NHK講座第十五回
NHK講師塚田 祐之先生 講義サマリー

  最終回を迎えたNHK講座第15講は、30年間ディレクターとして報道現場の最前線で活躍され、現在NHK専務理事を務めている塚田祐之さんを講師にお迎えした。「豊かで安心、たしかな未来へ〜完全デジタル時代の公共放送〜」をテーマに、NHK講座を総括していただいた。

  NHKでは今年、3か年の新しい経営計画をスタートさせ、4つの重点目標を立てた。1つ目は「公共」だ。公共放送の原点は、人々の安全・安心を守るということだ。NHKでは人々の安全・安心を守る放送のために様々な取り組みを行ってきた。どのような状況でも視聴者に情報を届ける報道をするため、例えば昨年の東日本大震災では、全国に460台あるロボットカメラの活用や空港が使える時間はカメラマンが常駐するヘリコプターでの取材に加え、大災害時の特別措置としてインターネットを通じたストリーミング配信でテレビ放送を提供した。また、放送のみならず、Googleと提携した安否情報検索システムの提供や、避難所へのテレビ・ラジオの設置など、どんな時も人々に寄り添う放送を心がけてきた。しかし、反省も多い。たとえば大津波警報に関するアナウンスが、視聴者にパニックを起こさないよう「呼びかけ調」であったため、緊急性が伝わらず被災者を最小限にとどめることが出来なかったのではないか、などである。今回の災害での課題を洗い出し、「どんな時も何らかの手段で必要な情報を視聴者に届ける!」をテーマに放送機能の強化を進めている。これまでよりさらに視聴者に寄り添う放送のため、人と技術の双方から息の長い取り組みを続けていくことが公共放送の役目だ。

  2つ目は「信頼」だ。NHKでは、世界に通用する質の高い番組や、日本、そして地域の発展につながる放送・サービスを充実させ、視聴者の信頼獲得を目指している。NHKはスポンサー収入ではなく受信料収入に支えられているので、1つの番組にじっくり時間をかけ、質の高い番組を制作する環境が整っている。こうした番組を東京の本部と全国53箇所にあるNHK放送局から発信しており、それぞれの地域に根ざした放送をすると同時に、全国や世界に向けて発信している。国際放送では電波による放送に限らず、インターネットなどの通信を活用し、少しでも多くの人々に情報を伝えることができるように日々取り組みを続けている。世界から日本の信頼を獲得していくのも公共放送の役割だ。

  昨年度地上と衛星のアナログ放送の歴史が幕を閉じ、いよいよ完全デジタル化を迎えた。こうしたテレビ新時代を迎え、NHKでは3つ目のポイント「創造・未来」をテーマに、放送と通信の融合時代にふさわしい、様々な伝送路を利用した新たなサービスの充実を目指している。現在、NHKオンデマンドによるインターネット上での番組配信や、スマートフォン向けアプリなどの提供によって、電波による放送だけではなく新しいサービスの形作りに取り組んでいる。NHKでは数年後、新しい放送通信連携システム「Hybrid Cast」の導入を目指して開発に取り組んでいる。この「Hybrid Cast」は、放送局が放送している番組と、インターネットによる通信データとを連動させて利用することが出来るシステムだ。これにより番組を今まで以上に豊かに視聴出来るそうだ。例えば、スポーツ中継放送を見ながら、各選手やチームのデータを通信で配信するなど、これまで以上に観戦を楽しむことが出来る。また、番組内容に関するインターネット検索やSNSも同画面で利用できるため、リアルタイムで試合の感想や展開についてやり取りしたり、気になることをすぐに調べることが出来るなど、人と人を繋げ、より便利により楽しむことが出来る。「Hybrid Cast」はまさに放送と通信の融合と言えるシステムだ。この「Hybrid Cast」以外にも、高齢者や障害者など全ての人が放送を楽しめるように、手話CGや聞き取り易い音声の研究開発など、人に優しい放送の実現をめざしている。

  最後のポイントは「活力・改革」だ。NHKでは今年10月から初めて受信料の値下げを行う。値下げによってNHKの受信料収入は、3年間で1162億円の減収になる。しかし、増収の努力と効率的な経営を行い、公共放送の価値を高め、値下げによって放送の質を落とすことのないよう、より良い放送の提供を目指している。

  これまで多様な職種の方が講義に来てくださった通り、NHKには、ディレクター、カメラマン、研究者、営業職など、約10500人の様々な職員が働いている。塚田さんもディレクターとして30年間報道に携わってきた経験から、放送の最後の砦はやはり「人」だと言う。放送というメディアに関わるNHK職員はどんな職種であっても、人と人の対話的な仕事を基本に、豊かで安心、確かな未来に向けた放送の実現に尽力している。

  放送と通信の融合が進み、テレビの存在は変わりつつある。放送内容の向上はもちろん、テレビという存在にとらわれず、様々な可能性を模索し、テレビを使って何が出来るか、より良いものをどのように提供できるかということを探し続けなければならない。そうした結果、どのような時でも、いかなる状況でも即座にニュースを提供し、確かな情報源として、視聴者の行動の基軸になりたいと塚田さんは述べた。NHKが取り組んでいる仕事は、放送の中身の向上はもちろん、未来の放送に向かって新技術の開発に関する仕事にも携わっている。それを担う一人一人が意識をもってNHKで働いていることを理解して頂きたい、と講義を締めた。

講師:塚田 祐之先生
専務理事。1975年入局後、ディレクターやプロデューサーとして報道局を中心に勤務。「昭和から平成へ」の取材・制作や「皇太子さまご結婚パレード」の統括など、時代の節目となる番組制作を担当した。

ピックアップ動画

第15回講座動画

塚田 祐之先生

塚田 祐之先生

D-PLUSレポート

  これまで15回の講義で、公共放送という特殊な環境で取り組まれている様々な仕事を知ることが出来た。受信料不払いの問題など、世間から公共放送に対して100%の理解が得られているわけではなく、公共放送の必要性に関しても未だ議論されている現実もある。しかし、公共放送でしか出来ないことがある。それをこれまでの講座記事で伝えられていればと思う。これで平成24年度NHK講座の講座記事は最後になります。15回ありがとうございました。
(島田嶺央)

受講生インタビュー

産業社会学部 4回生

産業社会学部 4回生 
井上 健吾さん

  普段は報道する側の人の話を聞くことができないので、貴重なお話を聞けました。今までNHK自体が私たちから受信料ばかりを取っている悪いイメージしかありませんでした。しかし今回の講義のように、受信料を払う意味やNHKがやっている仕事を伝えてくれればちょっとは親近感が持てるかなと思います。このような講義があればあるほど、NHKのイメージはもっと上がっていくのではないでしょうか。

産業社会学部 1回生

産業社会学部 1回生
朝岡 雅葉さん

  今回の講義で、私たちが普段何気なく見ているニュースなどのリアルタイムな映像は、報道関係者の方々の努力やロボットカメラにあるということを新しく知ることができました。

 

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