2015年度 音楽関連団体共同寄附講座

エンタテインメント・ビジネス産業論

《受講生からの事前質問より》

 

○伝統音楽を知らないので、できるだけたくさん知りたいです。

京都は能楽堂や邦楽を専門にしている場所もあります。私が是非オススメしたいのは、せっかく京阪にいらっしゃるので、能・狂言・文楽については、是非会場に足を運んで聴いていただきたいと思います。黙っていて伝統音楽が耳に入るチャンスは非常に少ないです。

 

○日本の伝統音楽と民俗学・民謡について。

伝統音楽と民俗学・民謡は密接に関係があり、遠い存在ではありません。だが専門としてはずいぶん離れてしまいます。

伝統音楽とは、芸術的な音楽、舞台で演奏される音楽を指し、民俗音楽・民謡などはいわゆる郷土音楽に入ります。演奏する方がプロフェッショナルであるか、民間であるか大きな違いがあります。民謡についてはプロの方もいますが、郷土の伝承的な曲を歌う方は少なくなってきています。プロの民謡歌手というのはどこの出身かが解りにくくなってきていて、北海道の曲も歌うし、福岡の曲も歌うなど、プロフェッショナルだけれど出自があいまいになっています。

 

○「伝統」を知る大切さを説いてください。

伝統を知る大切さとは、非常に突き詰められた問題なんですけれども。

私みたいな仕事をしていると、テレビでヒップホップを踊る子供たちを見ると気分が重くなるんですね。ヒップホップが悪いということではなく、日本人がどこにいってしまったのかという素朴な疑問なんですね。日本の舞踊や歌のリズムは実はすごく難しくて、トライする価値がものすごくあります。トライして得られたもの中に、日本人が何千年と培ってきた日本人らしい良さ、世界に通ずる良さというものがあります。そういったものと隔絶して踊りや音楽をやっている日本人て、なんなのかなと思います。私自身、西洋音楽で育ったので、日本の伝統音楽に出会ってから日本音楽の良さを余計に思います。伝統を知る大切さというのは、もっともっと知ってほしいと思います。

ただ京都には「祇園コーナー」があって、そこに行くと着付けとか音楽とか踊りとか楽しめるそうですね。東京に「祇園コーナー」を作ろうという活動を、もう5年くらいしているんですが、まだできないですね。東京は多国籍国家で、なかなか江戸のものを大事にする下地が無いんですね。

 

○明治やそれ以降の時代の無形文化の調査や資料収集には、どのような方法をとられているますか。

東京には東京文化財研究所があり、そこも集中的に古いものを集めています。

われわれのテリトリーは音楽なので、SP版です。明治末期から日本コロムビア、昭和2年からビクターが始まり、ビクターは昭和2~3年の1年で1000枚SP版レコードを出しています。毎月80枚くらいですね。そのうちの9割が日本の音楽なんです。それが眠ったままなので、それのアーカイブをすることで日本の音楽を知ることになったらいいと思います。

立命館大学さんはデジタルアーカイブをしていることでも全国に知られていますね。主に絵画や寺社などの仏像など、立命館大学さんは一生懸命していますね。ただ音のアーカイブについては、無形なものですから非常に難しい。10万曲のアーカイブを進められるように、何とか生きているうちにしたいなと思います。

 

○日本の音楽と外国との違いについて聞きたいです。

私は民族音楽の録音制作をずっとしていました。

伝統音楽・民族音楽など、その土地の音楽は音が非常にきれいです。今の新しい音楽は原音の良さを追求している音楽ではないと思いますね。シンプルだけれど、そこにその人のぬくもりや温かみを感じられるのが、日本の伝統音楽と世界の民族音楽の共通点なのではないかと思います。シンプルなだけに、良い録音で録って音楽を聴いていただけるといいと思います。

逆に、日本の音楽はハーモニー(和声)が無いです。明治の役人の書籍には「能楽などはただ蛮声を張り上げるのみ」と残っていました。つれないですね。蛮声を張り上げていると表現された能楽が現在世界遺産になっていたりしますから。当時の和声を聴いた役人は、能楽の和声の無い音楽を聴いて野蛮なものとしか聞こえなかったんでしょうね。

 

○後継者はいるのでしょうか。

いないです。非常に乏しいです。上手い人がいなくなってしまいました。

SP版を聞いていると、クレジットが書いていないものがあります。これを90歳近い人間国宝の先生の所に音源を持ち込むと、声と楽器を聴くだけで演奏者わかります。こういう耳のある人が生きているうちにアーカイブをやらないといけないと思っています。

今やらないと、データ化出来ても、メタデータである演奏者がわからない時代になってしまいます。

 

○若い人への伝統音楽の売り込み方について。

大変難しいです。進んで伝統音楽、飛び込んできてください。伝統音楽は解るのに時間はかかりますが、触れればものすごく良いものです。

また、好きな演奏家がいたら是非応援してください。最近尺八の藤原道山さんはイケメンで、カッコいいです。またいろんな新しい音楽をしています。彼は子どもの頃から、演奏会の最前列に座って、全部カセットで録音するぐらいのマニアだったそうです。だから、彼の手元には名人の音源がシカ版(非売品)で全部残っているそうです。それだから、非常にいい演奏ができて、ファンもいるのだと思います。

 

○音楽の仕事を目指す上で重要なことは何でしょうか。

伝統音楽に限らないことだと思いますが、好きになることだと思います。自分のやっている音楽を好きになることしかないと思います。これが無ければ、やっていてもしょうがないと思います。

 

○一番興味をもった伝統音楽はなんでしょうか。

非常に難しい質問です。映像の中に琴と三味線の地歌の「残月」がありましたが、これは地歌筝曲というジャンルで盲人がやっていたのですが、自分のキャリアの中ではこれが長かったので自分の中で一番ウエイトが高いです。

 

 

 

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