NHK講座第一回
NHK講座講師鎌田靖先生 講義サマリー

  本年度第1回のNHK講座は、NHK京都放送局の井上利丸局長と、NHK解説委員の鎌田靖さんをお迎えした。井上さんからは本講座の開講にあたって「NHK講座から学ぶこと」について、鎌田さんからは、「東日本大震災と災害報道のこれから」に関して、それぞれお話しいただいた。

  鎌田さんはNHK入局後、記者として報道人生活をスタートさせ、神戸放送局時代にはデスクも経験した。近年は、解説委員として、人気番組であった「週刊子どもニュース」のお父さん役を4年間務めるなど、多岐にわたって活躍されている。

  阪神・淡路大震災が発生した1995年1月17日当時、神戸放送局に在籍していたこともあり、鎌田さん自身も、実際に神戸市内で被災を体験した一人だ。2011年3月11日に発生した東日本大震災においては、「NHKスペシャル シリーズ東日本大震災」ではキャスターを務めた。震災発生以降、何度も現地に足を運び、取材活動を重ねている。鎌田さんの口から発せられる言葉の一つ一つは、阪神淡路大震災における自らの被災経験にもとづいた考え方、そして社会・学生に向けたメッセージであり、重みと深みを感じさせていた。

  鎌田さんが3月11日を考えるスタートとなったのは、震災発生日の夜、首都圏で帰宅困難者が大量発生しパニックを起こしている状況の取材からであった。
鎌田さんは、今回の地震に関しては、「経験した状況や環境が人それぞれで異なるし、考え方も違う。自分自身が持つ個人的な体験から3・11を捉える。これで構わないと思う。」と述べた。震災後初めて被災地を訪れたのは、3月22日のことだった。鎌田さん自身は先述の通り、阪神淡路大震災の被災経験者であるが、その当時の被災状況とは規模が異なっていたという。現地に赴き、自らの目で現状を目の当たりにした直後は「言葉にならなかった、表現することができなかった。こんな風に陳腐な表現でしか、現状を伝えることができない自分は表現者だ。」と当時を振り返っていた。

  震災の発生から1年後の3月10日にNHKスペシャル シリーズ東日本大震災 「もっと高いところへ~高台移転 南三陸町の苦闘~」が放送された。この、3月10日という日に放送するということはかなり早い段階で決まっていたようだ。「3月11日は震災で命を落とした人の命日。二度とこのような思いをしたくはない。だからこそ、生きている者、残された者は、この震災から、教訓を見出すことが大事。ひとりでも多くの命に報いるためにもこの日に放送する必要があった。“ひとりでも多くの人に報いる”これが震災1年後の最大のテーマだと思う。」と、放送までのいきさつを述べた。

  鎌田さんは、阪神・淡路大震災と今回の東日本大震災を比較することは避けているという。
  それは、どちらが深刻であるとかいう優劣は被災者に対して失礼なのではないかという考え方からだそうだ。ただ、震災発生から1年が経過した今、自分が報道人として伝えなければならないことは、阪神・淡路大震災発生の1年後に伝えたテーマやメッセージと同じだと思うようになったそうだ。
  「もし次に震災が起こった時に一人でも多くの人を救うためにはどうしたらよいか?」
  これを考えることが、残された人々に託された使命であり、亡くなった命に報いるということだと述べた。つまり、「その死を無駄にしない」こと、1年経って人の死に関わるところにもう一度戻ってくるということが、2つの災害に共通するメッセージということだ。
  鎌田さんは次のようにも述べている。「これから3月11日が近づくにつれて、震災を振り返る報道が増えてくると思います。このことに対して、“3・11や1.17が近づいた時だけ報道するのか”といった意見を頂くこともある。しかし、年月が過ぎるにつれて、震災への関心が次第に薄れ、3月11日が近づいても震災報道がなされない時がやってくるかもしれない。だからこそ、震災が起こった時期だけでも、震災報道を続けることには大きな意味がある。」と。

  また、現在社会問題の一つとなっている無縁社会についても言及された。「3・11以降、“絆”や“人との繋がり”が強調されるようになった。東北はまさに、震災を経て、物理的に関係性の薄れた社会、その無縁社会を先取りしたモデルになってしまった。だからこそ東北が、つながりを再生するコミュニティ形成の試金石となると思います。このことについて考えることが、震災以後の日本社会を考えることにもつながってくると思います。そのためにも、今、私たち報道の人間は、メディアを通して人と人をつなげていくということに全力を注いでいきたい。そして、これからの社会を見つめ、考えていくことはみなさんに託したいと思います。」と述べ、講義を締めくくった。
講師:鎌田 靖先生
大型企画開発センター記者主幹。福岡県出身。NHK入局後、記者として報道人生活をスタートさせ、神戸放送局時代にはデスクも経験した。近年は、解説委員として、人気番組であった「週刊子どもニュース」のお父さん役を4年間務めるなど、多岐にわたって活躍されている。

ピックアップ動画

第1回講座動画

鎌田靖先生

鎌田靖先生

D-PLUSレポート

  17年前のあの日、関西で発生した震災。今でも、1月17日には、被災者を悼む追悼式典が催され、当時を振り返る番組が放送されている意義は非常に大きいと感じた。東日本大震災も17年前の震災と同じように、過去の出来事として風化させてはいけない。震源地は異なるが、日本社会に大きな打撃を与えた出来事として、記憶に残しておくことが重要だ。そして、この出来事について、自らで考え、伝え、次に震災が起こった際に一人でも多くの人の命を救える策を講じることが、亡くなった方への報いであると改めて深く感じた。二つの震災は確かに比較することはできない。どちらにおいても、亡くなった方の命は重い。多大な犠牲を無駄にしないために、自分たちの周りの小さな単位からでも、震災について問い直すことの重要性を教わった講義だった。(D-PLUS山田裕規)

受講生インタビュー
 

産業社会学部 3回生

産業社会学部 3回生 
二階堂航太さん

  実家が被災したので他人事ではないので思い出すことが色々とあった。震災後から変わらないこともまだまだあって、憤りを感じる部分はありますが、今後自分たちの世代が頑張っていかないといけないということを再認識しました。

映像学部 4回生

映像学部 4回生
小笠原ゆめきさん

  震災時、テレビは被災者に関わるドラマチックなことを流していたがそれよりも、IBC放送のように避難所名簿に記載されている人の名前をずっと放映している方がずっと有益でした。ドラマはあるけれども、情報はなかったと思うんです。今日の講義を聞いて改めて思いました。  
 

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