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第13回 Eテレと福祉番組

 

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第13回 「バリバラ」とは「バリアフリー・バラエティ」の略である。「バリアフリー」と「バラエティ」という一見相反するような二つの要素を取り入れたこの番組には一体どのような想いが詰まっているのだろうか?そしてそこにある狙いとは何なのだろうか?今回はその「バリバラ」を手掛ける日比野和雅さんの講義の様子をお伝えする。

 

<概要>
 まず日比野さんは学生たちに障害者を取り扱った番組について尋ねた。見たことはあるか。それを見てどう感じたか。学生の多くは障害者に対して「かわいそう」、「生活が大変そう」といったマイナスなイメージを持っているようだった。

 

 そして次に、バリバラの中で放送された、障害を持ったお笑い芸人をVTRで紹介した。脳性マヒを持つ「脳性マヒブラザーズ」と脊髄性筋萎縮症を持つ「あそどっぐ」である。彼らは自らの障害をネタとして観客を笑わせるのである。VTRのあと、「このネタを見て笑えた?」と日比野さんが学生に聞いてみると、「見るのがつらかった」「話が重く感じた」などといった感想が多く、多くの学生が普通には笑えなかったようである。一方で「普通に面白かった」「本人たちは笑わそうとしているのだから、面白かったら笑えばいいと思う」といった意見も少数ながら聞かれた。


 では、なぜ多くの人が素直に笑えなかったのだろうか。それは我々の多くが「障害者=かわいそう、大変そう」とうイメージを無意識のうちに持っているからだと日比野さんは言う。「障害者とお笑い」と聞くとかなりタブーな内容に思えるがそうではない。「障害者を笑う(laugh at)」ではなく「障害者と笑う(laugh “with”)」のだ。こうして、我々が障害者に対して持つイメージを根本から変えようと試みているのである。

 

 次に取り上げたのは、「障害者と性」についてだった。この話題に関しては今までそもそも取り上げられることすら無かったのではないだろうか。しかし、障害を持つ人にも健常者と同じように性欲もあるし恋愛もする。性に関する情報はすでに世の中にあふれ、健常者であれば成り立たないようなこのトピックも、障害者からという視点はこれまで見過ごされがちであったのかもしれない。VTRでは恋愛において辛い経験をしたことのある脳性マヒの男性が紹介された。「障害者は性の対象に見られない」「見た目で性の対象から外れてしまう」などという当事者の想いが語られた。


 「そうか、障害者だって健常者と同じように恋愛するのか。」とふと思ってしまったが、実はそれがこの番組の到達点ではないのだ。この後、VTRの中で司会が先ほどの脳性マヒの男性にこう質問する。「じゃああなたは自分より重度の障害者とSEXできますか?」と。男性は答える「それは対象になる人とならない人がいると思う」。あれっ?常識って何だろう。視聴者に考えてほしいのは模範解答のある問題ではない。答えがない問いに対して自分自身で考え、他人事ではなく自分のこととしてとらえてほしい。そうした想いがこの番組には詰まっており、そのための仕掛けがなされているのである。

 

 そして最後に、バラエティにおける「多様性(Diversity)」についてお話しされた。障害の有無に関わらず、人には違いがある。得意・不得意・長所・短所など、他人との違いを挙げればキリがないほどだ。大事なのは、そうした「多様性」をどれだけ認め合うことができるか、その「多様性」を共有できる社会となるかだと日比野さんは言う。そしてそれは障害者だけに当てはまるわけではなく、様々なマイノリティに対しても言えることなのだ。今までのドキュメンタリー番組では、主人公が何らかの障害を持ち、生きる希望を失うほどにまで落ち込み、しかしあるきっかけ(結婚や家族など)をもとに立ち直り、前向きに生きていくという王道の流れがあった。そして、そうした番組を観た視聴者の多くは「観て勇気をもらった、感動した」「自分も頑張ろうと思った」という感想を持つ。しかしそれは障害者に対する本当の「理解」と言えるのだろうか。彼らは感動をもたらす道具ではないと日比野さんは断言する。理解とは、他人事ではなくいかに自分のこととして考えられるかということであり、違いを認め合うことなくして本当の理解は成し得ないのだ。

 

<感想>


 私自身、この講義を通して障害者に対する意識を根本から覆された一人となった気がする。VTRで脳性マヒブラザーズのコントを見たとき、私は普段観るお笑い番組のときとは違う構えをしていたことに気付いた。面白いなら笑う、面白くないなら笑わないという基準ではなく、「彼らは障害を持っているけど、一生懸命がんばっているんだ」と最初は考えてしまった。しかし、これは彼らに対する何の理解にもなっていないことを知った。障害を持っていようがいまいが、彼らは人々を楽しませよう、笑わせようとする「お笑い芸人」なのである。だから私たちは、普通のお笑い芸人を見る目を持てばいいのだ。


 障害を持っている方は、日常生活において何等かの不便があることは事実であるかもしれない。しかし私たちは、その不便さにぶつかったときに手を差し伸べればいいのではないだろうか。その人が“車いすに乗っているから”助けてあげるのではない。その人が“困っているから”助けてあげるのである。このように考えることができれば、障害の有無は関係ないのかもしれない。最初から「助けてあげよう」と考えてしまう根底には「障害者=かわいそう、大変そう」というイメージがどこかにあるからだ。そうしたイメージをいかに排除できるか。「バリバラ」がその手助けとなることを私は確信した。

 

記者 立命館大学国際関係学部 中田紗綾

 
 
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