2015年度 音楽関連団体共同寄附講座

エンタテインメント・ビジネス産業論

第14回 7月10日  音楽制作の変遷と課題

椎名 和夫(しいな かずお)先生

 一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN 理事長

 プロフィール

【活動履歴】

 1952年東京生まれ。ムーン・ライダースの結成に参加。脱退後は、スタジオ・ミュージシャン、編曲、プロデュース等の活動に転じ、井上陽水、山下達郎、吉田美奈子、甲斐よしひろ、中森明菜、光GENJI、中島みゆき、他多数のアーティストのレコーディング、ステージでの演奏や、編曲、プロデュースを担当。

 1986年駒沢にスタジオ・ペニンシュラを設立。同年12月、中森明菜「Desire」で第28回日本レコード大賞受賞。1995年演奏家団体パブリックインサード会(PIT)設立。1998年演奏家権利処理合同機構 ミュージック ピープルズ ネスト(MPN)設立。

【現職】

 パブリックインサード会代表幹事、(一社)演奏家権利処理合同機構MPN理事長、(一社)映像コンテンツ権利処理機構理事、(公社)日本芸能実演家団体協議会常務理事・同実演家著作隣接権センター運営委員、肖像パブリシティ権擁護監視機構理事、放送コンテンツ権利処理円滑化連絡会委員、文化庁文化審議会著作権分科会委員、文化庁「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」委員、(一社)放送コンテンツ海外展開促進機構理事。

 講義概要

 ギタリスト、音楽プロデューサーとして第一線で活躍ののち、現在は演奏家の権利処理を行う一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPNの理事長を務める椎名和夫氏が、「音楽制作の変遷と課題」と題して講義を行った。時代とともに変化する音楽制作と、音楽産業の課題である私的複製について解説した。

 講義ではまず、音楽制作の変遷が話された。かつては、生演奏によるレコーディングだったため、リズムパート・コーラス・ヴォーカルを音楽スタジオで録音し、トラックダウン、マスタリングが行われていた。しかし、PCで演奏できる音源やDAW(Digital Audio Workstation)などの登場により、スタジオで行っていた音楽制作が、一部PC上で作業可能となった。これにより、音楽制作にかかるコストは削減されたが、演奏者同士のコミュニケーションによって生まれていた調和が、PCでの打ち込み制作では無くなってきていると言及した。

 また、近年音楽産業を脅かす私的なコンテンツの流用についても触れた。PC上での複製が容易になり、SNSやクラウドサービスによる共有など、メディアを介さずに音楽を流用できるようになった。これにより、ユーザーが複製のためのメディアを製造していたメーカーを介して支払っていた私的録音録画補償金の徴収額は減少し、正規品の販売によって権利者が得られるはずであった利益を大きく圧迫している。この状況を鑑み、2013年には新たな補償金制度創設に係る提言がなされ、クリエイターへの適切な対価還元とクラウドサービスなどに係る円滑なライセンシング体制の構築が現在話し合われている。

 ユーザーは自由かつ安価にコンテンツを利用したい。インターネットなどの利便性とクリエイションサイクルの保持、この利害対立をどう解決するかが、今後の課題であると述べた。

 講義課題として、「補償金制度に関する問題解決を含め、ユーザーとクリエイターの間のコンフリクトを今後どのように解決したらいいか」を挙げた。受講生からは、現代に合わせた録音録画補償金制度の範囲拡大やユーザーへの周知の必要性などの意見が挙がった。

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