2015年度 音楽関連団体共同寄附講座

エンタテインメント・ビジネス産業論

第9回 6月5日  アジア、ヨーロッパの映画事情

野辺 優子(のべ ゆうこ)先生

  合資会社エスポルト コーディネーター

 プロフィール

東京外国語大学大学院、フランス国立東洋言語文化学院(INALCO)でベトナムを中心としたアジア映画を研究。在学中はフランス、イタリアのサッカーやラグビー等のスポーツメディアの通訳や翻訳も経験。映画プロデュースの大学院助手を経て、2008年より公益財団法人ユニジャパンで東京国際映画祭の運営を経て、国際事業部人材育成グループで、経済産業省の若手映像クリエイターの短編映像制作事業を手がける。そのうちの1本『ふたつのウーテル』(田崎恵美監督)が日本映画短編として46年ぶりに2011年カンヌ国際映画祭のコンペティションに出品された。2013年は『隕石とインポテンツ』(佐々木想監督)が再び同プロジェクトからカンヌ国際映画祭に出品、3年間で2度入選の成果を上げる。同年、日本初世界志向の短編映画を総合的にプロデュースするプロジェクト『JAPAN SHORTS』を立ち上げ、第一弾として新進気鋭の6監督の作品を新宿バルト9を始め全国6都市のシネコンで上映を実施。また、日本、アジアの短編映画の専門家として世界のプログラマーとネットワークをいかしたコーディネーターとして、海外の映画作品のキュレーションも行っている。本年のカンヌ国際映画祭短編部門出品の日本作品『八芳園』のコーディネーションを担当。現在は長編商業作品の海外映画祭コーディネーターの他、複数の短編作品のプロジェクト・プロデューサーも手がける。

最近はベトナムの舞台芸術の調査研究も行い、昨年は国際交流基金の派遣で現地調査を担当。現在東京芸術大学大学院で博士論文の執筆中。

 講義概要

 コーディネーターとして、アジア・ヨーロッパの映画に精通する合資会社エスポルトの野辺優子氏が「アジア、ヨーロッパの映画事情」と題して講義を行った。5月に開催されたカンヌ国際映画祭の話題など、アジア・ヨーロッパにおける短編映画マーケットについて話した。

 講義ではまず、2011年カンヌ国際映画祭短編コンペティションで最高賞を受賞した、韓国の『SAFE』を紹介し、ヨーロッパとアジアの映画制作の違いを挙げた。映画制作にあたり、ヨーロッパは政治的影響が強く、アジアは経済的影響を強く受ける。他のアジアの国々同様に日本は経済状況に影響を受け、映画制作における予算の少なさや、年度区切りによる長期のプロジェクト継続のしにくさを問題点として指摘した。また、共通点として短編映画制作を挙げた。日本を除くアジア・ヨーロッパでは短編映画は長編映画への登竜門として捉えられており、カンヌ国際映画祭のショートフィルムコンペティションは、新しい作品や無名監督の発掘の場となっている。

 映像ビジネスにおいてカンヌ国際映画祭で開かれるショートフィルムコーナーを紹介した。一定の条件を満たせば誰でも作品を提出することができ、映画を通じて多数の同じ目的を持つ人々と知り合うことができる。短編映画は限られた時間の中で作品の無駄を無くし、的確な表現方法を学ぶ場である。短編映画マーケットは、クリエイターにとっては自分の作品の評価を受けクオリティを高める場であり、ビジネスにおいてはマーケットへの参加によって海外の流行を知り新しい作品発掘の場となる。

 映画制作はクリエイターのみでは成立せず、観客と同じ目線を持つ信頼できるビジネスパートナーが必要である。ショートフィルムへのチャレンジには、様々な価値観に触れ、コミュニケーション力を高めることが重要であると話し、講義を終えた。

 講義課題として「『SAFE』の感想」を提示し、講義を終えた。受講生からは観客視点で短時間に凝縮された映画の迫力に感嘆する意見や、クリエイター視点での映像制作についての意見が多く上げられた。

© Ritsumeikan Univ. All rights reserved.