subtitle

 第8回NHK講座は、「生まれ変わってもディレクターをしたい」と話すNHK京都放送局チーフディレクターの東條充敏さんを講師にお招きして、テレビ番組制作の基本となる企画提案の手順とポイントについてお話を伺った。東條さんは今年で入社20年目。これまでにNHKスペシャル、クローズアップ現代などの報道ドキュメンタリー番組の数々を制作してきたベテラン・ディレクターだ。

 東條さんは「テレビディレクターほど面白い仕事はない」と言う。なぜなら、テレビ局では、本当に自分の表現したいことを映像にして放送することができて、そして番組を見た視聴者から反響を得ることもできるからだ。しかし、自分のやりたい仕事をするには、まず自分が考えた番組の提案を通さなければならない。提案課題の設定は、番組制作の基本中の基本なのである。

 講義ではまず、ディレクターが番組を作るプロセスから教えていただいた。民放では通常は分業体制のため、番組の「ねた探し」(取材)は、リサーチャーや外部プロダクションの方が担当する場合が多いが、NHKでは題材を決めることから一貫してディレクターが担当しているそうだ 。番組の「ねた」が決まったら、それを提案書にまとめ、OKが出たら→ロケ(撮影)→編集→コメント入れ→放送となる。

 番組制作は、まず面白い「ねた」を探すことからはじまる。東條さんは、番組作りの発想を得るため、日々新聞に目を通し、何がいま世の中で問題になっているのか常にチェックしているそうだ。では、番組制作者はどのような視点を持っていなくてはいけないのだろう?視聴者に「面白い」と思ってもらえることは、自分が興味を感じること、そして、たぶん皆も興味があることが、最低条件となる。そして更に、新しい(something new)、いま感がある、刺激がある、個性的な人物が活躍している、共感できる・感動するといった要素が必要になってくる。これらの要素が加わると、番組となる現実性がぐっと増してくるという。

 そして、ディレクターにとって提案が通るか通らないかが、面白い仕事が出来るかどうかの分岐点になるという。提案は、「売りがある」「取材現場が明確」「なぜ今」の3つが揃っているかどうかで決まるそうだ。そして、それは番組のタイトルとアバン(番組の冒頭2分くらいのセグメント)に象徴されるという。例えば、東條さんが制作した「クローズアップ現代:中国の生産現場に学べ」では、「売り」は日本人大学生が中国女子工員の持つ明確な目的意識に驚愕するところ。「取材現場」深圳テクノセンターの工場。そして「なぜ今」は、当時ハイテク・ローコストが話題になっていた。番組は、提案に必要な3要素が全て揃っていたのである。

 提案は、「ねらい」と「構成要素(映像イメージ)」の2本立てで書いていく。そして「通る提案」の極意は、番組タイトルと最初の3行で、番組のイメージをきっちり伝えることだという。構成要素は、登場人物、カメラを置く場所、タイミングを明確に書くこと。そして、提案する原点には、好き、応援したい、疑問、怒りなどが込められていることが大事だと東條さんは指摘した。

 実際に提案が通っても、取材する段階で取材拒否にあったり、撮影のタイミングが合わなかったりと、現実にはうまく運ばないことがとても多いそうだ。番組制作には、様々な障害を乗り越えるエネルギーも要求されるのだ。

 NHK講座の受講生には、1.「なぜ?日常の疑問」2.「身の回りの大問題」3.「今、気になる人(モノ)」の3つのテーマから一つを選択して、自分の番組提案を提出する課題が出された。東條さんは、「今年の夏にどんな節電が出来るか?」「どうやったら学食が美味しくなる?」など、具体性があり、実際に撮影できる現実味のあるものを題材にするようにアドバイスしてくれた。受講生の提案の中で面白いものがあったら、本当に番組になることもあるそうだ。みんなのチャレンジに期待したい。

 

pic3

 

 

pic2

東條 充敏(とうじょう みつとし)
NHK京都放送局チーフディレクター

 1992年入局。東京放送センター・報道局、大阪放送局報道部勤務を経て、2009年からNHK京都放送局放送部チーフディレクターとして勤務。過去に、クローズアップ現代「中国の生産現場に学べ」、ドキュメンタリー「山の声を聞け・林業再生にかける80歳」などの番組を手掛けた。



stu1

産業社会学部 3回生 
下村 真穂さん

 最初の数分で、何を伝えたいのかをしっかり分からせるのが大事と、東條先生が仰っていたのがとても印象に残った。将来は、マスコミもだが、教師になることにも興味がある。教師も同様に、講義でも最初の「つかみ」が大切なので、きょうのテーマはとてもためになった。
 まだ自分でどんな番組の提案をするかは決まっていないが、ただ単に皆が興味を持っていることより、社会とどんな風に結びついているのかが凄く重要だと思っているので、そういった題材をテーマに企画提案を考えたい。

stu2

映像学部 1回生 
水上 亮さん

 番組の制作の仕方の方法を、実際に映像を見ながら説明してもらったので、講義の内容がとても分かりやすかった。中国の生産工場の番組は、ねたも面白くて、自分でもあんな番組を作ってみたいと思った。映像学部で学んでいるので、きょうのNHK講座は自分の映像制作にも参考になる。とてもいい講義だった。

このホームページに含まれるいかなる内容も無断で複製・転載を禁じます。
home