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 第11回NHK講座は、報道番組「Biz・スポ」のキャスターを務める、NHK報道局の飯田香織さんを講師に迎えて、飯田さんの経済記者としての経験を中心に「経済取材の醍醐味」と題してお話を伺った。

 NHK入局後、飯田さんが最初に配属されたのは京都放送局ということで、京都にはご縁が深い。18年前に大学コンソーシアム京都が出来たときなど、何度か立命館大学にも取材に来たことがあるそうだ。飯田さんが入局したての新人だったとき、まず与えられた仕事は、事件・事故の取材をする「サツまわり」だった。当時22歳だった飯田さんは、「こんな仕事をするためにNHKにはいったんじゃない!」と思ったそうだが、この「サツまわり」こそが、政治・経済・国際ニュースの全ての取材の基本なのだという。飯田さんはワシントン支局時代、さまざまな国際舞台での取材を担当したが、ホワイトハウスでの取材も基本も「サツまわり」なのだそうだ。

 「サツまわり」の担当となってすぐ、火事現場に向かったが、初めての火事の取材では、「最初の質問が違う!」と消防士に叱られてしまったそうだ。まずは「火元はどこか?」を聞くのが、最初の質問なのだと教えてもらったという。「サツまわり」で、警察・消防の人たちとの間合いの取り方、人間関係の作り方などを学び、それがその後の取材に生かされていったという。京都時代は、ライバルに「特ダネ」を抜かれてしまったりしたこともあったそうだが、「サツまわり」で色々勉強できたことが大きな収穫となった。

 京都から東京に赴任して、報道局経済部の記者となった飯田さんは、その後経済畑を突き進むこととなった。経済取材とは、まず民間企業では、メーカーや小売などの企業活動、雇用や賃金、M&A、そして企業の節電計画などの電力需給のニュースなどを該当する。そして公的部門では、財政・税制政策、金融政策、農業政策、エネルギー政策などから、地球温暖化問題、資源外交などが含まれる。

 飯田さんは、経済番組のキャスターとして、日本は「これから何で食っていくのか?」を日々考えているという。「食っていく」という表現に、「NHKらしくない」とか「もっと上品な言い方はできないのか」などと言われたこともあるそうだが、飯田さんはこの言い方にこだわっている。なぜなら、「食べていけるか?」と言うような、生易しい言い方で扱える様な問題ではないからだ。飯田さんが最も懸念しているのは、まず、日本はどう外貨を稼ぐのか?ということ。日本はいま、エネルギー、資源、食料を年間で25~30兆円も輸入している。それに見合う外貨収入をどうやったら稼いでいけるのだろうか?そして、もう一つは、日本はどう雇用を生み出すのか?5月現在の失業率は、4.7%でなかなか改善しないのが現状だ。それをどう打開していったらいいか、日々考えているという。

 日本は、飯田さんが生まれた前年、1968年に西ドイツを抜いて、世界第2位の経済大国となった。メディアはその国の国力に応じて、それ相応の対応をしてもらえると飯田さんは指摘する。日本が第2位の経済規模だったから、アメリカの大統領や閣僚なども、日本でのインパクトを考慮して、取材に応じてきたそうだ。去年ついに中国に抜かれて第3位になったが、バブル崩壊以降、日本の国力が減速するにつけ、海外取材のインタビューは申し込んでも、昔のようにはアポが取れなくなってきているという。

 飯田さんは、ポスト311後も、日本の厳しい経済状況は続くと見ている。日本の企業はもともと円高、高い法人税率、CO2の25%削減目標、FTA(経済連携協定)戦略の欠如という“四重苦”に見舞われていた。その上に、東日本大震災後には、電力供給に対する不安が加わって、更なる産業の空洞化が進むのではと懸念している。これをどう阻止するかは、経済ニュースでも重要なテーマだという。

 韓国、台湾、アメリカは、それぞれ大きな政治的決断をして、経済の建て直しに向けて動き出している。一方、日本は変えていかなくてはならない課題が山積しているにも関わらず、なかなか前に進んで行かない状況が続いている。飯田さんは、「日本はなんで食っていくのか」を日々考えながら、私たち視聴者に経済ニュースを伝え続けている。

 これから社会に出て行く受講生たちには、アメリカの若者たちが、オバマ大統領の誕生に大きく貢献してアメリカを変えていったように、このままでは駄目だと危機感をもって、自分たちの世代が政治を変えていくんだという気概を持って欲しいという。まずは、選挙に行って投票すること。そして、巨額な財政赤字に対して、自分たちの世代にツケをまわすな、と声を大にして言っていって欲しいと述べた。そして、是非、若い人たちには海外に出て様々な経験をした上で、日本に戻っていろんな形で貢献してほしいと、期待も示していた。


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飯田 香織(いいだ かおり)
報道局記者 

 1992年京都放送局入局。サツまわり(事件事故の取材)や医療取材を経て、1996年、報道局経済部記者となる。2004年ワシントン支局記者として渡米。2008年から再び経済局記者として活動し、現在に至る。今までの主な仕事は「クローズアップ現代 父を母を失って~震災孤児500人は今」「クローズアップ現代 原子力ルネサンス」「NHKスペシャル アメリカ発 金融危機」など。2010年からは「Bizスポ」のキャスターも務めている。
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映像学部1回生
石坂香苗さん

 きょうはいつものNHK講座とは違った感じで、経済のことを色々と教えていただいてよかった。飯田さんのお話で印象的だったのは、メディアの扱いが国の力にすごく関係しているということだ。私も、世界に出て行って仕事をすることに興味があるので、飯田さんのようなお仕事に憧れる。飯田さんの体験談を聞いて、とても感化された。

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産業社会学部2回生
山内宏記さん

 取材やインタビューの話など、今日初めて知ったことが多く、驚かされることも多かった。飯田さんは、インタビューのときに紙を持たすに臨むなど、いろいろ細かいところで工夫していて感心した。
 「Biz・スポ」はテレビで見ているので、生で話を聞くことが出来て、飯田さんを身近に感じることが出来た。きょうの講義を受けたことで、今後ニュースを見るときは、インタビューされる側だけでなく、する側の視点も気になるなど、ニュースの見方が変わりそうだ。


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