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 第9回NHK講座は、「3つのたまご」でおなじみ、NHKのロゴマークの生みの親、中谷日出さんを講師にお迎えして、自分のやりたいことを実現させる秘訣から、プレゼンを成功させる極意まで、中谷さんのクリエーターとしての体験を交えながらお話を伺った。

 自分の興味あることに、まっしぐらに突き進んできた中谷さんが、人生の一番目に選んだ職業は、ヘアーデザイナーだった。もっとクリエーティブな仕事をしたいと、美容師の仕事をしながら大学でアートを学び、卒業後はデザイン会社を設立。仕事も経営も順風満帆だったが、ある日、人の体をコンピューター・グラフィックス(CG)で表現したテレビ番組を見て、目からうろこが落ちるような衝撃をうけたそうだ。「自分のやりたいことはこれだ!」と決心し、その翌日に会社を辞めると宣言したという。

 奇遇にも中谷さんの人生を変えた番組は、『NHKスペシャル~人体』だった。「NHKに入ってCGをやりたい!」と希望した中谷さんだったが、NHKは中途採用をしていなかった。しばらく途方にくれていたそうだが、幸運にも、その年からNHKがキャリア採用を始めたのだそうだ。決断の速さとポジティブ思考が、自分のやりたい道へと運をも切り開いていった。

 晴れてキャリア入社第一期生となった中谷さんだが、入局当初は大河ドラマの大道具の手伝いなど、やりたかったCG制作とは全く違う仕事を任されていたがそんな時MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボ派遣の話が持ち上がった。アメリカでCGの最先端技術を研究して帰国した中谷さんはCGのスペシャリストになっていた。当時MITで知り合った友人たちは、現在、世界の映像産業の第一線で活躍しており、中谷さんの人脈は大きく広がっていった。(自身の体験も踏まえ、中谷さんは、受講生たちに一度は海外に出るよう勧めた。)

 帰国後『NHKスペシャル~人体パート2 脳と心』で、「CGをやりたい!」という自分の思いを成し遂げた中谷さんは、放送70周年記念事業の一環として行われた「NHKを変える」という次なるミッションに取り掛かっていった。「NHKを変える」には、まず外見を変えて、徐々に中身を変えていこうと考えた。そしてCI(Corporate Identity)としての新しいNHKづくりに着手していった。通常だと大企業のCIプロデュースは大手広告代理店に発注するが、中谷さんは「NHKを良く知っている人が『手作り』CIをやっていくべき」と提案した。そして、5000種類もの候補のなかから、中谷さんがデザインした「3つのたまご」が新しいNHKのロゴマークとして選ばれたのだ。
 そして、「表面的なものだけでなく、商品(=番組)が変わらなければ会社(=NHK)は変わらない」と考えた中谷さんは、当時のNHKの「硬い」「難しい」「ダサい」といったネガティブなイメージを払拭するために、CMのようなショートムービーの制作を提案したという。「民放のCMみたいなものを流したらNHKらしくなくなる」といった反対もあったが、放送後、視聴者からの反響は大きかったそうだ。(「NHKらしくない」、「かわいい」、「びっくりした」が3割ずつだったという。)

 中谷さんは、スポット映像の良し悪しよりも、新しいことをどんどんやり続ける人が、NHKに出てきたことが大事なのだと指摘した。

 中谷さんは、自分のヒラメキ(思い)をまとめるのに、図解のマッピングを手書きしている。手書きだと書いた途端、頭にスーッと入ってくるという。そして図解にすることで、物事を要約することも出来るし、広げていくことも容易に出来るそうだ。超猛スピードで動いているITベンチャーなどでは、分厚い資料を用意していったのではプレゼンは通らならい。A4サイズ一枚のなかに、A3サイズ50ページ分を凝縮させることで、スピード感が増すばかりか、即座に相手に理解してもらえるようになるという。

 人前でしゃべることに慣れていると思いきや、実は中谷さんは、プレゼンが苦手。今回の講座に臨む際も、緊張しないように一晩徹夜して「盛り上がって」お話いただいたのだ。人には色々なしゃべり癖があるので、プレゼンの前にビデオカムの前で練習してみると、自分の欠点がよく分かるそうだ。

 今回の講座で、中谷さん手書きの「クリエーティブ&コミュニケーション力 スキルアップのためのメモ」を配布して下さった。時間切れで、全部を解説いただけなかったのが残念だ。質問のある受講生はe-mailで送れば中谷さんがお答えくださるそうだ。

 

 

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中谷 日出(なかや ひで)
NHK 解説委員室 解説主幹 

 神奈川県出身。東京芸術大学大学院美術研究科修了。広告プランニング、広告映像アートディレクターとしてフリーで活動後、1993年にNHKへ第1期キャリア採用で入局。その後、NHKスペシャル「人体・脳と心」のアートディレクション、NHKロゴマークデザイン、BSおよびハイビジョンロゴマークデザインなどに携わる。1999年にはNHK解説委員(芸術文化・デジタル関連担当)に就任。
 2000年にデジタルスタジアムの第1回からナビゲーターを務めたのち、昨年から出品者をティーンズ(大学生)に限定し、若者たちのスキルアップを応援する「デジタルティーンズ」の学長として出演、現在にいたる。
 その一方でメディアリテラシー、Gマーク(グッドデザイン賞・選定委員)の審査委員などにも取り組む。



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産業社会学部1回生 
三浦慎平さん

  NHK講座では、NHKのことだけ話してもらえると思っていたが、きょうは人生に役立つような話が色々聞けたのがよかった。大学ではプレゼンする機会がとても多いので、中谷さんから教えていただいた図解マッピングの方法を実際に使ってみたい。

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映像学部1回生 
藤岡由衣さん

  無理と思えることも諦めない中谷さんは凄いと思った。私も、やりたいことがあったら、簡単に諦めないようにしようと思った。
 授業で発想法を学んでいるが、中谷さんから教えていただいた「ワープ法」などは知らなかったので、今後ぜひ活用したい。プレゼンの心構えなど、ためになる話が満載で、今日の講座はよかった。

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