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 最終回を迎えた第15回NHK講座は、入局36年目、報道制作の現場で30年の経験をお持ちの塚田祐之NHK理事を講師に迎え、「いつでも、どこでも、もっと身近にNHK」と題して、これまでのNHK講座を総括していただいた。
  
  講義では4つのトピックについてお話し下さった。まずは、未曾有の大災害となった東日本大震災をNHKがどのように放送してきたかである。地震発生直後から、大地震に伴う津波被害や福島第一原発の放射能漏れ事故など、NHKは1週間24時間体制で震災報道を放映し続けたという。また、停電でテレビが視聴できないエリアに情報を伝えるため、総合テレビをインターネットのライブストリーミングで流すという特別措置も取られた。(今の放送法では、放送と同時にネットで流すのは認められていない。)そのほかNHKのホームページを使って安否情報を提供するなど、公共放送として視聴者の安心・安全に繋がる情報を局員総出で伝えていったそうだ。

 今回の大災害でNHKが心がけたのは、被災者に寄り添う放送だったという。そして求められる情報を正確に伝えていくことに徹したそうだ。災害対策基本法で指定公共機関になっているNHKは、災害に対応するための訓練を日々実施している。例えば、万一東京で放送が出せなくなっても、速やかに大阪で対応できる体制を敷いているという。

 今回の大震災では、宮城県名取川に押し寄せる津波がNHKのヘリから撮影され、多くの人が津波の被害のすさまじさを目の当たりにした。マスコミでは、NHKだけが直ちにヘリを飛ばすことができたのは、緊急時に備えてNHKが全国12の空港にヘリとカメラマンを常駐させているからだという。NHKが撮影した津波の映像は世界2000局以上のテレビ局で流されたそうだ。

 2つ目のトピックは、7月24日に実施される地上放送の完全デジタル化(地デジ化)の話だ。地デジ化は電波の有効利用を目的に国策として実施されたもので、すでに10年前に法律で2011年7月24日にアナログ放送の終了が決められていた。アナログ放送に使われている電波をデジタル化すると3分の2に圧縮されるので、余った帯域を携帯電話などの通信や新しいサービスに割り当てようということである。

 地デジ化に向けては、テレビ中継局の設置などでNHKでは4000億円、民放では1兆円もの経費がかかったという。放送側のメリットは、デジタルハイビジョンで映像が更に鮮明になったことや、デジタルだとより多くの情報を伝達できるようになったことだ。放送のデジタル化で視聴者は「データ放送」や「電子番組ガイド」をリモコン操作で簡単に利用できるようになった。

 3つ目のトピックは公共放送の課題だ。NHKでは経営2目標として「NHKへの接触者率の向上」と「受信料支払率の向上」を挙げている。1つ目の目標はNHKに触れて使ってもらう人を一人でも多くしていくことで、一週間に5分以上NHKを視聴・利用した人の率について6月調査の76.6%を今年度中に80%にすることを目指しているそうだ。そのため特にNHK離れが指摘される若者層で、放送はもちろんテレビ以外(ワンセグやインターネット経由)での利用を更に増やしていきたいという。

 2つ目の目標は「受信料支払率の向上」だ。平成17年に70%を下回っていた支払率は翌18年から徐々に回復しており、22年度は73.6%と年間目標も上回ったという。受信料の支払いは世界各国の公共放送でも大きな課題となっている。例えば、イギリスではBBCの受信許可料の不払い者には罰則規定を設けている。またドイツではテレビ受信機の有無に関わらず全世帯から受信料を徴収することが義務付けられていたり、韓国では受信料を電気料金と一緒に徴収していて、不払い者は電気を止められてしまうという。NHKでは公共放送の役割への理解を深めてもらうとともに、民事手続きの拡大などの施策を進め受信料支払率の向上を目指していくという。

 最後のトピックは、放送に求められる人材についてだ。塚田さんは希望に反して報道番組に配属されたが、やってみるとどんどん面白くなっていったそうだ。NHKでは色々な立場の意見を多角的に伝え、視聴者に判断材料を提供するというスタンスで伝えているそうだ。放送に求められる人材は、皆が豊かに暮らせる社会を築いていくために、何か新しいことを探して日々取り組むことが出来る人。そして人々が期待していることを、たとえ耳が痛いことでも伝えていける人だという。最後に塚田さんは、新しいことに挑戦したいという受講生たちに、大学生活を有効に使ってがんばっていって欲しいとエールを送ってくれた。

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塚田 祐之(つかだ ひろゆき)
NHK理事

 埼玉県出身。1975年に番組ディレクターとして入局。政治番組のディレクターとして数々の番組制作に携わり、2010年よりNHK理事となる。これまでの仕事に、「日航123便墜落事故」の取材・制作、「昭和から平成へ」の取材・制作、「皇太子さまご結婚パレード」ハイビジョン中継制作、「九州・沖縄サミット」デジタルハイビジョン中継制作などがある。


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産業社会学部1回生
税所柚亮さん

 NHKのことはある程度のことは知っていたが、今回まで15回の講座を受けて、NHKの体制とか、震災のときにどのような対応をとったかなどが、とてもよく分かった。15回の講座を通して、いろいろな話を聞かせていただいて、実に多くのことを学んで、自分自身が成長できたのではと思う。自分の身近なところでも、自分の考えを表現したり、何か行動することが出来るのではないかと思えるようになった。特に印象に残っているのがサラリーマンNEOの講座に来てくれた吉田照幸さんの話だ。吉田さんの生き方に感銘を受けた。挑戦することの大切さをおっしゃっていたが、自分も何事にももっと積極的に取り組んでいけたらいいと思った。

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産業社会学部1回生
大川真希さん

 15回の講義を通して、NHKの色々な方面の方々からお話を聞いたが、どの講師の先生方も、こだわりを持って仕事をされていることが分かった。どの回でも共通して感じたことは、みんなが楽しめる放送を目指してやっているのだということだ。受講する前は、NHKというと真面目ということで番組を見る機会もあまりなかったが、実際見てみたら、楽しいものも多くて、凄くイメージが変わった。15回を通して一番印象に残っているのは、新米ディレクターさんに来ていただいた回の講座だ。若いディレクターさんがNHKでどんな仕事をしているのかが、よく分かったし、若い人でもこだわりを持って仕事をしている職場なのだということが印象的だった。


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