ピックアップ動画

講師紹介

鎌田靖/大型企画開発センター記者主幹 講師:鎌田靖/大型企画開発センター記者主幹

鎌田靖/大型企画開発センター記者主幹 鎌田靖/大型企画開発センター記者主幹 鎌田靖/大型企画開発センター記者主幹

記者紹介

記者 荻野一樹 立命館大学産業社会学部
現代社会学科
現代社会専攻

D-PLUS
マネジメントチーム
2回生 荻野一樹
4月18日(金)

第2回 災害と放送~東日本大震災の報道現場から~

 第2回のNHK講座は解説委員の鎌田靖さんをお迎えした。鎌田さんからは東日本大震災の報道に関することを中心に、「災害と放送~東日本大震災の報道現場から~」というテーマで災害報道の最前線についてお話しをいただいた。

講義概要

 災害報道の話に入る前に、鎌田さんは「マスコミ」や「マスコミ企業」の在り方などについての話を、ご自身の経験談と併せて進めた。「マスゴミ」という呼ばれ方で批判されることもあるマスメディア。このような批判が行われる理由のひとつには「報道被害」、すなわち報道によって人権を侵害してしまっていることが挙げられるそうだ。報道をしていく際にインセンティブとなるのがライバル、すなわち他のマスコミ企業に負けないようにすること。そのために、ライバルが知らない情報を取り上げることばかりに目が行き、結果として報道被害を起こすことがあるのではないか。人々が本当に必要としている情報ではなく、ライバルに向けたものになってしまうことがないだろうか、という指摘があった。「人々は世の中で起こる事件を一つ一つ見ていくことはできない。この『見る』ことの代わりを行うのが記者であり、人々が事件について考えるきっかけを作ることが記者の仕事」と、鎌田さん。報道はあくまで、人々に向けられていなければならない。
 そのことに気づくきっかけとなったのが、「週刊こどもニュース」という番組だそうだ。子どもに向けてニュースを伝えることが目的だったこの番組。その際、鎌田さんは

① 小学生向けの辞書を使い、なるべく大和言葉を用いることにより、難しい言葉をわかりやすく言い換えること。
② 映像化、図式化することで視覚に訴える場面を多くすること。
③ 複雑な事象の流れを簡略化する。
④ 放送する前に出演者の子どもたちに検証してもらい、「難しい」と言われたところを手直しすること。

といった工夫をしたそうだ。

 ④に関しては、「なんでこんなことも知らないんだ」という気持ちになることもあったと鎌田さん。しかし、この番組はあくまで子ども達が主役。彼らに分かってもらえないものは放送しない、という意気込みで取り組んだという。

 現在、鎌田さんは東日本大震災をテーマにした「NHKスペシャル」という番組を担当している。震災報道に関して欠かせないテーマとして、一つに「原子力発電所」、もう一つに「復興」があるという。
二つのテーマの違いとして挙がるのが、「関心の持たれやすさ」。「放射性物質が食物に付いていないか」といった問題は、全国の人々にとって生活との関連が深く、関心を持ってもらいやすいが、被災地の区画整理などという問題は、ほとんどの人々には直接の関連がなく、関心を持ってもらいにくい。「NHKスペシャル」でも、復興をテーマにすると視聴率が大きく下がるそうだ。
 しかしそれでも、「人々に関心を持ってもらいたい大事なテーマである」と考え、復興をテーマに番組を作り続けているという。
 かつての阪神淡路大震災では、報道の指揮を執る立場でありながら、被災者でもあった鎌田さん。その経験から、二つの地震には異なる点がいくつもあると鎌田さんは言う。具体的には、東日本大震災は被災地が広域に渡り、津波の被害がある。経済状況も違い、人口減少時代であり、原子力発電所の事故も伴っている。
もちろん、どちらの方がひどい、という話ではない。これほどまでに状況に違いがありながら、復興の進め方がほとんど変わらない点が問題だと鎌田さんは指摘する。「千年に一度の大災害」とも言われる東日本大震災。このままでは無理が来るのではないか、と鎌田さんは指摘した。

 鎌田さんは被災地以外の地域に住んでいる人に東日本大震災の復興について関心を持って欲しい理由を3つ挙げた。

① 税金がどのように使われているのか、ということを知ってもらうため。
② 東日本大震災の復興は現在の状況、具体的には経済状況や人口減少時代における震災復興のテストケースになるため。
③ 近い将来、必ず起こる南海トラフを震源とする震災の備えになるため。

 最後に、「記憶が風化することを避けるようにすることが正しいとするならば、そのために、これからも伝え続けていくことが私の使命である。これからも皆さんの代わりに現状を見て、伝えることによって、皆さんの知る権利に奉仕する。このことが、失われつつあるマスメディアの信頼回復につながれば、こんなに嬉しいことはない」と話し、講義は締めくくられた。

感想

 私は報道に関して、「こんなことを報道してどうなる」と軽んじることも多い人間だった。しかし、今回の講義を受け、その考えが少し改められたように思う。
 「世の中で起こる事件の一つ一つを『見る』ことの代わりを行い、人々が考えるきっかけを作る」
 「考えるきっかけ」という言葉にハッとさせられた。情報がなければそもそも私たちは考えることができない。特に私が大学で学んでいる社会学のような学問では重要なことである。普段の生活においても、経済活動においても、情報は欠かせない。私たちを支えている、ともすれば動かしているとも言える存在だと、認識を新たにした。東日本大震災の話については、番組が制作者の経験をもとにした情報と、強い思いに基づいて制作されているのだということを学んだ。鎌田さんの「NHKスペシャル」の場合、震災の被災者という自らの経験と、「復興について関心を持ってほしい」という強い思い。普段、テレビで何気なく眺めている番組を、そういった制作者側のことを意識して見れば、より多くのことをより正確に受け取ることができる。そう強く感じた。

BACK   HOME   NEXT