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 NHKには放送のソフト面を調査研究する放送文化研究所と、ハード面を担当する放送技術研究所がある。第7回NHK講座は、世界からも注目される放送の最先端技術を研究開発しているNHK放送技術研究所で所長を務める久保田啓一さんを講師に迎えて、NHKがどのような放送の未来を目指しているのか、お話を伺った。

 講義はまず、いよいよ7月24日に完全移行となる地上デジタル放送(地デジ)の開発から実用化に至る道のりを説明いただいた。地デジは1986年に研究開発がスタートし、2003年に東京・名古屋・阪神地区で全国に先駆けて放送が開始された。地デジ放送の完全移行に向けて最も大変だったのは、日本全国の世帯で受信できるようインフラを整えることだった。山間部など世帯数の少ないエリアまでカバーするのに、地デジ用の中継局(親局を含む)をNHKは日本各地に約2100局も整備したという。

 新しい放送サービスを始めるには、まずそれを可能にする技術を開発しなければならない。NHKでは3年後、10年後、そして20年後を目指して、様々な放送技術の開発に取り組んでいるそうだ。まず、3年後に実用化を目指しているのは、放送と通信を連携させた「ハイブリッド・キャスト」だ。この分野では、すでに「アクトビラ」や「GoogleTV」などが実用化されているが、NHKの「ハイブリッド・キャスト」は、既存のサービスとは一線を画し、放送と通信の利点を最大に活用して、真の放送・通信の連携を実現するものだという。

 久保田さんが実際にデモンストレーションしてくれた「ハイブリット・キャスト」では、例えば、5ヶ国語の字幕放送が可能になるという。既存のデジタル放送では、5ヶ国語分のデータは送れないが、それをインターネットで送れば、放送はテレビで見ながら、字幕はネット経由で見ることが可能になる。ただネット経由だと遅れが出るので、テレビの映像とタイミングを合わせるのにとても高度な技術が要求されるという。そのほか、過去の視聴履歴から視聴世帯の趣味に合いそうな番組や、ネットで書き込みの多い話題の番組を教えてくれる「おすすめTV」など、様々なサービスが可能になるそうだ。

 10年後を目指し開発中なのは、3300万画素の超精細映像と22.2 chの音響であたかもそこにいるような高い臨場感が得られるという「スーパー・ハイビジョン(SHV)」だ。SHVは、近づいても拡大しても画面は綺麗なままで、そのリアルさから空気感が共有できるほどだという。それが部屋の空間に調和するのかどうかを研究所の職員の自宅にモニターの原寸大パネルを置いて試してもらったところ、70インチという大画面も、標準世帯のリビングルームに意外とすんなり入るそうだ。SHVは私たちのライフスタイルを変えるインパクトを持つと久保田さんは考えている。今年3月にSHV用の液晶ディスプレイも完成し、実用化に向けて大きな一歩が踏み出されている。

 そしてNHKが20年後に目指しているのは、より自然に見えて身体への負担の少ない「空間像再生型立体テレビ」だ。3D技術には4つの方式があるが、NHKが開発中なのは、輻輳、両眼視差など立体に見える重要なポイント4つを全て満たした技術で、メガネ不要でゴロ寝しながらでも立体映像が楽しめるという。現段階ではまだ画質が悪く、実用化するには今後2回くらい「ブレークスルー」が必要だろうと久保田さんは指摘した。

 そのほかNHKでは、「人に優しい」放送技術も平行して研究開発している。例えば、視覚障害者向けに触って情報を伝達できる「触覚ナビ」や、聴覚障害者向けには、音声認識により瞬時に文字変換する字幕放送・CGによる手話放送。外国人や子供向けには、優しい日本語に変換する自動翻訳の技術。そして、お年寄りにも聞きやすいよう、声がゆっくり聞けるラジオなども開発しているそうだ。

 新しい技術が開発されることで、今まで出来なかったことが出来るようになり、新しい番組作りが可能になる。放送と通信の連携でテレビを巡る環境が大きく変わるなか、近い将来、私たちは、どんな風に進化したテレビを体験できるのだろうか? とてもワクワクした気分にさせられた講座となった。

 

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久保田 啓一(くぼた けいいち)
NHK放送技術研究所長

 昭和51年NHK入局。秋田放送局を経て、昭和55年NHK総合技術研究所(現在の放送技術研究所)、平成元年アメリカ総局、平成8年技術局計画部副部長、平成19年NHK総合企画室[情報システム]局長を歴任し、平成20年よりNHK放送技術研究所長。
 ハイビジョン信号方式、伝送方式の研究に従事。また、HDTVプロダクション方式、放送方式の標準化に従事。
 SMPTE、IEEEフェロー。昭和61年電子通信学会論文賞受賞、平成9年SMPTE論文賞受賞。工学博士。



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産業社会学部1回生 
立田雄大さん

 テレビ技術は、自分の興味のある分野だったので、これまで知らないことがよく分かりとても面白かった。テレビが人に優しく、そして視聴者のニーズに合わせて進化して行っているというのが凄いと思った。これからのテレビがどんな風になっていくのかとても楽しみだ。

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映像学部1回生 
脇本夏那さん

 今の地デジ放送だけでも凄いと思っているのに、きょう久保田先生のお話を伺って、将来のテレビはどこまで進化するのだろうと驚いている。スーパー・ハイビジョンまで行くと、もう凄すぎて想像できないので、まずはハイブリッド・キャストを実際に体験してみたい。テレビとインターネットだけでなく、携帯電話とも連携して色々なサービスが提供されるそうだが、どんな風に携帯電話を活用するのか気になった。
 将来、テレビ関連で働きたいと思っているので、非常に興味深いお話だった。

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