※講演の内容に関しては、主な内容の抜粋となっております。また、用語に関しては担当者が適宜注釈を付けていることがあります。

第8回 講義概要

講師紹介

鵜之澤 伸氏(株式会社バンダイナムコゲームス代表取締役副社長)

1957年9月 東京都出身

1981年3月 早稲田大学商学部卒

1981年4月 株式会社バンダイ入社⇒ホビー事業部に配属 「ガンプラ」 の営業、営業企画を担当

1983年10月 株式会社バンダイフロンティア事業部(ビデオソフト) ⇒数々の映画、TV番組のプロデュースを手がける

1992年4月 バンダイビジュアル株式会社 取締役

1995年4月 株式会社バンダイ・デジタル・エンタティンメント 取締役

1998年1月 株式会社バンダイ デジタルエンジンプロジェクト 部長

1999年4月 株式会社バンダイ ビデオゲーム事業部 部長

2001年4月 株式会社バンダイ 執行役員 ビデオゲーム事業部 ゼネラルマネジャー

2002年6月 株式会社バンダイ 取締役

2004年4月 株式会社バンダイ 常務取締役 ゲームソフトグループリーダー 兼 ビデオゲームカンパニープレジデント

2006年4月 株式会社バンダイナムコゲームス 代表取締役社長 兼 コンテンツ制作本部長  現在に至る

主なプロディース作品:「機動警察パトレイバー」 (OVA,TV,劇場アニメ)、 「ジャイアントロボ THE ANIMATION」 (OVA)、 「.hack//」 (TVアニメ)

講義:「ゲームソフトの開発と世界市場」

1.家庭用ゲーム事業のビジネスモデル

私達バンダイナムコゲームスは、主にパッケージビジネスと呼ばれる家庭用ゲームソフトの企画、製作、販売を行っています。製作の開発コストには人件費や機材費、ライセンス料などが含まれ、1枚6,800円の販売される製品に対し2,500円の利益を得ます。1ヶ月分の人件費はおよそ70万〜150万円程度で、50人で1つのソフトを作るとすると1ヶ月3500万円、1年で4億2千万円の人件費がかかります。ライセンス料とは映画や番組、漫画、小説などの原作を使ってゲームソフトを開発する際にかかる費用です。その他、車や飛行機、銃などにも細かいライセンス料が生じ、許諾を得なければゲームの開発や発売ができません。しかし一方でそれがプロモーション的な効果を生むためライセンス使用料に多額の費用をかけるメーカーもあります。ビデオゲームビジネスは、開発したソフトを売るビジネスです。売り上げが開発コストを上回れば利益率は高くなりますが、作って売ってみなければわからないビジネスです。売れたときにはリターンが多い、ハイリスク・ハイリターンの典型的なモデルだと言えるでしょう。ゲームソフトの開発者はしばしば「クリエイター」や「アーティスト」と呼ばれますが、ミュージシャンや小説家、映画監督や役者と違ってゲーム開発者はメーカーから月給という形で収入を得ています。出来上がった製品に対して評価されることなく、売れる、売れないに関わらず給料を支払われるという意味では、ゲーム開発者は本来の「クリエイター」とは言えないのではないかと思います。

2.国内市場分析

エンタテインメントコンテンツの分野別で見ると、ゲームソフトは映像や書籍系に比べ規模が小さく、年間3500億円程度の産業規模です。1972年頃から始まったゲーム産業は、ほぼ5年周期で大きなハードの変化を迎えてきました。まさに今はその変化の時期にあたり、PSP、ニンテンドーDS、PS3、Wiiなど様々なゲーム機器が登場しています。またネットワークにつないでゲームをするというゲームそのものの遊び方や機能が変わってきています。現在国内の家庭用ゲームメーカーの販売シェアは80%以上を大手企業が占めます。以前はガレージメーカーのような小さな会社にもチャンスがありましたが、開発費が上がるにつれて大きな会社でしか製作できないようになりました。国内のソフト市場は1997年に6000億円でピークを迎えた後は右肩下がりの状態が続いています。最も売り上げが低かった年はピークのおよそ半分にまで減少しました。しかし最近はニンテンドーDSが今までゲームをしなかった女性層や子供達、50歳代や60歳代にまでマーケットを広げており、ハード、ソフトともに国内のゲーム市場では任天堂の快進撃が見られます。

3.世界市場の動向

ゲームとアニメは日本発の世界に通用する文化だと言われます。しかしゲームに関してはこの10年間で大きく変化しました。ファミコン、スーパーファミコンの時代は世界で売れているゲームの60%以上を日本製のゲームが占めていましたが、現在は10数%に留まっています。世界市場ではワールドワイドでマスマーケティングができる会社が大きくなって、日本のメーカーが世界で通用しなくなってきています。アメリカは1兆3000億円の市場規模を持ち、映画のキャラクターを使ったゲームやスポーツゲーム、過激で暴力的なゲームなどが人気です。2005年度のソフトの売り上げでは上位に日本のゲームメーカーが数社入りました。一方ヨーロッパでは格闘技やバイクゲームが人気傾向にあり、海外のメーカーが非常に強く日本のメーカーの入る余地はあまりありません。ヨーロッパ版は各言語に対応したソフトを作らなければならないため日本やアメリカに半年遅れての発売になります。2兆6800億円という世界市場と比較すると日本国内の3500億円という規模はやはり小さく、世界の約6分の1です。今後は海外市場も視野に入れていかなければと考えています。

4.ネットワークゲーム

月々1500円程度の会費を払ってゲームをするシステムをオンラインゲームと言います。韓国のゲーム会社は基本的に無料でゲームをダウンロードできるシステムを始めました。また「コピー天国」と言われる中国でも、オンラインゲームはサーバーにアクセスするためのIDやパスワードを発行するシステムですので、ソフトだけをコピーされても問題はありません。中国政府の認可をとらなければ日本企業は中国でゲームを販売できないため今のところ手を出しあぐねていますが、今後ビジネスの可能性が非常に大きい市場と言えるでしょう。最近のPC系のオンラインゲームの流れは、新しい市場とゲームスタイルとして注目されています。

5.今後の戦略

3DやDVD、ハイビジョン対応などゲーム機も日々進化しています。私達はこの流れから脱落することなくさらなる新たなチャレンジをしていきたいと考えています。「ゲームソフトはパッケージで6800円」というこれまでのビジネスモデルを変え、大胆な発想にたち、今までターゲットとされていなかった女性や子供も一緒にできるようなソフトの開発を目指します。また今後の戦略の中ではネットワークゲームは避けて通れません。ネット上のトラブルや、投資先行型のビジネスであること、コピーや中古品の問題など様々なリスクがありますが、パソコンのオンラインを活用して試作版をプレイしてもらい、反響のいいものを製品化するといったことも可能になるかもしれません。今後もさらにゲームの遊び方やビジネスモデルが変化していくのではないかと思います。

関連情報

デジタルコンテンツ白書2006』財団法人 デジタルコンテンツ協会

  

JASRAC寄附講座「コンテンツ産業論」(Home)