NHK講座第七回
NHK講師東條 充敏先生 講義サマリー

 NHK講座第7回は、NHK京都放送局制作担当副部長、チーフプロデューサーの東條充敏さんを講師にお招きし、番組制作における企画提案をテーマにお話しを伺った。テレビ局には、番組を企画・提案しているディレクターという役割がある。東條さんは、NHKに入局して以来20年間、ディレクターとして様々な番組制作に携わってきた。今回は、ディレクターの番組提案における手順やポイントについて、リアルな体験を交えながらの講義になった。

 始めに、ディレクターが番組を作るプロセスから教えていただいた。番組を作る時、第一に必要なのが取材だ。ディレクター自らネタを探す。そして次に、見つけたネタを番組化するために提案書にまとめる。この提案が通ると、予算と時間をもらうことができる。そうして、ロケに行き撮影し、撮った映像を編集し、コメントを入れ、ようやく放送を迎える。このようにディレクターは、番組制作の頭からお尻まですべてに関わる重要なポジションだ。

 では、番組制作のコアであるネタはどのように見つけるのだろうか?東條さんは、ネタを見つけるための方法として3つの方法をあげた。「今世の中で起きていることに関心を持つこと」「とりあえず新聞、雑誌読む」「歩いて見つける」という方法だ。一見、当たり前のことのように感じるが、これらに共通していることは普段の生活、身の回りの物に対して興味を持ち、新しい発見をする目を持つことだ。「これ、おもしろい!もっと知りたい」「伝えたい!」という気持ちに「多分、みんなも興味があるだろう」を加えることが企画のスタート地点だと東條さんは述べた。

 しかし、これらの要素は企画のスタート地点に立っただけに過ぎない。テレビで放送する以上、自分が面白いだけではいけない。そこで重要となる要素として東條さんは、「Something new」、「今感」、「刺激」、「情報性」、「感動・共感」という5点を挙げた。これらの要素は視聴者の視点から考えたものだ。企画が、視聴者にとって目新しい物なのか?今放送することに意味があるのか?視聴者の気を引くものか?視聴者に意味がある情報か?視聴者の感動・共感を獲得できるのか?そういった要素を考えることで、企画が番組に近づくという。

 そうして練られた企画も提案が通らなくては番組にすることが出来ない。そこで重要となる要素が、「売りがある」「取材現場が明確である」「なぜ今やるのか」の3つだ。これらを企画書に落としこみ、相手に伝えないと企画は通らない。では、どう落とし込むのか?なんとこれをタイトルと最初の3行だけで伝えなくてはならないそうだ。なぜなら、企画書は放送と同じで、冒頭部分で興味をもってもらえないとその後も見てもらえないからだ。番組を放送する以上、多くの人に観てもらわなければならない。魅力的なタイトル、興味をそそる冒頭でなければ視聴者はチャンネルを変えてしまう。如何に視聴者の心を掴むか、それがタイトルと最初の3行に集約されているのだ。そういった工夫は、番組冒頭2分の「アバン」と呼ばれる部分に象徴的にあらわれる。

 しかし、このように企画を練っても、取材する段階で取材拒否に遭う、撮影のタイミングが合わないなど、番組制作には多くの壁が存在している。その中で番組を企画・提案・制作していくことには多くのエネルギーが必要となる。そのエネルギーの源は、ディレクターの企画に対する想いだ。「この人を応援したい!」「何かおかしいよね、今の世の中」「こんなことが起こるなんて許せない」。そういった想いが様々な困難に立ち向かい、番組を作っていく原動力となっている。

 ディレクターという職業は、あらゆるジャンルの仕事が出来る、というおもしろみがある職業だ。それは、自分の想い次第でどんな番組も作れる環境があるからだ。「提案の元に全てのディレクターは平等」という言葉を東條さんは紹介された。制作者が誰であろうが、面白い提案であればいくらでもチャンスがある。企画提案はとても苦しい。だがそれ以上に楽しさとやりがいがある。東條さんは、生まれ変わってもディレクターという仕事を是非やりたいと言う。ディレクターという職業はとても面白い。興味がある人は、是非目指してほしい、と講義を締めた。

講師:東條 充敏先生
NHK京都放送局放送部チーフプロデューサー。1992年、大阪局報道部ディレクターとして入局。東京放送センター、大阪局を経て、2009年から京都局で勤務。2011年、チーフプロデューサーになる。
過去に、「中国の生産現場に学べ」「にっぽんの現場・笑わしたるねん」などのドキュメンタリー番組や、祗園祭全国中継番組を手掛けた。

ピックアップ動画

第7回講座動画

東條 充敏先生

東條 充敏先生

D-PLUSレポート

 今回の講義では、ディレクターという仕事の内容から、ネタの見つけ方やその伝え方について教えていただいた。何かに興味を持つ、それを人に伝える。このことは番組制作だけでなく日常の中で何気なく行われている。それは友達との会話や授業でのプレゼンなど様々だ。しかし、今日の講義で聴いたような視点や考え方を意識していたか?と言われるとそんなことはない。今回の講義で得たことは、番組制作だけでなく日々の生活の中でも活かすことが出来るのではないだろうか?僕も今回の講義を活かして、この編集後記を書いていきたいと思いました。
(島田嶺央)

受講生インタビュー

京都女子大学文学部 2回生

京都女子大学文学部 2回生 
吉田 美咲さん

今日の授業では、「新しいこと」を自分で探し出し、取材し、発信できるディレクターという仕事はとても楽しそうに思いました。自ら調べ、新しいことを知ることができるのも魅力に感じました。番組提案表を頑張りたいと思います。

映像学部 1回生

映像学部 1回生
八島 輝京さん

映画に興味があるのですが、自ら提案することの重要性がわかりました。新聞・雑誌にある情報を受動的に納得するのではなく、そこから能動的に取材に取り組んでいくことは、報道だけではなくどの分野でも重要なことではないかと思いました。

 

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