NHK講座第五回
NHK講師藤沢 秀一先生 講義サマリー

  NHKには、放送サービスや放送システム、また放送デバイスの将来像を提案し、これを実現するための研究開発に取り組むNHK放送技術研究所という施設がある。第5回NHK講座は、NHK放送技術研究所長の藤沢秀一さんを講師に迎えて「テレビ新時代 未来をめざして 驚きの最先端メディアテクノロジー」をテーマにお話しを伺った。

  まず初めに、昨年完全導入された地上デジタル放送の開発を中心に技術開発の過程についてお話しいただいた。地上デジタル放送は(東日本大震災の被災3県を除いて)2011年に完全導入されたが、この研究開発は1986年にスタートしており、開発におよそ20年という時間を費やしたそうだ。現在、ハイビジョンやワンセグなど様々な放送技術が実用化されているが、これらを産み出すために多大な労力、時間がかけられている。開発を始める時点では現実味がないような、未来の技術を研究、開発しているそうだ。

  現在、NHK放送技術研究所では、2年後、10年後、20年後を目途に新技術の開発を進めている。まず、2年後に導入予定の技術が「Hybridcast(ハイブリッドキャスト)」だ。現在、放送と通信の融合が大きなテーマになっている。実際に、SmartTVなどによってこれらが進められているのが現状だ。しかし、既存の第一世代SmartTVは、放送と通信の機能を一つのデバイスに入れたに過ぎない。Hybridcastは、第二世代SmartTVとして、真の放送と通信の融合を目指している。

  Hybridcastでは、地上デジタル放送、ネット動画、アプリケーション、Web、それらを一体化したサービスを目指している。そのテーマとして「豊かに」「便利に」「みんなで」「安心・安全」を掲げている。Hybridcastでは、放送の中に通信サービスを取り入れることで、放送単体では出来なかった様々なサービスを視聴者に提供することができる。例えば、番組に様々な言語の字幕をつけるアプリケーションや、番組を観た感想を共有する場の提供、スポーツ番組などで注目選手をタグ付けすることなどが出来るそうだ。これらの技術はHTML5をベースとし、誰でも自由に開発することが出来る。しかし、自由であることで視聴者の安心・安全を損なってはいけない。Hybridcastでは、自由と安心・安全の両立を目指して研究、開発を進めている。

  次に、10年後の実用化を目指して開発が進められているのが「スーパーハイビジョン(SHV)」だ。このSHVは、3300万画素の超高精細映像と22.2chの音響で、あたかもその場にいるような臨場感が得られるそうだ。 現在のフルハイビジョン画質が約200万画素であり 、その差は歴然だ。このSHVでは、近づいても拡大しても画面は綺麗なままで、そのリアルさから現場の空気感を、映像を介して共有できるそうだ。しかし、このSHVでは70インチほどの大画面が必要となる。そこで、実際に70インチのパネルを職員の自宅に設置してみた結果、意外に問題なく視聴することができたそうだ。大画面であることでSHVを最大限に活かした没入感を感じることができ、視聴者のライフスタイルを変えるほどの新しい映像メディアになると藤沢さんは考えている。今年のロンドンオリンピックでは、このSHVを使い、パブリックビューイングを行うそうだ。

  そして20年後には、より自然に見える「空間像再生型立体テレビ」の実用化を目指している。現在、3D映画やゲーム機などで見られる立体映像は、専用のメガネが必要であったり、目の負担が大きかったりする。このインテグラル式立体テレビは、裸眼で見ることができ、目の負担も少なく、どの位置から見ても立体映像が楽しめる。しかし、この技術には、現在のハイビジョン放送の100倍もの情報量が必要となる。実用化までは、まだまだ研究が必要だそうだ。

  NHKでは、これらの最新技術だけでなく、「人にやさしい放送」をテーマに障害者や高齢者向けの技術開発も進めている。例えば、視覚障害者向けに点字などを触ることで情報を伝達することのできる「触角ディスプレイ」、聴覚障害者向けに音声認識による字幕放送や、CGによる手話放送などを開発している。その他にも、外国人や子ども向けに優しい日本語に変換する自動翻訳の技術や、お年寄りにも聞き取りやすいゆっくりとした音声での放送など、すべての人が楽しめる放送作りを技術面からサポートしている。

  テレビ放送60周年を目前に迎え、テレビのあり方、形も大きく変化してきた。現在、テレビ離れが叫ばれているが、こうした技術の発展をきっかけに少しでもテレビ放送に興味を持ってほしい、と講義を締めくくられた。

NHK放送技術研究所公式ツイッター

講師:藤沢 秀一先生
NHK放送技術研究所所長。1980年入局。
東京営業局、放送技術局などを通し、BSデジタル放送、地上デジタル放送の推進に努める。
2012年4月に放送技術研究所所長に就任し、研究マネジメントを行う。

ピックアップ動画

第5回講座動画

藤沢 秀一先生

藤沢 秀一先生

D-PLISレポート

  私たちは、普段テレビの内容ばかりに目が行きがちだ。しかし、そのテレビ放送は様々な技術によって支えられ、また発展してきたことを知ることが出来た講義であった。近年、様々な技術があふれ、世の中は発展してきた。しかし、そうして発展し続けた世の中には、「技術は人を幸せにしているのか?」という疑問が存在している。確かに、技術の発展が、人の幸せに直結しているとは言い難い。しかし、今日の講義から技術の開発は人の幸せを考えることが大前提にあり、そうして生まれたものが良い技術なのだと感じた。今、テレビ技術の進化によって新しいメディアの扉が開かれようとしている。新しいメディアは人々を幸せにするだろうか?その答えが感じられた講義であった。
(島田嶺央)

受講生インタビュー

産業社会学部 2回生

産業社会学部 2回生 
堀 ひとみさん

  テレビ技術がこんなに進んでいるとは思わなかった。技術の開発のためにこれほど長い時間をかけていることも驚きでした。最近テレビ産業が落ちてきているけど、これだけ機能が充実してきたらまだまだ大丈夫だと思う。テレビの未来に期待しています。

佛教大学歴史学部歴史学科 1回

佛教大学歴史学部歴史学科 1回
桐山 紗矢香さん

  乗り物酔いしてしまうのでこれまで3D映像が見れませんでした。今日の講義で紹介していた不快画面検知システムによって見れるようになるのが楽しみです。これまであまりテレビを見ていなかったけど、今日の講義を聞いてテレビに興味を持ちました。

 

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