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第9回 企画力とプレゼンテーション術

 

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第9回

 第9回のNHK講座には、NHK解説委員室解説主幹(芸術・文化・IT担当)、中谷日出さんにお越しいただいた。NHK第1期キャリア採用で入局され、現在は解説主幹として活躍される中谷さん。クリエーターになりたいという一心で、道を切り開いてこられた経験を交え、企画力とプレゼンテーション術―話す力―についてお話しされた。

 

<講義内容>


*NHK入局のきっかけ
 中谷さんは当初、ヘアデザイナーをしていたが、中学時代からの夢であった「世界に羽ばたくクリエーターになりたい」という思いから、大学で学ぶことを決心。ヘアデザイナーをしながら大学、大学院でアートを学ぶ。大学院卒業後、デザイン事務所を起業し、会社も順調だった。しかしある日、CGを駆使した「NHKスペシャル」を見たことによって、中谷さんの人生は変わった。「CGがやりたい!もう広告なんてやめる!」。そう思った中谷さんは、社長にもかかわらず会社をやめ、NHKにキャリア採用で入局する。

 

*NHK入局―企画とプレゼンテーション
 NHKに入局後は、MIT(マサチューセッツ工科大学)への留学を経て、念願のCG番組を制作した。一心不乱に目標に突き進んできた中谷さんだったが、念願も達成してしまったので、自分で仕事を探さないといけないという状況に追い込まれる。そこで見つけたのが「NHK70周年記念プロジェクト」だった。まだ何をするか決まっていなかったこのプロジェクトに、アポなしで直撃。仕事を受注するのではなく、「造注」すること(自ら仕事を考え、作り出すこと)をモットーとしている中谷さんは、一週間後には、A3・18ページの企画書を持参し、「ネクストテン」と題するプレゼンを行った(これが、あの有名な3つのたまごのロゴマークの誕生につながる)。このプロジェクトは「これからのNHKを変えていきたい」というコンセプトのもと、NHKのイメージ戦略が中心になっていた。「外見の変化だけではなく、中身の変化も必要!」。そう考えた中谷さんは、NHKの商品、つまり映像の改革に着手する。今でこそNHKでも当たり前に見ることができる、15秒のクリップ、1分のクリップ、3分のクリップを制作。しかし、「CMみたいだ」、と上司の反応は芳しくなかったという。「歴史ある中で、新たなことを始めるときは必ずネガティブな反応があるもので、プレゼンをするときはそれを覚悟しないといけない。しかし、20回・30回とプレゼンを行えば、必ず物事は少しずつ変わってくる。これが若いクリエーターたちの道を作り、今のNHKがある。だからこそ、何事もチャレンジし、やり続けることが大切だ」と、中谷さんは語った。

 

*図解力
 ここで、中谷さんはみずからがプレゼンをする上では欠かせない、物事をわかりやすく伝えるための技術の一つである、「図解」の方法についてレクチャーされた。スピードを重視する現在では、A4用紙1枚で企画書を作らなければいけない。プレゼンには、コンパクトに物事をまとめることができる図解は必須だ、とアドバイスされた。図解にすることで、物事がコンパクトにまとまるだけではなく、プレゼンをする際にはキーワードから話を広げことができる。それが、要約力や論理的に話す力を育むのだという。解説委員は、わかりやすく物事を伝えることが仕事である。中谷さんはもともと論理的に物事を説明するというよりも、感覚的に話をするタイプだったのだというが、図解を実践することで、論理的な説明ができるようになった、と教えてくださった。

 

<感想>
 「36時間寝ずに今日はきました」。こんな話から講義はスタートした。これが普段はおとなしい人間だという中谷さんの緊張をほぐす秘訣らしい。講義は終始、和やかな雰囲気であったのと同時に、誰もが真剣に中谷さんの話を聴いていた。講義はまさしく「人を引き付けるプレゼンテーション」でもあった。


 いろいろな人と出会い、企画をし、プレゼンを行って、自らの人生だけではなく、NHKの将来をも切り開いてこられた中谷さんの驚くべき行動力は、純粋に「すごい」!と思わせるものだった。私が大切にしている言葉の一つに「失敗は成功のもと。でも成功は失敗のもと」というのがある。チャレンジすることの重要性。ためらっていても仕方がない。中谷さんの講義は、改めて私にこのことを思い起こさせてくれた。私は秋から1年間、アメリカへ留学に行く。向こうの大学では、普通の学生と同じように、通常の授業を受ける。大変なこともたくさんあるだろう。でも私はたくさんのことにチャレンジし、学び、成長したい。そして日本に帰ってきたときに、少しでもいいから、何か人の役に立てるようになりたい。自分のためだけの留学にしてはもったいない。講義を受けてそう思うようになった。何事にもチャレンジし、さらに良いものを生み出す環境を作り出してきた中谷さんのように、私も残りの大学生活、一生懸命過ごしていこうと思った。


 もちろん、行動するだけではなく、言葉を使って物事を伝えることもまた重要なことである。「最低でもプレゼンは20回。あきらめず、執念を持つこと。でもさわやかに。相手にいやな印象を与えそうなときは、さっと笑顔で引く勇気をもつこと」。これこそがプレゼンを通す極意なのだという。これは、プレゼンの場だけに限られるアドバイスではなくて、どんな話し合いの場においても応用できるのではないかと思った。


 最後に、中谷さんは授業後、たくさんの学生の質問に答えてくれた。一人一人、質問している学生の目を見つめながら、真摯に答えてくれたその姿勢こそが、実は隠れたプレゼンの極意というように感じた。

 

記者 立命館大学産業社会学部 田中葵

 
 
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