NHK講座十三回
NHK講師草場 武彦先生 講義サマリー

  第13回NHK講座は、「日本と世界のかけ橋~NHKの国際報道協力~」をテーマに、NHK報道局国際報道プロジェクト記者の草場武彦さんを講師にお迎えし、お話を伺った。 いま、世界はどのような時代を迎えているのか。日本は、世界に向けてどのように存在をアピールしていけるのか。国際報道記者としての経験をもとに、世界の動きとNHKの国際報道協力の取り組みについて語っていただいた。

  草場さんは1987年に入局し、初任地の神戸局にて主に兵庫県内の事件・事故を中心に取材してきた。1992年からは東京地検特捜部を担当し、東京佐川急便事件・ゼネコン汚職などを担当する。アメリカの大学院に留学したのち、NHK情報ネットワークに出向。衛星回線のコーディネート業務を担当し、1998年からロンドンを拠点に欧州全域で取材を行う。2001年にNHK報道局の記者になり、現在に至っている。

  そもそも、記者と呼ばれる人たちは一体何をしているのだろうか。神戸局時代のVTRの中で、20年前の草場さんは「本当の事実を知りたい」と語る。ターゲットの帰宅を待つ「夜討ち」。朝、出かけるところを待ち伏せする「朝駆け」。事実は情報を握る者への地道な接触によって得られる。記者といえばリポートをし、マイクを突き付けている姿が印象に残っているかもしれないが、実はその裏で事実を追い求め、地道に取材を重ねているのが記者の一面だという。

  では、国際ニュースの記者は何をしているのか。基本的には国内と同様、事実を追い求め、いま起きていることを伝えるのが仕事だ。NHKは海外に30の支局をもつ。担当者が1人の支局もある。たったそれだけの支局で、どのように全世界の出来事をカバーするのか。そのカギは、通信社との協力がある。世界の情報を集める通信社としてはロイター、APが有名だ。これらの通信社を通して情報を集める。さらに、NHKは世界の60以上の放送局と提携しており、常に映像や情報を交換しながら報道している。NHKのBSでは世界の主要ニュースを日本語に翻訳して流しているため、日本にいながら世界中の出来事を知ることができる。

  国際ニュースを伝える難しさについても草場さんは語る。少ない人数で世界中をカバーしていることよりも大変なのが、日本の視聴者に理解されるように伝えることだ。言葉も文化背景も異なる海外の出来事を報道するとき、事実だけでは伝わらない。視聴者に理解してもらえるよう、分析や解説を加えなければならない。どうやったら伝わるのか。苦悩は尽きない。
「書くたびにもっと勉強しておけばよかったと感じる」
「毎日悩みながら書いていた」
たった1分50秒のニュース原稿にも、2晩徹夜して書くほどの苦心がある。

  さて、世界はいまどんな時代を迎えているのだろうか。「9・11が世界を変えた」と草場さんは当時の状況について語る。ソ連が崩壊し、超大国となったアメリカ。ミレニアムに湧き上がり、21世紀もアメリカの時代と思われた矢先に起こったテロ事件である。いまのアメリカを語るうえで、9・11は避けて通れない。2001年9月11日、現地時間で朝8時46分。日本は夜9時46分。NHKでは夜10時からのニュースで、世界貿易センタービルに2機目の航空機が突入する様子を生中継した。このテロ事件が、アメリカに大きな衝撃と混乱をもたらした。草場さんのアメリカ人の友人は、「自分の子供が生まれた日とこの瞬間は、自分にとって一生忘れられない」と語ったという。多くのアメリカ人にショックをもたらしたこの事件によって、アメリカは「戦いの時代」に入る。アフガン・イラク戦争、テロリストとの戦い。アメリカ人の愛国心は、戦争へと向けられていく。

  イラク戦争をめぐる報道は放送局によって異なった。アメリカのテレビ局であるFOXニュースはジャーナリストが米軍に同行する映像を流すことで、アメリカの存在をアピールした。一方、世界中に影響力を持つ中東の放送局アルジャジーラは、バグダッドで亡くなった市民・子供たちや病院の様子を中心に流した。では、NHKの報道はどうだったのか。NHKは、FOXやアルジャジーラなど、世界各地の放送局から映像の提供を受け、これを流した。NHKのイラク報道には、批判もあったという。批判の声には「戦争に賛成なのか」というものと「アルジャジーラ寄りなのか」というものが半々の割合であった。中立を保つというジャーナリストとしての使命のもと、NHKも苦しみながら報道した。

  世界のニュースを見るにあたって独裁政権への考え方も重要だ。イラクのように、独裁政権を倒すことによってアルカイダというテロリストが入ってくるなど、かえって状況が悪化することもある。独裁政権を倒すことが、いいのか悪いのか。難しい課題であるといえる。

 世界のニュースを日本に伝えるだけでなく、日本を世界に発信することも重要だ。NHKは「NHKワールド」という名で24時間、世界に向けた英語ニュースチャンネルを発信している。世界への発信に力を入れているのもNHKの特徴だ。

  3・11は日本人にとって重要な出来事であった。NHKはこの3・11を世界に正しく届けるため、世界中のテレビ局に訴えた。原発一色となった世界の報道に対し、「この震災の状況をちゃんと伝えてくれ」「多くの人が亡くなっているという事実を伝えてほしい」と。また、5月にはNHKスペシャル「巨大津波」を放送し、世界中のテレビ局に英語版を放送するよう要求した。その結果、この番組は世界各国、合わせて60のテレビ局で放送された。

  このようなNHKの報道に対する姿勢と努力が、世界からの信頼の源になっている。NHKは報道を通じて、「日本の姿を見てほしい」というメッセージを送り続けている。

  草場さんが講義を通じて伝えたいことは3つある。1つ目は、国際ニュースをつくる苦労を知り、世界のニュースに関心を持ってほしいということ。2つ目は、アメリカが同時多発テロによって漂流し始めている、世界はそういった不安定な時代であるということ。そして3つ目は、自分たちの国の情報を発信することもジャーナリストの大切な仕事だということ。草場さんは力強い言葉で、世界にかける想い、そして、日本にかける想いを語った。

講師:草場 武彦先生
1987年入局。朝日新聞阪神支局襲撃事件、東京佐川急便事件などを取材。1995年にアメリカの大学院に留学し、翌年から海外各地で衛星事業部チーフプロデューサー→欧州総局記者として活躍する。ペルー大使公邸人質事件、ユーゴスラビア空爆など現地で取材を重ねた。

ピックアップ動画

第13回講座動画

草場 武彦先生





草場 武彦先生

D-PLUSレポート

  今回、国際報道がテーマということで、どこか国内の報道とは違うような意識で聴講していた。しかし、記者が地道に事実を追い求めるという点に違いはなく、伝えたいという想いにも変わりはなかった。日々当たり前のように流れてくる世界のニュースは、世界を舞台にして協力し、情報交換のために駆け回る記者の方々の苦労のもとに享受できている。普段はあまり世界で起きていることへの意識が十分でなかったかもしれないが、今回の講義で少し世界の動きに敏感になれそうな気がした。世界を身近に感じながら国際ニュースを観ていけるよう、努力していきたい。(山谷美智留)

受講生インタビュー

映像学部 1回生

映像学部 1回生 
矢ヶ部 諭さん

  映像関係の企業に就職したいと思っており、NHKの方の生の声が聴けることが将来の自分のためになるのではないかと思っています。国際関係の政治や戦争についての話が多かったのですが、独裁国家に対する制裁の話等からも日本人である自分は平和ボケしているのかなと感じました。

映像学部 1回生

映像学部 1回生
宮原 優介さん

  今回の講義では、報道の力・テレビの力を感じました。最近では、インターネットが普及しテレビの力は弱まりつつあるのかなと感じていたのですが、ベルリンの壁の崩壊のきっかけが衛星放送だという話を聞いて、もともと持っているテレビの力は大きなものだと思いました。

 

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