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西村幸太郎/京都放送局放送部副部長 講師:西村幸太郎/京都放送局放送部副部長

西村幸太郎/京都放送局放送部副部長西村幸太郎/京都放送局放送部副部長西村幸太郎/京都放送局放送部副部長

記者紹介

記者 荻野一樹 立命館大学産業社会学部
現代社会学科
現代社会専攻

D-PLUS
マネジメントチーム
2回生 荻野一樹
7月11日(金)

第14回 番組提案に求められるもの(双方向②)

講義概要

 本年度第14回目のNHK講座は、京都放送局放送部副部長でプロデューサーの西村幸太郎さんをお迎えし、「番組報道に求められるもの」についてお話し頂いた。今回の講義では、受講者全員が講義日より前に番組の企画書の作成と提出を求められていた。そしてその中から西村さんが気になったものを選び、それを書いた受講生が教室の前に立って内容を説明し、講評が行われる双方向の形で行われた。西村さんは「普段、一方的に番組を作っている立場として、不安がある。NHK・テレビ・メディアといったものに対して学生がどのような思いを抱いているのかということなどについて、聞かせて頂ければと思っている」と話し、まさに双方向の形ならではの講義となった。
冒頭で西村さんは「NHKのプロデューサーは『何でも屋』の側面があり、様々なことを取り上げる。しかし、突き詰めていくと、結局はどんな番組でも、自分が考えていることを周りの人に伝えて実現していくという仕事だと思う」と前置きをし、ほどなくして学生の作成した企画書の講評に移った。
「びっしり書き込まれた企画書が多く、個性豊かで方向性も幅広い」と西村さん。番組の企画書というのは番組の方向性を決める上での最初の立脚点となるものであり、その中でも「ねらい」の部分に番組の内容が凝縮されていると話した。
競走馬の零細牧場における「縁と絆」を「ねらい」として企画書を書いた映像学部の学生は、ご家族が馬主をしていることをきっかけにこの内容を書いたそうだ。企業経営の大規模な牧場が育てる競走馬が増える中、零細牧場で育った馬が、「皐月賞」という競馬界でもトップクラスのレースで勝利を収めるまでの様子を描く内容にするつもりで書いたと学生は熱弁した。
この企画書に対し西村さんは、家族の内輪の話に留まるのではなくて、「一歩引いた目線」、つまり「零細」というものの社会的な情勢などを踏まえて客観的に企画書を考え、競走馬に興味がない人のことも考慮している点を評価した。また、「縁と絆は多くの人にとって美徳ではないか」と「普遍性」をもって落とし込み、それを「ねらい」として方向をしっかり定めている点もまた西村さんは評価していた。その上で次の段階に行くには、「どのような場面を撮れば『縁と絆』というものを伝えていくことができるか、ということを考えていくことが大事である」とまとめた。
 一方、京都外国語大学の学生は、「自分がいつテレビを観て、それを観たときにどう思うのか」ということを考えるところから番組を考えたそうだ。アルバイトのために早朝にテレビを見るが、その時間帯は放送休止していたり、天気予報が繰り返し流されていたり、面白くないと感じる。そこで、朝家を出る時に放送していたら楽しいなと思える番組を提案しようと考えたとこの学生は話した。そしてそのための条件をいくつも考え、結果として手軽な料理の紹介や紙芝居、短くまとめられたニュースなど、様々な要素が詰め込まれた番組を学生は紹介していた。その一つ一つが発表者の学生自らの要望に裏打ちされた内容となっていた。
この企画書に対しては、「視聴者ターゲットが『私』という一人称になっているところに度肝を抜かれた」と西村さんは話す。その上で、「『私』をとことん追求することにより、普遍的になっている」と指摘し、非常に面白いという賞賛の言葉を何度も発していた。すべての講評を通して、西村さんは「普遍」という言葉を多用していて、番組報道における最も重要なキーワードの一つであると見受けられた。
 そして、西村さんは自らが手がけた番組の企画紹介を行った。かつて9.11のアメリカ同時多発テロの緊急報道に携わっていた時、現地での自由時間に番組作りのきっかけを探して街を歩いていたところ、「今思っていることを道行く人が自由に書く」掲示板のような場所を見つけたそうだ。当時は「アフガニスタンへの報復攻撃」が当たり前のように報道されていたが、「報復ばかりでは世の中は終わってしまう」「報復ではアメリカの正義が正義でなくなる」といった意見もかなりその場所に書かれていた。それに対し「本当に報復攻撃を行うことがアメリカ人の総意なのか」という疑問を持った西村さんは一年後、当時の疑問を盛り込んだ番組を作った。この番組が正しかったかどうかという問題ではなく、番組とは自分を晒して、自分の思いを貫くものであり、その出発点となるのが番組の提案票(企画書)であると西村さんは話す。そして、「テレビは不特定多数の人々に届けるメディアであり、制作側はどうすれば人々のニーズに応えられるのだろうかと、本当に心血を注いで番組の提案票を作っている。そうして作った番組が人々の生活に少しでも影響を与えることができればいいなと思う」「人と接する時にどのように伝えれば相手のためになるのだろうか、といったことを考える努力を怠らないようにしてください」という言葉で講義は締めくくられた。

感想

 学生一人ひとりが作ってきた企画書に対して西村さんが講評を行うという特殊な授業形態であったため、それぞれの企画書が具体例となり、非常に内容を理解しやすい回であったと思う。西村さんは「普遍」という言葉を多用していた。私自身は正直「普遍」であるということに対して良いイメージを持っていなかった。「それではオリジナリティが出ないのではないか」という固定観念があったからだ。しかし話を聴くにつれ「普遍性がないものはそもそも観てもらえない」ということに気付くことになった。いかにして視聴者に「興味」を持ってもらって、そこから視聴者のニーズを満たすものを作っていくか。そのためには常に「観る側」を意識して普遍的に落とし込んでいく工夫が必要なのだと学ぶことができた回であった。

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