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山田賢治/東京アナウンス室 アナウンサー 講師:山田賢治/東京アナウンス室 アナウンサー

山田賢治/東京アナウンス室 アナウンサー山田賢治/東京アナウンス室 アナウンサー山田賢治/東京アナウンス室 アナウンサー

記者紹介

記者 酒井美紀
同志社大学文学部

受講生記者
3回生 酒井美紀
6月27日(金)

第12回 伝える、伝わる ~福祉の現場から~

 今回は、山田賢治アナウンサーが、「伝える・伝わる~福祉の現場から~」と題して、お話ししてくださった。

講義概要

 授業冒頭、山田さんはご自身がどうしてアナウンサーになったのか、またローカル局でどのような仕事に取り組んでいたか等をお話ししてくださった。ローカル局に行けば様々な仕事に取り組み、経験を積むことになるそうだ。
 アナウンサーの仕事というのは、テレビに出ているということから派手なものという認識を持たれていることが多い。しかし、アナウンサーの仕事全体を見れば、出演しているのはわずか10分の1ほどだ、と山田さんは言う。実際にテレビに出るよりも、その前に行う準備やその他の作業の労力の方がはるかに大きいのだそうだ。「伝える」ということは、ただテレビの前でニュースを読むことではない。その前に、世の中の動きをしっかり把握すること、読む際にも「何が」軸なのかを考える必要がある。突然飛び込んできたニュースでも、伝える側がニュースの背景とともに「何が」重要なのかを理解していなければ、ただ原稿を読むだけとなり、本当の意味で「伝える」ことにはならない。こうした地道な作業を繰り返すことにより、視聴者に内容が「伝わる」のである。
 例えば大津波警報が出た際に読む原稿は、東日本大震災以後、体言止めを用い、叫ぶように原稿を読むようにやり方を変え、練習を怠らない。中継の際、天気であれば体感を、食べ物リポートならば食感や表情、コメントまでの間まで、「伝える」ための工夫が番組には多くあるのである。
 そして、山田さん自身が出演する「ハートネットTV」の一部を見ながら、「伝える」ということをより深く考えることとなった。「ハートネットTV」は「生きづらさ」を感じている全ての人に向けた番組で、社会の問題を視覚化し「生きづらさ」の言葉を伝えるものである。この番組に際して、山田さんはデスクの上に福祉や社会問題に関するファイルを用意するようになったと言う。スタジオ収録までにも準備は進んでいる。2ヶ月ほど前に番組のテーマが決定すると、ディレクターに進捗を確認しながら、関連する資料や本に目を通すそうだ。そして、2日前あるいは前日になれば、VTRを視聴し、打ち合わせを行う。この際に、山田さんはVTRの第一印象、感覚を大切にして、疑問点等をメモするようにしているという。ここでの疑問点を、収録の時に質問しているそうだ。
 また、収録では非常につらい内容のVTRもあるが、気持ちに寄り添いすぎずに、内容を客観視するように心がけるようにしているとのことだった。
 番組に臨むにあたり、山田さんは普段やっていらっしゃることを「直近」、「継続」、「貯金」に分けて説明を行った。直近には、決定しているテーマのリサーチをする。この時、資料に目を通すだけではなく、ディレクターに聞いたり、これまでの番組を撮る中でできた人脈を駆使し質問をしたりしている。そして、番組を撮り終わった後も、情報を常にアップデートしていく。これが継続である。そして、いずれ扱うであろうテーマの取材を怠らない。わかった気にならない、様々な立場をイメージするために、山田さんは裁判の傍聴に行くようにしているそうだ。加害者や被害者の生い立ちを知ることで、「無意識」に感じていた部分を鍛える。こうして鍛えるか否かが番組収録の際、表現の違いとして出てしまうそうだ。
 最後に山田さんは、われわれ大学生が就職活動の際に役立つ自己分析のやり方について説明してくださった。そして、NHKという職場が自分の成長をはかるための場であると述べ、限られた時間の中で、学生の質問に丁寧に答えてくださっていた。

感想

 「ハートネットTV」は、我が家でよく視聴している番組の一つである。特に若者世代の話題等は、自分自身が経験していることも多く、番組を観る中でいつも思っていたのは、「この番組は、一人一人の意見や経験を掬いあげていて、共感できるね」ということであった。アナウンサーの出す疑問は、私が観ながら思っていた疑問点にピタリと当てはまっており、非常に勉強になったことを覚えている。その裏には、番組内で言葉をわれわれ視聴者に伝える立場であるアナウンサーの役割が大きいということに、気が付くことができた。 テレビをただ漫然と見ているだけだと、アナウンサーは原稿を読むだけの存在だと勘違いをしてしまうことも多いだろう。番組出演者としての一面がわれわれ視聴者にはとても印象的に思えるが、実はその裏で内容を「伝える」ための準備を長期的にしていらっしゃるということに、非常に感動した。内容の要点であったり、視聴者の視点に立って番組を作り上げたりするということには、アナウンサー自身にも深い理解がなければ、視聴者に大事なことが「伝わる」ことがないのである。また、それだけではなく、何かを伝えたいという「思い」が中心にあるということは言うまでもない。 それは、番組だけではなく、私たち自身が何かを人に伝えようとする際にもつながることではないだろうか。

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