で最初のCDプレーヤーとCD音楽ソフトが発売されました。ソニーとフィリップス社の共同開発で特許 を取得し、世界に先駆けた出来事でした。それまでのアナログレコードやカセットテープにはA面とB面がありましたがCDにはそれがなかったので、代わりに 「カップリング」という新しい表現も生まれました。

CDの外見は、直径12cm(シングルは8cm)、厚 さ1.2mmの円盤です。素材はプラスチック(ポリカーボネート)。780nm(ナノメートル=0.001mm)赤外線レーザー光の反射を読み取ることで 音が出ます。それまでのレコードでは問題だった容量も、CDによって大幅に増えました。音楽用CDの記録容量はPCM(パルス符号変調)形式で最大79分 50秒。ところがCDは74分だという説がなぜか定着しています。そのせいで、ベートーヴェンの「第九」とクラシック音楽の95%が75分間であることか ら、1分間足りないとしてよく話題にもなりました。一説には、当時ソニーの経営者で、声楽家、指揮者でもあった大賀典雄さんが、74分あれば大方のクラ シック音楽はCDに収められるということから、74分を主張したと言われています。私は大賀さんにお会いする機会があったら直接おたずねしてみようと思い ます。ちなみにシングルCDは約22分ですが、シングルは現在、製造させておらずマキシシングルになってしまいました。CDの寿命は20〜30年、あるい はパーマネントとも言われていますが、直射日光や高温多湿を苦手とします。現在では新しいメディアとして、SACD(super audio CD)やDVD-Audioなども登場していますが、まだCDに代わるところまではいっていません。

 最初にソ ニーが出したCDタイトルは、ベートーヴェンの「運命」やシューベルトの「未完成」。ともに3,800円で、マ ゼール指揮、ウィーンフィルで演奏されたものです。それからピンク・フロイドの「炎(あなたがここにいてほしい)」3,500円。ビリー・ジョエルの ニューヨーク52番街、3,500円。大滝詠一の「A Long Vacation」、3,500円。佐野元春の「Someday」、3,500円など、全部で50タイトルがCD化されました。

 

3)貸しレコードとレンタルCDの歴史

 発売以降、CDはどのようなかたちでマーケットへ進出していったのでしょうか。皆さんはよくレンタルCDを利用すると思いますが、この レンタルビジネスとCDは切っても切り離せない深い関係にあります。その歴史を見てみましょう。

 CDが発売される前の1980年6月、東京都三鷹市に貸しレコード店「黎紅堂」を、当時大学生だった大浦清一氏らが開業しました。当 時LPの定価は2500円、レンタル料は1泊250円。これをきっかけとしてレンタルビジネスはまたたく間に広が り、貸しレコード店の数は翌年の8月には約800店、年末には1,000店にまで急増します。そして同年10月、レコード会社13社が貸しレコード店4社 に対 して貸出差止訴訟を起こしました。理由は、レコード製作者の著作隣接権の中にある複製権の侵害に当たるというものでした。

1982年7月、JASRACは黎紅堂に対して「レ コード使用禁止」の裁判を起こしました。ところが同年12月に、公正取引委員会が日本レコード協会に対し、「貸しレコード対策」は独禁法の恐れがあると警 告します。そして1983年11月28日、「商業用レコードの公衆への貸与に関する著作権者等の権利に関する暫定措置」(貸しレコード法)が成立し、翌年 6月には法律が施行されました。著作者・実演家・レコード製作者に「レコード発売後1年に限ってレコードの有償貸与についての許諾件を付与することになっ たのです。

 1984年3月には日本レコードレンタル商業組合(現コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合)が設立します。同じ時 期、JASRACと日本レコードレンタル商業組合と使用許諾契約を締結、同年5月18日には、貸しレコードに関する著作権法改定が成立します。この著作権 法改定が、大きな分かれ道になります。つまり貸しレコード側に風が吹くことになったわけです。

1985年6月、日本レコード協会と日本レコードレン タル商業組合は許諾契約を結びました。許諾料はLPが32円、シングルが9円75銭。新人は原則として認められませんが、1年間限定で100円でした。こ の許諾料は50%から、翌年には90%にまで上がります。1986年4月にはそれまで禁止されていたCDレンタルが解禁になり、大手スーパーや消費者金融 会社までレンタルビジネスに参入します。そして貸しレコード店の数は、3年後に4,250店にまで増加しました。1987年8月にはCBSソニー(現ソ ニー・ミュージックエンタテインメント)が、松田聖子の「ストロベリー・タイム」の貸出禁止法を求め訴訟を起こし、東京地裁は請求を認める仮処分を決定し ています。

1989年、全国の貸しレコード店は6,213店にま で膨れ上がりますが、2004年には約3,000店に減少します。原因は、新譜貸出規制、過当競争、店舗の大型化だと言われています。今年2007年4月 には、CDの使用料が値上げになりました。新譜・旧譜とも1枚当たり税抜き価格2,000〜3,900円で360円、4,000〜5,999円で457円 となっています。ただし激変緩和措置として2007年に限っては半額に抑えられ、邦楽アルバム1枚当たり330〜495円を請求してきた貸与使用料の規定 は適用されることになりました。

 その後さま ざまな動きがあり、TSUTAYAを中心とする大手レンタル企業は、日本レコード協会に年間10億円を、音楽CD の啓蒙・普及費用として支払うことになりました。

 

4)私的録音録画補償金制度(してきろくおんろくがほしょうきんせいど)

 私的録音録 画補償金制度とは、「私的使用を目的とした個人、または家庭内での複製については著作権法でも認められてきたが、デジタル方式で録音・録画する場合におい て、一定の割合で補償金を徴収し、著作権権利者への利益還元を図ることを目的に1992年の著作権法改正に伴い導 入された。利用者の具体的な利用形態を考慮することなく、一律に一定額を包括的に徴収されている」とあります。これだけではちょっと難しく分からないの で、もう少し読んでみましょう。

MD、CD-R、CD-RW、DVD- RW、DVD-RAMなどのデジタルメディアを用いて録音・録画する場合には、利用者は一定の補償金を管理団体に支払わねばならない。この補償金は機器や メディアの販売価格に上乗せされている」。

つまり、個人的にCDやDVD、あるいは ビデオを録音、録画する行為は、一般的に著作権法の侵害には当たりませんが、私たちが録画するために購入するビデオデッキや録音機器には、あらかじめ補償 金として著作権使用料が含まれているのです。これはドイツから発してアメリカに渡り、日本にやってきた海外からの制度です。

その補償金の額は「@録音機器は、基準価格(カタログ表示価格の65%)の2%。ただし録音機能が一つの機器であれば上限1000円。二つであれば上限1500円。A記録媒体は、基準価格 (カタログ表示価格の65%)の3%。B録画機器は、65%の1%、上限1000円。C記録媒体は、50%の1%。」です。

では、誰がこの補償金を受け取るのでしょうか。補償金で得た利益の一部は、「著作 権及び著作隣接権の保護に関する事業並びに著作物の創作振興及び普及に資する事業などに支出」される方法と、「間接的な利益分配」の2種類に分けることができます。主な補償金の分配は、@私的録音補償金はJASRAC36%、日本芸能実演家団体協議会 32%、日本レコード協会32%。またA私的録画補償金は私的録画著作者協会68%、日本芸能実演家団体協議会29%日本レコード協会3%となっていま す。

現在はこの補償金制度に対し、各団体から要求も出てきています。例えば私的録音補 償金制度に関しては、iPodなどの「ハードディスク内臓型録音機器」も補償の対象にするべきだとか、あるいはパ ソコン内臓・外付けのハードディスクドライブや録音以外の用途にも利用できるデータ用CD-R、CD-RWを、補償の対象にするべきだという要求。また私 的録画補償金制度に関しては、Blue-ray Disc用機器・メディアとハードディスク内臓型録画機器(HDDビデオレコーダー)も補償の対象にするべきだという主張や、パソコンに対しても上記の録 音と同じ要求が出ています。

音楽用DVDは当然補償の対象になるので すが、わたしたちが100円くらいで購入できるふつうのCD-Rは、補償の対象になっていません。しかし立派に音楽や画像を取り入れることができる。これ らの境界線が非常にあいまいで、大きな問題になっています。利用者の目から見れば、いったんハードで払っているのだから二重に徴収されるじゃないかという 主張もありますが、権利保護側から見るとそうはいきません。重要な問題ですが、まだまだ結論は出ていない状況です。

 

5)さいごに

CDが実用化されてから25年。今私たちの周辺にある 問題点はどのようなものなのかということを、もちろんこれすべてではありませんが、今日はまとめてみました。

 最後に、皆 さんがレポートを書くときなどの注意点を1つだけお話しておきましょう。先日の朝日新聞に「ウィキペディアの信頼 度は?」というタイトルの記事が載っていました。その記事によると、ウィキペディアの項目数は増え続けており、一方では虚偽の記事もあるということでし た。間違った記事については丁寧に削除されたり修正されたりしているようですが、ここで述べたいことは、ウィキペディアなどの情報サイトが完璧だと思わな いようにして欲しいということです。もちろん間違っていることが多いとは言いませんが、それをまるまる引用してしまうのは危険です。このウィキペディアの 創始者ウェールズ氏は、インタビューに次のように応じています。「頼るのではなく、情報のとっかかりにしてほしい」。

 適切な言葉 だと思います。勉強する際にもウィキペディアのような情報サイトを全面的に信用するのではなく、「正しい情報のあり方」を念頭に、好奇心や緊張感を保ちな がら活用していくことが大事だと思います。

 

4.今後の予定

 ―後期―

9月29日

反畑誠一先生(音楽評論家・立命館産業社会学部客員教授)

10月6日

亀田誠治先生(音楽プロデューサー)

13日

飯田久彦先生(エイベックス・エンタテインメント且謦役)

20日

三枝照夫先生(ビクター・エンタテインメント且謦役会長)

27日

今野敏博先生(潟戟[ベルゲート代表取締役)

11月3日

渡辺俊幸先生(作・編曲家)

10日

白井勝也先生(小学館専務取締役)

17日

錦織 淳先生(弁護士)

24日

中間総括(反畑誠一先生)

12月1日

亀山千広先生(潟tジテレビジョン執行役員常務・映画事業局長)

8日

西田 浩先生(読売新聞東京本社文化部、『ロック・フェスティバル』著者)

15日

山本たかお先生(テレビ朝日制作局「ミュージックステーション」チーフプロデュー サー)

22日

山本裕治先生(椛謌鼡サ商音楽ソフト事業本部長)

1月12日

サイトウ・アキヒロ先生(立命館大学映像学部客員教授)

19日

後期総括(反畑誠一先生)

※詳しくは立命館大 学産業社会学部オンラインシラバスを参照のことhttp://online-kaikou.ritsumei.ac.jp/2007/syp/show?course_code=16338

 

―参考文献―
「著作権法の解説」(一 橋出版)千野直邦・千野晋子著
「ゲームニクスとは何か」(幻冬舎)サイトウ・アキヒロ著
「ヒットの理由」(オリコン)亀田誠治著
月刊「THE RECORD」(日本レコード協会)
月刊「CPRAnews」 (実演家著作隣接権センター)



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