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中村高志/制作局チーフプロデューサー 講師:中村高志/制作局チーフプロデューサー

中村高志/制作局チーフプロデューサー中村高志/制作局チーフプロデューサー中村高志/制作局チーフプロデューサー

記者紹介

記者 西村理紗 立命館大学産業社会学部
現代社会学科
メディア社会専攻

D-PLUS
クリエイティブチーム
2回生 西村理紗
5月31日(土)

第8回 大河ドラマ「軍師 官兵衛」

 第8回は、現在日曜夜8時から好評放送中の大河ドラマ「軍師官兵衛」より、チーフプロデューサーの中村高志さんをお招きして、ドラマ制作にかかわるお話をお聴きした。

講義概要

 NHKのドラマ制作に関わる部門、ドラマ部。ここに中村さんは所属している。この部署には大きく分けると、現場で指示を出すディレクター(いわゆる監督)と、現場から一歩引いた場所から全体を支えるプロデューサーがいる。中村さんは現在、プロデューサーの仕事をしている。プロデューサーの仕事を大きく分けると、企画立案・キャスティング・脚本家とともに脚本を作りあげること。この3つだ。

 2012年初め、2014年の大河ドラマのチーフプロデューサーに決定した中村さんの仕事は、どの時代の誰を主人公にドラマを作るかを決めることから始まった。戦国時代や幕末など、大河ドラマで描かれる時代は限られる。歴史が大きく動いた時代は極限状態の中で生きた人が多く、その分ドラマチックな出来事が多いからだ。その中で中村さんは戦国時代の黒田官兵衛という人物を描くことに決めた。そしてドラマタイトルと脚本家、キャストを順に決めていった。
 大河ドラマを作るとき、常に問われるのは「今、何故、これをやるのか」というドラマの中における現代性である。21世紀の今、1年という長い時間をかけて戦国時代の物語を作ることにどんな意義があるのかと、制作者は問われるのだ。
 では、「軍師官兵衛」の持つ現代性とは何か。まず挙げられるのは、黒田官兵衛自身が現代的な魅力に富んでいる、ということだ。死が身近にある戦国時代において、彼は「生きる」ことの意味や重みというものを強く感じていた人物である。彼の考えは当時の人間の考えとはずれているが、現代を生きる我々には受け入れやすい。もう一つ現代性を挙げるとするならば、彼の周囲の人間関係である。彼には結束の固い家族や家臣団=黒田家がある。このドラマは黒田官兵衛の一生を描くと同時に、この黒田家のサクセスストーリーも描いている。中村さんは、地方の町工場の社長が地道に努力し全国企業の重役になる、という現代的な視点を入れ込んだストーリーを意識してドラマを作っている、と言う。昔の出来事を描く時代劇ではあるが、この「軍師官兵衛」には我々が共感しやすい現代性が数多く散りばめられているのだ。

 「風林火山」「坂の上の雲」などのプロデューサーとして時代劇にかかわってきた中村さんだが、元々時代劇はあまり好きではなかったそうだ。ドラマは現代性がある方が良いだろう、現代劇を作りたい、という思いが強かったという。しかし、大河ドラマの制作を一度経験すると、その仕事のやりがいを感じるようになったそうだ。また、「時代劇=古い」という意識も払拭できたという。
 そんな中村さんが作っている「軍師官兵衛」は、簡単に命が散っていく戦国時代に生きる黒田官兵衛の生き方を通して、「人間は必ず死ぬが『どうせ死ぬから』と考えるのではなく、『死が待っているからこそ、生きている間は一生懸命生きよう』」というメッセージを、生きる素晴らしさとして視聴者に届けている。

感想

 この大河ドラマ「軍師官兵衛」はとにかくおもしろい。これは一視聴者としての私の感想だ。戦国時代というと、戦ばかりで殺伐とした雰囲気を想像するだろう。確かに戦のシーンはある。砂ぼこりにまみれながら切った切られたの描写は確かに殺伐としている。しかし、このドラマの主軸はそこではないと私は思う。中村さんが喩えに使ったように、現代ドラマのサクセスストーリーのような爽快感。また、官兵衛と奥さん、父親、家臣団、秀吉等々との温かみのある人間関係。それぞれが癖のある人物だが、彼らの戦国武将としての強さ・恐ろしさと同時に、人間としての温かみやユーモアさが実によく描かれたドラマだと思う。

 私が中村さんの講義の中で一番興味深いと感じたのは、タイトルを決めるときの話である。今回の「軍師官兵衛」には原作がないため、タイトル決定から脚本作りまで中村さんが関わっているのだそうだ。
 「黒田官兵衛」ではインパクトに欠ける、官兵衛が何者なのかわからない、官兵衛の後の名前「如水」を使ってはどうか、……。様々な試行錯誤を経て現在の「軍師官兵衛」というタイトルに落ち着いたそうだ。わかりやすくて、なおかつ音が耳に残る素敵なタイトルだと思う。
 私は普段、文芸部で小説等を書いているが、いつも作品にタイトルをつけるところでつまずく。私も中村さんのようにピタッとはまるタイトルを作品につけてみたいものだ。

 講義中に中村さんが仰っていたように、大河ドラマは決して若年層向けに作られたドラマではない。私自身も高校生のときから大河ドラマを観始めたが、それ以前はあまり面白いとは感じられなかった。大人になればなるほどわかる面白さがある。それが大河ドラマではないだろうか。まだ「軍師官兵衛」を観たことがない人でも、物語はまだまだ中盤。これから観始めても決して遅くはない。是非とも観てほしいと思う。

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