subtitle

 第12回NHK講座は、NHKらしくないコント番組として評判の「サラリーマンNEO」の生みの親、吉田照幸制作局専任ディレクターを講師に迎えて、「NHKの常識をぶち壊せ!~NHKのエンターテイメント戦略~」と題してお話を伺った。

 元々は報道志望だったという吉田さんだが、同期たちが華やかな仕事をしているのを尻目に、本当に自分がやりたい仕事が見つからない悶々とした日々を送っていたという。転機は、アルゼンチンで開催された「NHKのど自慢」に出演した、日系移民たちを描いた硬派のドキュメンタリーを制作したときに訪れた。これは吉田さんが初めて自分がやりたいと手を上げて作った番組だった。

 この番組で番組制作の面白さを発見した吉田さんは、新設された番組開発部に配属された。そこでは新しい番組の提案が通らないと何の仕事もない。吉田さんは自分が面白いと思ったことを番組にしようとしたが、なかなか提案が通らなかった。そこで、ある日発想の転換をして、みんながどんな番組を見たいのか友人たちに聞いてみた。すると多くの人々がお笑い番組、しかもシュールな笑いを見たがっていることが分かった。これが「サラリーマンNEO」へと繋がっていく。自分がいくら面白いと思ってもニーズがなければ価値がないことに、吉田さんは気づいたのだ。

 そしてアイディアを形にするには戦略が必要だという。民放と同じお笑いをNHKが作ったら非難される。そこで、民放ではお笑い芸人がやるところを、NHKでは差別化して役者でやろうと考えた。提案はいくら思い入れが強くても通るものではない。相手を説得させるには、相手が納得できる拠り所を用意してあげることが肝心なのだという。コント番組もサラリーマンのコントなら、お堅いNHKの上層部たちからOKが出るのではと吉田さんは考えたのだ。

 一方でアイディアを作り出す極意としては、吉田さんは「アイディアは作るものではなく、既にあるものを結び付ける事」で生まれるという。例えば「サラリーマンNEO」の「セクスィー部長」は、いきなり思い浮かんだものではないという。何か面白い部長のコントはできないか、ずっと考えながら頭の片隅に残しておいたところ、誰かの何気ないおしゃべりがきっかけで「セクスィー」と「部長」の二つの言葉がいきなりスパークしたのだという。

 そして新しいアイディアは、自分を強制的に異分子のなかに押し込むことで生まれるそうだ。いつも同じ行動をしていたら、同じような発想しか生まれない。例えば皆が読んでいるベストセラーを読んでも、自分独自の何かを生み出すことは難しい。本屋でいつも覗かないコーナーに行って本を探してみたり、誰も見ないようなDVDを見たりして、強制的に自分を別のところに置いてみることで、新しい何かが生まれてくるという。

 また、相手に何かを伝えるのには「演出」が必要だと吉田さんは言う。例えば、「サラリーマン体操」では出演者はスーツを着て体操しているが、革靴でやると全く面白くないが、白い運動靴にしたら断然面白くなった。ここまで細部にこだわったことで初めて面白さが伝わるのだという。また、吉田さんは番組のHPに寄せられた視聴者からのメール140通をプリントアウトして、上司に持参したことがある。あえて140通も持っていったのは、レジメにまとめてしまったら情報になってしまい、個々のメールにこめられた気持ちが伝わらないからなのだ。

 吉田さんが最も影響を受けた本は、D.カーネギーの『人を動かす』だという。この本を読んでからは、人に何かをやってもらいたいときは、その人に必ず選択肢を与えて、自分で選んでもらうようにしているそうだ。人は他人から言われたことをやるのは苦痛だが、自分で決めたことは一生懸命やるからだ。

 そして、すごい人がいたら自我から離れて徹底的に学ぶことを吉田さんは信条としている。この考え方を身に着けてから、吉田さんのディレクター人生が好転していったそうだ。自我から離れるのは難しい。しかし、あの王貞治監督やイチロー選手が毎年打ち方のフォームを変えていったように、自分を変えられる人こそが自分の道を究めることが出来るのだという。

 面白いことを考え続けるのはつらい。吉田さんは、「サラリーマンNEO」はシーズン4でやめようと思ったという。しかし、「天才とは、情熱を持ち続けられる人」という宮崎駿監督の言葉を聞いて奮起し、シーズン5、6と続けられたそうだ。それがこの番組の劇場版(11月3日公開予定)へと繋がっていった。自分の作った番組を喜んで見てもらえることほど嬉しいことはないという。同じような感動を、今日の受講生にも是非味わってもらいたいと結んだ。


pic2

吉田 照幸(よしだ てるゆき)
制作局専任ディレクター

 平成5年に入局。東京・番組制作局エンターテイメント番組部に所属。平成8年広島局制作を経て、平成12年より東京・番組制作局エンターテイメント番組部。以後、番組開発部からエンターテイメント番組部。『サラリーマンNEO(企画からシーズン6まですべての演出)』『にんげんドキュメント~そこに歌があった』などを手がける。『サラリーマンNEO』は第35回、第36回国際エミー賞コメディ部門ノミネート。


stu1

産業社会学部1回生
安里 咲記さん

  とても面白かった。番組制作の話だけでなく、人と人との関わりとして大切なことや、人の上に立つ場合はどうするかなど、就活にも役に立つお話を聞けて凄くよかったです。特に「人を動かす」という話のときに、相手に選択肢を与えることで、相手のやる気が出てくるというのは、自分では考えもつかないことだった。
 また、新しいアイディアを得るには、自分が普段思いつかないようなことを取り入れるということは、これからすぐにやっていこうと思った。

stu2

映像学部2回生
松本 昇太さん

  今までの講師に、バラエティ番組を作る人がいなかったので、今日の話はすごく面白かった。サラリーマンNEOを見たことある人と聞かれた時、あまり手が挙がってなかったが、みんな番組のことは知っていると思う。
 今日の話では、発想法など、僕たちが明日からすぐに出来ることを話してくれたのでとても有益だった。特に印象に残ったのは、世間の人はアマゾンで売れてる本を読むけど、売れてる本を読んでも共有以上のものは生まれない。もし皆と違うものを作りたいならば、そういうんじゃないものを半強制的に選んでいかなきゃいけないという話だ。講義のテーマが"常識をぶち壊せ"だったので、それにとても合った話が聞けた。

このホームページに含まれるいかなる内容も無断で複製・転載を禁じます。
home