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弓削哲也/制作局チーフプロデューサー 講師:弓削哲也/制作局チーフプロデューサー

弓削哲也/制作局チーフプロデューサー弓削哲也/制作局チーフプロデューサー弓削哲也/制作局チーフプロデューサー

記者紹介

記者 荻野一樹 立命館大学産業社会学部
現代社会学科
現代社会専攻

D-PLUS
マネジメントチーム
2回生 荻野一樹
6月20日(金)

第11回 これからの若者番組をつくる

 第11回のNHK講座は制作局チーフプロデューサーの弓削哲也さんをお迎えした。弓削さんからは「これからの若者番組を作る」というテーマでお話を頂いた。 

講義概要

 冒頭に弓削さんが手がけた番組が紹介され、その映像が少し流れた。アニメソングについて熱く紹介する番組の映像に会場からは少し苦笑い。弓削さんは「こんな仕事をしていてもNHKにはおれるんです」とおどけた。

 「温いオタク番組は作らない。」という強い意気込みを持っているという弓削さん。弓削さんがこのような意気込みを持つ理由に「若者のテレビ離れ」があるという。近年、若者のテレビの視聴時間は減り続けている。その理由の一つである「僕、知らない人が出るとテレビ消すんです」という若者たちの言葉に、弓削さんは衝撃を受けたという。「何か新しいことを知ることができる」という期待を持ってテレビを観ていた自らの認識との違いによるものだそうだ。「ソフトに対する受け止め方が劇的に変化してしまっている。これを何とかしなければならない」と弓削さんは問題提起をした。現在、テレビを見る若者たちというのは、自分が見たいジャンルのものに偏っていて、弓削さんいわく「オタク化」しているという。

 そんな時代のニーズに応えるべく、弓削さんが作った番組が「熱中夜話」である。視聴者がオタク化、すなわち特定のジャンルにだけ興味があるような人になりつつあるのであれば、そういった趣味に特化した番組を作れば良いのではないかと考えたということだった。こうして、「テレビでオフ会をやってみたい」というコンセプトのもと、放送回ごとにテーマを決め、そのテーマの「オタク」総勢50名に集まってもらって、思う存分語ってもらうという今までにはなかった番組が生まれた。

 講義の途中では、三国志をテーマにした「熱中夜話」の映像が流された。それを踏まえて、三国志を知っている人に向けつつ、三国志を知らない人にも観てもらわなくてはならないというジレンマがあるのだと弓削さんは話した。また、知らない人が出るとテレビを消す人がいるという時代の流れの中で、知名度がまったくない「オタク」の方50人にテレビに出演してもらうことはリスクを伴う。そこで、知名度のある芸能人に司会として出演してもらっているのだが、そのことが番組の流れを崩さないかといった葛藤があったことについても話した。

 そして、この番組を作る上で最も重要でかつ大変だったことが「自分を客観視し、多くのスタンダードを持つ」ということだったという。毎回のテーマについて「まったく知識がない人」から「マニア」まで、幅広い知識層の人に観てもらわなくてはならないこの番組。知識がない人に受け入れてもらえるようなテーマでありつつ、マニアの人を飽きさせない内容にしていくために、プロデューサーは、よく知っているテーマが候補として挙がってきても、それに関して「素人」の目線で考えなくてはならない。また、プロデューサーが全く知らないものがテーマとして挙がってきても、ある程度はマニアの人の目線に立たなくてはならない。これが多くのスタンダードを持つことの意味である。弓削さん自身、「韓国ドラマ」がテーマとして挙がってきた際、まったく知識がなく、一生懸命韓国ドラマを観たとのことだった。

 講義の後半は、前半の内容を踏まえて、「熱中夜話」の企画書を学生が作って内容をプレゼンし、弓削さんがそれを見て良い点や改善点について話をするという双方向型の展開となった。中には弓削さんのお墨付きをもらうような優秀な企画書や、「熱中夜話」さながらの白熱さを見せる学生さんがいたりと、大いに盛り上がる時間となった。

 最後に弓削さんは「切り口」について話した。「熱中夜話」の場合はマニアの人にとって面白く、それでいて素人にもわかりやすい内容、そして一つのテーマを2回に渡って放送するという制約がある。そんな中で魅力的な番組を作れるかどうかは、いかに魅力的な「切り口」を見つけることができるのかということにある。弓削さんいわく、この部分が最近のテレビには欠けているという。新たなものの見方や切り口をテレビという媒体を通じて提供していけるかどうか。ここにテレビ業界の生き残りが懸かっているということだった。もちろんこれはテレビ業界だけでなく、すべての業界において言えることだという。「テレビあり、ネットありの世界で情報の流れが加速する世の中で、今までと同じものをやっていても仕方がない。いかに新しい切り口を持っていられるかという視点が皆さんの役に立つ」という発言で、講義は締めくくられた。

感想

 「熱中夜話」という番組を観てこなかったことを後悔するような、番組制作者の様々な意図、思いが詰まった講義となった。中でも私が特に納得させられたのが「多くのスタンダードを持つ」という言葉だ。普段の生活の中で、とかく私たちは自分だけの考えにとらわれてしまいがちだ。他人とは、生まれつきの趣向もこれまでの経験も、何もかもが違う存在である。そのことを忘れて自分だけが納得するものを作り上げても、誰にも注目はしてもらえない。これはテレビの世界に限ったことではないだろう。何かをプレゼンするとき、新しい商品を作るとき、「自分とは違う立場の人のことを考える」ことによって、より多くの人に説得力をもって伝えることができるに違いない。番組制作の裏側を学べると同時に、他人に向けたものを作る際に普遍的に生かせることも学べる講義となった。

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